テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第十七話 それぞれの想い

ペンドラゴへと戻ったスレイ達。

門をくぐってすぐに、騎士兵達が立っていた。

 

「おお、導師殿!」

 

スレイ達は彼らに近付く。

騎士兵達の声は切羽詰まっていた。

 

「教会が白皇騎士団の討伐を皇帝陛下に奏上しました。ニセ導師を奉じて反乱を企てた咎とのことです。」

 

スレイ達は眉を寄せる。

ミクリオが腕を組んで、

 

「対応が早い。ゴドジンのことが、もう伝わっているのか。」

「オレが関わったせいで……」

「スレイはニセじゃないでしょ。口実よ、口実。」

 

ロゼが落ち込むスレイを見て言う。

 

「詳しくは騎士団塔で。団長がお待ちです。」

 

ライラは手を握り、

 

「フォートン枢機卿……やはり油断できない相手ですね。」

「上等だぜ。こっちの準備は整ってる。」

 

デゼルが拳を握る。

スレイ達は騎士団塔へ急ぐ。

 

騎士団塔へ入り、騎士セルゲイに近付く。

 

「スレイ!よく無事で!」

「枢機卿が騎士団の討伐を言い出したって?」

「ああ。きっかけは先ほど届いた手紙だろう。」

 

スレイにその手紙を手渡す。

スレイはその手紙を見て、読み上げる。

 

「『我、ボリス・ストレルカは、フォートン枢機卿の異端技術を目撃す。枢機卿は教会神殿で邪法を用い、ペンドラゴに降りやまぬ雨を降らせている』。」

「枢機卿が雨を降らせただって⁉」

「冗談でしょ⁉」

 

驚くミクリオとロゼ。

だが、デゼル達は、

 

「可能だろうな。あれほどの領域をもつ奴なら。」

「それにここに来る前に、おチビちゃんも言っていたでしょ。この雨は止まない、雨を降らせてる者がいるって。その時、枢機卿かもしれないって事は言っていたはずよ。それに、大陸を動かした天族だっているんだからね。」

 

ライラは、エドナの言葉を悲しく聞く。

スレイがエドナを見て、

 

「大陸を動かす⁉」

 

話を脱線しそうになるスレイに、

 

「スレイさん、今は続きを。」

 

スレイはライラに言われた通り、続きを読み上げる。

 

「『フォートンこそ帝国と民を呪詛する邪なる者なり。我は、すでに枢機卿の呪いに囚われし。後事は、兄、セルゲイと仲間に託す』。」

「事ここに至った以上、枢機卿と戦うしかない。」

 

騎士セルゲイは剣に触れ、力強い目でスレイを見る。

 

「スレイ、教皇様は?」

「……そのことでみんなに伝えなきゃならないことがあるんだ。」

 

スレイはゴドジンでの事を彼らに話す。

騎士セルゲイは肩を落とし、

 

「そうか……あの方は戻られないのか。」

「勝手に決めて、ごめん。」

 

と、騎士兵達は騒ぎ出す。

 

「教皇様が戻られないだって?」

「後ろ盾なしで、どうすればいいんだ⁉」

「これは裏切りじゃないのか⁉」

 

騎士セルゲイは後ろを振り返り、剣を抜く。

そしてそれを床に突き立てる。

彼らを見て、

 

「騎士団こそ!帝国と民を守る盾だったはずだ!今の事態は、我々が自分の責務を教皇様任せにしたせいで起こったのではないのか?誰かに頼る前に、やらねばならないことがあるはずだ。我らが獅子の剣にかけて。」

 

騎士セルゲイは剣を掲げる。

そして騎士兵達も、剣を掲げ、

 

「はっ!獅子の剣にかけて!」

 

やる気満々の彼らにスレイは、

 

「待った!枢機卿の相手は普通の人間には……」

「ここまでで十分だ。」

 

騎士セルゲイは剣をしまい、スレイを見る。

 

「スレイにまで、教皇様と同じ苦しみを背負わせるわけにはいかない。」

「スレイさん。民のためとはいえ、これは政争ですわ。」

 

ライラが後ろからスレイを見て言う。

だがスレイは、

 

「そうだろうけど……」

「その手紙を持ってきたのは誰。」

 

レイが騎士セルゲイを見上げて言う。

騎士セルゲイはレイを見下ろして、

 

「仮面をつけた少年だ。彼は弟ボリスの願いを叶えに来たと言って、この手紙を持ってきた。」

「その仮面の少年って……もしかして審判者か⁉」

 

ミクリオは眉を寄せて言う。

 

「そう……」

 

レイは口に指を当て考え込む。

そしてスレイ達を見て、

 

「なら、こちらにはこちらにしかできない事をすればいい。導師としての役目を。」

「え?」

 

レイは窓を指差す。

ロゼはポンッと手を叩き、

 

「そっか!じゃ、こうしない?あたしたちは枢機卿が本当に雨を降らせてるのかどうか調べる。その間にセルゲイたちは、騎士団を信じてくれるよう皇帝を説得する。」

 

スレイはロゼを見る。

騎士セルゲイは眉を寄せ、

 

「結局、スレイが枢機卿と戦うのではないか?」

「目的は謎を調べることだよ。知りたいでしょ?」

 

そう言ってスレイを見る。

スレイは眉を寄せたまま、黙っている。

ロゼはレイを見て、

 

「レイも、そうだよね?」

「ん。それに私は、見なければならない。あの者の最後の結果を……」

 

そう言って、外を見る。

レイは騎士セルゲイを見上げ、

 

「だから貴方は選んだ答えの道を進めばいい。後悔をしないように……だってそれが、あなた自身の願いの答えであり、弟の願いだから。その願いは叶えて貰うものではなく、自身で掴み取るものだから。」

 

そしてスレイはレイを見た後、決意した。

スレイはロゼを、みんなを見て、

 

「ああ、オレも知りたい。雨を降らせる力があるのかどうか。」

「……すまん。危険な役ばかりさせてしまう。」

 

俯く騎士セルゲイに、

 

「危険なのは、そっちだよ。枢機卿の要請が通っていればアウトだし、皇帝を説得できなくてもお終い。」

「説得できたら枢機卿を捕まえられるよ。きっと。」

 

ロゼは腕を組んで、彼に言う。

そしてスレイも、騎士セルゲイを見て言う。

騎士セルゲイは胸に拳を当て、

 

「必ず説得しよう。民と友のために。」

 

スレイと騎士セルゲイは互いに頷き合う。

スレイ達は教会神殿へと向かう。

 

騎士団塔から出て、

 

「ボリスって弟だったわよね。セルゲイの。」

 

エドナは思い出す。

ミクリオは眉を寄せ、

 

「枢機卿を探っていたんだ。命懸けで。」

「セルゲイ、冷静な顔をしてたけど……」

「内心は悲しんでいた。それに悔やんでいた。だからこそ、選んだ道をちゃんと進んで欲しい。」

 

レイは胸に手を当てて言う。

その瞳は赤く光っている。

だが、その気配は裁判者ではない。

それが分かっているからこそ、ライラは悲しそうに呟く。

 

「レイさん……」

「行こう、俺たちにできることをやりに!」

 

スレイは前を向いて、歩みが力強くなる。

デゼルがロゼを見て、

 

「おい、こんなことに命を賭ける必要があるのか?」

「あたしは賭けてみてもいいって思ってる。デゼルはどうか知らないけど。」

「ふん。」

 

ロゼも、歩みが強くなった。

デゼルはそっぽ向いて、後に続く。

 

スレイは教会神殿の少し手前で、

 

「教会神殿、正面から入るよ!」

「今更だね。秘力を信じて飛び込もう!」

 

ロゼは腰に手を当て、スレイを見て言う。

そしてスレイは扉に手をかけ開ける。

中に入り、ロゼが見渡しながら、

 

「見張りもいないとか罠っぽすぎるね。」

「けど、これなら思いっきり暴れられる。」

「ふふ、言うねえ。」

 

自信満々に言うスレイに、ロゼは笑みを浮かべる。

スレイ達は奥へと進む。

奥の間に進むと、穢れの領域が展開される。

 

「来たぞ!」

 

ミクリオが叫び、全員が警戒する。

 

「前みたいには!」

 

スレイは地面を触り、領域を破る。

 

「よしっ!」

 

スレイ達は喜びを表す。

ロゼが指を鳴らして喜んだが、

 

「は、いいけど……」

「なんて穢れだ。」

 

ロゼは顔を引きつって周りを見る。

スレイも周りを見て言う。

ミクリオは腕を組み、

 

「枢機卿に憑いているのは、まさかマオテラス?」

 

ライラが手を上げて、

 

「すぐ近くにいるネコのマネをしま~す!にゃあ~!」

 

と、手を添えて言う。

辺りは居たたまれない雰囲気になる。

ロゼが頭を掻きながら、

 

「領域が復活したのかと思った。」

「スベるネタを言うのも誓約?」

 

ミクリオは真顔で聞く。

ライラは肩を落とし、

 

「今のは、結構とっておきだったんですけど。」

 

と、後ろから「ぷっ、くっくっく。」と言う笑いが聞こえた。

エドナは一人背を向けているデゼルを見る。

そしてロゼもまた悲しそうに、

 

「デゼル……まさかウケてる?」

 

と呟きながら見ていた。

スレイはそれには気づかず、

 

「多分、マオテラスじゃない。」

「根拠は?」

 

ミクリオも後ろには触れず、スレイに聞く。

スレイは辺りを探りながら、

 

「マオテラスと同じ五大神ムスヒ配下のエクセオがあの強さだった。この領域も相当だけど、エクセオとは桁違いというほどじゃない。」

「なるほど、論理的だね。めずらしく。」

 

スレイがまともな話をしている中、後ろではデゼルの笑いのツボを探っているロゼとエドナ。

その彼らに、レイは無表情で、

 

「先に行くみたいだけど……いつまでやるの?」

「あ…ごめん、ごめん。」

 

と、ロゼもスレイと共に歩き出す。

そして碑文の元まで行くと扉が開く。

デゼルが奥を見て、

 

「……あの奥。なにかいるぞ。」

「あからさまに罠だな。けど……」

「隠し扉ってワクワクしちゃうよな。」

「否定できないのが悔しいよ。」

 

笑うスレイに、ミクリオは腰に手を当てて言う。

そしてレイは碑文を見上げていた。

ロゼもそれを見て、

 

「村長さん、この文章全部暗記してたんだよね。よくやるなあ……。あ、でもそれを言ったらレイも、か。」

「『導師に四つの秘力あり。すなわち地水火風。其は災禍の顕主に対する剣なり』。」

 

スレイは呟く。

ロゼは目を見開いて、

 

「レイと村長さんが言ったヤツ!覚えてるの⁉」

「大体だけど。」

 

スレイは頬を掻きながら言う。

ミクリオは腰に手を当て、

 

「案外得意だよな。そういうのは。」

「ごめん、スレイ!ちょっと尊敬。」

 

ロゼは真顔で言った。

スレイは目をパチクリしながら、

 

「え?なんで謝られた?」

「しかし、結局導師の秘力ってなんなんだろう?」

 

それを無視し、ミクリオは腕を組んで悩む。

ライラが碑文を見つめ、

 

「自然は地水火風の四つで構成されています。そして、それを司る最古の天族たちがいる。」

「ウマシア、アメノチ、ムスヒ、ハヤヒノだね。」

 

スレイがライラを見て言う。

 

「はい。グリンウッド大陸のあらゆるバランスは彼らによって支えられているのです。」

「そこまでいくと、もう神様だよね。実感ないけど。」

「それは僕たちも同じだ。天響術の源も彼らのはずだが、意識することはないものな。」

「五大神とは裁判者や審判者とはまた違った意味で、そういうレベルの存在なのですわ。おそらく秘力とは、彼らの加護を得て地水火風の力をより強く発現させるものなのでしょう。」

「災禍の顕主に対抗するために……か。」

「すごい力だけど、戦いのためなのは残念だね。」

 

スレイとミクリオは悲しそうに言う。

ロゼは唸りながら、

 

「う~ん、ということは、だ。裁判者と審判者も、ある意味では神様みたいな存在ってことだよね。」

「そうなるね。でも、彼らは神様と言うより……」

「どこか子供って感じがする。」

「あ~、なんとなくわかるかも。」

 

スレイとミクリオ、ロゼは互いに見合って言う。

レイはそれを聞いて、小さく呟いた。

 

「そう思えるのは凄いことだと思う。この感情が意外性とかそういうのかな?」

 

レイは歩き出す彼らの後ろに付いて行く。

 

奥へと進むと、迷路と化していた。

そして祭壇の所に瞳石≪どうせき≫があった。

スレイはそれを手に取る。

 

――二人の人物が居た。

一人は見知った長い銀の髪を一つに結い上げ、赤を基準とした服。

そしてもう一人はスレイに似た導師服を着て、導師の紋章のマントを着ていた。

彼らは高い丘の上で話し合っている。

導師服の男性はライラに導師の紋章の手袋を渡し、ライラは少し悲しそうに彼を見ている。

そして俯き、首を振る。

そして導師服を着た男性は祭壇のある鳥居のような門に向かって歩いて行く。

 

ライラは悲しそうに手を握り、俯く。

 

「今の人って……導師だよね?」

「……はい。」

「そっか。落ち着いた雰囲気の人だね。」

 

スレイは笑顔で、ライラに優しく言う。

そしてすぐに横から、

 

「誰かと違って。」

「うっせ。」

 

ミクリオが真顔で言う。

 

「ま、ひとつ事実がわかったし。」

「ああ。次に行こう。」

 

二人は歩き出す。

ライラは顔を上げ、

 

「え?」

「もっと聞かなくていいの?先輩の情報、超貴重でしょ?」

 

ロゼがスレイを追いかけながら聞く。

 

「黙っていたのは理由があるから。でしょ?」

「それくらいわかってるさ。」

 

二人は立ち止まり、ライラに振り返って言う。

 

「スレイさん、ミクリオさん……」

 

ライラは嬉しそうに微笑む。

デゼルが帽子を深くかぶり、

 

「その理由が問題だろうに。後悔しなけりゃいいがな。」

「そんな子供じゃないわよ。あの子たちは。」

 

エドナは傘をクルクル回しながら言う。

そして歩き出す。

レイはそれに付いて行きながら、

 

「……導師――」

 

その後の言葉は本当に小さく聞き取れないほど、本当に小さい呟きだった。

そしてライラの背を見て、スレイとミクリオの元へ駆けて行く。

 

迷路のような道を進んで行く。

途中、枢機卿の放っていた憑魔≪ひょうま≫と戦うこともあったが、奥へと急ぐ。

 

ロゼは歩きながら、

 

「スレイ、一個いい?」

「うん?」

 

ロゼは首に手を当てながら、

 

「教皇に会って思ったんだけど、戦争の手続きを進めたのは、フォートン枢機卿だと思う。あの村長に開戦の決断は無理だろうしね。」

「それって、ロゼは枢機卿を……」

「スレイは浄化したいんだよね?枢機卿のこと。」

 

全てを言う前に、ロゼは腰に手を当て、スレイをまっすぐ見て言う。

スレイもまっすぐロゼを見て、

 

「ああ。憑魔≪ひょうま≫になっちゃったけど、あの人の責任感は本物だって信じたい。」

「だから浄化すれば救えるかもしれない。」

「そう思ってる。」

「わかった、やってみよう。あたしもフォローするからさ。」

 

ロゼはニッコリ笑顔で言う。

スレイは呆気に取られ、

 

「ロゼ……」

「なにも言うなって。そういうことだから。」

 

ロゼは進んで行く。

それを後ろでレイは黙って聞いていた。

 

そして最奥の部屋へと入る。

中には人の姿をした石像が沢山あった。

どの石像も恐怖に満ちていた。

レイはそれを見て、

 

「…………これが力を得た者の末路か。」

 

スレイ達もその光景を見る。

ロゼはきょろきょろ見渡しながら、

 

「なにここ?美術館??」

「なかなかいい男。」

「美形さんですわね。」

「へー、こういうのがタイプなんだ。」

 

エドナは目の前の男性石像を見て言う。

ライラもその石像を見て、口元に手を当てる。

ロゼもその石像を見た後、ライラとエドナを見た。

そう聞かれたライラとエドナは、

 

「特にそういうわけでは……」

「きらいじゃない。生々しくて芸術的。」

 

スレイも石像を見て、

 

「ほんと。生きてるみたいだな。」

「正確には『生きていた』だな。」

「え?」

 

デゼルがそっと、それでいて重々しく言う。

デゼルが見ていた石像を見て、

 

「セルゲイそっくり⁉」

 

そこには鎧を着た騎士セルゲイとそっくりの石像。

その表情は悔しそうだ。

ライラは眉を寄せ、

 

「スレイさん、この方はセルゲイさんの弟さんでは……?」

「この石像は人間!」

 

スレイも眉を寄せて、周りの石像を見る。

ロゼは目を見開いて、

 

「いるの?人を石に変える憑魔≪ひょうま≫なんて?」

 

レイはある所を見つめる。

そしてライラが思い出しながら、

 

「聞いたことがあります。確か――」

「騒がしいですね。祈りを邪魔しないでください。」

 

奥の方から女性の声が響く。

スレイ達はその方を見て、

 

「祈りって、雨を降らすためのか?」

「その通り。」

「なんで⁉」

 

ロゼは声を上げる。

 

「恐怖で民の心をひとつにするため。追いつめられた民衆の力を導き、帝国に勝利をもたらすのです。邪魔をするものには――」

 

そしてズルズルと何かを引きずる音。

暗闇から出て来たのは憑魔≪ひょうま≫の姿をしたフォートン枢機卿であった。

彼女はゆっくりとこちらにやって来る。

その姿は下はヘビの胴体に、髪までヘビを化していた。

 

「永遠を与えましょう!」

 

ライラは一歩下がり、目を貸しす。

 

「見ないで!メデューサは目があった者を石にします!」

「くそ!」

 

スレイ達は目を隠す。

レイは普通に彼女を見ている。

そしてもう一人。

 

「あたしが突破口を開く!」

「下がってろ!」

 

デゼルが前に出ようとするロゼを引き戻す。

そしてデゼルは前に出て、

 

「愚かな!私は天族も永遠にできるのですよ!」

 

そう言って、デゼルに邪眼を向ける。

デゼルは笑みを浮かべ、

 

「そうかよ!」

 

ペンデュラムをフォートン枢機卿に向けて投げる。

それは彼女に直撃する。

 

「ぐあああっ!」

「は!お前自信は永遠じゃないみたいだな。」

「貴様ぁ……なぜだっ⁉」

 

そして髪のヘビで攻撃する。

それをデゼルは避ける。

 

「うおっと!」

 

そして帽子が落ち、長い前髪の間から瞳が見える。

そしてそれを閉じたり開いたりする。

 

「……そういうことか。」

 

フォートン枢機卿を見るデゼルの瞳は光をさしていない。

つまり何も映していないのだ。

それを知ったロゼは、

 

「デゼル……あんた。」

「目が!」

 

スレイも眉を寄せ、彼を見る。

デゼルは帽子を拾いかぶりながら、

 

「好都合だろ?」

「永遠を与えるというのはやめます。私を邪魔する者には――」

 

デゼルを睨み上げ、

 

「刹那の死をぉぉぉっ‼」

 

スレイ達は武器を手に戦闘態勢に入る。

デゼルが警戒しながら、

 

「来るぞ!奴が目を開いた時は俺を神依≪まと≫え!」

「あんた、見えなくてなんで戦えるの⁉」

「俺をなんだと思ってる?風の動きで全部読めるんだよ!」

「すごいね、見直した!」

「おだてる暇があったら集中しろ!」

 

嬉しそうに言うロゼに、デゼルは注意する。

スレイはデゼルと神依≪カムイ≫をして、フォートン枢機卿と戦闘を行う。

それをしばらく見ていたレイは、歌を歌い出す。

フォートン枢機卿の動きは鈍くなる。

 

「この……この私の邪魔をするなあああっ!」

 

フォートン枢機卿の髪のヘビがレイの首へと巻き付く。

 

「レイ!」

「来るな、導師!」

「くっ!」

 

フォートン枢機卿はレイの首を絞め上げていく。

レイは締め付けるヘビを握る。

そしてレイの赤く光る瞳が、フォートン枢機卿を見下ろす。

 

「お前が……お前が私にこの力をよこしたのだ!私は私の願いのためにこれまでやってきた!」

 

それを聞き、スレイは眉を寄せ、

 

「裁判者が枢機卿に手を貸していた?」

「いいえ、彼女はおそらく願いを叶えただけでしょう。」

「ホント、嫌なヤツ。最後の後始末さえ、何もしないんだから!」

 

ライラとエドナも眉を寄せ、怒るように言う。

フォートン枢機卿は力を強め、

 

「なのに、なのに、私にまたその瞳を向ける!忌々しい‼ああ、忌々しい‼私の邪魔ばかり、どいつもこいつも‼」

「哀れな人間が。これが私が叶えた願いの果ての結果か。やはり変わらん。願いを叶えた所で何も変わらない。いつもあるのはこの感情ばかり。お前も所詮は穢れに飲まれる愚かで、哀れな人間に過ぎなかったな。」

「黙れ!黙れ!黙れ‼今のお前を殺すことぐらい、私にはできるのですよ!貴女に刹那の死をぉぉっ‼」

「止めろ‼」

 

スレイが飛び込むよりも早く、フォートン枢機卿のレイの首を締め付ける方が早かった。

掴んでいたレイの腕は落ち、そのままドサッと地面に落ちる。

 

「「レイ!」」「おチビちゃん!」「マジか⁉」「レイさん⁉」

 

スレイは目を見開いて固まる。

フォートン枢機卿は顔を手で覆い、笑い出す。

 

「あはは、あはははは!何が裁判者だ!所詮はただの人間と変わらない!簡単に殺せるではないか‼そうよ、私はやっぱり――」

「やっぱりなんだ?」

 

フォートン枢機卿は笑いを止め、指の間から仰向けに倒れている小さな少女を見る。

息すらしていなかった小さな少女の胸が上下し始める。

そしてただの赤い瞳は再び赤く光り出す。

 

「自分は正しいと、そう言いたいのか?人間。」

 

小さな少女は風に包まれ、服が白から黒へと変わる。

そして態勢を変え、自分の前に立つ。

先程と変わらぬ赤く光る瞳が自分を見る。

 

「それで、どうだった?私を一瞬とはいえ、殺せた感想は。」

「バカな!バカな!バカな‼そんな、嘘⁉嘘よ‼」

 

小さな少女の足元から出てくる黒い何かが、フォートン枢機卿に近付く。

だが、その動きを止める。

視線をスレイ達へ向け、

 

「お前はどうしたい、導師。」

「え?」

 

スレイは小さな少女を見つめる。

 

「この器を殺され、どうしたい?」

「……レイは本当に⁉」

 

それはスレイではなく、ミクリオの呟きだった。

ロゼとエドナは、小さな少女を見て、

 

「大体、こうなったのはアンタがその人間に力を与えたからでしょ。」

「そうだよ!どうして、こうなる前に止められなかったの!」

「止める必要は私にはない。」

「は?」

 

ロゼは眉を寄せる。

小さな少女は無表情で続ける。

 

「私は願いを叶えるだけだ。その後のことは知らん。穢れに飲まれようが、死のうが、殺されようが、私には関係のないことだ。」

「なっ⁉」

 

ロゼは小さな少女を睨む。

スレイの瞳は小さな少女へ向けられる。

 

「……スレイさん……。」

 

ライラは悲しそうにスレイを見た後、小さな少女に眉を寄せ、

 

「もうこれ以上、レイさんを気付けないで!」

「変な事を言うのだな、主神。まるで、この器に感情があるようではないか。」

「レイさんは、レイさんだけの感情を持っています!まだ幼く、小さな感情ですが、それを必死にわかろうと……理解しようとしているです!それを貴女は――」

「なら、どうすると言うのだ?」

 

赤く光る瞳がライラを射貫く。

ライラは必死にその瞳を睨む。

と、スレイは覚悟を決め、

 

「オレは、そのやり方は間違ってると思う!いくら願いを叶えるのが君の役目でも、こんな結果を出すのはおかしい!だからレイを、返してくれ‼戻ってこい、レイ‼」

 

と、叫ぶ。

その瞬間、小さな少女を風が包み、黒と白が交差する。

白に代わる瞬間、小さな少女はスレイを見て、

 

「なるほど。なら今はそれでいい。早くこの器を――」

 

小さい声で何かを呟き、白い少女がその場に座り込む。

レイはなおも赤く光る瞳で、辺りを見る。

 

「そうよ、そうだわ!だったら、殺し続ければいい‼」

 

フォートン枢機卿は再びレイに髪のヘビを向ける。

しかし、

 

「「させるか!」」

 

ミクリオがそれを防ぎ、スレイが浄化の炎で斬り付ける。

青い炎に包まれながら、フォートン枢機卿はスレイを見る。

 

「導師いぃぃ……」

 

そして倒れ込んだ。

フォートン枢機卿は青い炎に包まれながら、拳を握りしめる。

 

「穢れ……じゃない……!私は民のため!国のためにこの身を捧げてきた!」

「な、なんだ⁉」

「私は……穢れてなどいないっ!」

 

レイはフォートン枢機卿を見つめる。

彼女は再び立ち上がる。

 

「浄化できない⁉」

 

ミクリオがフォートン枢機卿を睨む。

スレイは彼女を見たまま、

 

「ライラ、もう一度!」

「はい!」

「私は……導く者の責務をっ!果たすっ‼」

 

フォートン枢機卿はスレイ達を睨む。

その穢れはどんどんと増えていく。

レイは眉を寄せた。

 

「もう人にすら戻れない。」

 

ロゼも、フォートン枢機卿を睨み、

 

「生み出す穢れが多すぎる……」

「なんとかとめないと。」

「それには枢機卿が自らの心を改めなければ……」

 

ライラの言葉を聞き、ロゼは彼女の方へ視線を向け、

 

「無理だよ、それ。」

 

そしてロゼはレイを見る。

レイは頷く。

ロゼも頷き、視線をフォートン枢機卿へ戻す。

 

「ね、スレイ。正義の心が穢れを生むとしたら、どうすればいいと思う?」

「それは……」

 

スレイは悲しそうに、ロゼを見る。

ロゼはフォートン枢機卿を睨んだまま、

 

「この人がそうなんだよ。世界の正義と自分の正義を一緒にしちゃってる『悪』。」

 

スレイは肩を上下し、呼吸が荒くなる。

 

「殺すしかないだろうな。」

 

デゼルがそう言うと、フォートン枢機卿は笑みを浮かべ、

 

「殺す?私が死んだら帝国を誰が導くというの?幼帝や騎士団に、政治のなにがわかる?導師が心を救えば、飢えがしのげるのかっ⁉見ているだけの裁判者どもとは違うのだ‼」

 

フォートン枢機卿の穢れはより一層濃くなり、

 

「私は責務を……げひっ!正義を!貫ぐううっ!」

「もう完全に心すら壊れた。」

「レイ?」

 

ミクリオがレイを見下ろす。

レイは手を耳に当て、

 

「もうぐちゃぐちゃだ、あの人間は!」

 

眉を寄せ、地面を見つめる。

その足元の影が揺らぎだす。

 

「いひひっ!私が!救いをっ!ひひゃひゃひゃひゃっ!私が!導ぐっ‼」

 

そうして前のりとなる。

ライラもレイの言った言葉を理解し、悲しそうにフォートン枢機卿を見る。

 

「レイさんの言った通り、心が壊れてしまった……」

「ええ、もう人には戻れない。」

「敵意が穢れを強めてしまったのか。」

「オレたちへの……」

 

スレイは覚悟を決めたかのように、前へ歩み寄る。

 

「「「スレイ!」」」「スレイさん!」

 

レイはスレイを見る。

もはや動くことすらないフォートン枢機卿の前に膝を着き、短剣を取り出す。

 

「こんな答えしか出せなくて――」

 

短剣をフォートン枢機卿へと向け、

 

「ごめん。」

 

スレイは目をギュッと瞑る。

そして彼女へと短剣を刺す。

暗闇の中、グサッと言う音がする。

スレイが瞳を開けると、ロゼが自分と枢機卿の間に居た。

スレイの短剣を自身の短剣の一つで止め、ロゼのもう一つの短剣が枢機卿を刺していた。

そしてフォートン枢機卿も、自身の状況を理解し、

 

「――‼」

 

声にならない言葉のような悲鳴を静かに、苦しそうに言いながら倒れた。

スレイはその状況をただ見ているしかない。

そしてロゼは倒れたフォートン枢機卿を見て、

 

「……眠りよ。康寧≪こうねい≫たれ。」

 

フォートン枢機卿は人の姿へと戻る。

 

「なんで……?」

 

スレイはロゼを見上げる。

ロゼは短剣をしまいながら、

 

「あんたの決意はよくわかった。それでも――」

 

そしてスレイを横目で見て、

 

「スレイは殺しちゃダメだと思う。」

「けど、ロゼ……」

「スレイの仕事は生かすこと。あたしの仕事は殺すこと、でしょ?」

 

ロゼは笑みを出しながら、スレイを見て言う。

スレイは複雑そうな悲しそうな顔でロゼを見る。

 

「ロゼ……」

 

ロゼは手を叩き、

 

「さぁ!後片付けは、セルゲイたちにお願いしよ。こっからは、あいつらの仕事。」

 

そう言って、ロゼは歩いて行く。

その後ろをデゼルが歩いて行く。

スレイは立ち上がり、彼らを見る。

ライラは俯きながら言う。

 

「私、ロゼさんは強い方だと思ってました。でも、違いますわね。」

「優しい奴なんだ。」

 

ミクリオも、腕を組んで言う。

エドナは横目でスレイを見て、

 

「スレイ、そんな顔しないの。ロゼの気持ちを無にする気?」

 

スレイは俯き、悔しそうな、悲しそうな、複雑な顔をしていた。

 

「わかってる。でも……悔しいよ。」

「うん。悔しいな。」

 

ミクリオが前を向いたまま言う。

それを聞いたレイは、フォートン枢機卿を見つめる。

 

「間違ってる……いくら願いを叶えるのが君の役目でも、こんな結果を出すのはおかしい、か……。いつかそれは矛盾となる……誰の言葉だったかな……」

 

レイは胸に手を当て、

 

「もしこの人間の願いが違ったのなら、違う願いの叶え方があるのだろうか……。人間も、天族も、この世界に生きる者達は儚く弱い生き物。その願いで手に入れた力を、貴女は誰かと共に使うべきだったのかもしれない。違う……手に入れた力ではなく、誰かと共に力を合わせるべきだったのかもしれない。ああ、だから私たちは――」

 

レイは眉を寄せ、

 

「こんなにもぐちゃぐちゃな感情を、彼らは受け、見続けたのだろうか……。」

「レイ。」

「なに、ミク兄?」

 

レイはミクリオを見上げる。

ミクリオは膝を着き、

 

「レイはその……怪我は大丈夫なのか?」

「……大丈夫。心配しなくても、私は――」

「え?」

 

レイはミクリオに聞こえない声で、最後何かを言った。

ミクリオはその声を聞き取れてはいない。

が、その顔はとても悲しそうであった。

それはレイの悲しそうな、辛そうな笑みのせいだろう。

だが、本人は気が付いていない。

 

「ミクリオ?レイ?」

 

そこにスレイがやって来る。

レイはスレイを見て、

 

「あれ、お兄ちゃん達が好きなやつでしょ。」

 

と、奥の指さす。

スレイとミクリオはそこを見て、

 

「マオテラスの紋章だよな?これは。」

「天遺見聞録が正しければね。」

 

ミクリオは立ち上がる。

 

「けど、ここは空っぽだ。」

「ああ。気配も領域も感じない。といっても、五大神の気配がどんなかなんてわからないけど。」

 

ミクリオは腕を組んで言う。

スレイは天遺見聞録を開き、

 

「そもそもマオテラスって謎の天族だよな。秘力だって地水火風があるのに、マオテラスのはないし。」

「五大神信仰の象徴的存在と思っていたが、裏があるのかもな。」

「……あれは子供にして子供にあらず。」

「「え?」」

 

レイは歩いて行った。

ミクリオはその背を見て、

 

「レイの言葉やマオテラスのこと、ライラはなにか知っていそうだが……」

「聞かない方がいいよな。」

 

スレイは頬を掻きながら言う。

ミクリオは苦笑いして、

 

「かわいそうだ。いろいろな意味で。」

「それにしても……ライラ、いつああいうネタを考えてるんだろうな?」

「それも謎だね。。マオテラス以上に。」

 

スレイは腕を組んで悩み、ミクリオは呆れたように言う。

そしてスレイ達はロゼとデゼルに追いつく。

石像と化してしまった者達を見て、

 

「……やりきれない。」

 

エドナはじっと見つめて言う。

ミクリオも石像となったものを見つめ、

 

「裁判者や審判者なら、彼らを元に戻せるのだろうか?」

「できるでしょうね。でもきっとやらないわよ。」

 

ロゼはエドナを見て、

 

「願いじゃないから?」

「ええ。」

 

そう言うエドナは傘を握りしめる。

レイは呟く。

 

「願いは万能にして災厄を呼ぶ。世界の平和を望んでも、その先にあるのは文化の終わり。この世界に生きる者には、感情と言う心の概念を持つ。だから裁判者や審判者は本当の願いしか叶えない。たとえそれが世界の終わりでも、誰かの大切なものの命や存在でも……」

 

スレイはライラを見て、

 

「……レイ。ライラ、裁判者や審判者の手を借りずに、元に戻す方法は――」

「それは……」

「スレイ、ライラ、困ってる。」

 

ライラは視線を外す。

ロゼはスレイを見つめて言う。

 

「……ごめん。」

「いえ、私こそ……」

「俺にもっと力があれば。」

 

スレイは拳を握りしめる。

そんなスレイに、

 

「図に乗るな。生き死にまで穢れると思うのか?」

「……勘違いしたらダメだよな。」

「妙な同情もだ。」

「そうだな。ボリスはなすべき仕事を果たしたんだ。自分の意志で。」

「私たちもやんなきゃ。」

「ああ。続けよう。俺たちにできることを。」

 

スレイ達は強い瞳を宿す。

帰り際、エドナは辺りを見て、

 

「領域が消えて、はっきりわかった。やっぱり、ここにはマオテラスはいない。」

 

そう言うと、ライラは急に背を向け、

 

「上から読んでも『ライライライラ』。下から読んでも『ライライライラ』。」

「おい。今はそんなことどうでも――」

 

ミクリオがエドナに言うが、エドナは珍しく大声を上げる。

 

「よくない。私たちは、五大神でもない憑魔≪ひょうま≫を鎮められなった。いくらアイツから、力を貰ったとしても。それはつまり、あのひげネコにも勝てないってことだもの。」

「ヘルダルフ……まだ遠いな。」

 

スレイは遠い目をする。

エドナは背を向け、

 

「そう思うならしっかりして。おチビちゃんのこともあるだから。」

「まだまだこれからですわ。」

 

ライラも優しく微笑みながら言う。

ミクリオもスレイを見て、

 

「まだ試練の神殿は三つも残ってるし。」

「くじけるのもまだ早い、よな。」

 

スレイ達が居なくなった後、デゼルは拳を握り、

 

「マオテラスでもヤツでもなかったか……。だが、まだ近くに気配を感じる。ヤツはまだローランスの中枢にいるはずだ。」

 

彼らは教会出口に向かう。

ミクリオが無言で足元を見て歩いていると、

 

「そう。もっと強くなりたいのね。」

 

エドナがミクリオの顔を覗き込んで言う。

ミクリオはガバッと顔を上げ、

 

「なにも言ってないだろう⁉」

「バレバレよ。」

 

ミクリオは歩くペースを上げた。

エドナは傘を開き、

 

「子供ね。」

 

エドナはゆっくり歩いていく。

 

ロゼは思い出したように、

 

「あ!デゼル、さっきは助かったよ。おかげでメデューサにばっちり勝てた!」

「……仕事をしただけだ。俺もお前も。」

 

ロゼはデゼルを見て笑い、歩いて行った。

 

教会神殿を出る。

雨は止み、少しだが日の光が見える。

と、騎士セルゲイが仲間達といた。

 

「スレイ、フォートン枢機卿は?」

「……亡くなった。」

「……そうか。」

 

騎士セルゲイは眉を寄せ、俯いた。

ロゼは騎士セルゲイを見て、

 

「そっちは?」

 

騎士セルゲイは顔を上げ、

 

「皇帝陛下は、我々を信じてくださった。だが、フォートン枢機卿も信じたいと。そこで、双方の言い分を聴取する場を設けると仰せられたのだが――」

「枢機卿は出られないね。」

 

ロゼが言う。

そしてミクリオが腕を組んで、

 

「騎士団が謀殺したと疑われる恐れがあるぞ。」

「ごめん。」

 

スレイが俯いて言った。

騎士セルゲイはスレイを見て、

 

「なんの、スレイが謝ることはない。全ての責めは自分が負う。」

「枢機卿を殺したのはスレイじゃない。本職の殺し屋だよ。」

 

ロゼが騎士セルゲイを見て言った。

そしてロゼは腕を組んで、

 

「そいつは、こんなこと呟いてた。『……眠りよ。康寧≪こうねい≫たれ』。」

 

スレイはロゼを横目で見る。

当の本人は自信満々だ。

騎士セルゲイはロゼを見て、

 

「それは、特級手配の暗殺ギルド『風の骨』が殺害現場に証拠として残す文言!事実なのか?」

「本当だよ。ね?」

 

と、スレイを見るスレイ。

 

「今更だ。気を遣う必要はない。」

 

デゼルがスレイに言う。

スレイは騎士セルゲイを見て、

 

「……ああ。」

 

考え込み、眉を寄せる騎士セルゲイをレイは見上げ、

 

「これから先、貴方は選んだ道に対し、今以上の大きな秤に賭けられる。その一つ一つをどのように選び、進み向かは貴方次第。」

 

スレイ達はレイを驚き、眉を寄せて見る。

そしてレイは、悲しそうに騎士セルゲイを見る。

 

「もし貴方の中に残るその願いを望んだ時、私は貴方の願いを叶える。でも、私はそうならない事を……永遠≪とわ≫に願う。もしそれが行われた時、それは私が貴方を――」

「む?」

「だから貴方は貴方の中にある正義を忘れず、信じてくれればいい。この先、何があろうとも。」

「……貴殿の言いたいことは大体理解した。私も励むとしよう。」

 

騎士セルゲイはスレイを見て、

 

「わかった。暗殺ギルドの件は上層部に報告しておこう。しかし、導師の前で暗殺をなすとは、風の骨――噂以上に恐るべき者たちだ。」

 

そして騎士セルゲイは歩いて行った。

スレイとデゼルはロゼを見る。

ロゼは腰に手を当て、

 

「そりゃあもう。」

「ああ、せいぜいよろしく伝えてくれよ。」

 

デゼルは騎士セルゲイの背を見たまま言う。

気持ちの切り替えは早い。

だがスレイは俯き、

 

「救えなかった。枢機卿も……。」

 

と、ライラが空を見上げ、

 

「雨が――」

 

そしてスレイ達を見て、

 

「少し街を歩いてみませんか。」

 

スレイ達は街を歩き出す。

 

「雨がやんだ……」

「……うん。まぶしいね、お日様。」

 

街を回り、騎士団や祭司達が国のため、民のために動いていた。

街の人々は雨がやみ、日が出てきたことを喜んでいた。

街に明るい声が響き渡る。

 

ライラはスレイを見て、

 

「救えたものもありましたわ、スレイさん。」

「教会神殿も見られたじゃないか。」

 

ミクリオも、腕を組んでスレイに言う。

エドナが傘を前にして、ミクリオの横で傘を回す。

 

「ポジティブミクリオ。略してポミね。」

「うわ⁉やめろって!」

 

ミクリオはそれを腕で庇いながら下がる。

エドナはさらに傘を回しながら、近付く。

しまいには傘を開いたまま、突き出す。

 

スレイは街の人々の笑い合う姿を見ていた。

ロゼも同じように隣で見て、

 

「いつまでもヘコんでんなよ。」

「ロゼ……」

 

スレイはロゼを見る。

ロゼはスレイに向かい、

 

「『ごめん』も『サンキュー』もなし!スレイもあたしも、やることやったんだから。お互い次も頑張るってことでOK?」

「……OK。」

 

スレイは頭を掻きながら言う。

ロゼは腰に手を当て、

 

「それでOK♪ってことで、一休みね。ちょっと疲れちゃったよ。」

 

そこに騎士セルゲイが近付いてくる。

レイは眉を寄せ、自分の耳を塞ぐ。

 

 

スレイ達を見る二人が居た。

一人は屋根の端に腰を掛け、スレイ達を見る紫を纏った二つ縛りの少女。

少女は無表情で彼らを見つめている。

そして、その隣には仮面をつけ、白と黒のコートのような服と長い紫色の髪を風になびかせている少年。

彼は少女とは対照的に、笑みを浮かべて彼らを見ている。

少年は彼らのすぐ傍にいる小さな少女を見る。

 

「あーあ、今回の件でさらに不安定になってる。だからちゃんと守るように言ってあげたのに……ね、導師スレイ。」

 

彼は笑みをより一層深くして微笑む。

 

 

スレイ達は宿で一泊した。

そして長い長い眠りに入り、朝を迎える。

 

「やっと起きた。」

 

外にいるロゼとデゼルの所に行く。

スレイは頭を掻きながら、

 

「寝過ぎちゃったよ。」

「レイはまだ眠そうだけどね。」

 

ロゼはスレイの服の裾を掴み、目を擦りながら立っているレイを見る。

レイは首をコクコクしていた。

そしてスレイ達は視線を横に向ける。

 

「皇帝陛下は御親政の決意をされた。」

 

そこには騎士セルゲイが騎士団の仲間の前に立ち、命令を下している。

 

「だが、枢機卿が束ねていた強硬派がそれぞれ怪しげな動きをみせている。」

「戦争をしたい奴らか……」

 

それを聞いたロゼ腕を組んで言う。

そしてミクリオも、

 

「まとまりがなくなった分、対処が難しいかもしれないね。」

「また人が……」

 

スレイは落ち込む。

レイは目が覚めたかのように、顔を上げる。

騎士セルゲイを見る。

 

「そうはさせない!」

 

騎士セルゲイがスレイの元へと歩いて来る。

 

「戦争は必ずとめてみせる。スレイたちの努力を無にしないために。」

「頼んだよ、セルゲイ。」

 

スレイと騎士セルゲイは頷く。

そして騎士セルゲイは騎士団と共に歩いて行く。

彼が居なくなった後、スレイは体を伸ばす。

 

「さてと!お腹すいちゃったな。」

「宿で腹ごしらえしよう。」

 

スレイとミクリオは歩き出す。

レイはその後ろに付いて行く。

ロゼは彼らの後ろ姿を見て、

 

「減るはずだよ。何も食べずに寝っぱなしとか。」

「いろいろありましたから。」

「スレイは、ね。」

「正確にはおチビちゃんも、よ。だから寝ないともたなかったのかも。」

「……大丈夫なのかな?きっとまたこんなことあるんだよね?」

「そうね。」

 

ロゼの言葉に、エドナは短く返事する。

ライラは俯く。

そこに明るい声が響く。

 

「おーい?」

 

見上げる方には、スレイ、ミクリオ、デゼル、そしてスレイと手を繋いで歩いているレイ。

ロゼ達は顔を見合い、彼らの元へ歩き出す。

 

「ドラゴ鍋、食べよっか?」

「起きがけからパワフルだねぇ……。でも賛成。」

 

宿屋に入ると、聞き覚えのある声がする。

 

「ドラゴ鍋……70点ってとこだな。」

 

その声の主の所にスレイ達は歩いて行く。

相手も、こちらに気付く。

 

「メーヴィン!」

「聞いたぜ。教会の件。」

「さすが早耳。」

 

ロゼが腰に手を当てて言う。

探検家メーヴィンは、スレイを見上げ、

 

「大変だな、導師ってのは。」

「ん、いろいろあるけど……大丈夫。」

「あたしもついてるし。あ、後レイもね。」

「ん。」

「そうか。で、なにかつかめたか?」

 

探検家メーヴィンは目付きを変える。

 

「うん。あそこにマオテラスはいなかった。」

 

そう言うと、ライラの顔付が変わる。

探検家メーヴィンは腕を組み、

 

「ほう?」

「本当なんだって。神殿の奥まで行ったんだから。」

 

ロゼが眉を寄せて言う。

 

「マオテラスは謎の多い天族だ。存在自体を否定する説があるほどだが……」

「存在するよ、マオテラスは。」

「え?」

 

後ろから声が響く。

スレイが振り返ると、黒いコートのような服を着た少年が笑顔で立っていた。

 

「ゼロ!」

「また会ったね、スレイ。それにロゼ。と、レイ。」

 

レイは少年ゼロを見上げ、すぐにミクリオの後ろに隠れる。

少年ゼロはそれには気にせず、

 

「そっちの方は初めてだよね?」

「ああ、彼はメーヴィン。探検家だよ。」

「メーヴィン……そっか、君が。」

 

少年ゼロは笑みを浮かべる。

 

「知り合い?」

「いや、彼自身に会うのは初めてだよ。他のメーヴィンには会ったことあるけど。」

「は?」

 

ロゼは首をかしげる。

少年ゼロは腰に手を当て、

 

「こっちの話。ね、メーヴィンさん。俺はゼロ、ヨロシク。」

「ああ。」

 

彼らは何やら見えない何かと睨み合った。

そして、彼はスレイに近付き、

 

「で、話を戻すけど、天族マオテラスは存在するよ。実際に証拠は残されてるしね。」

「確かに、教会神殿は信仰を集めてきた。アスガード隆盛期からずっとだ。相当強力な天族の加護がないと、そんなことは不可能じゃないか?」

 

ミクリオは腕を組んで考えながら言う。

スレイは眉を寄せて、

 

「つまり、マオテラスは存在し、祀られていたのは事実だと、オレもそう思う。」

「だとすると問題は、いついなくなったか。」

 

二人は悩み出す。

少年ゼロは面白そうに彼らを見ている。

 

「てか、マオテラスって大陸を全部加護するメチャスゴな天族でしょ。なら、いなくなったのは、その加護がなくなった時っしょ?」

「災厄の時代が始まった時か。」

 

ロゼの言葉に、スレイは眉を深く寄せ、呟く。

ミクリオが顔を上げ、

 

「待てよ!マオテラスの失踪が災厄の時代の原因だとすれば……」

「マオテラスの加護が戻れば、災厄は治まる。」

 

二人は頷き合う。

そして決意を固め、

 

「マオテラスを捜そう。」

 

スレイは少年ゼロを見て、

 

「ゼロはマオテラスについてどれくらい知ってる?」

「ん~、そうだなあ……人に簡単に言えるくらいと、言えないくらい?」

「なにそれ。」

 

ロゼは少年ゼロを見て言った。

 

「え~、だって事実だからね。と、俺は君に用があったんだ。」

 

と、膝を着いてレイを見る。

 

「まだ、消えちゃダメだよ。だってまだ俺は――」

 

彼は小さく呟いた。

その彼の表情は深い笑みを浮かべる。

レイはミクリオの足に強く抱き付く。

ミクリオはそんなレイを見下ろす。

少年ゼロは立ち上がると、スレイを見て、

 

「あ!これは教えてあげる。天族マオテラスを知るという事は世界を知るって事だよ。それは過去、現在、そして未来、のね。」

 

彼は深い笑みを浮かべて言う。

スレイを見て、

 

「じゃ、また会おうね。俺、君たちのこと期待してるから。」

「え?」

「頑張って世界を変えてみなよ、若き導師様。」

 

そう言って、手を振って宿を出て行った。

スレイは頭を掻きながら、

 

「何だったんだろう?」

「さぁ?」

 

スレイはロゼを見る。

ロゼは首をかしげる。

 

「変わった兄≪あん≫ちゃんだ。」

 

探検家メーヴィンは笑う。

と、デゼルも彼の去った方を見て、

 

「相変わらず、変なヤツだ。」

「アンタと同じくらい?」

「はぁ⁉」

 

エドナの一言に、彼は腕を組んで声を上げた。

ミクリオが、スレイを見て、

 

「やっぱり見えてるんじゃないか?」

「かもな。」

 

二人は苦笑いする。

と、レイは彼が出て行った入り口を見ていた。

 

「あ!レイじゃない方はマオテラスについて何か――」

「スレイさん!」

 

スレイをライラが止める。

スレイがレイを見ると、レイは無表情でスレイを見る。

 

「マオテラスを知るという事は世界を知ること。そしてそれは、この災厄の時代の始まりにして終わり。そしてもう一つ。それを知るという事はお兄ちゃん達自信を見ると言うこと。」

「えっと?」

「つまりは私に聞いても、真実は簡単には教えないと言うことだ、導師。」

「うわっ⁉出た‼」

 

ロゼはぎょっとする。

スレイは肩を落とし、

 

「ですよねー……」

「わかったら励めよ、導師。」

 

そう言って、レイはそっぽ向く。

そしてロゼは探検家メーヴィンを見る。

 

「う~ん。おじさん、なんか心当たりない?」

 

探検家メーヴィンは腕を組み、

 

「教会神殿以外だと、マオテラスと同じ五大神の力が残るという四つの遺跡があると……」

「試練の神殿!そこを回るつもりだったんだ。」

「さすが導師だな。」

 

 

スレイは顔を上げ、嬉しそうに言う。

探検家メーヴィンはスレイを見る。

 

「旅の途中で何かわかったら教えて。」

「わかった。俺も伝承を当たってみよう。」

 

探検家メーヴィンは立ち上がる。

スレイの横に行くと、

 

「じゃあな。風邪ひくなよ。チビちゃん、お前さんはもっともっと楽しめよ。」

「私のわかる感情の範囲内なら。」

 

レイは探検家メーヴィンを見上げ、小さく笑う。

探検家メーヴィンはそれに少し驚き、笑う。

スレイとロゼは探検家メーヴィンを見て、

 

「ありがとう。」

「おう!」

 

探検家メーヴィンは歩きながら、

 

「エギーユたちに伝えておくぜ。お嬢たちは元気そうだったってな。」

 

そして出て行った。

エドナはスレイ達を見て、

 

「ハラヘッター。」

 

スレイ達は思い出したかのように、笑う。

食事を取りながら、ライラは楽しそうに食事を取っているスレイ達に目を向ける。

 

「前向きになれたみたいですね。スレイさんも、ロゼさんも。あと、レイさんも?」

「まあね。レイははっきりとはわからないが、変化はあったと思う。スレイに関しては、変に溜めこむ時があるから心配だけど。」

 

ミクリオが嬉しそうに言う。

ライラは彼らを見つめながら、

 

「ですね。」

「ライラもだよ。もっと僕たちを頼ってくれよ。」

「……はい。ですよね。」

 

そしてスレイは食事を取りながら、

 

「マオテラスがいても不思議じゃない場所といえば……」

「五大神にふさわしい器がある場所だろうね。清浄な神殿とか、穢れのない大自然とか。」

 

ミクリオも腕を組み、考える。

ロゼはスプーンを上げ、

 

「なら、試練の神殿は可能性大かも。」

「『導師が困った。どうしよう⁉』。」

 

ライラが真剣な表情で言った。

スレイは頬を掻きながら、

 

「はは、ホントに返しに困るかも。」

「すみません……」

 

ライラは俯いた。

スレイはライラを見て、

 

「ごめん、いいんだよ。」

「何がライラの誓約か、わかってきたしね。」

 

ミクリオは苦笑いで言う。

ライラは顔を上げ、手を合わせる。

そして、明後日の方向を見て、

 

「ブウサギの歌、歌いま~す!ブウサギ美味し~あの耳~♪」

「あ。マオテラス絡み!」

「毒のあるのもあるけどね。」

 

ロゼは腕を組み、首を触りながら、ライラを見る。

レイは鍋の具を混ぜながら言った。

ライラはより一層歌い込み、

 

「ブウサギ美味し~あの皮~♪」

「皮より、身の方が美味しい気もするけど……」

 

レイはなおも鍋の具を混ぜながら言う。

 

「やめなさい。かわいそうよ、色々な意味で。」

 

そこにエドナが真顔で、彼らに言う。

ミクリオは真剣な表情で、

 

「責めてるわけじゃないんだ。ホントに。」

「だよね。おかげで浄化の炎が使えるんだし。」

「知りたいことは、自分の目で確かめればいいんだから。」

 

ロゼ、スレイは笑顔で言う。

ライラは嬉しそうに、

 

「……ありがとうございます。」

「甘いな。相変わらず、どうしようもない導師だ。」

 

デゼルが呆れたように言う。

だが、その表情は楽しような、嬉しそうだ。

ライラはデゼルを見て、

 

「デゼルさんも誓約を⁉」

「今のは違う!」

 

デゼルは拳を上げる。

レイは鍋の具を混ぜながら言う。

 

「で、どうするの?」

「ま。結果的に、導師の修行と、マオテラスの捜索。一石二鳥になったね。」

「もっとだよ。五大神の遺跡を探検できるんだから。」

 

ミクリオとスレイは嬉しそうに言う。

ロゼは呆れたように、

 

「ったくー、遺跡オタクー。」

「こういうのは楽しまなきゃ!」

 

楽しそうに言うスレイに、ライラは表情を暗くし、

 

「命懸けかもしれませんが……」

「それはね。冒険だから。」

「だね。」

「あたしは油断なく行くけどね。」

 

スレイ、ミクリオ、ロゼは自信満々に言う。

ライラは表情が明るくなり、

 

「お供しますわ。どこまでも。」

 

食事が終わり、

 

「さて、試練の神殿をどうやって探すか……」

「大まかな位置はティンタジェルの壁画でつかめるけど。」

「ぶっちゃけ、行って探すしかないね。」

 

と、とりあえずはこの街で旅の支度を整える。

 

ミクリオは気まずそうに、

 

「デゼル……聞きにくいんだが……」

「俺の目のことか?ふん、別に隠していたわけではない。」

「それは仇がやったのか?」

「そうだ。ヤツのせいでこうなった。」

「だからデゼルさんは復讐を――」

 

ライラは悲しそうに手を握る。

デゼルは声を上げ、

 

「言ったはずだぞ。俺の目的は友を殺し、風の傭兵団を潰した仇への復讐だと。」

「自分のことじゃないと?」

 

ミクリオはまっすぐデゼルを見て言う。

デゼルは帽子を深くかぶり、

 

「この傷は、むしろ感謝しているくらいだ。おかげで風を読む力が格段にあがったからな。今の俺は、お前たちよりほど広く周囲の気配を捕らえることができる。だからこそ、わかる。あのゼロと言う人間のような男とレイは同じ気配がする。そしてレイはとても不安定だ。」

「おそらく、誓約と同じ効果が生まれているのでしょうね。」

 

ライラはじっとデゼルと見る。

デゼルはライラを見て、

 

「つまり、心配も同情も無用と言うことだ。安心して俺の力を利用しろ。フォートンの時のようにな。」

「その代わり僕らの力も利用するから……か。」

「それも言ったはずだな。最初に。」

「……ああ。そうだったな。」

 

デゼルは歩いて行った。

ミクリオとライラはその背を見ていた。

 

ロゼは歩いていたデゼルに近付く。

 

「デゼル、聞いてもいい?」

「なにをだ。」

「友達がいるかどうか。」

「……相手が傷付く質問だな。」

 

デゼルは帽子を深くかぶる。

ロゼは腕を組み、口元に指を当て、

 

「ごめん。そういうつもりはないんだけど。」

「わかっている。俺にも親友はいる。ラファ―ガという風の天族だ。やけに面倒見のいい奴でな。一緒に旅をした間、ずいぶん兄貴風を吹かされたもんさ。」

 

デゼルはまるで遠いところを見るように言う。

ロゼは嬉しそうに言う。

 

「さすが風の天族。」

「ふふ……心配だったんだろうな。危なっかしい若造の俺が。」

「そっか。よかった。」

「よかった?」

 

ロゼは腰に手を当て、

 

「うん。デゼルが一人じゃなくて。あたしも心配だったんだ。なんとなく。」

「いらん心配だ。」

「そ。いらなくてよかった。」

 

ロゼは背を向けて、歩いて行った。

デゼルは帽子を取り、胸に当て、

 

「……だから討つのさ。あいつの仇を。」

 

レイは柱に隠れてぞれぞれの言葉を聞いていた。

耳に手を当て、

 

「色々な感情という名の心が入り混じってる。純粋なものから大きく穢れたものまで……」

ーーそれがこの世界に必要なものであり、不必要なものだ。

「白と黒の裏表。」

ーーそうだ。互いに隣り合わせになっているからこの世界のバランスは保ている。だからどちらか片方がなくなっては意味がなくなる。お前の白と黒はどうなんだ?

「わからない。でも私はどこかで消えたいと思ってる。でも、それと同時に……」

 

レイは空を見上げ、

 

「まだここに、お兄ちゃん達の側にいたい……」

 

一行は皆それぞれの想いに整理をつけ始める。


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