テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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toz 第十話 ラストンベル

スレイ達は森の中を歩く。

スレイは森を少し進んだところで、

 

「ロゼ。」

「ん?なに?改まっちゃって。」

「……導師の使命についてなんだけど。」

「大地の記憶で見た災禍の顕主ってのをやっつけるってやつね。それがなに?」

「オレ、戦場で会ったんだ。災禍の顕主に。」

「そうなんだ。」

「けど、まるで歯が立たなかったんだ。」

 

と、思い出して落ち込む。

そこに、

 

「無様に霊応力まで封じられてな。」

 

デゼルが淡々と言う。

 

「ふむ。そこをあたしが助けたんだ。で?」

「でって……つまり危険なんだよ、この旅は。正直、勝ち目があるかどうかもわからない。今なら引き返せる。」

 

スレイは拳を握りしめる。

だが、ロゼは笑顔で、

 

「勝ち目を探すの手伝うし、勝ち目がなければ逃げればいいっしょ。大丈夫だって。スレイは実力も現実もわかってるじゃない。ね、レイ。」

「……ん。」

 

レイはスレイを見上がる。

 

「それに、レイもいるんだよ。ここであたしは逃げ出したりしない。」

 

スレイの前で、腰に手を当て胸を張る。

そんなロゼを見て、スレイは頬を掻きながら、

 

「……ありがとう。」

「なにが?」

「とにかく、さ。」

「ようわからんけど……どういたしまして。」

 

デゼルは小さな声で、

 

「問題ない。やばくなったら逃げるだけだ。」

 

と呟いていたのを、レイは聞いていた。

スレイは歩きながら、

 

「じゃあ、改めて……ロゼ、これからもよろしく。」

「おう!どんと任せろ!レイも、どんどんアタシを頼ってね。……お化け以外なら!」

「……多分……」

 

スレイと手を繋いでいたレイは、無表情で前を向いて言った。

 

「あはは。」

 

スレイは苦笑いで進む。

そしてロゼは、両手を後ろの手にして、

 

「それにしても、まさか天族と旅することになるなんてねえ。」

「まあ、よろしく頼むよ。」

 

突然のミクリオの声に、ロゼは飛び跳ねる。

 

「ぎゃあ!よろしくはいいけど、声だけとか怖いんだってばぁ……」

「……まさかこんな恐がりと旅することになるなんてね。」

「ははは……」

 

スレイはまたしても、苦笑いで進んでいく。

そして無言のデゼルに、

 

「デゼルも、よろしく。」

 

それでも無言だった。

しかも、その無言の中にも何かを感じる。

 

「なんか緊張感出てきた。冒険っぽいな!」

「……違うと思うけど?そうだろ、レイ。」

 

スレイの言葉に、ミクリオは呆れながら言う。

 

「…そう…かも…」

 

ロゼは少し後ろを歩いていた。

前の方では、レイとスレイが手を繋いで歩いている。

 

「あの、ロゼさん――」

 

と、頭の中でライラの声が響く。

ロゼは飛び跳ねる。

 

「ひいいっ!」

「あ!失礼しました!」

 

ライラは外に出て、ロゼを見る。

 

「これで。」

「い、いいよ。で、なに?」

「戦場でのお礼をいいたくて。スレイさんを救ってくださってありがとうございました。」

「気にしなくていいって。とっさにやっただけだし。」

「いいえ、あの勇気と気迫には感動しましたわ。」

「そ、そう?」

 

照れながら言うロゼに、

 

「おい。」

 

と、頭の中でデゼルの声が響く。

ロゼはまた飛び跳ね、

 

「ひううっ!姿を見せろってばっ!」

 

ロゼは出て来たデゼルに怒りながら、

 

「でっ!なに?」

「いや……おだてられて無茶をするなと……驚かせて、すまん。」

 

デゼルは帽子を深くかぶり、ロゼから視線を外す。

ロゼは腰に手を当て、

 

「わかればよし!」

 

と、一言デゼルに言って、速足で歩いて行った。

デゼルは空を見上げ、

 

「思わず謝ってしまった。」

「あの時以上の気迫でしたわね。」

 

ライラも手を合わせて、空を見上げた。

 

 

ミクリオは歩きながら、エドナに聞いた。

 

「僕も誓約をすれば、ライラみたいな力を得られるのかな……?」

 

しかしエドナは真剣な表情で、

 

「やめておきなさい。誓約は特別すぎる力よ。そんなものに頼らなくても力を磨き上げれば、自分だけの術は身につくわ。」

「エドナは……もってるのか?そういう術。」

「当たり前でしょ。」

 

エドナは即答だった。

ミクリオはエドナに詰め寄り、

 

「どんなのだ!見せてくれないか?」

 

エドナは意地悪顔になり、

 

「ふふふ、大胆なこと言うのね。大人の階段を登る気満々じゃない。」

「う……変な言い方はやめろ!」

 

ミクリオはエドナから少し離れ、怒る。

エドナは意地悪顔のまま、

 

「どんなに見たい?どうしてもってお願いするなら特別に見せてあげてもいいけど。」

「……いやいい。」

「せっかくのチャンスをボーに振るミクリオ……略してボミね。」

 

そう言って、歩いて行った。

ミクリオは真剣な表情で、

 

「力を磨き上げるか……」

 

そしてミクリオも、歩いて行く。

 

森の中で広い場所に出た。

とある大きな大樹の所に、大きな三本ツノのカブトムシを見つけた。

スレイはそれを見上げ、

 

「うわ!なんかスゴイのがいる!」

「ああ、ローランスオオカブトムシだね。」

「へぇ~、イズチにはいなかったよ。カッコイイなあ!な、レイ!」

 

レイもその大きな三本ツノのカブトムシを見て、

 

「あ……う…ん?」

 

と、首を傾げていた。

ロゼは悪い顔をしながら、

 

「スレイみたいな物好きが多くてね。良い値で売れるんだよ。」

 

と、スレイとロゼと共に見ていたデゼルが、

 

「……違う。」

「え?」

「そいつはヴァーグランオオクワガタだ。」

「クワガタなんだ!」

 

ロゼは明後日の方向を見て、

 

「あー……似たようなもんでしょ?どっちもツノついてるし。」

「全然違う。カブトのはツノだが、クワガタのはアゴだ。」

「うぐっ!」

「詳しいな、デゼル!」

 

スレイの目は輝いていた。

デゼルは横を向き、

 

「ふん、常識だ。」

「けど、発達は異なるけど用法は……?」

「どちらも闘争用だが、クワガタは腐葉土や朽木に潜るためにも使うな。」

「似てるけど別の道具ってことだな。」

 

スレイは感心していた。

ロゼは、スレイ達を見て、

 

「要するにアレね!お好み焼き用のコテともんじゃ焼き用のヘラみたいなもんだと!」

「いや、それは……」

「何を言ってるかわからん。」

「…絶対…違う…」

 

と、三人は言う。

ロゼはそれを少し怒りながら、

 

「なんだよー、意気投合しちゃって!」

 

と、歩いて行く。

 

そして今度は、大きな切り株を見つける。

スレイはまたしても、

 

「見ろよ、ミクリオ!でっかい切り株だ!」

「ふむ……年輪からすると樹齢千年は越えてるね。」

 

ミクリオは切り株の切り口を見て言う。

 

「……数えたのか?ヒマだな。」

「目測でわかるだろう!二十年の幅を目安にして半径が五十倍あれば千年だ。な、レイ!」

「……そう…だけど…あそこ…が…」

 

と、指さす。

スレイがみると、

 

「確かに、やけに年輪が詰まってる場所があるぞ。」

「本当だ。なぜだろう?」

「気候が冷え込んだか、日差しが弱かった時代があったんだろう。」

 

と、後ろからデゼルが言う。

スレイは嬉しそうに、

 

「そうか!それで木が成長できなくて年輪が狭まった。」

「大体……千年くらい前か。」

「木も歴史を記録してるんだな。」

 

スレイは感心する。

ミクリオは腕を組み、

 

「しかし、よく気付いたね。」

「ちょっと考えればわかることだ。」

 

そう言うと、歩いて行った。

 

休憩中、ロゼはブツブツ何かを言いながら悩んでいた。

 

「ブツブツブツブツ……うう~ん。」

 

そんなロゼにスレイとライラが、

 

「どうしたの、ロゼ?」

「具合でも悪いのですか?」

 

と、近付くが、気付かずブツブツ言っている。

レイがロゼの顔を見上げる。

 

「フォエス=メイマ≪清浄なるライラ≫、ルズローシヴ=レレイ≪執行者ミクリオ≫、ハクディム=ユーバ≪早咲きのエドナ≫、ルウィーユ=ユクム≪濁りなき瞳デゼル≫!」

 

レイはそれを聞き、納得した。

と、今度は大声で、

 

「フォエス=メイマ≪清浄なるライラ≫、ルズローシヴ=レレイ≪執行者ミクリオ≫、ハクディム=ユーバ≪早咲きのエドナ≫、ルウィーユ=ユクム≪濁りなき瞳デゼル≫!」

 

それはスレイ達にも聞こえ、スレイもまた、大声を上げる。

 

「ちょ、いきなり何⁉」

「それ、こっちのセリフ!ライラと契約した時、三秒で憶えろって超早口で叩き込まれたんだよー!おかげで頭から消えないし~!」

 

ライラは手を合わせて、視線を外し、

 

「あの時は緊急だったもので、つい。」

「時々強引だからね、ライラって……」

「お化けとは別の意味で怖い~!」

 

スレイは苦笑いで、ロゼは暗い顔で言う。

ライラはレイを見下ろし、

 

「私ってそんなに怖いですか?」

「……あー……」

 

何か言おうとして、レイはそっぽ向いた。

ライラは頬を膨らませた。

 

「……もういいです。それより、ロゼさん。この際わからない事があれば聞きますよ。」

 

ロゼはスレイを見て、

 

「じゃあさ、『ウィクエク=ウィク』……あたしの真名って、どういう意味?」

「ああ。『ロゼはロゼ』って意味。」

「『ロゼはロゼ』……なんか手抜きっぽくない?」

 

ロゼはスレイに怒りながら言う。

そんなスレイは、

 

「そう?ぱっと思いついたんだけど結構あってない?」

 

ライラは視線を外しながら、

 

「あの時は緊急事態でしたから。」

 

ロゼは半眼になり、

 

「またそれ⁉……う~ん……アリーシャ姫も従士だったんだよね?なんて真名つけたの?」

「『マオクス=アメッカ』。意味は『笑顔のアリーシャ』だ。」

「わかった。手抜きじゃなくて、ひいきですね?ねぇ、レイもそう思うよね?」

「…なに…が?…真名…が?…それ…なら…お兄ちゃん…の…言った…意味…そのまま…だと…思う…けど…」

「うっわ~……なんか…遠回しに弄られている気がする。」

 

ロゼは肩を落とす。

そしてロゼは顔を上げ、

 

「もうこれは絶対ひいきだ!」

「え⁉なんで?」

 

そしてロゼはスレイの目の前で、笑顔になる。

 

「あたしの笑顔だって、なかなかのもんなのに。」

 

そしてスレイは後ろに下がりながら、

 

「ちょっ、ロゼ!雰囲気が怖いよ!」

 

レイはミクリオの元に歩いて行った。

つまり、関わりたくないと……。

ライラはそれを見た後、苦笑いでロゼに言う。

 

「ロゼさん。スレイさんは素でこう言う方なので……」

「わかってる。スレイこそ『スレイはスレイ』だよね。」

 

スレイ達は笑った後、スレイはレイの歩いて行った方へ歩いて行く。

 

レイはミクリオを見ていた。

 

「水よ!敵を穿て!鋭き氷、拡散せよ!くっ……ここで拡散を自在に操れれば……くっ!」

 

ミクリオは技の練習をしていた。

レイはそれをずっと見ていたのだ。

 

「…今のは…弱かった…。」

「そうだな。抑え込みが弱すぎた。けど感覚はつかめてきたぞ。」

「…がんばれ…ミク兄…」

「ああ!」

 

そしてもう一人、それを見ていた者が……。

 

「ミクリオ、お前……」

 

休憩が終わるまで、ミクリオは技の練習をしていた。

 

スレイと別れた後、ロゼはエドナの所にいた。

エドナの靴を見て、

 

「ねえ、エドナ。」

「なに?」

「エドナのブーツってさ、なんかブカブカじゃない?」

「文句ある?」

 

若干怒り気味のエドナを笑顔で見上げたロゼは、

 

「全然。ただ、歩きにくくないかなって。」

 

エドナは真剣な表情で、

 

「……元は、お兄ちゃんのだからよ。ワタシの足に合うように調整してあるから、気にしないで。」

「じゃあ、そのグローブも?」

「お揃いだけど。それが?」

 

ロゼは笑顔で、

 

「ワンピースと似合ってるよね。ちょっと変わってるけど。」

 

エドナは一瞬嬉しそうにした後、ロゼに背を向ける。

 

「……お兄ちゃんもそういってくれたわ。」

「え?」

 

エドナは小さく呟いた。

彼女はロゼに振り返り、

 

「別に。あなたには似合わないって言ったのよ。」

 

エドナは悪戯顔でいったのだが、

 

「あはは。それはそうだ。」

 

ロゼは腹を抱えて笑いながら言う。

 

「……変なヤツ。」

 

エドナは再び背を向け、呟いた。

そしてエドナは歩いて行く。

と、ロゼの後ろから視線を感じる。

ロゼがそこを見ると、考えながらロゼを見るデゼル。

 

「……なんか用?」

 

と、デゼルはロゼを見て、

 

「おい。」

「ロゼ。」

 

ロゼは頬を膨らませながら言う。

デゼルは即答で、

 

「知っている。」

「じゃあ、名前呼んで。」

「ロゼ。」

「はいはい。なんでしょう?」

 

ロゼは笑顔でデゼルを見る。

 

「ああいうマネはよせ。」

「どういうマネよ?」

 

考えるロゼに舌打ちしたのち、

 

「……導師の背におぶわれていただろう。」

「ちょ!見てたの⁉」

「たまたまな。」

 

ロゼは震えながら、

 

「うう……そういうのが怖いんだよなあ、天族って!」

「体を預けるなど無防備すぎる。」

「それで油断させて殲滅って作戦じゃん。」

 

ロゼは頬を膨らませる。

だが、デゼルは腕を組んで、

 

「……年頃の娘のすることじゃないだろう。」

「殲滅が?」

「背負われることがだ!」

「年頃の娘は背負われるのはまずいんだ?」

「無防備なのがだ!」

「だからそういう作戦って言ってんじゃん!」

 

と、ロゼがボケ、デゼルが突っ込むを行いながら怒りあう。

 

「もういい……」

 

デゼルは疲れ切ったように言い、歩いて行った。

 

「?わけがわからん……」

 

ロゼはその姿を見て、腕を組んだ。

 

 

休憩が終わり、彼らは再び歩き出す。

するとスレイが、遠くに見える門を見つけた。

 

「街だ。ここって、もうローランス?」

「そ。ラストンベル。」

「有名ですわよね。商人と職人が集まる街として。」

「そうそう。以外に物知り――」

 

ライラが嬉しそうに言い、ロゼもそれに乗っていたが、

 

「って、頭の中に話しかけるの禁止だってー!」

「す、すみません。」

 

頭を抱えながら、叫ぶ。

門の近くに行くと、行列ができていた。

門の兵士が、

 

「列に並び、待て!従わぬ者は処罰する!」

 

その言葉に、列に並んでいた男性が、

 

「勘弁してくれよ。時間がないってのに。」

 

その男性に、スレイは問いかける。

 

「……なんの検問?」

 

男性は振り返り、

 

「軍のに決まってるだろう。本格的な大戦になるかもしれないんだからな。」

 

と、男性はスレイの格好を見て、

 

「……兄ちゃんはひっかかるかもな。」

「えっ!なんで⁉」

 

と、スレイが叫んだ。

すると門の兵士が、

 

「うしろ!騒がしいぞ!」

「すみませーん!」

 

ロゼが営業スマイルを送る。

静かになったところで男性は理由を話す。

 

「導師が出たって噂あったろ?」

「あった。ハイランドでしょ?」

 

ロゼが男性の会話にスムーズに入る。

男性は腕を組んで、困ったように言う。

 

「それがな、ローランスにもいるらしいんだ。」

 

その言葉に、レイは男性を見上げる。

そしてスレイは意外そうな顔で、

 

「へぇ!ローランスにも。」

「……ローランス帝国は、導師をよく思ってない?」

 

ロゼは腕を組んで、男性を見る。

 

「ああ。騎士団は戦力と見て警戒してるし、教会は異端者として取り締まろうとしてる。おまけにこの街じゃ、なんか不可解な事件が起こってるらしくて――」

 

と、行ってる後ろから、

 

「次!」

「おっと、オレの番だ。そういうわけだから、せいぜい気をつけな。」

 

そう言って、歩いて行った。

スレイはロゼを見て、

 

「ローランスにも導師がいるのかな?」

「その可能性はあるね。けど気をつけた方がいいよ。導師を騙る悪党は、もっと大勢いるから。」

 

スレイは頷く。

と、スレイは検問の方を見て不安そうに、

 

「大丈夫かな?不安になってきた。」

 

レイはスレイの手を放し、ロゼの方に行く。

ミクリオがロゼに、

 

「素性は隠した方がいいみたいだけど、スレイにウソをつけっていうのは……」

「…無理…」

 

レイはロゼを見上げて。

ライラも同じように、

 

「ですわね。ニワトリさんにゆで卵を産めっていうようなものですわよね。」

「同意。」

 

エドナも即答だった。

デゼルは淡々と、

 

「なら、逃げる準備をしておくんだな。」

 

ロゼは頭を抑えながら、

 

「通行証も持ってるし、任せとけって。だからしばらく頭の中でしゃべらない。わかった?」

「面倒を起こさなければな。」

 

デゼルは注意深く言う。

 

「いいの?」

 

ロゼはスレイを見て、

 

「ほら、しゃべんな。」

 

と、兵士の声が響く。

 

「次!」

 

スレイ達は門をくぐる。

 

門をくぐると、そこはレンガに囲まれた家が並ぶ。

そして周りの兵とは違った甲冑を着た男子騎士兵がやって来る。

兜は被っておらず、少し髭を生やし、生真面目そうな顔をしている。

その隊長格っぽい騎士兵がスレイ達の前に来る。

 

「自分は、ローランス帝国白皇騎士団、団長セルゲイ・ストレルカである。帝国の安寧に資する検問への諸君の協力に、衷心より謝意を表すものである!」

 

スレイの中から出て来た天族組。

そしてそれを見たエドナは、

 

「なにこいつ?堅苦し病?暑苦し病?」

 

ロゼは腰につけたカバンから、紙を取り出す。

 

「はい、商隊ギルド発行の通行証。ここに来た目的は手形の回収ね。」

 

それを見た騎士セルゲイは、

 

「『セキレイの羽』か。手際がいいな。」

 

ロゼは騎士セルゲイを見上げ、

 

「期限がせまってるから気が気じゃなくて。取り引き先は、大通りにある酒屋の――」

 

騎士セルゲイは思い出すように、

 

「ああ、ボリス酒桜か。あそこは手広く商いをしているようだな。」

 

レイは騎士セルゲイを見上げる。

その瞳の奥を見た。

 

「ウチも色々お世話になっております。他にはなにか?」

 

ロゼは明るく言う。

騎士セルゲイは首を振った。

 

「ない。検問への協力、痛み入る。」

「お疲れ様です~!」

 

と、ロゼは営業スマイルを送る。

そして、歩いて行く。

レイとスレイも、ロゼの後ろを歩いて行く。

が、騎士セルゲイはスレイを見て、

 

「次は、そちらの男と、娘だ。男の方は妙な身なりだが、護衛か?」

 

スレイはとっさに振り返り、何か言おうとした。

が、その前にエドナが傘でど突いた。

スレイは痛みを堪える。

ロゼが、とっさに言う。

 

「っと……女の一人旅はぶっそうなんで。で、小さい方は妹です。」

 

騎士セルゲイは、ロゼの背を見て、

 

「娘の方はわかった。だが、なぜ護衛が儀礼剣をさげているのだ?」

 

その言葉に、ミクリオは驚きながら、

 

「スレイの剣が儀礼剣って⁉重心のの差を見切ったのか。」

 

デゼルも警戒しながら、

 

「ただのバカじゃなさそうだな。」

 

そして逃げ出す準備をするデゼルだが、ロゼがそれを止める。

 

「待った。周り。」

 

周りには人が多すぎる。

デゼルは舌打ちする。

ロゼは笑顔で振り返り、

 

「えっと、もちろん理由があって――」

 

と、説明しようとしたが、

 

「そちらの男に聞いている。」

 

騎士セルゲイは、完全に警戒している。

そしてロゼも、このままではスレイに答えさせることとなるので、

 

「やば……」

 

ライラが考え込み、

 

「私の言う通りに。」

 

スレイは頷き、騎士セルゲイを見る。

ロゼもそれを見守り、レイもスレイを見上げる。

そしてスレイは片言で言い始める。

 

「ご不審はごもっとも。実は私はとある地方領主の御曹司なのだす。」

 

と、言い間違えるスレイに、エドナがど突く。

スレイはそれを耐えながら、

 

「……なのです。」

「むう⁉」

 

騎士セルゲイは、さらに疑問に陥る。

 

「ロゼ。」

 

ミクリオがロゼに言う。

ロゼもそれを察し、付け加えるのだが……。

 

「そう!お坊ちゃんなんです、ウチの亭主!」

 

ミクリオもそれに驚き、デゼルは帽子を深くし、呆れる。

ライラもまた新たな設定に、

 

「えっ、そんな設定⁉」

 

ロゼは頭を掻く。

ミクリオとライラは考え込む。

ライラの言葉をスレイが言う。

 

「フォークより重いものを持ったことがない箱入り息子が、ひょんなことから旅商人と恋に落ち、燃え上がる情熱のままに、すべてを捨て駆け落ちしたのが一年前……」

「へぇ、そうだったんだ?」

「そう…いう…もの…なの?」

 

それを聞いて、ロゼがレイを見て、レイはロゼを見て問いかける。

それに、ミクリオが物凄く驚き、とっさにスレイに、言葉を言わせる。

 

「妻にも、妹にも、秘密のこの事実!」

 

スレイは困り顔で続けていく。

 

「世間に出て、無力な若造と知りましたが、それでも妻を、妹を、守るのが夫の務めと思いつめ……」

 

と、ライラとエドナが、スレイの腕を持ち上げ、剣を握らせ、振る。

 

「見せかけの儀礼剣を下げて周囲に強がって見せているのです。」

 

ミクリオも反対側のスレイの腕を上げたりする。

 

「悲しい男の意地と、お笑いくだしゃい。」

 

最期にまた噛むスレイの頭を、後ろからとっさにデゼルが押す。

 

「うぐっ⁉」

 

スレイは小さく、

 

「ごめん……」

 

それを見たロゼは、スレイの肩に手を置き、

 

「結構頑張ってるよ!ドンマイ!」

 

ライラはすぐにスレイに、ロゼに言う言葉を言わせる。

 

「おお!妻よ!その一言でオレは生きていけるだろう!」

 

と、見合い、エドナがスレイの手をロゼの手の上に乗せる。

レイは無表情で、それを見ていた。

そして騎士セルゲイを見て、無意識に後ろに一歩下がる。

騎士セルゲイは頷きながら、

 

「……愛という名の種さえあれば、どんな荒れ野にも花は咲くだろう。強く生きるのだぞ!」

 

と、彼は悲しそうな顔をした後、背を向けた。

そして、

 

「次!」

 

それを聞き、スレイ達は歩き出す。

レイは歩く前に、もう一度騎士セルゲイを見た。

そしてスレイの元に駆けて行く。

しばらく歩き、

 

「よくわからないけど通されちゃったね。みんなのおかげだ。」

「相手がよかったとしか言いようがないけど。」

「結果オーライだね。」

 

と、ミクリオとロゼは後ろのセルゲイを見る。

ライラもロゼに振り返り、

 

「案外お役に立ちますでしょう?見えないというのも。」

「……そうだね。しゃべんな、なんて言ってゴメン。」

 

ライラは手を合わせて、

 

「じゃあ、もう頭の中で話しても――」

「それは別。コワイしキモイ。」

 

と、即答だった。

 

「キモイはひどいですわ~……」

 

ライラは落ち込む。

そのライラに、スレイは優しく言う。

 

「あせらず行こうよ、ライラ。」

 

ライラは頷く。

話が付いたとこで、ミクリオがスレイを見て、

 

「さて、スレイ。僕らはあせってペンドラゴに向かうのかな?」

「ええと……」

 

スレイは周りを見た。

 

「『この街はいろいろ面白そう』だろ?」

「そう!だから――」

「『せっかくだし探検していこう』と言いたい。」

「超~言いたい!」

 

と、ミクリオはスレイを見る。

そしてスレイは、大喜びでそれを言う。

 

「なんか面白そう!ね、レイ!」

 

それを見たロゼものる。

 

「……ん?」

 

レイは喜ぶスレイとミクリオを見て、

 

「そう…だね…」

 

と、言う。

彼らは歩いて行く。

ライラはそれを見守り、エドナがライラに、

 

「ボーヤばっかり。」

「だから気が合うんですよ。きっと私たちとも。」

 

ライラは嬉しそうに言う。

 

「天族と人間がか……?ふん。」

 

一人ボソッと言って、歩いて行った。

 

ロゼがいきなり、思いついたかのように、

 

「ねぇ、スレイ。」

「なに?」

「別行動しようよ。女と男に別れて!」

 

ロゼは嬉しそうに言う。

 

「なんでまた。」

「決まってんじゃん!面白そうだから!」

「まぁ、いいけど……」

 

と、レイを見下ろすスレイ。

レイは何かを察し、スレイの足にしがみ付く。

そしてデゼルもまた、無言でロゼの後ろに行く。

ロゼとエドナが意地悪顔になり、

 

「デゼルはあっち、レイはこっちね。」

「そうよ、たまにはお兄ちゃん離れをなさい。そして、過保護~ズもね。」

 

ロゼはデゼルの背を押し、スレイの方へ押しやる。

と、スレイの足にしがみ付くレイの腕をロゼとエドナが抱えて歩いて行く。

 

「ちょっ!おい、ロゼ!」

「お兄ちゃん……ミク兄……」

 

二人は互いに引き離され、

 

「じゃ、後でもう一度ここに集合ね!」

 

と、歩いて行った。

 

残されたスレイ達は、それを見た後、街を探索する。

と、街の店を見て回ったり、街の風景を見る。

 

「お!見て見ろよ、ミクリオ!変な形の置物がある!」

「本当だ……何だろう、見たことがないな。」

 

と、二人は駆けて行き、それを調べ始める。

そんな二人に、

 

「おい!勝手に動き回るな!」

 

怒りながら、スレイ達の後ろに付いて行く。

ミクリオと共に、変な置物を調べていたスレイだったが、どこからか聞き覚えのあるメロディーの鼻歌が聞こえてくる。

スレイは立ち上がり、それを耳で探りながら歩き……

 

「うわっ!」「おっと!」

 

と、角の方で人と盛大にぶつかる。

 

「スレイ!」「あのバカ!」

 

ミクリオとデゼルは互いに言い、スレイに駆け寄る。

スレイは尻餅を付き、ぶつかった相手は袋に入ったリンゴを落としそうになる。

スレイはとっさにそれを空中でキャッチする。

 

「おお~!ナイスキャッチ。じゃなくて、ごめんね。ちょっとよそ見してたもんだから。」

 

と、スレイに手を差し出す。

スレイはその手を取り、立ち上がる。

スレイはぶつかった相手を見る。

 

自分と同い年くらいの少年。

長い紫色の長い髪を後ろ下で束ね、黒のコートのような服を着ていた。

彼の顔を見ると、どこか覚えのある顔で、赤い瞳をしていた。

少年は笑顔で、

 

「俺はゼロ。そっちは?」

「オレはスレイ。こっちこそゴメン。オレもよそ見してた。」

 

と、彼の差し出した手を握りながらスレイは答える。

彼は改めてスレイの格好を興味深そうに見て、

 

「それにしても……今時珍しいね、導師の格好なんて。」

「わかるの?これが導師服って?」

「おい、スレイ!」

 

スレイは即答で言ってしまった。

ミクリオがスレイを見て言い、スレイは苦笑いした。

デゼルに関してはもう呆れ果てている。

少年ゼロは微笑みかけ、

 

「わかるさ、何せ色々見て来たからね。君のはあちらの国の導師服に似てる。」

「そんなのもわかるんだ。」

「スレイ!」

 

スレイはまたしても、答えてしまう。

それをミクリオが、睨む。

 

「案外、戦場に居た導師って君だったりしてね、スレイ。」

 

と、一瞬鋭い目つきになり、すぐに笑顔に戻る。

 

「あ、でもそうだったとしても、言わないから安心して。」

「えっと…」

 

今度は何かを言う前に、ミクリオがスレイの前で睨んでいた。

スレイは苦笑いで、少年ゼロを見る。

 

「ゼ、ゼロはここの街の人?」

「ん?いや、旅人だよ。」

「へぇ、どうしてここに?」

 

スレイがそういうと、彼は今までとは違う笑みを浮かべ、

 

「探しものを探している最中なんだ。全然見つからなくてさ。そっちは?」

「オレは仲間と旅をしてるんだ。今別行動で傍には居ないけど。」

「へぇ~……もしかして、導師と来たら、従士だったりして?」

 

彼は笑顔に戻り、そう言った。

即答しそうなスレイの口を、ミクリオが抑える。

 

少年ゼロは笑みを浮かべ、スレイの横を通り過ぎ、

 

「じゃ、俺はそろそろ行くよ。」

「あ、これ!」

 

スレイは持っていたリンゴを抱え、少年ゼロを見る。

 

「あ~……あげるよ。君の事、気にいちゃったから。……それに丁度、数が合うだろ?」

 

スレイは持っていたリンゴの数を数え、自分達の今の人数を確認した。

 

「三つ……確かに!」

「はは。じゃ、またどこかで会おうね、スレイ。」

 

そう言って、少年ゼロは手を振って歩いて行った。

デゼルとミクリオは彼に警戒を向けた。

しかしスレイはその背に、

 

「ああ!ゼロの方も、早く見つかると言いな。」

 

と、叫ぶ。

少年ゼロはそれを聞きながら、

 

「案外、本当に導師だったりして。なにせ、天族もいたし。……そうなると、やっぱりあの戦場に居たのは彼かな。あの戦場で生き延びたんだ……それとも、ヘルダルフが生かしたのかな?彼なら絶対関わると思ったけど…。ま、別にいいっか。」

 

そう言いながら歩く少年ゼロを風が包み込む。

少年ゼロの衣装は、黒いコートのような服から、白と黒のコートのような服に変わる。

少年ゼロは大勢の人ごみの中、天族を連れた赤い髪の少女とすれ違う。

立ち止まり、彼女達を見る。

 

「天族を連れた人間か……。じゃあ、あれがスレイのお仲間かな?あの従士も、相当霊応力が高いなぁ~。さて、俺の探しものは見付かるかな。」

 

少年は懐から仮面を取り出し、目元につける。

そして風と共に消えた。

 

少年ゼロと別れてしばらくして、スレイの足に重みがつく。

スレイが見下ろすと、小さな少女がしがみ付いていた。

 

「レイ?」

 

すると、

 

「おーい、スレイ!」

「あれ、ロゼ?」

 

ロゼとライラ、エドナが歩いてくる。

 

「どうしたんだ一体?そっちから、追いかけてくるなんて。」

 

ロゼは頭を掻きながら、

 

「それがさ、レイが不機嫌で不機嫌で……最終的に逃げ出してさ。」

「逆よ、ロゼのハイテンションに色々連れましたあげく、それについていけなくて逃げたのよ。」

「ロゼさんは気付いてなくて……。まぁ、私たちも同罪ですね……」

 

と、ライラは落ち込んだ。

スレイは持っていたリンゴをレイに手渡し、

 

「貰ったものだけどレイにあげるから機嫌直そう、な。ロゼも悪気はなかったからさ。」

 

レイはスレイを見上げ、リンゴを受け取る。

 

「それにしても、あのゼロっていう人間……変わっていたな。」

「ああ。変わった気配をしていた。お前は気付いただろ。」

 

ミクリオとデゼルが思い出しながら言う。

ライラはミクリオとデゼルを見た。

ミクリオは真剣な表情で、

 

「ああ。彼にはまるで、僕らが見えていたように思える。それだけじゃない。あの顔……どこかで見たことあるような……」

「ミクリオも?実はオレもなんだ。昔、誰かに……うーんと……」

 

と、互いに思い出す。

そしてミクリオがロゼを見て、

 

「あー!」

「なになに⁉」

 

と、ロゼを指した。

ミクリオはスレイを見て、

 

「覚えてないか、スレイ!遺跡だよ、遺跡!」

「あ~‼」

 

二人は互いに見合った。

 

「なに、結局何なの⁉」

 

ロゼは困惑したように言う。

そしてスレイは思い出したように、

 

「昔、初めてイズチで遺跡を見つけて、入り込んだ。」

「だけど、僕ら道に迷うわ、罠にかかるわで、大変だった。」

「でも、楽しかったよな。」

 

と、思い出す。

そしてミクリオは真剣な表情に戻り、

 

「それで、僕とスレイがある仕掛けをいじってしまったんだ。そしたら、床が開いて下には針が出てて、本当にヤバイと思ったよ。」

「でも、そこでオレらの襟元を掴んでくれた人がいてさ。その人にそっくりだったんだ。」

「で、その人が僕らに『冒険を求める事は悪い事ではない。しかし、時と場合を考えろ。知識も力のないただのガキには何もできないことが多い。まずはお前達の持っているその本で知識を得ろ。そしてお前達の目で確かめたときにこそ、伝承の本当の意味が見えるはずだ。』って。」

「ん?どこかで聞いたぞ?どこだっけ?」

「メーヴィンに言っていた言葉だ。」

 

悩むロゼに、デゼルが言う。

 

「それだ!」

「スレイ、アンタ……」

「た、確かにあの人の言葉で本気で遺跡を知ろうと思ったさ!で、でもさ、あの時、本当にオレもそう思ったんだって!」

「ま、僕でもそう言っていたさ。それだけ、あの時のあの人は、僕らにそれだけの影響を与えたって事だ。」

 

ミクリオは、胸を張って言う。

 

「だよな!」

 

スレイは嬉しそうに言った。

 

「まったくガキね。」

「そうだね。スレイとミクリオはホント仲良しだ。ん?でもそうなるとレイは?一緒に居たんだね?」

 

ロゼは二人を見て言う。

エドナはロゼを見上げ、

 

「知らないの?スレイ達とおチビちゃんは本当の兄妹じゃないのよ。」

「知っていたのか、エドナ。」

 

スレイはエドナの方を見る。

すると、ライラもどうやらそうらしいと解る。

ミクリオは二人のレイに対する態度で、大体そうだろうとは思っていた。

 

「へぇー、そうなんだ。確かに、スレイとは似てないもんね。でも、結構似てると思うけどな。」

「どこがだ。」

 

と、自信満々に言うロゼに、デゼルが聞くと、

 

「中身が、だよ。」

 

その言葉に、みんな驚いた。

と言っても、当の本人のレイはリンゴを見つめていた。

 

ーーねぇ、君はリンゴを何にとらえる?俺は世界かな。

 

頭の中に声が響いた。

 

「……心……」

「ん?」

 

レイの突然の呟きに、スレイはレイを見下ろす。

レイはスレイを見上げ、

 

「昔……リンゴ…を…世界と…例えた…人…が…いる。…でも…私は…心…だと…思う。」

 

その言葉に、ライラは悲しそうにレイを見る。

 

「なんで?」

 

ロゼもスレイの持っていたリンゴを取り、一つ指先で回す。

 

「だって……人も…天族も…他の…生き物も…心は…見え…てる。…だけど…それは…形が…ある…ようで…見え…ない。…それが…感情…という…形…だと…わかる…。けど…リンゴは…甘い…と…分かって…いても…かじって…みない…と…本当の…味は…わから…ない…。それが…苦かったり…酸っぱ…かった…り…する。…心も…同じ…。…見え…ている…感情と…本当の…感情…は…触れ…合って…みない…と…わから…ない。」

「うーんと?」

「つまり、リンゴのように形ははっきりしてる。感情も、嬉しいとか、悲しいとか、はっきりしてる。でも、実際に思っている感情は違うって事。」

「そうですね。例えば、顔は笑っているのに、実際は悲しんでいるとか、ですかね。」

 

エドナとライラが付け足す。

 

「あ~!だから、リンゴの中身ね。確かにそうかもね。」

 

ロゼは回していたリンゴ掴み、ひとかじりする。

 

「ん~!美味しい、甘い!」

「行儀が悪いぞ!」

「ケチ!」

 

ミクリオがすかさずロゼに言った。

ロゼはそっぽ向く。

スレイはずっと悩んでいた。

そして自分の手にあるリンゴを見て、

 

「オレは両方だと思う。でも、オレはこのリンゴを絆だと思うな。」

「は?」

 

ミクリオはスレイを見た。

 

「だって、絆も目に見えてるようで見えないだろ。でも、見えないけどちゃんと見えてる。中身はわからないけど、ちゃんと繋がってるってわかる。そして一度できた絆は、簡単には壊せない。それってつまり、味はともかく、中身は入ってるってわかりきってる事だし。」

 

スレイの言葉に、全員が沈黙した。

レイもスレイを見上げる瞳が揺れている。

 

ーー私は絆だと思うよ。このリンゴのように、目には見えないだろうけど、ちゃんとあるとわかる。なにより、こうして誰かと絆を結ぶことができる。そしてできた絆は縁≪えにし≫となり、紡がれる。一度で来た縁≪絆≫は簡単には壊せないさ。現に、君たちと私たちがそうだろ?

 

誰の声かわからない。

だが、これだけ覚えている。

強く、穢れのない瞳。

希望と夢を追い、懸命に頑張ろうと必死な瞳。

その瞳で自分≪レイ≫を見上げ、嬉しそうな声と共に言う。

 

そのシーンとなった空気に、スレイは頬を掻きながら、

 

「あれ?オレ、変なこと言った?」

「いや、なんかスレイが物凄く頭がいい人に見えただけ。」

「ああ。スレイだとは思えない程。」

「少しだけ見直したわ。」

「バカだが、本気のバカってことか。」

 

ロゼ、ミクリオ、エドナ、デゼルが、スレイを見て言った。

 

「え⁉えー⁉」

 

スレイは困惑していた。

ライラは悲しそうに呟いた。

 

「……スレイさんも、同じことを言うのですね。」

 

そして笑顔になると、

 

「さて、みなさん。今からでも遅くありません。街を探検しましょう。」

「このタイミングで?」

 

スレイは若干落ち込んだ声で言う。

ライラは手を合わせて、

 

「このタイミングだからこそです。」

「わかった。じゃ、みんなで探検だ!レイ、はぐれるとまずいから手を繋ご。」

 

スレイは手を出すが、レイは首を振った。

ミクリオは中腰になり、

 

「じゃ、僕と行くか?」

 

レイは首を振り、

 

「一人…で…歩く…」

 

と、先陣を切って歩いて行った。

その二人に、

 

「振られたな。」

「振られたわね。」

「振られちゃいましたね。」

「あちゃー、振られちゃったね、スレイ、ミクリオ。」

 

デゼル、エドナ、ライラ、ロゼの順に言った。

二人は互いに見て、

 

「そ、そんなことないさ。」

「そうだよ。スレイはともかく、僕はそうじゃないさ。」

「だから、二人で振られたんでしょ。」

「「う!」」

 

ロゼは、二人を見つめて言う。

肩を落とした二人に、戻って来たレイが、

 

「…やっぱり…繋ぐ…」

「「どっちと?」」

 

互いに言って、互いに見合うスレイとミクリオ。

レイは二人を見上げ、

 

「…両方…と…」

 

そう言って、持っていたリンゴをライラに渡した。

ライラはリンゴを見つめた後、二人と手を繋ぐレイを見た。

 

「あ~、私も手を繋ぎたい~。」

 

ロゼは三人の後ろ姿を見て体を揺らす。

そして、その顔を見上げたエドナの顔は悪戯顔で、

 

「単純ね。ホント。デゼルと繋いだら?」

「な⁉」

 

デゼルは激しく動揺する。

ロゼは笑顔で、

 

「お!それいいね。デゼル、繋ご!」

 

デゼルは帽子を深くかぶり、

 

「他の人間から見たら、違和感半端ないと思うぞ。そうなれば、お前の嫌いなお化けと繋がるが、それでもいいと思うなら――」

「やっぱり止めた!一人で行こう!」

 

と、歩き出した。

エドナは相変わらずのつまらなそうな顔で、

 

「意気地なし。」

 

と、デゼルの腹を傘で突く。

 

「おい、やめろ!」

 

デゼルは抵抗しながら歩き出す。

 

「ホント、仲の良いパティ―ですわね。」

 

ライラもその後に続く。

 

スレイは上を見上げる。

塔の上には、大きな鐘がある。

さらにその下にも、いくつかの鐘がある。

 

「この鐘楼、機械仕掛けなのか!」

 

と、スレイは興味深そうに言った。

ロゼも自信満々に、

 

「そう、ラストンベルの名物!歯車がバーって動いてね。鐘の音が音楽に聞こえるんだよ。」

「それは聞いてみたいですわね。」

「う~ん、さすが職人の街。すごい技術だな。な、レイ!」

「……ん。」

 

それを聞いたロゼは、

 

「あ。興味そっち……?」

「動力はどうなってるんだろう?」

 

スレイの言葉にロゼも疑問に持つ。

 

「さぁ?なんだろ。」

 

レイは辺りを見て、

 

「水……?」

 

デゼルも辺りを探り、

 

「水を汲み上げる音がする。おそらく地下水脈の流れを利用しているんだろう。」

「地下水脈⁉」

 

ロゼが驚いていた。

スレイも、同じように、

 

「本当?そんな風に見えないけど。」

「籠城用に隠してあるんだ。元々、ここは砦としてつくられた場所だからな。」

「それで城壁に囲まれてるのか!」

「この鐘楼も元は狼煙台だ。」

 

デゼルは淡々と説明していく。

 

「そんな過去が……面白いなあ!」

「まったく男どもは。注目するとこ違いすぎ。」

 

ロゼは呆れたように言う。

ライラは手を合わせて、

 

「ふふ。でも面白いですわよね?ね、レイさん?」

「……そう…だね……」

 

と、ロゼを見上げる。

 

「まあね。」

 

皆で色々見て回る。

スレイはデゼルに、

 

「デゼルは遺跡に詳しいの?ほら、色々知っているから。」

 

デゼルは淡々と言い始める。

 

「各地を転々として、多少の知識はあるがお前のように興味を持って探索したことはないな。」

「見つけた物から広がる発想を、新しい発見で真理に近づけたり、逆に広がるのが楽しいんだ。」

「人間が注目したり、昔から残っているものに、その土地特有の『匂い』を感じることは俺にもある。」

「匂いか……オレにもわかるようになるかな?」

 

スレイは、考えながら言う。

デゼルはスレイを見ながら、

 

「経験で二流にはなれる。一流になるには才能だがな。」

「頑張ってみる。オレが見落としそうになってたら教えてくれると助かるよ。」

 

スレイは腰に手を当て、瞳に希望と夢をのせてに言う。

デゼルはスレイを見て、

 

「ああ……お前の趣味を邪魔しない範囲でな。」

 

そして、それを黙って聞いていたレイはデゼルを見上げていた。

スレイは先を歩いていたので、デゼルがレイを見下ろし、

 

「……何だ。スレイならもう前だぞ。」

「……」

「………」

 

デゼルの言葉に無言でいた。

そして互いに無言で見合っていた。

と、レイは前を見て、

 

「……何…でも…ない……」

 

そう言って、スレイの元に駆けて行った。

 

「変な奴だな。」

 

デゼルが疑問に思ったが、気にしないことにした。

スレイは街を歩きながら、

 

「それにしても検問の時の芝居。よく思いついたよな。レイもそう思うだろ。」

「……かもね……」

「うん、うん。特にライラが本気だったね。」

「実は、ずっとああいうお芝居に憧れていて。一度やってみたかったんですの。」

 

ライラの目は輝いていた。

 

「それにしたって急にセルフが出てくるのはすごいよ。」

「経験値が違うのよ。人間とは。」

 

エドナは傘をクルクル回しながら、スレイに言った。

スレイは真顔に戻って、

 

「そっか。天族って見た目通りの年じゃないんだっけ。」

「……ライラって本当は何歳なの?」

 

ロゼも、ライラを見て言う。

 

「そういえばオレも知らないや。」

「俺より年上な気もする……」

 

スレイは、思い出したようにライラを見る。

そしてデゼルもライラの方を見る。

 

「それは非公開です!レイさんも、そうですよね!」

「…………」

 

ライラは大声で言った。

レイは無言でそっぽ向いた。

 

「何でレイがでるのさ。」

「そうそう。」

「そ、それは……えっと……」

 

スレイとロゼはライラに詰め寄った。

ライラは手を合わせながら、目線を反らす。

 

「振るならお前だろに……」

「こういう時のアドリブはきかないのね。」

 

デゼルは帽子を深くかぶり、エドナは半笑いでライラを見た。

 

 

高台のある方に行くと、探検家メーヴィンが居た。

 

「おお、スレイ。それにチビちゃんも元気なったみたいだな。」

 

レイは頷く。

 

「あの…時は…ありがとう。」

「……チビちゃんは……いや、元気が一番だ。」

 

と、レイの頭を豪快に撫でる。

レイはしばらくして、スレイの後ろに隠れる。

 

「ちっと強すぎたか?」

 

探検家メーヴィンは髭を撫でながら言う。

スレイは苦笑いで、

 

「あはは。気にしないで。大体いつもこうなるから。」

「そうか?おお、それはそうと、スレイ。おめえ、お嬢とはうまくいってるか?じゃじゃ馬だが、ウソのない娘だ。気長に付き合ってやってくれ。なんたって導師と暗殺ギルド。聞いたこともない珍コンビだからな。どうなるか俺も興味津々だぜ。はっはっは!無論、チビちゃんもな。」

 

レイは顔を出し、

 

「……多分……」

「多分、か。ま、今はそれでいいさ。はっはっは!」

 

と、笑う。

スレイは探検家メーヴィンを見て、

 

「じゃ、オレたちもう少し街を見て回るから。」

「じゃじゃ馬とか、おじさんもひどいな。でもま、感覚的にはそうだからいいや。」

「感覚もなにも、事実よ。」

「事実だな。」

「事実だ。」

「そ、それはロゼさんの良いところでもありますわ!」

 

エドナ、ミクリオ、デゼルが、各々続けて言う。

ライラは苦笑いで、ロゼに言った。

スレイも苦笑いで、

 

「あはは。じゃ、メイビンさん、また。」

「じゃあね、おじさん。」

「おお。」

 

探検家メーヴィンに別れを告げ、歩き出す。

 

高台の公園に行き、大景色を見ていた。

レイは空を見上げる。

空が近くはっきり見える。

その空を見て、

 

「「…嫌な雲だ。」」

 

レイはスレイ達の側による。

と、その近くに居た若干老けた男性が何かを呟いていた。

 

「蒼い疾風が……戦乙女≪ヴァルキリー≫が迫ってくる……」

 

男性は震えながら言っていた。

それをベンチの近くに居る女性が教えてくれた。

 

「いつも公園にいるお爺さん、まだ四十だそうよ。昔酷い目にあって、ああなっちゃったらしいのよ。」

 

スレイ達はもう一度男性を見てから、下に降りた。

 

そして街を歩いていると、人々の中では殺人事件の話をしていた。

 

「殺されたのは教会の熱心な信徒ばかりって話さ。しかもみんなひどい殺され方らしいな。噂じゃ、食いちぎられたみたに喉が……まったく、この街は天族に見放されちまったのかね。」

「もう連続で三人も殺されてる。同一犯のようなのに、ろくな手掛かりがない……。わかってるのは、殺人が起こるのが決まって月夜ってくらいか……」

 

それは街人だけでなく、兵士も口にしていた。

 

スレイはミクリオを見て、

 

「殺人事件か……」

「物騒だな。ローランスの街も。」

 

スレイとミクリオは街の人の話を聞き、互いに見合っていた。

レイは黙ってそれを聞き、空を見上げていた。

 

「マーガッレトめ!聖堂に天族がいないだなんてまったく罰当たりなことを!」

 

斜め後ろの街人が怒鳴っているのを聞いた。

 

「……事実…なのに……」

 

レイは空を見上げながら言った。

 

街を見て回っていると、街の小道で、

 

「マジかよ!エリクシールが売られてるって!」

「ああ。ハイランドとローランスの貴族の間でエリクシールが流行ってるんだと。」

「けど、アレは普通に出回るもんじゃない。教会が管理してるはずだろ……?」

「その教会のお墨付きで売られてるって話だぜ。けっこうな効き目でな、長寿の妙薬ってもっぱらの評判だ。」

「すごいじゃねえか!」

「もっとすごいのは値段でな。金持ち貴族しか手が出せない代物だってよ。」

「結局そんなオチかよ……」

 

それを聞いたスレイは、

 

「教会がエリクシールを売り捌いている……?」

「なんだか奇妙な話だな。」

「…………」

 

スレイはミクリオと共に、考え込んでいた。

レイはそれを聞き、目を鋭くしていた。

その瞳は赤く光っていた。

 

ミクリオは街を歩きながら、

 

「最近、犬に吠えられなくなった気がする。」

 

そう言って、周りに居る犬達を見る。

エドナが傘をクルクル回しながら、指さす。

 

「原因はあれよ。」

 

エドナの指さす方を見るミクリオ。

 

「レイ?それにデゼル?レイはいつものこととはいえ、犬が……懐いている?」

 

そこに居たのは、犬に一方的に好かれているレイの姿。

そして子犬を優しく抱き上げ、頬を舐められているデゼルの姿。

デゼルは子犬を降ろし、ミクリオ達を見て、

 

「…どうした、何か用か。」

「いや、意外だな、犬は平気なのか?」

「平気も何も、彼等は物言わぬ相棒だろう。お前の歩み寄りが足りないんじゃないか?あの妹みたいに。」

 

と、デゼルは無表情で母犬と見つめ合い、足には子犬たちが群がっているレイを見る。

ミクリオは片手で顔を覆い、

 

「いやいや、吠えるだろ、犬……。」

 

デゼルは真剣な表情で、

 

「吠えるのはお前の持つ不安を感じ、その不安の正体がわからないからだ。」

「早い話、先にビビるからよ。」

「僕としては吠えたのが先と主張したいんだが……」

 

傘をクルクル回しながら、無表情でエドナが言う。

そしてミクリオは半眼の呆れ半分、諦め半分の顔で言う。

 

「…ミク兄…」

「ん?お帰り、レイ。」

 

ミクリオが見下ろすと、レイがミクリオの服の裾を握っていた。

ミクリオはレイの頭を撫でながら、

 

「もういいのか?」

「…あの子達…が…勝手に…来た…だけ。あと…ミク兄…の…ことは…面白い…から…だって。…大半は…」

 

と、レイはデゼルを見上げ、

 

「…あと…母犬が…子供と…遊んで…くれて…ありがとう…だって。」

 

そう言って、スレイの元に掛けて行く。

 

「「「…………」」」

 

デゼルが帽子を深く被り、

 

「お、お前の妹は犬と喋るのか?」

「い、いや……多分ないと思うけど……」

「あのおチビちゃん。前に霊の声とか、他にもあったわよね。」

 

エドナは傘をクルクル回しながら、背を向けて言う。

ミクリオは視線を空に向けた。

 

「おいおい、マジかよ。」

 

デゼルは背を向けて言う。

 

 

しばらく歩いていると、ロゼが空を見上げ、

 

「ふわぁ~……今日も暑いよねぇ……」

「そうですわね。日に焼けてしまいそうです……。エドナさん、その傘は日よけ用ですの?」

 

ライラは傘をさしているエドナを見る。

エドナは淡々と、

 

「見た通りよ。」

「天族も日焼けするんだ?エドナ、肌白いもんね~。納得。」

「エドナさんの傘は日よけにもなり、雨よけにもなり、憑魔≪ひょうま≫まで退けてしまいますものね。」

「そっか。エドナの傘は一石三鳥だね。」

「いいえ!エドナさんのトレードマークにもなっていますから、一石四鳥です。」

「それを言うなら、お気に入りのマスコットも付けられるし、一石五鳥でしょ。」

「ではでは、その日の気分によって変えられるアイテムですから一石……」

 

ライラとロゼは楽しそうに言う。

が、更に続けていうライラにエドナが、

 

「カサねるわね。カサだけに。」

 

半笑いしながら言う。

ライラは悲しそうに、

 

「上手いこと言われてしまいましたわ~!」

「これで一石何鳥かしらね?」

 

半笑いで続けた。

何だかんだで、面白ながら街を歩きながら進んでいた。

 

 

聖堂前に来ると、

 

「しかし、よろくしありませんなあ。こんなご時世に昼間から。」

「まあまあ、司祭様。例の件のお礼でございますから。」

「しかしフォートン枢機卿を始め、お偉方は、なにかと厳しいお方揃いゆえ……」

「わかっております。教会への献金は、これからも十分に。」

 

そう言って、祭司服の男性と市民男性が歩いて行った。

レイはそれを見て、

 

「…醜い…人間……」

 

小さく呟く。

スレイも、彼らを見て、

 

「司祭さん、ちょっと嫌な感じだったな……」

「まあね。今じゃ、どこもあんなだけど。」

 

そしてライラが聖堂の方を見て、

 

「あそこが、この街の聖堂のようですわね。」

「のぞいてみよう。」

 

スレイ達は聖堂の方へ行く。

扉の前で、スレイとミクリオはどうするかを話をする。

ロゼはその二人を見守る。

レイはロゼの横で、門の所に居る男性を横目で見る。

そしてロゼに、視線で合図を送る。

ロゼもそれに気づいているらしく、「大丈夫。」と口パクで言う。

ロゼは勢いよく回れ右する。

駆け足で、門の所に居る男性に駆け寄る。

デゼルも、ロゼの後ろに付く。

男性はロゼに小声で、

 

「『依頼』『ローランス教会』。」

「……了解。」

 

と、男性から依頼を受け取る。

そしてロゼはデゼルを見た後、元の場所に駆けて行く。

 

中に入り、スレイは辺りを見渡し、

 

「ここが聖堂だな。」

「年代は新しいけど、なかなか立派な造りだ。」

 

ミクリオも見渡しながら言う。

レイは聖堂に入ってから、入り口の方をずっと見ていた。

ライラは大きな声で、

 

「こんにちはー!お邪魔しますー!」

 

ロゼは辺りを見渡しながら、

 

「ちょ!また見えないのに声がするとか?」

 

しかし反応はない。

 

「いないっぽいな。」

「お化けが?」

「加護天族が。」

 

スレイはロゼを見て言う。

そしてミクリオも振り返り、

 

「さっきの祭司を見れば想像つくけど。」

 

デゼルが壁にもたれながら、

 

「どこも同じだ。近頃はな。」

「で、どうするの?加護する天族を捜す?」

 

エドナは腰を掛ける。

スレイは腕を組んで、

 

「けど、手掛かりもないしな……」

 

悩むスレイに、ライラが近付き、

 

「スレイさん、必ずしも加護の復活にこだわらなくていいんですよ。」

「いいのかな?」

 

スレイはミクリオを見て言う。

ミクリオも考え、

 

「いいんじゃないか?ここは穢れは多くないようだし。そもそも、スレイひとりで世界を救えるわけもないんだから。」

「はい。肝心なのは、スレイさんが見識を広め、力を育むことですわ。」

 

スレイはまっすぐライラを見て、

 

「災禍の顕主に対するために、だね。」

「尾行にも気づけないようじゃ先は長そうだな。むしろ、そっちのガキの方が見込みがある。」

 

と、デゼルは淡々と言う。

スレイはデゼルを見た後、レイを見る。

レイは入り口を見ていた。

そして後ろから、

 

「こんなところで何者と話している?」

 

スレイが振り返ると、騎士セルゲイが立っていた。

騎士セルゲイは腰にある剣に触れながら、

 

「大通りの酒屋に急いでいたのではないのか?なんといったか――」

「は、はい。ボリス酒楼です!」

 

ロゼがとっさに答える。

しかし騎士セルゲイは彼らを見据え、

 

「ラストンベルにそんな店はない。」

 

座っていたエドナは立ち上がり、壁にもたれていたデゼルは警戒態勢に入る。

そして全員が身構える。

無論レイは無表情でそれを見ている。

 

「こいつは一人だ。眠らせてとっとと行くぞ!」

 

デゼルはペンデュラムを投げる。

だが、騎士セルゲイは腰から剣を抜き、それを弾く。

 

「見えてるのか⁉」

「違う。ただの腕の立つ人間よ。そうでしょ、おチビちゃん。」

 

レイはエドナを見て頷く。

エドナはスレイを見て、

 

「スレイ、人間同士でヨロシクね。」

 

そう言って再び座った。

ロゼはエドナを見て、

 

「え?そういうもんなの?」

「これは人間の問題だからね。」

 

スレイは納得していた。

騎士セルゲイはスレイを見て、

 

「外へ出よう。」

 

スレイは騎士セルゲイと共に外へ出る。

レイもその後ろに続く。

二人は互いに向かい合う。

 

「欺いたことは謝ろう。その上で、あらためて――」

 

騎士セルゲイは剣を構える。

 

「貴公等の正体を教えてもらうか。」

 

スレイは騎士セルゲイと剣を交える。

剣の腕でいえば、スレイの方が下だ。

騎士セルゲイは気のようなものを圧縮し、獅子の形をしたものを放つ。

そんな剣技を見たスレイは、

 

「ぐうっ!なんだ今の技!」

「我が国に伝わる、闘気を込めて放つ奥義だ!」

 

だが、スレイも負けてはいられない。

秘奥義を放つ。

 

「終わらせる!剣よ吠えろ!雷迅双豹牙‼」

 

騎士セルゲイを斬り上げる。

スレイは騎士セルゲイから距離を開ける。

騎士セルゲイは膝を着く。

 

「ぐうう……」

 

スレイは剣をしまう。

それを見たデゼルは後ろで、

 

「甘いな。後で後悔するぞ。」

 

スレイはデゼルを見て、

 

「大丈夫だよ。心配してくれるのは嬉しいけど。」

「……返しも甘い。」

 

そう言って歩いて行った。

騎士セルゲイはそれを見て、

 

「天族と話しているのか?やはり検問の時のアレは――」

 

スレイは騎士セルゲイに振り返る。

 

「セルゲイさん、ウソついてごめん。」

 

と、頭を下げる。

レイ達は二人に近付く。

 

「こちらこそ非礼をお詫びします。導師よ。」

「え?」

 

騎士セルゲイは立ち上がる。

スレイは困惑し騎士セルゲイを見る。

 

「剣を交えれば相手の力はわかる。名を聞かせてもえるだろうか?」

「スレイ。」

「導師スレイ。貴公の力を貸してもらえないだろか。ローランス帝国のために。」

 

ロゼは騎士セルゲイを見ながら、

 

「ローランスは導師を警戒してるって聞いたけど?」

「そうだ。騎士団はフォートン枢機卿同様の力をもつという理由で危険視し、教会は、フォートン枢機卿を脅かす存在として異端扱いしている。」

 

ライラが真剣な表情で、

 

「枢機卿ということは、教皇に次ぐ教会の№2ですわね。」

「幼帝の補佐として、実際に帝国を仕切っているヒト。」

 

ロゼも真剣な表情で言う。

騎士セルゲイは頷き、

 

「いかにも。そして導師と同じ奇跡を体現するといわれている者だ。」

 

その言葉に、スレイ達は驚く。

レイは教会の門の所に顔を向ける。

その瞳は赤く光り、見据えていた。

スレイは騎士セルゲイに、

 

「導師と同じって――⁉」

 

しかし、教会の門入り口から、

 

「どういうことですかなあ?騎士が勝手に聖堂に立ち入るとは!」

 

スレイ達はそちらを向く。

そこには司祭服を着た男性が立っていた。

 

「まさか、我が信者にフォートン枢機卿の悪口を吹き込んでおられるのか?」

「司祭殿、そんなことは……!」

「問答は無用!出て行っていただきましょう。」

 

そう言って、教会の中に入って行く。

騎士セルゲイは小声で、

 

「公園に来てくれ。話の続きはそこで。」

 

スレイは頷く。

騎士セルゲイは歩いて行く。

 

ミクリオは歩きながら、

 

「ラストンベルにも地の主はいなかったね。」

「天族は何人か見かけたけど、共存って感じじゃなかったよな……」

 

スレイは周りを見ながら言う。

ロゼは真剣な表情で、

 

「でもさ、見えないけど本当はいたんだね。今までもああだったって思うと……コワ~!」

 

ロゼは最後の方は背を向けて言う。

それを見たデゼルは帽子を深く被り、舌打ちする。

スレイは苦笑いしながら、

 

「それでも昔の人は天族に敬意を払っていたんだよ。」

「そのお返しに天族は人に加護を与えていた。」

 

ミクリオもそれに続く。

ロゼは二人を見て、

 

「それが『共存の時代』?」

「うん。」

 

スレイは頷く。

が、横からデゼルは、

 

「だが人間どもは、目に見えるものしか信じなくなった。」

「人は…自分…と…違う…ものを…簡単には…受け…入れられない。」

 

レイは無表情で言う。

ミクリオは悲しそうに、

 

「仕方がないけどね。スレイやレイ、ロゼみたいに天族が見える人はほとんどいないみたいだし。」

「見えないのにいるのは怖いけど……悲しいよね。いるのに気付いてもらえないなんて。」

 

ロゼも悲しそうに言う。

スレイはそれを見て、同じように悲しい表情で、

 

「みんながロゼみたいに思ってくれるといいんだけどな。」

 

デゼルは無言で空を見上げる。

 

 

スレイ達も高台の公園に向かう。

騎士セルゲイを見付け、近寄る。

 

「……先ほどはすまない。みっともないところを見せてしまった。」

 

騎士セルゲイは悔しそうに、悲しそうに俯き、

 

「……教皇様がいらした時は、騎士団と教会もこうではなかったのだが。」

「教皇様?」

 

騎士セルゲイは顔を上げ、

 

「教皇マシドラ様は先代皇帝陛下も信頼された人徳厚き方だった。あの方の御命令なら、騎士団も喜んで従う。」

 

騎士セルゲイは胸に手を当て、尊敬しながら言う。

ロゼは、騎士セルゲイを見て、

 

「だった……ってことは。」

「一年前に行方不明になってしまわれた。その混乱に乗じたかのように、フォートンが台頭し、あっという間に権力を掌握してしまったのだ。」

 

「枢機卿が教皇になにかしたって考えてるんだ。」

 

ロゼは腕を組んで考える。

スレイは騎士セルゲイを見て、

 

「証拠はあるの?」

「いや。騎士団の総力を挙げて捜索したが、手掛かりはつかめなかった。だが、枢機卿の周辺を探った騎士が行方不明になっている。十八人も。」

 

それを聞いたスレイは厳しい表情になる。

エドナも、

 

「怪しすぎね。」

「認めたくないが、枢機卿に対するには、我らにない超常の力が必要らしい。」

 

騎士セルゲイはまっすぐスレイを見て、

 

「導師スレイ、恥を承知で頼みたい。枢機卿の正体を探ってもらえないだろうか?」

 

スレイは考え込む。

 

「枢機卿がいるのってペンドラゴの教会だよね?普通の人が入れない神殿があるっていう。」

「そうだ。立ち入りの許可については、こちらで手を回せる。」

 

スレイは顔を上げ、

 

「わかった、枢機卿に会ってみるよ。」

「おお、かたじけない!自分は先行して手はずを整える。」

 

そして騎士セルゲイは眉を寄せ、ロゼを見る。

 

「奥方も、さぞ御主人が心配だろう。許されよ。」

「へ?」

 

ロゼは騎士セルゲイを見た。

騎士セルゲイはスレイを見て、

 

「ではペンドラゴで!到着したら騎士団塔まで足を運ばれたい。」

 

スレイは頷く。

そして騎士セルゲイは歩いて行く。

ロゼはその後ろ姿を口を開けて見る。

ミクリオもまた、

 

「夫婦っていうことは信じてるのか⁉」

「「変な人だな~。」」

 

スレイとロゼは口をそろえて言う。

 

「純粋な方なのですね。」

「純粋なバカだ。」

 

そんな騎士セルゲイの後をレイが追いかける。

 

「え⁉レイ⁉」

「スレイさん、ここは私が。」

「ならワタシも行くわ。見えない方が何かと便利だし。」

「だったら僕も。」

「アンタはスレイと今後の事を話しなさい。」

 

そう言って、ライラとエドナがレイを追いかける。

 

 

レイは騎士セルゲイを追いかける。

ライラとエドナはすでにレイの後ろまで来ていた。

それに気づいた彼は振り返り、

 

「ん?どうした妹君。」

 

レイは騎士セルゲイを見上げ、

 

「あ……えっと…お兄ちゃん…の…こと…信じて…くれて…ありがとう。…それに…検問…の…時…すぐに…理解…して…くれた。」

 

騎士セルゲイはしゃがみ、レイと視線を合わせる。

 

「あの時は半ば半信半疑ではあった。だが、君の兄君と直に剣を交えればわかる。」

 

そう言って笑いかける。

それを見たライラとエドナは、

 

「ふふ。レイさん、変わりましたね。」

「ええ。前はああやって、自分から会話をする子じゃなかった。ワタシは嫌いじゃないわ、今のあの子。」

「前はお嫌いで?」

「普通。」

 

そう言って、エドナは傘を回し始める。

と、騎士セルゲイと話していたレイは、彼から少し離れる。

 

「……む?どうした?気分でも悪いのか?」

 

騎士セルゲイはレイに手を伸ばす。

が、それをレイは払い除ける。

 

「「……なんでもない。」」

「そうか?」

 

そう言って、騎士セルゲイは立ち上がる。

 

「では、私は先を行くよ。」

 

歩き始めようとする彼に、

 

「「待て。……私はお前のような礼節ある人間にはそれと同じだけの礼節を返す。」」

 

レイは騎士セルゲイを見上げる。

その瞳は赤く光っている。

 

「「お前は理由はどうあれ、他の醜い人間とは違い自身の目で見極めようとする者だ。こんな世の中で、そんな人間騎士を見るのは二人目だ。いや、三人目になるか。まぁ、それはともかく……お前は何を願い、何を望む。自身か、国か、それとも……身内か。」」

 

その赤く光る瞳が彼を見据える。

 

「そ、それはどういう意味でだろうか?」

「「わかっているのだろう。お前は国の為に、自身の招いた決断で、身内を失うかもしれないという恐怖と不安。仲間の死は割り切れる。が、身内はそうはいかない。お前の今望むその願いは、どちらを選ぶか見させて貰おう……人間騎士。」」

 

そう言って、騎士セルゲイに背を向ける。

が、顔だけ彼を見て、

 

「お前は意外に純粋のようだ。お前のようなタイプは穢れに染まりやすい。せいぜい気をつけることだ。」

 

そして前を見て、歩いて行く。

ライラとエドナの所まで行くと、立ち止まり後ろを横目で騎士セルゲイを見る。

彼は困惑した顔をした後、歩き出した。

レイはライラとエドナを見て、

 

「「主神、今の導師にペンドラゴは無理だ。」」

「……それはどういう意味で、ですか?」

「「無論、実力だ。あれはまだまだ弱すぎる。」」

 

エドナは、レイを睨みながら、

 

「アンタ、あの子をどうしたいわけ。ボーヤたちの話……つまり、子どもの頃から監視してるってことよね。」

「「……その理由をお前に話す義理はない。」」

「なら、あの人間に言っていたことは?スレイに関わる人間すべてに何かする気?」

 

レイは、エドナを見据える。

赤く光る瞳がエドナを貫く。

エドナは一歩下がった後、レイを睨む。

傘を掴むその手が強くなる。

レイは視線を外し、

 

「「……私が言う必要はない。知りたいのであれば、自分で知れ。」」

 

エドナはレイを睨み続ける。

ライラは真剣な表情で、

 

「……それは主神である私にも言えない事ですか?」

 

レイはライラを横目で見て、

 

「「それは何に、対してだ。」」

「今までのエドナさんの問いに対して。」

「「……例え、主神であろうと話す気もなければ、話す理由もない。」」

 

ライラも、レイを睨み始める。

 

「それに……礼節と言いながら、言っていたことはいつものアンタと変わらない。ホント、アンタのこと嫌いよ。」

 

エドナは、傘についているノルミン人形を思いっきり握る。

レイは腰に手を当て、

 

「「別にお前に好かれようとは思っていない。無論、他に対してもな。大体、私がお前達内側の者に関わっている時点で、有り難いと思え。本来なら、こういうことは私の対の役目だ。」」

 

そう言って、ライラとエドナを見る。

そして瞬きをすると、光っていた瞳は普通の赤に戻る。

睨んでいる二人が目に入ったレイは、ライラとエドナを見て、

 

「…どう…したの…?」

 

エドナは傘を回しながら、

 

「何でもないわ。」

 

そう言って、歩き出す。

ライラもレイを見て、

 

「何でもありませんわ。さ、スレイさんたちの元に戻りましょう。」

 

レイは頷き、ライラ達と歩いて行く。

レイ達が戻ると、レイはロゼを見て、

 

「そう言えば…いつ…お兄ちゃん…と…夫婦に…なった…の?」

 

レイの瞳は本気だった。

ロゼは驚き、レイを見下ろす。

そしてミクリオも、レイを見て、

 

「え⁉こっちも⁉」

「いつ…どこで…」

「えーっと……」

 

レイはロゼに詰め寄る。

無表情の中に、何か怖い気配を感じる。

これにはライラとエドナも驚き、デゼルはスレイを見る。

なおもロゼを見上げながら、詰め寄るレイから視線を外すロゼ。

そしてスレイを見て、

 

「スレイ、パス!」

 

と、言ってデゼルの背の後ろに隠れる。

 

「ちょっ!ロゼ⁉」「おい、何をする!」

 

スレイとデゼルはロゼを見る。

ロゼは下を出し、片目をつぶって手を合わせていた。

レイはスレイを見上がる。

 

「えっと……その……な?」

「…何…が…?」

 

スレイは額に凄い汗が出てくる。

そして笑顔なのにどこか哀れだ。

その笑顔が崩れ、ミクリオ、ライラ、エドナを見て、

 

「パス!」

「「ええ~⁉」」

 

ミクリオとライラは声を合わせる。

そしてエドナがスレイを半眼で見て、

 

「バカなの。違ったわ、元々本当のバカだったわね。」

 

と、怒っていた。

ミクリオとライラは互いに見合いエドナを見る。

エドナは傘を広げ、背を向ける。

あたふたしている場に、デゼルがレイに近付き、

 

「あれは芝居だ。お前も理解しているだろう。」

「……本当…に?」

「ああ。」

 

互いに見合い、レイはロゼを見る。

ロゼはコクコクと首を縦に頷く。

さらにスレイ達を見る。

スレイ、ライラも首をコクコクと首を縦に頷く。

ミクリオは一度だけ大きく頷く。

エドナは傘をクルクル回す。

レイはデゼルを見上げ、

 

「…わかった…」

 

レイはスレイを見上げ、

 

「…抱っこ…」

「わかった。」

 

と、スレイは笑顔でレイを抱き上げる。

レイはスレイの胸に顔を埋める。

場が大分収まったところで、ミクリオは腰に手を当て、

 

「それにしても、またやっかいそうな事件だ。」

「けれど、これで教会神殿に入れそうですわ。」

 

ライラは手を合わせて言う。

 

「ああ。ついでにローランスのエライ人に言い訳もできそうだし。」

「そのエライさんが問題なんだけどな……」

 

スレイは明るく言うが、ミクリオは淡々と言う。

スレイはロゼを見て、

 

「でも、ローランスも色々もめてるんだ……」

「結局、お偉いさんの権力争いじゃないの?付き合わさせれる一般人はたまったもんじゃないよ。」

「そうね。人間はみんないつだってそういうもんよ。それで、ペンドラゴへはどうするの。」

 

エドナは傘をクルクル回しながら言う。

 

「皇都ペンドラゴに行く前に、ロゼの用事を済ませようと思うんだ。」

「用事ですか?」

「そ。このラストンベルにフィルとトルがいるはずなんだ!アジトの引っ越しも気になるしね。」

 

スレイ達はロゼのギルドメンバーを捜しに行く。

 

スレイはレイを抱っこしたまま歩き続ける。

レイはスレイの腕の中で眠っていた。

ミクリオはスレイを見て、

 

「スレイ、交代しようか?」

「いや、大丈夫。それにミクリオがここで交代したら……レイが浮いたように見えちゃうだろ。」

「それはそうだけど……」

「なら、あたしが代わろうか?」

 

と、ロゼがスレイとミクリオを見て言う。

二人は互いに見合い、

 

「止めといた方がいいと思うけど……」

「そうだね。いくらロゼとも親睦が深まったとはいえ――」

 

ロゼは笑顔で近付き、

 

「大丈夫、大丈夫!それに、寝てれば気付かないって!」

 

スレイからレイを抱き取る。

ロゼがしっかり抱きかかえ、

 

「ね?寝てれば気付かないって。」

 

スレイとミクリオは不安そうに見る。

ライラとエドナが、ロゼの腕の中で眠るレイを見て、

 

「こうして大人しく寝てれば、ただの人間の子供なのにね。」

「……そうですわね。でも、寝てるとは言え……レイさんがスレイさんとミクリオさん以外の方を受け入れるなんて――」

 

と、ライラも嬉しそうに言っている傍から、寝ているレイが何かに反応する。

デゼルが若干焦りながら、

 

「やっぱりスレイに戻しておけ。起きてぐずられると—―」

 

レイが目を擦りながら、起きる。

そしてロゼを見上げる。

ロゼは笑顔で返すが……。

 

「…………」

 

レイは無表情でロゼを見続ける。

ロゼの笑顔はだんだん引きつっていく。

 

「…………」

 

レイはなおも、無表情でロゼを見続ける。

ロゼは額に汗が出てくる。

周りもなんだか緊迫してくる。

 

「…………」

 

そしていまだ無表情を続けるレイ。

ロゼはレイを抱えたまま、

 

「だーーー‼」

「でしょうね。」

「やっぱり……」

「ダメでしたね。」

「これだったら、ぐずった方がまだマシだ。」

「ロゼ、貸して。」

 

スレイはロゼからレイを受け取る。

レイはスレイの元に戻るとまたスレイの胸に顔を埋めて寝始めた。

そのままスレイはレイを再び抱えたまま歩き出す。

そして教会前を通り、

 

「本当に対立してるんだな。ローランスの騎士と教会って。」

 

スレイは悲しそうに言う。

ミクリオは逆に怒りながら言う。

 

「人を守るための組織だろうに。」

 

ライラは静かに、

 

「人が集まれば、どうしても集団の意識が芽生えてしまいます。それが組織の力となる場合もありますが強い穢れを生み、衝突を引き起こすことの方が多いのです。」

「戦争とかだね。」

 

スレイは悲しそうに空を見上がる。

ライラも自分の手を握り合わせ、

 

「最大のものはそう。教会と騎士団の対立も、小さな戦争といえるでしょう。」

「『戦争、すなわち人の歴史である』本に書いてあったことを実感するよ。」

 

ミクリオも悲しそうに言う。

スレイはライラを見て、

 

「……オレは関わらない方がいいのかな?」

「スレイさんはどう思いますか?」

「オレは知りたい。酷い現実だとしても、それも世界のひとつだと思うから。」

 

スレイの瞳は強かった。

レイは一度眼をうっすらと開け、再び閉じる。

ライラは笑顔になり、

 

「でしたら参りましょう。スレイさんの旅なのですから。」

「オレとオレを信じてくれるみんなの旅、だよ。」

 

スレイも笑顔で言った。

スレイ達は再び歩き出す。

 

歩きながら、スレイの中で、ライラが顎に人差し指を立て、

 

「ロゼさん、少しは私たちに馴染んでくれたでしょうか?」

「だいぶ慣れたんじゃないかな。怖がりだけど、さっぱりしたヤツだし。」

 

スレイが明るく言うが、ミクリオは真剣な表情で、

 

「いや、案外根が深いのかもしれないぞ。ロゼの恐怖感は、あんなに強い霊応力を打ち消すほどのものだったんだから。」

「誰かさんのせいで。」

 

と、エドナは隅に居る帽子を被った男性を見る。

その帽子を被った男性デゼルは、

 

「お前たちに言い訳をする気はない。」

「そんなロゼが自分の意思で付き合ってくれてるんだ。大丈夫だよ、きっと。」

 

スレイは笑顔で言う。

ミクリオは苦笑いしながら、

 

「そう信じたいよ。ロゼみたいな人間の仲間は、なかなか見つかるもんじゃないだろうし。」

 

エドナは半笑いで、

 

「いろいろなイミで、ね。」

「そう、いろいろなイミで。」

 

ミクリオも笑いながら言う。

 

「ま、おチビちゃんも相当いろんなイミで、だけど。」

「レイはいいんだよ。元からこうだから。」

「あら、そこは認めるのね。」

「なっ⁉」

 

悪戯顔になるエドナに、ミクリオが怒る。

すると、ライラが微笑む。

 

「ふふふ。」

「どうしたの?」

 

スレイがライラに問いかけると、

 

「いえ、私たちもレイさんだけでなく、少しロゼさんにも慣れたんだなって。」

「そうだね。」

「……」

 

デゼルだけは、無言となる。

と、後ろから、

 

「うわっ!レイはまだ寝てるし……という事は、またスレイが見えないライラたちと喋ってる!こ、こわ~っ!」

 

ロゼがスレイを見て怯える。

それを見たスレイは、

 

「先は長いかもだけど……」

「あせらず行きましょう、スレイさん。」

 

ライラも苦笑いしながら言う。

スレイは歩きながら、

 

「それにしても、この街、色々物騒な噂があるよな。」

「ああ。災厄の時代を実感するね。」

 

ミクリオもそれに同意する。

スレイは悲しそうに、

 

「憑魔≪ひょうま≫が関わってるっぽい噂も多い……」

「興味がおありなら調べてみては?」

 

ライラがスレイを見て言う。

スレイは考えながら、

 

「けど約束もあるし……」

「別に寄り道してもいいんじゃない?約束破るわけじゃないし。」

「ええ。私もロゼさんに賛成です。」

「僕もだ。意味のない遠慮には意味がない。」

 

ロゼ、ライラ、ミクリオが明るく言う。

スレイも嬉しそうに、

 

「はは、そりゃあそうだ。わかった。後悔しないように行くよ。」

「関わって後悔することも多そうだけど。」

 

エドナは後ろで小さく呟いた。

 

ロゼのギルドメンバーを探している最中、一人の天族を見付ける。

 

「おぉ、君は導師か!若者よ、不躾だが頼みがある。この街の地の主だったサインドという天族が先日街を捨て、出て行ってしまったのだ。そのサインドを探してもらいたい。このところ憑魔≪ひょうま≫が増えて、私では難しいのだ……。サインドは『湖に行く』と言っていた。おそらく、カンブリア地底洞にある地底湖のことだろう。君の余裕ができた時で構わない。どうか、よろしく頼む……。」

 

スレイは頷き、離れる。

 

「どうやら加護天族は憑魔≪ひょうま≫になっていないようですわね。」

「出て行った、というのが気になるな。」

「そうだな。」

 

と、歩いている先にロゼのギルドメンバーを見付けた。

ロゼが二人に近付く。

 

「どう?アジトの引っ越し進んでる?」

「うん。新アジトは緑青林マロリーがいいんじゃないかって。下見してること。」

「丁度良かった。頭領の意見が欲しかったんだ。」

「やっぱ、あたしが行かないと決まらないか!」

 

と、ロゼは明るく言うが、ギルドメンバートルメは首を振り、

 

「ううん、アジトじゃなくてセキレイの羽の仕事。」

「新商品の仕入れで悩んでいるんだ。『マーボーまん』と『カレーまん』どっちがいいと思う?」

 

と、ギルドメンバーフィルがロゼを見る。

ロゼは大声で、

 

「『マーボーカレーまん』で!」

 

と、指を鳴らす。

スレイの腕の中で寝ていたレイが目を覚ます。

ギルドメンバートルメは苦笑いしながら、

 

「それ、ただの頭領の好物じゃない。」

「ノンノン!頭領としての冷静な判断だって。今の世界は必要としているはず!奇跡のコラボが生み出すあの美味しさを!」

 

大喜びで言うロゼを、ギルドメンバーフィルも苦笑いしながら、

 

「思いっきり私情入ってる気がするけど。」

「わかった。それでいこう。」

 

と、二人は納得する。

それを見たスレイは、

 

「いろいろやってるんだ。」

 

ギルドメンバーフィルはスレイを見て、

 

「いろいろの方がほとんどだよ。それに『仕事』は、金額関係ないしね。」

「そうなんだ……」

「で、生活のために商人やってるってわけ。」

 

ロゼが明るく言う。

それを付け足すように、

 

「はは、主にエギーユがね。」

「新商品のGOサイン出すのは、あたしでしょ。」

「じゃ、私たちは地道な商売に戻るから。」

「頭領も緑青林マロリーに行ってみて。みんなも下見してるから。」

 

若干拗ねるロゼに、二人は明るく言う。

ロゼは機嫌を直し、

 

「おう!そっちも頑張って。」

 

と、二人と別れる。

二人と別れた後、レイはスレイを見上げ、

 

「…降りる…」

「ん?もういいのか?」

 

レイは頷く。

そしてスレイと手を繋ぐ。

 

「で、これからどうするの。」

 

エドナが傘をクルクル回しながら言う。

 

「とりあえずは、ペンドラゴを目指しながら行こう。加護天族の事も気になるし。」

 

スレイ達はラストンベルの街を後にする。


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