テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第十六話 変化

入り口に戻ると、村長の姿はなかった。

レイも途中で起き、村の方へと戻る。

学校の近くまで行くと、

 

「導師殿!」

 

村長が立っていた。

スレイ達は村長に近付く。

スレイは村長に、

 

「試練は、なんとかなったよ。きっとこれで枢機卿の穢れに対抗できる。」

「昔のフォートンは、誰よりも責任感が強く熱心な信徒でした。その彼女が、なぜ……?」

 

村長は思い出しながら言う。

が、肩を落とし、

 

「いや、私が言えた義理ではありませんが。」

「人の心と穢れ……難しいね。」

「うん。」

 

ロゼが悲しそうに言う。

スレイはロゼを見て、

 

「いつかわかるといいんだけど。心を救う方法が。」

「そだね。」

 

ライラはスレイのその背を見つめ、

 

「……あなたなら、きっと。」

 

そう小さく呟いた。

スレイは村長に別れを告げて、ゴドジンを後にする。

 

 

その光景を高い岩場で見ていた人物達が居た。

強大な穢れを纏った者と紫色の髪を二つに結い上げ、纏っている少女。

そして、嬉しそうに見つめている仮面をつけた白と黒のコートのような服を着た少年。

 

「これでやっと一つ、か。さて、これからもっと楽しくなる。ね?」

 

そう呟いて、少年は隣に居る穢れを纏った者と少女を見る。

 

 

スレイ達は村を出て、

 

「これでいい。オレはそう思う。」

「あたしもこうするって決めてた。正解かどうかはわからないけどね。」

 

そう言って、ペンドラゴへ向かう。

途中、野営をする。

レイ、ミクリオ、ロゼ、デゼルは火を囲みながら、

 

「ペンドラゴ、今頃どうなってるかな?」

 

ロゼは火を見つめながら言う。

ミクリオは膝で寝ているレイの毛布を上げながら、

 

「……あまり時間をかけているとセルゲイたちも動かざるを得なくなるかもしれない。」

「フォートンが罠を仕掛ける余地も広がる。」

 

デゼルの言葉に、ロゼは眉を寄せ、

 

「やなこと言うなあ。」

「事実を言ったまでだ。」

「残念ながらね。」

 

ミクリオは悲しそうに言う。

 

「うん。」

「放置して状況が良くなるものでもない。」

「間違いなくな。」

 

と、そこに食事を持ってきたスレイ達がやって来る。

 

「レイはまだ寝てる?」

「起こすのも――」

 

ミクリオが言いかけるより早く、隣に居たロゼがレイを揺すりながら、

 

「レーイ!ご飯だよー!」

「ちょっ、ロゼ!」

 

ミクリオがロゼに言うが、

 

「……ん。」

 

レイが目を擦りながら、起きる。

エドナが腰を下ろして、

 

「鬼ね。」

「え?」

「あはは。と、とりあえずご飯にしましょうか。」

 

眉を寄せて不思議がるロゼ。

ライラも火の側に腰を掛けて座る。

食事を取りながら、

 

「ミク兄、これあげる。」

 

と、半分ミクリオの器に入れようとするレイ。

ロゼがレイを見ながら、

 

「好き嫌いはダメだよ、レイ。ちゃんと食べないと。」

「別に好き嫌いじゃない。」

「ならいいけど……」

 

レイはミクリオの器に半分入れた。

そして食べ始める。

その姿を見て、

 

「最近、レイさんは食事の量が減りましたね。」

「そうね。前は自分の前にあるものはパクパク食べてたのに。」

「単に腹が減ってないだけじゃないか。俺らと違ってな。」

「確かに戦闘はしないし……でも、歩く量でいったらレイの方が疲れそうだけど……」

 

レイは食べ終わった皿を置く。

 

「レイ、もう少し食べれるなら食べた方がいい。」

「……ん。」

 

と、ミクリオがレイの口にスプーンを向ける。

レイは口を開け食べる。

しばらくして、

 

「もういい。」

「そうか。」

 

と、頭を撫でる。

ロゼも食べ終わり、

 

「ふぅ~、今日も食べた、食べた!げっぷ。」

「ロゼ、それはやめろと――」

「ところでレイ、何でスレイはお兄ちゃんで、ミクリオはミク兄なの?」

 

ミクリオが眉を寄せて、怒ろうとした。

が、ロゼはレイを見てそう問いかけた。

レイは無表情でロゼを見上げ、

 

「お兄ちゃんがそう言えっていったから。」

「へ?」

 

ロゼはスレイを見る。

 

「ああ!それは――」

「最初は普通にスレイお兄ちゃん、ミクリオお兄ちゃんだったんだ。」

 

スレイが言うより、ミクリオが先に言った。

スレイはムッとした顔で、ミクリオを見る。

が、ミクリオはそれをスルーし、

 

「これは前にアリーシャには言ったんだけど、スレイがレイのことを妹にするって言い切ってから色々あってね。イズチでもあまり喋らないレイから兄と言う言葉を出すのにも苦労したよ。何せ、僕らの名前すら最初は言わなかったからね。」

「そうそう!で、オレとミクリオが落とし穴に落ちた時だったよな。俺らを見下ろして、〝スレイ、ミクリオ″って呼んでくれたの!」

「へぇー。」

「昔から無茶ばっかりね、アンタたち。」

 

ロゼは面白そうに聞き、エドナはお茶を飲みながら言う。

ミクリオがさらに続け、

 

「で、やっとお兄ちゃんって呼んでくれた時、スレイが『オレら二人してお兄ちゃんだと、どっちがどっちかわからないよなあ~。そうだ!オレがお兄ちゃんで、ミクリオはミクリオお兄ちゃんでいいな!あー……でも、ミクリオって長いよなあ~。よし、ミクリオは短くしてミク兄にしちゃえ!』って。」

「言った、言った!」

 

ミクリオはスレイのマネをしながら言う。

それにスレイは頷く。

 

「……なんというか、レイは頑張ったね。」

「おチビちゃん偉いわ。褒めてあげる。」

「……まあ、あれだ。」

「レイさんなりに頑張ったんですね。」

 

ロゼ、エドナ、デゼル、ライラはスレイとミクリオに呆れた目を向けて言う。

対してスレイとミクリオは目をパチクリして、

 

「なんで⁉」「なんで僕まで⁉」

 

レイはお茶を飲む。

そして彼らの団らんの姿を見る。

心なしか心臓のところが暖かい気がした。

 

「ミクリオ……」

「ああ!」

 

スレイとミクリオが口を開けて、驚く。

そして、二人は大喜びで、

 

「「レイが笑った‼」」

 

そこにはほんの少し頬を緩ませ、ぎこちなく笑みを浮かべるレイの姿。

ロゼが、

 

「あー、確かにあたしもレイの笑うとこ、始めて見た。」

「始めてもなにも、始めてなんだよ!レイが笑うの!」

「僕らが何年も傍にいるけど、今日ほどレイが笑ったの始めてだ!」

 

二人は立ち上がった。

レイはそんな二人を見て、首をかしげていた。

ライラは手を合わせて、

 

「よかったですわね、スレイさん、ミクリオさん。」

「まったく過保護ね。」

 

エドナはお茶をすすり、レイを見て、

 

「もう一回笑いなさい、おチビちゃん。」

「なんだ、お前は見てないのか。」

「アンタも見てないでしょ。」

「興味ないからな。」

 

二人は睨み合う。

そして場はまた盛り上がって行く。

レイはその感じがどういった感覚なのかはわからない。

だが、この暖かさが続けばいいと思っていた。

レイは茶をすすりながら、小さく笑う。

 

しばらく盛り上がった後、彼らはやっと落ち着き、テントに入った。

そして横になる。

レイはスレイとミクリオの間に寝ていた。

起き上がり、左右を見る。

二人は嬉しそうに寝ている。

レイはそっとそこを抜け出す。

外に出ると、満月が出ていた。

その月明かりを見ながら、

 

「これが心?」

 

そう呟く。

すると、頭の中に声が響く。

 

ーーそうだな。人間や天族、この世界に生きるものがもつものだ。

「これは貴女が持つことはないけど、理解していたもの?」

ーーああ。理解はしていたが、私には持つことのない概念だ。

「あの神殿の時、曖昧だけど何となく見てた。」

ーーそれで?

「お兄ちゃんの決意とあの人の悲しみが伝わって来た。」

ーーだろうな。裁判者である私は他者の感情というものを直に受ける。それ故に、感情というものを知っていながらそれを持つことは絶対にない。

「どうして?」

ーーお前も理解しているのだろう。

「……浄化と穢れ両方を持つから。でもそれなら彼の方も……」

ーーあれは吸収と放出。本来はあれも穢れることはない。吸収し過ぎた場合、私が浄化する。だが……

 

レイは目を開ける。

その赤い瞳に銀色のに光る満月が映す。

 

「「名を持つことで、私たちはこんなにも感情に脆いものと知ってしまった……」」

 

と、後ろからパキッという音がする。

レイがそこを見ると、ライラが立っていた。

 

「レイさん……」

「なに?」

「……いえ、眠れないのですか?」

 

ライラはゆっくりと近付いてくる。

レイは頷く。

ライラは優しく微笑み、

 

「では、ホットミルクを用意しましょうか?あ、ハチミツも入れるといいと聞きました。」

 

ライラは手を合わせて言う。

レイはライラを見上げ、

 

「一緒に飲んでくれるなら。」

 

ライラは少し驚いた後、嬉しそうに、

 

「はい。ご一緒させてもらいます。」

「それ、ワタシも混ぜなさい。」

 

エドナが毛布を持ってやって来た。

ライラがホットミルクを三人分用意し、座ってるレイとエドナの元へ行く。

それを手渡す。

 

「熱いので、ちゃんとフーフーしてくださいね。」

 

レイはそれを受け取る。

と、レイの肩から毛布が落ちる。

エドナがそれを再びかけ、

 

「今日は少し冷えるからしっかりかけなさい。」

「では、火を――」

「じゃあ、三人でこれに包まればいい。」

 

レイは毛布を見て言う。

ライラとエドナは互いに見合った後、

 

「仕方ないわね。」

「ふふ。その方が楽しいですね。」

 

レイを中心に毛布にくるまる。

ホットミルクを飲みながら、満月を見る。

 

「今日は月が綺麗ね。」

「そうですわね。」

 

二人はまったりしながら、ホットミルクを飲む。

レイも湯気の出ているホットミルクをフーフーしてから飲む。

 

「……あったかい。」

 

そう言って、ホットミルクを見つめる。

 

「なんか、おチビちゃんが素直にこういうの始めてね。」

「そうですわね。何だか感動です。」

 

レイはホットミルクを見つめながら、

 

「もし、母や姉というものがあったらこんな感じ?」

「……イズチにはいなかったのですか?」

 

ライラはレイを見下ろす。

 

「いたよ。でも、関わろうとはしなかったことの方が多い。私は、お兄ちゃんとは別の意味で……彼らとは違ったから。その理由は今なら何となくわかる。そう思うと、ジイジは全てを理解した上で、私をお兄ちゃんとミク兄と同じように接してくれた。」

「……おチビちゃん、今どれくらい記憶があるの。その……」

「裁判者として?」

「「‼」」

 

ライラとエドナは目を見開いた。

 

「記憶は曖昧。これが私の記憶なのか、彼女の記憶なのかはわからない。夢としていつも見ていたから。外に出て、イズチの時以上に人や天族、この世界に生きるものの感情、意志と言った概念を受けて、だんだんと心と言った意味を知れた気がする。でも、まだ曖昧。ちゃんと理解できない。でもきっと理解できた時、私は私でいられるかがわからない。違う、いられないと思う。」

「どうしてですか?」

 

ライラは眉を寄せ、悲しそうな瞳でレイを見る。

 

「夢で見る全てのものが辛く、悲しい。時には嬉しいというものもあった。でも、願いを叶えた後の感情のほとんどは後悔と恨みばかりだった。それを理解しても、いつも何も変わらない。変わるのはいつも傍にいた誰か。」

 

レイは残りのホットミルクを一気に飲む。

 

「おチビちゃん?」

「私がその誰かを知ってしまったら、きっとあの時のあの言葉の続きを知ってしまう時だと思う。」

「言葉の続き?」

 

ライラとエドナは互いに見て、レイに戻る。

 

「いつも傍にいた者の感じでいた感情と、自分の感情のようなもの?」

 

レイはコクコク首を揺らしながら言う。

そしてエドナの肩に頭をのせ、寝てしまった。

 

「……動けないわね。」

「そう……ですわね。」

 

エドナは若干ムッとして言った。

そしてライラも、苦笑いで言う。

 

「でも、最近のレイさんの元気のない理由はわかりました。」

「そうね。これで少しは理解できたかしら?」

 

と、視線を横に向ける。

そこにはスレイとミクリオ、ロゼにデゼルまでいた。

 

「ああ。何というか…その……」

「ありがとう、ライラ、エドナ。」

 

スレイとミクリオは二人を見て言う。

 

「別にいいわよ。」

「でも、なんか複雑だな。」

「は?」

 

エドナはミクリオを見上げる。

ミクリオはそっぽ向きながら、

 

「レイが僕ら以外にこういう風になるのが嬉しいようでちょっと嫉妬してしまうなって思っただけだ。」

「確かに。ラストンベルの時のレイは手厳しかったもんね。」

 

ロゼは腕を組んで、思い出しながら言う。

エドナは悪戯顔になり、

 

「素直に羨ましいと言ったらどう?」

「む~!」

 

ロゼは頬を膨らませる。

スレイは眉を寄せ、

 

「レイの言った傍にいた誰かって……あの審判者の人だよね。」

「ええ。裁判者と審判者はほとんど一緒にいましたから。」

 

スレイは苦笑いしながら、

 

「じゃあ、レイを連れてくよ。」

 

と、レイに手を伸ばすが、

 

「いいわ、このままで。」

「え?」

「これで起きたら、ここまでじっとしていたワタシのか弱い肩がかわいそうでしょ。だから今日はこのままでいいわ。」

「ふふ。エドナさんも素直じゃありませんわね。」

「うるさいわよ。」

 

ライラは口に手を当て、笑う。

エドナはそっぽ向く。

 

「というわけで、アンタたちはもう寝なさい。」

「うん。わかった。お休み、ライラ、エドナ。」

「レイのこと頼んだよ。」

 

スレイとミクリオは戻って行く。

デゼルもロゼがテントに戻ったのを見届けてから戻って行った。

 

次の朝、スレイ達はペンドラゴに向かって歩き出す。


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