テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第二話 旅立ち

翌朝、スレイが外に出るとミクリオが居た。

 

「おはよう、スレイ。」

「おはよう、ミクリオ……」

 

と遠くから、

 

「ミクリオ、早く。のんびりしている暇はないぞ。」

「わかってる。すぐ行くよ。ジイジに色々仰せつかってね……しばらくは忙殺されそうだ。」

「そっか……こっちのことは気にしないで。」

 

後ろには気が付いていないが、彼女が居た。

スレイは会話をしているが、彼以外誰も居ない。

独り言を言うスレイを見て悩む。

 

ミクリオは真剣な顔で、

 

「スレイ、ジイジの気持ちも……」

「うん。わかってる。」

 

するとまた遠くから、

 

「ミクリオ!」

「じゃあ、また。」

「ああ。」

 

と、ミクリオは去って行く。

後ろを振り向くと、彼女が立っていた。

 

「あ、おはよう。よく眠れた?」

「おはよう、久々にぐっすりと眠れた気がする。」

「じゃあ、早速行こうか。ウリボアが沢山いる。良い狩場なんだ。」

「了解した。」

 

二人は歩き出す。

村の入り口の所に小さな少女が立っていた。

小さな少女は相変わらず、長い紫の長い髪がなびいていた。

それに合わせ、白いコートのようなワンピースの服も風に乗っていた。

 

「おは…よう…お兄…ちゃ…ん。…さっ…きミク兄…みん…なと…出…掛けた…。」

「おはよう、レイ。なんかジイジに色々頼まれたらしいんだ。」

「そっか…。」

 

そう言って、レイは後ろの彼女に挨拶する。

 

「…お…はよ…う…」

「あ、ああ。おはよう。」

 

レイは、ギクシャクする彼女をしばらく見た後、

 

「お…兄ちゃ…んは…ど…こ…に行…く?」

「ウルボア狩りに行くところだ。」

「…私…も行っ…て…も良…い?」

「いいけど、遠くから見てるんだぞ。」

 

頷くレイ。

 

途中、山羊≪ハイランドゴード≫の所による。

レイが近付き、山羊≪ハイランドゴード≫の頭を撫でる。

 

「こ…の前…あり…がと…う。…君た…ちの…ミル…クで…ヨー…グルト…作っ…た。…美…味…しか…った…」

 

その光景を見た彼女は、どこか驚き、安心していた。

 

「どうしたの?」

「あ、いや。何と言うか、安心してしまって。」

「?」

「あの子供は、どこか子供らしくなかったから…。何と言うか…妙に大人びていると言うか…。いや、感情に乏しいと言うか…。」

「うーん、それは言えるかもしれないね。レイはここに来た時から、ああだったから。」

「うん?スレイは生まれた時から、ここに居たのだろう?」

「うん、オレはね。でもレイは、数年前に怪我をしてここに来たんだ。その前の記憶はないみたいで、行く当てもないからここに居る。だから、オレとレイとは血の繋がりはない。でも、大切な妹だ。」

「…そうだったのか…。では、もしかしたらあの子は…」

「私…の…話?」

「え?」

 

難しい顔をしていた彼女の目の前に、レイは見上げていた。

 

「い、いや。何でもない。」

「じゃあ…あっち…。ウリボア、居る。」

「ああ、了解した。」

 

三人で、森に入って行く。

そして猪に似た生き物を見付けた。

スレイと彼女は岩陰に隠れ、レイはすぐに木の陰に隠れる。

気の陰から、二人を見守る。

 

「いたよ。ウリボア」

「あれがウリボア……」

「あいつの肉は燻製にしたら保存にも利くし、なかなかイケるんだ。皮も素材として色々使えるしね。」

「少々気の毒だが……」

「やめとく?」

「いや。現実は心得ている。それに、都では得られない経験だ。」

「なるほど。」

 

そして、ウリボアが背を向けて動き出す。

 

「今だ!いくよ!」

 

と、狩りを始める。

彼女の槍さばきを見たスレイは、

 

「すごい槍さばきだ。」

「ありがとう、君こそたいしたものだ」

 

と、次々狩っていく。

 

「よっし。もう何頭か必要だな。」

「見当たらないな。」

「よ~く探せばいるよ。」

 

と、ウリボアを探す。

レイは二人に近付き、

 

「お兄ちゃん…あっちに…いる。」

「お、ありがとう。ホント、レイは見付けるの早いな。じゃあ、行こうか。」

「ああ。」

 

狩りを行いながら、

 

「ねぇ、レディレイクまではどれくらい?」

「そうだな……2~3日というところどろう。」

「ちか!そうだったんだ。」

「だが山麓≪さんろく≫の森は深くはないのに、迷ってしまう事が多いんだ。」

「ジイジの〝領域〟の力だな……」

「ジ…イジ…の力…雷…強い…。」

「そうだな。」

 

狩りを終え、スレイの家に帰って来た。

 

彼女はベッドで休んでいた。

彼女は身を起こし、暖炉のような所で本を読んでいたスレイ。

その膝に、レイは眠っていた。

そんな二人を見る。

 

「スレイ。」

「あ、起こしちゃった?ごめん。」

「よほどのお気に入りなのだな。その本が。」

「子どもの頃から何度も読み返して――」

「――いつか世界中の遺跡を回るのが夢なんだ。天遺見聞録を読んだ者、皆がそう言う。かくいう私もその一人。」

 

彼女は嬉しそうに言う。

その声に、レイも目を擦りながら起きる。

が、嬉しそうな顔が一転、暗くなる。

 

「だが今、世界に遺跡探求の旅などという余裕はないんだ。十数年前から、世界各地は人智の及ばないような〝災厄〟に見舞われている。」

「……災厄?」

「……。」

「謎の疫病に止まらない嵐、人体自然発火……死人が歩き回ったなどと、めちゃくちゃな噂まである始末。もうしかしたら、君の妹もそう言った所から逃げてきたのかもしれないと、私は思う。」

「ちょ、ちょっと待って。なんというか……」

「信じられない?それとも面白そう?」

「あ、いや……」

「だが、事態は深刻だ。」

「?」

「災厄によって引き起こされた大陸全土の異常気象。それが原因で近い将来、作物の実りがなくなり飢餓がやってくるだろう。最大の問題は、窮した国々の間で、略奪戦争が起きるかもしれないという事。そうなってはもう止められない。」

「何か手はないの?」

「見当もつかない……伝承にすがる程……」

「だから遺跡を?」

 

ちょっとした間が出た。

 

「いいよ。無理に話さなくても。さ、オレももう寝る。おやすみ~」

 

そうして、寝に入る二人。

レイはそんな二人を見た。

そして聞こえない程の声で、

 

「世界は変わらない…。いつの世も…平和は続かない。気が付いた時には…すでに遅い。悲しき思い…抱く願いは…儚く散る…。」

「レイ?」

「…おやすみ。」

 

と、スレイの横に寝る。

レイに毛布を掛け、

 

「おやすみ。」

 

 

――翌朝。

起きた時は、横にレイは居なかった。

おそらく、ジイジの所だと思われる。

そう考えながら、外に出るスレイ。

彼女はすでに出ていた。

 

「おはよう。スレイ。」

「おはよう。」

 

そう言っていると、歌声が響いてくる。

 

「この歌は…どこかで…」

「お、レイだな。」

「あの子が?」

「ああ。良い歌だろう。」

「ああ、そうだな。心がとても落ち着く。」

「じゃ、今日は昨日狩ったウリボアから、保存食とかカバンとか色々作らなくちゃ。」

「よろしく頼む。」

「はは。そんな楽しいもんじゃないけどな。」

「さぁ、まず私はどうすれば?」

 

と、中に入っていく。

 

レイはジイジの家の岩上に居た。

歌を歌い終わると、風が気持ち良く自分を包む。

この辺り一片の風景を見ながら、昨日の彼女の話を思い出す。

 

――十数年前から、世界各地は人智の及ばないような〝災厄〟に見舞われている。

謎の疫病に止まらない嵐、人体自然発火……死人が歩き回ったなどと、めちゃくちゃな噂まである始末。もうしかしたら、君の妹もそう言った所から逃げてきたのかもしれないと、私は思う。

 

レイは空を見上げる。

 

「………。」

 

青い空を見ていた自分の瞳は違うものを映し出す。

 

――燃え盛る炎、悲鳴と恐怖が入り混じった人…そして人々からは認識されない天族。

誰もが逃げる反対側には‥‥

 

「うぅ…!」

 

レイは頭を抱える。

それに合わせるかのように、風が荒れ出す。

 

――燃える炎に交じって、穢れが充満し始める。

 

レイの息遣いが荒くなり、意識を失って後ろに倒れこんだ。

が、それを支えた者が居た。

それは、天族の老人だった。

その天族の老人は、自分の腕の中で眠っている小さな少女を見る。

 

「むぅー…。」

 

 

レイが目を覚ますと、そこは布団だった。

 

「起きたか?」

「ジイジ…おはよう…。」

 

レイは目を擦りながら、挨拶する。

 

「ああ、おはよう。気分はどうじゃ?」

「…普…通…」

「そうか…。なら、良いが…。」

 

レイは外を見る。

先程歌を歌った覚えはある。

が、その先は思い出せない。

 

「……お兄ちゃん…のとこ…行ってくる。」

「ん?そうか。」

「うん…行っ…て…きま…す。」

「ああ、行っておいで。」

 

と、布団から出ていく。

 

 

スレイの家の中に入る。

二人はウルボアの肉を焼いたり、毛皮を塗っていたりしていた。

レイはそれを手伝った。

全てが完成し、スレイと彼女は向かい合って座る。

レイはスレイの横に座る。

 

「結局すべて君らにやらせてしまったな……。」

「いいって。慣れてるし。ね、レイ。」

 

と、スレイに聞かれ、頷くレイ。

 

「おかげで明日には発てそうだ。ありがとう、スレイ。それに、レイも。」

「そう……よかった!じゃ、明日に備えてゆっくり休んでね。」

 

と、立ち上がる。

 

「オレ、ジイジに伝えてくるから。」

「私…も…行…く…。」

 

二人は、外に出ていく。

外に出て、歩きながらスレイは、

 

「もっと下界の話聞きたかったな……」

「……お兄…ちゃん?」

「ん、何でもないよ。」

 

そして、ジイジの家に入る。

 

「た…だ…いま…ジイジ…。」

「ん、お帰り。」

「ジイジ、明日出発するって。」

「そうか……出発は皆で見送ろう。客人には違いなかったわけじゃからな。」

「うん!」

 

と、ジイジも笑顔を向ける。

 

翌朝、彼女を見送る。

スレイの横にはレイもいる。

無論、彼女には視えていないが、天族達も後ろに居た。

村の入り口で立ち止まり、

 

「スレイ、本当に世話になった。無論、レイも。」

 

レイは彼女を見つめた。

 

「ホントにここまででいいの?」

「ああ。これ以上迷惑はかけられない。」

「そっか。」

「……」

「大丈夫。渡した地図通りに行けば、森も迷わないよ。」

「あ、いや、それは信用している。」

 

彼女は少し間を取って、

 

「アリーシャ。」

「え?」

 

彼女はスレイの顔を見つめ、

 

「私の名はアリーシャ・ディフダ。」

「アリーシャ……」

「君は何も言わずに、何者とも知れぬ私を助けてくれた。それに引き替え、私は我が身可愛さに名すら告げず……騎士として恥ずべき事であった。どうか……許して頂きたい。」

「そんなこと……」

「そ…れは…仕…方な…い。…人…間は…弱…い誰も…が…自…分を選…ぶ。」

 

レイは、彼女・アリーシャを見ていった。

アリーシャはそれに少し微笑み、真剣な顔をする。

 

「スレイ、私はー」

「ん?」

「私は、天族は本当に存在していると思う。天遺見聞録に記された数々の伝承はお伽噺などではないと。」

「うん。」

「今、世界中で起きている災厄……それを鎮められるのは伝承に残る存在ではないのかと。」

「導師だね。」

「……君らは笑わないんだな。都では誰もがバカにしたのに。」

「…そ…う思…うか…は自分…次第。…他…の人は…関…係な…い。」

 

レイはアリーシャの目を…いや、瞳を視ていた。

 

「そうだな。それに、オレも信じているから。」

「君は本当に気持ちのいい人だ。無論、レイも。」

 

彼女は少し間を取って、

 

「レディレイクの都ではまもなく聖剣祭≪せいけんさい≫が始まる。導師伝承をなぞらえた『剣の試練』も行う予定だ。」

 

その言葉に、レイは少しだけ反応する。

が、それは小さすぎて誰も気が付かなかった。

そしてアリーシャは、スレイを見て、

 

「スレイ。『剣の試練』に挑んでみないか。」

「え……」

 

そう言われ、スレイは後ろに居るジイジを見る。

 

「では行く。」

 

と言って、歩き出す。

 

「スレイ、今の話、考えてみて欲しい。」

「どうして……」

「伝承にある導師……それはきっと……」

 

そしてもう一度スレイを嬉しそうに見て、

 

「スレイ、君のような人物だと思うから。」

「……」

 

そして去って行った。

 

スレイは、アリーシャの去る姿を見ていた。

そんな彼の肩を誰かが掴んだ。

その人物はミクリオだった。

彼の左手には変わった短剣が握られている。

 

「これは?」

 

と、その短剣を握る。

 

「僕はジイジに言われて、あのあとずっと遺跡であの女騎士の手がかりを探していたんだ。」

「じゃあこれはアリーシャの……」

「ハイランド王家の紋章だ。」

「アリーシャ・ディフダ……ただの騎士ではないようだね。」

 

そう言っていると、後ろからジイジが二人に言う。

 

「辛いだろうがな……これでよかったんじゃ。」

 

レイの眼はある人物を視た。

その目に映る者は、黒い何かを纏っていた。

 

「…入…り…込…んだ。」

 

それはレイの小さな呟きだった。

それを聞いたジイジは何かに反応する。

そして、ジイジの表情が険しくなる。

ミクリオが何かを察し、

 

「ジイジ?」

「何者かがワシの領域に侵入してきた……」

 

そして、ジイジは片足で地面を一叩きする。

強い力で、地面に波動が伝わる。

 

「むぅ!気配を隠したか。こざかしい!」

 

ジイジは、皆に振り返り、

 

「聞け!皆のもの!何者かが侵入した!探すのじゃ!気配を隠したことからおそらく憑魔≪ひょうま≫じゃ!心して探索にあたれ!」

 

皆は動き出す。

スレイは、ジイジに言う。

 

「オレたちも行くよ!」

「うむ。憑魔≪ひょうま≫であれば事態は急を要する。頼んだぞ。」

 

スレイとミクリオは、

 

「森の方をあたろうと思うが、どう思う?」

「うん。そうしよう。」

 

スレイとミクリオが動き出す。

 

レイは森に来ていた。

実はジイジが皆に指示している時に、すでにあの場から離れていた。

 

「……。」

 

辺りを見ていると、ちょうど一人の天族に会う。

 

「…マ…イセ…ン…。」

「ん?レイか…。お前はすぐに村に帰れ。」

 

そう言って、離れようとする彼の腕を掴む。

 

「何だ?」

「ダ…メ…帰る…の…はマイ…セン…の…ほう。…この…ま…まだと…マイ…セン危…ない。」

「は⁉」

「…あ…れ…は穢…れを纏…って…る。」

「知っている。ジイジも、あれはおそらく憑魔≪ひょうま≫と言っていた。…やっぱり、お前が何かしたのか。」

「…違…う。」

 

と言っていると、レイは真横を見る。

すぐ傍に、穢れを纏った者が居た。

その者に、レイは木に叩き付けられた。

 

「うぅ。」

 

と、意識が朦朧とする。

そんな中、マイセンの方を見る。

マイセンは、敵を引き付けていた。

 

 

――マイセンは森の中にある遺跡のような砦に出た。

自身の怪我を庇いながら、ここまで来た。

と、風が吹き荒れた。

 

「どうして、そこまでして助ける。嫌っていた筈なのに…。」

「誰だ⁉」

 

マイセンは声のする方を見上げる。

声の主は、壊れた柱の上に居た。

小さな少女だ。

紫色の髪と黒いコートのようなワンピースの服を風になびかせていた。

日の光のせいで、顔は見えない。

 

「答えろ。嫌っていた相手をなぜ助ける。人間の子供と天族の子供と違い、受け入れてすらいなかったはずだ。」

「――からだ…」

 

小さな少女はマイセンを視据えていた。

 

「それでも大切な仲間だ。何より、お前とは違うからな。」

「…理屈ではそうでも、貴様自身の心はそうではないようだ。」

「何だと!」

「叶えられる願いは一つだけ。お前のその願いのどちらかだ。」

 

見えていないのに、まるで鋭い目で見られているかのような重圧がマイセンを襲う。

それでもマイセンは、力強い瞳でその者を見た。

 

「なら、決まっている。願いは―――」

 

 

しばらくして、マイセンの悲鳴をレイは聞いた。

そこに向かって走る。

 

「…マ…イセ…ン…」

「おや、さっきの…惜しいですね。あともう少し早ければ、死ぬ瞬間が見れたのに…。」

「…哀れな…人間。お前の…望む…それは叶わない。いくら…天族を…喰べて≪たべて≫…力を手に…入れても…」

「んんー?おかしなガキだ。そこで大人しくしていな。次はお前だから、さ。」

 

そう言って、マイセンの亡骸をむさぼり始める。

 

 

――同時刻、スレイとミクリオは森の中に居た。

 

「ぎぃやぁぁぁ!」

 

と、探索していたスレイとミクリオの耳に、悲鳴が聞こえて来た。

二人がその場に急ぐと、一人の天族が何者かに襲われていた。

そしてすぐ傍に、小さな少女を見付けた。

 

「マイセン⁉レイ⁉」

「おかしいねぇ。ここには主菜≪メインディッシュ≫しかないはずなんだが……また新たに二人もお出ましかい。うーん、これは順番変更だねぇ。」

 

その人物がスレイとミクリオの方を向く。

人間のような姿だが、耳や目は吊り上がっている。

いわゆる、狐のような面持ちだ。

 

ミクリオは、驚愕する。

 

「なんだこいつは……これが憑魔≪ひょうま≫だって言うのか……。ここは君が来るような所じゃない。立ち去るんだ。」

 

慎重に言うミクリオだが、その声は震えている。

それが解るかのように、相手は笑い出す。

 

「クックク、カッカッカ。小僧が生意気に。全身恐怖が丸出しになってるぜ。ほら、力んで腕もガチガチ。」

「ダ…メ…お兄…ちゃん。…そ…れ罠…」

 

が、相手のその言葉に、スレイは自分の腕を見る。

その隙を相手は、炎を出した。

その炎が、スレイの腕に襲い掛かる。

 

「うぁあ!」

 

スレイはすぐに腕の炎を消そうとする。

ミクリオがすぐに、炎を消す。

 

「スレイ!」

 

スレイは、腕を抑える。

 

「ぐふ、お前さん旨そうな匂いがするねぇ。」

「何……だって?」

「言わせるのかい……お前さんを喰いたいって。」

「ふざけるな!」

 

ミクリオは叫ぶ。

二人は戦闘態勢に入る。

 

「最初から全開だ。レイ、そこに隠れてろ!憑魔≪ひょうま≫、オレの奥義を見せてやる!」

 

二人は優勢だ。

しかし動きが硬い。

 

レイは歌を歌い出す。

それは全体に響き渡る。

それに合わせ、風が吹き出す。

すると、二人の動きは軽くなる。

対して、敵の憑魔≪ひょうま≫は苦しそうな顔をする。

 

レイは歌い続ける。

と、敵の憑魔≪ひょうま≫がこちらに来る。

そして、レイの首を絞める。

 

「「レイ‼」」

「ガキのくせに何故⁉まぁーいい、ここで死ね!」

 

と、爪でレイを斬り付けようとした瞬間、結界のようなものがレイを守る。

敵は何が起きたか解らない。

無論、スレイとミクリオもだ。

しかし、スレイとミクリオはその隙を狙って、敵に一撃を与えた。

 

「くぬ。」

「大丈夫か、レイ。それにしても、口ほどにもないじゃないか。」

「さあ、まだやんのか!」

「去れ!」

 

二人は、敵に追い打ちを掛ける。

しかし敵は、嬉しそうにマイセンの亡骸に近付く。

 

「げほっ……ダ…メ…。」

 

そして、マイセンの亡骸を食べる。

 

「な!」

「マイセン!」

 

そして敵は、再びスレイとミクリオの方を見る。

 

「こいつ……マイセンを……これが…憑魔の本当の……」

 

敵がさらに攻撃を仕掛けようとした時、

 

「去れ。邪悪なる者よ。」

「それともみんなで相手してやろうか。」

 

と、ジイジと他の皆が居た。

 

「ふん……つまみ食いにかまけて主菜≪メインディッシュ≫を逃すのは面白くない。」

 

そう言って、敵は姿を消した。

敵が消えた後、スレイは俯いた。

 

「マイセン…」

 

レイは歌を歌い出す。

それに合わせ、風が吹き、花びらも舞う。

それはまるで、彼を送るかのように…。

スレイは胸の前で、マイセンに対し、弔いを向ける。

そして、その場に居た全員が、マイセンに対し、弔いを送る。

 

「後はワシらに任せい。」

 

ミクリオは、先程の疑問をぶつける。

 

「ジイジ、さっきのキツネ人間は憑魔≪ひょうま≫だったのですか?我々と会話を交わすなんて……」

「うむ。あれは人間が憑魔と化した姿じゃ。憑かれたと言ってもいい。」

 

ジイジの言葉に、スレイの表情は暗くなる。

 

「人が憑魔に……?」

「…人…も…天…族で…さえも穢…れは…纏う。人は…欲…望に…天…族は理…性を…失う。決…して…抗…うこ…とは…出来…ない。」

 

レイは呟いた。

スレイとミクリオは、神妙な面持ちでレイを見る。

少しの間を置いて、ジイジが言う。

 

「さぁ、お前たちはさっさと戻って休め。」

「そうします。さ、帰ろう。」

「あ、うん。」

 

スレイは歩き出す。

ミクリオは、ジイジを見る。

 

「……動きはじめたのかもしれんのぉ。」

 

ジイジはミクリオに近付いた。

そして少し会話をして、ミクリオも歩いて行った。

 

レイはジイジに話し掛ける。

 

「ジ…イジ…」

「なんじゃ。」

「ごめ…ん…なさい。私の…せい…でマイ…センを…死せ…た。」

「…マイセンはお前さんを助けたんじゃ。それに、お前さんの歌のおかげで、ここに来れた。」

「……。」

「さ、お前さんも休んでおいで。」

 

レイは頷いて、歩いて行った。

 

 

――しばらくして、天族の老人の所につむじ風が起こる。

 

「お前の同胞の願いは叶えた。しかし…己が命ではなく、他者の命を選ぶとは…」

 

吹き荒れる風の中には、小さな少女が居る。

黒いコートのようなワンピースの服と髪が大きくなびいている。

風の勢いが強く、表情は解らない。

 

「…やはり、目覚めておったか。いや、まだ半分…と、言ったところか…。お前さんか、あの人間の娘を入れたのは…」

「彼の地には入れないさ。私にも盟約がある。しかし、導くことは出来る。ゼンライ、運命の和は繋がり、すでに動き出している。…お前も、決断の時だ。」

 

そして再びつむじ風が巻き起こる。

風が収まった時には、黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女少女は消えていた。

 

 

スレイは自分の家のベッドで、横になって休んでいた。。

そして、先程の憑魔を思い出していた。

 

「あいつ一体何しに……」

 

――おかしいねぇ。ここには主菜≪メインディッシュ≫しかないはずなんだが……

 

「……」

 

――主菜≪メインディッシュ≫を逃すのは面白くない

 

「まさかあいつの狙いって……!」

 

そう言って、ガバッと起き上がる。

そして、自分の横に置いたアリーシャの短剣を見た。

何かを決意し、ベッドからでる。

荷造りをして、外に出る。

 

「黙って行って……驚くだろうな。みんな。ごめん!」

 

村の入り口に向かて歩き出す。

 

入り口に着くと、後ろを振り返る。

 

「よし!」

「何が?」

 

と、真横から声を掛けられた。

 

「わ!ミクリオ⁉どうして⁉」

「抜け駆けなんてさせないさ。」

「え……」

「僕も行く。」

「ミクリオ!」

「…私…も行…く。」

「て、レイも⁉」

 

驚くスレイをしり目に、

 

「歩きながら話そう。時間が惜しい。」

 

そう言って、歩き出すミクリオとレイ。

 

「あのキツネ男の言葉……狙いはアリーシャと考えるのが自然だ。」

「ミクリオも気付いたんだ。」

「当然。さ、急ごう。」

 

スレイは、ミクリオの前に出て、

 

「ミクリオ!」

「な、なんだよ。改まって。」

「来てくれて、すげーうれしい!」

「ウソひとつつけない君じゃ、人間の中ではやっていけないだろうからね。」

 

そして二人は腕を合わせる。

レイはそれを見上げる。

 

「…私…も居…て…う…れし…い?」

「もちろん。」

 

レイは二人から視線を外す。

 

「でも、レイを連れてくのはまずいんじゃ…。それに、ジイジ…怒ってるよな。」

「ジイジは覚悟していたのさ。いつか君らが旅立つことを。」

「大げさだなぁ~。一生会えなくなるわけじゃないのに。」

「わかってるんだ、ジイジには。旅立ったら、君はもう人間の中で生きていくって。」

 

そして、ジイジのキセルを取り出す。

 

「これはジイジの……」

「人間の社会ではお金が必要だ。困ったらこれを売って足しにしろって。」

「……」

 

ジイジのキセルを受け取るスレイ。

 

「そして君に伝言だ。『自由に、自らの思う道を生きよ。お前の人生を精一杯』だってさ。それに外に出れば、レイの事も解るかもしれない。後、レイの面倒は僕らでしっかり見ろってさ。」

 

そして、ジイジのキセルを大切に包む。

そして歩き出す。

 

辺りは霧のような雲に包まれていた。

道を下りながら、進んでいく。

一番前を歩くミクリオが何かに気が付く。

ミクリオは立ち止まり、前を見る。

霧のような雲が晴れる。

ちょうど日の出も出てきている。

 

「すごい…!」

 

高い岩崖から滝が流れ出て、辺りは村しか知らない彼らにとっては神秘の宝庫だった。

 

ーー人はあまりに無力だ。

それ故、時代が窮すると導師の出現を祈る

 

スレイは嬉しそうに、駆け寄る。

 

「うわあ!」

 

目を輝せながら、

 

「これが――世界‼」

 

ーーこの後『災厄の時代』と呼ばれた時代に現れた導師の物語が開ける

 

彼らの後ろ、小さな少女が立っていた。

黒いコートのようなワンピースの服が風に乗っている。

 

「世界に対し、人も天族も弱い。それ故に、世界に生きるもの皆、救いを、導師を願う。さて、この災厄の時代に生まれし導師の器よ、お前の…いや、お前達の物語を見せて貰おう。」

 

風が吹き荒れ、小さな少女の姿は消えた。

 

彼らは森に出た。

 

「この森を抜ければ湖が見えてくる。斜面を下って行けばいいはずだ。」

「わかった!……って、やけに詳しいな?」

「まあね。この日のために情報を集めていたから。」

「こっそり⁉ずるいぞ!な、レイ。」

「…?」

「レイに振ってどうするんだ。」

 

と、森の中を進んでいく。

森を向けると、岩と川に囲まれた道に出る。

 

レイが二人に言う。

 

「…来…た…」

 

道中、狼型の魔物に遭遇する。

スレイとミクリオは、戦闘態勢に入る。

 

「こいつは狼…いや、憑魔≪ひょうま≫か!」

 

戦い終わると、

 

「いきなり憑魔≪ひょうま≫に当たるなんてついてない。……もしかしてオレらが見えてるのをわかって寄ってきてる?」

「どうだろう。まだ断定できない。」

「……ま…た来…た。」

 

何度か、憑魔≪ひょうま≫と戦闘を行った。

 

「やっぱり偶然じゃない。明らかにオレたちに寄ってきてる。」

 

憑魔≪ひょうま≫に気をつけながら進み、

 

「…あれ。」

 

レイの指さす方向に、

 

「見えた、湖だ!」

「大きな街がある!行ってみよう。」

 

近付いていくと、

 

「なんか下界に来たんだって実感してきたな~!」

「あっちこっちに目移りして、道に迷わないように。レイも、僕らから離れないようにね。」

 

レイは頷く。

スレイは、嬉しそうに自慢する。

 

「はっはっは。地図があるから大丈夫なのだよ。」

「ああ、天遺見聞録に載っていたっけ。」

「ただ古い地図だから、自分で書き足して使わないとだけど。」

 

橋に近付くと、

 

「人…がいっ…ぱい…」

「何かもめてるな。」

「ホントだ。馬車が止まってる。」

 

そう言て、橋に近付いた。


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