一期における決戦前です。
夜が明けて、鉄華団は船の甲板に集合した。全員の視線が前に立つオルガに向けられている。
「俺らは地球までたどり着いた。今まで良くやってくれた。だが俺達の仕事はまだ終わりじゃねえ。受けた仕事は最後まできっちりやり通すのが鉄華団だ。そうだろお前ら?」
その言葉に否定的な者はいない。皆オルガを信頼しているからだ。
「筋も道理もねえ勝手な都合で俺らを潰したがってる奴らがいる。そんな奴らに追い回されて逃げ回ってたら、俺らの居場所は何処にも無え。今までは降りかかる火の粉と思って振り払って来たが、ここからは俺らの邪魔をする奴らには容赦はいらねえ!徹底的にぶっ潰す!そうだろミカ?」
「ああ、邪魔をするなら潰す」
オルガの問い掛けに三日月は一瞬の躊躇いもなく答える。
「思い知らせてやろうぜ!鉄華団はただのガキの集まりじゃねえってな!俺らが生きて行くために、そしてこれまで死んで行った仲間の為にも、この仕事を最後までやり遂げるぞ!!」
「よおっしゃあ!やってやるぜ!地球のギャラルホルンだろうあビビるこたあねえ!!」
オルガの言葉の後、最初に声を上げたのはシノだった。そして同調する声が上がり始める。
「そうだ!俺達の力、見せてやろうぜ!」
「ああ!昨日だって俺達が勝ったんだ!やれるぜ!」
「よーし、俺らもやるぞタカキ!!」
「うん!俺達も役に立てるように頑張ろう!」
ライドやタカキをはじめ年少組もやる気になっている。
そんな中クーデリアがオルガの方に歩み寄り声を掛けた。
「団長さん、これからのルートについてお話があります」
「ルート?」
原作同様テイワズの定期便で鉄道を使ってエドモントンに行くって話だろう。
僕はおやっさんとヤマギ、エーコさんとMSの整備だ。
「え?左肩のスラスター、駄目ですか?」
「ああ、派手にすっ転んだろ?そんとき壊れてた所で替えが効かねえパーツがある。コイツはちょっと直せねえ。となると無事な右側も使えねえだろ。バランス崩れて戦闘どころじゃ無くなっちまう」
「ですねえ・・・といってスラスター無しってのも」
「鹵獲したパーツで代用するしかねえな。グレイズリッターっつったか?アレの肩の装甲にスラスター付いてるから、まあ無いよりマシだろ」
「え、それじゃバルバトスの肩は?」
「そっちも大丈夫だ。お前や三日月が拾って来たのが4機分あったからな」
「それならそれで、お願いします。あ、ヤマギ、ちょっと良い?流星号の事なんだけど・・・」
そんなこんなで、アンカレッジに着くまで機体の整備、着いたら荷物の載せ換え作業と結構忙しく・・・アンカレッジでラスカー・アレジ氏が手配したという医者とその護衛が列車に乗り込んだ事を知ったは列車が発車してからだった。
「メディカルチェック?」
「はい、アンカレッジで乗って来た医者の人たちが・・・簡単な問診だけでもって・・・」
タカキの言葉にはて、と思う。そんな事原作には無かった筈だけど、今まで色々変わって来てるからな・・・と考えつつ臨時の診察室になっている車両に入るとスーツ姿の男性に問診票だと端末を渡された。
「・・・は?」
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、何でも無いです」
思わず声が出てしまった。渡された端末の角にシールが貼られていたのだが・・・ライムグリーンの円形シール。しかし手に取った瞬間気付いてしまった。
(何でハロのシール?あるの?ハロがこの世界に?そんなの知らないぞ・・・)
平静を装いつつ端末の画面をタッチして問診票にチェックを付けていく。
「うえっ!?」
「・・・大丈夫ですか?」
「え、ええ、大丈夫です。何でも無いんですよ本当に」
最後に画面に表示されたのは熊っぽい意匠の可愛いマスコットキャラ。というかこれ・・・。
(プチッガイ?プチッガイ何で?)
不審に思われてはマズイと内心の動揺を隠し平静を装おうとしたが・・・後になって振り返ると、上手く出来てなかったらしい。
問診票の端末を返した後対面で一通りの問診を受けたら、僕だけ残された。おかしい、特に身体に異常があるような事は書いて無いし言ってないのに。
「やあ、まずはその椅子に座って」
そう声を掛けてきたのは先程端末を渡して来たスーツの男性。他には誰もいない。不審に思いつつ、直ぐ立ち上がれるようにと意識しながら椅子に座る。
「はい・・・それで貴方は・・・」
「コードネームはP(パパ)。多分、君と故郷を同じくする者、『限りなく近く、果てしなく遠い世界』から来た者だ」
「!?」
椅子から立ち上がり後ずさる。この男は今何と言った?故郷が同じ?それに『限りなく近く、果てしなく遠い世界』と言ったか?その言葉には覚えがある。ずっと前、まだこの世界に来るよりも昔に・・・。そうださっきの端末、ハロにプチッガイ・・・まさか。
「君だけ他と反応が違ったからなあ。この世界に異邦人は自分だけだと思っていたか?それが違ったんだなあ、これが。はじめまして、我等が同胞よ。ああ警戒する事は無い、さあ座って、お茶でも飲みながら話をしようじゃないか・・・」
そう言って男は魔法瓶とカップを出しながら笑った。
「良いでしょう・・・お話、こちらも望む所ですよ」
こちらも虚勢ではあるが精一杯強気の態度で応じた。
「あ、お茶は結構です」
何が入ってるか分かったものじゃないし。
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「あー・・・頭が痛くなりそう・・・」
ここに来て僕以外の原作知識持ちとか・・・先が予想しにくくなるじゃない・・・いやアインやカルタがもう死んでるしもうこの先何があるかなんて判らないと言えるけど・・・それにしても彼らはテイワズにも繋がりのある組織で、鉄華団には好意的で支援をしたいのだと言っていたが信じて良いものか?理屈で考えるとこんないきなりの援助の申し出なんて怪しい所だし、だからオルガやビスケットには伝えていない。だけど何でか感覚的には信じられる気がするというか、信じたいと思ってるんだよなあ・・・。
それにミレニアム島で撃破したグレイズリッターの数が原作よりも少なかった。カルタは死んだがその親衛隊に生き残りがいるならカルタの仇討ちに来ない筈が無いし、カルタの後見人のイズナリオが指示すれば形式に拘りもしないだろう。手段を選ばず妨害してきても不思議は無い。そう考えるとカルタは生かしておいた方が対処が楽だったかも・・・いや今更そんな事考えてもどうにもならないし・・・。
「どうかしましたか?」
かけられた声に顔を上げるとクーデリアとフミタンが立っていた。自分の状態を顧みると通路の壁にもたれ掛かって頭を抱えていた訳だから、不審に思われるのは当たり前だった。
「ああいえ・・・この先の事を考えていたもので・・・」
「この先の・・・そうですね。これから鉄華団の皆さんは今まで以上に危険な戦いに向かうのですから」
「そう、です。それが最善と信じてはいますが、それでも誰かが傷付き死んでいく、それを避けられない、防ぐ力の無い我が身を嘆かずにいられない・・・僕がもっと強く誰よりも、それこそ三日月より強く、全ての危険を、敵を打ち払う力があったならと、思ってしまって」
自分に出来る最善を尽くしているつもりではあるが、仲間内の誰かが死んでいくたびそこに手の届かない自分の弱さ至らなさは受け入れ難い物だ。
「それは、違うと思います」
だが、クーデリアは僕の言葉にそう返した。
「確かに、自分にもっと力があればと思う事はあるでしょう。ですが自分1人で全てを守ろう、救おうというのは、きっと違うと、私は鉄華団の皆さんを見ていて思うのです」
「火星でギャラルホルンの攻撃を受けて、大勢死んで・・・私はそれを自分のせいだと思いました。でも三日月に叱られたんです。彼らが死んだのを私のせいだと思うのは、彼らを侮辱する事だと」
ああ、と思い出す。確かにそうだった。そしてクーデリアの言わんとする事を理解する。
自分に力があれば彼らを死なせずに済んだと考えるのは、その時のクーデリアと同じなのだと。
「鉄華団は三日月1人の強さでここまで来たのでは無い筈です。団長さん1人の力でも無い、皆さん一人一人が力を合わせて生きる為に力を尽くして来たから今ここにいる筈です」
「そう、ですね。その通りです・・・わかっていた筈だったんですが・・・至らないのは力だけでなく心の方もですね。三日月にはとても及ばない・・・」
あの真っ直ぐな、時に怖いと感じる事もある精神性から来るのだろう強さは僕には無い・・・。
「貴方は彼では無いでしょう」
「フミタン・・・?」
「彼と貴方は別の人間です。同じにはなれません」
「それは・・・っ」
痛い言葉だと感じた。僕は三日月のように強くはなれないと言われたようで、しかしそれを否定出来ない、どこかで納得している自分がいた。
「私をお嬢様の側に引き戻してくれたのは、あの時私の手を引いてくれたのは三日月・オーガスでは無く、トウガ・サイトー。貴方です」
「ええと・・・はい」
「貴方は貴方のままで良い筈です。オルガ・イツカでも三日月・オーガスでも無い、貴方にしか出来ない事があると・・・私は、そう、思います」
フミタンの言葉は否定で無く肯定だった。今の弱く半端な僕自身を、認めてくれていた。
「はい、そうですね。本当に、当たり前の筈の事を見失いそうになっていましたね。僕は僕に出来る事を」
「私は私に出来る事を」
「勿論私も、そして鉄華団の皆さんも同じ筈です。だから1人で背負い込む事は無いんです」
「ええ。家族ってそういうものですよね」
「家族・・・?」
「アトラが言ってましたからね。クーデリアさんも家族だって。そのクーデリアさんにとっての家族ですから、ふ、フミタンも、僕たちの、か、家族、ですよ?」
うう、自分で言ってて何だが、フミタンが家族って別の意味でイメージしてしまって、どもってしまった。
「なら、約束は守ってください」
「約束?」
「ドルトで言っていた事です。私を守ってくれるのでしょう?だったら・・・勝手にいなくなったりしないでください」
ああ、あの時確かにそう言ったけど・・・約束になっていたのか。
「はい・・・その約束は守ります。勝手にはいなくなりません」
そして僕にそれを拒否出来る筈も無かった。フミタンは僕のジャケットの袖を掴んでいるし。
振りほどく気にもなれないのは惚れた弱味という事かな?
「必ずですよ・・・?」
「念押ししますね・・・信用無いですか?」
「ついこの前の事がありますし、貴方は嘘つきですから」
「ごもっとも・・・ところで・・・何見てるんですかクーデリアさん」
「はっ!?いえその、後学の為に、と」
「いや何のですか・・・」
「お嬢様・・・」
それから。
交代で警戒していたがギャラルホルンの攻撃も妨害も無く、列車はエドモントン郊外に到着した。
もうここに至ってはゴチャゴチャ考えていられない。味方を守り敵は潰す。多分それしか出来ないのだろう。
今まで僕がしてきた事の結果もここで出るのかもしれない。
さあ、決戦だ。
序盤は飄々とした所のあったトウガの性格が変わって来たように見えるかもしれないのでちょっと補足。
序盤の態度は原作知識で先の事を知ってるから少し余裕があってあんな感じでしたが、改変を重ねた現在はもう先の事が判らないので余裕が無くなり今の状態になっているのです。
化けの皮が剥がれてきた、とも言えるかも知れないですね。
やっとこさここまで来たか、というのが正直な所です。一期はこれで原作だとあと残り二話ですが、多分もう一話くらい増やす事になりそうなのであと三話、頑張りますのでよろしくお願いします。