テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第二十一話 水の試練神殿ルーフェイ

スレイ達はアリーシャから聞いた遺跡に向かう。

ミクリオが遺跡があると思われる場所を歩きながら、

 

「遺跡の入り口は巧妙に隠されているって言っていたね。」

「注意して探すしかないか。」

 

スレイも辺りを探りながら言う。

みんなで辺りを探っている姿を見たレイはオロオロし、何かを決心した。

レイは滝の方に近付く。

それに気付いたミクリオが、

 

「レイ、そっちは危ないから――」

 

危ないから近付かないように注意しようとした最中、レイは水の中に落ちた。

浅瀬だが、子供のレイにはきつい。

 

「レイ‼」

 

ミクリオは慌てて、レイを抱き上げる。

 

「レイ、大丈夫か⁉」

「ゲホッ……ゴホッ……」

 

レイはある所を指差す。

ミクリオがそこを見ると、滝しかない。

いや、その奥が空洞になっているのにデゼルが気が付いた。

 

「風が妙だと思っていたが、なるほどな。」

「まさか、こんな仕掛けだったとは。」

 

ミクリオがスレイ達を呼び、滝の中へと入って行く。

 

長い空洞を向けた先には、広い洞窟のような場所だった。

所々、水が流れ、落ちてきていた。

上を見上げると、岩橋のように、上に続いていた。

スレイは辺りを見渡し、

 

「ここは……」

「滝にまったく浸食されていない。造られたばかりじゃないとすると……」

 

ミクリオも同じように辺りを見て言う。

 

「天響術が使われている。アヴァロストの調律時代の遺跡だな。」

 

スレイが嬉しそうに言う。

と、スレイ達の目の前から声が響く。

 

「そう。ここは水の試練神殿ルーフェイ。あの人の言った通りだったな。いやはや、導師の来訪は久しぶりだな。」

 

スレイ達が目を向けると、一人のお面をつけた白服の男性が水の上に座っていた。

スレイ達はその者に近付く。

と、お面をつけた男性はレイを見て、

 

「それにしても、裁判者が手を貸すとはどういった辺境ですか?」

「あ……」「え?」

 

スレイがレイを見る。

レイは視線を外したが、すぐにその者を見て、

 

「私ではない。この器がしたことだ。安心しろ、ここからはそのようなことはない。さて、導師。ここからは、お前たちの試練だ。」

 

そこには風に包まれ、白から黒へと服が変わった小さな少女が居た。

スレイは視線をお面をつけた男性に戻し、一度頭を下げた。

 

「導師のスレイです。」

「主神のライラと申します。あなたは水の五大神アメノチ様の……」

 

ライラもスレイの後ろから頭を一度軽く下げ、名乗る。

お面をつけた男性は立ち上がり、

 

「アメノチ様に仕える護法天族アウトルだ。」

「さっそくだけど、水の秘力を授けてもらうにはどうすれば――」

 

と、スレイが試練について聞こうとした矢先、

 

「どこだっ!オレの剣はどこだ~っ‼」

 

どこからか怒鳴り声が響く。

スレイ達は辺りを警戒する。

デゼルが何かに察し、

 

「下がれ!」

 

スレイ達は後ろに下がる。

すると、スレイ達の居た場所に上から何かが落ちてきた。

いや、降ってきた。

ロゼは目を見張り、

 

「なになになに~⁉」

「剣?」

 

そこには数分の剣が刺さっていた。

エドナが上を見上げ、

 

「上になにかいる。」

 

スレイ達はそこを見る。

護法天族アウトルが、静かに言う。

 

「憑魔≪ひょうま≫アシュラだ。」

「アシュラ……怒りを糧に永遠に戦い続けるといわれる強力な憑魔≪ひょうま≫ですわね。」

 

ライラが眉を寄せて説明する。

スレイが護法天族アウトルを見て、

 

「そいつを鎮めるのが試練?」

 

小さな少女は横目で彼を見る。

護法天族アウトルはなおも静かに、

 

「いいや。秘力を与える条件は、彼が憑魔≪ひょうま≫になった理由を明らかにすることだ。」

「単に浄化するんじゃなく理由を探れと?」

 

ミクリオが腕を組んで悩む。

護法天族アウトルは諭すように、

 

「導師ならわかるだろう?その重要さが。」

「はい。」

「大変さも、ね。」

 

スレイは力強く頷くが、後ろでロゼは頭を掻きながら、呟いた。

それを見た護法天族アウトルは笑った。

 

「ふふふ、だから試練なのだよ。健闘を祈る。」

 

そう言った先には彼はすでにいなかった。

そして、小さな少女もそこにはすでにいなかった。

 

 

小さな少女は彼らを上から見下ろしていた。

彼らが奥に進んだのを見ると、視線を前に戻す。

そこには穢れを纏った憑魔≪ひょうま≫がいる。

 

「オレの剣をよこせ~!」

「無理だな。お前の願いはすでに叶えた。そして審判者の奴にも無理だ。お前の元に、剣は戻らない。」

 

小さな少女は赤く光るその瞳で、憑魔≪ひょうま≫を見据える。

そしてさらに上へと上がり、

 

「だろ?」

「はい。私は彼に願い、そしてあなたにも願いましたから。」

「……ああ。」

 

小さな少女は歩き出す。

歩いた先には導師一行が見える。

それを陰から見守ることにした。

 

「今回の試練、あれに邪魔されては面倒だからな。」

 

小さな少女は導師スレイの声に耳を傾ける。

彼の手にはメモ書きが握られている。

 

「『コモン暦二十二年、緑陽の月。水の天族が現れ、導師になれと勧められた。オレには、その資質があるのだという。ただの刀鍛冶のオレが導師になれるのだろうか……?』。」

「これって導師の日記⁉」

 

水の陪神が驚きの声を上げる。

そして導師スレイも、

 

「しかも天族と出会って導師になった人の……」

 

彼らは疑問に思いながらも、次へと進む。

小さな少女も、その後を密かについて行く。

 

再び、メモ書きを見つけ、導師スレイが読み上げる。

 

「『コモン暦二十五年、賢者の月。導師となって三年。この活動は人生を賭けるに足るものだ。だが、穢れは果てしなく生まれてくる。そしてこの月、オレは仮面をつけた変わった二人組に会った。人でも、天族でもない二人組の少年少女。少女が言う。〝いつか、お前は直面する。自分の願いと想いの矛盾に。″少年が笑う。〝いつか、俺らは呼ばれる。君たちに。″二人は風のように消えた。よくはわからなかったが、オレは穢れをなんとかしたい。いや、なんとかしなければ。もっと多くの人を救いたい……』。」

「これも導師の日記?」

 

ロゼは腕を組む。

スレイは頷き、

 

「みたいだ。」

「にしても、ここでも関わってくるのね……あいつら。」

 

エドナは後ろで小さく呟いた。

ライラもそれを聞き、

 

「そのようですわね。」

 

それを聞いた小さく少女は静かに、彼らを見るだけであった。

彼らはさらに奥に進む。

導師スレイはメモ書きを見つけ、読み上げる。

 

「『コモン暦二十八年、車輪の月。ダメだ……日に日に穢れが世を覆っていく。オレは災厄も戦争も止められない。導師なのに力が足りないのだ。穢れを祓うには強い力が必要なのに。』。」

「導師の日記が、なんでこんなトコに⁉」

「意図を感じるね……」

 

再び悩むロゼに、ミクリオが眉を寄せて言う。

小さな少女は何かを思い出すかのように、奥を見る。

そこには護法天族アウトルが俯いていた。

 

「どこも同じ事が起こり、同じような顔をするのだな。」

「ええ。気付いた時にはもう遅い……貴女の言う通りでしたからね。」

「……ほとんどの者は私を責めるが、お前はそうではないのだな。」

「……自分では解りづらいものなのですよ。でもこれだけは言える。貴女がもう少し我らと関わってくれたら、自分は違う選択肢を選ぶことができたのだろうか、と……」

「さぁな。結局は、お前の選んだ選択肢だ。」

 

護法天族アウトルは顔を上げ、また下げて消えた。

そうしてる内に、導師達が動き出した。

小さな少女は壁から背を離し、

 

「さて、あいつらはこの真意に気付けるかな。」

 

さらに奥に進んだ導師達は、またメモ書き見つけた。

スレイが頷き、読み上げる。

 

「『コモン暦三十一年、玉杯の月。輝光銀≪きこうぎん≫が手に入った。これで剣を打とう。オレに足りない力を埋め合わせるために。力を。力を。力を。ひたすらこの想いを念じて。すると、いつかの変わった二人組の一人がオレの前に現れた。少女の方だった。仮面の下から覗く赤く光る瞳がオレを貫く。少女が言う。〝お前の願いを叶えに来た。さて、どうする?″オレは少女の前で叫ぶ。力が欲しい、と。少女は赤く光る瞳を細めて、オレを見る。そしてオレの持っていた輝光銀に触れた。力が溢れる。これならオレの足りない力どころか、オレはその上にいける!早く剣を打とう。この強大な力を形に!』。」

 

それを聞いたライラは拳を握りしめ、

 

「この方は……」

「ずいぶん想いつめちゃったのね。」

「ふん、驚くほどでもないだろう。」

 

エドナとデゼルがスレイの持つ紙を見て言う。

エドナはデゼルを見上げ、

 

「そうね。あの裁判者を呼びつけるほどの強い想いだった、ってだけ。」

「だから何だ。」

「なにも。アンタの想いよりは強いって事よ。」

「俺は!」

 

と、エドナとデゼルが互いに睨み合い、口論しそうになるところに、

 

「はい、はーい!そう言った私情はあと!まずは試練を終えよう。」

 

ロゼが次の扉へと歩いて行く。

スレイ、ミクリオ、ライラも頷き、ロゼの後に付いて行く。

エドナも歩きながら、

 

「その一つにアンタも関わっているのにね。」

「ロゼに余計な事を言うんじゃねぇーぞ!」

「はいはい。」

 

デゼルもエドナの横に行き、怒鳴りつけた。

彼らが居なくなった後、小さな少女は部屋の真ん中にいた。

 

「オレの剣!オレの剣はどこだ~‼」

「……悪いが私は持っていないぞ。大人しくしていたらどうだ。」

「オレの、オレの剣!オレの剣はどこだ~‼」

 

小さな少女はため息をつき、風が穢れを纏った憑魔≪ひょうま≫を包む。

風が消えると、そこには何もなかった。

小さな少女は導師の方に向かい、歩き出す。

 

導師スレイ達近くまで追いつくと、そこにはメモ書きを持った導師が居た。

そして読み上げた。

 

「『コモン暦四十二年、桜花の月。ついにできた。我が二十年の悲願を込めた剣が。この剣があれば斬り倒せる。憑魔≪ひょうま≫を。穢れを。すべての災厄を。』。」

「もしかして、この日記の主が……」

「アシュラなのか⁉」

 

ミクリオは眉を寄せる。

そしてスレイもミクリオの意図に気付き、声を上げる。

 

「でも、可能性はありそうだね。」

 

ロゼも腕を組む。

全員が頷き合い、次の扉に向かう。

歩きながら、スレイが思い出したように言う。

 

「マルトランさんも、ここに来たのかな?」

「入れたとしても、どうにもならないだろうね。」

「こんなトコ進めるのは導師ぐらいだよ。」

 

ミクリオとロゼが互いに厳しい顔で言う。

だが、後ろでライラが静かに、

 

「導師か、もしくは……」

 

その後の言葉は小さくて他の者には聞こえなかった。

小さな少女は横目で彼らを見て、

 

「……さて、真実を知った時、彼らの行動はどう変化するかな。」

 

小さな少女は視線を遠くに向ける。

そこには、青い騎士服を身に纏った女性が視える。

 

導師一行が最終の間の前に着くと、

 

「ねえ、あのアシュラってホントに憑魔≪ひょうま≫?」

 

ロゼが腰に手を当てて、ライラに聞く。

ライラは頷き、

 

「ええ、実際に穢れや領域を感じます。」

「偽者って思うのか?」

 

ミクリオがロゼに聞く。

ロゼは腕を組み、

 

「だって変じゃない?あんなヤバイ憑魔≪ひょうま≫が野放しになってるなんて。」

「なぜ護法天族が放置するのか。」

 

ミクリオも腕を組む。

ロゼは眉をより深く寄せて、

 

「そう。偉くて強い天族なんでしょ?」

「それが試練だからだと思います。護法天族は、特別な使命を与えられた方々ですから。」

 

ライラが力強い瞳で言う。

が、デゼルは腰に手を当て、

 

「要するに奴らの都合ということだろう。」

「そうね。」

「否定はできませんが……」

 

エドナは真顔で、ライラは視線を外して言う。

ミクリオがロゼとデゼルを見て、

 

「二人とも、そういう言い方はないだろう。」

「お前もわかっているはずだ。別に天族は聖人君子じゃない。」

「ましてや正義の味方でもね。」

 

デゼルがミクリオを見ながら言う。

その後に、エドナも真顔で続けた。

 

「それは……」

 

ミクリオは言葉が続かない。

そこに、明るい声で、

 

「納得!二人が言うと説得力あるね。」

 

ロゼが嬉しそうに言う。

デゼルは帽子を深くかぶり、

 

「……わかればいい。」

「うん。そういう試練ってことなら問題なしだ。」

 

と、腰に手を当てて頷く。

そして一人、腕を組んで悩み続けているスレイを見て、

 

「で、スレイは何をそんなに悩んでんのさ。」

「ん?いや、日記の導師は裁判者に願いを言って叶えてもらった。じゃあ、彼女が言った……〝いつか、お前は直面する。自分の願いと想いの矛盾に。″て言うのはどう言う意味だったんだろうと思って。願いが叶えらえて、憑魔≪ひょうま≫を倒す力は手に入れた。でも、審判者はこう言っていた。〝いつか、俺らは呼ばれる。君たちに。″って、君たちって事はその導師の天族の人の所にも行ったんだよね?じゃあ、その天族は今どこに?」

 

スレイの言葉に、エドナは傘を閉じ、

 

「そのまんまの意味じゃないかしら。」

「え?」

「アイツらが願いを叶える。でも、それで手に入れた力は強大過ぎる。救いたいと想う気持ちは、次第に願っていたものとは違う事がわかってくる。その日記の導師は……スレイ、ある意味ではアンタと同じだったという事よ。そしておそらく、その天族もその結果に何かしらの想いはあるはずよ。」

 

エドナは再び傘を開き、クルクル回しながら言う。

ライラはスレイを見て、

 

「それらを含めて、きっとこの試練には意味があるのだと思いますわ。」

「そう。だから、その真意を掴んだ時、アイツに文句や疑問をぶつければいい。」

 

そう言って、エドナは歩き出す。

スレイは大きく頷き、

 

「そう……だな。うん、そうしよう!」

 

スレイも歩き出す。

それに続けて、他のメンバーも続いて行く。

小さな少女はそれを見届けてから、姿を消した。

 

 

スレイ達が最奥の間に入ると、巨大な憑魔≪ひょうま≫が居た。

六本の腕を持ち、剣や武器を握っている。

そしてその顔は怒りに満ちている。

その憑魔≪ひょうま≫は奥に居る人ではない鎧剣士に剣を交えながら、

 

「それを寄こせえっ!」

 

と、剣と剣で抑え込んでいた。

そのすぐ傍には、黒いワンピース服のような服を着た小さな少女が居る。

 

「あれがアシュラ⁉」

 

スレイは身構えながら言う。

憑魔≪ひょうま≫アシュラは、なおもその鎧騎士と剣を交える。

が、鎧騎士は憑魔≪ひょうま≫アシュラの剣に負け、崩れ落ちる。

そして鎧騎士の持っていた剣を見て、

 

「……これも違う!」

 

と、怒りだす。

 

「どこだっ!オレの剣はどこだ――っっ‼」

 

なおも怒り、怒りに燃える。

 

「オレの剣……?」

 

スレイは眉を寄せて、憑魔≪ひょうま≫アシュラを見る。

そして小さな少女は憑魔≪ひょうま≫アシュラを見上げ、

 

「もはや、まともな理性さえ失ったか。哀れだな。」

「オレの剣をどこにやった!寄こせ!寄こせえ―‼」

 

と、小さな少女に剣を振り落とす。

スレイは駆けだしながら、

 

「レイ!」

「スレイさん!」

 

その彼の手を、ライラが引っ張る。

小さな少女の足元の陰から黒い何かが飛び出し、剣を掴む。

 

「お前に私は殺せない。さて、答えは出たか?」

 

と、奥に居る導師達を見る。

ロゼも眉を寄せ、首を振りながら、

 

「わかんない!なんなの?憑魔≪ひょうま≫が憑魔≪ひょうま≫を襲うなんて。」

 

と、黒い影を薙ぎ払った憑魔≪ひょうま≫アシュラがスレイ達の方を向く。

その姿に、ロゼが悲鳴を上げる。

 

「ひぃっ!」

 

憑魔≪ひょうま≫アシュラはスレイ達を見下ろし、

 

「導師であるオレが!憑魔≪ひょうま≫を倒すのは当然だろう!」

 

それを聞き、ミクリオは目を見張り、

 

「やっぱり⁉アシュラは……!」

「憑魔≪ひょうま≫になった導師⁉」

 

スレイも目を見張る。

憑魔≪ひょうま≫アシュラは歩いていた小さな少女を見て、

 

「返せ……オレの剣を返せ――っ!」

「無駄なことだ。何度も言わせるな。」

「お前が寄こしたあの力!あの力さえあれば!」

 

と、再び小さな少女に剣を向ける。

小さな少女も足元の影が揺らめき、

 

「少し前の私ならともかく、今の私にお前が敵うはずがないだろう。」

 

小さな少女の瞳が光り出す。

その圧倒的な力が足元の影を覆うように膨れ上がる。

スレイ達ですら、その光景に恐怖する。

憑魔≪ひょうま≫アシュラは一歩下がる。

小さな少女が一歩前に出た時、彼女の足元にナイフが突き刺さる。

 

「裁判者が、導師の試練に関わっていいのかな?」

「やはり来ていたか、審判者。」

 

小さな少女は上を見上げる。

そこには岩に腰を下ろして、見下ろしている仮面をつけた少年が居る。

 

「あれを目覚めさせたのは、貴様か。」

「うん。だって、呼ばれたからね……二人に。」

「……ふん。」

 

小さな少女から力が消える。

普通に戻ると、導師スレイを見て、

 

「あとはお前達で見極めろ。」

 

そう言って、消える。

否、審判者である彼の反対側の岩に腰を掛ける。

審判者は向かいに座る小さな少女を見て、

 

「彼らは気付けると思う?」

「……それを含めた試練だ。」

 

小さな少女は下で戦い始める導師達を見る。

 

 

憑魔≪ひょうま≫アシュラはスレイ達を見て、

 

「返せ!オレの剣を!返せえ――っ‼」

「みんな!」

 

スレイ達は戦闘態勢に入る。

憑魔≪ひょうま≫アシュラは剣を振るいながら、

 

「よくもオレの剣を盗んでくれたな!」

「アシュラは怒りの憑魔≪ひょうま≫です!怒りの源が憑魔≪ひょうま≫の原因のはずですわ!」

 

ライラが剣を避けながら叫ぶ。

ミクリオも詠唱が終わり、

 

「つまり、剣を盗まれたせい⁉」

「いや……それだけじゃない!」

 

スレイは剣を弾きながら言う。

なおも憑魔≪ひょうま≫アシュラは怒りながら、

 

「剣を返せ!すべてを浄化するために!」

「アシュラ、おまえは……」

「集中しろ、スレイ!全力で倒すんだ!」

 

悲しそうに憑魔≪ひょうま≫アシュラを見るスレイに、ミクリオが注意する。

しばらく剣を交え、

 

「返せ……その剣は穢れを斬る力……」

「もうやめて。人を救いたいのはわかったから。」

 

ロゼは眉を寄せ、悲しそうに叫ぶ。

憑魔≪ひょうま≫アシュラは呟く。

 

「憑魔≪ひょうま≫を……災厄を……汚い人間を斬る力……」

「人間を!こいつは……」

 

スレイは目を見張り、驚く。

憑魔≪ひょうま≫アシュラは詰め寄り、

 

「オレは!穢れを生むすべてを斬り祓う!」

「世界全部を斬るつもりだったんだ!」

「世界全部を斬るなんて、裁判者達くらいじゃなきゃできないんじゃ!」

「そうか、だから裁判者が現れたんだ。そして、あいつが裁判者に本当に願ったこと!確かに本来の想いから矛盾している!」

 

ミクリオとロゼが眉を寄せて、互いに見た。

スレイは憑魔≪ひょうま≫アシュラを見上げ、

 

「それがアシュラが憑魔≪ひょうま≫になった理由!」

 

と、スレイが叫ぶと声が響く。

 

「正解だよ。」

 

その声を聴くと憑魔≪ひょうま≫アシュラは動きを止め、

 

「この声……は……!」

 

と、辺りを見ていた。

スレイは左手の紋章が光り輝く陣を見て、

 

「力が……水の秘力!」

 

だが、憑魔≪ひょうま≫アシュラは再び動き出し、剣を振るう。

 

「うおおおおっっ‼」

「ミクリオ!」

「ああ!」

 

スレイとミクリオは頷きあう。

 

「『ルズローシヴ=レレイ≪執行者ミクリオ≫』‼」

 

二人が神依≪カムイ≫化し、矢を放つ。

その直撃を受けた憑魔≪ひょうま≫アシュラは後ろに倒れ込む。

そして、静かに呟きだす。

 

「……せ……ウ……ル……」

「まだなにか言っている。」

 

エドナがなおも戦闘態勢のまま、敵を見る。

そこに、小さな少女と審判者が降りてきた。

 

「剣を返せ……アウトル……」

「アウトル⁉」

 

ロゼも戦闘態勢のまま、その名に驚く。

小さな少女は憑魔≪ひょうま≫アシュラに近付き、触れる。

青い炎に包まれ、憑魔≪ひょうま≫アシュラは消えた。

スレイは武器をしまいながら、

 

「消えた……」

「スレイさん、まだ警戒を解かないで下さい!」

「そうだ!審判者がいる!」

 

スレイはハッとして、剣に手を掛けるが、

 

「ああ、安心して良いよ。今の俺は争う気はないから。俺が今回ここに居たのは、願いを叶えに来ただけだから。」

「願い?」

 

スレイは審判者を見る。

彼は笑顔で、

 

「そ。俺は呼ばれた。剣を取り戻す為にここから出せ、と。そしてもう一つ、導師がここに来られるように道を作ること。」

「……そうか。レイ……いや、裁判者が『あれを目覚めさせたのは、貴様か。』と、言ったのか!」

「それに道を作るっていうのは、おそらくアリーシャたちが言っていた遺跡の発見と言っていたこと!通りでタイミングがいいと思った‼」

 

ミクリオとロゼが審判者を睨みながら言う。

審判者はなおも笑顔のままだ。

そして小さな少女を見て、

 

「そして、君も願いを叶えに来た。」

「え?」

 

スレイは小さな少女を見る。

小さな少女は腰に手を当てて、

 

「ああ。導師達がこの試練をクリアできれば、あの人間の魂を浄化して欲しい、とな。」

 

それを聞いたエドナは傘を地面に叩きながら、

 

「待ちなさい!そもそも、アンタがあの導師に力を与えなければ、ああはならなかったんじゃないの‼」

「そうであって、そうではない。数多ある選択肢の一つを選んだのはあいつ自信だ。そして手に入れた力に飲み込まれ、願いと想いを見間違え始めた。」

 

小さな少女はエドナを見据える。

そこにスレイが眉を寄せて、

 

「待って!魂を浄化したのなら、なんで消えてしまったんだ。」

「スレイさん。それはあの方が、遥か昔に導師だった方だったからです。穢れを浄化しても肉体はもう……」

 

ライラは悲しそうに、拳を握りしめる。

デゼルが帽子を深くかぶり、

 

「文字どおり、怒りだけで動いていたわけだ。」

「そうだ。そして、お前達自身には私達以外の疑問も出ているはずだ。」

 

小さな少女の言葉に、ミクリオはスレイを見て、

 

「ああ、もう一つの問題はアウトルだ。本当にあいつがアシュラの剣を盗んだのか?」

「……戻ろう。本人に直接確かめる。」

 

スレイ達は駆け出していく。

小さな少女は横を見て、

 

「お前はどうするのだ。」

「待ち人が来たら、帰るよ。」

 

そう言って、歩き出した。

小さな少女も彼を睨んだ後、歩き出す。

 

スレイ達は戻りながら、

 

「アシュラが導師だったなら、ひょっとしてアウトルは……」

「はい。アシュラと契約した天族だったのかも。」

 

ミクリオの言葉に、ライラが頷く。

スレイは悲しそうに、

 

「オレと、みんなみたいな関係だったのかな……だとしたら、全部アウトルのせいだったのか?」

「だとしたら、ひどい尻ぬぐいだよ。まったく!」

 

ロゼが怒る。

が、エドナも怒りながら、

 

「でも、アイツらのせいでもある。これは変わらないわ。」

「……ですから、直接聞くのが一番ですわ。」

 

ライラが力強く言う。

スレイ達は護法天族アウトルの元に急ぐ。

 

護法天族アウトルの元に行くと、すでに小さな少女と審判者が居た。

スレイは護法天族アウトルに近付き、

 

「……アシュラは消滅したよ。」

「手間をかけた。」

 

彼は頷く。

ライラが神妙な面持ちで、スレイの後ろから、

 

「アウトル様。あなたはもしかして――」

「察しの通り。私はアシュラを導師に誘い、器とした天族だよ。」

「剣を盗んだのも?」

「私だ。」

 

ロゼの言葉に頷き、一本の剣を取り出す。

デゼルがそれを見て、

 

「普通じゃないな。」

「見ただけでわかった。」

 

エドナもそれを見て、眉を寄せる。

彼の言うように、その剣は禍々しい穢れを纏っていた。

彼は剣を見て、

 

「輝光銀と呼ばれる〝ミスリル〟の剣だ。これに裁判者の力が加わり、本当に世界を斬るほどの力を秘めている。」

「だから盗んで隠したのですか。」

 

ライラが悲しそうに言う。

そして護法天族アウトルは感情がこもった声で、

 

「そうだ。アシュラが一番斬りたかったのは私なのだろうね。」

 

そして少し悲しそうに続ける。

 

「彼は、ひたすら純粋だった。純粋故に悩み、いつしか赦す心を失ってしまった。」

 

その言葉に、ライラはスレイを見つめる。

小さな少女はそんな彼らを見つめる。

そしてスレイは悲しそうに、

 

「だから、穢れたものを全部斬るためにその剣をつくった……」

「君にならこの剣を渡してもいい。使いこなせば、秘力以上の力となるかもしれない。」

 

護法天族アウトルはスレイに剣を近付ける。

スレイは首を振り、

 

「……遠慮するよ。剣ならもう持ってるから。」

 

と、力強く言う。

ライラは嬉しそうに、

 

「スレイさん……」

「うむ。心の試練も合格だ。」

 

護法天族アウトルは嬉しそうに頷く。

すると、護法天族アウトルの後ろから笑い声が響く。

 

「アハハ!導師スレイ、君は面白い。でも、その選択は間違いだったかもよ?」

「え?」

 

スレイが眉を寄せる。

護法天族アウトルが審判者を見て、

 

「なにを言い出すんですか。これは――」

 

そして審判者が護法天族アウトルから剣を取り上げ、

 

「そう、これは導師試練。彼は導師としては合格したが……その選択が、君たちにもう一つの真実を突きつける。」

 

そう言って、後ろに目を送り、剣を投げる。

彼の見る方から聞き覚えのある声が響く。

 

「では、いらないのなら、私がもらおう。」

 

彼の投げた剣を受け取り、

 

「世界を斬る剣……我が刃にふさわしい。」

「マルトランさん……⁉」

 

スレイが目を見張り、驚く。

小さな少女も審判者を見た後、青い騎士服を着た女性を見る。

ライラが眉を寄せ、

 

「スレイさん!よく見て!」

「うそ!この人って……」

「……憑魔≪ひょうま≫!」

 

青い騎士服の女性マルトランの周りには穢れがにじみ出ている。

彼女はスレイ達を見て、

 

「以前は挨拶もせず失礼した。」

「やはり見えていたのですね。」

 

ライラは彼女を睨む。

ミクリオも警戒しながら、

 

「その剣をどうする気だ?」

「世界を斬るんだよ。アシュラの望んだ如く。」

「なぜそんな……⁉」

 

スレイは眉を深く寄せて、聞く。

彼女はスレイを見据えて、

 

「逆に聞きたいな。なぜアシュラの想いに共感しない?ここまで穢れきった災厄の世と人間は、一度徹底的に壊さねば再生できはしないだろう?これは我が主、災禍の顕主のお考えでもある。」

「あなたはかの者の……」

「こんなことアリーシャが知ったら!」

 

ライラとミクリオは視線を外す。

彼女は冷静に、

 

「傷つくだろうな。だから?」

「利用したんだね。アリーシャを。」

 

ロゼは彼女を睨む。

女性はなおも冷静に、

 

「戦争を起こすには、まず夢見がちな平和論者を暴れさせるのが効果的なのだ。皮肉なことにな。」

「それはお前自身の見解からか。」

 

今まで黙っていた小さな少女が青い騎士服の女性マルトランを見る。

彼女は目を細め、

 

「……さてな。だが、すでにハイランドとローランスの全面衝突は時間の問題となった。」

 

審判者は楽しそうに、青い騎士服の女性マルトランに近付く。

彼女は剣を振り上げ、

 

「もうあの小娘に……利用価値はない!」

「うわっ!」

 

一振りで、かなりの力が空間を斬る。

スレイはそれを避け、女性の居た場所を見る。

そこには女性も、審判者もいない。

 

「マルトランさん……」

 

護法天族アウトルは腕を組み、小さな少女を見る。

 

「やれやれ、とんだことになってしまいましたな。それとも、貴女はこうなる事を知っていたのですか?」

「かもしれんな。」

「そうですか。……導師にとって、我々より現実の方が厳しい試練ということか……」

 

護法天族アウトルは姿を消す。

そして小さな少女も風に包まれ崩れ落ちる。

ミクリオが白いワンピース服のような小さな少女を抱き上げ、スレイを見る。

 

「…………」

「ミクリオさん、スレイさんが……」

 

ライラがそっとミクリオに言う。

ミクリオはスレイを見たまま、

 

「多分アリーシャのことだ。一人で悩むなって言いたいけど……」

「どうすべきか私たちも……」

 

彼らは無言で、その場を後にする。

外に出ると、スレイはみんなを見て、

 

「……オレ、アリーシャに会いに行こうと思うんだ。」

「……わかった。アリーシャの家に行こ。スレイの判断に任せるよ。マルトランのことも。」

 

ロゼがジッとスレイを見る。

彼らはレディレイクに向かって歩き出す。


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