テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

3 / 73
toz 第三話 導師の誕生

とある商人馬車に近付く。

赤髪の少女と長身の男性に話し掛ける。

 

「あたしらは『セキレイの羽』。商人のキャラバン隊だよ。」

「俺が隊長のエギーユ。その子はロゼだ。よろしくな。」

 

レイは二人を見上げる。

赤髪の少女・ロゼと目が合う。

 

「…風の…加護…。貴女は…二つの顔…がある。でも…どちらも…貴女は…貴女のまま…それは…これからの…貴女を…きっと救う…。」

 

それは小さな呟きだった。

ロゼは少し反応したが、レイの呟きに聞こえていなかったスレイが、

 

「オレはスレイ、こっちは妹のレイ。よろしく!」

「今度はちゃんと自己紹介したね。」

 

後ろから、ミクリオに言われた。

 

「うっせ。」

 

と、スレイは小声で言う。

スレイはすぐに質問する。

 

「あ、えーっと、キャラバン隊って事は旅をしてるの?」

「そう!世界を股にかけてんだ。」

「へぇ!」

「俺たちは通商条約に守られている。だからどの街も基本フリーパスだ。」

「密売とか持ちかけてくるヘンなのもいるけどあたしらは信用第一!」

「やばい仕事をこなす同業者もいるが俺たちは俺たちのやり方でやる。」

「それがあたしたちのプライドってヤツ!」

 

それを聞いたミクリオが、

 

「ふむ。これが人間の商魂ってヤツか?」

「そうなんだ。なるほどな~」

 

スレイも関心する。

 

「しばらくレディレイクに滞在するつもりだ。なんか入り用なら遠慮なくいってくれよ。」

「うん。ありがと。」

「営業する前に馬車をなんとかして欲しいんだけど。」

「はは…。」

 

ミクリオの言葉に、スレイは苦笑いする。

とロゼが、スレイの持っていた短剣を見る。

 

「立派なナイフ~!ね、1000ガルドでゆずってくれない?」

 

スレイは素直に断る。

 

「そっか。残念。気が変わったらよろしく、ね!」

 

 

彼らから離れ、レイとスレイはすぐ傍にいた犬を撫でる。

 

「ミクリオも撫でてみたら?犬?」

「こういう動物は僕らの存在を感じていて、苦手だ……」

「それ…はミク…兄…がそ…う…思っ…て近…付い…ている…から。」

「ぷ、ははは。」

「笑うなよ。誰だって苦手なものぐらいある。」

 

レイを橋に残し、スレイとミクリオは橋の入り口に戻ってみる。

すると、

 

「数日前アリーシャ姫がここを通って都に戻ったらしい。俺も噂の騎士姫を見たかったよ。」

 

と、言うのを聞いた。

 

「アリーシャ姫か……」

「無事に都に着いたみたいで一安心だ。」

「あのキツネ男は追いつかなかったらしいな。それにしても王家の者だったのか…」

「まさかお姫様だったなんてね。」

「姫が騎士、しかも遺跡に探索?どんな事情が……」

「考えてもしょうがないよ。」

「だね。あのキツネ男も街に入って彼女を狙ってるかもしれないし。」

「早くアリーシャに知らせてあげなきゃ。」

 

話をまとめてもう一度、橋に戻る。

家中を着けた騎士兵に、声を掛ける。

 

「街に入る申請かな?今のうちに済ませれば馬車が動いたらすぐに入れるぞ。」

「うん。じゃあ、そうします。」

「…お兄ちゃん…馬車…動く…。」

 

すると、馬車が動けるようになった。

ロゼが大声で、

 

「みなさん、ご迷惑をお掛けしました!」

「ちょうどいいタイミングだったな。レディレイクにようこそ。」

 

先程のセキレイの羽の人達に手を振って、別れる。

橋を渡りきると、街に入る。

辺りは、立派な建物が並んでいる。

 

「すっげえ!ここがレディレイクの都か~!」

「なるほど……人間の街はこんな感じなのか。ちょっと圧倒されるな。」

「だよなー!」

 

二人は驚きと喜びに満ちる。

対して、レイの瞳は視た。

 

「…加…護の…な…い街。」

 

さらに周りを視る。

彼女の瞳には、黒い球体のようなものがいくつも視えている。

 

「…穢れ…この街は…穢れ…に満…ちて…いる…。」

 

レイの呟きには気付かなかった二人。

そんな二人は、周りを見ていた。

が、ミクリオはすぐに気を引き締める。

 

「さて、僕たちは観光に来たわけじゃない。まずはアリーシャを探すべきか、それともキツネ男からか……」

「とりあえず、街を回ってみようと思うんだ。」

「情報集めだね。了解。」

 

街の探索を始める。

 

とある店の前で、

 

「お兄さん、どうこの服?本物のシルク生地だよ。今なら860ガルド。お買い得だろ?」

 

スレイは亭主に近付く。

 

「へえ、安いんだ?」

 

レイはその場に近付かず、

 

「ミク…兄…憑…魔≪ひょうま≫が…い…る。……あ…の人…の欲…望の…形…醜…い姿…」

 

ミクリオもそれを確認して、

 

「スレイ、奥。」

 

スレイが奥を見ると、耳のとがったゴブリンのような生き物と目が合う。

 

「あ……!追い払えた方がいいよな?」

「どうやって?露天商に襲い掛かった暴漢として、衛兵に捕まるのがオチさ。周りの人にとっては、普通の人間なんだから。」

「そっか……。」

 

と、その場を後にする。

再び歩き出し、広い出店のような場所に出る。

 

そして聖堂を見て、

 

「は~、聖堂ってこんなに華やかなものなのか。」

「さすがに導師伝承が残る街だね。それだけに気になる……〝加護領域〟を感じない。」

「そういえば……イズチではジイジの加護を常に感じてたのに。」

「ジイジが特別大きな力を持っているから、あれほどだったとしてもだ。この街はとにかく穢れが強い……。ちょっと気分が悪くなるくらいだ。」

「あ、大丈夫なのか?ミクリオ。」

「まだね。」

「ミ…ク兄…」

 

と、レイはミクリオの手を握る。

すると、ミクリオは気分的に楽になる。

 

「ありがとう。でも、正直長居するのは遠慮したくなってきてる。想像していたより憑魔≪ひょうま≫も多いし。」

「オレたちってホント無力だよな……。憑魔の姿が見えてるってのに。」

「もどかしいけど……しょうがない。僕たちに浄化の力はなんてないんだから。それに憑魔≪ひょうま≫に憑かれてる人間にも理由がある。邪な心に付け入られてるのさ。」

「こんなに華やかな街なのにな……。」

「これが普通なのかもな。人の街では。」

「……そ…の普…通も…人…々…は忘…れる。」

 

レイは小さく呟いた。

 

「でも、聖堂に『湖の乙女』が守るという聖剣があるのか……って並ぶ気?」

「まさか!今はアリーシャの安全が大事。」

「今は、ね。」

 

と、階段の近くに行くと、老人と子供が居た。

 

「わかるか、坊や。どんなに苦しくてもスリなんてしちゃいけない。」

「うっせー!じじい!死ね!」

 

と、子供は怒鳴り、走り去っていく。

レイは、それをじっと見ていた。

無論、スレイとミクリオも、だ。

 

奥に進むと、大きな虎獣のような憑魔≪ひょうま≫が殴り合っていた。

周りの人達は盛り上がっている。

 

「そろそろぶっ倒れな。」

「ハエが止まったのかと思ったぜ。おりゃ!」

 

殴り合いを続ける者達。

その光景にスレイは、

 

「すごいな……」

「ああ……近付かない方がいい。」

 

と、引き返す。

 

――黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女が居た。

その黒いコートのようなワンピースの服を着た少女は殴り合うその場を見て、

 

「変わらない。心は醜い、だからそうなる。」

 

 

路地裏に行くと、先程老人に暴言を吐いていたスリの子供が居た。

 

「なんだよ!まだ何かあんのか!」

 

スレイが少年の顔を見ると、

 

「うわあ!」

 

その子供はゴブリンのような姿に変わる。

 

「…心…の歪…みが…起…き始…めた…」

「何驚いてんのさ?」

 

そして、スレイの横のミクリオを見て、

 

「あれ、そっちのお兄ちゃん、なんか旨そうな匂いがするね……」

「スレイ、レイ、逃げるぞ!」

 

その場からすぐに逃げる。

ゴブリンのような姿に変わった子供の近くに、黒いコートのようなワンピースの服を着た少女が立っていた。

 

「気をつけろ、人間の子よ。それ以上いくと…戻れなくなるぞ。」

 

ゴブリンのような姿に変わった子供が声の方に振り返るが、誰も居なかった。

 

 

しばらく街を回って、

 

「ホント賑やかだなぁ。人がいっぱいだ。」

「気を抜かないで。それだけ彼らの邪な心に憑かれた憑魔≪ひょうま≫も多いって事だ。」

 

そして街に流れる水車に目を向ける。

 

「でっけえー!水車って、水の力で小麦を挽くんだよな?」

「それだけじゃない。脱穀や製糸などにも利用しているらしい。これだけの人間が生活しているんだ。色々大がかりな仕掛けが必要なんだろう。」

 

レイは川を覗き込み、

 

「…汚…い人…の心…。」

 

レイの言葉に、ミクリオは何かに気が付く。

しかしスレイは、

 

「いつ頃作られたものなんだろう?土台はずいぶん古い様式に見えるけど水車の部分は結構新しいし――」

「スレイ。」

「ん?」

「水が、かなり穢れている。」

「なんだって!」

「この穢れた水は街の横縦に流れているものだ。つまり……ジイジの言う通り――」

「人が穢れを生んでいるのか……」

「…自…然は…も…っとも染…まり…やす…い。…そ…して天…族も…。」

 

それから、貴族街に入る。

 

「穢…れ…こ…の穢れ…はあの…人間…。」

 

レイは遠くを視ていた。

が、二人はすでに歩いていた。

そしてレイは、二人の傍から離れていた。

 

奥の屋敷の方に行ってみると、犬の鳴き声が聞こえる。

それは尋常ではない。

見てみると、犬が隅の方を見て吠えている。

と、炎が浮かび上がり、男性が一人飛び出し、塀の上に乗る。

 

「お前は!」

 

そして、飛び去って行った。

 

「間違いない、キツネ男だ!」

「追いかけよう!」

 

犬が二人を手伝うように、導く。

走りながら、

 

「あのキツネ男、狙いはやっぱりアリーシャ?」

「だろうね。騒ぎになったから一旦退いたのかも。」

 

そして二人は今になって気が付く。

 

「そういえば、レイは⁉」

「いつからいない⁉」

「探した方が良いけど…」

「あのキツネ男をほっとくこともできない…。」

 

と、風が吹き荒れる。

 

「あのキツネ男の所に、探し物はあるぞ。」

 

声が響いて来た。

二人は警戒するが、怪しい気配はしない。

 

「とりあえず、あのキツネ男を追おう!」

「ああ!」

 

と、キツネ男を追い掛ける。

 

「それにしてもなんて逃げ足の早さだ。」

「わんこがまだ追ってる!絶対逃がさない!」

 

聖堂の裏に着くと、犬と一緒に白いコートのような服を着た小さな少女も居た。

 

「…もはや…戻る…事も…出来ない。…哀れ…な…人間…」

「よかった、無事だ。」

「ああ。それにどうやら追い詰めたようだ。」

「ミクリオ、準備は?」

「できてるよ。レイは下がって。」

 

レイは二人の後ろに下がる。

二人が前に出る。

すると、辺りが暗くなる。

二人は辺りを警戒する。

 

「ミ…ク兄…気…を付…けて…」

 

そうレイが言うと、ミクリオを狙ってキツネ男が迫る。

それをスレイが体当たりして難を逃れる。

キツネ男の爪が宙を斬る。

 

「ちっ」

「お前の好きにはさせないぞ!キツネ!」

 

スレイはキツネ男に怒鳴る。

スレイとミクリオは武器を取り出す。

 

「あくまで邪魔ぁするってか。」

 

キツネ男との戦闘が始まる。

一度、距離を取る二人。

 

「にゃろっ!なんだって前より強いんだよ⁉」

「イズチではジイジの加護領域が、こいつを弱体化させていたのかもしれない!」

「…それ…だけ…じゃ…ない。マ…イセンを…食…べて力…を…得た。それ…にこ…の…穢…れの中…では…」

 

キツネ男は両手に青い炎を作り出し、

 

「丸焦げになって後悔しな!そーらっ!」

 

それが二人に命中し、スレイは後ろに転がり、ミクリオは壁に叩き付けられる。

 

「ぐ!」

「ミクリオ!」

 

ミクリオはそのまま気絶する。

スレイは体勢を整える。

 

レイはスレイの前に立つ。

両手を広げた。

 

「レイ?」

「…哀れ…な人間…」

 

そして風が吹き荒れる。

レイの瞳はキツネ男を視据える。

そしてどこからかレイの声とこだまする。

 

「「…己の願いもはき違い、すでに人に戻る事も出来ない…」」

 

レイの瞳は、赤く光り出す。

キツネ男は何かに脅え始める。

 

「「偽りの仮面をかぶり、全てを騙す愚かな人間よ。これ以上私を怒らせるな!」」

「や、やめろぉ!その眼で俺を見るなぁ!」

 

と、レイに突っ込んでくる。

しかしレイは、それと同時にその場で頭を押さえた。

 

「「…怒る?…この私が?」」

 

風がそれに合わせ、乱れ始めた。

辺りの陰も闇を増す。

 

スレイは立ち上がろうとするが、駄目だった。

 

「レイ‼」

「…お…兄ちゃ…ん…」

 

レイは、スレイの方を見る。

と、同時にキツネ男の爪が、レイの左腕を斬り付ける。

そして、スレイの横に転ぶ。

 

「…う…」

「レイ⁉くそ‼」

 

そしてキツネ男は優越に浸る。

 

「くっくっく。今回はしっかり殺すぜぇ。雑魚のくせに、俺の邪魔しやがったんだからなぁ!」

 

と、近付こうとするキツネ男とスレイの間に、ナイフが突き刺さる。

その方向に目を向け用とすると同時に、レイの声がした。

 

「…お兄…ちゃん…動…いちゃダ…メ…」

 

スレイの背後に黒い服を纏い、仮面を付けた一人現れ、ナイフを彼の首に突き立てる。

無論、スレイの横でレイも、ナイフを首に突き立てられていた。

向かいでは、キツネ男は仮面を付けた黒い服を纏った者達に囲まれ、ナイフを向けられていた。

 

「と……頭領……」

 

レイは、スレイにナイフを突き立てている者を視る。

 

「風の…使い手…復讐に…駆られ…る者。…貴方は…その器…を死なせ…ると解って…いながら…加護を…与えている。」

「黙っていなさい。」

 

レイはナイフを近付けられる。

 

「その子には手を出すな!」

「…大人しくしていれば、何もしない。」

 

そしてキツネ男は、弁解を始める。

 

「ち、違うんだ頭領……これは―」

「黙れ……」

 

立ち上がろうとするキツネ男の左足に、ナイフを投げた。

 

「ひ、ぎゃぁぁ!」

 

と悲鳴を上げ、倒れこもうとしたところを仮面を付けた黒服達に捕まれる。

スレイは動かず、

 

「おまえたちは一体……」

「三度は言わない……黙れ。」

 

キツネ男を掴んだ者がそれを遮る。

そして、頭領と思われるスレイの後ろの人物が、

 

「ルナール、掟を忘れたか?」

 

キツネ男・ルナールは首を振る。

ルナールの横の黒服が、

 

「次はない。いいな?」

 

ルナールは首を縦に振り続ける。

頭領が命令する。

 

「行け。」

 

他の黒服達はルナールを抱えて歩いていく。

そして歩きながら、

 

「アリーシャ姫の暗殺の依頼は手違いだった」

「もう我らが狙うことはない。」

 

スレイは黒服達に、

 

「信じろっていうのか。」

「我らにも矜恃≪きょうじ≫がある。」

 

そして後ろにいる者に振り向こうとすると、ナイフを突き立てられる。

 

「振り向くな!」

「姫は何かと敵の多い身。暗殺も姫の排除を狙った手段のひとつに過ぎない。」

 

と、レイとスレイにナイフを突き立てていた者が居なくなる。

姿なき黒服達の声が響く。

 

「我らへの詮索などに割く猶予はないぞ。姫が気がかりなら、聖剣の祭壇に急ぐんだな。」

「何でそんなこと教えるんだ。」

「矜恃≪きょうじ≫と行ったろう。」

 

スレイはムスッとした顔で、

 

「一応……お礼は言った方がいいのかな。」

「ふふ。」

 

彼らの気配は完全に消えた。

そして、辺りも明るくなる。

レイは、彼らの消えた空を視ていた。

 

「う……」

 

そして、ミクリオが目を覚ます。

スレイは彼の元に駆け寄る。

 

「ミクリオ!大丈夫か。」

「ああ……一体何が。って、レイ!怪我をしているじゃないか!」

 

と言って、近付いて来たレイに治癒術を掛ける。

スレイは先程の事を手短に言う。

 

「助けられたらしい。暗殺組織に。」

「どういうこと?」

「アリーシャを狙ったのは手違いだったみたいだ。キツネ男は、そいつらに連れて行かれた。それより、アリーシャに別の危機が迫ってるみたい。」

「みたい、みたいって……」

「しょうがないだろ!とにかく、聖剣の祭壇に急がなきゃ。」

 

レイの治療も終わり、祭壇へ急ぐ。

 

裏口に向かうと、一人の男性が出て来た。

そして近付くスレイに、騎士兵が入り口を塞ぐ。

 

「何だ。祭りを見たいなら表に回らないか。」

「でも、今お兄さん通ってきたよね。」

 

と、その人を見る。

 

「そりゃ、僕は運営に協力してるし。」

 

と、言って去って行く。

 

「そういうことだ。ここは関係者以外立ち入り禁止だ。」

「急いでるんだ。そこを何とか!」

「ダメだ!」

 

と、追い返される。

仕方ないので、一度その場を離れる。

 

「でも、正門に戻って並んでいる暇はない。どうしたら…」

「手、貸そうか?」

 

階段を下りると、先程の男性とセキレイの羽の商人・ロゼが居た。

近付いて行くと、

 

「なんか切羽詰まってたから。どうにかして剣の祭壇に行きたいんじゃ?」

「そうなんだ!アリーシャが……」

 

続きを言おうとするスレイに、

 

「それは余計なこと。」

 

と、ミクリオが注意する。

 

「と、とにかく助けてくれるならすっごくうれしいよ!」

「じゃあ、お金が必要だね。」

「お金?」

「そう、さっきの兵士に渡す『袖の下』。僕たちが頼んだ上で掴ませれば通してもらえると思う。」

「いくらぐらい要るの?」

「そうだな~。まぁ1000ガルドもあれば確実かな。」

「そんなに持ってないな。」

「じゃあ、何か買い取ろっか?」

「お金になるようなものか……」

 

と、レイがそれを断った。

 

「そ…の必…要な…い。」

「「「「え?」」」」

「…ご…めん…な…さい。お…兄ちゃんの…こ…とは忘…れて。」

 

と、スレイの腕を引っ張る。

 

「ちょ、レイ⁉」

「大…丈…夫。」

「スレイ、ここはレイに任せよう。」

「え、わ、わかった。ロゼ、何かごめん。」

「うーん、いいよ。頑張ってねぇー。」

 

と別れ、再び門に来た。

 

「また、お前たちか。祭りを見たいなら、正門に…」

「お兄…ちゃん…ナイ…フ。」

「え?」

「ああ、そうか!スレイ、アリーシャのナイフを見せるんだ。」

「へ?わ、わかった。」

 

スレイは、騎士兵にアリーシャのナイフを見せる。

と、騎士兵はそれを見て立たずまいを直し、

 

「し、失礼しました。王家の関係者だったとは…どうぞ、お通り下さい。」

 

道が開く。

 

中に入る前に、

 

「レイ、よく思い出したな。」

「……?」

「…たまたま、だったのかな。」

「まぁ、いいや。レイのおかげで、中に入れる。」

 

中に入ると、盛り上がっていた。

 

「うーん……」

「せっかく入れたのにここからじゃ祭壇が見えない、とか考えてる?」

「はは……つい……」

「お、おいミクリオ。」

「ふふふ。僕の特権だよ。」

 

と、離れて行った。

 

「ちぇ…」

 

 

そして同時に、

 

「…さて、導師の器よ。お前は何を望み、何を願う。」

 

ーー黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女が後ろに居た。

無論、スレイ達は気が付いていない。

黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女は、そっと姿を消した。

 

スレイは拗ねながら、ミクリオに近付いた。

 

「……火の…使…い手…。そ…れに探…し人…も…居た。」

 

レイは呟いていた。

スレイはそれには気が付いていなかったが。

するとミクリオが、

 

「おい!スレイ!ちょっと見てくれ。」

「ん?何?」

 

と、やり取りしている時、下の方には横にカールした髪をした女性が居た。

 

「スレイ?」

 

その声のする方に、スレイが目を向けると、

 

「アリーシャ!」

 

と、言って近付く。

レイも、スレイと共に行く。

 

「やはりスレイ!それにレイも、来てくれたのか。よくぞ都へ。」

 

と、アリーシャの横にいた女性が、

 

「姫。こちらは?」

「彼がスレイです。そしてこの子が、彼の妹のレイです。」

「ああ、辺境の地で姫を救ったという……」

「スレイ、こちらはマルトラン卿。今回の聖剣祭の実行委員長を務めて下さっている。そして私の槍術の師匠でもあるんだ。」

「よろしく!オレはスレイ、こっちは妹のレイです。」

「よろしく。スレイ殿。それに、レイ殿。」

 

と、レイはずっと見ていた女性・マルトランと目が合う。

 

「…すでに…持つ者…。」

「ん?」

「すでに…決めた…想いに…迷いを…持つ。…捨てたい…自分と…捨てれ…ない自分。」

「……。」

「関わった…時間…だけ貴女…には…忘れる…事は…出来な…い。」

 

互いに、数秒見合った。

そして、スレイと見合う。

 

「貴殿の妹君は変わっているな。」

「はは…。」

 

と、アリーシャはすぐに、

 

「スレイ、都へはやはり剣の試練に?」

「それだけじゃないんだ。実は……」

 

と、周りに誰もいない所に移動する。

そして、暗殺者の話をする。

 

「その怪しい一団の言うことは事実だ。私の事を快く思わない者たちは多い。だが、それに臆するわけにはいかないんだ。」

 

レイはアリーシャを見る。

彼女は強い眼をしていた。

しかし、

 

「…本心は…隠せない…。」

 

それは小さな呟きだった。

故に、誰の耳にも届かない。

 

「けどアリーシャ……」

「……ありがとう、スレイ。心遣い本当に感謝する。もうすぐ聖剣祭最後の祭事、『浄炎入灯』が始まる。最後まで見ていってくれ。」

 

そして、アリーシャはマルトラン卿と歩いて行った。

ミクリオがスレイに寄り、

 

「あれが為政者の覚悟か……」

「なんかすごいね……」

 

そして思い出したかのように、

 

「そうだ!スレイ。剣の台座を見てくれ!」

「え、うん。」

 

と、台座に近付いて行く。

そこには、聖剣が突き刺さっている。

そしてその前の所には、銀髪の長い髪を結い上げ、赤を基本としたワンピースの服を着た女性が寝ていた。

 

「みんなには見えていないってことは天族なんだ!」

「彼女と話せなきゃ、剣は抜けないんだろう。普通の人間じゃダメなわけだ。」

 

スレイは女性を見て言った。

 

――動くことも出来ないこの場所に、時が来るまで待ち続けた。来るかも解らない導師の器を…

 

隅の方で、黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女が呟いた。

 

スレイは目を輝かせ、

 

「すっげえ!伝承は本当だったんだ!」

「ミクリオ!声かけてみてよ!」

「僕が⁉」

「オレだとみんなに変な目で見られるだろ。」

「しかしだな……」

 

と、うなだれているミクリオが決断する前に、アリーシャとマルトラン卿が祭壇に立つ。

そしてマルトラン卿が、

 

「人々よ。レディレイクの人々よ。この数年、皆が楽しみにしていた聖剣祭も世相を鑑みて慎んできた。だが今年はアリーシャ殿下のご理解と全面的な協力のにより開催する運びとなった。」

「最近は異常気象や疫病、不作や隣国との政情不安など憂事≪うれいごと≫も多い。だが、こんな時代だからこそ、伝統ある祭事をおろそかにしてはならないと私は考える。」

 

周りの人々からの拍手が響き渡る。

 

「さぁ、湖の乙女よ!その力を現したまえ!」

 

そう言って、マルトラン卿は手に持っていた松明を後ろの祭壇へ灯す。

それに合わせ、聖剣の前に居た湖の乙女が目を覚ます。

そしてアリーシャは、下に降りていく。

そして騎士兵から書簡を受け取り、戻る。

 

「湖の乙女よ。我らの憂い、罪をその猛き炎で浄化したまえ。」

 

それを悲しそうな瞳で、湖の乙女は見る。

 

――さぁ、人間の醜い心が現れるぞ。この件に私は関与しない。これはお前達自身が望み、生み出した結果だ。…お前達の決断を見せて貰おう。

 

黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女は聖堂全体を視据え、姿を消した。

 

スレイの後ろに居たレイは、何かに反応する。

それにスレイとミクリオは気付いていなかった。

 

「……始ま…る心…の暴…走…が…」

 

レイは頭を抱える。

その瞳は、赤く光り出す。

 

「レディレイクの人々よ!この祭りを私たちの平和と繁栄の祈りとしよう!」

 

しかし人々は、声を上げる。

 

「祈りがなんだってんだ!これで俺たちの仕事が戻ってくるってのか、ええ!」

「評議会が武具や作物の通商権を独有したのは、戦争をおっぱじめるためだろう!」

「俺たちをのたれ死にさせる気かっ!」

「こんなもんは評議会の自己満足だ!俺たちはこんなご機嫌取りにゃ誤魔化されねえぞ!」

「黙れ!祭りの邪魔をするな!」

 

騎士兵が、槍を向ける。

 

「やめないか!」

 

そんな彼らを、アリーシャが止める。

 

「へっ。ざまぁ見ろ。」

「貴様!」

 

と、騎士兵は槍を振るう。

人々は逃げまどい始める。

 

それを見たミクリオは、

 

「仕組まれたんだ……この暴動は!」

「あの衛兵!」

 

そして祭壇の上に居たマルトラン卿は、

 

「大臣の仕業に間違いない。」

「勢力争いに守るべき民を巻き込むとは!そこまで腐ったか!」

「アリーシャ!」

 

アリーシャに向かって、何かをしようとしていたところをスレイが止める。

 

「スレイ!危険だ!」

「お…兄…ちゃん…ミク…兄…」

 

と、レイが祭壇へ近付いて来た。

 

「あ…も…う遅…い…」

 

レイは、その場で頭を抱え、座り込む。

 

「いけません!敵意に身を任せては!」

 

湖の乙女が立ち上がり、叫んだ。

そして、レイと湖の乙女の声が被る。

 

「「憑魔≪ひょうま≫が…」」

 

スレイとミクリオは、レイと湖の乙女を見る。

 

「…生ま…れる…」「…生まれてしまう!」

 

その言葉と同時であった。

祭りに来ていた一人の男性が、苦しみ出す。

 

「うぁぁぁー‼」

 

そして大きな穢れが生み出され、その男性は獣の姿となる。

 

「憑魔≪ひょうま≫になったのか……?」

「人の邪心が穢れを生み、穢れが憑魔≪ひょうま≫を生む……。このままでは……」

 

レイと同じように、頭を抱えていた湖の乙女に、スレイは聞いた。

 

「湖の乙女!なんとかできないのか⁉」

 

そんなスレイの姿を、アリーシャは見た。

そしてミクリオも、

 

「あなたは『浄化の力』をもっているんだろう⁉」

「天族?それにあなたは私が……?」

 

レイも座り込んだその場で、湖の乙女を見る。

いや、その奥の炎を見た。

 

「ダ…メ…そっ…ちに行…って…はも…う…引…き返…せな…くなる…」

「…あなた…その瞳は…」

 

湖の乙女の言う通り、レイの瞳は赤く光っている。

そして炎を視る瞳は揺れていた。

 

それと同時であった。

憑魔とかした男性が、スレイとミクリオを間を割って、炎の燃える祭壇へ飛び込んだ。

そしてその炎は、黒い炎へと変わる。

 

「…穢…れの…炎…どん…どん…増幅す…る…」

 

それが辺りへと飛び散り、燃え上がる。

 

「なんてことだ……」

「ミクリオ、火を消してくれ!」

「あの黒い炎は憑魔≪ひょうま≫といっていい!僕に何とか出来るのは普通の炎だけだぞ。」

「わかった!」

 

と、走り出す。

それを見ていたアリーシャは、

 

「スレイ、それにレイ、君らはもしや本当に天族が見えて……」

 

そしてレイは、辺りを見る。

 

「どんどん…増える。心の…恐怖が…絶望が…怒りが…悲しみが…」

 

それに合わせ、スライムの憑魔≪ひょうま≫が生まれる。

 

「スレイ、まずいぞ……。憑魔≪ひょうま≫がどんどん沸いてくる……」

 

ミクリオが天術を使用しながら、炎を食い止める。

湖の乙女は、静かに言う。

 

「浄化の力は私が振るうのではなく、この剣を引き抜き、私の剣となった者が操る力なのです……」

「それなら!」

 

スレイは聖剣の元に駆けよる。

そしてその剣を握ろうとした時、

 

「お待ちください!私の剣となるということは私を宿す『器』となり、宿命を背負うということ。浄化の力を操り、超人的な能力を得る代償に人に疎まれ、心を打ちのめされる事もあるでしょう。憑魔≪ひょうま≫から人や天族を救うため、苦渋の決断を迫られることも……それは想像を超えた孤独な戦いです。」

 

湖の乙女はスレイに言う。

それを聞いたミクリオは、

 

「それが導師の宿命……?それを今、受け入れろっていうのか!」

「そうですわ。だから……」

「君の名前を聞いても良いかな。」

「あ、はい。ライラです。」

「ライラ……オレ、世界中の遺跡を探検したいんだ。古代の歴史には、人と天族が幸せに暮らす知識が眠ってるって信じてるから。俺の夢は、伝説の時代みたいに、人と天族が幸せに暮らす方法を見つけること。憑魔≪ひょうま≫を浄化することで人と天族を救えるなら…それはオレの追いかけてる夢と繋がってるんじゃないかって思う。」

「スレイ……君は……」

 

ミクリオは、彼を見つめる。

湖の乙女・ライラは彼を見上げる。

 

「スレイさん……」

「だからライラ…オレは『導師』になる!この身を君の器として捧げ、運命を背負う!」

 

ライラは、スレイに近付く。

 

「私はずっと待っていました。穢れを生まない純粋で清らかな心を持ち、私の声が届く者が現れるのを。」

 

そして、スレイの左手を握る。

すると、スレイの体は魔法陣が包む。

 

「さあ!スレイさん!剣を!」

「よぉし!」

 

ライラとアリーシャが見守る中、スレイは剣を握る。

そして引き抜く。

スレイが左手に着けていた導師の紋章が付いた手袋が光り出す。

剣から炎が溢れ出し、光が彼を覆う。

吹き荒れる風と光。

その中で、ライラは黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女を見た。

 

「器が導師になったか…。導師の道はいばらの道。お前の望むその願いは、全ての導師が願い、破滅した。災厄の時代に生まれ指導しよ、お前も同じになるのかどうか興味がある。…見届けよう、これからも…」

 

そしてひときわ大きな風が吹き荒れる。

 

「この災厄を変えし、新たな導師の誕生だ!」

 

その声が、辺りに響く。

ライラが再び見た時には、少女は居なかった。

 

光と風が、収まった。

人々は、剣を抜いたスレイを見る。

 

「スレイさん…」

 

ライラはすぐに札を取り出し、青い炎が穢れの炎を浄化する。

そしてスレイは後ろの炎の祭壇を見る。

 

「スレイ……本当に⁉」

「アリーシャ、下がってて。」

「スレイ、憑魔は任せていいんだね!」

「うん。残った火とレイを頼む。」

 

ミクリオは嬉しそうに、残り火を消す。

 

スライムの憑魔≪ひょうま≫達が一か所に集まって来る。

そして人狼の憑魔≪ひょうま≫が、スレイに襲い掛かる。

スレイはそれを剣で弾く。

次々と襲ってくる憑魔≪ひょうま≫を倒してく。

 

ミクリオは、炎を消してレイの所に駆け寄る。

レイはスレイとライラを見ていた。

その瞳はいつもの赤に戻っていた。

そして俯き、

 

「「…私が……」」

 

レイの声は誰かとこだましていた。

 

「レイ!」

「…ミク…兄…」

 

レイはミクリオを見上げる。

と、スレイ達の方で、

 

「やりますわよ!スレイさん!」

「うん!」

 

と、戦闘態勢に入る。

 

「狼人間…?憑魔≪ひょうま≫化したのか…⁉」

「スライム達は私の炎で対処します。導師の力で彼らを浄化してください!」

「了解!」

 

狼の憑魔≪ひょうま≫を倒す。

しかし、炎はまだ穢れたままだった。

 

「なに⁉」

「そんな!」

 

炎の祭壇は浄化され、一人の男性を抱える。

 

「スレイ!」

「スレイ……本当に……」

 

スレイはアリーシャを見て、

 

「うん。オレ、導師になったよ。」

 

周りは喜びに満ちる。

その後ろから、衛兵を連れてやって来る一人の男性。

 

「静まれ!静まれい!」

 

マルトラン卿は、その人物を見て舌打ちをする。

 

「バルトロ大臣……」

「アリーシャ殿下。暴動が起きたと報告がありましたが……」

「ええ。ですが、もう収束しました。」

 

スレイを指示しながら、

 

「導師の出現によって。」

「なんですと?レディレイクの人々よ。此度の聖剣祭はこれにて幕とする。」

「さぁ、皆さん。ご退場なされよ。」

 

衛兵達が、人々を誘導する。

 

「殿下、後日顛末を伺いたい。マルトラン卿もよろしいか。」

 

二人は大臣に頷く。

大臣は引き返し、去って行く。

 

「……導師、だと?チッ。」

 

レイはその大臣を見ていた。

 

「…己が欲の…ために…他者を…捨てるか…」

 

大臣が去った後、ライラがスレイを見て言う。

 

「それではスレイさん、私はあなたの内≪なか≫に戻りますね。」

「あ、うん。オレが器だもんな。」

 

ライラは光の球体になって、スレイの中に入った。

そしてミクリオが、

 

「不思議な光景だよ……」

「あ、れ?」

 

スレイはふら付き、膝をつく。

アリーシャがそれに気が付き、

 

「スレイ?」

「どうした?」

 

ミクリオが駆け寄る。

レイもスレイを見て、

 

「反…動が…きた…」

 

そして、スレイの中に入ったライラの声が聞こえる。

その声はどこか明るい。

 

「私が入ったせいですね。三日三晩は高熱にうなされると思いますわ。」

 

ミクリオが、すぐに突っ込む。

 

「どうして⁉」

「体に入った異質な力を排除しようとする人の機能なのでしょう。」

「天族に輿入れした人は、大抵寝込んでしまいます。」

「人が『器』になるとそうなるのか……」

 

アリーシャがスレイに駆け寄り、

 

「やば……もうダメ。」

「スレイ⁉大丈夫なのか?」

「大丈夫くない……ちょっと三日ぐらい寝込むね……」

 

そしてスレイは、アリーシャの膝に倒れこんだ。

 

「ちょっ、スレイ……⁉」

 

周りの人々は、特に男性は悲観していた。

 

「ミク…兄…周…りの…人…ざわ…つい…てる。…で…も悪…い敵…意は感…じない。」

「…これが人の世でいうラッキーなシチュエーションというやつか?」

 

スレイはその後、本当に寝込む。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。