テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第十二話 聖なる帝都ペンドラゴ

歩いていると、レンガに囲まれた城壁が見えてきた。

帝都ペンドラゴの門だ。

スレイ達はそれをくぐる。

 

スレイは目を輝かせ、

 

「大っきいなぁ!これが――」

「そう。グリンウッド大陸最大の都ペンドラゴですわ。」

 

ライラは手を合わせて言う。

スレイは辺りを見渡しながら、

 

「えっと宿は――」

「広場にある正面にある宿がお勧めだよ。」

 

ロゼがスレイを見て言う。

スレイはロゼを見て、

 

「詳しいんだな。」

「ちょっとね。昔、よく来てたから。」

 

ロゼは悲しそうに言った。

それをどことなく察したライラは、広場の噴水を見て、

 

「立派な噴水ですわねえ。」

「ペンドラゴ名物のひとつだよ。詳しくは知らないけど、地下水道で遠くから水を引いてるんだって。」

 

ロゼはライラに説明する。

ライラはロゼを見て、

 

「そうなんですか。」

「無駄に水が噴き出すものをわざわざつくるなんて。やっぱり人間ってバカよね。」

 

エドナは淡々と言うが、ライラは左手を胸に当て、

 

「天響術も使わずに高度な技術だと思いますけど。」

「無駄。無意味。徒労。」

 

だが、エドナは変わらず淡々と言う。

ロゼは腕を組んで、

 

「別名『憤怒の噴水』って言うんだ。」

「憤怒の?なぜそんな名前を?」

「なんか水道の調子が悪いらしくてさ。時々……」

「ひゃあああっ⁉」

 

と、エドナが悲鳴を上げ、尻餅をつく。

エドナを見ると、傘をさしていたので雨には濡れなかった。

しかし、噴水の水がエドナを直撃した。

エドナは全身がびしょびしょになった。

 

「……」

 

エドナは座り込んだまま、ロゼを睨み上げる。

ロゼは笑いを堪えながら、

 

「こうなるから。」

「なるほど。」

 

ライラも手を合わせて、視線を外した。

エドナは今度は噴水を睨み、

 

「人間バカすぎっ!」

 

それを見ていたスレイ達は、

 

「なんか、楽しそうだな。」

「そうだね。」

 

ミクリオとスレイは苦笑いする。

 

「楽しそうなの?」

「何故、俺に聞く。」

「なんとなく。」

「知らん。」

 

レイはデゼルに聞き、二人は最終的に横目同士で見つめ合う。

否、睨み合う。

 

「と、とりあえず、宿屋に行こう!な!」

「そうだね!そうしよう。」

 

スレイとミクリオは互いに見合って言う。

 

レイは何かに反応する。

そして広場を上がって行った。

スレイ達も広場を上がると、一人の人を何人かの騎士兵達が剣を構えて立っていた。

スレイとロゼはそこを眉を寄せて、見る。

そこには見知った人物もいた。

騎士兵に剣を向けられていた人物は持っていた剣を振りまくる。

スレイ達の目には、その人物は憑魔に見えている。

そしてその人物の振るう剣を、弾く見知った騎士兵。

 

「はあ!」

 

そして、その人物の腕を軽く斬る。

 

「ぎゃあああ!」

 

その人物は腕を抑え、騎士兵達を見渡す。

 

「ちぃ!」

 

と、その人物は舌打ちをして、高くジャンプした。

そしてそのまま、高台へ着地して逃げた。

騎士兵達はすぐに追いかける。

スレイは見知った騎士兵に近付く。

 

「セルゲイさん!」

 

見知った騎士兵セルゲイはスレイを見て、

 

「……枢機卿の配下だ。捕らえようとしたのだが、ただ者ではなかった。」

 

ロゼは逃げたその人物の方を見て、

 

「とんでもない動きね。」

「見えただろう。憑魔≪ひょうま≫だ。」

 

デゼルがロゼに言う。

ミクリオもそこを睨みながら、

 

「枢機卿の配下が憑魔≪ひょうま≫になってるとは……」

 

一人の騎士兵が騎士セルゲイに近付き、

 

「申し訳ありません。教会神殿に逃げ込まれました。」

 

騎士セルゲイは頷く。

ライラは眉を寄せて、

 

「事実のようですわね。」

 

騎士セルゲイはスレイを再び見て、

 

「おそらく奴は連絡係だと思う――」

 

と、スレイに説明をしようとした時、

 

「うごっ⁉」

 

エドナが騎士セルゲイの横腹を傘で突いた。

騎士セルゲイは口を開け、驚きながらその部分を見る。

そして周りを見渡す。

エドナは気にせず、傘を広げ、

 

「雨、寒いんですけど。長話、迷惑なんですけど。」

 

ライラも豪快に、

 

「へくちゅっ!へくちゅっ!」

 

と、レイはライラを見上げる。

ライラは頬を赤らめて、恥ずかしがる。

 

「くちゅん!」

 

レイは鼻をすする。

 

「……お兄ちゃん、抱っこ。」

「わかった。」

 

スレイはレイを抱き上げる。

 

「うわ、こんなに冷えていたのか……」

 

ロゼは騎士セルゲイに歩み寄り、

 

「詳しい話は雨宿りできるところでお願い。レイもそうだけど、仲間が寒がって。天族だって風邪ひくんだよ。」

「ロゼさん……」

 

ライラはロゼを見た。

スレイも嬉しそうにロゼを見ていた。

ロゼは腰に手を当て、

 

「見えない人にはわからないだろうけどね。」

 

スレイは頷く。

 

「し、失礼した。天族の方々もおられるのですな。我が騎士団塔へおいでください。」

 

と、騎士セルゲイはロゼを見て、

 

「優しい奥方だ。」

「うん。」

 

スレイも頷く。

ロゼは頭を掻き、苦笑いする。

そして騎士セルゲイは歩き出す。

 

「まだ奥方なんて言ってる。」

 

ミクリオは呆れたように、デゼルに言うが、

 

「……」

 

デゼルは腕を組んだまま、黙り込んだ。

 

「優しいんだな、ロゼ。」

「あはは、普通だって!あたしも寒いし……ハックション!」

 

と、レイはスレイを見上げ、

 

「……いつ奥方になったの?」

「え?」

「……いつ?」

「えっと……」

 

ミクリオが抱っこされてるレイに近付き、

 

「セルゲイの言う奥方は、従士の事を言うんだよ。」

「……ふーん。ならいいよ。」

 

と、スレイにギュッとしがみ付いた。

ロゼは小声で、

 

「ライラ、あんなこと言っていいの?」

「大丈夫ですよ、私たちならともかく、ミクリオさんが言ったんですから。」

「ああ、なるほど。」

 

と、スレイ達も騎士団塔へ歩き出す。

 

スレイ達は騎士団塔へ入る。

中は広く、騎士兵達が武器の手入れや休憩をしていた。

スレイ達は騎士セルゲイに近付く。

 

「ここなら落ち着いて話ができる。」

 

スレイはレイを降ろし、騎士セルゲイを見て、

 

「なんとかなった?教会に入る手続き。」

「許可は得たが……先ほどの事件の後では警戒されるだろうな。」

 

ロゼは腕を組んで、

 

「警戒は元からでしょ。今更関係ないんじゃない?」

「そうだよな。やましいことはないし、行ってみよう。」

 

ライラはミクリオを見て、

 

「ロゼさんがいらしてから、スレイさんの積極さに磨きがかかった気がしますわね。」

「心配する方の苦労も倍だけど。」

 

と、ミクリオは肩をすくめて言った。

騎士セルゲイはスレイを見て、

 

「世話をかける。」

 

スレイは笑みを浮かべ、明るい声で、

 

「決めたのはオレだから。それに教会の中の神殿を見るのも目的なんだ。」

「貴公は、どこか教皇様を思い起こさせる。あの方も、人のために身を惜しまぬ方だった。」

 

それを聞いたエドナは椅子に座り、

 

「無駄な苦労好きなのね。」

 

スレイはエドナを気にせず、

 

「そうなんだ……」

「宿を用意した。天族の方々も今晩はゆっくり休んでもらいたい。」

 

そう言った騎士セルゲイだが、彼の後ろに控えていた騎士兵の一人が、

 

「ですが団長。潜入したボリスが連絡を絶ってもう三日です。急いだ方が――」

 

しかし騎士セルゲイはそれを目で止める。

ロゼは騎士セルゲイに、

 

「ボリスって?」

 

しかし騎士セルゲイは、

 

「この長雨で、食糧事情はよくないが、ペンドラゴ名物のドラゴ鍋を用意させよう。」

 

そんな騎士セルゲイの姿に、

 

「心配ではないのですか!たった一人の弟でしょう?」

 

それにスレイ達は驚く。

ライラとエドナは眉を寄せて、レイを見る。

レイは騎士セルゲイを見た後、壁の方へ歩いて行く。

 

「これ以上、自分たちのツケを貴公等に背負わせたくないのだ。今は体を休めてくれ。」

 

騎士セルゲイは静かに言う。

ライラはスレイを見て、

 

「セルゲイさんのお言葉に甘えましょう。」

「……わかった。ありがとう。」

 

スレイは壁の方に行ったレイの所に行く。

レイは壁に掛けられていた絵を見ていた。

その絵は一人の男性の肖像画だった。

スレイはその絵を見て、

 

「この人、大地の記憶の……⁉」

 

ミクリオが題名を見る。

 

「白皇騎士団初代団長将軍ゲオルク……ヘルダルフ!」

 

ミクリオは大声を上げる。

スレイもそれを聞き、大声を上げる。

 

「ヘルダルフ!」

「しかも描かれたのは二十年以上前だ。」

 

驚く二人に、エドナは静かに、

 

「大地の記憶に残ってるはずよね。」

「この人が、あのヘルダルフ……」

 

スレイはジッとその肖像画を見た。

ロゼもその肖像画を見て、

 

「こいつが災禍の顕主の正体って……ホントに?」

「わからない。オレたちには獅子の憑魔≪ひょうま≫にしか見えなかったから。けどライラは、大地の記憶は災禍の顕主を識るための道標だって言った。」

「それに出てきた人間がヘルダルフだったんだ。同一人物と考えるのが自然だろう。」

 

ミクリオも付け足す。

ロゼは腰に手を当て、

 

「なるほど。納得。ふうん……案外渋いオジサマだね。」

「うん。オレたちの父親くらいの年齢かな。」

「二十年以上前の時点で、ね。」

「騎士団の初代団長だった。」

「肖像画を飾ってるってことは、セルゲイさんたちが尊敬してる人なんだろうな……」

 

何かを察したミクリオは、

 

「スレイ。」

「大丈夫。ちょっと思っただけだよ。災禍の顕主は正体不明の化け物じゃなくて、オレと同じ人間なんだなって。」

「「「…………」」」

 

レイ、ミクリオ、ロゼは無言で彼を見つめる。

レイはスレイに、

 

「お兄ちゃん、この後どうするの?」

「え?あ、ああ。宿屋に行く事にした。」

「そう。」

 

スレイ達は騎士団塔を後にする。

 

スレイは宿屋に向かいながら、

 

「セルゲイさんって、いい人だな。」

「はい。帝国の騎士団を率いるには正直すぎる気もしますけど。」

 

ライラは頬に手を当てて言う。

スレイも、

 

「だな。ちゃんとやれてるのかな?」

「ああいう人だからこそ、人望は厚い。」

「そうそう。それに、他人の心配してる場合じゃないと思うけど。」

 

そう言って歩き続ける。

レイは視線を騎士団塔へ向け、

 

「だからこそ、ああいう人間は秤に賭けられたとき……悲しい選択を取る。」

 

レイは視線をスレイに戻し、その後ろに付いて行く。

 

 

宿屋に入り、騎士セルゲイが手配してくれた料理を食べる。

ロゼはお腹を摩りながら、

 

「ぷふ~!ごちそうさま~!げっぷ。」

 

それを見ていたデゼルは、

 

「おい、下品だぞ。」

 

それをロゼは笑顔で返す。

レイはそれをジッと見て、スレイは驚いたように見ていた。

そしてロゼを見ながら、

 

「よく食べるなぁ。」

 

そしてミクリオも、それを見ていた。

ミクリオは、スレイと自分の間にいるレイに、

 

「あれはマネしちゃダメだぞ。」

 

レイは頷く。

そしてミクリオは自分の斜め前を見る。

 

「こっちの二人もね。」

 

と、ライラとエドナを見る。

ライラは手を合わせて、

 

「結構なお味だったので、つい……」

「ドラゴ鍋。85点。」

 

エドナは淡々と言う。

と、ロゼがスレイとミクリオを睨みながら、

 

「食べれる時に食べとく主義なの。というより、レイはそれだけで足りるの?ほとんど食べてないよね?」

 

レイは自分の皿を見る。

半分以上が残っている。

 

「…………」

 

ジッと見ているレイに、

 

「無理して食べなくてもいいぞ。」

「……」

 

レイは再びスプーンを手に取り、料理を口に運ぼうとするが、

 

「……」

 

その手を止めてしまう。

それを見たスレイはレイのスプーンと皿を取り、

 

「よし、オレに任せろ!」

 

と、口の中にかきこむ。

そして食べ切り、

 

「ごちそうさま!」

 

レイはスレイを見て、

 

「ありがとう。」

「大丈夫、大丈夫!それより、レイは大丈夫か?どこか調子が悪い?」

 

レイは首を振る。

 

「……前はこうじゃなかった……」

「ん?」

「何でもない。何で貴女はその主義なの?」

 

レイはロゼを見て言う。

 

「子供の時から仕込まれたんだ。戦士の鉄則だって。」

 

ロゼは嬉しそうに言う。

それを聞いたデゼルは俯き、

 

「戦士……か。」

「戦士?ロゼたちは暗殺ギルドだろ?」

 

ミクリオが聞くと、ロゼは腕を組んで、

 

「ん~とね、昔は違ったんだよ。あたしたち、前は傭兵団だったんだ。大陸一なんて呼ばれた。」

「傭兵団……」

 

スレイは小さく呟いた。

そしてロゼは立ち上がり、

 

「ふぁ~あ……」

 

と、大きなあくびを開ける。

ロゼはスレイ達を見て、

 

「先に休むね。明日は仕事だし。」

 

スレイは頷く。

ロゼが居なくなった後、スレイとミクリオはデゼルを見て、

 

「ロゼの傭兵団って、もしかして前にデゼルが言ってたやつ?」

「『風の傭兵団』だったね。」

「聞いたことありますわ。たった百人で二万の大軍を敗走させ、一晩で三つの城を落とすほどの力をもっていたとか。」

 

ライラがスレイ達の方を見て言う。

 

「……ああ。主にローランスに雇われて活躍した伝説的な傭兵団だ。」

「メチャつよじゃないか!」

 

スレイは大声で言う。

ライラは続ける。

 

「その上、信義に厚く、当時のローランス皇帝も右腕として頼るほどの存在だった……はずですが?」

 

デゼルは俯き、

 

「確かにそう『だった』。だが、ローランス皇家が裏切りやがったんだ。俺の仇とつるんでな。」

「ローランス皇家が憑魔≪ひょうま≫と組んでるだって⁉」

 

デゼルはスレイを見て、

 

「驚くほどのことか?」

「いや……人と憑魔≪ひょうま≫は、別の存在じゃないんだしな。」

「はい。むしろ裏表の関係と言っていいでしょう。」

「むしろ、枢機卿の力が憑魔≪ひょうま≫のものだとしたら、つじつまが合う。」

 

ミクリオが眉を寄せて、言う。

レイはデゼルを見る。

と、デゼルは立ち上がり、

 

「……ロゼが裏口から外に出た。目を離すとこれだ!」

 

彼は怒りながら、走り出した。

スレイも立ち上がり、

 

「おい、デゼル⁉」

 

レイも椅子から降り、その後を追うかのように走って行く。

 

「え⁉レイ⁉」

 

スレイ達もその後を追う。

 

「まさか暗殺の依頼があったのか?」

 

ミクリオが言うと、ライラが声を上げて、

 

「どなたを?ロゼさん一人で⁉」

「どっちにしろマズイよ!」

 

スレイは走るスピードを上げる。

高台の方へ行くと、

 

「どしたの?みんなして?」

「ロゼこそ、なんでこんなトコに?」

「ただの散歩。なんか食べすぎちゃって。」

 

ロゼは明るく言う。

デゼルが呆れたように、

 

「ったく、本能のまま動くんじゃない。」

 

スレイも、ロゼを見ながら、

 

「誰かを暗殺する気なのかと思っちゃったよ。」

「するよ。依頼があったし。」

 

と、笑顔で言う。

スレイ達は驚く。

無論、デゼルは知っているので驚かないが。

ロゼは腕を組んで、

 

「『戦いを起こしたヤツを殺してくれ』って。この前の戦争で息子さんを亡くした人から。今回の進攻は一年前に皇帝に進言されてた。マシドラ教皇の名でね。」

「まさか教皇様を⁉」

 

驚くスレイだが、後ろからミクリオが、

 

「待て。教皇の名前は使われただけじゃないのか?行方不明なんだから。」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。微妙だからね、失踪した時期と。そこはよく調べなきゃ。」

「もし調べた結果が――」

 

スレイが全てを言う前に、ロゼは力強い目で、

 

「悪なら殺る。それが風の骨だよ。」

「相手が教皇でも?」

 

ミクリオが再度聞く。

ロゼはまっすぐ見て、

 

「教皇でも皇帝でも、導師でもね。」

 

全体は無言となった。

ロゼは頭を掻きながら、

 

「あれ……?あたしなんか変なこと言った?」

 

スレイは笑い出した。

 

「ははは。そこまで言い切って訊かないでよ。」

「もちろん、見境なく殺すわけじゃないよ。どんな奴かちゃんと確かめてから。」

「ん、よくわかった。ロゼのこと。」

「そう?ならいいけど。」

 

ミクリオはロゼから視線を外し、

 

「僕もわかった気がするよ。ロゼが穢れを生まないわけが。」

「スレイ並みに変なヤツ。」

「嘘のない方なんですね。ロゼさんって。」

「昔からそうさ。こいつはな……」

 

デゼルが最後に小さく呟いた。

レイは空を見上げる。

雨が自分を打ち付ける。

 

「……人間は変な生き物……そしてそれを取り巻く多くのものも……変だ。」

ーー……かもしれないな。

 

レイはその後無言で、スレイ達を見た。

 

宿屋に戻り、

 

「でも、教皇様って、戦争を起こすような人なのか?」

「セルゲイさんの話とは印象が違いますよね。」

 

スレイの言葉に、ライラも同意する。

 

「大国の主導者だよ。一筋縄じゃいかない男なんだろうね。」

 

ミクリオも眉を寄せて言う。

と、そこに、

 

「はいはーい!今日はここまで!明日に備えて寝るよ!」

 

ロゼが手を叩きながら言う。

 

「……それもそうか。」

「そ。じゃあ、女子組はこっちね。」

 

と、ロゼがレイを抱える。

レイは身を固くし、

 

「え?なんで?」

「なんでって……レイも女の子でしょ。」

「イヤ、ヤダ、降ろして!」

 

レイは暴れ出す。

ロゼはそれを驚きながら、

 

「ちょっ!危ないって!」

 

と、ロゼの手から滑り落ちたレイは尻餅を着く。

すぐに立ち上がり、スレイの足にしがみ付く。

 

「私はお兄ちゃんとミク兄と一緒でいい。それ以外は嫌だ。」

 

と、無言が訪れる。

それはロゼだけでなく、スレイ達も驚いていたからだ。

 

「……でもさ、レイ……」

「絶対に嫌だ!」

「随分と子供らしいこと。」

 

エドナは淡々と言う。

と、レイは頭を抑え、

 

「…………」

「レイ?」

 

もう一度ロゼを見て、

 

「お兄ちゃんとミク兄以外は絶対に認めない!」

 

と言い切り、スレイ達の方の部屋に駆けこんだ。

デゼルが呆れたように、

 

「諦めた方がよさそうだな。」

「そのようですわね。」

「にしても、随分と感情的だったね。」

「そうだな。あんなレイ……見たことない。」

「ああ。嬉しいような複雑な気持ちだ。」

 

スレイとミクリオは俯く。

スレイが顔を上げ、

 

「レイはレイのままでいて欲しい……」

「スレイ……そう……だな。」

「じゃ、オレたちも寝るよ。じゃ、また明日。」

 

スレイは最後明るく言って、部屋に向かった。

ミクリオとデゼルもその後に付いて行く。

 

「なんか、複雑だね。嬉しいけど、なんかこう……」

「そうですわね。何だかモヤモヤしていて……」

「ギャップ?」

「それだ!」「それですわ!」

 

悩むロゼとライラに、エドナが淡々と言う。

 

「でも確かにそうね。おチビちゃん姿の裁判者としてだけでなく、これまでのおチビちゃんを見てきた者としては……あそこまで感情的なおチビちゃんは始めて見るわ。」

 

そして沈黙する。

ロゼが、

 

「あたしたちも寝よ。考え込んでもいいことはないし。」

「ですね。」

 

ロゼたちも部屋に向かった。

 

ロゼは部屋に着くなり、ベッドの上で腹を摩る。

 

「今日は食べ過ぎちゃったな~。……ちょっとお腹が痛い……」

「あらあら。食べ過ぎはいけませんわよ。」

「ちなみに天族は食べ過ぎてお腹壊したり太ったりとかしないの?」

 

ロゼは腕を組んで、首を摩する。

ライラは頬に手を当て、顔を赤くして、

 

「メルヘンな言い方をしますと『想いは形になる』という感じですわね。」

「なんのこっちゃ。」

「カロリーを摂取して太るのではなく、『これだけ食べたら太るだろうな』という思いが形に。」

「わーお。逆に言うと、思わなければオッケーってこと?」

 

ライラは左手を握りしめ、険しい表情で、

 

「いえ、事象の否定は穢れに繋がります。天族に現実逃避は許されないのですわ。結局のところ、人間と同じに考えていただけると。」

 

最期は左手を口元に当て、明るい声で言った。

ロゼはそれを呆れたように、

 

「ややこし。」

 

そしてそんな二人を見ていたエドナは、

 

「バカらしいわね、まったく。」

 

と、言って床に入った。

 

 

レイはミクリオと寝ていた。

だが、目は冴えていた。

それに気が付いたミクリオが、

 

「眠れないのか?」

「……ごめんなさい。」

「謝ることはないさ。」

 

レイはミクリオの方に体を寄せ、

 

「……不思議と今は眠くない。前はすぐに寝れたのに…。」

 

レイはミクリオを見上げ、

 

「ミク兄は今日も、技の特訓をやるの?」

「気付いていたのか?」

「なんとなく。休憩以外でもやってるとは思っただけ。」

「なるほど。じゃあ、レイが眠くなるまで付き合ってくれるか?」

 

レイは頷く。

そしてそっと、部屋から抜け出す。

 

「水よ!敵を穿て!鋭き氷、拡散せよ!」

 

ミクリオは技の練習をしていた。

それをレイは雨に濡れない所で、それを座って見ていた。

 

「よし……かなり安定してきた。」

 

と、そんなミクリオに、

 

「精が出ますわね。」

 

ライラがレイの横に来た。

ミクリオは若干驚き、

 

「いや、これは別に……」

 

ライラもレイの横に座り、

 

「思った以上に複雑でしたね。ローランスの事情も。」

 

ミクリオもこちらにやって来て、

 

「騎士団と教会の対立だけでも頭が痛いのに、風の骨の暗殺やデゼルの復讐まで絡んできたからね。」

「枢機卿に、デゼルさんの仇……強力な憑魔≪ひょうま≫とぶつかることになるかもしれません。」

「ロゼのことも気にかけないと。信じているけど、彼女だって人間だ。穢れてしまう危険性はついてまわる。」

「はい。導師と同じか、それ以上に。」

 

二人は真剣な表情で、見つめ合った。

が、ミクリオは腰に手を当て、呆れたように、

 

「なのに本人たちは案外お気楽だ。イヤになるよ。そうだろ、レイ。」

 

レイは視線をあっちこっち向けた後、

 

「……でも、それがあの二人だと思う。それに、ミク兄が傍にいるから。」

「ふふ。レイさんの言う通りですよ。ミクリオさんが一緒だからですよ。」

「どうだか。」

 

と、ライラは優しく微笑み、

 

「私もそうですし。レイさんも、ね?」

 

レイはミクリオを見て頷いた。

 

「僕は、僕のためにやっているだけさ。こう見えても向上心が強いんだ。」

 

ミクリオは顔を片手で隠して、照れながら言う。

 

「ふふ。こう見えても、ですか。」

「そうだよ。若いからね。」

 

そういう彼をライラはなおも優しく微笑む。

と、レイが目を擦り始める。

 

「そろそろ寝るか、レイ?」

 

レイは頷く。

そして目を擦りながら、

 

「ミク兄、抱っこ。」

「ああ。」

 

と、レイを抱き上げる。

ライラも立ち上がり、

 

「では、おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」

 

レイもライラに手を振る。

 

 

次の朝、今日もペンドラゴは雨だった。

スレイ達は早速、教会神殿に向かう。

そして中に入った。

中は広く、人もほとんどいなかった。

ロゼは小さい声で、

 

「あっさり入れちゃった。」

 

ライラは辺りを見渡して、

 

「ここは一般信者用の講堂のようですわね。」

 

ロゼも辺りを見渡し、

 

「その割に人いなくない?」

 

スレイも辺りを見て、

 

「このまま入っていいのかな?」

「話はついてるはずだけど……やっぱ一言言った方がよくない?」

 

スレイ達は警戒しつつも、奥へと進む。

奥へ行くと、一人の若い祭司が三人の子供達と話をしていた。

 

「最高の力を持つ五人の天族、〝五大神″のお名前を全部言えるかな?」

「えっと、えっと……」

 

と、悩む男の子。

だが、真ん中の女の子が手を上げて、

 

「ムスヒ!あと、あと、ウマシア!」

 

そして、もう一人の男の子が手を上げて、

 

「ハヤヒノとアメノチ!」

「そう。そして最後の大神は、この教会神殿に祀られている――」

 

祭司が優しくゆっくり言う。

子供達は手を上げて、

 

「「「マオテラス‼」」」

 

レイはそれを黙って聞き、その場を見つめる。

ライラは最後の天族の名を聞き、悲しそうに反応し、俯く。

それをエドナとデゼルは気付く。

祭司は子供達を見下ろし、

 

「そう。マオテラス様は、グリンウッド大陸のすべてに加護をあたえてくださる天族ですね。」

 

それを聞いたスレイは嬉しそうに、

 

「教会神殿には、マオテラスが祀られてるのか!」

「五大神とは超大物が出てきたな。」

 

ミクリオも驚きを隠せない。

 

「マオテラスなら、災禍の顕主に対抗する方法を知ってる可能性は高いよな。」

 

スレイはミクリオを見て言う。

そんな二人の姿を見ていたロゼは、

 

「そんなスゴイ奴なんだ?」

「なんたって五大神の筆頭だからね。」

 

と、若い祭司はスレイの方に寄り、

 

「スレイさんですね?ようこそ、ローランス本部教会へ。お話は伺っています。どうぞ奥へ。」

 

若い祭司は案内に従って進む。

 

「さっすが教会神殿……!」

「間違いなくアスガード時代隆盛期の建築物だな。」

 

スレイとミクリオの短剣心が高まっていく。

そんな二人に、

 

「感心もいいけど、警戒を忘れない。」

「だって、想像してたより、ずっとすごいよ!」

「だから落ち着けってば!」

 

ロゼは怒りながら、言う。

レイはそのやり取りを無表情で見ていた。

 

中間地点の場所に来ると、中央に石碑が立っていた。

そこに近付くと、

 

「これは『導師の試練』と、それを越えることで得られる『秘力』について書かれている碑文です。」

「『導師の秘力』!」

 

と、嬉しそうに言う。

スレイの後ろで、ミクリオが、

 

「本物かな?」

 

と、レイとスレイとミクリオはライラの方を見る。

するとライラは明後日の方向を見て、

 

「カナカナカナ~♪あ、ヒグラシが鳴いていますわね。」

 

と、明るい声と笑顔で踊っていた。

それを見たスレイとミクリオは、

 

「本物っぽいな!」「本物っぽいね!」

 

と、同時に言う。

ちなみにライラのこの行動に、エドナは無表情で見て、デゼルは呆れ、ロゼは引いていた。

スレイはその碑文を見て、

 

「解説っぽい古代文字があるけど。」

「文章になってない。きっと暗号なんだ。」

 

ミクリオも同じように見て言う。

スレイとミクリオはお互いに見合い、

 

「秘力っていうくらいだしな。どこかに解読のヒントは……」

 

と、話し合っていると、

 

「あのー。これ、なんて書いてあるの?」

 

ロゼが碑文を指差しながら言う。

が、若い祭司は首を振る。

 

「わかりません。この碑文は、暗号で示されていてその解読法は代々教皇様だけに伝えられるのです。」

「教皇様に読んでもらわないとダメってことか……」

 

腕を組んで悩むスレイ。

レイは辺りを見渡す。

その瞳は赤く光っていた。

そして突如、その場は穢れの領域に包まれた。

天族の皆は穢れによって姿が見えなくなる。

ミクリオがスレイを見て、

 

「スレイ!」

 

と、言って消えた。

スレイは若い祭司を見ると、彼は石化されていた。

スレイはロゼを見て、

 

「ここはまずい!外へ!」

 

スレイはレイを抱えて走り出す。

ロゼもそれに続く。

 

「気持ち悪い……なにこれ⁉まるであの時みたいな……」

「うん。あの時とは若干違うけど、これは憑魔≪ひょうま≫の領域!ヘルダルフの時と同じだ!」

 

教会神殿の入り口の方へ戻って来た。

最初、若い祭司と話していた子供達も石化していた。

スレイは子供達を見て、

 

「生きている。けど……」

「……石みたい固まってる。」

 

スレイはロゼを見て、

 

「ロゼは大丈夫か⁉」

「大丈夫……じゃなくなりそう!全力で脱出っ!」

「だな!レイは大丈夫か⁉」

「私は平気、それよりお兄ちゃん入り口気をつけて。」

 

レイは入り口の方を赤く光っている瞳で見ていた。

スレイは入り口の方を見る。

人影が見える。

スレイはレイを抱えたまま、ロゼと共に入り口に向かう。

するとその人影は、はっきりと解る。

白い祭司服を身に纏った女性だった。

 

「もうお帰りですか、導師よ?」

「うぅ⁉」

 

スレイとロゼは急ブレーキを掛ける。

女性はゆっくりと歩いてくる。

 

「ローランス教会枢機卿フォートンです。」

 

スレイはレイを降ろし、警戒しながら女性を見る。

 

「この領域は……あなたが。」

 

枢機卿フォートンは立ち止まり、スレイを見る。

 

「ここまで動けるなら合格ですね。その力を私に預けませんか、民のために。」

「ハイランドでも同じこと言われたよ。」

「バルトロのような俗物と一緒にされるのは心外ですね。」

「俗物っぽい台詞だよ、それ。」

 

ロゼは枢機卿フォートンを睨んで言う。

枢機卿フォートンはロゼを見て、

 

「少なくとも、そんな挑発に乗る程度ではありません。」

「おお、一本とられた。」

 

枢機卿フォートンはスレイを再び見て、

 

「私の願いはただ一つ。帝国がこの災厄の時代を乗り越えること。」

 

枢機卿フォートンは視線を上にし、

 

「それは民の結束なしには不可能でしょう。しかし、愛国心のみでそれを行うにはローランスは強大すぎる。」

 

視線をスレイ達に戻し、

 

「導師よ。古来より、国家が何をもって民をまとめてきたか知っていますか?」

「……信仰かな。」

「そう。人は、心の救済のために最も尽くし、価値観を違える集団に対し、最大の結束を発揮します。つまり、我が教会こそがローランスの要にふさわしい。」

「それがあなたの考えなんだ。」

「民を導く者としての理念です。導師の名と力が加われば、より多くの民を救うことができるでしょう。」

「なら騎士団と協力すればいい。それが一番みんなのためになるだろ?」

「私の意に従って働くというなら喜んで迎え入れますよ。例え、教皇が逃亡したとも知らぬ愚かな騎士団であっても。」

 

ロゼは驚き、

 

「教皇が逃げた?あんたが監禁してるんじゃないの?」

「いいえ。教皇――いや、マシドラは自ら逃げ出したのですよ。帝国と信徒への債務を、すべて投げ出して。そのような男をどう思いますか?」

 

レイはスレイを見上げる。

 

「……無責任だと思う。本当なら。」

「そうでしょう?なのに騎士団のように、そんな卑怯者を未だに信奉する愚か者が多い。結束のためには、マシドラを見つけだし処罰する必要があります。」

「処罰?」

 

ロゼは眉を寄せて、枢機卿フォートンを見る。

 

「そう。私を疑う無礼者どもに与えたのと同じ罰を。」

 

枢機卿フォートンは深い笑みを浮かべる。

 

「……それはそれで、身勝手な理由だな。」

「なんでって?」

「お前は力を間違ってるんだよ。」

 

レイは枢機卿フォートンを赤く光る瞳で見据える。

そしてスレイは枢機卿フォートンをまっすぐ見て、

 

「ああ、そうだ。それは困るな。教皇様には碑文の意味を教えてもらわないといけないんだ。」

「必要ないでしょう?協力するのなら。」

 

スレイは枢機卿フォートンをなおもまっすぐ見つめ、

 

「どうしても知りたいんだ。オレは。」

 

枢機卿フォートンはゆっくり頷き、

 

「わかりました。つまり私の理念を――」

 

と、領域の質が上がった。

 

「うぐっ⁉」

「体がっ‼」

 

枢機卿フォートンは杖を取り出し、

 

「拒否するのですね!」

「……結局、お前も同じか。愚かな人間、が。」

 

レイが前に歩み出る。

その瞳は赤く光っている。

 

「この気配、その瞳……いや、違う、違う!その目で私を見るな!」

 

レイは地面を思いっきり叩く。

すると、領域が揺らぐ。

 

「ス……――レイ!」

 

ミクリオの声が響く。

スレイ達は上を見上げる。

空間を斬って天族組が現れた。

ミクリオは杖を手に、スレイの前に立つ。

 

「スレイ!」

 

スレイは嬉しそうに彼を見る。

そしてデゼルはロゼの手を掴み、

 

「退くぞ、ロゼ‼」

 

ミクリオは水の氷壁を作り、霧を発生させた。

それにより、敵から姿を消してその場を離脱する。

枢機卿フォートンはスレイが居た場所を杖で叩き付ける。

が、霧が晴れた時、そこにスレイ達は居なかった。

ある者もを除いては……。

 

「くっ⁉」

 

枢機卿フォートンは扉を方を見て、

 

「貴女の力を借り、一瞬とはいえ、私の領域を破って天族と繋がった……。楽しみですね。」

 

と、視線を斜め後ろにいる小さな少女に向ける。

黒いコートのようなワンピースの服を着た小さな少女は、

 

「私にはわからない感情だ。」

「何故、彼らと逃げなかったのです。」

 

枢機卿フォートンは小さな少女を見る。

 

「……さっきまであれほど否定していたと言うのに……随分と落ち着いているのだな。」

「質問しているのは私の方です。今の貴女なら、私でも――」

 

と、枢機卿フォートンは黙り込む。

その頬から汗が一滴落ちる。

 

「勘違いしてないか。確かに今の私は半分だけだが……お前一人くらい簡単に喰えるぞ。」

 

小さな少女の足元からの影からは何かが蠢き出てきている。

そして枢機卿フォートンを見る赤く光る瞳は、彼女を鋭く見据える。

 

「お前が望んで手に入れた力だ。私自身は何も言わないさ。だが、権力は別だ。それが私の中にある盟約に反するなら……導師達ではなく、私がお前を殺そう。」

 

そう言うと、小さな少女を風が包み込む。

 

「それを忘れるな。」

 

突風が教会内を吹き荒れた。

そしてそれが収まった時には、小さな少女の姿はなかった。

 

 

スレイ達は教会から何とか逃げ出しながら、

 

「消えた!なにこれ⁉」

「『霊霧の衣』だ。」

 

驚くロゼに、ミクリオが即答で答える。

スレイは嬉しそうに、

 

「隠れて練習してた術だろ!すごいな!」

「話はあと!騎士団塔まで逃げるんだ。」

 

ミクリオが叫びながら言う。

彼らは走って騎士団塔へ向かう。

 

騎士団塔まで来て、中に入ろうとしたが、

 

「ヤボ用!先行ってて!」

 

ロゼが奥の方にいる男性の元へ駆けて行く。

スレイはそのロゼの背を見て、

 

「あ……うん。」

 

スレイは中へ入る。

スレイは騎士セルゲイに近付き、教会神殿での枢機卿フォートンの言っていた話をする。

騎士セルゲイは困惑しながら、

 

「マシドラ様が自ら逃げた……⁉」

「ごめん。詳しい話はきけなかった。逃げるのに精一杯で。」

「いや、捕らえれていないと、わかっただけでも充分な成果だ。」

 

スレイは頷き、ミクリオを見て、

 

「ミクリオ、サンキュー。」

「これくらい普通さ。」

 

スレイのお礼を聞いた騎士セルゲイはスレイの見る方を見て、

 

「天族ミクリオ殿。貴殿の勇気に敬意を表す。」

「……別にいいけど。」

 

眉を寄せるミクリオに、後ろからデゼルが、

 

「調子に乗るな。目を眩ましただけだ。」

 

ミクリオは視線だけをデゼルを見る。

エドナはスレイを見て、

 

「アイツの領域をなんとかしないと。」

 

スレイは頷き、

 

「教皇様に碑文を読んでもらって秘力を手に入れよう。」

「けど、肝心の教皇の居場所は?騎士団が一年捜して見つからなかったんだぞ。」

 

ミクリオの言葉に答えたのは後ろからの声だった。

 

「それは枢機卿に捕まってるって思い込みで捜してたからじゃないかな?」

 

ロゼがこちらに歩きながら、

 

「つかんだよ。教皇の居場所の手がかり。」

 

スレイはロゼを見て、

 

「本当⁉」

「大陸の南にあるゴドジンって村。ホントかどうかは行ってみないとわからないけど。」

 

早口で言うロゼに、騎士セルゲイは驚きながら、

 

「どうやってそんな情報を⁉」

 

ロゼは笑顔で腰に手を当て、

 

「それは……企業秘密。導師の身内ってことで納得して。」

 

騎士セルゲイは頷き、

 

「なるほど、さすがは導師の奥方。ゴドジンに捜索隊を派遣しよう。」

「待った。こっちが教皇を捜そうとするのは枢機卿もわかっているはずだ。」

「下手に騎士団が動いたら、教皇様の居場所を教えてしまうことになりますわ。」

「僕たちだけなら。」

 

と、ミクリオとライラがスレイを見て言う。

スレイもそれを理解し、

 

「隠れて行動できる……か。」

 

スレイは騎士セルゲイを見て、

 

「ゴドジンにはオレたちが行くよ。」

「しかし、それではあまりにも――。」

「任せとけって。言うでしょ?『ヘビの道はヘビー』……だっけ?」

 

首をかしげるロゼの言葉に足すように、

 

「『蛇の道はべび』、『憑魔≪ひょうま≫の相手は導師』ですわね。」

「そういうこと。」

「……かたじけない。」

「あ、その代りっていったらだけど、ローランスの通行証をもらえないかな?オレ、ハイランド軍の味方って誤解されてるかもしれなくて。」

 

騎士セルゲイは頷き、

 

「貴公がどんな人物かは十分承知している。早急に手配しよう。」

「よかった。これで一安心。」

「ところで、身内といえば……貴公の妹君は?」

「「「え⁉」」」

 

スレイ、ミクリオ、ロゼは辺りを見渡す。

スレイとミクリオは顔を青くし、

 

「「え?え⁉」」

「もしかして……置いてきちゃった?」

 

ロゼはデゼルを見る。

 

「オレはお前で手一杯だった。」

 

そして、ライラとエドナを見る。

 

「ワタシは自分で手一杯よ。」

「私も気が付きませんでしたわ……」

「どうしよう、ミクリオ⁉今から連れ戻しに……」

「待て、スレイ!今行けば、危ない!計画を立てて――」

 

と、スレイとミクリオは話し始める。

それを見た騎士セルゲイが話しかける前に、

 

「何の話?」

「うむ。どうやら、導師殿の妹君が教会神殿に置き去りに……」

 

騎士セルゲイは自分で言っている内に気付き、下を見る。

そこには自分を見上げる小さな少女。

 

「……導師殿、大丈夫だ。」

「大丈夫じゃないよ!」

 

と、スレイが凄い勢いで、騎士セルゲイを見る。

騎士セルゲイはスレイを見て、もう一度下を見る。

スレイ以外の皆は騎士セルゲイの側にいる人物に気が付いた。

だがスレイは、

 

「あー、どうしよう!どうすれば――」

「スレイ!」

「なに、ロゼ⁉今忙しい!」

「じゃなくて、はい!」

 

と、スレイの頭を騎士セルゲイの足元に向けた。

スレイは固まっていた。

 

「ただいま。」

「おかえり……え?」

 

そしてスレイはレイを抱き上げ、

 

「レイ―‼」

 

そして抱きしめる。

 

「よかった、よかった!ゴメン、気付けなくて!」

「……なんか……ごめんなさい?」

 

レイはミクリオに目を向ける。

 

「半々かな。」

「そう……」

 

そんな姿にホッとした騎士セルゲイは顔を引き締め、

 

「導師殿、自分からも、ひとつ伝えておきたいことがある。表に出てもらえないか。」

 

そう言いて、外に出て行く騎士セルゲイ。

スレイもレイを降ろし、付いて行く。

 

外に出て、雨の中二人は向き合う。

 

「貴公との戦いで自分が使った技を覚えているか?」

 

スレイは頷く。

 

「あれは『獅子戦吼』。代々騎士団に伝えられてきた奥義だ。」

 

騎士セルゲイはスレイに背を向け、距離を取りながら、

 

「今の使い手は自分と、弟のボリスのみになってしまったが……」

 

そして再びスレイを見て、

 

「それを貴公に伝授したい。受けてもらえるだろうか?」

「わかった。」

 

スレイは頷く。

二人は剣を抜く。

 

スレイはそれを感覚と、体で覚えて行く。

しばらくして、

 

「獅子戦吼!」

 

スレイは見事、獅子戦吼を習得した。

二人は剣をしまい、

 

「素晴らしい飲み込みの早さだ。すまない。無骨者ゆえこんなものしか報いる術を知らないのだ。」

 

スレイは首を振り、

 

「ううん、すごい技だよ。ありがとう、セルゲイさん。」

 

騎士セルゲイはスレイに近付き、

 

「もう我々は同門だ。セルゲイでかまわない。」

「オレもスレイでいいよ。」

「スレイ。教皇様が逃げ出したとは信じたくはない。だが、この事件には自分の知らない裏があるようだ。」

「わかった。教皇様を見つけて事情を確かめよう。」

 

そして二人は手を握りあう。

 

「頼む。」

 

 

騎士団塔の中へ戻り、スレイ達は話し合っていた。

ミクリオがロゼを見て、

 

「ロゼ、教皇の情報って風の骨がつかんだのか?」

「まね。教会関係のお金の流れからチョチョっとね。」

「さすがですわ。騎士団とは違うやり方ですね。」

「これくらい当然。暗殺ギルドなめんなよ。」

 

ロゼは腰に手を当て、ドヤ顔する。

 

「暗殺……か。」

 

スレイが呟く。

と、そこに騎士セルゲイが近付いて来た。

 

「スレイ、通行証だ。」

 

スレイはそれを受け取り、

 

「ありがとう。、これで安心して旅ができるよ。」

 

だが、騎士セルゲイは眉を寄せ、

 

「それが、ゴドジンに通じるバイロブクリフ崖道が落石で塞がれたという情報が入った。」

 

それを聞いたライラが手を合わせて、笑顔で、

 

「それは岩だけに――」

「『ガーン!』って感じだね。」

 

ライラの前に居たロゼが大声で言う。

そして笑顔でライラを見る。

ライラはロゼを悲しそうに近付き、

 

「ああっ!ロゼさんのオチ泥棒!」

 

スレイはそれを苦笑いした後、騎士セルゲイを見て、

 

「他に道は?」

「凱旋草海の南にある『ガンブリア地底同』を通り抜けるしかないだろう。」

「わかった。地下の抜け道だね!」

 

嬉しそうに言うスレイに、ロゼが呆れたように、

 

「そこ、ワクワクするトコ?」

「するトコだよ。」

 

スレイは真顔で言った。

レイがロゼの服の裾を引っ張り、

 

「ドンマイ。」

「え⁉私が、変なの⁉」

「あはは。本当にスレイ達は面白いな。気をつけて。」

「ああ。行ってくるよ。」

 

スレイ達は騎士団塔を後にする。

 

スレイは歩きながら、

 

「やっぱり枢機卿は憑魔≪ひょうま≫だったな。」

「ああ。正体まではつかめなかったがな。」

 

デゼルは重い口調で言った。

ミクリオは悲しそうに言う。

 

「つまり、民のためと言ってはいたが、自分の欲望で動いてるってことだね。」

「そんなもんよ。人間なんて。」

「強すぎるほどの責任感をもった方でしたね。自分がなんとかしなかればという想いが、自己正当化と結びついてしまったのだと思います。」

 

ライラが思い出しながら言う。

 

「よーするに、器じゃなかったってことだよね。教皇が逃げたのが原因なのかも?」

 

ロゼが腕を組み、首を摩りながら言う。

ライラは祈るのように手を握り、

 

「それはわかりませんが……」

「ロゼの仕事に関わることだよね。」

「そ。だから教皇を見つけて、どんな奴か見極めないと。」

 

ロゼは腰に手を当て、真剣な表情で言う。

スレイはそれを空を見上げ、黙り込む。

そんなスレイにミクリオは、

 

「スレイ、とにかく秘力を手に入れないと。後のことは後のことだ。」

「そうだな。教皇様を捜そう。」

 

スレイが真剣な表情で言う。

と、ロゼが笑顔で、

 

「ゴドジンへゴー!」

 

と言うが、

 

「その前に……おチビちゃんはあの碑文の解読方法を知ってるでしょ。」

 

エドナが傘先をレイの目の前に向ける。

全員が立ち止まる。

スレイとミクリオが、

 

「ちょ、エドナ⁉」「おい、エドナ!」

 

レイは無表情で目の前のエドナを見る。

 

「知ってる。…でも……」

 

ゆっくりと瞬きを一回して、

 

「それをお前に……いや、お前達に教える義理はない。」

 

そう言って、傘の先をどかす。

レイは腰に手を当て、赤く光っている瞳がエドナを見る。

 

「大体あれは、導師の……お前達のための試練だ。私が関与する義理も、必要性もない。すぐ傍に裁判者が居るからと甘えるな、陪神≪ばいしん≫。」

 

エドナは傘を地面にガシガシ突きながら、

 

「大体、あれを作ったのもアンタでしょ。それとも、審判者の方かしら。」

「どちらも半正解だ。あの碑文について私から言う事は何もない。……これに聞いても同じだ。その前に私が言わせない。」

 

そう言って、左手を胸に当てる。

レイの赤く光っている瞳が、エドナを見据える。

エドナは一本下がった後、傘を握りしめる。

レイは視線を外し、

 

「手が早い事だ。」

「は?」

「せいぜいあがけ。そして……この器を変えて見せろ、導師。――のようにな。」

「え?」

 

最期にレイはスレイを見据えて言った。

そして再び瞬きすると、レイは頭を右手で抑える。

ミクリオがしゃがみ、

 

「大丈夫か?」

 

レイは頷く。

 

「ホント、アイツ嫌い!」

「……私も?」

「は?」

 

レイはエドナを見て言う。

エドナは黙ってレイを見た。

そして傘をさし、

 

「おチビちゃんは嫌いじゃないわ。ほら、行くわよ。」

 

そう言って、エドナは歩き出す。

レイもその後ろに付いて行く。

スレイは頭を掻き、

 

「えっと?」

「今は進むしかないってことだ。」

 

ミクリオはスレイを見て言った。

そして彼らの後ろに付いて行く。

 

「だな!」

 

スレイも追いかける。

ロゼはそれを見て、

 

「なんだかな~。」

 

と、言いながら付いて行く。

ライラとデゼルも黙って付いて行く。

 

「しっかし、あの裁判者に喧嘩を売るとは……あいつは馬鹿か?」

「エドナさんだからこそですよ。エドナさんはレイさんを気に入ってますから。それにお兄さんの事も大好きでしたから……」

「そんなもんか。」

「そんなもんですよ。」

 

二人は前を歩く彼らを見て言う。

 

 

門の所に来ると、レイが素早く門の斜め右上を見る。

武装した憑魔≪ひょうま≫が立っていた。

スレイ達もそれに気づく。

 

「憑魔≪ひょうま≫!枢機卿の見張りか。」

 

ミクリオが、そこを見らみながら言う。

ライラが手を合わせて、

 

「スレイさん、見張りの目を誤魔化さないと。」

「ああ!ミクリオ!」

「任せろ。」

 

スレイは水の氷壁を作り出す。

そして門を出る。

 

「脱出成功!」

「これで枢機卿を出し抜けたかな。」

 

と、ロゼとミクリオが明るい声で言う。

ライラは心配そうに、

 

「だといいんですけど。」

 

レイは視線を感じ、門の方を見上げる。

赤く光っている瞳を持つ、白と黒のコートのような服を着た少年が立っていた。

その人物を見て、レイの瞳は揺らぎだす。

自分の胸の服を掴み、俯く。

 

「レイ?」

 

スレイが心配そうに声を掛けた。

レイはそっと同じ場所を見る。

そこにはもう人影はなかった。

レイはスレイの手を取り、

 

「何でもない。」

「ならいいけど……。よし、それじゃあ、行こう!」

 

そして彼らは歩き出す。

 

 

門の上で導師服を着た少年達を見ていた人物が居た。

その人物は、嬉しそうにそれを見る少年であった。

雨雫が彼の長い紫の髪を伝って地面に落ちる。

顔には目元を隠す仮面。

その顔には、笑みが浮かんでいた。

 

「なるほどね。通りで俺が気付かない訳だ。」

 

その赤く光る瞳が、導師服を着た少年の横に居る小さな少女を見据えていた。

その小さな少女が自分を見上げる。

 

「おっと。」

 

彼は門から離れる。

風に煽られ、白と黒のコートのような服がなびく。

 

「そっか、そっか。君はそういう風になったのか。」

 

嬉しそうに言いながら、笑みを浮かべて風と共に消えた。


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