テイルズオブゼスティリアでやってみた   作:609

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第一章 運命の始まり
toz 第一話 始まり


導師の伝承…

はるかな神話時代、世界が闇に覆われると、いずこより現れ光を取り戻した

時代が変わろうとも、世が乱れる度に

人々は伝承を語り、救いを願う

その度に導師は姿を現し、闇を振り払ったという

しかし、平和が訪れると導師は姿を消した……

彼らはどこへ……その答えを知る者はいなかった

いつしか人々の記憶から、伝承の中へと消えていった

 

闇は……世界を再び覆わんとしていた

導師の名が再び語られ始めた

だが、いまだ導師は姿を見せなかった……

 

 

――少女が最初の記憶として覚えていたのは、一人の人間の少年と天族の少年。

人間の少年の髪は焦げ茶に、瞳は緑色。

天族の少年は毛先が水色がかった銀髪、瞳は紫だった。

彼らは自分を見下ろしている。

人間の少年は自分を心配し、天族の少年はそんな彼に代わり、自分を警戒している。

朦朧としたその意識の中で、ただそれだけを見ていた。

 

次に目を覚ました時には、ベットの上だった。

布団から手を出すと、包帯が巻かれている。

それから、老人の天族が入ってきた。

その老人の天族の話によれば、あの時どうやら自分は怪我をしていたようだ。

どうしてそうなったのかは知らない。

そして私をここに連れてきたのは、あの二人の少年たちだという。

 

私は老人の天族に名を聞かれ、〝レイ〟と、名乗る。

だが、それが本当に自身の名のかは解らない。

それからずっと、そこに居続けた。

あの人間の少年と天族の少年は見舞いに来た。

彼らの話を聞く度、自分が何故あそこに居たかは、彼らも知らないようだ。

何より、彼らの話によると〝天族〟という者達を視える事に驚いていた。

 

怪我が治っても、私はこの〝イヅチ〟と言う天族の村に住むことになった。

私はあれから何も思い出せない。

だが、何かしら思い出すものもある。

それはいつも唐突に、歌を歌い出す事だ。

これは自身が確実に覚えているゆういつのもの。

そして彼ら二人の事を〝兄〟と呼び、あの天族の老人を〝ジイジ〟と呼んだ。

 

一人の小さな少女が、外を見ていた。

長い紫の髪が日に反射する。

白いコートのようなワンピース服に短パン。

 

私がこのイヅチに来て、五年が経った。

今日も、兄二人は遺跡に行っている。

私は壁にもたれていた。

無表情で空を見ていると、ジイジが来た。

 

「寝てなくて大丈夫なのか?」

 

私は頷く。

 

「私も…付い…て行…けば…良…かった‥。」

「駄目じゃ。体調が悪いのだから、安静にしておるのじゃ。」

 

 

私はそのまま空を見ていた。

と、私は何かに気が付く。

そのまま立ち上がり、歩いて行く。

 

「どこに行くのじゃ?」

「散…歩‥すぐ…に…帰…る‥。」

 

そう言って、歩いて行った。

 

 

――ある少女が森の中を歩いていた。

茶髪の縦ロール風のサイドテールを揺らしながら、跳ねた前髪も揺れている。

疲れているようだが、緑色の瞳は強く輝いていた。

 

「‥ここを通れば、〝カムラン〟に着けつはずだ…。そうすればきっと‥」

 

彼女は歩き続ける。

その彼女を視ていた小さな少女。

その小さな少女は、日の光に当てられ綺麗な長い紫色の髪。

だが、その表情は前髪に隠れて見えない。

服装は黒を基準としたワンピースのようなコートに短パンが見える。

小さな少女は小さく呟いた。

 

「…カムラン……ただの人間が、あの地に向かえば飲まれるだけだ。」

 

視つめる彼女は諦めずに歩き続ける。

小さな少女は彼女を視つめながら、

 

「…想いも、覚悟も、本気と言うことか‥。良いだろう、ならばその道を導いてやろう。」

 

小さな少女は彼女に問いかける。

 

「?」

 

彼女はどこからか聞こえてきた声に戸惑っていた。

しかし、どこからか歌が流れてくる。

それに導かれるかのように、その方向へと進む。

 

しばらくすると、辺りに雷が鳴り始める。

 

「…ゼンライか…。悪いが邪魔させて貰う。」

 

雷≪いかづち≫が、歩く彼女に当たる。

しかしその直前、彼女は魔法陣に護られ、どこかに飛ばされた。

 

「後は、お前次第だ……末席の王女よ。」

 

風が小さな少女を包み込む。

 

「…あちらでも動きがあったようだな‥。さて、どのように運命は動き出すかな…。」

 

そしてその場所から、小さな少女の姿は消えていた。

 

 

――遺跡を嬉しそうに歩く、紺の服を着た焦げ茶髪の少年。

と、少年は壁画に描かれている絵に近付く。

それを嬉しそうに見た後、古びた本を取り出す。

ページをめくり、挿絵をみる。

それは壁画と同じ絵が描かれていた。

 

「やっぱり!聖剣を掲げる英雄……『導師』の壁画だ!」

 

少年は嬉しそうに声を出し、浮かれている。

そして足場が崩れ、後ろに転ぶ。

 

「……ようやく見つけた。」

 

と、本を抱きしめる。

すると、後ろから声を掛けられる。

 

「スレイ、僕の所はハズレだったよ。」

 

スレイが声の方を向くと、青と白を基準とした服、足元くらいに長いマントのような服を着ていた。

毛先が水色がかった銀髪の少年が立っていた。

 

「ミクリオ!」

 

ミクリオは腕を組んだまま、

 

「先を越されたね、今回は。」

「へへ。」

 

と、嬉しそうにスレイはピースをする。

 

そして、ミクリオを見上げながら、

 

「やっぱり『アスガード時代』以前には導師は身近に居たんだよ。」

「そう断じるのは早計じゃないか?」

 

だが、ミクリオは疑問否定を返す。

そして彼は歩きながら、スレイに言う。

 

「なりより、まだこの遺跡がアスガード以前のものか保証はないんだ。模造品かもしれない。」

「この規模の遺跡で様式まで則った構造建築なんてしないんじゃないか?」

 

互いに意見をぶつけ合う。

それを止めるかのように、どこからか歌が流れ聞こえてくる。

 

「…この歌、レイが歌っているのか?」

「今回は調子が悪そうだったから置いてきたけど‥近くに来ているのかもしれないね。」

 

そう言っていると、空に雷雲が出てきて暗くなる。

雷鳴がなり始め、二人はその空を見て険しくなる。

 

スレイも立ち上がり、近づく。

 

「何だかまずいぞ……」

「ミクリオ、あれって……」

「遺跡探検はここまでだ!スレイ!」

 

と、ミクリオは走り出す。

スレイも、その後を追おうとするが、壁画をもう一度見る。

そんなスレイに、ミクリオが叫ぶ。

 

「スレイ!こっちだ!早く!」

 

スレイは急いで、ミクリオを追う。

ミクリオは走りながら、彼に言う。

 

「何をしている!」

 

が、先を走るミクリオの足場が崩れた。

スレイは速度を上げて、ミクリオの下へ駆ける。

そして、彼の襟を捕まえる。

 

「ふぅー、間一髪。」

 

ミクリオは自分の足元に空いた穴を見つめた。

パラパラと、瓦礫や小石が落ちていく。

 

ミクリオは、落ち着いて言う。

 

「頼むよ。早く上げてくれ。」

 

スレイは言われた通り、ミクリオを引き上げる。

 

「ん~~~…」

 

が、スレイの足場も崩れたのだ。

 

「「う、うわぁーー‼」」

 

二人して、穴の底へ落ちていく。

そして、スレイの叫び声が響いていく。

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

対して、ミクリオの方は冷静に下を見る。

地面が迫り切っている。

彼は体勢を立て直し、杖を取り出す。

 

「双流放て!ツインフロウ!」

 

水柱を作り上げ、スレイを弾き出す。

スレイはそのままちょっとした水たまりへと落ちる。

自分も何とか着地をする。

 

「痛‥ってー…」

 

スレイはちょっとした水たまりの中で、背中とお尻の辺りをさする。

ミクリオは、スレイに近付き声を掛ける。

 

「スレイ!とっさの判断だったけど、上手くいったろう?これで貸し借りなしだ。」

 

と、腰に手を当てて言う。

スレイは少しだけムッとした真剣な顔で、ミクリオの後ろを見る。

 

「これは‼」

 

ミクリオも後ろを見る。

 

「地下にも遺跡があったなんて……」

 

辺りは木の蔓に覆われていた遺跡であった。

 

「落ちたのに感謝だな……」

 

そんなスレイの言葉に、ミクリオは呆れる。

 

「まったく…。」

 

が、しかしすぐに真剣な顔になり、

 

「それより戻る方法を見つけないと。」

 

そう言って、スレイに近付く。

 

「ああ、うん。」

 

そして、スレイを引き起こす。

 

「しっかし、レイを連れて来なくて正解だな。」

「そうだね。今回、付いて来ていたら危なかったね。」

 

 

すぐ傍の扉を出てみると、そこは大きな穴が開いていた。

 

「うは~、高っ!」

 

と、驚いているスレイ。

そんなスレイに、ミクリオは冷静に先程の事を言う。

 

「さっきも相当だったけど?」

「石板あったし。気にしてらんないだろ。」

 

と、ミクリオを見て言うのであった。

 

「ああ、そうですか。」

 

ミクリオはそんな彼を、面倒のように受け流す。

と、スレイは下の階の反対側にあるもの‥いや、倒れている人を見付ける。

 

「ん?誰か……倒れている?」

 

そして、その人物は女性だった。

その女性の指先が小さく動く。

 

「あのさ、ミクリオ……」

「?」

 

スレイは、彼に恐る恐る言う。

 

「あれ……人間だ。」

「まさか⁉」

 

その言葉に、ミクリオは驚きながら近付く。

そして、歩き出すスレイに、ミクリオはすぐに声を掛ける。

 

「待て。人間には関わらない方がいい。」

「放っておけない。まだ生きてんだから。」

 

スレイはミクリオを見つめて言いう。

その瞳は強かった。

それに負けたミクリオは、

 

「わかった。僕も手伝う。とにかく、もっと辺りを調べよう。」

「ん!」

 

スレイは嬉しそうに言う。

 

 

下に向かって進んでいくと、蜘蛛の巣が多い。

これを見る限り、長い間この辺は誰も足を踏み入れていないことが解る。

と、とある一室で、スレイは何かの気配を感じる。

 

「どうかした――」

「しっ。」

 

辺りを探っていると、

 

「……上だ!」

 

と、スレイは上を見て叫ぶ。

スレイの立っていた場所に、強大蜘蛛が落ちてきた。

その巨大蜘蛛からは、黒いオーラのようなものが視える。

ミクリオは武器である杖をすぐに取り出す。

 

「こんなでかいクモ、初めて見た……!」

「ぼうっとしないで、スレイ構えて!」

 

ミクリオが、すぐに彼を注意する。

 

二人で、強大蜘蛛と対峙する。

強大蜘蛛を吹き飛ばすと、ミクリオがあることに気が付く。

 

「こいつ、まさか…‥‥憑魔≪ひょうま≫……?」

「憑魔≪ひょうま≫?本当か……?」

 

ミクリオの言葉に、スレイも驚く。

 

「見るのは初めてだけどね……」

「なんで憑魔≪ひょうま≫なんてバケモンがこんなところに。」

 

そして大蜘蛛は起き上がり、動き出す。

 

「逃げる気だ!」

 

追撃しようとするスレイの肩を、ミクリオが止める。

 

「忘れてないよね?ジイジの言葉。」

「あ……」

 

スレイは、思い出したかのような顔で思い出す。

 

――「憑魔≪ひょうま≫……?」」

 

二人の子供の声が響く。

そこに一人の老人が思い出される。

その老人・ジイジが幼い二人に話聞かせる。

 

「そうじゃ、憑魔≪ひょうま≫じゃ。〝穢れ〟が生んだ恐ろしい魔物じゃ。ヤツらを倒せるのは特別な者だけがあやつる『浄化の力』のみ。」

 

ジイジは一度キセルを吸い、

 

「二人とも。憑魔≪ひょうま≫に出会ったらすぐに逃げるのじゃ。忘れてはならんぞ。我らに憑魔≪ひょうま≫を退治することは出来ないのじゃ。よいな?」

 

と、ジイジは僕らの頭をなでる。

 

 

「『浄化の力』がないと憑魔≪ひょうま≫は倒せない……」

「今は追い払えただけで満足しないと。」

 

と、言い聞かせる。

しかし、スレイは背を向け、

 

「なら、なおさらだな。」

「?」

 

そして再び、ミクリオを見て、

 

「急いで、彼女を助けなきゃ。あんなのがうろついてんだから。」

 

二人は急いで、彼女の元へ急ぐ。

 

途中の部屋で、スレイはあるものを見付けた。

 

「これって……」

 

と、見ていたそれを、横からミクリオが取り上げる。

 

「わ、なになに⁉」

「僕が預かっておく。夢中になったら止まらないからね。無事戻れたらちゃんと返すさ。」

「あははは……お願いします。」

 

しかし‥‥

 

「見えているのに行けないのはなんとももどかしいな。」

「飛べそう?」

「君次第じゃない?見てみたら?」

 

と、ミクリオの言うように、少しはみ出ている所を見る。

 

「どうだい?」

 

底は大きく開いている。

 

「はは。やっぱり無理だ。」

 

自分の足元の瓦礫が下に落ちる。

 

「あっぶね!」

「驚かせるなよ!」

「悪い悪い。」

 

心配するミクリオに素直に謝る。

 

「やはりこちらからは行けないか。」

「構造上、繋がっているはずだ。」

「ま、戻って調べてみよう。」

 

再び歩きながら、最初の道へ戻る。

戻った場所を見たミクリオが、

 

「なるほど。そういうことか。」

「ミクリオ?」

「スレイも気付いたろう?」

「あ、ああ!まさか空中を歩けるなんてな。」

「正確には透明な橋だけどね。」

「ちゃんと人が乗れるのかな……」

「なんだ、今日は妙に冴えてるね。」

「ふふふ。」

 

ミクリオに褒められ、スレイは喜ぶ。

が、ミクリオは追い打ちをかける。

 

「『今日は』ね。」

「ちぇ。」

 

と、拗ねるスレイであった。

 

ミクリオは氷を扱い、視えない橋に掛ける。

すると氷に覆われ、橋が姿を現す。

そしてその橋の上を歩いていく。

 

「大丈夫そうだな。」

「うん。ホントすごいよ。この橋。どうやったんだろ?」

「こんなもの、人間の技術じゃ作り出せないはずだ。」

「ってことはこの橋だけは『神代の時代』ぐらい古いものってことか?」

「どうかな……いずれにせよ。僕たちのような者に頼んで、力を借りたのは間違いないだろう。」

「そこまでしてあっち側に、人を入れたくなかったんだ。」

「この先はイズチに繋がってる。聖域を守るためには当然とも言えるね。」

「昔、神殿へ祈りに訪れた人々も、断崖を渡れないと思い込まされたんだろうな。」

「さっきまでの僕たちのように、な。けど、よく気付いたね、スレイ。君の直感にも感心させられるよ。」

「お?」

「ごくごく稀にね。」

「褒めてくれたと思ったら、これだ。」

 

そして彼女に近付く。

彼女は、白を基準とした服に短パンで、手足には鎧をつけている。

髪は横でカールしている。

息があるのを確かめ、スレイは彼女の武器と思わしき槍を手に持つ。

 

「やっぱり考え直そう。あの時とは状況が違う。」

 

しかし、スレイは彼女の肩を揺らす。

 

「スレイ!」

 

何度か肩を揺らし、

 

「あの……大丈夫?」

 

すると、彼女は意識を取り戻す。

 

「うぅ……あれ……?」

 

スレイはホッとする。

 

「私は……確か森で……」

 

そして彼女は、スレイに気が付く。

すぐに自分の武器を探す。

 

「これ?」

 

スレイは、彼女の武器と思わしき槍を、彼女の目の前に出す。

彼女はスレイを警戒しつつ、彼を見てから自分の武器を見る。

彼女は自分の武器を手に取り、立ち上がる。

スレイも立ち上がった。

そこにミクリオが、スレイと彼女の間に入る。

 

「わ!」

 

と、女性に向かって大きな声を出す。

だがしかし、彼女は平然と自身に着いた土汚れを落とす。

彼女に顔を近付け、まじまじと見た後、離れた。

 

「本当の意味でタダの人間だ。」

 

と、スレイの肩をポンと叩いて、彼に言う。

スレイも、ミクリオに安心したように、

 

「……だな。」

 

スレイは、彼女と目が合う。

 

「大丈夫そうだ。」

「ありがとう……心配をかけたようだ。君は?」

 

そう聞けれ、黙っているスレイに、

 

「名前。」

 

スレイの後ろから、呆れたように言う。

スレイは気付いたかのように、

 

「そっか。えっと……名前。そう、オレはスレイ。」

「スレイ……」

「うん。よろしく。」

 

と、彼女はスレイに、

 

「スレイ。この近くで落ち着ける所はないだろうか?都まで帰る準備を整えようと思うのだが……」

「都から来たんだ。」

 

スレイは小さく呟く。

 

「……どうだろう?」

 

彼女は礼儀正しく、背筋を伸ばす。

 

「うーん。」

 

と、腕を組んで悩んだ末、

 

「オレの住んでいるとこに来なよ。」

 

しかしその回答に、ミクリオが後ろから、

 

「スレイ、それは…」

 

が、彼女は申し訳なさそうに、

 

「いいのか?何者ともしれない私を案内しても?」

 

しかしスレイは彼女ではなく、後ろにいるミクリオを見ながら、

 

「困っている人を放っとくなんてできない。」

 

そして彼女に笑顔で、

 

「そんだけ!」

 

後ろのミクリオは、腕を組んで呆れ、怒る。

 

「大体、名乗らないのも変だ。怪しいと思うのが普通だと、思うけど?」

 

彼女は視えていないミクリオの言葉が聞こえたかのように、彼から視線を外し、

 

「君は……私の名を尋ねないのか?」

「事情があるんだろ。でも悪いやつには見えないよ。」

「……スレイ。重ねて感謝する。」

「ジイジのカミナリ、覚悟しておくんだね。」

「……うん。」

 

スレイの後ろからミクリオがそっと言う。

スレイは肩を落とす。

 

「何か……⁇」

「ううん。何でもない。とにかくあっちだ!さー行こう!」

 

と、歩き出す。

進みながら、ミクリオはスレイに忠告する。

 

「蒸し返すつもりはないけど、目は離さないようにね。」

「うん。彼女、困ってる状況じゃなきゃいいな。」

「はぁ。……いつもながら甘い‼」

 

そう言って、遺跡の外に出る。

青空の下、スレイは腕を伸ばしたりする。

 

「はぁ~、無事帰ってこれた!」

「なんという美しさだ……」

 

彼女は外の景色を見て、心打たれていた。

スレイとミクリオは、彼女を見る。

 

辺りは自然と空に囲まれ、所々に遺跡の跡が残っている。

その風景に、

 

「まるで神話に出てくる〝天族〟たちが暮らす神殿のよう……」

「ホントに『天族』って呼ぶんだ。」

「何かおかしいだろうか?」

「ううん。『神、霊、魑魅魍魎といった姿なき超常存在を、人は畏敬の念を込めて“天族”と呼ぶ。』。」

 

と、後ろにいるミクリオをチラ見しながら言う。

その言葉に、彼女は驚いていた。

 

「でしょ?」

「『天遺見聞録』の引用……」

「じゃじゃん!」

 

と先程、遺跡の壁画を見ていた時に出していた古びた本を出す。

それを嬉しそうに、彼女に見せる。

 

「君も読んだのか。」

「君も、ってことは……?」

「幼い頃にそれは何度も。」

 

話し込みそうになるスレイに、ミクリオは彼を肘で突く。

 

「あっと、オレの村はここから少し行った所だから。行こうか。」

「了解した。」

 

そして、村に向かって歩き出す。

 

「ねぇ、天遺見聞録って子ども向けの本なの?」

「うん?」

「さっき子どもの頃に読んだって。」

「大人も大勢読んでいるよ。私が早熟だったのだろう。」

「なんだ。そっかぁ……うん、素晴らしい本だからね。」

「ああ。」

「和んじゃって……。どうなることやら。」

 

そんな二人に、ミクリオは呆れる。

 

「ここがオレの村。イズチだ。」

「カムランではなくイズチ……やはり噂はウソだったか……。」

 

しばらく進むと、シカのようなトナカイのような生き物がいる。

その生き物を見た彼女は、

 

「な、なんだあの生き物は⁉」

「なにって……山羊≪ハイランドゴート≫だよ。」

「山羊?これほど大きなものが……。凄いツノ……伝説に聞くドラゴンのようだ。」

「ははは、ドラゴンってお伽噺の?君って面白い人だな。」

「近づいたら危険だ!気が荒い野生種だろう……」

「大丈夫。友達だから。小さい頃は四、五回吹っ飛ばされたけどね。」

「友達……なのか?」

「うん。時々ミルクを分けてもらって、村のみんなとチーズやヨーグルトをつくるんだ。」

「それは楽しそうだ。」

「楽しいよ。すごく。」

 

そして、イズチの村に入る。

彼女はイズチの村に入ると、辺りを嬉しそうに見る。

ミクリオは、

 

「ジイジに報告してくる。」

「黙っとくわけにいかないよな。」

「後で来るんだろう?」

 

ミクリオに頷く。

そして、

 

「みんな、来て。紹介するよ。」

 

自分の近くには、人が集まってきている。

彼女を見て、驚いている。

そして彼女もまた、スレイの言っている言葉を不思議がっている。

彼女の目には、風景しか見えていない。

対して、スレイの目には天族といわれる者達が視えている。

そんなスレイは、村人達と楽しそうに、それでいて困ったように話していた。

そんな彼の姿は、彼女にとっては不思議でしかない。

そして彼は、彼女を見て、

 

「これが杜≪もり≫で暮らすオレの家族。」

 

と、集まった人々を背に言う。

が、彼女から出た言葉はやはり、

 

「これは?芝居?それとも何かの演出か?」

「……何でもない。忘れて。」

「君は面白い人だな。」

「……はは。」

 

そんな二人の会話を遠くから、ミクリオは見ていた。

それを確認してから、ジイジの所に向かう。

 

「あれがオレん家。」

 

と、岩に囲まれた家を指さす。

 

「先行って休んでてよ。オレ、ちょっと用があるから。」

「村の中を拝見しても?」

「いいけど、みんなを怒らせないでね。」

「なるほど。ここは天族の杜≪もり≫、と言いたいのだな。」

「そう!それ!」

「では、粗相のないようにしなければ。ふふ」

 

と、彼女は嬉しそうに歩き出した。

 

「さて。ミクリオ、ジイジに上手く話してくれてるかな……」

 

スレイはジイジの所に向かう。

 

 

スレイと別れ、ジイジに家に来たミクリオ。

玄関の前には、小さな少女が座って寝ていた。

日の光に当てらた綺麗な長い紫色の髪。

服装は白を基準としたワンピースのようなコートに短パンが見える。

小さな少女を見ていると、小さな少女は目を覚ます。

 

「…お…はよ…う…ミク兄…。」

「ああ、おはよう。でも何でここで寝ているんだ、レイ?」

「…さぁ?…で…も…散…歩に…出た。…あれ…お兄…ちゃん…は?」

「後から来るよ。さ、中に入ろう。」

「うん…。」

 

二人で中に入る。

そして、先程の事をジイジに話す。

しばらくして、スレイが入って来る。

 

「ま、スレイから直接聞いてください。」

「しょうのない……。」

 

正座をして、話していたミクリオの横にスレイも座る。

正面に座るジイジは、キセルで肩を叩きながら聞いている。

 

「このバッカも―――ん!」

 

と、大声が響く。

スレイは驚いた後、苦笑いする。

 

「ただいま……ジイジ」

「なぜ人間を我らの地に連れ込んだ!」

 

怒るジイジに、ミクリオは冷静に言う。

 

「ジイジ……スレイの言い分も聞くって言ったじゃないですか。」

「今から聞くところじゃ!スレイや、わかっていながら戒めを破ったのか?」

「ごめんよ、ジイジ。放っておけなかったんだ……それにレイの時だって…」

「あの時とは状況が違う。この地に禍をもたらすだけだ、人間は。」

「オレも――人間だよ。それにレイも。」

「お前はワシらと共に暮らしてきた事でワシらの存在を捉え、言葉を交わす力を育んだ。普通の人間には出来ぬことじゃ。……そしてレイも、我らを見る事が出来る。この大きな違いがわからぬお前ではないだろう。」

「確かに……レイと違って、あの子に霊応力≪れいのうりょく≫はないみたいだった。」

「それでもスレイにとって初めて出会った同年代の人間だったんです。」

 

スレイに助け舟をするミクリオ。

 

「だが、同じものを見聞き出来ねば、共に生きる仲間とは言えん。」

「……。」

「ワシはこの地を護りながら、赤ん坊だった時からお前たち二人を育ててきた。」

「うん、感謝してる……」

「それはお前たちが他のみなと同様に、この杜を守る存在となるからだ。無用な侵入者は排除せねばならない。みなの平和な暮らしのために。」

「はい……」

 

ジイジの言葉に、素直に返事をするスレイ。

そこに物音が聞こえる。

そこを見ると、眠たそうな顔をした小さな少女。

 

「…お…帰り…お…兄ちゃ…ん。」

「ただいま、レイ。」

「…怒…られ…てる…?」

 

その言葉に、ミクリオは優しく言う。

 

「いや、気にしなくても大丈夫だよ。」

「ああ、起こしてごめんな。」

 

そして小さな少女・レイは、眠たそうな目を擦りながら、

 

「私…は…やっ…ぱり…邪…魔?」

「「‼」」

 

二人は慌てて、

 

「「そんな事はない!」」

「…ホン…ト?…ジ…イジ…も?」

「ああ、そうじゃ。…では、行くのじゃ。スレイ。」

「せめて、あの子の準備ができるまで待っていい?」

「ふぅ……急げよ。」

「ありがとう。」

 

ジイジは優しくスレイに言う。

そして立ち上がり、出口に向かう。

ミクリオはそれを横目で見て、ジイジに目を向ける。

 

「ジイジ……」

「わかっておるよ、ミクリオ。あの子の気持ちはまっすぐで正しい。だからこそ、ワシは心配なのじゃ。」

 

それを聞いて、レイはしばらく二人を見つめた後、外に出る。

 

 

スレイは、ジイジの家を出た後、自分の家に向かう。

そして、家で彼女を待つ。

しばらくして、ミクリオが入って来る。

 

「スレイ。」

 

彼の所まで行くと、遺跡で没収したものを渡す。

スレイは嬉しそうに、それを受け取る。

 

「あ、これ!」

 

それは片方しかない手袋だった。

指先は開いており、手首の所には数珠と羽が付いていた。

何より、手の甲の所には大きな紋章が付いている。

それをまじまじ見たスレイは、

 

「なぁ、この紋章って……」

「ああ。『導師の紋章』だね。」

「だよな!」

 

それを手に着け、嬉しそうに言う。

 

「天族と交信し、彼の力を意のままに操り、圧倒的な力を発言する者。導師か……んふふ!」

「導師になったつもりかい?」

「どうかな?」

 

ミクリオの言葉に、決めポーズを決めるスレイ。

 

「暗黒の世を救う救世主、には見えないね。」

「黙るのだ、天族よ。」

「お断り。」

「むぅ。」

 

と、コントを繰り出す。

そんなスレイに、

 

「ほら、発掘したもので遊ばない。」

「だな。」

 

ミクリオは玄関の方を見て、

 

「彼女、遅いな。」

「ちょっと見てくるよ。」

「…人間はスレイとレイだけだし、僕らが見えない彼女はかなり奇妙に思っているかもしれない。変に怪しまれたり、警戒されたりしないように気をつけなよ?ま、今でも十分警戒してる感じだけど。」

 

それを聞いて、外に出るスレイ。

彼女を探しに行く。

 

――とあるイズチの村の大きな岩の上、一人の小さな少女が立っていた。

日に当てられ、紫色の長い髪が反射している。

黒いワンピースのようなコート服が、風になびく。

顔は相変わらず前髪に隠れて見えない。

 

「…導師…天族と交信し、彼の力を意のままに操り、圧倒的な力を発言する者。…暗黒の世を救う救世主。……運命の輪は繋がった。今宵はどの物語が紡がれるか…。」

 

彼女は身をひるがえす。

その姿は風に包まれ、また消えた。

 

 

スレイは、彼女を意外と早く見付ける事が出来た。

 

「うーん……」

「楽しめた?」

「ああ。だが、ずっと誰かに見られてるようでなんだか……」

 

彼女の言う通り、すぐ傍には村の人が彼女を視ている。

スレイはそれを苦笑いで視る。

 

「…何…し…て…るの…みん…な…。あ…お兄…ちゃん…。」

 

そこに一人の小さな少女が現れる。

白いワンピースのようなコート服が風になびいている。

小さな少女は、スレイと彼女の傍による。

 

「子ども…」

 

彼女の言葉で、スレイは当たり前の事を思い出す。

 

「そうだよ!レイは人間だから見えるんだった。」

「スレイ?」

 

困惑の表情を浮かべる彼女に、慌ててスレイは言う。

 

「な、何でんもない。この子はオレの妹のレイ。」

「スレイの妹か…。では、私を見ていたのは君か?」

「……ん…?」

 

レイは首を斜めにした。

 

「あ、ああ、そうかもしれないな!レイ、この人はしばらくこの村に滞在するんだ。」

「しばらくお世話なる。」

 

レイと目線を合わせる彼女。

レイは彼女をジーと見つめる。

赤い瞳が彼女の緑色の瞳を除いている。

そして彼女にしか聞こえない声で、

 

「…矛盾…。貴女、嘘と…本心の…間に…いる。…それ故に、飲まれ…そうで…飲ま…れない。…でも、貴女…の望む…未来に…願うそれは…貴女には荷が重い。…彼の地に入れば…今の…貴女は…簡単…に飲ま…れる。…いくら…本当の…気持ちに…嘘と理屈…信念を…並べても…今の…貴女が…そのまま…では…その夢…は叶…わない。何より…貴女は…周りが…見≪視≫え…てい…ない。」

 

そう言われた彼女は目を見開く。

そしてレイから離れる。

 

「…き、君は?」

「どうしたの?」

「い、いや、何でもない。」

 

レイは、スレイを見上げると、

 

「…帰…る。…ま…た明…日。」

 

と、さっそうとこの場を離れていった。

微妙な空気になったので、

 

「……ごはんにしようか。」

「すまない……実はもう限界だった……。」

「じゃ、オレの家に行こう。」

「あ、あの子も居るのか?」

「あー、いや。あの子は違う場所に住んでいるんだ。」

「兄妹なのにか?」

「うん。あ、でも時々は居るけど…。」

「そうか…。」

 

二人は、スレイの家に歩き出す。

 

「気ぃ遣わせちゃったかな。」

 

スレイは家の前に居るミクリオを見た。

それに、あの時のレイに関しても、そんな風に思えた。

その独り言に戸惑う彼女に、

 

「ううん、なんでも。さぁ、入って。」

 

二人で食事を取っていた。

その途中、彼女は何かを真剣に考えている。

スレイは、口元を拭きながら話しかける。

 

「ねぇ。」

「うん?」

「君がいる都ってどんなとこ?」

「私が暮らしているのはハイランド王国の都レディレイク。」

「レディレイクって……聖剣伝承の⁉」

「知っているのか。」

「天遺見聞録にあったよ。湖の乙女の護る聖剣を抜いた者が導師になるって伝承があるんだよね?」

「ああ、恵まれた水源を持つ都で、酒と祭りが好きな、陽気な人々で溢れていた。」

「溢れて『いた』?」

「昔はそうだった……」

 

彼女のその言葉に、

 

「下界の人たちは大変なんだな。」

「下界?」

「山を下りた先のこと。オレ、ここから出たことがないんだ。」

「一人…いや、あの子と共にずっとここに?スレイこそ大変な境遇だったのだな……。」

「はは。そうだ、明日からの帰り支度、手伝うよ。何がいる?保存食とかカバンとか?」

「そうだな、あと少々の道具類と寝袋があれば。」

「わかった。じゃあまずは狩りだね。明日案内するよ。」

「ありがとう、感謝する。」

 

二人は少し話してから、互いに眠りに入った。


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