鉄と血と
今僕は雪乃丞のおやっさんと、三日月と三人で社長から呼び出しがかかっているオルガを探している。
まあ、僕と三日月は見当がついているので、割りと早くに動力室で寝ていたオルガを見つけられたわけだ。で、三日月がオルガに声を掛けている。
「おお、ミカ」
「おおじゃないよ、またこんな所でサボって、見つかったらまた何されるか」
「わかってるよ。っと、トウガも居たのか」
居たのかって・・・おいおい。
「おーい、いたか、三日月~!?」
「うん」
「どうした?おやっさん」
「どうしたじゃねえよ!マルバが呼んでるぞ!っつーかここ入るなって言ったろ!」
「いやだってここ年中暖けえからさ。なあトウガ?」
「はは、大目に見てやってくださいよ、おやっさん」
「オメーもだトウガ!野菜の苗なんぞ持ち込んで、温室じゃねえって言ってんだろうが・・・ったく、動力室は一応最高機密扱いなんだぞ」
いやまあ、アレは新しく育て始めたのトマトの苗で、それなりに育つまでは野ざらしにするとすぐ枯れちゃいそうで危なっかしいんだもの。
動力室を出ていくオルガと三日月の後について僕も出ようとして、ふと振り向き、胸部や腰部にケーブルを接続されてそこに鎮座する鉄の巨人を見上げる。
「もうすぐ出番だ、頼むよ・・・ガンダム」
返事など返って来ないと知りつつも、そんな言葉を掛けて、動力室を出ていった。
で、オルガはビスケットと一緒に社長室に行って、僕は今、三日月vsユージン、シノ、昭弘の模擬戦の監督をしている。
いや~三日月すごいわ。もう僕じゃ敵わないよ。アグレッサーはお役御免ってか?
あ、シノがやられた。ユージンもか。おお、あのタイミングでかわすか、ああ、結構粘ったけど昭弘もやられた。すげー、三日月無双だわ、阿頼耶識3回のおかげかそれとも本人の才能かわからないけど、流石主人公というか。
「はいそこまで~!!」
って!ササイの野郎タカキを警棒で殴りやがった!訓練中に手を止めて余所見は良くないけど、何も殴る事ないだろ!
くそ~、距離が離れてるから手出し出来ない。1発で済んだとはいえ痛かろうに・・・。
「俺達がお嬢様の護衛?」
「お嬢様って良い匂いするんだろうな~!!なあ三日月!」
「お嬢様って言っても、同じ人間なんだし、そんなに変わんないだろ」
昼食時の参番組の面々の会話に、胸がざわつく。遂に来たか。
待ち望んでいた時が目前に迫ったという喜びもあるが、同時に大きな問題があった。
(42人か・・・何とかしたいんだけどな・・・でもどうすれば・・・)
原作知識を活かして自分の立場を確保するという目的は変わらない。けれどその原作知識が、ダンジを含む参番組の隊員42人が死ぬという、未来の情報が頭を悩ませる。出来る事なら死なせたくない。しかし何が出来るのか?
(夜明け前に襲撃が来たらすぐに出撃出来るように備えて、後は出たとこ勝負しかないんだろうな、やっぱり)
解ってはいるのだ。例え未来を知っていても、神ならぬ人の身ひとつで大勢の命を救うことは不可能だし、この先も人死には出るのだ。出来る限りの事をして、それで手が届かなかったものはどうしようもないのだと、自分の非力さも含めて受け止めなければならない。今までそうしてきたように。
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「もう明日か、例のお嬢さんが来るのは」
「ああ。で、明後日には出発、地球までの往復にあれやこれやで、5ヶ月くれえか」
クーデリア・藍那・バーンスタインがCGSに来る前日の夜。MW格納庫で装備の確認をしていた雪乃丞とオルガの会話は、明日からの予定から、参番組の扱いの悪さへ移っていた。特に、入隊の条件だった阿頼耶識システムの施術について。
「ま、こいつを埋め込むのがここで働く条件だからな」
「それでも仕事があるだけまだマシか・・・ふっ、オメェん時は笑えたよなあ。麻酔もねえ手術なのに、泣き声一つ上げねえで、可愛げがねえって殴られてよぉ」
「泣けばだらしねえって殴られただろ・・・アイツは違ったっけな」
そう言ってオルガは、格納庫の隅にある、一際目立つ青と黄に塗装されたMWに目をやる。
「アイツ・・・ああトウガか、そうだなぁ、オメエの事、スゲエスゲエって、しきりに褒めてたなぁ。まあアイツも通った道だしな」
「どっちにしろ、ここじゃ俺ら参番組はガス抜きするためのオモチャか弾除けぐらいの価値しかない。でも俺にも意地があるからな。格好悪いとこ見せらんねえよ」
「ふうっ、三日月には、か?」
煙草の煙を吐き出した雪乃丞の言葉に苦笑するオルガ。そんなオルガを見ながら雪乃丞は立ち上がり、
「苦労するなあ、隊長」
そう言って床に落とした煙草を踏み潰した。
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~翌日~
「オメエ、無茶言うなよ、アレはこの基地の電力供給に使ってんだぞ、動かすとなると・・・」
「今すぐ動かせって訳じゃないです。必要になった時に少しでも早く起動出来るように、機材や部品を用意しておくだけでも・・・」
僕なりに考え、バルバトスの起動が早くなれば、少しは参番組の犠牲を抑えられるかもと、おやっさんに前もって準備をしておいてもらおうと頼んでいるが、ちゃんと理由が説明出来ないのでおやっさんの反応は芳しくない。
「だから、何でそんな必要があるんだよ。確かに今は手空いてるが、理由もねえのにんな事出来るか」
「・・・嫌な予感がするんですよ。背中のヒゲが疼くというか。例のお嬢様がらみで明日あたり、大変な事が起こる気がして・・・」
「予感ってオメエなあ・・・ってありゃあ、三日月か」
こっちに歩いて来たのは三日月と、その後ろに件のお嬢様。お嬢様が三日月に声を掛けている。つい、おやっさんと一緒に通路の陰から覗き見てしまう。
「握手をしましょう!」
「あ~・・・」
「何故ですか?私はただ、貴方達と対等の立場になりたいと思って・・・」
「手が汚れてたから遠慮したんだけど。・・・けどさ、それってつまり、俺らは対等じゃ無いって事ですよね」
おお、流石三日月、ぐうの音も出ない正論。そしてお嬢様やっぱりポンコツっぽい。だが多分それが良いんだろうし、いつまでもポンコツのままじゃ無いからなあ。
「あのお嬢さんがらみで、アレが必要になるってのか?」
「お嬢様自身はどうあれ、彼女を狙う人間が襲ってくるかも、です。普通に対応出来るならそれに越した事は無いですけど、最悪に備えておいて欲しいんです」
「アレが必要な最悪って・・・オメエまさか?・・・けどなあ、アレは使う用もねえってんで、コクピット回りは抜かれちまってるぞ」
「乗り手のいないMWを1台、夜のうちに搬入しておきます。それから阿頼耶識のインターフェースを移植すれば動く筈です」
「そりゃそうだが・・・」
「もし本当に必要になれば、きっとオルガも同じ事を考える筈ですから、細かい判断はその時オルガかビスケットに聞いてください」
「はあ~、そこまで言うんならやれる事はやってやるけどよ、大したことは出来ねえぞ」
「ありがとうございます!」
そして夜、当直以外は寝静まった頃、格納庫にある予備のMWをこっそり動力室内に運び込んだ。これ、バルバトスの起動までの時間短縮だけで無く、ダンジの戦死を回避するためでもある。
原作ではMWが1台余っていた為に、ダンジが志願して乗り込み、最期はオーリス・ステンジャのグレイズに接近して蹴り潰されてしまった。
ならMWが1台も余って無ければ、ダンジはタカキやライドと同じように生き延びられるかもしれない。
後はギャラルホルンが仕掛けて来るまで、格納庫で待つしかないな。狙撃への対策は思い付かなかったので、可哀想だけど夜警の二人は助けられない。
一応当直のシノに用心するように言ってはあるけど、いつ撃って来るかわからない狙撃に対応するのは無理というものだ。
けれど、こういう風にこれから人が死ぬと知ってそれを見過ごすのは罪悪感を感じる。これが1軍の奴らだったらザマァ(笑)で済むんだろうけど、まだ子供の参番組だとなあ・・・。
原作知識が無ければこんな思いはしないのだろうけど、その原作知識が他の誰も、三日月やオルガすら持っていない僕の最大の武器である以上、忘れる事も出来ない。
格納庫のMWの中で仮眠する(広くないコクピット内でも寝られ、かつ約2時間程で目が覚めるように身体が馴れている)内に、夜明けが近付いて来た。そろそろか・・・・・・来た!!。
爆音と震動。ギャラルホルンのMW隊からの攻撃だ。ハッチを開けて顔を出すと、格納庫の照明が点灯し、三日月と、当直のシノの率いる隊員達が駆け込んでくるのが見えた。
「三日月!シノ!」
「トウガ?アンタ何やってんだ!?」
「シノ、今はそんな事より迎撃に出ないと」
当直の自分達よりも先に出撃態勢を整えていた事に驚いているらしいシノを三日月が制止する。
「僕は先に出る!君たちも急いで!!」
そう言ってハッチを閉め、MWを発進させる。
基地の外に出ると手近な防壁を楯にして応戦の態勢をとり、増設したロケットランチャーを牽制に全弾発射する。敵はまだ姿が見えにくい遠距離から、雨のようにミサイル(あるいはロケット弾?)を撃って来る。迂闊に飛び出せない。
やがて後方から、三日月の白いMWと、シノのピンクのMW、シノ指揮下のMW隊がやって来ると同じように防壁の陰に隠れながら攻撃を始めたが、こちらの攻撃は牽制程度だろう。少し遅れて昭弘達も出てきた。
「くそっ金持ちかよ、ボカスカ撃ちやがって。誰か知らねえが、このまま俺達を塩漬けってか?」
「いや・・・来る。」
その時、粉塵の中から敵のMWが姿を現す。CGSのTK-53よりも大型で火力と装甲が上の新型、NK-17。マーキングされた紋章に、シノが驚きの声を上げる。
「嘘だろ!?あのMWは!?」
これで他の皆にも敵の正体が知れたわけだ。けどまあ・・・。
「誰が相手でもやる事は変わらないだろ」
三日月はブレないな。
「まあその通りだ。オルガや他の皆が来るまで何とかもたせよう」
そうして応戦していると、弾丸の残りが怪しくなってきたところで、通信越しにオルガからの指示が聞こえた
「シノの隊は一旦下がれ!ダンテの隊と交替で補給だ!」
「オルガ!?遅えぞ!」
「悪いな、ミカと昭弘、トウガも戻れよ!」
オルガの指示に従い、一旦後退して補給する。
そして先に前線に出たシノの隊を追うように前線に出ると、シノの隊の一台が足を止めてしまっていた。そこを狙う敵機を三日月が撃破する。
「ごめん、待たせた」
そう言って敵部隊の中に飛び込む三日月に、昭弘と僕が続く。
「お前にばっかり、いい格好させっかよ!」
「足の速さはこっちの方が上だ。かき回せば数の差があっても!」
そうして混戦に持ち込んで撹乱しながら敵の数を減らしていく。と、戦闘領域の外側の空に信号弾が複数上がった。1軍のをビスケットが遠隔操作で発射させたな。
敵がそっちに移動しだした。ザマァ!
あ、でもデクスターさんは生き延びてください、マジで。切実に。
さらに敵のMW隊がタカキ達の埋めた地雷にかかった。
「さあ、反撃開始と行こうかあ!!」
オルガがそう言った直後、味方のMW隊に砲撃が着弾した。
「重砲!?どっから・・・うわっ!」
オルガとユージンの近くにも着弾した。ついに来たか。
「まったく!この程度の施設制圧に何を手間取る!?MW隊は全員減給だ!!」
ギャラルホルンの量産型MS、グレイズが3機、姿を現した。
「冗談だろ?MSなんて、勝てるわけねえ・・・」
「どうすんだよこれ?」
「逃げられるなら逃げたいけど・・・」
あれ?僕がダンジの立ち位置みたいな?
「どこに!?」
「そうだ。どこにも逃げ場なんてねえぞ、ハナっからな。なあ!、ミカ!?」
そう言ってオルガは後ろにいる三日月に呼び掛ける。
三日月は
「うん。で、次はどうすれば良い?オルガ?」
そう、オルガに問いを返す。
「フッ・・・ああミカ。お前にしか頼めねえ、とっておきの仕事がある」
そして三日月は動力室へ向かい、残った面子で時間稼ぎをする事になったが・・・。
「ハッハッハ!まるで虫けらだ!!」
こちらのMWはオーリスのグレイズ1機に一方的に蹂躙されていく。
「無理はするな!ミカが戻って来るまで少し時間が稼げれば良いんだ!そしたらよ、このクソッタレな状況に、一発かましてやれるんだ!だからそれまで・・・」
「お、オルガ!なんか、こっち見てる!」
「貴様が、指揮をしているのか?」
オーリスの奴、指揮官のオルガに気付きやがった!原作より早い・・・そうか!ダンジがMWで出ていないから、誤差が生じたのか!間に合うか?三日月・・・。
「ヒィ、死ぬ死ぬ、死ぬ~!!」
「死なねえ!!死んでたまるか!!このままじゃ・・・」
オーリス機の攻撃をかわしながら、全速力で逃走するオルガとユージンのMW。スラスターを噴かしてそれを追うオーリス機が、バトルアックスを振り上げて足を止めたオルガのMWに襲いかかる。
「こんな所じゃ・・・終われねえ!!だろ!ミカァ!!」
オルガの叫びと同時に、オルガの前の地面から轟音とともに土が噴き上がる。
そしてその中から、メイスを振り上げながらガンダム・バルバトスが現れ、オーリス機にメイスを叩きつけた。
左肩からコックピットまでを叩き潰され倒れるオーリス機。
誰もが驚愕しながらその光景を見つめていた。
P.D.323年。CGS基地にギャラルホルン襲来。そしてソロモン72柱8番目の悪魔の名を冠するガンダムが今、火星の大地に立つ。
今回ちょっとだけ原作ブレイクしてダンジを生存させました。なので次回はシノのあの名(迷)台詞は無しにするつもりでしたが、ご指摘いただきましたので、少し変更しています。