テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

13 / 73
toz 第十三話 寄り道その2

彼らは凱旋海草を抜け、地底洞の中へと進む。

 

「ここで湖も探さないとな。」

「ああ、『湖に向かった天族』が居るかは分かんないけど、もう調査の騎士もいないだろうし、良いんじゃない?地下洞窟だから、道に迷わないようにしないとね。」

 

スレイは辺りを見ながら言う。

ロゼも、手を頭にのせて言う。

 

「でも、本当に通り抜けれるのかなー?」

「心配ない。」

 

疑問視しているロゼに、デゼルが即答で言う。

ロゼはデゼルを見ながら、

 

「言い切るねえ。勘?」

「違う。風が動いているからだ。」

 

デゼルが顔を少し上げて言う。

と、前を歩いていたスレイとミクリオが、

 

「秘密の抜け道って、ロマンだよなあ。」

「地下というのが、さらにね。」

「そうそう!たくさん出口があったりすると最高!」

「滝の裏とか井戸の中に繋がってるんだよね。」

「やっぱ、わかってるなー!ミクリオ!」

 

と、二人は盛り上がる。

ロゼは呆れたように、

 

「ぜんっぜんわかんない。」

「わかりたくないし。」

 

即答で言うエドナに、ライラが苦笑いで、

 

「男性はお好きなんですよ。こいうの。ね、レイさん。」

「……あー……うん?」

「また疑問形だし。てか、『男性は』っていうより……」

「『ガキは』ね。」

 

エドナは半笑いで言った。

それでもなお、前を歩いている二人は盛り上がって進んで行く。

 

迷路のように続く洞窟を突き進む。

と、レイは壁に出来た化石を見つけた。

 

「お兄さん、ミク兄、あれ。」

 

スレイの服の裾を引っ張る。

スレイ達がレイの指さす方を見ると、大きなムカデのようなそうではないような化石を見た。

スレイとミクリオは口を開けて固まる。

ロゼが力強く、

 

「なっ!なんじゃこりゃー⁉」

「でっかいエビね。」

 

エドナは淡々と言う。

ミクリオがまだ驚きを隠せないかのように、

 

「化石……だよな?」

「すっげえ。昔はこんなのがいたんだ。」

「とっつかまえてフライにしたかったわね。」

 

エドナはなおも淡々と言う。

が、それをスルーし、ミクリオが、

 

「この外見……憑魔か……?」

「憑魔≪ひょうま≫が化石に?まさか。」

「だが、ならないという保証もない。」

 

二人は手を組みながら、考え込む。

 

「刺身でもイケる確証はあるわ。」

 

エドナは一人まだ淡々と言う。

と、ロゼも腕を組み、首を摩りながら、

 

「ん~。これどっちが頭?」

「右だろ。」「左だろ。」

 

スレイとミクリオが同時に言う。

 

「どっちが頭かわからん生き物?変なの~。」

「いえ。エビもミソとシッポの美味しさは甲乙つけがたい。」

 

エドナはまだ続けていた。

スレイは再び腕を組み、

 

「ホント、何だろうな、こいつ……?」

「だからエビだってば。」

 

エドナは最後まで一人言っていた。

それを見ていたレイはライラとデゼルを見上げ、

 

「あれは会話になってるの?」

「さぁ?」

「知らん。」

 

と、それぞれ疑問に持ったまま、次へと進む。

 

進んでいくと、レイが地面に落ちている光る石を見つける。

レイはスレイの服の裾を引っ張る。

スレイもそれに気づき、

 

「あれ!大地の記憶じゃないか⁉」

 

スレイ達はそれに近付き、スレイがそれに触れる。

 

 

ーー炎がどこかの門の入り口を燃やし、包み込む。

それはすべてを飲み込んでいゆく。

辺りは一変闇となる。

闇の中、一人の男性が歩いていた。

その足取りは重く、彼自身も俯いている。

かれに起きた事を映し出すかのように、闇の中に騎士兵達が現れる。

彼を慕っていたであろう騎士兵達は、彼から遠ざかっていく。

そして、自分を称えた王ですらも、自分を罵り、自分を否定する。

それは王だけではない。

全ての人々だ。

自分を嘲笑い、罵り、軽蔑する。

何度も何度も……。

そして彼はその場を後にする。

 

スレイは考え、

 

「追放された……ってことかな?軍や国から。」

「戦争に負けたんじゃない?多分だけど。」

 

ロゼも同じように考えながら言う。

ミクリオは悲しそうに、

 

「あんなに声援を受けていたのに、なんだかね。」

「いなかったのかな。助けてくれた人……」

 

スレイも悲しそうに瞳石≪どうせき≫言う。

エドナはスレイ達を見て、淡々と言う。

 

「そんなものよ。人の世なんて……ね、おチビちゃん。」

 

と、エドナはレイを見る。

 

「…………」

 

が、レイは無言で自分の胸の服を掴み、俯いていた。

 

「おチビちゃん?」

「………何でもない………」

 

レイは顔を上げ、前を見る。

 

「それより来たよ。」

「え?」

 

と、言うと目の前に、一人の天族の女性が現れた。

それにロゼは悲鳴を上げる。

 

「ひっ⁉」

 

だが、それには気にせず、天族の女性は話し始めた。

 

「驚いた。今の世に、まだ導師がいたのですね。」

「驚いたのはこっちだよ。」

 

ロゼは頭を掻きながら、言った。

スレイは頭を一度深く下げてから、

 

「スレイっていいます。あなたは……」

「サインドと申します。導師スレイ。」

 

天族サインドは軽く頭を下げてから言った。

ライラが女性を見て、

 

「ラストンベルを加護されていた方ですね?」

「……ええ。以前は。」

「もう一度加護を頼めないかな?ラストンベルの聖堂には天族がいなくて、妙な事件も起こってるみたいなんだ。」

「それは加護とは無縁です。」

 

スレイは天族サインドに言うが、彼女は即答で答えた。

デゼルが腕を組み、

 

「なぜそう言い切れる?」

「私が器としていたのは鐘楼の鐘でしたから。」

「そう。ラストンベルの聖堂は形だけのものなのね。」

「いずれにせよ、もう私には関係のないこと……。……私は人間が分からなくなりました。そっとしておいてもらえませんか。」

「理由をお聞かせ願えませんか?」

「……ごめんなさい。」

 

天族サインドは再び姿を消した。

 

「無理強いはできないけど……」

「色々引っかかるな。もっと情報を集めるべきだ。」

「そうだな。ラストンベルの人に聞いてみよう。何かわかるかもしれない。」

 

そう言いてその場を後にする。

レイは最後天族サインドが立っていた場所に、

 

「悩むのは構わない。でも、貴女を待つ人間はいた。でも、もう遅いけど……」

 

そう言って、スレイ達の後を追う。

天族サインドは再び現れ、俯いた。

 

レイはスレイ達に追いつき、

 

「戻るの?」

「ああ、このままほっとけないからな。今ならラストンベルも近い。」

「そう。」

 

そう言って、一行はラストンベルへ向かう。

 

 

ラストンベルに着き、スレイは街の人々から情報を集める。

街に着くなり、レイはどこかに歩き出した。

 

「え⁉レイ⁉」

 

スレイが追いかけようとすると、

 

「待ちなさい。私が行くわ。」

 

エドナが傘をたたみ、

 

「アンタたちは情報を集めさなさい。ミボも、いいわね。」

 

そう言って、歩いて行った。

スレイとミクリオは互いに見合い、不安そうな顔をするが、

 

「じゃ、ちゃちゃっと情報を集めるよ!ここはあたしに任せなさい!」

 

と、ロゼが自信満々に言う。

 

「何を任せるの?」

「ん?」「え?」

 

スレイの後ろから声がした。

スレイは振り向き、ロゼはスレイの後ろを見る。

一人の少年が立っていた。

少年は黒いコートのような服を着て、長い紫色の長い髪を後ろで一つ縛りしていた。

その少年が後ろで組んでスレイを見ていた。

 

「や、スレイ。」

「ゼロ!」

「また会えたね。」

 

と、ロゼが手を上げて、

 

「ハイハイ!あたしはロゼ。で、どちらさん?」

「ん?あ、そっか。僕はゼロ。」

「あ~!リンゴの!」

 

ロゼがポンと手を叩く。

少年ゼロは笑顔で、

 

「よろしくね、従士さん。」

「へ?なんで…」

「だって、導師の仲間って言ったら天族と従士でしょ。」

「あ~、なるほど。」

 

ミクリオは隣のライラが眉を寄せて少年ゼロを見ていることに気付く。

デゼルが小声で、

 

「試してみるか……」

「なにを?」

「決まってる。こいつが見えてるのか、見えてないのか、だ。」

 

デゼルはペンデュラムを少年ゼロに向けて投げる。

少年ゼロの顔にあたる瞬間、

 

「お、ガルド見っけ。」

 

少年ゼロはしゃがんだ。

そしてそれを拾い上げ、

 

「はい、スレイ。君のでしょ?」

「え?あ、う、うん?ごめん……」

「ん?何が?」

「いや、なんでもない。」

 

スレイはぎこちなく、少年ゼロからガルドを受け取る。

ロゼは後ろに振り返り、

 

「デゼル!危ないでしょ。」

「だが、ロゼ……」

「だがじゃない!」

「むー……」

 

デゼルに怒りだし、デゼルは帽子を深くかぶる。

それを見た少年ゼロは笑う。

 

「あはは、君のお仲間は面白いね。」

「あはは、まあね。」

 

スレイも苦笑いする。

その光景を遠くから見ていたレイとエドナ。

エドナは横のレイを見て、

 

「おチビちゃん、今は行かない方がよさそうよ。」

「どうして?」

「どうしてって……アンタ、あの男のことわからないの?」

「人間だけど……人間ではない人のこと?」

「ええ、そうよ。」

「……あの気配は知ってる……でも思い出せない。」

「そう。ならこのままここに――」

 

と、レイは大人にぶつかった。

いや、ぶつけられた。

 

「おっと、ごめんよ。」「おチビちゃん!」

 

ぶつかった大人はそう言って、去った。

レイはそのまま、人ごみ飲まれ、押され、流される。

 

「うわっ!」

「あぶねえな。」

 

そしてレイはスレイ達の前に押し出された。

転びそうになった所を、

 

「おっと、大丈夫?」

「レイ⁉」

 

レイは捕まれた自分の腕を掴んでいる少年を見上げる。

そのまま彼を見た。

そこにエドナも歩いて来た。

 

「遅かった……」

「エドナさん。」

「どうなると思う、あれ。」

「わかりません。」

 

エドナはそのままライラの元まで行き、傘をさして小声で話す。

 

「あれ?大丈夫?」

 

少年ゼロはレイを立て直す。

レイはその後も彼を見た後、スレイの後ろに隠れた。

スレイは手を掻きながら、

 

「ごめん、ゼロ。この子はオレの妹のレイ。初めての人には大抵こうなんだ。」

「ふ~ん、そっか。そういう感じか……」

 

少年ゼロは小声で言った。

スレイは足元に隠れてるレイに、

 

「レイ、さっきはどこに行っていたんだ?」

「呼ばれたんだけど……いなかった。」

「へ?」

 

レイは無表情でそう答えた。

それを見た少年ゼロは笑顔で二人を見た。

そして片足を付き、スレイの後ろに隠れているレイに、

 

「俺はゼロ、君さえよかったら、お話ししない?」

 

レイは顔を出し、

 

「なんの?」

「う~ん、そうだな……そうだ!君のお兄さんについて、は?」

「話す。」

 

レイはスレイの後ろから出て来た。

スレイの服の裾を握り、

 

「お兄ちゃん達の何を聞きたいの?」

「そうだな~、お兄さんは強い?」

「……強いと言えば強い。でも、どちらも純粋で穢れやすい。それでも、穢れない心の持ち主。」

「へぇー、じゃあ……お兄さんは好き?」

「好き?」

「そ、好きかどうか。」

「ゼロ?」

 

スレイはゼロを見下ろし、レイは考え込む。

ゼロはスレイを見上げ、

 

「だって、気になるじゃん。導師の妹って。」

「そんなもん?」

「そんなもんだよ。」

 

レイは少年ゼロを見て、

 

「好きってなに?」

「え⁉まさかの問返し⁉」

「お、出た!レイの疑問返し!」

 

少年ゼロが驚く中、ロゼは笑顔で言った。

少年ゼロは腕を組んで、

 

「えっと、好きっていうのは……その人とずっと居たいって事かな?」

「ちょ、何でアタシを見るの⁉」

 

少年ゼロは言いながらロゼを見る。

ロゼは一歩後ろに下がり、少年ゼロを見る。

 

「だって、スレイに聞いてもわからないだろし。」

「あー……なるほど。もうそれでいいんじゃない?」

「君も案外、雑だね。」

 

頭を掻きながら言うロゼを見て、少年ゼロは苦笑いする。

それを聞いたレイは、

 

「それが好きって感情なら……私はお兄ちゃん達といたい?」

「あはは、それも疑問形か。」

 

少年ゼロは笑い、立ち上がる。

 

「ま、でも……それならもう少しだけ、居ていいよ。」

 

少年ゼロは小声で呟く。

 

「どうしたの?」

「ん?なんでもないよ。スレイ、ちゃんとその子を守ってあげなよ。」

 

少年ゼロはスレイを見据えて言う。

そして小さい声で、

 

「でないと、あの子に消されちゃうよ。」

 

スレイはまっすぐ少年ゼロを見て、

 

「もちろん、そのつもりだ!」

「ならよし。」

「ところで、ゼロの探しものはみつかったの?」

 

少年ゼロはレイを一回見た後、

 

「ああ、見つかったよ。半分だけね。」

「半分だけ?」

「そ、半分だけ。今はそれでいいや。」

「へ~。じゃあ残り半分、あたしのギルドで探してあげようか?」

 

ロゼは少年ゼロを見て言う。

それにデゼルが、

 

「おい、ロゼ!」

「大丈夫、大丈夫!あたし、商会ギルドに入ってるから情報は多い方だよ。」

 

ロゼは後ろにウインクと親指を立てて、決める。

そして少年ゼロを見て、

 

「お金さえしっかりしてくれれば、あたしらで探してあげる。もちろん、初回って事で安くしとくよ。」

「ここで商売を始めるか、普通。」

「いつでもどこでも商売を行えるのが、商人ってもんよ。」

 

ロゼは腰に手を当て、スレイに言った。

と、少年ゼロは腹を抑えて笑い出した。

 

「あはは。本当、君の仲間は面白い。もっと君らのことが気にいっちゃった。」

「そう?」「そんなに?」

 

二人は互いに見合う。

少年ゼロは涙を拭いながら、

 

「そうだよ、君たちみたいな人間は好きだ。純粋にね。」

「ふ~ん、アンタもだいぶ変わってると思うけど。」

「そう?ならそうしといて。あと、探しものは自分で探すよ。その方が面白いからね。」

 

ロゼの言葉に、少年ゼロは笑顔で答える。

少年ゼロは身を翻し、

 

「じゃ、俺はこの辺で。」

「うん、またね。」

「じゃあね~。」

 

と、歩き出す少年ゼロにスレイとロゼは手を振る。

少年ゼロが去った後、聞き込みを再開した。

エドナはライラを見上げ、

 

「どうやら本当にあのおチビちゃんは、彼のことに気付いていないようね。」

「そうですわね。それに、彼の方も今回はただのゼロという人間の少年で来ているみたいですわ。」

「でも、油断はできない。こっちは一度、彼に事実上は襲われてる。」

「はい。それに今回は街中です。私たちは目立った動きは取れません。」

 

ライラとエドナは互いに頷き合う。

そしてロゼの聞き込みの元、一人の子供の名前が浮上した。

 

「宿屋んとこのマーガレットちゃん、家出したんだってな……。嘘つき呼ばわりされて、あんなことされれば気持ちはわかるけど。」

「だよな。子ども相手に酷いことをするよな。とめられなかった俺も同罪だけどさ……」

 

それを聞いたエドナが、

 

「どうやらマーガレットって子が何か知ってそうね。」

「いじめられてたみたいだし、なんかヤな予感がする……」

 

ロゼも、俯きながら言う。

スレイは腕を組み、

 

「マーガレットっていう子、気になるな。」

 

ライラが、スレイを見て、

 

「スレイさん、宿で休みませんか?」

「そだね。宿屋がマーガレットの家みたいだし。」

 

宿屋に行き、少女マーガレットの情報を聞くが、

 

「マーガレットの手かかり、特にないね。」

「嫌な話は、そこら中で聞けるが……」

 

ロゼとミクリオは悲しそうに言う。

スレイは腕を組み、

 

「……もしかして、サインド、マーガレットと知り合いだったんじゃないかな。」

「……つまりマーガレットさんは天族と話ができるほどの霊応力があったのではと?」

 

ライラがまっすぐスレイを見る。

スレイも、ライラをまっすぐ見て、

 

「ああ。二人は友達だったのかもしれない。けど……」

「何かがあった。」

「うん。」

 

デゼルの言葉に、スレイは頷く。

ミクリオが全体を見て、

 

「これは是が非にもマーガレットと会って話すべきだ。」

「小さい子がそう遠くまで行けるはずがないしさ。明日は街の近くを捜してみよ。」

「誰を捜すの?」

「「え⁉」」

 

と、後ろから声を掛けられた。

振り返った先には、

 

「や、スレイ、ロゼ。それに、レイも。」

「「ゼロ!?」」

 

少年ゼロが立っていた。

彼は笑顔で右手を上げて、

 

「さっき振り。君たちもこの宿を利用してたんだ。」

「ゼロの方こそ。」

「言ってくれれば、一緒にご飯も食べたのに。」

 

スレイとロゼは彼に近付く。

ミクリオは腕を組んで考え込み、デゼルは警戒心マックスだ。

ライラとエドナは後ろでそれを見守る。

と、レイが外を勢いよく見る。

 

「レイ?どうし――」

 

スレイがレイに聞こうとした瞬間、

 

「きゃあああっ!」

 

と、この宿の女将の叫び声が聞こえる。

全員がそれに反応する。

 

「悲鳴⁉」

「外だ!」

 

全員が外へ走る。

外に出ると、満月の光が街を照らす。

そしてその光の下には宿屋の女将の側に、狼型の憑魔≪ひょうま≫がいた。

それを見た少年ゼロは、

 

「人狼か……」

「ゼロ、まさか見えてるの⁉」

 

スレイはゼロを見て言う。

ゼロは腰に右手を当て、

 

「ん?ああ…俺、目はいい方なんだ。ただちょっと他人とは違うけど。」

 

と、左人差し指で、目を指差す。

スレイとロゼは武器を取り出し、

 

「じゃあ、レイをお願いしてもいいか?」

「ん~……じゃあ、任された。じゃ、こっちにいようか。」

「……」

 

黙って憑魔≪ひょうま≫を見ているレイを、少年ゼロは抱きかかえ後ろに下がる。

スレイ達は彼らが下がったのを確認して、戦闘を開始した。

 

「ルーガルー!月夜に凶暴化する憑魔≪ひょうま≫ですわ!」

「こいつが殺人事件の犯人か!」

 

スレイ達は憑魔≪ひょうま≫と戦闘を行う。

見た目ほど強くはなかった。

レイは自分を抱き上げている少年ゼロを見上げ、

 

「降ろして。」

「ん?いいよ。けど、無茶はダメだよ、レイ。」

「…………」

 

レイは降りるとすぐに、狼型憑魔≪ひょうま≫の元に駆けて行く。

スレイが最後の一撃を加える。

 

「あれ、なんか弱い……?」

「ひい……狼の化け物!」

 

宿屋の女将は狼型憑魔≪ひょうま≫を見て悲鳴を上げる。

 

「人間って酷いね。実の……子供だって言うのに。」

 

少年ゼロは冷たく微笑み、目を細めて、歩く。

宿の女将さんの反応を見たスレイは、

 

「女将さんも霊応力が⁉」

 

と、一瞬の隙をついて狼型の憑魔≪ひょうま≫は逃げ出した。

 

「しまった!」

 

レイはそれを追っていく。

それを見た少年ゼロも追いかける。

 

「言ってる場合か!追うぞ!」

 

スレイ達もそれを急いで追いかける。

狼型の憑魔≪ひょうま≫はラストンベルの街の外に出た。

狼型の憑魔≪ひょうま≫を見つけ近付くと、

 

「二体いる⁉しかも……」

「仲間を食べてるのか!」

 

その先には共食いをしている憑魔≪ひょうま≫がいた。

そしてその傍にも、レイと少年ゼロがいた。

 

「あは、君そこまで強い意志を持ちながら……残念だよ。」

 

狼型の憑魔≪ひょうま≫の振り上げる爪を少年ゼロは自身の短刀で受け止めていた。

その後ろで腕を抑えているレイ。

そしてレイは歌を歌っていた。

スレイが剣を振りながら、

 

「はぁあああ!」

 

と、少年ゼロから憑魔≪ひょうま≫を離す。

 

「大丈夫か!」

「やあ、スレイ。君との約束、ちょっと守れなかったかな。思いのほか、あの子が強情で。」

 

と、後ろを見る。

そこには左腕を抑えているレイだが、そこからは血が流れている。

そして憑魔≪ひょうま≫を見るその瞳は赤く点滅していた。

 

「レイ⁉」

「それより、スレイ……来たよ!」

「くっ!ゼロ!もう一度、レイを頼む。」

「ああ。今度こそ、任された。」

 

スレイ達は再び戦闘態勢に入った。

 

「ライラ、こいつもルーガルーか?」

「この者は憑魔≪ひょうま≫ブリードウルフ!獣が変化した憑魔≪ひょうま≫ですわ!」

「動きは素早いけど、その後のスキは大きいわ。」

 

戦闘中、レイの歌声が響く。

先程の憑魔≪ひょうま≫の時とは違い若干苦戦しながらも、敵を倒す。

狼型の憑魔≪ひょうま≫は、少女と犬へと変わる。

それを見たスレイとミクリオは驚く。

 

「なっ……!」

「どういうことだ、これは⁉」

 

ロゼは膝を着き、

 

「……マーガレット?」

「わたしが……わかるの?お母さんも……お化けっていったのに……」

 

スレイ達も膝を着いて少女の話を聞く。

ロゼは優しく、

 

「わかるよ。お化けなんかじゃないって。」

「ううん。お化けになっちゃったの……わたしもワックも、いっぱい怒ったから……」

 

そこにレイも近付く。

抑えていた腕はすでに治癒していた。

レイもそこに座り、少女の話を聞きながら、横たわる犬を撫でる。

 

「ワックは、すごくこわいお化けになって街の人たちを殺しちゃった……わたし、こわくなってお母さんに助けてって言いに行ったんだけど、お母さんは……」

「大丈夫、すぐ迎えに来てくれるよ。」

「ほんと?よかったぁ……」

 

弱弱しく微笑む少女をレイは見て、

 

「だからこそ、あなたたちは私を呼んだ。」

「レイ?」

 

スレイ達はレイを見る。

レイは空を見上げ、

 

「あなた達の望んだ願いは叶えた。今にあなたたちの会いたかった者は来る。」

 

そしてそこに、天族の女性が近付いて来た。

ライラが天族の女性を見て、

 

「サインドさん……!」

 

天族サインドも膝を着き、

 

「憑魔≪ひょうま≫の気配を感じて来たんです。なぜか懐かしい感じがしたから。」

 

すると、少女は弱弱しい声で、

 

「ホントだ……サインドの声が聞こえる……」

「クゥン……」

「ワック……鐘のトコに行こ……サインドがまってる……よ……」

 

そう言って、少女は息を引き取った。

皆、目を瞑り悲しむ。

 

「マーガレット……私が逃げなければ、こんなことには……」

「サインド……」

「マーガレットはただ『聖堂に天族はいない』と言っただけなのに……」

「その発言がイジメへと繋がった……」

「そう……国同士の対立が激しくなる中で、教会は信徒の統制を強めていきました。彼らは、価値観を違える者に対し、強硬に反発するようになったのです。例え、子どもの戯れ言であっても。」

「それで街を出たのね。人間に愛想を尽かして。」

 

エドナが天族サインドを見て言った。

そこに少年ゼロが近付き、

 

「この子は自分がいじめられた事より、友である天族の者を偽られたことの方が辛かった。いつしか、友である天族は姿を消してしまった。それを自分のせいだと思いこみ、友である天族が戻ってきてくれる事を願った。それを同じように見て、聞いて、遊び、話した子は願った……大事な友を二人も気付つけたこの街の人間が憎いと。」

「ゼロ?」

 

スレイ達は少年ゼロを見る。

彼は今までに見たことのない怖い顔をしていた。

レイだけがそれを気にせず、冷たくなっていく一人と一匹を見ていた。

 

「やっぱり、僕たちが見えて⁉」

 

ミクリオが眉を寄せて少年ゼロを見る。

少年ゼロはいつもの笑顔に戻り、

 

「ねぇ、スレイ。君はこの世界をどう思う?こんな穢れて、身勝手な愚かな世界を。」

 

少年ゼロは冷たい笑みを浮かべてスレイを見る。

 

「教えてくれないかな……導師様。」

 

スレイは立ち上がり、少年ゼロをまっすぐ見て、

 

「それでもオレは世界を守りたい。確かに世界は穢れて、身勝手かもしれない。でも、だからこそオレはこの世界と共に生きたい。」

「ふ、あはははは!さすがスレイ!」

 

彼は腹を抱えて笑い出す。

彼は涙を拭いながら、

 

「そうだね、君のその穢れなき瞳が濁らない事を祈るよ。」

 

彼はスレイの横を歩き、

 

「スレイ、君はどんな物語を紡ぐのか、興味がわいた。だから簡単に死なないでね、導師様。」

 

そう言って、スレイの肩をポンと叩いて去って行く。

少年ゼロはライラと目が合い、

 

「彼はあの導師とは随分と似てるようで違う。そんな怖い目で見ないでよ。大丈夫、少なくても……ゼロの間は君の大事な導師を殺しはしないさ、主神さん。」

 

彼はライラにしか聞こえない声で言う。

その彼は表情はとても冷たい笑みを浮かべていた。

そして彼の瞳が真っ赤に光る。

 

「っと、あの子に気付かれちゃう。またね。」

 

彼は手を振って、歩いて行った。

彼が去った後、天族サインドは立ち上がり、

 

「……導師スレイ。私にもう一度あの街を加護させてもらえませんか?」

 

天族サインドはスレイを見て言う。

スレイは複雑そうな顔で、

 

「頼みたいけど、あの街はまだ――」

「それでもやるきなんだよ。」

 

ロゼが立ち上がり、真剣な表情でスレイを見る。

そして彼女を見て、

 

「ね?」

「はい。友達を嘘吐きにしたくないから。」

 

そう言って、歩いて行った。

そして鐘の音が鳴り響く。

辺りはもうすっかり朝であった。

レイは最後に彼女達に弔いの歌を歌い、宿に戻る。

スレイは悲しそうに、

 

「俺、霊応力があるのはいいことだって思ってた。けど、そうとは限らないのかな。」

「見えるようになる前と後じゃ、全然違う世界だもん。人によっちゃ悪い方に転がる事もありそう。」

「……要はそいつや周りの捉え方次第だ。」

 

ロゼとデゼルが互いに言う。

 

「人は皆、同じものを見る。けど、それが同じものとは限らない。」

「ま、おチビちゃん達の言うように、それぞれの価値観ってことね。」

「ですが価値観の相違が、争いの呼び水でもあります。」

「それぞれ違う世界を生きている……人と天族の共生が難しい大きな理由だな。」

 

レイ、エドナ、ライラ、ミクリオも、その後に続けて言う。

スレイは真剣な目で、

 

「導師と人も……だよな。」

「大切なのは他の人の価値観を認められる心ですわ。」

「そそ。どうやっても同じ人間にはなれないし。なにより、今回のは霊応力関係ないっしょ。イジメた連中が悪い。」

 

腰に手を当て、怒るロゼ。

そのロゼの姿にライラは嬉しそうに、

 

「受け入れてくださるのですね、ロゼさん!」

「てか、あるものはあるんだから、前向きに考えなきゃ損でしょ?」

 

腕を組んで、自信満々に言うロゼの中に、エドナが入り、

 

「いいこと言うじゃなーい。ロゼのクセにー。」

「ぎゃあ!頭の中でしゃべらなってば!」

 

悲鳴を上げるロゼの中から出たエドナは、半笑いしながら、

 

「いい加減認めないよ。天族はこういうものだって。」

「こういうのがキモコワイってのもあたしの価値観!」

 

ロゼは思いっきり叫んだ。

レイは空を見上げ、

 

「どうやっても同じ人間にはなれない……か。じゃあ、私は……どうしたいんだろう。」

 

彼らはラストンベルで一日休息を取る事にした。

と、ミクリオとロゼは犬に囲まれているデゼルを見つけた。

デゼルが子犬を抱き上げ、

 

「……そうか。」

 

その光景に、ミクリオは呆れ若干引いている。

逆にロゼは嬉しそうに見ていた。

 

「増えているぞ、犬……」

「デゼルに犬望があるじゃない?」

 

と、デゼルは子犬を見て、

 

「……それはいかんな。」

 

犬と会話を始めたデゼル。

 

「会話してるぞ、犬と……」

 

ミクリオは驚く。

するとロゼは、

 

「あたしらも普通の人から見れば似たようなもんでしょ。」

「犬と一緒にするなよ。」

 

ミクリオは腰に手を当て、そっぽ向く。

と、そこにデゼルがやって来て、

 

「犬は同じだと思ってんぞ。……いい意味でな。そうだろ?」

 

と、足元のレイを見る。

レイは無言だった。

そしてレイの頭の上には子犬が乗っており、足元には犬でいっぱいだ。

 

「こっちも増えてるし……」

 

ミクリオは後ろに下がる。

ロゼは悪戯顔にも似た笑顔で、

 

「犬って大人だねえ。」

「なら僕も大人ってことにしといてくれ……」

「逃げてるがな。」

「逃げてるけどね。」

 

デゼルとロゼは互いに見合って言った。

レイは頭に乗っている子犬を降ろし、

 

「逃げてるけど。」

 

と、小さく呟いた。

 

スレイ達は宿で食事を取る。

そしてまたロゼは大量に食べて、

 

「ふぅ~。食った食った!幸せ~!げぷ。」

「ロゼさぁ、ほんとそれ良くないよ。」

「女性としての前に人としてどうかと思う。」

 

スレイとミクリオが呆れながら言う。

そしてデゼルも、ロゼを見て、

 

「食べるのが早い。落ち着いてゆっくり食え。」

「シチューなんて飲み物だよ。落ち着いて食べたって時間かからないもん。」

「ならせめてげっぷはやめてくれ。それに、レイがマネするようになったらどうしてくれんだ!」

 

ミクリオが怒りながら言う。

レイは今回はライラとエドナの近くで食べていた。

と、言っても間をひとつ開けたスレイの横だが。

そんなレイは、眠たそうにシチューを食べている。

それをライラがハラハラしながら見て、エドナが何かを言っていた。

と、デゼルも若干怒りながら、

 

「何よりもまずシチューは飲み物じゃない。時間をかけて素材の旨みを抽出しそれを凝縮したものだ。ちゃんと味わって食え。」

「味わって食べてますーいちいち小言がウルサイな。」

 

ロゼは頬を膨らませ、拗ねる。

デゼルは腕を組んで、

 

「……まったく。あれこれ奔放なやつだ。」

 

その後、スレイ達は床に入って休むのであった。

彼らは翌日、カンブリア地底洞へと戻る。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。