テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第十八話 寄り道その3

スレイは達は食堂に居た男性から話を聞いた。

 

「また『吠え声の季節』が来たな。夜は出歩かないことだ。命が惜しいのなら……な。」

 

そう言って、男性は去って行った。

スレイ達はその日、宿屋に泊まった。

スレイは窓の外を見ていた。

そこにミクリオとがやって来る。

 

「スレイ、まだ寝ないのか?」

「ああ。ちょっと街をみたくなって。」

「……静かだから、逆に歴史の重みが感じられるね。アスガード隆盛期から続く古都ならではだ。」

「今更だけど思うよ。本を読んでた街にいるだなって。」

「古代の旅人なら詩を捧げるところかもしれないな。」

「詩か……」

 

スレイは腕を組み、

 

「『ペンドラゴ 夜の景色も いい感じ』。」

「スレイ。」

 

ミクリオは呆れた目を向ける。

 

「い、今のはアレだけど、練習しなきゃ上手くならないだろ?」

 

と、そこにレイが近寄って来た。

レイはスレイを見上げる。

いや、外を見ていた。

 

「レイ?」

 

と、外から唸り声が聞こえてきた。

スレイとミクリオは驚きながら、

 

「なんだぁっ⁉」

 

そこにらライラ達も駆けつける。

 

「今の声は⁉」

「うるさいわよ、ミクリオ。」

 

エドナが傘に付いていた人形を握りしめて言う。

ミクリオはエドナを見て、

 

「僕じゃない!」

「とにかく外だよ!」

 

スレイ達は外へ駆けだす。

 

「一体何が吠えているんだ⁉」

「この感じだと声の主は街の中だよ!探そう!」

 

スレイ達は街の中を回る。

ライラは辺りを注意深く探る。

 

「今の咆哮は、まさかかの者⁉」

「わからない。あの領域は感じないけど。」

 

スレイも同じように探りながら言う。

後ろの方でデゼルは、

 

「……まさかヤツか?」

 

同じように、辺りを探りながら言う。

 

レイは空を見上げ、

 

「お兄ちゃん、あっちから何か……モヤモヤしたものを感じる。」

「わかった!行ってみよう!」

 

公演広場に行くと、憑魔≪ひょうま≫が立っていた。

赤毛に覆われた大きな体に、虎のような顔。

 

「いたわ。」

 

エドナがそれを見つけた。

スレイ達は駆け下り、武器を構える。

 

「ひげネコじゃなくてトラネコ!」

 

ロゼが敵を見上げる。

と、敵は咆哮を上がる。

 

「なんて咆哮だ…!」

 

ミクリオが眉を寄せて言う。

ライラが敵を見て、

 

「あれは虎武人!きっと虎武流の使い手ですわ。」

「きっと、ってことはでまかせね。」

「バッサリだな、エドナ。」

 

エドナはライラを見て言う。

そんなエドナを見ながら、デゼルは言う。

 

「無用な副詞はトラブルのもとですわね……」

 

ライラは敵を見据えて言った。

スレイ達は戦闘を開始する。

レイが歌を歌い出す。

その歌声は今までとは違う気がした。

 

「なんか、レイの歌変わった?」

「なんというか……」

「想いが入った?」

「「それだ!」」

 

悩んでいたスレイとミクリオはロゼを見て言った。

そして攻防を繰り返していく。

一撃は重いが、耐えて敵憑魔≪ひょうま≫に一撃を与えた後、浄化の炎が敵を包む。

 

「トラネコがブタネコに⁉」

 

ロゼは武器をしまいながら驚く。

さっきまでの憑魔≪ひょうま≫は丸々としたネコへと変わった。

その猫はロゼを見て、

 

「まぁ、失礼なお嬢さんね。」

「じゃあ、デブネコ?」

「「「「「「‼」」」」」」

 

スレイ達は首を傾げて言うレイを見る。

スレイとミクリオは口を開いたまま固まる。

ネコはレイを見上げ、

 

「せめて『ポッチャリさん』と言って。」

「な、なんか……ご、ごめん。」

 

ロゼは視線を外しながら言う。

そしてミクリオは、レイに何かを言っている。

 

「……ハズレか。紛らわしい。」

 

デゼルは舌打ちをしながら言う。

ライラは猫を見て、

 

「もしやムルジム様?」

「ええ、そうよ。」

「有名人?」

 

ロゼはライラを見る。

ライラは手を握り、

 

「一匹狼……いえ、一匹ネコの高位天族で、強い加護の力をもつと聞いています。」

「へぇ~。」

「私としたことがみっともない姿を見せちゃったわね。」

 

天族ムルジムはスレイ達を見上げて言う。

レイが空を見上げ、

 

「仕方ない。ここは色々あり過ぎるから……」

「おチビちゃんの言う通り、この街は人間の欲望で溢れているわ。気に病むことないと思うけど?」

 

エドナは天族ムルジムを見て言う。

だが、天族ムルジムは力強く、

 

「いいえ、償わせて。導師、この街の加護をもたらす天族を探しているのでしょう?」

「え、でも……この街は……」

「ペンドラゴは大都会だ。穢れを消し去ることは不可能だし、教会も権力と結びついている。」

「……ただ自分の欲を満たすだけの願いだってある。」

 

ミクリオが腕を組んで言い、レイは天族ムルジムを見て言う。

 

「でもそれは、真剣に救いを求める声が多いってことでもあるわ。」

「困りはてて天族にすがってるだけだ。」

 

デゼルが淡々と言う。

だが、それにはめげず、

 

「純粋な願いには違いないでしょ?加護を維持していくことはできるわ。」

「それでも、また憑魔≪ひょうま≫になってしまうかもしれない。」

 

スレイは心配しながら、天族ムルジムを見る。

 

「私、考えがあるの。教会の権威を利用してみようと思うのよ。」

「人間の捧げる祈りを自分で選別しようというのか。」

「したたかね。」

 

ミクリオとエドナが意外そうに見る。

レイはジッと天族ムルジムを見つめる。

天族ムルジムはジッと彼らを見て、

 

「私は、考えさせられたのよ。加護がどうあるべきかを。」

「なんかあったの?」

 

ロゼが天族ムルジムを見る。

じっと見ていた天族ムルジムは俯き、

 

「祈りを単純に受け入れて加護を与えるだけでは、誰のためにもならないってことよ。」

「……ふん。小難しいことを。」

 

そして顔を上げ、

 

「……人との共生のためには、天族も色々注意するのは当然なのよ。」

「そっか。その天族も気付いてくれてるといいね。」

「あら。カンの良い子ね。」

 

天族ムルジムは嬉しそうに、ロゼを見る。

スレイもロゼを見て、

 

「え?本人の事じゃないのか?」

「別の天族≪ひと≫の事でしょ?」

「本当、気付いてくれていればいいのだけど。そうでしょ、裁判者。」

 

天族ムルジムはレイを見る。

スレイ達ははっとして、レイを見る。

レイは空を見て、

 

「そうだね。人も天族も誰よりも穢れを生みやすく、飲まれやすい。貴女の言う天族もまた、見て見ぬ振りをしている。それは他でもない、共存の暖かさを知っているから。人は誰しも関わりを持つ。それは気付かぬ内に結ばれている。そしてそれは種族を選ばない。人も、天族も…そしてそれはきっと私たちも、それをどう受け取るかが、問題。」

 

レイは天族ムルジムを再び見て、

 

「貴女の言う通り、ただ与えるだけでは意味がない。だからこそ、それは裁判者達にも言える。でも、それでも――」

 

天族ムルジムを赤く光る瞳で見据える。

 

「私達は願いを叶えた後、関わる事はない。私達の叶える願いとは常にそうであるのだから。」

「そうね。でも、貴女は全てを知っていて知らない。」

「……かもしれんな。」

「だからこそ、貴女は今の貴女を求めると同じだけ、今の貴女を否定している。」

「そうだ。……お前の器が見つかったら、少しだけ手を貸してやる。」

「あら、珍しい。でも、変わらないわね。」

「当然だ。」

 

スレイ達は彼らの会話を見守っていた。

赤く光る瞳が元に戻り、ライラを見る。

ライラは頷き、

 

「お考えはわかりました。適切な器をお探ししますわ。」

「教会神殿の秘文はまだ無事?あれなら信者と距離がとれると思うのだけど。それに、あれには彼らの力も宿ってるし。」

「そうなの⁉」

 

ロゼはライラを見る。

ライラは視線を外す。

 

「あ!ネコで思いつきましたわ!ネコのマネをしますわ!にゃ、にゃ、にゃにゃ~ん!」

「なにそれ。」

 

ネコのような手招きをしているライラに、エドナはつまらなそうに言う。

ライラは肩を落とし、

 

「うう~、エドナさんが冷たい~!」

 

スレイはそれを苦笑いして見た後、天族ムルジムを見て、

 

「無事だよ。お願いします、ムルジムさん。」

「導師さん。色々言ったけど人を信じてないわけじゃないのよ?」

「人も天族も、それぞれわきまえなきゃならないことがある……」

「そう。お互いに、ね。」

 

スレイは腕を組んで言う。

それを天族ムルジムは嬉しそうに見る。

 

スレイ達は教会神殿へとやって来た。

中に入ると、見知った相手を見た。

 

「あれ?今のメーヴィンおじさん?」

 

と、ロゼが言っていると、祭司がロゼを見て、

 

「お知り合いですか?」

「あ、うん。まあ家族みたいなもんです。」

「それはそれは。メーヴィンさんには、いつもお世話になっています。」

「教会が探検家に?」

 

スレイが腕を組んで言うと、

 

「恥ずかしい話ですが、教会が失ってしまった古い伝承を教えていただいているのです。文献に伝承に遺跡……本当によく調べておられて頭が下がりますよ。」

「へえ、さすがだな。」

「おじさん、ちゃんとした探検家だったんだ。」

 

ロゼは頭を掻きながら言う。

と、祭司は何かを思い出したかのように、慌て出す。

 

「いけない!お礼を渡し忘れていた!」

「別にいいよ。おじさん、そういうの気にしないから。」

 

腰に手を当て、ロゼが言うが、

 

「そうはいきません。ああ、でも、私は教会の用が……」

「届けようか?オレたちでよければ。」

「すみませんが、お願いできますか?」

 

と、祭司はスレイに手渡す。

 

「メーヴィンさんはガフェリス遺跡で知人に会うと言ってました。」

「わかった。」

 

そして天族ムルジムを教会神殿の碑文の元へ連れて行き、レイが碑文に触った。

魔法陣が浮かび、消えた。

そしてその後、その碑文を器とした。

 

ミクリオは腕を組み、

 

「なかなかのネ……人物だね、ムルジムは。」

「だよね。見た目はデ……ポッチャリだけど。」

 

ロゼが笑いを堪えながら言う。

ライラは手を握り合わせ、

 

「穢れ、祈り、祀られること、加護を与えること……私たち天族も、もっと人との関わり方を考えるべきですわね。ムルジム様のように。」

「もちろん、オレたち人間も。そういう努力の先にあるんだと思う。人は天族が共存する道が。」

「けど、そんなムルジムですら憑魔≪ひょうま≫になった。現実は過酷よ。」

 

エドナはスレイを見上げて言った。

そんなエドナを見て、ミクリオは目を反らしながら、

 

「言い方も過酷だな。」

「現実を見ずに理想を語るな、でしょ?」

 

ロゼが腕を組んで言った。

スレイも頷き、

 

「ああ。このペンドラゴにムルジムが対処できないほどの穢れが溢れた。それは忘れちゃいけない。」

「なんかワケがあったのかもだね。穢れが溢れたのも。」

「そう、ですわね。」

「任せきりにせず、僕らも時々様子を見よう。」

「だな。」

 

と、スレイが何かを思い出す。

 

「あ!そいえばローランスにも導師がいるって……」

「ああ。そんな噂あったね。多分、ペンドラゴあたりにいるんじゃない?エサの多い場所には動物も多い。詐欺師も騙す相手が多いところにいるものだし。」

「なるほどね。」

 

ロゼの言葉に、ミクリオは納得する。

と、レイがミクリオの服の裾を引っ張り、

 

「導師と言う仮面をかぶった人間なら、あそこに居る。」

「ん?どこ、どこ?」

 

と、ロゼが辺りを見渡す。

レイは指さしながら、

 

「デブネコが居た所。」

「!」

 

レイの言葉に、ミクリオが口を開ける。

ミクリオは膝を着き、

 

「レイ、前にも言ったけど……」

「だって、そう言っていた。」

 

と、ロゼを見上げる。

ミクリオはロゼを見上げ、

 

「ロゼ!」

「ご、ごめ~ん!つい。」

「つい、じゃない!」

「と、とりあえずはそこに行ってみよ~。」

 

と、ロゼは手を上げて、歩き出す。

ミクリオは怒りながら付いて行く。

公演広場に行くと、人が集まっていた。

そこに近付くと、騎士セルゲイの斜め前、そして民衆の目の前には一人の男性が立っていた。

 

「お集りいただき感謝します。私が導師マルフォです。」

 

と、民衆の前で偉そうにしている。

民衆の一人が、その導師を見て、

 

「おーい、導師様よ!疫病の街を救ったって噂はマジなのか?」

「なあに、ハイランドの王女を手伝っただけですよ。一晩で橋を架けてね。」

「じゃあ、グレイブガントの戦いをおさめたっていうのは?」

「人同士が争ってる場合ではない。そのことを知らしめたかったのです。苦しい戦いでしたがローランス騎士団の理解をえられました。」

 

と、自信満々に言い放つ。

 

「あれ、白皇騎士団のセルゲイ様よね?」

「まんざらウソでもない……ってことか。」

「はっはっは!幸い捕まらずにすんでいますよ。」

 

騎士セルゲイは眉を寄せて無言で立っていた。

 

「そうよね。ニセ導師なら騎士団が放っておかないわよね。」

「つまりこいつ……この人は……」

「マジで本物の導師か⁉」

「私のことはいい!だが、天族の加護は信じてください!それこそが世界を救う唯一の希望なのですから!皆さんが望まれるなら!この導師マルフォが命を賭して彼らに祈りを届けましょう!」

 

と、胸を張って言っていた。

すると民衆は、

 

「導師マルフォ!」「導師マルフォ!」「世界に天族の加護を!」

 

と、次々歓声を上げる。

そしてロゼは民衆達のやり取りを腕を組んで見ていた。

と、ミクリオは怒りだす。

 

「ふざけるな!全部スレイがやったことだ!セルゲイだってわかっているだろうに。」

「なにかあったのかな?」

「たぶん。」

 

 

騎士セルゲイは眉を深くし、その場から離れる。

レイはそれを横目で見る。

レイは彼に近付く。

 

「言い訳はしない。すまない……スレイ。」

 

と、俯いていた。

レイは向きを変え、スレイ達の元へ歩く。

スレイを見上げ、首を振る。

スレイ達はその場から離れる。

 

「すごい人気だったな!導師マルフォ。」

 

そう言ったスレイに、ロゼは呆れながら、

 

「はいはい。感心しちゃうんだよね、スレイは……けど、セルゲイは、あんなに付きあわされて、やっぱり大変そうだよ。ま、今は邪魔しないようにしとこ。」

 

と、公演広場から去ろうとすると、後ろから騎士兵達が追いかけてきた。

 

「待ってください、導師スレイ!マルフォの件には理由があるのです。」

「わかってる。セルゲイだからね。」

 

スレイは振り返り、頷く。

騎士兵たちは悔しそうに、悲しそうに、

 

「あのマルフォは、どう取り入ったのか、トロワ将軍のお気に入りで。」

「将軍から騎士団に命令が下されたのです。『導師マルフォを警護せよ』と。」

 

それを聞いたミクリオは腰に手を当て、

 

「そんな理由なのか?」

「所詮、帝国に飼われる身だ。」

 

納得していないミクリオに、デゼルが言う。

騎士兵達は肩を震わせ、悔しそうに言う。

 

「トロワ将軍は皇帝陛下とも近しい大貴族で――」

「言い訳は無用!」

 

と、後ろから騎士セルゲイがやって来た。

 

「どんな理由があろうと、自分はスレイの名誉を傷付けた。詫びの言葉しかない。」

「はは、オレに名誉なんて。それより、導師ってあんなに期待されてるんだな。それがわかって良かったよ。」

 

笑って、そういうスレイを見た騎士セルゲイは、

 

「貴公という男は……」

「気にすんなって!セルゲイ、立ってただけじゃない。」

 

ロゼも、笑って言う。

騎士セルゲイは背を向け、

 

「……言えなかったのだ。なにも。自分は本当の導師を知っているというのに――」

「利用されたのね。ああいう生真面目さを。」

「まったく皮肉だよ。穢れていない人間ほど生きづらいなんて。」

「人の集団のやっかいな点ですわね……」

「けど、それの中で生きていくのが人間だよ。」

 

ロゼはライラ達を見て言う。

レイはロゼは見た後、俯く。

 

「それが人間……」

「……難しいな。」

 

スレイは腰に手を当てて言った。

スレイ達は騎士セルゲイに別れを告げて、歩き出す。

 

スレイ達は広場に向かって歩き出す。

と、スレイが商人達を見た。

そしてロゼを見て、

 

「ちょっと聞いてみよっか?瞳石≪どうせき≫の情報。」

「んじゃ、あたしが聞いてくる。」

「大丈夫か?危なそうな奴らだが。」

 

ミクリオが商人達を見て、眉を寄せる。

ロゼは笑いながら、

 

「まかせとけって。商人は皆兄弟。お金大好き仲間!」

 

そして腰に手を当て、自信満々だった。

それを見たミクリオは呆れながら、

 

「いいのかそれ?」

「ここはロゼさんにお任せしましょう。」

「オレたちじゃ騙されても気付けないしな。」

 

ライラとスレイはミクリオを見て言う。

ミクリオは腕を組み、

 

「……一緒にしないでくれ。」

「……ミク兄は違うの?」

「ああ、違うね。」

 

と、レイの問いかけに、自信満々だ。

ロゼは商人達の元へ駆けて行く。

そして話し込む。

レイは話し込む彼らを見据える。

ロゼはしばらく話し、スレイ達の元へ嬉しそうに帰って来た。

 

「情報ゲット!こっから北にある遺跡で瞳石≪どうせき≫を見たって。」

「北の遺跡か。」

「あいつら、なにを笑ってたんだ?」

 

ミクリオは笑っている彼らを見る。

レイはムスッとしていた。

 

「オレを笑ってるのか。」

「ニセ導師と思ってるんだよ。あたしは詐欺の被害者だってさ。」

「勝手なことを!」

「……人間嫌い。」

 

レイがボソッと言った。

ライラはスレイ達を見て、

 

「仕方ないですわ。そういう方は、あちこちにいますし。」

「だが、そんなのと同じ扱いとは……」

「まったくもって同意。」

 

レイはまたしてもボソッと言った。

 

「それに、これでレイさんの機嫌が悪いワケがわかりました。」

 

ライラは怒るレイの姿を見た後、ミクリオの方を見て、手を合わせるのであった。

三人はスレイとミクリオの間にいるレイを見る。

レイは眉を寄せていた。

ロゼは視線を上げ、明るい声で、

 

「相手にしてもしょうがないっしょ。」

「ああ。怖がられるより笑われる方がいいしな。」

 

スレイも視線を上げて言う。

レイはムスッとしたまま、歩き出す。

 

広場に歩いて行くと、噴水近くでロゼのギルドを見つけた。

 

「エギーユ、仕事中?」

「おう、情報取集だ。今日中に五人と会わないと。」

「大変そうだな。」

「エギーユは、あたしたちの目であり耳であり頭脳だからね。」

 

ロゼは腰に手を当て、自信満々に言う。

スレイはロゼを見て、

 

「じゃあ、ロゼの役割は?」

「そりゃあ……頭だよ!頭領なんだから。」

 

ロゼは頭を指差しながら言う。

スレイは腕を組んで、

 

「頭脳のない頭って……頭蓋骨?」

 

レイはロゼを見上げ、

 

「ドンマイ、飾りも立派な仕事。」

「うるさいー!細かいこと言うな。」

 

ロゼは大声で叫ぶ。

それを見たギルド仲間エギーユは腕を組んで笑う。

 

「ははは、頭領は勝利の女神ってところさ。昔は小女神だったがな。」

「小女神?」

 

ギルド仲間エギーユは思い出したかのように、

 

「先代の頃だ。小さな頭領をおぶって戦場を駆け回ったものさ。」

「楽しかったよね、あの頃は。」

「楽しいの?」

 

嬉しそうに言うロゼに、レイは首をかしげて言う。

ギルド仲間エギーユは頷き、腰に手を当て、

 

「ああ。仲間を助けて、敵に勝つ。それだけだった。」

「……そうだったな。」

 

隣の柱の方で腕を組んでいたデゼルも思い出しながら言う。

それは小さい声だったので、ロゼ達には聞こえていない。

ただ一人、レイだけはそちらに視線を向けた。

嬉しそうに言っていたギルド仲間エギーユは表情を変え、

 

「今はそうもいってられん。裏社会は情報が命だ。」

 

真剣な表情で言う。

ロゼも表情が真剣な表情となり、

 

「面白いネタあった?」

「いくつかな。近頃噂の導師マルフォは、以前はローランス帝国の司祭だったらしい。フォートン枢機卿の死に乗じて勢力を広げているようだ。」

「ふんふん。」

 

ロゼは頷く。

 

「それと偽エリクシールの件。本家の教会も、無視できなくなって製造元を調べ始めたらしい。」

「それって、ゴドジンの村長さんが――」

 

スレイは眉を寄せて言う。

が、ギルド仲間エギーユは腕を組み、スレイを見て、

 

「ゴドジン?」

「えっと、それがさ――」

 

ロゼが頭を掻きながら、事情を説明する。

それを聞いたギルド仲間エギーユは、

 

「そんな裏事情があったのか。」

「エギーユ、あたしの決断は――」

「いや。頭領の意思は俺たちの意思だ。だが、見届ける必要はあるだろうな。」

「わかった。そうだよね。」

 

ロゼは頷く。

スレイはロゼを見て、

 

「ゴドジンに行ってみよう。様子を見に。」

「ありがと。」

 

ロゼはギルド仲間エギーユに別れを告げて、街を出る。

 

ペンドラゴを出ると、デゼルがいつになく無言だった。

 

「怖い顔してたわね。ペンドラゴを出た時。」

 

エドナがデゼルを見上げて言いう。

デゼルは帽子を深くかぶり、

 

「……仇がいる街だからな。」

 

と、さっさと歩いて行った。

 

スレイ達は先に探検家メーヴィンを追って、ガフェリス遺跡へと来た。

入り口傍に、武装した傭兵団が居た。

彼等の一人が、

 

「メーヴィンの旦那はキャメロット大陸橋に用があるんだと。久々にゆっくり呑みたかったのによぉ。」

「メーヴィン、すれちがっちゃったか。」

「ま、落ち着きのない人だから。キャメロット大陸橋で追いつこう!」

「だが、その前にゴドジンに行った方がいいだろうな。」

「だな。」

「だったら、ここで瞳石≪どうせき≫を見つけてからにしたら?」

「そうですわね。その方が一石二鳥ですわ。」

 

スレイ達は奥に進む。

ミクリオはロゼを見て、

 

「で、どの辺なんだ?瞳石≪どうせき≫を見たのは。」

「ごめっ!そこまで聞かなかった。アイツらと、あんま話したくなかったからさー。」

「仕方ない。探そう。」

 

奥に連れて、中はごちゃごちゃしてる所もあった。

スレイはがっかり気味で、

 

「荒らされてるよな。」

「当然だろう。あんな商人たちが出入りしてるんだ。……僕は盗掘に怒ってるんだからな。」

「お、おう。」

 

ミクリオは最後は強めに言った。

スレイは目をパチクリする。

レイはそれに少し笑う。

 

さらに奥に進み、レイはある所に歩き出す。

そこには棺が多くあった。

その大半が開けられ、荒らされていた。

スレイがそれを見て、

 

「この棺、どんな人が入ってたんだろうな。」

「装飾から見て、それなりの身分の人だろう。貴族とか、一族の長とか。」

 

ミクリオもそれを見て言う。

と、ロゼが腕を組み、

 

「確かに!これは、なかなかいい石を使ってますからねえ。」

「ローランス帝国が設立する前かな?時代的には。」

「微妙なところだな。もしかするとローランスの始祖と関係があるかも。」

 

スレイとミクリオは腕を組んで、考え込む。

ロゼも考え込みながら、

 

「ふむう……この手触りからして、『スベスベひんやり様式』と見た!」

 

スレイは悲しそうに、

 

「盗掘されてるのがホント、残念だな。」

「僕たちも、故人の誇りを尊重して調査しないとね。」

 

ミクリオが真剣な表情で言う。

その中、レイは彼らを交互に見ていた。

そしてロゼが、

 

「ゴホゴホ!結構ホコリが溜まってる!つまり『掃除が行き届いていない説』が有力だと!」

 

流石のスレイ達も、ロゼを見て、

 

「ええっと、ロゼ……」

「さっきから何やってんの?」

 

ミクリオが呆れた視線を送り、スレイが頬を掻きながら聞く。

ロゼは頭を掻きながら、

 

「いやあ、一回スレイたちの趣味に混ざってみようと思ったんだけど――」

 

表情が一変、真顔になり、

 

「ごめん。案外つまんない。」

「……だろうね。」

「無理しないで。」

 

二人は諦め気味にプラス、呆れ気味に言う。

そこにレイが、ロゼを見上げて、

 

「そもそも、見方が違う。会話が成り立ってない。だから邪魔しない。」

「うん。それが良さそう。」

 

ロゼも納得する。

 

「わかったら、さっさと行くわよ。」

 

エドナが傘をクルクル回しながら言う。

ロゼは右手を上げ、

 

「よし、次行こう!」

 

と、先陣をきって行く。

レイもその後ろに付いて行く。

スレイとミクリオは互いに苦笑いして、

 

「行くか。」

「だな。」

 

二人もその後ろに付いて行く。

最奥に行くと、瞳石≪どうせき≫を見つけ、スレイがそれを持つ。

瞳石≪どうせき≫は光り出す。

 

――教会神殿のマオテラスの紋章前。

人々が並んでいた。

彼らは皆、白いマントを羽織っていた仮面をつけた者達。

それには導師の服を着た者もいる。

導師服を着た者は仮面を付けてはいない。

そして一人の仮面をつけた長い髪を上に結い上げた銀髪の女性は、一人の導師服を着た者の手の甲に紋章を刻む。

そしてその紋章が光り、剣を抜く導師の服を着た者。

剣を掲げる。

それを後ろで見守る仮面をつけた者達と導師服を着た者達。

剣を抜いた者に、紋章が包む。

 

スレイは嬉しそうに、興奮気味に、

 

「輿入れの儀式だよな、さっきの?しかも導師があんなに大勢!」

「場所はペンドラゴの教会神殿みたいだった。それにあのマオテラスの紋章……」

 

ミクリオも驚きながら言う。

 

「主神はマオテラスなのかな?」

「私は、ちょっと失礼しますわ。」

 

ライラは悲しそうに、辛そうにそっと物陰に隠れる。

レイはそんなライラを見つめる。

ロゼは腕を組み、左人差し指を顎に当て、

 

「隠れちゃった。なんかイジメみたい。」

「そんなつもりはないんだけど……」

「わかってるけどさ。」

 

デゼルが腕を組み、顎に指を当てながら、

 

「状況証拠から見て、マオテラスが関係している可能性が高いな。」

「うん、あれだけの導師が存在するには、五大神級の力が必要だと思う。」

 

ミクリオの言葉に熱がこもる。

スレイも、腰に手を当て、

 

「そうだな。けど今はこの辺にしておこう。」

「盛り上がるとライラが出てこれないわよ。」

 

エドナはミクリオを見て言う。

ミクリオは一呼吸置き、

 

「ごめん。わかったよ。」

 

レイは胸に手を当て、目を瞑る。

そして目を開き、ライラの元へ歩いて行き、

 

「話は終わった。」

「そうですか……」

 

ライラと共に、スレイ達も元へ行く。

スレイはライラに笑顔を向けた後、

 

「ひとまず目的は果たしたな。」

「欲を言えば、荒らされる前に調べたかったけど、盗掘が始まったのは、かなり昔のようなだね。」

 

ミクリオが辺りを見て言う。

スレイが、ミクリオを見て、

 

「それだけど、一個気付いたんだ。昔ここから持ち出された石や装飾って、ペンドラゴの建築に使われたんじゃないか?」

「……ありうるな。場所と時代から考えて。」

「だろ!どこかに使われているか調べたら、ペンドラゴの隠れた歴史が明らかになるかも。」

「同じようにヴィヴィア水道を利用したレディレイクと比較したら、当時の人々の思考がわかるんじゃないか?」

「それ面白そうだ!さすがミクリオ。」

「それだけじゃない。さらに仮設をすすめると――」

「……お兄ちゃん、ミク兄、盛り上がるのはいいけど……」

 

二人が熱中し始めた中に、レイが二人を見上げて言う。

そしてロゼが頭を掻きながら、

 

「う~ん、なにが面白いのかさぱらんけど。」

「元気はでたようですね。」

 

ライラが手を合わせていう。

デゼルも二人を見ながら、

 

「……妙な奴らだ。」

 

スレイは明るく、

 

「また笑われちゃったか。」

「ノンノン、今のは賞賛の微笑み。本物の遺跡バカへのね。」

「ビバ、遺跡バカ導師ー。」

 

ロゼが笑顔でスレイに言う。

そしてエドナもスレイの中で、棒読みでいうのである。

スレイは苦笑いで、

 

「そんな導師いる?」

「聞いたことはありませんが……」

 

ライラも腕を組み、思い出すように言う。

レイはスレイの服を引っ張り、スレイとミクリオを見て、

 

「ビバ、遺跡バカ導師プラス遺跡バカ陪神≪ばいしん≫。」

「「え?」」

 

ロゼは大笑いで言った。

 

「ぷはっ!じゃ、スレイとミクリオが第一号で。」

「スレイの方は問題ないが、僕もか⁉」

「まあね。」

 

ミクリオは眉を寄せて言う。

そしてスレイは頷いていうのであった。

 

「さて、ゴドジンに行くか!」

 

スレイ達はゴドジンへと向かう。

ゴドジンへと向かいながら、

 

「ゴドジンと村長さんはどうしてるかな。」

「うん……見届ける義務あるよね。村長さんに早く会いに行ってみよっか。」

 

スレイとロゼは互いに見合って言う。

レイは空を見上げ、

 

「穢れが……」

 

そしてスレイ達を見る。

スレイ達は嬉しそうにゴドジンへと向かい始める。

レイは無言でその後ろに付いて行く。

 

ゴドジンの村へと入ると、

 

「村の穢れ、増えてないか?」

 

スレイが辺りを見て言う。

ライラも辺りを見て、

 

「私もそう感じますわ。」

「お兄ちゃん、あそこ。」

 

レイの指さす方に、ニセ導師マルフォが居た。

スレイ達はそこに歩いて行くと、

 

「スランジ村長に用かね?」

「うん。オレ、前に村長さんと――」

「すまないが、遠慮してくれ。村長は病気で面会謝絶なのだ。」

「えっ!村長さんが。」

「だが、心配には及ばない。私が導師の名にかけて治してみせる!」

 

と、自信満々に言う。

ロゼが腕を組み、

 

「導師って……あんたが?」

「はっはっは!導師とばれてしまったか。」

 

ミクリオとエドナが彼の前に立つ。

彼は変わらず、

 

「そう!私こそ噂の導師マルフォ。」

「僕たちがまったく見えていないのに。」

「さすが導師様ねー。」

 

ミクリオとエドナは呆れながら言う。

そしてニセ導師マルフォはスレイを指差し、

 

「君は、見たところ導師に憧れているようですね。気持ちはわかるが、よした方がいい。」

 

そして偉そうに、

 

「導師とは、世間の無理解にさらされながら戦い続ける孤独な存在なのだから。」

「は、はあ……」

 

スレイは苦笑いしながら、頭を掻く。

 

「とにかく村長のことは任せてくれたまえ。この導師マルフォに!」

 

スレイ達はひとまず彼らから離れる。

レイはニセ導師マルフォを見て、

 

「あまり図に乗らない方がいいよ。だって、後が怖くなってしまうのが……人間だから。」

「は?」

 

そう言って、スレイ達の後を追う。

ミクリオは腕を組み、顎に指を当てながら、

 

「病気の原因は、やっぱり穢れかな?」

「信じるの?あんなのの言うことを。それだったら、あの裁判者の方を信じた方が……」

 

ロゼも腕を組んで言う。

ライラは手を握り、

 

「ですが、村の穢れが増しているのは事実ですわ。」

「まずはゴドジンの加護を復活させよう。村長さんと話すのはそれからだ。」

 

スレイはロゼ達を見て言う。

ロゼ達は頷き、

 

「……わかった。本物の導師の仕事だもんね。」

 

加護のことも含めながら、スレイ達は村人達から話も聞く。

すると、スレイ達は子供達が集まっている所に行った。

と、一人の少年を囲み、

 

「ほんとに見たんだよ!ツチノコ!イデル鍾洞にいたんだ!」

「ゲンジツ見ろよー!ウソツキー!キツツキー!」

「うそだねー!ツチノコなんて世界にいませんー!」

「もう、いつまで遊んでいるの?授業はじまるよ!」

 

そう言って、子供達は走って行った。

ミクリオは囲まれていた子供を見て、

 

「あの子、霊応力があるのか?ツチノコって憑魔≪ひょうま≫だよな。」

「はい。警戒心が強くて捕捉がやっかいな憑魔≪ひょうま≫ですわ。」

「お兄ちゃん、行ってみない?」

「そうだな。行ってみるか!」

 

スレイ達はイデル鍾洞へ向かう。

 

 

イデル鍾洞へ入り、子供の言っていたツチノコを探す。

 

「憑魔≪ひょうま≫ツチノコか……」

 

スレイが呟く。

ロゼはスレイを見て、

 

「正体不明だけど、強い憑魔≪ひょうま≫なら加護復活の邪魔になるよね。見つけて浄化しないと。」

「だな!」

 

彼らは進む。

奥に進み、レイがある所を見ていた。

ミクリオが近付き、

 

「これ……ヘリクタイトか!」

「ヘリク……?」

 

ロゼは首をかしげる。

ミクリオは腰に手を当て、

 

「ヘリクタイト。こういうねじくれた鍾乳石のことだよ。」

「確かに……かなりひねくれてるよね。」

 

ロゼも、改めてまじまじと見て言った。

と、ミクリオは腕を組み、顎に指を当てる。

そして苦笑いしながら、

 

「ああ。誰かみたいに。」

 

それを聞いたエドナは傘で顔を隠しながら、ミクリオを半眼で見る。

レイはそんなエドナを見上げる。

ロゼはそれには気づかず、腕を組み、

 

「鍾乳石って、伸びるのにすっごい時間かかるんでしょ?」

「すっごい時間ひねくれ続けたんだろうね。誰かみたいに。」

 

エドナは傘についているノルミン人形を握りしめる。

レイはなおも、その人形とエドナを見る。

 

「変わってるけど……神秘的でキレイだよねえ。」

「ああ。」

 

そして、少しだけ間があり、

 

「ここは言いなさいよっ!」

 

と、エドナはさらに人形を握りしめる。

レイはさっと、スレイの元へ駆けて行く。

スレイの手を握る。

 

「どうした、レイ?」

「ちょっとしたネタをみた。」

「え?」

 

と、後ろからミクリオとエドナの声が響いた。

ロゼがスレイに近付き、

 

「ホント、仲いいよね、あの二人。」

「だよなー。」

 

スレイも見て言う。

レイはライラとデゼルを見て、

 

「……仲いいの?」

「さぁな。」

「きっと、仲がいいんですわ。」

「おい。」

 

デゼルは一度目を反らした後、ライラが手を合わせて言った。

その言葉にデゼルがライラを見たのだ。

レイはそれを見た後、笑う。

 

さらに進むと、ミクリオとロゼがまた違うクリスタルを見つける。

それはオレンジ色に光っている。

 

「キレイな石だな。」

「石黄っていう石よ。」

 

エドナがボソッと言う。

レイはエドナを見た後、ミクリオを見上げる。

 

「ほう。確かに見事な黄色だ。」

「そう。だから昔は顔料とかに使われてた。」

 

エドナは珍しくノリノリだが、声は小さい。

ミクリオはエドナを見て、

 

「やけに詳しいな。」

「もちろん。地の天族だから。」

 

レイは無言で視線をさ迷わせる。

ミクリオは呆れながら、

 

「……どうしたんだ?そのしゃべり方。」

「石黄は、別名雄黄とも言うわ。」

 

エドナが小さい声でそう言うと、黙って聞いていたロゼが自信満々に、

 

「雄黄なら知ってる!毒薬の原料だよね。」

「毒薬⁉」

 

ミクリオは目を見開く。

レイもミクリオを見上げ、

 

「かなり強い毒だよ。」

 

ロゼは腰に手を当て、

 

「そうそう。あたしたちは使わないけど。確かヒ素の一種だったかな。」

「猛毒じゃないか!それを早く言えよ!」

 

ミクリオはエドナを見て言った。

エドナは変わらず小さい声で、

 

「だからずっと言ってたじゃない。」

 

レイはエドナを見る。

そしてミクリオは目を見開いた後、呆れ顔になる。

 

「ヒソヒソ話……か!」

 

ミクリオがそう言うと、エドナはドヤ顔する。

そしてロゼは腹を抱えて笑い出す。

 

「あはは!上手い!」

「笑い事じゃないだろう……」

 

ミクリオはレイを抱えてその場から離れる。

 

 

スレイ達は一番最奥へと足を運んだ。

そしてレイがスレイを止める。

 

「居たよ、でも気を付けて。気付かれたら逃げ出してしまう。」

「なら、ここはあたしに任せて!」

「あと、俺だな。」

 

ロゼとデゼルがそっと近付き、仕掛ける。

そして、スレイ達もそれに合わせて仕掛ける。

 

「「ちっさ!」」

 

スレイとロゼは改めて、声を上げた。

そんな二人に、デゼルが注意する。

 

「動きの速さが半端ないぞ!見失うな!」

「範囲が広い術をテキトーに撃つか…」

 

エドナが呟く。

それを聞いたライラは、

 

「それで足止めできたら、その後はお任せします!」

 

広範囲術を展開する中、スレイとロゼが斬りこみを行う。

洞窟の中にレイの歌声が響く。

素早い動きが若干鈍くなる。

それに合わせ、スレイ達は一気に叩き込む。

 

「よし、決めるぞ!ライラ!」

「はい!」

 

スレイは一度距離を取り、

 

「『フォエス=メイマ≪清浄なるライラ≫』!」

 

炎を纏う剣を振り下ろす。

浄化の炎が憑魔≪ひょうま≫ツチノコを覆う。

そこには一人の天族と瞳石≪どうせき≫へと変わる。

 

「私……憑魔≪ひょうま≫になってたの?ごめんなさい。迷惑かけちゃったわね。」

「ううん。助けられてよかった。」

 

天族は立ち上がり、

 

「私はフォーシアよ。」

 

そして足元の瞳石≪どうせき≫が光る。

 

「あらあら?瞳石≪どうせき≫がこんなところに。」

「大地の記憶!それ、もらえない?」

「ええ、いいわよ。こんなものじゃ、お礼にもならないけど。」

「そんなことないよ。ありがとう。」

 

スレイは首を振って言った。

天族フォーシアは嬉しそうに、

 

「まあまま、欲のない導師様ね。」

「お礼の代わりと言ってはなんだけど、加護を頼めないか?この近くのゴドジンという村なんだが。」

 

ミクリオは天族フォーシアを見て言う。

天族フォーシアは思い出しながら、

 

「ゴドジン……火の試練神殿がある村ね?でも、器はあるのかしら?」

「それは……探すから。」

「大丈夫。行けばちゃんとある。」

「え?」

 

レイは天族フォーシアを見て言う。

 

「その後、あの村の真実を聞き、加護を決めるかは貴女次第。」

 

天族フォーシアは何かを一瞬考えた後、

 

「わかったわ。とりあえず村に行ってみるわね。」

 

天族フォーシアはそう言って消えた。

ロゼはレイを見て、

 

「器あるの?それに真実って……」

「ある。器はお兄ちゃんたちも知っているもの。」

「へぇ~、どんなの?」

 

レイはロゼを見上げて、じっと見た後、

 

「内緒。」

 

と、笑う。

ロゼはキョトンとする。

 

「へ?」

 

そしてそれはスレイ達も、だ。

 

「真実についてはお兄ちゃんたちも知ってるゴドジンの収入源。つまり、偽エリクシールのこと。」

「そうか、そうだね。」

 

レイは真剣な表情で、ロゼを見上げて言った。

ロゼも腰に手を当て、頷く。

後ろの方にいたエドナが傘をクルクル回しながら、

 

「最近のおチビちゃんは感情が表に出やすくなったわね。」

「そうですわね。それに、積極的に関わってくれています。」

「今回は私にも目的があるから。」

 

ライラが笑顔で言ったが、そこにレイがライラを見て言う。

 

「目的?」

 

ロゼが首をかしげた。

レイは頷き、

 

「聞きたいことがある。だから、あの人間に今死なれては困る。それにあの村に入った時の周りの感情をちゃんと知りたい……」

「……わかった。あたしも、スレイも、村長さんのことは気になるし……村に戻ろっか。」

「だね。」

 

スレイとロゼは頷く。

そこにミクリオが、

 

「ゴホン。意気込むのはいいけど、大地の記憶も忘れずに。」

「そうだった!」

 

スレイは瞳石≪どうせき≫を拾う。

瞳石≪どうせき≫は光り出す。

 

――紋章の旗の下、一人の男性が演説をしていた。

彼の言葉にそれを聞く人々も腕を上げて声を上げる。

それはとても多くの人々だった。

そしてその後ろの壁の隅に、ひっそりと立っている紫の服を纏い、左右に髪を結い上げている少女。

景色は変わり、聖堂へと変わる。

そこでも祭司たちはもめていた。

誰もが互いにもめ合っている。

それを見下ろす同じ姿の少女。

少女は腰を掛け、それを面白そうに、無表情のように見る。

再び景色が変わり、多くの兵が並び立つ。

その前に居るのはまたしても同じ少女。

彼女は楽しそうに彼らの前で杖を振る。

景色は一変暗くなる。

岩に囲まれた高い岩場に、穢れを纏った者が立っていた。

その後ろで、先程の少女が膝を着き、首を垂れる。

彼らは下にある何かを見ていた。

 

「なんだ今の……どういうことだ?」

 

スレイは目をパチクリしながら言う。

ミクリオは眉を寄せて、

 

「干渉してるってことじゃないか?ヘルダルフの配下が、人間社会に。」

「穢れを生むためにか?」

「前に見たのと関係あるんじゃない?」

 

ロゼも腰に手を当て、思い出す。

ミクリオも思い出し、

 

「あいつは戦争を利用して憑魔≪ひょうま≫を生んでいた。」

「戦争を起こさせようとしてるのか!」

 

スレイは眉を寄せて怒る。

そこにエドナが冷静に、

 

「これは過去の記録。もうすでに起こしてるんでしょうね。」

「みんな騙されてるんだ、ヘルダルフに。」

「いや、自分の意志で協力してる奴も多いはずだ。」

 

珍しくデゼルが、若干怒りながら言う。

スレイは目を開き、

 

「そんな……」

「ないとは言い切れませんわ。残念ですが。」

「…………」

 

ライラは手を握り、俯く。

スレイは無言で拳を握りしめる。

 

「スレイ、気持ちはわかる。でも今はゴドジンに急ご。」

「ああ。」

 

スレイ達は村に戻る。

レイはその彼らから視線を外し、

 

「……人は争いをやめられない。やめようとしない。同じ過ちを幾度どなく繰り返す。それでも私は……」

 

再び彼らを悲しい目で見つめた後、彼らの元へ駆けて行く。

 

 

村に戻ると、村長がニセ導師マルフォと話していた。

スレイは駆け寄り、

 

「村長さん!起きて大丈夫なの?」

 

と、ニセ導師マルフォがスレイを見て、

 

「案ずるな、青年!すべては丸くおさまった。この導師マルフォの活躍によってな。はっはっは!」

 

ニセ導師マルフォは笑いながら、歩いて行った。

村長はスレイを見て、

 

「……導師よ。心配をおかけした。だが、まだ気分がすぐれないのです。失礼……」

 

そして歩いて行った。

レイは村長を見据える。

ロゼは村長の背を見て、

 

「様子が変だよ。なにかあったんじゃ?」

「あのマルフォという男、村長を脅していたのよ。『教皇の悪事を公表するぞ』って。」

 

スレイ達の後ろに、天族フォーシアが姿を現す。

スレイ達は振り返る。

 

「なんで教皇って⁉」

「お兄ちゃん、思い出して。」

「え?」

 

レイがスレイを見上げる。

スレイは首をかしげる。

ロゼがスレイを見て、

 

「マルフォは元司祭だ。それに教会が偽エリクシールのこと調べてるって。」

 

スレイは手をポンと叩く。

天族フォーシアは手を合わせて、

 

「教えてもらえる?詳しい事情。」

 

二人は頷き、説明する。

それを聞いた天族フォーシアは、

 

「……なるほど。失踪した教皇が偽エリクシールをつくってたのね。」

「けど、それは村のみんなのためなんだ。」

 

スレイは天族フォーシアを見て言う。

彼女は手を合わせて、

 

「村長は、偽エリクシールの販路と製法をマルフォに教えたわ。今後、教会が赤精鉱を買い取ることを条件にね。」

「……どういうこと?」

 

スレイは腕を組み、悩む。

ロゼは腰に手を当て、

 

「脅迫に屈したんじゃなくて、取り引きをしたんだね。」

「そう。教会は前教皇の悪事を不問にする。その代わり偽エリクシールの販売網を手にする。マルフォは調停役として報酬と信用を獲得する。」

「ゴドジンは合法的な収入を得るってわけね。」

 

エドナが傘をたたみ、天族フォーシアを見る。

ミクリオが怒りながら、

 

「罪のもみ消しじゃないか!それに協会が偽エリクシールを売るって?正気の沙汰じゃない!」

 

そこに無言が訪れる。

ライラが悲しそうに、

 

「残念ですが、ありうることです。」

「お金が必要だものね。人の世は。」

 

天族フォーシアも悲しそうに言う。

スレイは肩を落としながら、

 

「あの……この村の加護は……」

 

そして皆が、天族フォーシアを見る。

天族フォーシアは彼らを見て、

 

「器、学校の建物にしようと思うんだけど、どうかしら?」

「いいの?」

 

天族フォーシアは頷く。

そして村長宅を見つめて、

 

「教皇……いえ、村長は自分の死期を悟っているみたいね。それは私の加護でもどうにもならない。」

「だから、村の収入源を残そうとした……⁉」

 

ロゼはすぐに理解した。

天族フォーシアはスレイ達に視線を戻し、

 

「見届けたくなったのよ。彼の決意の結末を。」

「ありがとう、フォーシアさん。」

「どういたしまして。」

 

そう言って、天族フォーシアは消えた。

加護が村を包む。

レイは空を見上げ、目を瞑る。

ロゼは眉を寄せて、

 

「決意の結末……か。」

 

彼らに沈黙が流れる。

スレイは俯き、

 

「加護は回復できたけど、村長さんは……」

「やはり原因は赤精鉱を加工する時の毒素か。」

 

ミクリオは眉を寄せて言う。

ライラは悲しそうに手を握り、

 

「おそらく。あの方はすべてわかってやったのでしょう。」

「むしろ罰を望んでるのかもね。それこそ、アイツが言ったように……」

「罪を犯したから……か。」

 

エドナは冷静に、ロゼは悲しそうに言う。

だが、一呼吸置き、

 

「それが本当なら、風の骨の出番はないね。」

「これがあの方の出した答えなのでしょう。冷たいようですが、これ以上は私たちが関わることではないと思いますわ。」

 

ロゼとライラは真剣な表情で、力強い瞳で言う。

ミクリオは拳を握りしめ、

 

「それでも教会には腹が立つな。天族を祀るなんて聞いて呆れる。」

「あのマルフォってのが仕組んだならやるわね。脇役顔のクセに。」

 

エドナも淡々と言う。

スレイは腕を組み、

 

「けど、穢れは放ってなかった。どういう人間なんだろう?」

「気になるよね。アイツのことは風の骨で調べてみるよ。」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

スレイはロゼを見て、

 

「頼む、ロゼ。」

「任せて。」

「で、おチビちゃんはどうするの?」

 

エドナはレイを見る。

スレイ達もレイを見る。

レイは目を開け、スレイ達を見て、

 

「もういい。あの人間の答えは見れた。この村の感情も。それにこの後どうするかは、この村の人間次第。」

 

レイは歩き出し、スレイ達を通り過ぎる。

 

「「今後、権力のある者が、組織が、悪化するようなら私が潰すだけだ。」」

 

レイは立ち止まり、空を見上げ、

 

「「……その時、この村が残ってるかどうかはこの村の今後の腕だがな。」」

 

レイはスレイ達に向き直る。

スレイ達が歩いてくる。

視線を学校に向け、

 

「少なくても、あの建物は紛れもない決意の現れ。できることなら、あの人間の最後の想いを、この村の人間が繋げられればいいのだけど。」

「レイ?」

 

追いついたスレイがレイを見る。

レイの見る学校を見て、

 

「それにしても、レイの言った通りだったな。」

「うん。私たちも知ってるこの村の器になるもの。」

「大切に繋がるといいけど……」

 

スレイ、ロゼ、ミクリオは学校を見つめる。

レイが学校に向かって歩いて行き、手を当てる。

天族フォーシアが、そっとそれを見る。

 

「繋げるのもまた、私の役目だ。」

 

レイは目を瞑り、歌を歌い出す。

それは風に乗り、村全体を包む。

スレイ達もそれを見て、

 

「スレイ……」

「ああ、ミクリオ……」

 

レイの歌を聞いた村人は泣き出した。

そして歌が止むと、暗い顔だった村人は明るくなり、元気に動き出す。

 

「想いは繋げた。後はこの村の人間とあの人間次第。」

 

レイは天族フォーシアを見上げ、

 

「だから長い目で見てあげて。」

「貴女はもしかして――」

 

レイは口元に人差し指を当てる。

そして笑う。

レイはスレイの元へ歩いて行った。

ロゼはレイを見下ろし、

 

「レイ、何をしたの?」

「歌を歌っただけ。」

「ホントに?」

「想いを繋げるのはいけないこと?」

 

レイはスレイを見上げる。

スレイは首を振り、

 

「……いや、やり方は人それぞれだ。」

 

レイは笑顔を向ける。

 

「なら、よかった。」

「レイ、ありがとな。」

「何が?」

「なんとなくかな。」

 

スレイは頬を掻く。

レイはニッコリ笑い、歩き出す。

 

「私も、お兄ちゃんの素直な気持ちは好きだよ。きっとこれが嬉しいと言う感情なんだね。」

 

レイは振り返り、

 

「次に行くんでしょ?」

「ああ!」

 

スレイが歩いて行く。

レイと手を繋いで歩き出す。

 

「なんか……いいね、こういうの。」

「そうですわね。」

 

ロゼとライラはニッと笑って、二人の後ろに続く。

 

「ミボ、アンタも素直に仲間に入れてって言えばいいのに。」

「な⁉」

「だな。大方、『自分もレイの兄だ』と思ってんだろ。」

「う、うるさいな。」

 

と、ミクリオは早歩きで歩いて行く。

 

「ま、実際……おチビちゃんの成長は嬉しいものよ。」

 

エドナも傘をクルクル回しながら、歩いて行く。

デゼルは帽子を深くかぶり、

 

「が、不安定さは増しているがな。」

 

そう言って自分も歩き出す。

 

スレイ達は村を出て、少ししたところで野営をしていた。

ロゼが、スレイ達を見て、

 

「メイビンおじさんを追うのに、キャメロット大橋に行かなきゃだけど……その前に一度、ハイランドに戻ってみない?」

「またどうしてですか?」

 

ライラが不思議そうにロゼを見る。

ロゼは伸びをしながら、

 

「ん~。特に深い意味はないけど、今までローランスで色々動いて来たからね。ちょっと向こうの様子も気になるって言うのが現状。あたしの仲間が情報を集めているとはいえ、自分でもちゃんと見聞きしないとね。」

「確かにそうだな。ハイランドの情報も聞いてるだけじゃ、真実は解らないか……」

 

ミクリオが腕を組んで言う。

レイが毛布に包まりながら、

 

「私もそれには賛成。あっちにはあっちでのやることは沢山あると思う。」

「じゃあ、決まりだな。とりあえずはハイランドの方に向かおう。」

 

スレイが頷きながら言う。

 

 

翌朝、スレイ達はラストンベルへと来ていた。

レイは空を見上げ、

 

「お兄ちゃん、ミク兄。」

「ん?」「なに?」

「あそこにいこ。」

 

と、レイは高台を指差した。

スレイ達見合い、そこへ行く。

すると、レイは一人の老人の元へ歩いて行く。

スレイ達もその後ろに付いて行く。

 

「戦乙女≪ヴァルキリー≫……マルトラン……」

 

それは前に来たときにも呟いていた見た目は老人の男性。

レイはそれをじっと見つめる。

ロゼは男性に、

 

「おじさんって、マルトランと知り合い?」

「……話したところで、どうせ信じない。」

 

男性は視線を外す。

レイはじっと見続け、

 

「皆が皆、そうでじゃない。」

「レイ。」

 

スレイがレイに声を掛ける。

スレイは一歩前に出て、レイの頭をポンポンと優しく叩く。

スレイは男性を見て、

 

「スレイっていいます。」

 

ロゼも男性に笑顔を向け、

 

「この人導師なんだ。」

 

男性はスレイを見て、

 

「導師?……確かに不思議な気配を感じるが……」

「この方は……わずかに霊応力をもっているようですわね。」

 

ライラがスレイの中から言う。

だが男性は首を一度振り、

 

「いや、それでもやはり……これまで誰も信じてくれなかったんだ……」

「……信じてもらえないの、つらいよね。わかるよ。オレ。けど話を聞いて信じてくれる人もいるからオレ救われてるんだ。」

 

スレイはまっすぐ男性を見て言う。

 

「導師……!」

「聞かせて。おじいさんの話。」

 

男性は一呼吸置き、

 

「十数年前、私はローランスの騎士としてハイランドとの戦いに参加した。そこでぶつかったのだ。蒼き戦乙女≪ヴァルキリー≫の勇名を馳せるマルトランと。我が部隊は、あの女一人に壊滅させられた。あっという間に、な。私は恥も外聞もなく逃げ出した。ただ命が惜しくて……。必死に逃げながら、ふと振り返るとマルトランは……化け物たちに襲われていたんだ!ハイランド軍の鎧を着たトカゲの化け物に!」

 

スレイは眉を寄せ、

 

「憑魔≪ひょうま≫!」

 

男性は悲しそうに呟く。

 

「私は……確かに見た。マルトランが化け物たちに倒されるのを。そしてもう一人、突如風と共に現れた人の姿をした化け物の影から出た黒い何かに、トカゲの化け物たちが喰われるのを!その化け物が動かないマルトランを冷たく見下ろし、そしてマルトランも、あの黒い何かに喰われたんだ!」

 

レイは男性から視線を外す。

男性は震えながら、

 

「だが、あいつは今も生きている……」

「信じるよ。オレは。」

 

スレイは男性から目を反らさず言った。

男性は落ち着き、

 

「ありがとう。さすが本物の導師だな。」

「でしょ!」

 

ロゼがドヤ顔で言う。

 

「これを。どうかこれからも救ってやってくれ。私のような人間を。」

 

男性は腰のカバンから、ちょっとした小物をスレイに手渡す。

スレイはそれを受け取り、

 

「わかった。ありがとう。」

 

そう言って、男性から離れた。

スレイ達は男性から離れた後、

 

「おじさんが言っていたもう一人の化け物って……」

「裁判者か審判者、でしょうね。」

 

ロゼが腰に手を当て、気まずそうに切り出す。

それを察してか、エドナが淡々と言う。

 

「そのどっちかが居たとしたら、その戦いは本来はないものだったって事かな?」

「かもしれないし、そうでじゃないかもしれないわ。」

 

エドナはさらに淡々と言う。

腕を組んでいたミクリオは、

 

「もしかしたら願いがそこにあったとか?」

「それもあるって話よ。」

 

エドナは背を向けて言う。

 

「でも、もしそうならマルトランさんは死んだってこと?」

「でも普通にいたよな。」

 

スレイとミクリオは互いに見合う。

レイは小声で、

 

「喰らったけど、生きてたから吐き出した。」

「「「え?」」」

 

スレイ、ミクリオ、ロゼはレイを見る。

 

「あの人間だった者は、あの時の願いは本当ではなかった。近いものだったけど、少し違ったから。だから捨てた。」

 

レイはそう言って、歩き出した。

エドナはレイの後姿を見て、

 

「……おチビちゃん、こういう時はホント、アイツに似てきた。違う、無意識にアイツが出てる。」

「そうですわね。できればもう少しだけ、レイさんがレイさんのままでいられれば……」

「それができるかどうかは、あのチビしだいだろ。」

 

ライラとデゼルも、その背を見て言う。

が、レイの後を追いながら歩くスレイ達の方は、

 

「待って、もし仮におじさんの言っていたのがレイの方……じゃなくて、裁判者なら、どうしておじさんはレイに気付かないの?」

「それなんだ。前に見た審判者は、僕らと同じくらいの年齢の姿だった。後、火の試練神殿の時に、レイの姿のことを指摘されていた。」

「つまり、レイの今の姿とは別にもう一人の裁判者としての体がどこかにあるかもってことか?」

「どうなんだろう。でも仮にあったとしら、その体は今どこなのさ。」

「それは……」

「知らないけど……」

 

ロゼはスレイとミクリオを見て言う。

スレイとミクリオは視線を反らす。

そこにライラ達が近付き、

 

「バカやってないで、次に行くんだろ。」

「そうよ。早くしなさい、ミボ。」

 

と、追い抜いて行く。

そこにライラが苦笑いで、

 

「今考えてもわからないことは、後に回しましょ。それにきっと、真実をちゃんと知れるときが来るはずです。」

「マオテラスとか?」

 

ロゼが首をかしげて言う。

と、ライラは踊りながら、

 

「さぁ~、次へいきましょう~♪旅が私を~待っていますわ~♪」

 

ライラはそのまま行ってしまった。

スレイ達は互いに見合って、苦笑いした後、彼らの元へ駆けて行く。

レイは追いついたスレイ達を見て、

 

「……遺跡……」

「ん?」

「あの犬天族のいる遺跡がある森に行かない?」

「それも……そうだな。それに敗残兵狩りをやっていた子供達も気になるし。」

「じゃあ、ちょっくら行ってみますか!」

 

ロゼが指を鳴らし、歩き出す。

が、レイは立ち止まる。

 

「レイ?」

 

レイが見る方向を見ると、そこには商人と話す街人が居る。

その会話が耳に入る。

 

「敗残兵狩りの捕縛が始めるって話、聞いたか?あんたらみたいな運送屋も襲われてたみたいだし、これで街道が安全になるといいな。」

 

それを聞いたスレイは、

 

「その敗残兵狩りって、やっぱり前に会った子供たちだよな?」

「言っていた傍からこれか。」

「知らせましょう。正規軍に追われたらひとたまりもありませんわ。」

「だから足洗えって言ったのに。」

「急ごう!」

 

スレイ達は次の目的地へと急ぐ。

スレイ達はヴァーグラン森林へと来た。

そして森を歩き回り、

 

「……これは……」

 

レイはどこかに走り出した。

 

「レイ⁉」

「あっちの方向って確か、アジトがあった方だ!」

「いくぞ、スレイ!」

 

スレイ達も急いで追いかける。

レイに追いつくと、そこには子供達が倒れていた。

スレイは子供達を見て、

 

「みんな……敗残兵狩りの!」

 

ロゼも彼らを見て、

 

「……死んでる。」

「軍がやったのか?」

 

スレイが眉を寄せながら言う。

レイは首を振る。

子供の亡骸を見て、

 

「違う。これは人間の仕業じゃない。」

「レイの言う通りだろう。軍なら死体を放置はしないだろう。ここまでする理由もないしな。」

「じゃあ、誰が――」

 

レイは辺りを見渡す。

そしてかすかな声が聞こえる。

 

「うう……」

 

木から滑り落ちて来た子供が一人いた。

スレイは駆け寄り、

 

「よかった!無事な子がいたのか。」

 

ロゼ達も駆け寄る。

スレイは膝を着き、子供の声を聴く。

 

「言う通り……したの……に……なんで……」

 

レイがその子供を見て、耳を塞ぐ。

眉を寄せ、子供を見る。

ロゼも気付き、

 

「スレイ!この子は!」

 

だが、子供は立ち上がり、

 

「なんで殺したああぁっっ‼」

 

スレイもすぐに距離を取る。

子供は穢れを纏い、木の憑魔≪ひょうま≫と化す。

スレイ達は武器に手をかける。

スレイは武器を構え、

 

「まさかこの子が⁉」

「わかんない!だから事情は後!」

「とにかく浄化を!」

 

戸惑うスレイに、ロゼとミクリオが言い放つ。

スレイ達は防御中心で攻めて行く。

敵は一心不乱で攻撃してくる。

レイは子供の亡骸を見て、

 

「……わかった。それがあなたたちの願いなら!」

 

レイは歌を歌い出す。

その歌はいつもと少し違った。

憑魔≪ひょうま≫を中心に大きな魔法陣が浮かぶ。

その憑魔≪ひょうま≫を見るレイの瞳は赤く光っていた。

敵の動きが止まる。

それを見たロゼとライラは、

 

「スレイ!」「スレイさん!」

「ああ!頼む、ライラ!」

「はい!」

 

スレイはライラと神依≪カムイ≫する。

 

「『フォエス=メイマ≪清浄なるライラ≫』!」

 

浄化の炎が憑魔≪ひょうま≫を包む。

子供は元の姿へと戻る。

スレイは神依≪カムイ≫を解き、再び子供の前に膝を着く。

ミクリオは武器をしまう。

 

「なんとか鎮められた。」

「けど、この子しか助けられなかった……」

 

スレイは肩を落とす。

レイは悲しそうにスレイ達とは反対方向を見る。

そこから弱弱しい子供の声が響く。

 

「うう……」

 

ロゼがそれに気付き、

 

「スレイ、あそこ!」

 

そこには岩陰の隅に横たわる子供が一人いた。

 

「あの子、まだ息が!」

「やはり導師殿。一体何事じゃ?」

 

そして聞き覚えのある声が響く。

現れたのは犬の天族オイシだった。

スレイは彼を見て、

 

「オイシさん!いいところに。」

「ティンタジェル使わせて!」

 

ロゼも彼を見て言う。

犬の天族オイシは周りを見て状況を理解し、

 

「まずは手当じゃな。子供たちはワシに任せろ。」

 

二人の手当てをし、ベッドに寝かせた。

 

「二人とも命に別状はない。しかし意識が戻らんのだ。」

 

レイは視線を外す。

スレイは眉を寄せ、

 

「浄化の失敗?」

「いや、原因は精神的なものじゃろう。」

 

レイは眉を寄せ、自分の右腕を左手で抑える。

スレイ達はそれには気付かず、

 

「敗残兵狩りに何があったんだろう?」

 

スレイが眉を寄せたまま言った。

すると、か細い声が聞こえる。

 

「アイツに……やられたんだ。」

 

それは岩陰に居た子供が目を開ける。

 

「オレたち……アイツの言う通りに山賊をやったのに……」

「アイツ?あんたたち雇われて山賊を?」

 

ロゼが眉を寄せ、子供を見る。

子供は虚ろな瞳で、

 

「うん……敗残兵狩りを続けるか迷ってた時……アイツがいい儲け話があるって。言われたとおりに運送屋を襲ったら荷をすごい高く買い取ってくれた……。『この調子で働けば、近いうちにちゃんとした仕事を紹介してやる』って約束も……」

「誰なの、そいつは?」

「……わかんない。話はリーダーがしてたし、オレはバカだし……。でも……信じてたんだ……普通の仕事に就けるの……嬉しかったから……。なのに突然『証拠は消す』って……アイツの傭兵が……みんなを……」

「証拠は消す……?」

 

ロゼは腕を組む。

少年は涙を流し、

 

「オレが……オレたちがバカだった……でも……バカでも悔しいよ……」

 

レイは子供に視線を向ける。

瞬きをして、子供に近付く。

赤く光る瞳が子供を見据える。

 

「誰か仇を……みんなの……」

「その願い、私が叶える。」

 

子供を見るレイの瞳は赤く光ってる。

その瞳が悲しく揺れる。

 

「ホント?」

「ああ。これはお前の望む仇が叶うまで続く。あちらで眠る子供が何を思うと、な。」

 

瞬きし、その瞳は一変、なんの感情も持たない瞳となる。

だが、嘘はなかった。

 

「ありがとう……」

 

子供弱弱しくズボンのポケットを探り、スレイとロゼを見て、

 

「お金も盗られて……こんなものしかないけど……お願……い……」

 

それは綺麗に輝く瞳石≪どうせき≫。

ミクリオはそれを見て、

 

「大地の記憶!」

「わかった。その依頼、風の骨も受けるよ。」

 

ロゼが子供に優しく答える。

少年は泣きながら気絶した。

スレイは悲しそうに、

 

「ロゼ……」

「すまんの。ワシはなにもしてやれん。無力なものじゃ。」

 

犬の天族オイシは、悲しく肩を落とす。

スレイは瞳石≪どうせき≫を手に取る。

そして光り出す。

 

――どこかの島だろうか。

どこかの海に浮かぶ島。

その島には八本の柱が立っている。

そして一匹のドラゴンが映る。

そのドラゴンは何かを見つめている。

そのドラゴンの下には、穢れを纏った獅子の男が居た。

穢れを纏った獅子の男はドラゴンを見上げる。

ドラゴンは唸りを上げて、穢れを纏った獅子の男に襲い掛かる。

しかしそこに映るのは、ドラゴンを打ち負かす穢れを纏った獅子の男。

ドラゴンは穢れを纏った獅子の男に首を垂れる。

 

スレイは目をパチクリさせ、

 

「ドラゴンを一撃で……!」

「しかも実体化したヤツをね。」

「なんて力だ……」

 

エドナは言いながら、傘を握る力が強くなる。

ライラは手を握り合わせ、悲しそうに無言となる。

レイもまた彼らから視線を外す。

そこにデゼルが重い口調で、

 

「背後の穢れを見ただろう。ヤツに憑いている憑魔≪ひょうま≫が桁違いなんだ。」

「……ああ。オレも、もっと力をつけなきゃ。」

「おお!今のを見てその発言。心配のような、頼もしいような。」

 

ロゼはスレイを肘で突きながら、明るく言う。

それを聞いたスレイ以外の者は苦笑いする。

そしてスレイは改めてロゼを見て、

 

「さっきの依頼……受けるのか?」

「うん。つか、もう受けたし。」

 

ロゼは腰に手を当て、まっすぐスレイを見る。

スレイは眉を寄せて俯く。

ミクリオがロゼを見て、

 

「しかし、いいのか?冷たい言い方だが、あの子たちは悪の片棒を担いでいたんだろう。」

「うん。だからこれは無法の強盗を傭兵が成敗したって事になる。でもあの子たちは仲間と必死に生きようとしてた。悪いことってわかってて、向け出したいとも思ってた。そこにつけ込まれて裏切られ、殺された。あの子たちは正しくなかったけど……それで裏切ったヤツらが正しいって事にもならないよ。」

 

ロゼは力強い瞳で言い切る。

ミクリオは視線を外し、

 

「それは……」

「……ごめん。オレにはわからない。」

 

二人は俯いた。

 

「別に責めてるんじゃないよ。こっちもごめん。それに、他人事じゃないしね。」

 

ロゼは腕を組み、指を顎に当てて言う。

二人はロゼを見てる。

 

「ロゼ……?」

「心配すんなって!当然、背景はしっかり調べるし。憑魔≪ひょうま≫だったら導師の出番だぜ!」

 

ロゼは腰に手を当て、自信満々に言う。

スレイも頷き、

 

「……わかった。」

「まずは黒幕を見つける、だな。」

「そういうこと。そだ!あの子たちの世話をするようエギーユたちに繋ぎつけとくね。」

「お願い。」

 

スレイ達はその場を後にする。

そしてスレイは改めて瞳石≪どうせき≫を見る。

 

「それにしてもキレイだよな、瞳石≪どうせき≫って。」

「けど、キレイすぎるんだ。だから、大半の人間はガラスか、なにかの加工品だと思っているようだね。」

 

ミクリオの指摘に、スレイは腕を組み、

 

「なるほどな。実際はなんなんだろう?」

「自然の鉱物じゃないわね。」

 

エドナがまじまじと瞳石≪どうせき≫を見て言う。

ミクリオは腕を組み、

 

「おそらく、複数の天響術を掛け合わせて生成したんだろう。その上、過去を見せる仕掛けが組み込まれているなんて、信じられない代物だな。」

「好きな過去を自由に見られたらいいのにな。1000年くらいの歴史を全部見てみたいよ。」

「見るだけで1000年かかるぞ。長生きしないとな。」

 

目を輝かせて言うスレイに、ミクリオが苦笑しながら言う。

 

「あ、そうか!」

「天族でも、さすがに無理でしょうね。」

 

ライラが苦笑いする。

ミクリオは腰に手を当て、

 

「瞳石≪どうせき≫も遺跡も、過去の断片にすぎないよ。そこから読み取ったものが重要なんだ。『歴史とは、僕らが心に築く建築物なのだから』。」

「ミクリオ!いいこと言った!」

 

スレイは嬉しそうに言った。

だが、目をパチクリして、

 

「あれ?でもどこかで……」

「だろ?あの人の言葉を借りた。いつか本を書いた時、自分で見つけて使おうと思てるんだ。」

 

ミクリオは腰に手を当て、嬉しそうに言った。

エドナは半笑いし、

 

「そんな野望があったのね。」

 

ミクリオは顔を片手で隠しながら、

 

「いや、僕らの旅を後世に伝えないのはもったいないだろう?」

「私も読んでみたいですわ、ミクリオさんの本。」

「私もミク兄の本読む。」

「進呈するよ。サイン付きでね。」

 

ライラが手を合わせ、レイはミクリオを見上げて言う。

そのライラとレイに、ミクリオは嬉しそうに見て言う。

と、スレイは拳を握りしめ、

 

「くそ~、オレも考えないと!いいセリフとサイン!」

 

そんな彼を皆、苦笑いで見る。

森で、風の骨の仲間と会い、子供達の事を伝える。

ロゼは腰に手を当て、

 

「これでよし!さ、後は情報を待とう。」

「ああ。」

 

今日はそのまま森で野営をしていた。

今回はハイランドへ戻るという事で、イズチの話をしていた。

と、ロゼが腕を組み、

 

「ねぇ、前々から聞こうと思ってたんだけどさ。」

「ん?なに?」

「いや、スレイにじゃなくて、レイに。」

「私?」

 

レイはロゼを見て、首をかしげる。

ロゼは頭を掻きながら、

 

「えーと、レイはさ、スレイとミクリオはともかく、私たちのことは名前で呼ばないでしょ?イズチの人たちのことは名前で呼んでるみたいだし。」

「アンタ、今更それを言っちゃうのね。」

「私たちもずっと思ってましたからね。」

 

エドナは真顔で、ライラは苦笑いでロゼに言う。

ミクリオは顎に指を当てながら、

 

「そういえば、そうだったな。」

「えー、そうだったか?」

 

スレイは腕を組んで悩む。

デゼルはロゼ達を見ながら、

 

「今更別に名前くらいどうでもいいだろう。」

「よくない!」「よくないわよ。」「よくありませんわ!」

 

ロゼ、エドナ、ライラはデゼルを睨む。

デゼルは腰が少し後ろに引く。

そしてロゼは再び腕を組み、

 

「そもそも、名前を知らないとは思えないし。ね、レイ。深い意味がないならロゼって呼んでみ。」

「待ちなさい。呼ぶにしたって、アンタより長くいるワタシたちの方が先でしょ。」

「そうですわ!そこは譲れま――」

「――じゃないから。」

「へ?」

 

ロゼ達はレイを見る。

レイはロゼ達を見て、

 

「家族じゃないから。お兄ちゃんたちはイズチの皆は家族だって。家族はそうするものだと言った。だから私はそうしてきた。」

「あー、なるほどね。」

 

ロゼは視線を外しながら頭を掻く。

その表情はどこか悲しそうだ。

スレイとミクリオが、レイに声を掛けようとした。

だがレイは一呼吸置き、

 

「だって、あなたたちは家族ではなく……仲間、だから。」

「え?」

「お兄ちゃんたちの仲間。だから家族じゃない。」

 

スレイ達は目をパチクリする。

そしてロゼは笑い出す。

 

「あはは、なるほどね。それは確かにそうだ!」

「よかったわね、嫌われてなくて。」

「それはエドナさん自身もでしょ。」

「そうだよ、素直に喜びなって!」

「うるさいわよ。ワタシは別に何も感じてないわ。」

「またまた~。」

「エドナさん、ここは素直になってはどうですか?」

「いい加減にしないと岩をぶつけるわよ。」

「「ええ‼」」

 

エドナは二人を睨む。

それを見たスレイ達は、

 

「ガキか。」

「まったく、子供だな。」

「かもな。」

 

と、笑ってる。

すると、エドナは人形を握りしめ、

 

「うるさいわよ、ミボ!元々、おチビちゃんと仲がいいからって偉そうに!」

「僕だけ⁉」

「大体、ミボよりスレイの方がおチビちゃんは懐いてるわよね。」

「な⁉そんなことはない!」

 

と、二人は睨み合う。

 

「まぁ、落ち着けよ。ミクリオ。」

「そうだよ。ただエドナは素直じゃないだけで。」

 

スレイとロゼが止めにかかるが、

 

「だからワタシは違うわ。ミボと違って。」

「また繰り返すのか⁉」

 

と、再びエドナが悪戯顔でミクリオを見始める。

そこに、笑い声が響く。

 

「ぷっ、あはは!あー、やっぱりコントだ。」

 

それはレイだった。

レイは口元に手を当て、笑顔で笑っていた。

それを見たスレイ達は口を開けて驚く。

そしてレイは笑顔のまま、

 

「仲間は名前で呼び合うものなの?」

「え?あ、ああ!」

 

問われたスレイは首を縦に大きく頷く。

レイは笑みを深くし、

 

「じゃあ……デゼル!」

「俺か⁉」

「そ、面白そうだから!」

「「デゼル~!」」「デゼルさん!」

 

案の定、デゼルはロゼ達に捕まる。

レイはふと考え込む。

スレイとミクリオはそれを察して、

 

「きっと、アリーシャのことも名前で呼んだら喜ぶよ。」

「ああ。今のレイを見たら驚きそうだ。」

「そう……じゃあ、会ったら言ってみる。」

 

レイはロゼ達を見て、

 

「ライラ、エドナ、ロゼ。これからも、お兄ちゃんとミク兄をよろしく。」

「レイさん‼」

 

ライラは涙を浮かべてレイに抱き付いた。

レイはそんなライラの背をそっと抱きしめる。

ロゼ達も笑顔になる。

ロゼは腰に手を当て、

 

「よしっ!明日は早い。もう寝ようか。レイも――」

「それはイヤ。お兄ちゃんとミク兄と寝る。」

 

そう言って、ライラから離れてスレイとミクリオの腕にダイブする。

ロゼは残念そうに、

 

「あちゃー、振られちゃった。」

「まだその辺はガードが固いですわね。」

「そうね。」

 

解放されたデゼルはぐったりして、帽子を深くかぶる。

そしてそれぞれ床に入るのであった。


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