憑依した先はCGS一軍の隊員でした。   作:ホアキン

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今回は原作主要メンバーにスポットを当ててみましたが、話の流れ上、ユージンに割りを食わせてしまいました。ユージンファンの皆さん、ごめんなさい‼あと会話にシノを絡める事も出来ませんでした。一応彼は一発殴られてしまったダンジの手当てをしていた事になっています。


参番組から見たトウガ・サイトー

「テメエ毎度毎度うざってえんだよ!」

「身の程わきまえろっつったろうが!」

 

 今日も訓練の最中、1軍の連中につまらない事で殴られたり蹴られたりしているのは、参番組の隊員ダンジ・エイレイ・・・・ではなく、それを庇いに割って入った1軍隊員トウガ・サイトー。しかしそれも珍しくない光景だった。

トウガは自分の手の届く範囲内で1軍の隊員が参番組に手を上げようとすると決まって止めに入ってきては自分が殴られている。まるで身代わりになるかのように。

 

「ちっ、興醒めだ、行くぞお前ら」

「おう」

「クソが!」

 

 殴り返すでもなくいいようにやられて、地面に這いつくばったトウガの姿は、1軍の暴力の矛先が自分達に向かないように声を潜め、縮こまっている年少組の子供達から見ても無様で惨めに見える。

 1軍が去って行って少しして、仰向けに寝転がったその顔は鼻からも口からも血が垂れ、頬は腫れ、髪の毛もグシャグシャに乱れている。

そのまま立ち上がろうともしないトウガに、庇われた形になったダンジと、年少組の中ではリーダー格のタカキ・ウノが近寄ろうとするより早く彼のもとに駆け寄ったのは、参番組隊長のオルガ・イツカと三日月・オーガスだった。

 

「また随分やられたなあ、立てるか?」

「無理なら手を貸すけど」

 

自身を見下ろしながら声をかける二人に、大丈夫、と返して立ち上がろうとしてよろけるトウガを支え、オルガはやや呆れたように問いかける。

 

「聞いたぜ、ダンジを庇ってやられたってな。アンタ何時も何時も、何だって俺達参番組の肩をもつような真似してんだ?こんなに痛めつけられて、なんの得がある?」

 

するとトウガは、目先の損得よりも大事な物があるから、と答えると、歩き始め、ありがとう、もう大丈夫、そう言ってその場を去って行く。

その背中を見送るオルガに、ユージン・セブンスタークが苛立ちを露に問い掛ける。

 

「おいオルガ、何だってあんな奴に構うんだよ!?アイツは1軍じゃねえか!」

「アイツにはさっきダンジを助けてもらった。それであんなにやられたのを知らねえ振りしちゃあ、筋が通らねえ」

「筋だあ?アイツは、俺達と同じ宇宙ネズミで、元は非正規隊員だった癖に、1軍に上がって俺達より多く給料とって、休みだって多くとってる!俺達からすりゃあ裏切り者みてえな奴じゃねえか!」

「止めなよユージン!いくら何でも言い過ぎだよ!」

 

流石に言葉が過ぎると感じたビスケットが止めに入ったが、ユージンの苛立ちは納まらない。

 

「るせえビスケット!アイツはメシだって俺達より良いモン食って・・・」

「トウガさんの食事は俺達と大して変わらないよ!それにトウガさんは何時も俺達に手を上げたりしないだろ?」

 

実際トウガの食事は参番組と同様のモロコシ粥に、スープが追加されただけである。

他の隊員達が食べているサラダもタコスも無く、スープとて具はろくに入って無い残り物である。

 

「!?・・・けどよお・・・・」

「アイツが俺達より多く貰ってる給料と休日、それ何に使ってるか知ってて言ってんのか?」

「はあ?何ってそりゃ・・・何に使ってんだ?」

 

言葉に詰まるユージンに、三日月が答えを教える。

 

「畑でカボチャ作るのに使ってる。そのカボチャを煮たやつ、今日の昼にも食べたよね」

「へっ?あ、あれが?ありゃ社長が回してたんだと・・・っつうか畑って、どこにあるんだよそんなもん」

「皆はあまり近寄らないし巡回ルートからも外れてる場所だから、知らないのは仕方ないけどね、昔の壱番組の隊舎の近くだよ」

「あのマルバのオッサンが、俺達の待遇を少しでも良くするなんて、それこそあり得ねえだろ。トウガのヤツがマルバに頭下げて土地借りて、後は道具から種から肥料まで、全部アイツが自分の金で用意して、休日使って育てて、何度も失敗してやっとマトモに育ったのを俺達のメシに追加させてくれてるんだよ」

「はあ!?何だってそんな事・・・・」

「さあな、俺にもわかんねえよ。だがな、アイツが金と労力を費やして作ったモンを食っておいて、知らん振りは出来ねえだろ?」

 

オルガの言葉にユージンは言葉に詰まる。

 

「あの・・・」

 

そこで話に入ってきたのは、年少組の子供達を宥めていたタカキとライド・マッスだ。

 

「あの人、俺達にもいつも優しい、ですよ。ホントは、内緒って言われてたんですけど、たまに、俺達年少組に甘いもの、配ってくれるんです」

 

火星では菓子などの嗜好品は割りと貴重品である。詰まりは畑以外でも、参番組のために決して多く無い給料を割いているわけである。

 

「この前は、キャンディくれたんだよ、チビ達も喜んでさ、あん時のトウガの兄ちゃん、チビ達の頭撫でながら笑ってて、すげえ安心できて・・・だから・・・」

 

ライドはユージンに怒られるのを怖れてか、言葉に詰まってしまう。

流石にユージンもこうなってはトウガを声高に非難出来なくなってしまう。そこへオルガがトドメの言葉をかける。

 

「たくよ、これじゃあ俺達の立つ瀬がねえ。なあユージン?」

「っ・・・!あ~解ったよ!アイツが1軍の他の奴らとは違うって事は、認めてやるよ!それでいいんだろチクショウッ!!」

 

ユージンが折れた途端、他の面々が笑顔になる。

そんな彼らを遠巻きに見ていた一団がいた。彼らの服には縦に赤い線が入っている。

昭弘・アルトランドを中心とするヒューマン・デブリの少年達である。

 

(トウガ・サイトー、か・・・おかしなヤツだ。ゴミクズ同然の俺達にも、普通に接して来やがる・・・)

 

自分達に対する態度を不審に思って、何故ゴミクズ同然の自分達を普通に人間扱いするのか尋ねた事があった。

するとトウガは困ったような顔でこう言った。

 

「君達がどういう扱いでここに居るかは知ってるよ。けど、自分で自分をゴミクズ同然なんて言わないで欲しい。社長や他の連中にどんな扱いをされたって、君達は間違いなく人間なんだから」

 

ヒューマン・デブリ。宇宙を漂う鉄屑程度の値段で売買され、ここCGSでは社員では無くマルバの所有物として酷使されている自分達を、まっとうに人間扱いした大人は彼くらいだった。

 

(けどよ、実際ゴミクズのように扱われているここじゃ、自分の価値なんかそんなもんだって諦めちまわねえと、やってらんねえだろ)

 

そうでなければ、きっと心がもたない。そう自戒しながら、踵を返す昭弘に従い、ヒューマン・デブリの少年達はその場を去っていった。

 

 

P.D.322年。ギャラルホルン襲来まで、あと1年。

だが、迫り来るその時を、少年達はまだ知らない。




そろそろ原作に入らないとなあ・・・と思っています。
あと参番組の面々が原作で食べていたお椀に入った黄色いものは、ネットで調べたところ、トウモロコシの粗挽き粉(コーンミール)を鍋で沸かしたお湯に入れて加熱しながらお粥のようにしたポレンタというイタリアの料理では無いかという意見がありましたが、Blu-ray2巻特典の鉄血日和に、合成コーンミールという表記がありましたので、そちらに変更しました。
TV4話の食事シーンにあった黄色い固形の食べ物も、冷えて固まったポレンタをカットして焼いた焼きポレンタというものがあるそうなので、それに似た物だと解釈します。
9話でモロコシのパンと肉とどっちが云々という台詞もありましたし、火星ではトウモロコシが主食なのでしょう、多分。栄養面は結構良いらしいし。

10/16 火星はトウモロコシ以外は栽培が困難な環境の様です。トウガの畑は辛うじてカボチャの栽培には成功したという事に変更します。

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