命の値段
クランクの独房としてあてがわれた部屋で僕は今ギャラルホルンによるCGS襲撃の背後関係についてクランクに聴取している。
「じゃあ今までの情報を確認します。先日の2度の戦闘はクーデリアさんの命を狙ったもの。命令を出したのはギャラルホルン火星支部司令官のコーラル・コンラッド三佐」
「そうだ。火星の独立運動の象徴的存在であるクーデリアを争いの火種になる危険人物として拘束するというのが名目だが、コーラルの様子からすると裏で何者かの意向を受けていたようだ」
「それはギャラルホルンの外部、コーラルの個人的な繋がりからですね?」
「ああ、コーラルは地球からの監査の前に今回の事を片付けたかったようだ。俺にも監査官が到着する前にクーデリアを捕らえ、CGSの人間を証拠隠滅の為1人残らず殲滅しろと命令してきた。焦っていたようだな」
「そこまで監査を気にするという事からしても、まともな作戦命令じゃありませんね。それではあなた方はまるでコーラルの私兵じゃありませんか?ギャラルホルンは秩序を守る為の公的な組織でしょう?」
「・・・その通りだ。地球からの目が届きにくい火星支部はその行動の全てがそうでは無いにしてもコーラルの私的な欲の為に動かされている、私兵も同じか」
クランクは苦い顔でそう答えた。軍人として誇りを持っているこの人にとっては認めたくない事だったろう。
「つまり今回の件はあくまでコーラルの独断であり、ギャラルホルンの総意では無いんですね」
「おそらくはな。だがコーラルの真意はともかくクーデリアの影響力は大きい。彼女を捕らえる理由としては充分だろう」
「つまりクーデリアさんがギャラルホルンに狙われるのは変わらない、と」
まあ、わかってはいたけど。どのみちマクギリスがクーデリアの地球行きを嗅ぎ付けるし、トドの裏切りが原因でコーラルの部隊と一戦交える事になる。この辺は先の事を考えると下手に介入出来ないなあ。
そう考えていたら、ドアをノックしてダンジが入ってきた。
「トウガさん、予定の時間になりましたんで、監視替わります」
「ああ、悪いねダンジ、シノの訓練抜けさせちゃって。それじゃあ昼までよろしく頼むよ」
「うっす」
「そういうわけでクランクさん、大人しくしていてくださいよ」
「俺の命はお前に委ねた。約束は守る」
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トウガが部屋を出て少し経って、クランクが口を開いた。
「ここは本当に子供ばかりなんだな・・・」
ダンジはさっきまでトウガが座っていた椅子には座らずクランクから距離をとってドアの前に立っている。
「え?・・・ああまあ、大人って言ったら、さっきのトウガさんと整備のおやっさんと、会計係のおっさんと・・・トドくらいだから4人か。あとはまあ、上が16、7くらいで、俺より下のチビも多いかな」
「俺は君達が大人に無理矢理戦わされていると思っていたが・・・そうでは無かったのか」
「アンタ達ギャラルホルンが攻撃して来るまではそうだったよ。1軍の大人達に毎日コキ使われてつまんねえことで殴られて、使い捨ての道具扱いでさ、トウガさんとおやっさんだけだったよ、大人達で俺達をまともに扱ってくれたのは。他のやつらはアンタ達が来たら俺達囮にして逃げだしてさ。おかげで大勢仲間が死んだよ」
「そうか。なら俺の事も憎いだろう」
「憎いっていうか、何で敵を手当てして基地に置いてるのか意味わかんねえっていうか。アンタは1人も殺しちゃいないってトウガさんが言うし、トウガさんの言う事だから皆アンタを殺そうとかしないだけっていうか」
「あの男の言葉だけで俺を受け入れるというのか?」
クランクは訝しげに問う。トウガとはそれなりに言葉を交わしているが、そこまで強い影響力のある男に見えなかったのだ。
「あの人の頼みは簡単には無視出来ねーよ。俺達散々世話になってるし・・・さっきも言ったけどさ、ここにいた大人は皆、俺達の事を使い捨ての弾除けかガス抜きに殴る玩具くらいにしか思ってなかったんだよ。俺達の命なんてその程度の値打ちだったんだよ」
「そんな事は無い!いや、あっちゃいけないんだ!大人が子供を・・・いや、すまない、俺に言えた事じゃあ無かったな」
クランクは思わず声を荒げるが、彼らの仲間を殺したのは自分達ギャラルホルン、しかも指揮官は自分の教え子だった事を思い出し言葉を打ち切った。
「アンタがどう思おうがCGSじゃそうだったんだよ・・・でもさ、トウガさんはいつも俺達を庇ってくれたんだ。んで代わりに自分がボコボコに殴られて、蹴飛ばされて。なのに俺達に恩着せがましい事も言わなかったし。俺達の飯がいつもモロコシ粥やレーションだけじゃ良くないからって社長に頭下げて、基地の中に畑作って野菜育ててさ、それを俺達に食わせてくれたんだ。元々親無しで学も無いし、此処で働かなかったらどっかで野垂れ死んでた俺達だけどさ、そんな俺達のために体張ってくれた大人はあの人だけなんだよ。だからあの人の頼みなら敵の1人くらい大したことねえって。納得したわけじゃないけどさ」
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整備工場に行くとおやっさん達がバルバトスの整備とクランクのグレイズの修理をしている。グレイズの破損部分はより損傷の激しいオーリス機のパーツを継ぎ合わせ、それでも足りない分は新造したパーツで補うらしい。
僕は損傷して使えないと除けられたパーツを物色して見る。
「ん~、これはまだ配線組み換えればなんとかなるか・・・でもここに亀裂が入ってるか。溶接でごまかせないかな・・・」
手間は掛かるが修理出来なくもないブースターユニットを何とか2基引っ張り出し、他のジャンクパーツから抜き取った部品で修理しているとオルガとビスケットが様子を見に来た。オルガがバルバトスのコックピットを手入れしていた三日月に声を掛ける。
「ミカァ!どうだー調子は!?」
「うーん、良いんじゃ無いの、多分」
「多分って ・・・」
ビスケットが上を指差しながらおやっさんに状態を問う。
「宇宙(うえ)に持っていけそうですか?」
「さあなあ」
「え、ええ~?」
「俺ぁなあ元々MW専門なんだぞ。しかもコイツは何百年も前、厄祭戦の時の機体ときやがる。新しい分まだアッチの方がマシだな」
そう言っておやっさんはヤマギが作業中のグレイズを指差した。
「そう言わねえで頼むぜおやっさん」
「まあ、やれるだけの事ぁやるがよ・・・っておいトウガ、オメエ何やってんだ?」
「宇宙に持って行く僕のMWを改造するためのパーツを揃えてるんですよ・・・っと、次は・・・」
「あっ!!オメエそれ転売予定の戦利品じゃねえか!!勝手な事してんじゃ・・・」
「いつもの業者じゃどうせ扱えやしないですよ」
「だからってオメエ・・・」
「みんな、特に年少組の子達は三日月とバルバトスがいれば怖くないって思ってるみたいですけどね、いくら三日月が凄いって言ってもギャラルホルン火星支部のMS全部相手させるなんて、そんな事出来るわけ無いじゃないですか」
「ギャラルホルンと戦(や)りあう事前提か?」
オルガが問い掛けてきた。
「クランクさん・・・捕虜の人ね。その話だとクーデリアさんを狙ってるのはギャラルホルン火星支部の司令官らしいから、簡単には諦めてくれないだろうね。それに案内役との仲介を、あのトドが買って出たっていうじゃない?オルガだって怪しいと思ってるでしょ?あの怠け者が自分から仕事しようなんて」
「アイツだって下手打ちゃどうなるかわかってるだろ」
「どうかな、そもそも、クーデリアお嬢さんをギャラルホルンに売り飛ばそうって、最初に言い出したのはアイツでしょ。一悶着あると思って準備した方が良いって。まともにMSとやりあうのは無理だけど、援護射撃くらいでも出来れば三日月のサポートになるかもしれないじゃない」
「・・・アンタ、一体何処まで先が見えてるんだ?」
「へ?」
「ちょっと顔貸せ」
ええ~?
「あの依頼主のお嬢さんが来た日にアンタ、バルバトスを動かす準備をおやっさんに頼んでたそうだな。阿頼耶識対応のMWを動力室に運び込んでまで。で実際アレが必要になった」
人気の無い倉庫の陰に連れ込まれ、オルガに詰問されている。どうしてこうなった?
「おやっさん言ってたそうだぜ、まるでこうなるのがわかってたみてえだって。なあビスケット?」
「え、ええ、けど、トウガさんのおかげで作業は速く出来たって言ってましたよ」
ビスケット、助け船なのかそれは?
「僕なりに万が一を考えただけだよ。クーデリアさんの護衛はCGSには不釣り合いだし。キナ臭いと思ったし、嫌な予感がしてたからさ」
「それだけじゃねえ。ギャラルホルンが攻撃して来た時、アンタ真っ先に迎撃に出ていったな。当直のシノの隊よりも先にだ。あのグレイズとパイロットのオッサンの時も、会話を録音した上で言質を取った。わざわざ録音機材を倉庫から引っ張り出して、メディカルセットまで持ち出して。今も起こるかどうかもわからねえ戦闘の準備をしている。まるで戦闘になるのがわかってるみてえに。最近のアンタの動きは妙だ。これから起こる事に先回りするみてえに準備をしている」
「別に悪い事じゃあ無いだろう?不測の事態に備えるのは」
「不測の事態、か。アンタには全部、それこそ俺達が鉄華団を立ち上げた事すら予定の上なんじゃねえのか?」
これはマズイな、このままじゃオルガは自分たちの行動にすら疑いを持ってしまうんじゃないだろうか。下手すると僕に誘導されているとか考え出すかもしれない。とんでもない。そんな黒幕みたいなの僕のキャラじゃない。それはマクギリスだ。
「考え過ぎだよ、君達は自分たちの為に最善を尽くしてきた。僕も同じだよ。これでも君達より長く生きてるから、先の事を色々考えて対策を用意するのが癖みたいになってるだけだよ。疚しい事は何も無い」
「信じて良いのか?」
オルガが僕の目を見て問い掛けてくる。ここはハッキリ答えないと信じてもらえないだろう。
「もし僕が君達を裏切ったら、僕を殺せば良い。例えば三日月が相手なら僕はもう勝てないし、それで不安ならシノや昭弘も一緒に仕向ければ逃げる事も出来ない。確実に始末出来るだろう?」
きっと三日月はオルガがやれと言ったら容赦無くやるんだろうな。
「アンタ、本気で言ってんのか?」
こうなったら少し恥ずかしいけど腹の内を晒してしまおう。
「僕はさ、君達には軽蔑されたく無かった。1軍の他の奴等と一緒だと思われたく無かったんだ。君達の側に居たかったし信じて欲しかった。だから出来る限りの事をしてきたつもりだよ。でもそれが無駄だったのなら・・・僕を仲間と思ってもらえないのならいっその事、今ここで・・・」
何でこんな流れに・・・涙出そう。僕こんなにメンタル弱かったかなあ。
「ちょっ、トウガさん、落ち着いて下さい。オルガは何もそこまでしたい訳じゃ無くて・・・オルガも疑い過ぎだよ、トウガさんが僕達に不都合な事したわけじゃないだろ」
「・・・わかってるよ。悪かった・・・ここだけの話、俺達もトドは信用してねえ。アイツが信用に足る仕事をしたことなんてねえからな。そんでつい、1軍にいたアンタまで疑っちまった」
「俺達みんなトウガさんには感謝してますよ、1軍の他の人達とは違うって、わかってますから」
もう大丈夫かな?けどこの際だからもうちょっと話してしまおうか。
「正直言うとさ・・・壱番組の僕の仲間はみんな死んで、1軍に気を許せる奴なんていなかったし参番組のユージン達に良く思われて無かったのも知ってた・・・他に行く所も無いし、寂しかったんだよ・・・」
「「え?」」
「昔両親が死んでからずっと独りで、マルバに拾われてCGSに来て、仲間が出来たと思ったら皆死んでいってさ、気が付いたらまた僕独りぼっち、1軍に入れられたって、給料と休みが少し増えたって、相変わらず顎で使われて、ユージンとかは僕だけ良い待遇になったと思ってたみたいだけど、良い事なんて無くて・・・オルガと三日月が来た時さ、思ったんだよ。この子達はきっと何かを変えてくれるって」
「俺とミカが?なんだよそれ」
「阿頼耶識の手術で成功するのだって確率的にそう多くはない。その上泣き声ひとつ上げずに耐え抜くなんて、他とは違うって、思った。だから希望が持てたんだよ。いつまでもこのままじゃない、いつかきっと状況を変えるチャンスが来る。僕や死んだ仲間達が出来なかった事を、オルガと三日月はやってくれると思えたんだよ。実際参番組で君は隊長に、三日月はエースになった。だからさ、そんな君達に何かしてあげたいと思ったんだよ」
本当はもう少し打算的な思惑もあるんだけど、嘘は言ってない。僕が憑依する前のトウガ・サイトーが仲間を失った悲しさと孤独感を抱えていたのは本当だし、憑依してからもしばらくは孤立状態だったし。オルガや三日月を凄いと思っているのも本心だ。
「アンタ・・・」
「昭弘じゃないけどさ、僕も自分の価値なんて大したもんじゃないって思ってた。でも君達の為に何かしようと思ったら、少し楽しくてさ、捨てたもんじゃないって思えて、畑作って野菜育てるのも楽しかったんだよ。それにちょっと格好つけたくなって、1軍の奴等が参番組の子に暴力振るうのが放っておけなくなった。・・・幻滅したかな?」
「・・・そんな事ねえよ。見栄張って格好つけたい気持ちは俺にもわかる。それによ、アンタが俺達の為に体張ってくれた事は変わらねえ。本当に感謝してる」
「そうですよ。ユージンだって、もうトウガさんの事悪く思ってなんか無いですし、年少組の子達だってトウガさんが守ってくれたり、お菓子を配ったりしてくれた事、ちゃんと覚えてますよ」
「え・・・?何でビスケットがそれ知ってるの?タカキ達には口止めして・・・」
「あ!いえ、タカキは悪気は無くて、ユージンがトウガさんの悪口言ってたからそれを止めようとして・・・」
「そうか、タカキが僕を庇ってくれたんだ。じゃあ感謝しなきゃだね」
「まあ、色々言ったけどよ、アンタは独りじゃねえ。俺達の仲間だ。改めてよろしく頼むぜ、トウガ」
「うん、よろしく、オルガ。・・・あー、さっき言った事、他の皆には内緒にしてよ、恥ずかしいから」
「ふ・・・そうだな、この3人だけの秘密にしといてやるか。なあビスケット?」
「そうだね」
その後昼まで作業をして、昼飯を急いで食べてから独房に戻ってダンジと交代しに行く。
「遅くなってごめん、てあれ?何話してんの?」
「え?な、何でも無いっすよ、じゃあ、また2時間経ったらまた来ます」
「ああ、よろしくね~・・・で、何の話してたんです?クランクさん?」
「いや、大した事じゃあ無い。・・・ここの子供たちは強いんだな」
「そう見えますか?」
「ああ、俺の部下にな、母親が火星の人間だからと差別されて悩んでいた奴がいるんだが、ここの子供たちは生まれの事なんか気にせず前向きに生きている。大したものだ」
んん?それってアイン・ダルトンの事か?にしても・・・。
「そんな事、ダンジに言ったんですか?」
「いや、言っては無いが、何かおかしいか?」
この人の唯一最大の誤りは、自分の環境と常識に基づく善意が誰にでも通じると思っている事、て評価があったっけ。なるほど確かにそうらしい。悪気はないんだろうけどねえ・・・。
「違いますよクランクさん。その差別されてたって人がどれだけ辛い思いしたか知りませんけどね、ここにいる子達はそんな悩み抱えてられなかっただけです。前向きなのは、生きる事に一所懸命なだけです」
「何?」
「ここで働く子達は皆親を亡くしたか捨てられたかで、自分や弟妹の食い扶持稼ぐ為に手段を選べないような子ばかりですよ。そんな子が、親が誰とかそんなどうしようもない過去の事で悩んでられますか。そんな余裕あったら非合法な上麻酔無し、失敗すれば良くて障害で寝たきり、悪けりゃ死んでしまう阿頼耶識の手術なんか受けなくてもなんとか食っていけてますよ。貴方の部下はそれはそれで悩んだんでしょう、辛かったんでしょう。でもね、辛いと思ったり悩んだり、そういう瞬間が死に直結するような生き方はしてないでしょう。彼らが強いとしたら、強くならなきゃ生きられなかったって事ですよ。・・・ヒューマン・デブリって知ってます?」
「ああ、非合法に売買されている孤児の事だな」
「大体は宇宙海賊とかに家族殺されて誘拐されて、屑鉄以下の安い値段で売り飛ばされた子達ですよ。CGSの社長だったマルバって人はそのヒューマン・デブリを買い漁って阿頼耶識の手術を強制して、消耗品のように扱ってたんですよ。CGSじゃ彼らも僕らもヒゲ付きの宇宙ネズミ、まっとうな人間として扱ってもらえなくて、でも生きる為にはここしか行き場が無かった。そんな子供達・・・僕もそうでしたが、彼らの命に大人達が付ける値段はそんなものです。親がどうとか考える余裕はないですよ」
「酷い話だな」
クランクの表情が曇る。
「そう思えるのは貴方が善い人って事なんでしょうけどね、そんな現状を変えようって努力しているのがクーデリアさんですよ。貴方はその彼女の命を狙っているコーラルの手下じゃ無いですか」
「ぐっ・・・その通りだ」
不本意なのはわかるけど、ちょっとキツい事言わせてもらおう。
「この際言っておきますね。貴方の決闘の申し出には自分が負けた時の条件が提示されて無かった。それは貴方に提示出来る物が貴方の命しか無かったからですね?」
「そうだ。あの決闘自体、上官の、コーラルの命令に背いた行為だった。何の手土産も無く帰れば部隊全員の責任になる。俺があそこで終わっていれば責任は全て俺が背負う事になる。負けた時はそれで片付けるつもりだった」
「それは全部貴方達の都合ですよ。こっちが負けたらそっちは欲しい物、つまりクーデリアさんの身柄を手に入れる事が出来るのに、こっちは勝っても得る物が無いんじゃ公平じゃない。大体こっちのMSは何百年も放置されてあちこちガタガタの骨董品でパイロットはあの決闘がMS操縦2回目、そっちは最新鋭機で整備も出来てて、貴方も操縦経験豊富なベテランでしょ」
まあ、バルバトスはリアクター2基と阿頼耶識という有利な部分はあるけど、リアクターの出力も下がってるし。
「だが俺にとって犠牲を最小限にする方法はあれしか無かった。部隊を率いて挑めば互いに犠牲は多くなっていただろう、何より部下達に子供殺しの汚名を着せたく無かった」
「それも結局貴方の都合、こっちにしてみりゃ良い迷惑ですよ。犠牲を最小限にって言っても、何十人も殺した後で言った所で今更どの口がって話です。そもそもクーデリアさんの引き渡しが済めばギャラルホルンとCGSの因縁はそこで絶ち切るってのも貴方が勝手に言ってただけですよね?後でコーラルがここの殲滅命令を出さない保証は無かった筈です」
いや、戦闘の証拠を残しては置けないコーラルは確実に僕達の殲滅を命令していただろう。
「クーデリアさえ手に入れればコーラルも手を引く、いや引かせるつもりだった」
「あの状況じゃそんなの信じられないですよ。貴方にそんな権限無いだろう事くらいうちの団長なら分かりますよ。何の保証も無しに敵の言葉を信じられる程甘くもないし。だからこっちから勝った時の条件を提示したんです。貴方を僕が預かったのは、こちらがギャラルホルンと戦闘したのはあくまで自衛のためであった事の証人になってもらうため、グレイズを譲り受けたのは、修理してうちの自衛の為の戦力にするか、どこかに転売する為です」
「グレイズを売り飛ばすと言うのか!?」
さすがにそれは黙っていられないか。でも今はこっちの都合を押し通す。
「そうでもしないと遠からず僕たち全員飢え死にです。貴方達がここ襲った時に社長が現金持てるだけ持って逃げたから、このままじゃ長くは保たないんですよ。貴方のお仲間が壊しまくってくれたMWや設備の修理だって安くないし、惜しいとは思いますけど転売の方向で話が進んでます」
この状況をわかっていてその備えのために作った畑の野菜も退職金の削減も気休めにしかならない。鉄華団の懐事情は本当に厳しいのだ。
「くっ」
「団長が言ってたでしょう?賠償金と思えって。決闘に負けた貴方に文句を言う権利があるとでも?」
「む・・・そうだな、しかしな・・・」
まだ納得いかないようだが聞くつもりは無い。
「まあとりあえずはクーデリアさんがスポンサーからの援助を取り付けてくれたから何とかなってますがね、それも一時しのぎですし」
そのスポンサーのノブリス・ゴルドンがコーラルにクーデリア抹殺を要請した張本人だって事は原作知識で知っているけど、その事は今明かしてもプラスにならないだろう。第一僕がそれを知っている事がおかしいわけで、この辺は今は放っとくしか無いな。
「さて、こっちの事情は大体話したし、朝の話の続きです。そちらも知っている事は話してもらいますよ。ああ、機密だから話せない事は言わなくて良いですから」
その後しばらくはクランクから話を聴き、ダンジが交代に来たらまた外に出てMWの改造をしていると、皆集まっているのが見えたので行ってみる。するとそこには・・・・。
「ああ・・・これは・・・」
そこにビスケットとクーデリア、フミタンを連れて出掛けていた三日月が戻って来た。
タカキが三日月に声を掛ける。
「あっ三日月さーん、あれ、見てください!」
「あっ・・・」
「おお~~」
「あれは・・・」
三日月、ビスケット、クーデリアがそれぞれ声をあげる。彼らが、そして僕が見上げる先にあるのは、紅い華のマーク。
「これが鉄華団のマーク」
「団長に頼まれて俺が考えたんだぜ!」
ライドが自慢気に言う。その横でシノが腕を組んで見上げながら感心している。
「上手いもんだな~、魚か!」
「はあ!?華だよ華!!」
シノの言葉に憤慨するライドと呆れ顔のタカキ。
シノはどう見ても魚だろうと言い張るが・・・まあ、真ん中の部分だけ見れば魚に見えなくも・・・ない、と思う、多分。
それにしても、何だか感慨深いというか、これを見たくて1軍のクソ共の横暴に耐えてきたようなものだしなあ・・・あ、て事は今頃トドが悪い笑みを浮かべているんだろうな。
まあ良いか、どうせあのチョビ髭の悪巧みは上手くいかないってわかってるし、放っておこう。
その時の為の準備はきっちり整えておくけど、ね。
当初の予定では桜ちゃんの畑の手伝いにトウガも同行する筈でしたが、クランクがいるため同行出来なくなりました。なのでマッキーとガリガリの出番も先送りです。原作では畑で可愛い女の子達がキャッキャウフフだったのがこっちは野郎ばかりの会話が殆どに・・・。