トウガ「私は我慢弱い男だ」
「マジかよ?本当にやっちまった!」
「あれに、三日月が・・・」
「乗ってるっていうのか・・・」
目の前の光景にシノが、昭弘が、ユージンが驚きの声を上げる。
いや~、ヒヤヒヤした。原作知識よりオーリスがオルガに気付くのが早かったけど、バルバトスの起動が間に合って本当に良かった。
後方で待機していたグレイズの1機、クランク・ゼント機がバルバトスに向かって来た。
「っ!また来た!!」
「オルガ、皆を下げてくれ!」
「わかった!!」
オルガの指示で僕たちは後退する。
一方バルバトスはスラスターを噴かして移動する。その先の、撤退中の敵MW隊を蹴散らして着地、最後の1機、アイン・ダルトン機がバルバトスに向かって行くが、バルバトスが投擲したメイスに足を止めた所を空中でメイスをキャッチしたバルバトスが攻撃、アイン機の左腕を破壊した。
しかしそこにクランク機が迫りバトルアックスで攻撃、それをメイスで受け止める。
「何処から持ってきたのか知らんが、そんな旧世代のMSで、このギャラルホルンのグレイズの相手が出来るとでも・・・」
「もう1人死んだみたいだけど?」
確かにグレイズは新しい分、バルバトスを含むガンダムフレームタイプより兵器として洗練されている。
だが経年劣化で装甲もフレームもガタガタとはいえ、2基のエイハブ・リアクターが生み出すパワーは伊達じゃ無い。バルバトスがグレイズを押し込んでいく。
だがアイン機がライフルを射ってきたためこれを回避、後退して距離を取るが、そこでスラスターの推進材が切れた。
あ~、やっぱりガスの補給忘れたんだ、おやっさん。そこは原作通りじゃなくても・・・。
バルバトスはメイスで地面を抉って土煙を巻き上げ、低姿勢でアイン機に接近して攻撃するがクランク機の妨害で狙いがそれた為、頭部センサーカバーを吹き飛ばすに留まった。
その隙を突いてクランク機がアイン機を抱えるようにして離脱を図る。
バルバトスはこれを追撃しようとしたが、限界に達した三日月が気絶した為、動きを停止した。
「オーライ、オーライ」
「埋まってるかもしれないから、慎重にな!」
「うっ・・・くそっ」
「痛むか?」
ギャラルホルンは撤退したが、こちらに休む暇は無い。負傷者の手当て、死亡者を含め被害状況の確認、敵味方の破損機体の回収・・・やることは沢山ある。
「馬鹿野郎・・・女を知らねえで死ぬのはゴメンだって、お前らいつも言ってたじゃねえか・・・」
自分の隊の戦死者達に泣きながら呼び掛けるシノ。その姿に僕は既視感と無力感を感じていた。
(同じだ・・・これじゃ何も変わっていないのと同じなんじゃないか・・・)
事前の工作の結果、ダンジは死ななかった。しかし他の隊員達の死は変わっていない。死んではいないものの、傷を負った隊員も多い。
結局ここでシノが仲間の死に涙を流す事に変わりは無い。シノの悲しみに死んだ人数の多寡は関係無いのだ。
「1軍の生き残りが戻って来たみたいだぜ」
昭弘の言葉に、さらに気が重くなる。序盤トップクラスの胸糞イベントが待っているからだ。
今回の戦死者数、1軍68名、参番組39名。ほんの少しだけ、参番組の犠牲は軽減されたけど、それを喜ぶ事は出来なかった。
「テメエ!」
「ぐ・・・」
ハエダの拳がオルガの頬を打つ。よくもまあ自分達の事は棚上げして・・・。
「よくもコケにしてくれたな!俺達を使って・・・」
「1軍のみなさんが挟撃に向かう途中不幸な事故で敵の攻撃を受けた事は聞いてますがそれが俺らと何の・・・ぐはっ!」
今度はさっきより力を入れて殴ったな。オルガが倒れた。
ハエダの奴、オルガが1軍が逃げ出した事を敢えて知らん振りしてるのがわからないのか。1軍を囮にしたのもお互い様だろうに。
「しゃあしゃあとうたいやがって!ああっ!?何だその目は!?貴様らも殴られてえか!?」
ったく、ホント屑だなコイツ!!・・・と、オルガが立ち上がった。
「俺、だけで・・・良いでしょう」
ああ、オルガが身体張って仲間を守ろうとしてるのに、これ以上黙って見ちゃいられない。もう我慢するの止めた。
「ああ、そうかよ。じゃあ・・・っテメエ!?」
またオルガを殴ろうとしたハエダの拳を横から掴んで止める。
「もう良いじゃ無いですかハエダさん?オルガは1軍のメンツを立ててくれてるんですよ。ここらで・・・とおわっ!」
ハエダの手を離して振り上げられた蹴りをかわす。たく、話は最後まで聴けよ。
「キサマ何のつもりだ!」
「これ以上醜態を晒すのは止めた方が良いですよ、相手がガキなら尚更、大人の余裕って奴ををっと!」
今度は殴って来た。けどそんなパンチ避けるのは簡単だ。
「テメエ・・・」
僕を睨み付けるハエダ。矛先は完全に僕に向いた。これで良い。
「オルガ、君たちはちょっと出ていてくれ。僕が話をつける」
「?・・・アンタ・・・」
僕の言葉に怪訝な顔のオルガ達は動こうとしない・・・仕方ない。
「今の言い方でわからないなら言い直そう・・・。邪魔だ。出ていけ」
「!?・・・わかった・・・行くぞ、お前ら」
「なっ!?」
「オルガ!?」
「ちょっ!?おいオルガ!?」
思いっきり殺気を込めてオルガに凄んでみせた。
戸惑いながらもオルガ達は部屋を出て行った。心象悪くなりそう。さて・・・。
「テメエ、ガキどもの代わりに殴られたいってか、ああ!?」
「まさか。ハエダさんこそ、まだ恥の上塗りがしたいんですか?」
「偉そうな口きいてんじゃねえぞ!!」
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部屋を出たすぐ先の廊下。
ユージン、ビスケット、シノがオルガに詰め寄る。昭弘は黙ってオルガを見ている。
「オルガ、どういうつもりだよ!?アイツ1人残したら、あれじゃヘタすりゃ殺されちまうぞ!!」
「そうだよ!庇ってくれたトウガさんを置いて逃げ出すなんて、君らしく無いじゃないか!!」
「そうだぜ!今からでも・・・」
「止めろ!!」
部屋に戻ろうと主張する3人を、一喝するオルガ。
「アイツの邪魔すんな。どういうつもりかわかんねえけどよ・・・今は、アイツの良いようにさせてやろうぜ」
オルガの言葉に、不承不承ながら口をつぐむ3人。
部屋のドア越しに、何かを叩くような音、壁や床に何かを叩き付けたような音が聴こえて来る。
トウガがリンチを受けている音だと思うと、皆自然と奥歯を噛み締めていた。が、違和感にビスケットが口を開く。
「ねえ、トウガさん以外の声っていうか、悲鳴?みたいなのが聞こえるけど・・・」
「あ?そういえば・・・」
「トウガはこんな声出さねえよな・・・?」
やがて音が止み、ドアが開くと、まず意識を失ったハエダを二人がかりで運びながら1軍の隊員が、次に同じ様に意識の無いササイを背負った隊員が出てきた。残りの隊員達の中の1人が、
「後で今回の損害を調べて持ってこい」
と言っただけで、皆無言で去っていった。トドは青ざめた顔をしていたように見えた。
何があったかとオルガ達が部屋に入ると・・・。
「ったく、だから恥の上塗りは止めろって言ったのに、聞かないから不様を晒すんだよ・・・」
呆れた顔でぼやくトウガが立っていた。
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やれやれ、ハエダとササイときたら、折角人が丸く納めようと忠告したのに、無視して殴り掛かってくるから、カウンターでワンパンKOなんて事になるんだよ。他の連中も頭に血がのぼって、格闘術のカの字もありゃしない。チンピラのケンカと変わらないね。
っと、オルガ達戻って来たか。こっち見てるよ・・・。
「アンタまさか、あいつら返り討ちにしちまったのか?」
「シノや昭弘だってその気になれば出来たんじゃない?さて・・・あんな能無し共の下で使われるのも、もう限界なんじゃない?ねえオルガ」
「・・・そうだな。ちょうど良いのかもな」
場所を変えて、MWの陰。
「俺達がCGSを!?」
「前にお前も言ってたろうがユージン。ここを乗っ取るって」
「そりゃそうだが、この状況でか? 参番組の仲間も何人も死んでる!」
「マルバも相当な屑だったが、1軍の奴等はそれ以下だ。アイツらは俺達の命を撒き餌ぐらいにしか思ってねえ。それにアイツらの頭じゃ直ぐ商売に行き詰まる。そうなりゃますます危険なヤマに手を出す。俺達は確実に殺されるぞ!」
「かといって、ここを出て行っても他に仕事なんて無いし・・・」
「選択肢はねえって事か」
「お前はどうする?昭弘?」
オルガが昭弘に声を掛ける。
「俺らはヒューマン・デブリだ。自分の意志とは無縁でここにいる。上が誰になろうと従う。それがアイツらであろうと、お前らであろうとな」
「ふ・・・て事だが、アンタはコッチ側で良いのか?トウガ?」
「もちろん。社長はともかく、アイツらにはいい加減愛想が尽きたよ。別に恩も義理も無いしね。社長がいなくなって、1軍の人数が少ない今はチャンスだと僕も思うよ」
「んじゃ、そうと決まれば早速作戦会議だな」
「三日月は呼ばなくて良いの?」
「おお、忘れてた」
「忘れてたって・・・」
「ミカがもし反対するなら、お前らにゃ悪いが今回は中止だ」
「はあ?」
「オルガ?」
「まあそれは無いがな」
オルガはそう言って、三日月のもとへ向かった。
さあて、正規兵とは名ばかりの屑共、今までの落とし前をキッチリつけてもらおうか。
主人公の格闘シーンは上手く描写出来ず、冗長になってしまったのでカットしました。自分の下手さ故の妥協です。