テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第十九話 再びハイランドへ

スレイ達は再びハイランド側へとやって来た。

フォルクエン丘陵へとやって来ていた。

ロゼが霊峰レイフォルクを見て、

 

「あの山、エドナの家だったんだって?」

「そうよ。今は人を喰らう化け物の巣だけど。」

 

エドナは真顔で言う。

それにロゼは苦笑いし、

 

「そこまで言わなくても。」

「ただの事実よ。もうワタシのことだってわからないんだから。」

 

エドナは淡々と言って、歩いて行く。

その背はとても悲しそうだった。

スレイ達は橋に向かって歩いて行く。

と、レイは橋の所に居た髪を横にロールしながら結い上げている少女を見た。

レイはスレイの服の裾を引っ張り、

 

「あそこ。」

 

スレイ達も気が付き、そこに歩いて行く。

少女は修復された橋を見つめていた。

 

「見事な修復だ。だが、これで……」

「アリーシャ!」

 

スレイはその背に声を掛ける。

少女は振り返る。

そして嬉しそうにこちらに近付いてくる。

 

「スレイ!レイ!こんなところで。ライラ様たちも?」

「もちろんですわ。」

「見えないのが寂しいけど。」

「それが普通だろ。」

 

ライラは優しく微笑み、ミクリオは腰に手を当て寂しそうに言う。

それをデゼルが腕を組み、ミクリオを見て言う。

エドナは何も言わないが、じっとその瞳は彼女を見る。

レイはスレイとミクリオの言葉を思い出し、

 

「大丈夫。アリーシャには見えてないだけで、ちゃんといるよ。」

 

と、微笑む。

そしてスレイも頷く。

少女アリーシャは驚いたようにレイを見る。

レイは首を傾げ、

 

「嫌だった?名前言うの。」

「い、いや、そんなことはない。とても嬉しいよ。ただ、以前とは比べてとても雰囲気が変わったから驚いた。」

 

アリーシャは嬉しそうに微笑む。

レイはそれにとびっきりの笑顔を向ける。

そしてロゼが手を一度くいっと振って、

 

「ども。」

 

少女アリーシャはロゼに近付き、

 

「ロゼ……だったね?王宮に出入りしていたセキレイの羽の。」

「あはは……ちゃんと話すのは初めてですね、アリーシャ姫。」

 

ロゼは頭を掻きながら言う。

少女アリーシャは笑顔で、

 

「アリーシャでかまわないよ。」

「ロゼは、オレを助けてくれてるんだ。」

 

それを聞いた少女アリーシャは眉を寄せて、

 

「従士として?」

「大丈夫。どこも悪くないよ。」

「それは私も保証する。」

「そうか。」

 

少女アリーシャは安心する。

そして少し寂しそうに、

 

「スレイの成長もあるだろうが、きっとロゼの力が優れているのだろうな。」

 

と、ロゼに優しく微笑む。

ロゼは驚き、

 

「なんかすごい誉められた!」

「ふふ、スレイに似ているからかな?」

 

二人は互いに微笑む。

が、少女アリーシャの言葉に腕を組み、眉を寄せて、

 

「それは誉められたのかビミョ―……」

「確かに!これはすまない!」

「ちょ!そこで謝る⁉」

 

スレイは眉を寄せて、少女アリーシャを見る。

それを見たレイは腹を抱えて、

 

「ぷっ、あはは!」

 

と、笑い出す。

少女アリーシャはそれを目を見開いて驚いた後、ロゼと共に笑い出す。

 

「ふふふふ!」「あはは!」

「スレイ、お喋りもいいけどここに来た目的。」

 

後ろからミクリオが言う。

後ろを見ると、ライラも手を口に当てて笑っている。

 

「そうだった。アリーシャに聞きたいことがあるんだ。」

「ん?」

 

少女アリーシャに試練神殿のことを話す。

少女アリーシャは腕を組み、指を顎に当てて考える。

 

「試練の神殿か……」

「心当たりある?」

「それかどうかはわからないが、先日、レイクピロー高地で遺跡が発掘されたと報告があった。軍の機密になっていて、詳しく場所はわからないが入り口は巧妙に隠されているらしい。マルトラン師匠≪せんせい≫が調査に向かったところだ。」

 

レイは目を細める。

そして視線を遠くに向ける。

スレイは意外そうな顔をして、

 

「マルトランさんが?」

「発見のきっかけは盗掘団の逮捕でね、彼らは何本かの名刀を持ち帰っていた。それを知った軍は、捜索で戦力が強化できると考えたのだ。」

「つまり戦争のため?」

 

ロゼは腕を組み、眉を寄せる。

そしてスレイ達も眉を寄せる。

少女アリーシャは俯き、

 

「……そうだ。」

 

と、奥の方から、騎士兵の一人が声を上げる。

 

「アリーシャ様!隊長が報告はまだかと。」

 

少女アリーシャは振り返り、

 

「……失礼した。今行く。」

 

スレイ達に振り返り、

 

「すまないが仕事の途中なのだ。ぜひまたレディレイクに寄ってくれ。無事に試練を越えられるように祈っているよ。」

「うん。じゃあまた。」

 

少女アリーシャは優しく微笑む。

スレイは頷く。

少女アリーシャは歩いて行った。

 

「ロゼ、アリーシャと知り合いだったんだな。」

「セキレイの羽は、ハイランド王家御用達だからね。それに風の骨としても会ってるし。もちろん言わなかったけど。」

「それもそうか。」

 

スレイ達は橋を渡る。

渡った先には少女アリーシャが騎士兵に報告していた。

 

「承りました。上層部にもそのように。」

 

そうして騎士兵は歩いて行く。

少女アリーシャは俯いたまま、

 

「見ての通りだよ。橋の視察を命じられたんだ。」

「嫌がらせだね。」

 

ミクリオが腕を組み、怒りながら言う。

スレイは眉を寄せて、

 

「……アリーシャ。」

 

少女アリーシャは振り返り、

 

「大丈夫だ。マルトラン師匠≪せんせい≫も助けてくれるし、まだまだ私は――」

「なんか無理してない?」

「ロゼ。」「ロゼさん。」

 

ロゼはアリーシャを見て言う。

そんなロゼにレイとライラは困り顔をし、エドナは呆れた目を向ける。

それに気付いたロゼは、

 

「ごめん。あたしが言うことじゃなかったね。」

「……いや、その通りなのだろう。いくら気を張ったところで戦争は止められない。毎日逃げたいと思っているよ……」

 

スレイ達は無言になる。

レイは少女アリーシャを見上げる。

その瞳はずっと彼女を映している。

だが、俯いていた少女アリーシャ顔を上げ、

 

「でも、その度に足を止めるんだ。『騎士は守るもののために強くあれ。民のために優しくあれ』。師匠≪せんせい≫が教えてくれた言葉が。」

 

少女アリーシャは力強い瞳でそう言った。

レイはその瞳を見て、少し瞳を揺らした。

そして目を閉じ、胸に手を当てて優しく微笑む。

ロゼは明るく、

 

「それが矜恃なんだね、アリーシャの。」

「意地っ張りなだけかもしれないが。」

 

二人は見合う。

レイはそれをじっと見つめる。

そしてロゼは腰に手を当て、

 

「なら、ミクリオと似てるかもね?」

 

と、ロゼはミクリオを見る。

少女アリーシャもミクリオが居るであろう方向を見て、

 

「それは誉められた気が……」

「するでしょ?」

 

レイが二人を見上げて言う。

その顔は真顔だ。

二人はそれを見た後、見合って、

 

「「はははは!」」

 

と、笑い出した。

後ろではミクリオが腕を組み、

 

「僕をオチに使わないでくれ!」

「お兄ちゃんよりはマシでしょ、ミク兄?」

「オレより⁉」「レイ⁉」

 

二人は目を見開いて驚く。

エドナがレイの頭をポンポン叩き、

 

「よくわかってるわね、おチビちゃん。」

「くだらんな。」

 

デゼルが呟く。

エドナはデゼルと睨み合う。

その後少女アリーシャは笑いを止め、表情を戻すと、

 

「さて、私は行くよ。みんな元気で。」

「アリーシャも。」

「またね。」

 

スレイとロゼは少女アリーシャに別れを告げる。

レイは少女アリーシャの手を握り、

 

「アリーシャはアリーシャの信じた道を進めばいい。例えその先にあるのが後悔や裏切り、望まぬ結果だったとしても。きっとアリーシャなら乗り越えられる。アリーシャは一人じゃない。その時支えてくれてる友がいるから。今はわからなくても、ね。」

「レイ……そうだな。私は頑張るよ。」

 

スレイ達を見て頷き、彼女は歩いて行く。

少女アリーシャが去った後、ロゼはレイを見下ろし、

 

「そういえば、レイって時々スパッと人の未来予知っぽいものを言うよね。なんで?」

 

スレイ達もレイを見る。

レイは腰に手を当て、左指を顎に当てる。

その後ロゼを見上げ、

 

「この世に生きるものはみんな、本みたいな感じだからかな。」

「本?」

「ん。生き物は生まれたその時から一ページ目が綴られる。それは最後のページまで隅々まで道のように物語が書かれてる。でも、それは木の枝のように、分かれ道のように多くの選択肢が描かれている。その人次第でその先の未来は固定され、変えられることもある。ページを変えるように簡単に変えられる道と戻せない道のように。」

「えーと、なんとなくわかった。」

 

ロゼは頭を掻きながら言う。

レイは目をパチクリした後、スレイを見上げる。

 

「それでこの後はどうするの?」

「ん~。一度、レディレイクに行こっか。イズチに戻る選択肢もあるけど、まずは休もう。」

 

スレイは腕を上げて、伸びをする。

そして一行はレディレイクに向かい、歩き出す。

ロゼは思い出すように、

 

「……アリーシャも一緒に行きたいんじゃないかな。ホントは。」

「え?」

 

ライラがロゼを見る。

ロゼは腕を組み、首を摩り、

 

「なんとなくそう思って。ね、前はアリーシャがスレイの従士だったんだよね。なんで別れちゃったわけ?」

「えっと……別れたっていうか、アリーシャには夢があって……」

 

スレイは腕を組んで眉を寄せて、説明する。

エドナは真顔で、

 

「行きたかったのは本当だと思う。」

「だけど、アリーシャは相性が少し悪かった。」

 

レイも、空を見ながら歩きながら言う。

そしてエドナは、真顔のまま言う。

 

「そう。おチビちゃんの言うように、アリーシャの霊応力は特別というほどじゃなかったから。」

「反動で見えなくなってしまったんだ。」

「スレイさんの目が。」

 

ミクリオとライラが続けて悲しそうに言う。

 

「そっか……それで……今は?まさか隠してないよね?」

「なんともないよ。ホントにホント。」

 

スレイは腰に手を当てて言う。

レイはロゼを見上げ、

 

「それは本当。私も言い切れる。ロゼの霊応力は普通の人間より強い。」

「はい。神依≪カムイ≫化まで可能とするロゼさんの霊応力は導師に匹敵するほどですから。」

 

ライラもロゼを見て、優しく微笑む。

ロゼは改めて納得する。

 

「そうなんだ……。あたし、自分の霊応力に感謝しないとね。うん。」

「感謝……か。」

 

それを聞いたデゼルは一人背を向けて呟く。

レイはそれを横目で見る。

そして視線を戻す。

と、スレイは不安そうに、

 

「そういえば、アリーシャの反逆容疑は解けたんだよな?」

「ああ、戦争の時の『スレイが協力すれば』ってヤツね。あの様子なら大丈夫なんじゃない?アリーシャの屋敷の様子を見れば、もっとはっきりするかもしれないけど、行ってみる?」

 

スレイ達はレディレイクに向かって歩き出す。

ロゼは歩きながら、

 

「ね、アリーシャと旅してた時ってみんなどんな感じだったわけ?」

「少なくともツッコミ疲れはしなかったね。」

 

ミクリオは真顔で言った。

レイは首をかしげる。

そしてそれを聞いたロゼは驚きながら、

 

「え⁉ライラが口をきかなかったってこと?」

「……誰かロゼさんに鏡を。」

 

ライラが祈るのように手を握り、そう言った。

レイは納得し、

 

「多分、見せても変わらないと思う。」

「ですよね。」「えぇー⁉」

 

ライラは肩を落とし、ロゼはさらに驚いた。

そんなこんなでレディレイクに入る。

入った瞬間、レイは耳を塞ぐ。

 

「レイ?」

「何でもない。」

 

レイはスレイの手を握る。

スレイ達は少女アリーシャの屋敷に向かうことにした。

貴族街に入ってすぐ、人だかりができていた。

そこに向かうと、一人の少年を囲む騎士兵と人々。

 

「小僧!観念しろ!現行犯だ!」

「くそ……」

「この声は……」

 

スレイは子供の声に聞き覚えがあった。

そしてレイもその人混みの中を見据える。

その視線の先にはゴブリン姿の憑魔≪ひょうま≫が居た。

 

「憑魔≪ひょうま≫!」

 

ロゼはすぐに反応した。

スレイはロゼを見て、

 

「浄化しよう。」

「うん。」

 

スレイ達はその人混みの中へ入って行く。

レイは小声で、

 

「浄化した所で、変われる人間と変われぬ人間が存在する。さて、あの人間はどちらだろうか……」

 

人混みの中に入ると、騎士兵はイラつきながらスレイを見る。

 

「何か?導師、殿。」

「その子、任せてもらえませんか?」

 

スレイは騎士兵を見て言う。

だが、騎士兵は首を振り、

 

「それはできませんな。スリは現行犯じゃないと捕らえられん。」

「けど……その子は――」

「……罪を犯して捕まったら罰を受ける。当然子供でもね。」

 

眉を寄せるスレイの後ろから、ロゼが腕を組んで厳しい口調で少年≪憑魔≫を見て言う。

騎士兵も少年を見て、

 

「このガキにはその覚悟がなかったって訳だ。」

 

少年≪憑魔≫は黙り込む。

そこにロゼの明るい声が響く。

 

「衛兵さん!この子連れてく前にちょっとスレイに任せてみない?お仕置きよりも導師の言葉の方が、この子を更生させるきっかけになるよ、きっと!」

「無意味なことだ。」

「ちょっとぐらいいいじゃん!その子とスレイが話すの、何か都合が悪いわけ?」

「そういう事を言ってるんじゃない!時間の無駄だと言ってるんだ!」

 

ロゼと騎士兵は言い争いになる。

レイはスレイの手を放し、騎士兵を見上げる。

 

「なんだ?」

「罰を受ける覚悟は、あなた自身にもあると思うけど?」

「は?」

 

レイはロゼを見る。

ロゼは頷き、腰に手を当て、

 

「……さっきこの子は犯した罪の罰を受ける覚悟が無かったって言ったよね。その子の言うように、衛兵さんも、ちゃんと覚悟してる?」

「なに?」

「こちとら世界中を旅してる商人だよ。スリが全然減らないワケ……知らないと思ってる?」

 

ロゼは騎士兵を睨む。

騎士兵は何か思うことがあるのか、戸惑いながら、

 

「へ、へへ……そうか……いくら欲しい?」

「見損なわないでよね!セキレイの羽は信用第一がモットー!スレイ、こいつも牢屋行き決定!」

 

と、スレイに大声で言う。

騎士兵は今度は怒りながら、

 

「ふ、ふざけるなよ!小娘!」

「ふざけているのは、あなたの方だ!」

 

レイの赤く光る瞳が、騎士兵を貫く。

騎士兵は一歩下がる。

そしてスレイも騎士兵を見て、

 

「そうだよ、ふざけてるのはそっちだ。」

「……導師!」

 

恐怖をスレイへの怒りに変える。

レイはその赤く光る瞳を少年≪憑魔≫に向ける。

少年≪憑魔≫は走り出す。

それを見てロゼが、

 

「あ、こら!ちょっと!待て!スレイ!」

「うん。行って。」

「おっけ!」

 

ロゼは少年≪憑魔≫を追う。

そしてそれをデゼルがすぐに追う。

 

「ちっ!世話の焼ける!」

「スレイさん、私も行きますわ。」

「あの子の浄化、頼んだよ。」

 

ライラが二人の後を追う。

レイは騎士兵に視線を戻す。

騎士兵はスレイを見て、

 

「導師と言えど公務の邪魔は許さんぞ。」

 

スレイは黙って騎士兵を見る。

と、周りに居た人々が、

 

「いい加減にしろ!衛兵!あんたのがおかしいって俺でもわかるぞ。」

「そうだ!それでも衛兵か!」

「あんた、あたしらが見てる前で言い面の皮だね!」

「この不良衛兵!」

 

と、騎士兵に声を上げる。

騎士兵は黙り込む。

レイは視線を外し、スレイを見る。

ミクリオもそれを察し、

 

「ここはもういいだろう。ロゼ達を追おう。」

「あ、うん。わかった。」

 

スレイ達はロゼ達を追う。

ロゼ達の元に付いた時には少年≪憑魔≫は浄化されていた。

 

「ふぅ。」

「みなさん。」

「終わったな。」

 

スレイはホッとするが、ロゼは腕を組み、

 

「どうだろう……」

「気になるのならこのガキの根城を見つければいい。」

「しかし、どうやって?」

「案内させるのさ。」

「そうか、泳がせて尾行だね!」

「なるほど……」

「よし。スレイ、ロゼ、レイ、隠れて。この子の目を覚ます。」

 

ミクリオがスレイ達に言う。

スレイ達は頷き、隠れる。

ミクリオが少年に近付く。

エドナはそれを見て、

 

「勝手に進んでるけど……いいの?ライラ?」

「そうですね。尾行までなら……」

 

ライラはそっと呟く。

スレイは一瞬俯く。

レイはそれをそっと横目で見る。

そしてミクリオは少年に水をかける。

 

「う……」

 

少年は起き、立ち上がる。

そして辺りを見渡して、走っていく。

ロゼはすぐに、

 

「行こ!」

「ああ。」

 

追いかけながらスレイは、

 

「あの子、もうスリはしないんじゃないか?浄化できたんだし。」

「ん~。そうとも限らないんだよね。スリも組合があるって話だし。」

「そうなのか⁉」

「あの子が単独犯か組合に上納してるか……確認しなきゃ。」

 

少年は再び貴族街にやってきた。

スレイは眉を寄せ、

 

「ロゼ、さっき言ってたスリが減らない訳って……?」

「取り締まる側が見逃して時々上がり巻き上げてんの。そんで用済みになったら上役への点数稼ぎに捕まえて牢屋行き。さっきのはきっとそれね。」

「そんな事が……」

「レイもそれを知ってたんでしょ。」

「あの人間は欲と嘘にまみれた。よくある人間像だけど。子供の方は裏切りと後悔があった。でももう戻れない所までいっていた。前の時よりも。だからきっと、根を取らないと何も変わらない。例え、浄化しても。」

 

少年は隅の屋敷へと入っていた。

 

「あ!入ってく!」

「……貴族の屋敷?」

「どう見てもあの子の家じゃないな。」

「……これはスリ組合の線かもね。」

「ここがその拠点ってワケだな。」

「おチビちゃんの言うように、また何かやらかしそうね。あの子。」

「もう~しょうがないな~。」

 

ロゼは頭を掻きながら言う。

が、ライラが落ち着いた声で、

 

「ロゼさん……残念ですが、これ以上は……」

「完全に人間社会の問題って言いたいんだね。」

「……わざわざ導師が関わる問題ではないかもしれない。」

 

その場は無言へと変わる。

しかしロゼがスレイを見て、

 

「ごめん!あの子ひとりでやってんなら本人の問題かなって割り切る事もできるけど。組合にやらされてるかもしれないんなら話は別。ちゃんと確認したいんだ。」

「やっぱりそうなるわよね。」

 

エドナが傘をクルクル回しながら言う。

ライラはスレイとロゼを見て、

 

「……わかりましたわ。みんなで確認しましょう。」

「いいの⁈」

 

スレイはライラを見る。

そしてロゼは指をパチンと鳴らす。

レイは小さく微笑み彼らを横目で見上げる。

ライラは真剣な表情で、

 

「ただし!確認だけです。スレイさん、ロゼさん。導師と従士の力はお二人の気持ちとは関係なく人の世、心に、強く影響する事がある得る……忘れないでくださいね。」

「わかった。」

「ここに出入りしてる人の確認だけにするね。」

 

そしてしばらく物陰に隠れて屋敷を見張る。

それは数日の間に渡った。

 

「……飽きた。」

「数日間なんの動きもないとは考えてもなかったな……」

「あたし見てるから、宿で待っててもいいよ。」

「大丈夫だって!」

 

スレイはロゼに頷く。

と、ずっと屋敷をジッと見ていたレイが、

 

「動き出した。」

 

その表情は悲しそうだ。

ミクリオもそれに気づき、

 

「静かに。誰か出てくるぞ。」

 

屋敷から出て来たのは子供達だった。

それを見たデゼルが、

 

「ガキばっかじゃねぇか。」

「あの子たち……スリをやらされてたんじゃなかったのか?」

 

ロゼは腰に手を当て、考え込む。

そしてデゼルも、

 

「ここまで付き合ったんだ。最後まで見届けろ。」

「デゼル?」

「ガキどもを追え。屋敷の中は俺が確認しておく。」

「サンキュ。」

 

デゼルは屋敷に向かって歩いて行く。

その背に礼を言う。

エドナは傘をトントンしながら、

 

「しょうがないわね。」

 

子供達の後を追う。

子供達は歩きながら、盗みの算段を話し出す。

 

「いいか、でかい物狙うんじゃないぜ。金か宝石だけ狙うんだ。」

「ホントにそんなのあるわけ?」

「導師ってのがなんかしたみたいでさ、聖堂に寄付とか結構入ってんだって。」

「へぇ、司祭は子供に甘いし楽そうじゃん。やばくなったら泣きゃいいんだし。」

「きゃは♪それなら得意ぃ。」

「なぁ、やっちゃっていいだろ。」

「カモじゃなかったら良いんじゃない?」

 

それを聞いたミクリオは、

 

「これが子どもの言う台詞か……?」

「……時代の闇……」

「……」

「あの子たち、穢れがほとんどない……」

「子供の無邪気さは穢れた大人より残酷な事もある……そんなところね。」

 

そうして歩いていると、デゼルが戻ってくる。

 

「おい。」

「あ、デゼル。どうだった?」

「あの屋敷は空き家だった。ガキどもが勝手に根城にしてたんだろ。」

「じゃあやっぱりあの子たちだけで……」

 

スレイ達が聖堂の裏口へと回る。

 

「よし、ひと稼ぎいくぜ。」

 

子供達はやる気満々だ。

それを見て、スレイは肩を落とす。

 

「はぁ……」

「……大体飲み込めたし、衛兵に通報して終わりにするか?あの子たちは憑魔≪ひょうま≫じゃない訳だし。」

「……いや。」

「見過ごせない。」

「そうだよな。」

 

スレイとロゼは頷き合う。

だが、その前にレイが子供達方に歩いて行く。

スレイも出そうになるが、ロゼに止められる。

そうしている内にレイが、リーダー格の少年に話し掛ける。

 

「ねぇ。」

「あ⁉なんだ⁉」

「今からやることになんの意味も持たない。それでもやるの?」

「うるせいな!」

 

リーダー格の少年がレイを押し飛ばす。

レイは尻餅を着く。

スレイとミクリオがムッとする中、ロゼがそれを止める。

レイは座り込んだまま、子供達をジッと見つめる。

子供達は一歩下がり、

 

「い、行くぞ!」

 

そこに、しびれを切らしたスレイが声を掛ける。

 

「君たち!泥棒なんてやめるんだ。」

「クソ!新手か!なんだよ!オレ、なんにもしてねえだろ!」

 

他の子供達は二手に別れて逃げる。

スレイはレイを起こす。

そのリーダー格の少年にロゼは腰を当て、

 

「もうわかってんのよ。全部。身寄りがない不幸な子どもを演じて、司祭さんから盗み働こうなんて悪知恵がすぎるっての。」

「証拠はあんのかよ!」

「この人は導師。その言葉こそ証拠だよ。」

「そんなのギショウだ!エンザイだ!」

「真っ当に生きてるこのスレイはね、ちゃんと信頼されてんの。アリーシャ姫とか街の色んな人に。アンタはどうなの?信頼されてるワケ?」

 

少年は黙り込む。

 

「観念しな。」

「仕方ないじゃないか!そこのそいつと違って、大人がオレたちを見捨てたんだ!生きてくためには泥棒でもするしかねぇだろ!」

 

と、レイを指差す。

レイはジッと彼を見つめる。

スレイはロゼを見て、

 

「ロゼ……やっぱり……」

「さ、スレイ、衛兵に突きだそ。」

 

少年は衛兵に連れて行かれる。

スレイはブルーノ司祭に声を掛ける。

それを話すと、ブルーノ司祭は悲しそうに、

 

「年端もいかない子どもたちがそんな悪質な窃盗を企んでいたとは……」

「……他の子たちは?」

「それぞれ衛兵に逮捕され、連行されました。」

「そっか……」

「子どもでも罪を犯して捕らわれたら罰せられる。当然なのですが……いたたまれません。」

「うん。」

 

スレイは悲しそうに頷く。

そしてレイはそれを見上げ、俯いた後、再び顔を上げる。

 

「お兄ちゃん、あれ。」

「え?」

 

スレイ達はレイの指差している方を見る。

それは光り輝く石だった。

スレイ達はそこに行き、

 

「これ……大地の記憶じゃないか!」

「それは……街の片から寄付された品のひとつですね。珍しい物のような気がして換金するのをためらっていたのです。」

「おお!ナイスだよ!司祭さん!」

「へ?あ、はぁ。」

 

喜ぶロゼに、ブルーノ司祭は困惑する。

スレイがブルーノ司祭を見て、

 

「ブルーノ司祭、オレ達、これを探してたんだ。」

「だからさ、譲ってくれない?もちろんちゃんとお金払うよ!」

「いえいえ!お代なんて!導師殿の旅路に必要なものなら、是非お持ちください。」

 

ブルーノ司祭は手を振ってそう言った。

そしてスレイを見て、

 

「きっと寄付してくださった方も導師殿の役に立てたとしれば喜んでくださいます。」

「ありがとう。ブルーノ司祭。」

 

スレイは礼を言って、瞳石≪どうせき≫を持つ。

瞳石≪どうせき≫は光り出す。

 

――斜めに建っている塔が見える。

森のとは違う広い高原。

そこに五大神マオテラスの加護の元、多くの導師達が戦っていた。

その先には大量の憑魔≪ひょうま≫の大群。

その憑魔≪ひょうま≫を次々と浄化していく。

 

スレイは腰に手を当て、

 

「あんなにたくさんの導師が浄化の力を振るってたんだな、昔は。」

「それが、なぜかいなくなってしまったんだろう?」

 

レイはスレイ達から視線を戻す。

ライラはスレイ達を見て、

 

「……なぜだと思われますか?」

 

スレイは腕を組み、

 

「導師の存在がマオテラスと関係していたとすると……」

「マオテラスが失踪したから導師も消えた。」

 

ミクリオも腕を組み言うが、それをエドナが傘をクルクル回しながら、

 

「そう決めつけるのは早計じゃない?」

「じゃあ、他にどんな可能性があると思う?」

 

スレイはエドナを見て聞く。

その言葉にレイは悲しそうに俯く。

エドナは傘をクルクル回すのを止め、スレイをじっと見つめて、

 

「例えば、導師が居なくなるほど人が天族を信じなくなったせいかも。」

「大勢いる時代の方が異常だったのかもしれなんな。」

 

デゼルが遠くを見るように言う。

ロゼも腕を組み、

 

「スレイみたいのしか導師になれないとしたら、お人好しが減ったからとか。」

「う~ん……可能性は山ほどあるか。」

「コツコツ情報を集めていくしかないね。」

「はい。そうすれば、きっと答えに辿り着けますわ。」

 

スレイとミクリオは互いに見合って言った。

そしてライラも笑顔を向けていうのであった。

レイはそれを悲しそうに横目で見た。

 

「……人は変わる。それは天族でさえも。」

 

その後スレイ達は天族ウーノに話し掛けた。

 

「ウーノさん!」

「導師。久しいな。」

「だれ?」

 

ロゼは首を傾げて言う。

スレイはロゼを見て、

 

「このレディレイクの加護をしてくれてる地の主のウーノさん。で、ウーノさん。オレの新しい仲間のエドナに、ロゼ、デゼル。」

「ども。」

 

ロゼは手を上げる。

天族ウーノは頷き、

 

「私はウーノだ。」

 

と、天族ウーノは自分を見つめる小さな少女に気付く。

天族ウーノはレイを見下ろし、

 

「君も久しいな。」

「よっぽどこの街が好きなんだ。」

「え?」

 

レイは窓際に歩いて行った。

外を見る小さな少女の姿は昔見た彼女にそっくりだった。

だが、一つ違うのは悲しそうに外を見るその瞳だった。

 

「どうかしたの?ウーノさん?」

「いや、なんでもない。で、何の用だ。」

「いえ、ここに立ち寄ったので、いつぞやの話をしようかと。」

「あ!じゃあ、あたしは司祭さんと話があるから。」

「ならオレも、そっちに行く。また後で、ウーノさん。」

 

ロゼとスレイは歩いて行った。

その後ろに、デゼルが付いて行く。

ミクリオはライラを見て、

 

「なら僕は、レイの所にいるよ。」

「わかりましたわ。エドナさんはどうします?」

「ワタシはアンタの話とやらを聞いてあげるわ。」

「そうですか?では……」

 

ライラは手を合わせて、思い出すように語り出す。

 

「私があの方と会ったのは、本当に偶然です。風に乗って歌声と笛の音が響いていて……私たちはそこに行ってみたのですわ。そしたらあの方たちがいました。」

「って、アイツの話……」

「やめます?」

「いいわ。聞いてあげる。」

 

エドナは傘を肩でトントンする。

その表情はいまいち微妙と言う感じだ。

ライラは手を合わせて、思い出すように続ける。

 

「では……あの方たちは私たちを見て、普通でした。しかし、彼の方は意外そうな顔で私たちに話し掛けたのです。」

 

ライラはその時のことを思い出す。

 

ーー自分の目の前には花畑が広がっていた。

風に乗って、誘われたその先には綺麗な歌声に合わせて、笛の音が奏でられる。

そこには仮面をつけた二人。

一人は長い紫色の長い髪を結い上げ、コートのようなワンピース服を、もう一人も長い紫色の髪を結い下げ、コートのような服を風になびかせている。

髪を結い上げているのは少女の方で、興味なさそうにこちらを見ている。

髪を結い下げているのは少年の方で、彼女とは対照的にとっても表情豊かだった。

少年が笑顔で話しかけて来る。

 

「やあ、こんにちは。俺たちを見つけるなんて、よっぽど耳が良いのか――」

 

彼は目を細め、小さい声で笑みを浮かべる。

 

「それとも霊応力が強いのか。ま、どっちでもいいか。」

 

と、話しかけている内に、もう一人の方が歩いて行く。

それを見た少年は、

 

「え⁉ちょ、ちょっと待って!」

 

少年は少女を追いかける。

が、途中で振り返り、

 

「また、会えたら会おうね~。」

 

と、手を振っていた。

ライラはその状況が飲み込めぬまま、その場に少しいた。

しばらくたったある日、ライラはあの時の少女に会った。

彼女は、あの時と変わらぬ仮面の下からでも解る興味のなさそうな顔で、自分を見る。

だが、ライラは首を振る。

自分を見ることはおそらくできないのだから。

それでもライラは口に出していた。

 

「貴女はあの時の……」

「こんなの所に居ていいのか、主神。」

「え?」

 

ライラは眉を寄せる。

彼女は自分を見てそう言ったのだ。

しかも〝主神″だと。

 

「お前の器の導師は、この先困難にぶつかる。それは世界を覆うほどの後悔と絶望、そして悲しみだ。」

「……それは――」

「どの導師も直面すると言いたいのだろうが、今回は今までとは少し違う。数多の導師達がそうであったように、あの導師自身が災厄を呼ぶ。お前はそれを変えようとしても、気付いた時には遅い。」

 

そう言って、彼女はあの時と同じくさっそうと歩いて行く。

彼女は小さい声で、

 

「お前が望むのであれば、私はお前に力をやろう。」

 

戸惑っていた自分の後ろから、明るい声が響く。

 

「あれ、あの時の主神さんだ。今日は一人?」

「え、あ、はい……」

「元気ないね。どうかしたの?」

 

ライラは悲しそうに俯く。

だが、気持ちを切り替え、

 

「いえ、なんでもありませんわ。それより、あなた方は同じ天族の方なのですか?」

「ん?ああ、違うよ。主神さんは覚えていないかもだけど、俺らは君と何回か普通に会ってるよ。確か、ノルミン天族と旅している時とその前くらいだったかな?」

「え?えぇ⁉」

 

ライラは口に手を抑えて目を見開く。

少年は手を振って、

 

「じゃ、そういうことで。」

「どういうことですか⁉」

「あはは。」

 

少年は楽しそうに、笑いながら歩いて行った。

 

ライラは笑顔で、

 

「と、言う感じですわね。」

「「…………」」

 

二人は無言となる。

エドナは傘の先を床に着く。

 

「なんというか、アイツも審判者も昔から変わらないのね。」

「私は審判者とは直接話してないから何とも言えないが、裁判者はそんな感じであった。」

 

天族ウーノは腕を組み、首を縦に頷く。

 

 

レイは窓際で外を見ていた。

外の人々を見るたびに、レイは眉を寄せる。

そこにミクリオが来たのがわかった。

 

「ミク兄……」

「レイ。スレイとロゼとデゼルはブルーノ司祭の所。ライラとエドナはあそこでウーノと話している。」

「そう……」

 

ライラ達の方を見ると、ライラが手を合わせて話し込んでいる。

レイはミクリオを引っ張り、

 

「ミク兄、そこに座って。」

「ん?……わかった。」

 

レイはミクリオを階段に座らせる。

そのミクリオの足の間にレイも座る。

レイは背をミクリオの胸に預け、

 

「……あの人間の子供は私を見て、自分は大人に見捨てられたと、生きるためにやっていると言っていた。でも、そもそも私には人間の言う両親と言うものを知らないし、持ったこともない。」

「レイ……」

「でも、イズチのみんなと過ごして家族を……ジイジやお兄ちゃん、ミク兄と触れ合って、親や兄妹と言うものを理解できた。ライラやエドナ、ロゼにデゼル……それにアリーシャや他の人と関わって、関わりと言うものを理解できた。お兄ちゃん達といると嬉しいとか、楽しいとか、そう言った……正の感情?と言うものをたくさん理解できたと思う。その反面、他の者達からの悲しいとか、辛いとかそう言った負の感情が凄く解るようになった……」

 

レイはミクリオを見上げ、

 

「だからこそ最近は……ううん、何でもない。」

 

そう言ってレイは俯く。

そしてミクリオには聞こえない声で、

 

「きっと裁判者と審判者は、互いに一緒に居たから支え合えていたんだ。それこそ、この世界における親、姉弟兄妹≪きょうだい≫、家族、仲間、親友、色々な意味で……」

 

と、そこにライラ達が近付いてくる。

レイも顔を上げ、

 

「もう話はいいの?」

「ええ。」

 

ライラは笑顔を向けて言う。

レイはライラ達を見たまま、

 

「お兄ちゃんが来るまで――」

 

レイは話し途中に眉を寄せ、耳を塞ぐ。

そしてミクリオの胸に顔を埋め始めた。

ライラ達が首を傾げてると、聖堂に多くの人が入って来た。

 

「混んで来たわね。」

「そうですわね。外へ出ましょうか。」

 

エドナとライラが周りを見て言う。

ミクリオはレイの手を引き、立ち上がる。

天族ウーノはライラ達を見て、

 

「では、導師が来たら、私の方から言っておこう。」

「お願い致しますわ。」

 

ライラ達は聖堂の入り口に向かう。

が、人混みに飲まれ、レイとミクリオの繋いでいた手が離れる。

レイはそのまま外へ追い出される。

レイは眉を寄せ、耳を塞ぎながら人混みを避けるが、

 

「うぅ……」

 

その場にしゃがむ。

と、誰かが自分を抱き上げる。

そしてレイの顔を胸に押し込み、

 

「今の君に、この人混みは辛いでしょ。今は俺に集中すればいいよ。だから今はお休み。」

 

レイはその声に耳を傾け、そのまま眠った。

 

 

レイと手が離れたミクリオは、レイを必死に探していた。

無論、ライラやエドナも探している。

そこにスレイ、ロゼ、デゼルが合流する。

 

「ミクリオ!」

「スレイ!実は――」

 

ミクリオは簡単に今の状況を説明する。

ロゼは腰に手を当て、

 

「この人混みじゃ仕方ない。急いで、レイを探そう!」

「ああ!」

 

スレイ達は聖堂を出て、入り口近くを探す。

だが、レイの姿は見当たらない。

そこに声が響く。

 

「スレイ。」

 

スレイがそちらに振り返ると、黒いコートのような服を着て、長い紫色の髪を揺らしながら歩いて来た少年。

その少年の腕の中にはレイがうずくまっていった。

スレイ達は少年に駆け寄り、

 

「レイ!……ゼロが見つけてくれたんだ、ありがとう。」

「別にいいよ。でも、ここから離れようか。」

「え?」

「ここじゃ、この子の負荷が大きいから。」

 

と、レイを抱えたまま、人混みの外へと歩いて行く。

スレイ達もその後ろに付いて行く。

周りに人が居なくなると、少年ゼロはスレイに振り返り、

 

「じゃあ、はい。でも、これからは気をつけた方がいいよ。」

「ああ。」

 

スレイは寝ているレイを受け取る。

と、ロゼが腕を組み、

 

「ん~、なんか納得いかん!」

「何が?」

 

少年ゼロは腰に手を当て、ロゼを見る。

ロゼは眉を寄せ、

 

「あたしが、レイを抱えた時は起きたんだけどな……」

「俺の場合は寝た、かな。」

「もっと、納得いかーん‼」

 

と、両腕を上げた。

少年ゼロは笑みを浮かべ、

 

「じゃあ、ロゼより俺の方が仲がいいって事だね。」

「ええ⁉」

 

ロゼは肩を落とす。

少年ゼロはスレイを見て、

 

「でもホント、気をつけた方がいいよ。今のその子は感じやすいみたいだから。……特に感情というものに。」

「ゼロ?」

 

少年ゼロは鋭い目付きなる。

が、すぐに笑顔になり、

 

「レイは人混みとか苦手だろ、多分。」

「あ、ああ……。でもそうだな。レイのことも、ちゃんと守らないとな。」

 

そう言ったスレイを、少年ゼロは一瞬怖い目つきになる。

その一瞬の変化に気付いていないのは、寝ていたレイとそのレイを見ていたスレイだけだった。

ロゼは腰に手を当て、横目で少年とレイを見る。

そこであることに気付き、ロゼは少年を見ながら、

 

「ねぇ、ゼロは兄妹とかいる?」

「ん?……いるよ。生まれた時から一緒にいる子が、ね。今はお互いに別々だけど。」

 

スレイが思い出すように、

 

「じゃあ、ゼロの探しものってその子?あれ、でも半分って……」

「そ。あの子の痕跡を半分見つけたんだ。だから半分。」

「そうなんだ。」「へ~……。」

 

スレイは頷くが、ロゼは眉を寄せる。

少年ゼロはロゼを見て、

 

「でも何で?」

「ん~とね、なんとなく?」

「はは、ロゼは面白いね。」

「スレイの間違いじゃない?」

「そうかも。」

「えぇー。」

 

二人は笑い合う。

スレイは眉を寄せ、二人を見る。

少年ゼロはスレイを見て、

 

「いやー、ごめんごめん。」

「そういえば、ゼロはなんでハイランドに?」

「ちょっと用事があってね。」

「その探し人の?」

「それとは別。スレイ達は?」

「オレたちはこの前言っていた遺跡探し。」

「あ~、なるほど……」

 

少年ゼロは顎に指を当て、少し考えた後、

 

「じゃあ、スレイに一つヒントをあげる。」

「ヒント?」

「そ。このハイランドで遺跡が見つかったのは知ってる?」

「ああ。今軍が調べてるっていう……」

「あそこに行く事を進めるよ。あそこには君の求めるものと、知りたくはなかった真実がある。」

「それって――」

「決めるのは君だよ、スレイ。そしてその選択を見守るか、支えるかは、仲間次第。」

 

少年ゼロは笑みを深くし、

 

「スレイ、俺も、君も、まだまだ互いに知らいないことが多い。この先、困難は山と言うほどあるだろう。それでも君は突き進むだろう。だから俺は、君に手を貸すけど、貸さない。」

 

スレイは真剣な表情で、少年ゼロの言葉に耳を傾けていた。

他の者達も、同じように考え、思い込んでいた。

少年ゼロは彼を見た後、彼らに背を向け、

 

「じゃ、そういうことで。」

「え⁉ゼロ⁈」

 

スレイは驚く。

ロゼは腰に手を当て、彼を見る。

と、少年ゼロは振り返り、

 

「遺跡に向かう前に、一度故郷に帰る事をおすすめするよ。」

「え?ええ⁉」

 

スレイが驚く中、少年ゼロは笑顔で歩いて行った。

ロゼは笑いながら、

 

「いや~、相変わらずゼロは掴みどころがさぱらん!スレイ、良かったね。」

「なにが⁉」

 

スレイに親指を立て、テヘペロ姿のロゼが言う。

そんなロゼに、スレイは目を見開く。

だが、ロゼは表情と気持ちを切り替え、

 

「で、ゼロの言ったレイの真意は?」

「気付いていたんだ。」

「たぶんスレイ以外ね。」

 

ロゼはミクリオを見て言った。

スレイは目をパチクリする。

そしてライラを見るミクリオとロゼ。

ライラは二人を見て、

 

「裁判者は感情を感じやすい……いえ、受けやすいというべきでしょうね。」

「ま、要するに今のおチビちゃんには人が多い場所は、ごちゃごちゃして辛いんでしょうね。現に、最近おチビちゃんは街の中ではよく耳を塞ぐし。」

「そういえばそうだな。そういう時はいつもスレイの側にいたな。」

 

ライラの言葉を付け足すように、エドナが傘をクルクル回しながら言う。

そしてデゼルも思い出しながら言うのである。

ロゼも腕を組み、考えた後、顔を上がる。

 

「確かに!」

「スレイさんは、この中では一番裏表ないからでしょうね。」

「確かにスレイは、その辺に関しては多分ずばいちだ。」

「うんうん。」

 

ライラの言葉に、ミクリオも同意する。

さらにロゼも頷く。

エドナが傘をクルクル回しながら、

 

「その次はミクリオとロゼね。」

「なっ⁉」「えぇ⁉」

 

二人は眉を寄せて、エドナを見た。

エドナはドヤ顔をしている。

デゼルに関してはもう、関わりたくないとばかりに背を向けている。

そんな中、ひとり目をパチクリしていたスレイが、

 

「えっと?」

「つまり、感情を本当の意味で理解してきたレイにとって、人の感情が渦巻く場所は辛いってことだ。」

 

ミクリオはスレイを見て言う。

スレイは眠っているレイを見て、

 

「じゃあ、どうしたらいいんだろう。」

「それは……」

 

ライラは手を握り合わせて俯く。

エドナがスレイを見上げ、

 

「アンタがしっかり気持ちを持ってればいいのよ。おチビちゃんは、おチビちゃんなりに自分を変えようと、変わろうとしてる。アイツが何をしてきても、おチビちゃんがしっかりと自分を、自分だと思わせれるようにするのが一番早い。だからアンタは……いいえ、アンタたちは変わらず、いつものアンタたちでいなさい。」

 

最後はスレイだけでなく、ミクリオも見て言う。

二人は互いに見合って、頷く。

ロゼは笑顔になり、

 

「よっし!じゃあ、これからどうする?」

「うん。今度こそアリーシャの屋敷に行ってみよ。」

「決まりだね。」

 

スレイも気持ちを切り替えて言う。

そしてレイを抱えたまま、歩き出す。

ミクリオはその後ろに続く。

 

歩いていると、ロゼが小走りして、皆の前で立ち止まる。

皆止まり、ロゼを見る。

途中で起きたレイも、ロゼを見る。

ちなみにレイは、ロゼが抱きかかえた瞬間に起きたのだ。

ロゼは頭を下げ、上げる。

 

「改めて、ありがとうね、みんな。付き合ってくれて。」

「あれで満足だったわけ?」

 

エドナは真顔で聞く。

スレイも真顔で、

 

「……放っておいてモヤモヤするよりマシだよ。」

「そうだな……」

「ふ、やっぱりお前が一番だな。」

 

スレイの言葉にミクリオも、頷く。

そして後ろではデゼルが帽子を深くかぶり、呟いた。

再び歩き出し、デゼルは思い出すように、

 

「ふん。それにしても、しょうもないヤツらだったな。レディレイクのガキども。」

「……でも、社会に爪弾きにされた子どもは犯罪でもしないと生きていけないのかな……」

 

スレイも思い出すように言った。

ライラも思い出し、悲しそうに俯く。

 

「本当に……悲しい時代ですわ。」

「ざけんじゃねぇ。」

 

だが、デゼルはその二人に怒った。

レイはデゼルを見上げる。

 

「罪を犯してまでも前に進もうとしてるヤツは罪を背負う覚悟で進む。影を胸に落として顔を上げる。あのガキどもはそうじゃねぇ。ただ堕落しただけだ。」

「そんな話しながらこっちみんな!」

 

デゼルはそう言って、ロゼを見る。

それを見たロゼは腰に手を当て、明るく言う。

スレイは驚いたように、

 

「ロゼ……そこまで考えてたんだな……」

「あたしはそんな、頭使ってないから!」

「だよね?ロゼやデゼルにしてはまともだったからビックリ。」

 

レイが首を傾げて二人を見て言った。

デゼル以外の皆がレイを見て、目を見開き、口を開ける。

ロゼが歩き出し、

 

「もうこの話はやめ!こっちの方が辛くなる!」

「天然というやつか……すごいな……」

 

ミクリオは真剣な表情で言う。

そしてライラは手を合わせて、

 

「はい。どちらも、でずね。でもレイさん、どんな境遇であろうと生き方とそれに伴う責任は本人が決める事。……それを理解しているロゼさん……本当にすごいですわね。ね、レイさん。」

「……じゃあ、そういうことで。」

 

ライラとレイは互いに見合った。

と、前で歩き始めていたロゼは腕を上げ、

 

「ああもう!何これこの流れ!」

「あの子たちも突き放された事でとらなきゃならない責任に気付けたんじゃないか。スレイ、ロゼ、君たちのおかげでね。そうだろ、レイ。」

「……うん。」

 

レイはミクリオを見上げて微笑む。

スレイも笑顔を浮かべ、

 

「……そうだといいな。」

「うん。」

 

ロゼは真剣な目をして呟く。

そしてエドナは傘をさし、背を向けて、

 

「……そんな簡単なら災厄の時代はとっくに終わってるけどね。」

「…………」

 

エドナの小さな呟きに、ライラは悲しそうに俯く。

レイはそんな二人に小さな声で、

 

「……それでもきっと今のこのメンバーなら変えられるよ。」

 

そう言って二人に向ける笑顔はどこか悲しそうだった。

そしてレイ以外の皆は歩き出す。

レイは空を見上げ、

 

「この世界の生き物は変わらない……でも、変われる生き物だ。悲劇が連鎖し、繰り返えさられる輪廻だけど、その分繋がりは増えていくから……」

 

そよ風が流れて行く。

それはきっと自分の中にいるもう一人の存在も無意識にそれを望んでいるからだろうか、と思う。

レイは前を歩く彼らを見る。

そして小さく微笑み、彼らも元に駆けて行く。

 

アリーシャ邸に着くと、一人の使用人服を着た女性を見つけた。

スレイは彼女の前まで行き、頭を一度下げながら、

 

「こんにちは。アリーシャいますか?」

 

メイドの女性は眉を寄せて、

 

「……どちら様でしょう?その非礼は、当家を分家と侮ってのことですか?」

「ごめんなさい。スレイって言います。」

 

スレイは困り顔で、頭を掻く。

だが、メイドの女性はスレイの名を聞くと、口に手を当て、

 

「スレイ様⁉失礼しました!いつも姫様から伺っています。あいにく姫様は出かけられていていつ戻られるか……」

「仕事?」

「え、ええ……ローランスに情報を流している者を追っておられるようです。」

 

と、その言葉を聞いたエドナとライラは真剣な表情で、

 

「確かにスパイが動いているわね。いくら審判者が手を貸したとしても、進攻のタイミングを考えると。」

「ええ。アリーシャさんにも容疑がかけられたほどですし。」

「けど、そんなことまでするんだ?ハイランドのお姫様って。」

 

ロゼが頭を掻きながら言う。

メイドの女性は両手を前に出し、手を振る。

 

「いえ、本来は憲兵隊の仕事なのですが、個人で動かれているのです。両国の衝突を引き起こす要素は排除せねばと。」

「すごいけど……真面目すぎじゃない?」

 

ロゼは眉を寄せる。

メイドの女性は悲しそうに、辛そうに、

 

「グレイブガントの戦い以来、さらに無理をなさるようになって……」

「アリーシャらしいけど……」

「心配ですわ。あの方は一人で無茶をなさいますから。少し前も、始まりの村カムランを調べると言って、アロダイトの森に入られたり。」

 

レイはスレイ達から視線を外し、後ろを向く。

スレイはメイドの女性に、

 

「始まりの村カムラン?」

「そこから災厄の時代が始まったっていう村だよね。」

 

ロゼが思い出すように、口にする。

ライラは眉を寄せ、身を固くする。

ロゼはさらに思い出すように、腕を組み、

 

「場所もよくわからない伝説だけど。」

「はい。アロダイトの森の奥に手がかりがあるという噂を聞いて向かわれたのです。」

「それでアリーシャはイズチに来たのか。」

「けど見当違いだったね。ジイジたちから始まりの村の話なんて聞いたこともないし。」

 

スレイは思い出しながら言い、ミクリオも腕を組んで言う。

スレイはミクリオを見て、

 

「ああ、だよ……な。レイも聞いてないだろ。」

「…………」

「レイ?」

 

レイは空を見上げたまま、黙り込んでいた。

後ろではライラは無言で俯いている。

レイはそれを感じ取ってから、スレイに顔を向け、口パクで「内緒」と言う。

スレイはキョトンとした後、メイドの女性を見て、

 

「じゃオレはこれで。アリーシャに、また来るって伝えておいてくだいさい。」

「はい。アリーシャ様のこと、お願いいたします。」

 

メイドの女性は頭を一度下げる。

スレイ達はアリーシャ邸を後にする。

 

スレイは歩きながら、

 

「ハイランドもまだまだ複雑な状況なんだろうな……」

「うん。やっぱ大きい国だからね。政治とか、どうしてもゴチャゴチャしちゃうんだと思う。」

 

ロゼが頭に腕を組み、スレイを見て言う。

そして、スレイの前に立ち、

 

「あのさ、街中にいれば色んな噂が聞けるから、その中で気になる話は詳しく探ってみても良いかもよ?ひょっとしたら、それがアリーシャの助けに繋がるかもしれない。」

 

スレイは頷く。

ロゼはくるっと周り、前を歩きながら、

 

「にっしても、なんか大変だねえ、姫なのに。」

「アリーシャは、いつも大変そうだよ。」

「そこが心配なんだよな……」

 

ミクリオが苦笑いで、スレイは心配そうに言いながら歩く。

スレイ達はとりあえず情報を集め始める。

街を歩いていると、ふとスレイが呟く。

 

「アリーシャの事も気になるけど、……実際、あの子たち、どうなるんだろう……」

「ん?ああ、あの子たちね。子供だし、そんなに長く拘留されないはずだよ。もうしばらくしたら、街に戻るかも。探してみてもいいんじゃない?」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

レイもスレイを見上げて頷く。

 

「そうだな。」

 

スレイも頷く。

 

スレイは街の人から情報を聞く。

レイはスレイの服を引っ張り、指を指す。

指差す方を見ると、商人が話し込んでいた。

 

「マーリンドから来てた、ロゴスってヤツ評議会連中とパイプでもできたのかね。戦争やってからこっち、橋の修理やら軍事物資の調達やら、急に忙しそうにしてやがる。」

 

さらにレイは人込みを避け、また指を指す。

そこにはまた商人達が話し込んでいた。

 

「姫さんが、ここらを嗅ぎ回ってるけど憲兵としちゃ素人丸出しもいいとこだぜ?」

「はは、ちがいねぇ。そういや、マーリンドの商人に妙に羽振りのいいのがいるんだ。ロゴスだっけ?元は宝石商だったのになぁ。」

「そいつ、軍の仕事を独占で請け負ってるらしいわ。どんな伝手か知らないけど、あやかりたいものね。」

 

それを聞いたスレイ達は一度、マーリンドへ向かう。

マーリンドの街でスレイは商人達に話を聞く。

 

「グリフレット橋の修復は、ロゴスの野郎が請け負ったんだ。元々、瞳石≪どうせき≫なんかを扱ってたただの宝石商のくせにな。情報屋がケチってあまり教えてくれなかったがバルトロ大臣直々のご指名らしいぜ。俺のカンだがありゃ、裏でなんかやってるよ。」

 

話を聞き終わり、レイが歩き始める。

スレイ達が後ろに付いて行くと、そこは美術館にいた男性に話し掛ける。

 

「なに?ローランスに通じているスパイの情報が知りたいだと?」

 

男性はスレイをまじまじ見て、

 

「これから出す依頼をこなせたら信用してやってもいいが、どうする?」

 

スレイはロゼ達を見てから、男性に頷く。

男性は腕を組み、

 

「やる気か?なら、緑青林マロリーに棲む孔雀からとれる『孔雀の羽』をもってきてもらおうか。……急いだ方がいいぜ。事実を知りたいならな。」

 

スレイ達は緑青林マロリーへと急ぐ。

 

スレイ達は緑青林マロリーへ入り、

 

「よぉーし!羽を集めるぞー!」

 

ロゼが両手を上げて叫ぶ。

スレイとミクリオは苦笑いし、

 

「ロゼは相変わらず元気だな。」

「だな。よし、オレたちも頑張るか。」

 

レイと残りの天族組はそれを見守る。

しばらく歩いた後、レイは岩上を見た。

そこには真っ白い毛に、赤い瞳をしたウサギがいた。

そのウサギ達とレイは目が合った。

ロゼもそれに気付き、

 

「あ!見て見て!」

「ウサギがいる!」

 

それにスレイも気付いて声を上げる。

そしてウサギ達はレイの方へやって来る。

その内の一匹がレイの頭にのしかかる。

デゼルもウサギを見て、

 

「グリンウッドノウサギだな。」

 

と、スレイとロゼは二人して、

 

「おいしそうだな!」「おいしそうぉ~!」

「なっ⁉」

 

その言葉に、デゼルは腕を組んで驚く。

ロゼは腰に手を当て、

 

「どうかした?」

「そこは……カワイイじゃないのか?」

 

デゼルは組んでいた手を腰に片方当てて聞いた。

その表情は解りづらいが引きつっている。

 

「ああ。かわいい上に美味しいんだ。」

「知らないの?ウサギって高級食材なんだよ。」

 

二人は再び嬉しそうに言う。

デゼルはその分かりにくい表情のまま、

 

「食用でもあるのは事実だが……お前も、そう思うのか?」

 

デゼルはウサギを持ち上げ、目を合わせていたレイを見る。

レイはジッとウサギを見つめたまま、

 

「モフモフ……」

 

レイは何かと葛藤していた。

デゼルは視線をロゼとスレイに戻す。

 

「デゼルも食べてみればわかるって。」

 

ロゼが、肘でデゼルを突きながら言う。

スレイが腕まくりしながら、レイの近くにいるウサギに近付く。

 

「よし。オレが捕まえてさばいてやるよ。」

「遠慮する。」

 

デゼルは腕を組んで、即答で言い放つ。

だが、ロゼはレイの近くにいるウサギに近付きながら、

 

「心配しなくても一番美味しいトコあげるって。」

「いや!天族に食事は必要ない。」

「そう?そんなに言うなら……」

「じゃあ、乾して保存食にしようか。」

「賛成ー!」

 

と、二人は一気にレイの近くにいるウサギに詰め寄った。

デゼルが拳を握りしめ、

 

「ぼさっとしてんじゃねえっ!」

 

大声を上げた。

レイは目を見開き、ウサギを落とす。

他のウサギ達も驚き、逃げ出した。

 

「あ……逃げちゃった。」

 

スレイは残念そうにウサギの逃げた方を見る。

ロゼはデゼルに振り返り、

 

「ちょっと、デゼルー!追い立てるなんてかわいそうでしょ?」

「き、基準がわからん……」

 

デゼルは苦笑いする。

固まっていたレイはハッとして、あたりを見回した。

 

「モフモフ……」

 

レイは残念そうに、先を歩いていたミクリオ達の元へ駆けて行く。

後ろでは、ロゼがデゼルに怒りながら歩いてくる。

それをスレイが苦笑いしながら付いて行く。

 

奥に進み、レイが止まる。

辺りを見渡し、

 

「いた……あそこだよ、お兄ちゃん。」

 

レイの指さす方には人より少し大きい鳥。

その羽は綺麗に輝いている。

 

「よし、やるか!」

 

スレイ達は戦闘態勢に入る。

ロゼが武器を構えながら、

 

「うわー、ド派手な憑魔≪ひょうま≫~。」

「分不相応ね。全部ムシってやるわ。」

「ムシってもしゃあねえだろ……」

 

ムッとしながら言うエドナに、デゼルが鳥憑魔≪ひょうま≫の突進を避けながら言う。

エドナは天響術を繰り出しながら、

 

「羊だってムシられたい季節くらいあるわよ。」

「それ単なる羊エピソードじゃん。」

 

ロゼが敵の攻撃をかわしながら叫ぶ。

と、鳥憑魔≪ひょうま≫がレイに狙いを定めた。

 

「レイはまだ歌っていないぞ⁉」

「あーもう!デゼル!」

「チッ!」

 

ミクリオは水の天響術を詠唱し始め、ロゼがデゼルと神依≪カムイ≫化をする。

レイは固まっていた。

 

「レイ‼」

 

スレイの大声に、レイが反応する。

だが、レイは目線を外せない。

息が荒くなり、

 

「……邪魔だ。」

 

一気にそれが冷め、風が敵を薙ぎ払った。

 

「なっ⁉」「ちょ⁉」

 

デゼルとロゼもその風に巻き込まれた。

態勢を整え、宙に浮く。

ミクリオの天響術が繰り出された。

それが敵に直撃し、

 

「スレイ!」

「ああ!」

 

スレイがライラと神依≪カムイ≫化し、浄化した。

神依≪カムイ≫化を解き、スレイはレイを見る。

 

「えっと……」

「今回は何がどうなったワケ?」

 

エドナが傘をクルクル回しながら、黒いコートのようなワンピース服を着た小さな少女を睨む。

小さな少女は腰に手を当て、

 

「……私の一件だ。そうじゃなくても、あのままでは手遅れだったがな。」

「はぁ⁉」

 

エドナは傘を回すの止め、眉を寄せた。

小さな少女は木の上までジャンプし、背を預ける。

今日はもう戻りそうにないので、野営を始める。

食事の支度をし、ロゼが木の上にいる小さな少女に声を掛ける。

 

「ねぇ、アンタは食事どうするの?レイにはまだ戻らないんでしょ。」

「無論だ。だが、そもそも私達は食事を取る必要はない。」

 

そう言って、ロゼを見下ろす。

ロゼは頭を掻きながら、

 

「いや、でも、さ。アンタは良くてもレイは食べないとまずいっしょ。」

「……一日くらい食事を取らなくても死にはしない。」

「レイに何かあったらどうする気だ!」

 

ミクリオが、眉を寄せて小さな少女を見上げる。

小さな少女は頬杖を着き、

 

「そもそも、今回の事は半分はそこの陪神のせいだぞ。」

 

と、デゼルを指差す。

デゼルは腕を組んで、考え込む。

 

「俺が……?意味が解らん。」

 

小さな少女は目を細め、

 

「グリンウッドノウサギの件だ。陪神、お前は大声を出しただろ。あれで、ウサギどもの感情が一気に入り込んだせいで、恐怖と言うものを知ってしまった。あの憑魔≪ひょうま≫は、ターゲットを決めていた。それを一心に浴びたからな、身が竦んだのだよ。」

「……マジかよ。」

 

デゼルは帽子を深くかぶる。

なぜなら、エドナの鋭い視線が彼を射貫いているからだ。

スレイは腕を組み、首を傾げながら、

 

「でもそれって……レイがどんどん感情を理解し始めてる証拠だろ?レイが人間らしく……って言うのは変かもしれないけど、レイが色々な事を知っていくことは良い事だと思うな。」

「お前が思っているよりも、それは厳しい選択になる。忘れるな、お前の妹は人間でも、天族でもない。」

 

赤く光る瞳がスレイを射貫く。

その瞳をスレイは目を反らさず、見続ける。

と、小さな少女は腰を木に再び寄りかかり、

 

「ま、その選択肢を出せるかどうかはお前次第だがな、導師。」

 

無言が訪れる。

そこにデゼルが、

 

「おい!」

「なんだ、陪神。」

 

デゼルは小さな少女に何かを投げる。

小さな少女はそれを掴み、見つめる。

それは真っ赤に熟したリンゴ。

小さな少女は視線だけを彼に向ける。

 

「それだけでも食べておけ。あの一件で、俺のせいにされたままでは困るからな。」

「……まぁ、いいだろう。」

 

それを一口かじる。

小さな少女はスレイ達の食事の様子を横目で見ていた。

と、小さな少女は木から飛び降りる。

 

「え?なに?」「どうした?」

 

ロゼとスレイは小さな少女を見る。

デゼルが立ち上がり、

 

「やべぇ……何か来るぞ⁉」

「はい!よくわからない気配です!」

 

ライラも立ち上がり、札を取り出す。

スレイ達も立ち上がり、武器を構える。

小さな少女が体を半分だけ彼らに向け、腰に手を当てる。

 

「何を身構えている。あれは私の領分だ。座っていて良いんだぞ。」

「そうはいかない。君はレイをどう思うと、オレたちの大切な妹なんだ。」

「なら、勝手に見てればいい。」

 

小さな少女は視線を森の闇に向ける。

そこから、赤い瞳がゆらゆらと揺れている。

そして月光に照らされて、その姿があらわらになる。

 

「ギャ―――‼」

 

ロゼは目を見開き、デゼルの後ろに行き、しがみ付く。

デゼルはしがみ付くロゼを引きはがそうとするが、

 

「おい!ロゼ!離れろ‼」

「ムリムリ!ムリ――‼」

 

と、思いっきりデゼルを締め上げる。

小さな少女は横目で騒ぐロゼを見て、

 

「うるさい奴だ。」

「まぁ、ロゼが震え上るのも無理ないわね。」

「ですね。なにせ……」

「ロゼの嫌いなお化け関係だもんな。」

「デゼルには気の毒だが、あのままでいて貰おう。」

 

エドナ、ライラ、スレイミクリオはロゼとデゼルを見て言った。

小さな少女は再び視線を前に戻す。

そこには赤い瞳をゆらゆらしながら歩く、ゾンビ兵達がいた。

ミクリオがそのゾンビ兵を睨みながら、

 

「またどこかに審判者がいるのか?」

「いや、アイツはいない。今回のこれは自然現象だ。」

「バカな⁉自然現象でこんなものがいてたまるか!」

「いいえ、それがあり得るのですわ。」

 

ライラは眉を寄せて、手を握る。

ミクリオとスレイはライラを見る。

 

「本来、穢れは導師の手によって浄化されるものです。ですが、強い穢れを持った者や穢れを持ったまま死んだ者は、それを抱えたままさ迷うことがあります。そして何より厄介なのは、死後です。死にきれない心が穢れを生み、この世をさ迷います。そしてその魂は意志を持たず、生きたものを襲う。」

「そう言ったものを祓うのは導師ではなく、私達の仕事だ。しかし、浄化されない魂は長い月日をかけて少しずつ浄化される。それを見届けるのも、私達の役目だった。」

「だった?」

 

スレイは小さな少女を見つめる。

小さな少女はジッとゾンビ兵を見つめ、

 

「悪いが、今の私にはこれしかできないからな……」

 

そう言って、彼女の影が揺らぎ始めた。

周りの木々がざわめき出す。

 

「喰らい尽くせ。」

 

小さな少女の影から何かが飛び出し、木々や地面を巡ってゾンビ兵を飲込み始めた。

小さな少女は歩き出す。

喰われていくゾンビ兵に、

 

「今の私に、お前達を浄化の道へと導く事はできん。だから……少しの間、眠れ。」

 

小さく囁く。

小さな少女のその光景を始めて見たロゼは、未だデゼルにしがみ付いたまま、

 

「な、なんかあの影……憑魔≪ひょうま≫みたい……」

「憑魔≪ひょうま≫みたいなものだからな。」

 

小さな少女は赤く光る瞳をロゼに向ける。

ロゼはゾンビ兵が居なくなったのを確かめてから、いつも通りのロゼで、

 

「うーん、どういうこと?」

「この世界は色々な理がある。その一つに、私達のこれはある。」

 

そう言って、自分の影を指差す。

そこにはさっきまで動き回っていた影のようなものが、影の中に入っていく。

 

「ま、それを教える事はないがな。」

「えー……」

 

ロゼが腰に手を当てて眉を寄せる。

と、小さな少女はスレイ達の元へ歩いてくると、

 

「さて、そろそろいいだろう。」

「ん?」

 

小さな少女は崩れ落ちる。

そっと風がそよぎ、黒から白へと服が変わる。

スレイはすぐさまレイを抱え、

 

「……寝てるだけみたい……」

「全く、相変わらずのやりたい放題なヤツね。」

 

エドナは傘の先を地面に突きながら、怒っていた。

 

翌日、スレイ達はマーリンドの街に戻った。

スレイ達はあの男性の元へ行き、羽根を渡す。

 

「……両軍の監視を切り抜けたか。なかなかの腕前だな。いいだろう、信用しよう。欲しいのはローランスのスパイ情報だったな?」

 

男性は腕を組み、

 

「レディレイクのヴィヴィア水道遺跡に行ってみな。面白いものが見れるはずだぜ。」

 

スレイ達は男性から離れ、レディレイクへと歩き出す。

スレイは歩きながら、

 

「スパイはヴィヴィア水道遺跡にいるのか。」

「どうだろう?情報屋は『面白いものが見れる』って言っただけだし。とにかく、行ってみないとわからないことも確かだけど。」

 

レイは目を擦りながら、

 

「ミク兄、抱っこ。」

「ん?ああ。」

 

ミクリオはレイを抱き上げる。

レイはミクリオの肩に頭を乗せ、

 

「そこにはアリーシャもいる。」

「え?」

 

ミクリオはレイを見た。

だがレイは、そのまま眠りに入った。

 

 

スレイ達は再びレディレイクに戻り、街の歩いていた。

レイも起き、スレイと手をつないで歩いていた。

すると、スリを行っていたリーダーの子供を見つけた。

 

「ほら、ボウズ!次はこれを宿までだ。」

「チッ。」

 

と、言いながら荷を受け取る。

そしてスレイ達の方を向く。

スレイ達を見た子供は、

 

「あ……お前らのせいで……こんな……」

「とっととしねえか!」

「チッ。」

 

文句を言おうしたが、駄目だった。

子供は嫌々歩き出す。

そしてスレイ達を見て、

 

「みんな大人のいいようにメチャクチャこき使われてる。何が導師だ。何も救ってなんかいない。死んじまえ。」

 

そう言って、横を通り過ぎて行った。

レイはその後姿を見て、小さく微笑む。

 

「口ではそう言っても、気持ちは嘘はつかない。良かったね……」

「ホント。どうやら真面目に働く気になったようだね。」

 

ミクリオも苦笑いで言う。

ロゼも頭を掻きながら、

 

「あたしらは嫌われちゃったみたいだけど……」

「いいさ。真っ当に生きる気になってくれたんなら。」

「スレイさん……」

 

スレイは笑顔で言った。

ライラはそんなスレイを優しく、それでいて悲しく見る。

そしてスレイ達はヴィヴィア水道遺跡に入った。

奥に進み、レイがスレイの手を引く、

 

「ストップ、お兄ちゃん。そこだよ。」

 

レイの言う方向に二人の男性が話していた。

スレイとロゼはすぐに角へ隠れる。

そして梯子を上り、上へと上がる。

そこに聞き覚えのある女性の声が響く。

 

「動くな!機密漏洩の容疑で拘束する!」

 

それは髪を横にカールのように結い上げた騎士服の少女。

ミクリオがスレイの中から出てきて、その光景を見る。

 

「レイの言った通りだったな。アリーシャも同じ結論に辿り着いたか。」

 

下では、密告者が男性に睨みながら、

 

「……どういうことですかな?」

「す、すまん!これは違うのだ。」

 

男性は少女アリーシャの方を向き、

 

「退いてください、姫様!これは……」

「言い訳無用。この者の屋敷を捜索し、ローランスに繋がる証拠は押さえた。グリフレット橋の修復や軍用物資の受注、不正な取り引きの証拠も――」

「それは報酬です!この者の貢献への!」

「貢献……?」

 

少女アリーシャは腕を抑え、眉を寄せる。

男性は腕を組み、

 

「このロゴスは、ローランスとの非公式の外交ルートを担う要人物なのです。」

「どいうこと?」

 

上で聞いていたスレイは眉を寄せた。

スレイの中から出てきていたライラが後ろで、

 

「ハイランドとローランスは表向きは、国交を断絶しています。ですが、あの方を介して水面下で交渉をしていたのでしょう。」

「つまり、スパイじゃなくて連絡係。」

 

ロゼは下を睨んだ後、ライラに視線を送る。

ミクリオは腕を組み、顎に手を掛け、

 

「戦争に進みながら、こんな根回しもしているのか。」

「それが政治というものですわ。」

 

ライラが悲しそうに俯く。

そして下では、

 

「大問題ですぞ。非公式ルートまで潰れたら、どちらかが滅びるまで戦うしかなくなる。」

 

男性が少女アリーシャに怒っていた。

レイはそれを見た後、そっとスレイ達から離れる。

少女アリーシャは困惑しながら、

 

「だが……私には何も知らされて……」

「当然でしょうな。貴女のような方では。」

 

スパイの男性が少女アリーシャを見て言った。

そして彼は続ける。

 

「この短慮がなにを招くか……覚悟されよ!」

 

そして彼は少女アリーシャの横を歩いて行った。

もう一人の男性は、

 

「とにかく善後策を講じなければ。釈明は、あとで聞かせてもらいましょう。」

 

そして彼も、少女アリーシャの横を歩いて行く。

アリーシャは俯き、

 

「……わかった。」

 

少女アリーシャもその場を去っていく。

 

 

少女アリーシャがその場を離れるほんの数秒前、先に歩いていた男性二人の所に声が響いた。

 

「あまり末席の姫をいじめるな。あの姫も、自分の立場や国を想っての行動だ。ま、仮にも末席とは言え……姫に真実を教えていなかったのはお前の責任だ。あの姫が動いていたのを知っているのだろう。」

「だ、誰だ⁉」

 

その声は女性の、しかも子供のような声だと解る。

だが、その姿がどこにもない。

なおもその声は響く。

 

「……それにあの末席の姫はああ見えて、国を守り、治めるだけの器を持つ。今は幼いただの姫だが、近い将来あれは、騎士としても、姫としても、立派な姫騎士になる。」

 

少しの間を置き、その声の主は声質を重くし、

 

「それと……ハイランドにしても、ローランスにしても、これ以上無意味な争いを続けると言うのであれば……お前達の相手は両国同士ではなく、世界になりかねないことを先に伝えておいてやる。」

 

気配が消え、男性二人は急いでその場から離れていく。

その数秒後、少女アリーシャがやって来る。

 

「随分と落ち込んでいるようだな、姫君。」

「だ、誰だ!」

 

少女アリーシャは俯いていた顔を上げる。

辺りを警戒するが、誰も見当たらない。

天族かと思ったが、自分の知る天族とは違う気配を感じ取った。

 

「……末席の姫君、今回の件でさらに自分と言う立場を理解し、自分がどれだけ無能で無力かを知ったはずだ。もう何もせず、おとなしくしていたらどうだ?」

 

少女アリーシャは拳を握りしめ、涙を堪える。

 

「確かに私は、姫としての地位も、知力も、力も、全てにおいてどれだけ弱いかを、改めて認識できた。……だが、私はそれでも抗い続ける。私の想い描く未来のため!導師として苦難に向き合っている友のためにも、私は私の道を進まねばならない!例え、今の自分を何度批難されようと!」

 

少女アリーシャの瞳は力強く輝き、強い心を持っていた。

と、少女アリーシャの真後ろから、

 

「なら、その強い意志と想いを忘れるな。お前の描く道は困難でしかない。だが、それと同じだけ……お前を支えてくれる仲間がいる。お前は一人ではないよ、アリーシャ姫。だから、自分らしくいけばいい。」

 

少女アリーシャは後ろバッと振り返る。

だが、そこには誰もいない。

少女アリーシャは胸に手を当て、

 

「そうだ、私はやり遂げる。私は私のまま、いけばいい……。」

 

少女アリーシャは力強く歩き出す。

 

 

スレイ達は少女アリーシャが去って行った後、彼らの居た場所に降りた。

スレイは心配そうに、

 

「アリーシャ、どうなったかな……?それにアリーシャ……苦労してるみたいだ。」

「まぁ、そういう事だよね。気になるんだったらアリーシャの家、のぞいてみる?」

「そうだね、家に行ってみるか?」

「ああ、そうだな!」

 

ロゼがスレイの背を叩いて言う。

ミクリオも、スレイを見て言うのである。

と、後ろから、光り輝く瞳石≪どうせき≫を持ってやって来たレイが居た。

 

「はい、お兄ちゃん。」

「え?ああ……」

 

スレイはレイから瞳石≪どうせき≫を受け取る。

受け取った瞳石≪どうせき≫が光り出す。

 

――剣を胸の辺りで掲げた導師の紋章がついたマントを纏っていた男性がいた。

その剣から浄化の炎が灯る。

そして彼の前には虎の姿をした憑魔≪ひょうま≫。

彼が憑魔≪ひょうま≫を縦に一刀両断する。

その彼の後ろにもう一体の憑魔≪ひょうま≫が襲い掛かる。

それを守るように、札が憑魔≪ひょうま≫を襲う。

後ろには銀色の髪をなびかせた赤い服を纏ったライラ。

ライラは嬉しそうに男性に笑いかける。

彼女の前には笑顔を向け、親指を立てる男性。

二人は供に旅をしていた。

マーリンドの街、大高原、遺跡跡地、荒野、大自然と色々なところを巡っていた。

 

ライラはその光景を見て、悲しそうに手を握り合わせる。

ロゼは腕を組んで、

 

「すごいね、ライラ。あんな息ぴったりなんて。」

「……若いが相当な使い手だな。」

 

デゼルも映像を振り返って言った。

そしてスレイは真剣な表情で、

 

「うん。あの人に比べたら……」

「スレイはまだまだだね。」

 

ミクリオが腕を組んで、スレイを見た。

スレイは腰に手を当て、笑顔でライラを見る。

 

「ライラ。オレもライラとあんな旅をしてみたい。」

「スレイさん……」

 

ライラは顔を上げ、スレイを見る。

ライラの横からエドナが真顔で、

 

「失礼ね、スレイ。」

「え?」

「はい。同じくらい素敵ですわ。今の皆さんとの旅も。」

 

キョトンとするスレイとは対照的に、ライラは笑顔で答える。

レイはそれを見て、彼らから視線を外し、

 

「……私もだよ。」

 

悲しそうに呟いた。

 

スレイ達は水道遺跡から出て、アリーシャ邸へ向かう。

アリーシャ邸に着くと、少女アリーシャはテラスに居た。

彼女の後ろには前に会ったメイドの女性が立っていた。

近付こうとするスレイを、ロゼが止める。

 

「スレイ、待った!」

 

スレイは立ち止まる。

二人の会話が聞こえ来る。

 

「いかが……でしたか?」

「幸い、噂が広まる前に抑えられた。私が頭を下げて、なかったことになったよ。」

「お辛かったでしょう……」

「はは……なんでもないよ。完全に私の勇み足だったし。」

 

そう言う彼女の声は悲しそうに震えていた。

そして手を握り合わせ、

 

「ディフダ家は、ずっと捨て扶持で生かされてきた分家だ。しかも私の母は、そんな父が気まぐれで見初めた市井の娘……だから皆、許してくれたよ。政治が分からなくて当然だと。」

「アリーシャ様。」

「けど……だからこそ私は正しいことをしたいんだ。皆に認めてもらえるように。亡くなった父母の名誉のために。私は間違っているのだろうか?今しがた、励みを貰い、自分を見つめ直したばかりだと言うのに……私は……」

 

と、涙声へと変わる。

メイドの女性は優しく、

 

「お茶を……お入れしますわね。」

 

スレイ達はそっとその場から離れる。

ライラがスレイに、

 

「一人にしてあげましょう。今は。」

「……ああ。」

 

スレイは頷く。

横ではロゼも頷いた。

そして屋敷を後にする。

レイは一度振り返り、

 

「頑張れ、アリーシャ。」

 

小さく呟き、スレイの手を取って歩き出す。

 

 

アリーシャは空を見上げ、

 

「あの声の主が一瞬、レイだと思ったのだがな……」

 

そう言う彼女を、まるで優しく包むかのように風がそよぐ。

 

 

アリーシャ邸から離れた後、一行は宿屋に向かって歩いていた。

ロゼは顎に手を当て、眉を寄せながら、

 

「お姫様ってのも楽じゃないね。」

「国や政治とは、人の思惑が絡み合ったクモの巣のようなもの。理想だけで渡ろうとすれば、絡め取られてしまうと思います。」

 

ライラは厳しい口調で言った。

スレイは悲しそうに、

 

「けど……オレはアリーシャが間違ってるとは言いたくないよ。」

「アリーシャが頑張る理由を知ってしまったから、余計にね。」

 

ミクリオも悲しそうに言う。

レイはスレイとミクリオを見上げ、

 

「アリーシャが間違っている訳ではない。ただ、今のアリーシャはまだ何も知らないだけ。だからこそ、アリーシャは政治を牛耳る者達に利用される。アリーシャがちゃんと自分のしたい、描きたい未来をちゃんと行うにはまだ幼すぎる。全てにおいて……」

「そうですわね。今の時代、アリーシャさんの純粋さは、とても貴重なものだと思います。ですが、硬すぎる剣は意外に脆いものですわ。」

 

ライラが力強い瞳で、スレイとミクリオを見る。

そしてロゼも腰に手を当て、

 

「うん。それに、アリーシャのは正論だから。」

「正論じゃダメだっていうのか?」

 

ミクリオはロゼを見つめる。

ロゼはまっすぐ見つめたまま、

 

「正しいこと言われて自分が間違ってるの気付いたら、かなり『くる』じゃない?そしたら、ヘコむか逆ギレしちゃうっしょ。」

「……相手も人間だもんな。」

 

スレイは悲しそうに、遠くを見る。

エドナは傘をクルクル回しながら、

 

「結果、あの娘が正論を説くほど、自分のいびつさを知る者は敵意を持つ。そういう事ね。」

「正しいはずなのに敵意を持たれ……またアリーシャはそれに真っ向からぶつかり、より強い敵意を生んでしまっているのか。」

「んで、悩んじゃってる。」

 

ミクリオが悲しそうに眉を寄せ言う言葉に、ロゼが答える。

それにデゼルが続き、

 

「……苦悩の連鎖だ。」

「そう言ったもの含めて生きてるってこと。心があるからそういう事が起こる。」

「……つらいな。アリーシャも。」

 

レイの言葉に、スレイは悲しそうに俯く。

そんなスレイに、レイは続ける。

 

「でも、それがあるからきっと、人は変わり、進んで行く。それに、アリーシャの想いは間違っていないから。だからアリーシャも乗り越えられる。アリーシャが自分の想い描く夢を諦めない限りは……」

「はい。私もアリーシャさんの想いが間違っているとは思いませんわ。ただ、レイさんの言うように見極める必要はあるのではないでしょうか?」

 

ライラは真剣な眼差しでスレイを見る。

スレイも真剣な表情になり、

 

「アリーシャだけじゃなくオレも見極めなきゃな。」

 

その日はレディレイクの宿屋に泊まった。


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