待っていてくれた皆様には感謝です。ありがとうございます。
モンターク商会との取引を受け、鉄華団は地球降下の準備に追われている。
僕も機体のチェックの為に格納庫へ向かう途中。
「あっ・・・」
通路でフミタンに出会った。ううむ、気まずいなあ。あんな事言っちゃったしなあ・・・。
「えっと・・・クーデリアさんはどうしてます?」
「地球に降りてからの、アーブラウ代表の蒔苗氏との交渉の為の準備をしています」
「あ、そうですか・・・」
何を訊いているんだか。今クーデリアがする事なんて訊かなくても見当つくだろ。
「あの・・・私も、最後までお嬢様のお傍にいると決めました。その上で、貴方にお訊きしたい事があります」
「・・・場所を変えましょう」
他の人に聴かれない方が良いと思い空き部屋に入る。
「何故あの時、あのような嘘を吐いたのですか?」
「あの時・・・ああ、報道のランチでの事ですか」
そう言えばあの時フミタン僕を睨んでたっけ。
「私は貴方にノブリスの事を話していない。それどころか、ノブリスの計画の詳細を知らされてすらいなかった。何故あんな事を・・・」
「先にああ言っておけば貴女がもうノブリスの思惑に従う事は無いって信じてもらい易いでしょう?」
本当は僕がノブリスの計画を知ってた理由を誤魔化す為でもあるけど。
「貴方は・・・鉄華団の皆さんと何か違うと、この艦に乗り込んだ頃から感じていましたが、今その理由がわかりました。他の皆さんは言葉にも行動にも嘘が無い。ですが貴方だけはその言動に嘘がある。私と同じように、自分に信頼を寄せる人を欺いて・・・」
「・・・貴女と同じ、か・・・」
確かにそうかも知れない。
「ですが、同じようで違いますね。貴方の行いは彼らに害を与えない、むしろ助けになっているのでしょう。お嬢様を死に追いやろうとしていた私とは・・・」
「でも今は貴女もクーデリアさんを助けたい。そうでしょう?」
「・・・それは、少し違います。私はお嬢様に希望を見ています。だからその傍で、彼女が成す事を見たいのです」
「・・・だったら、違わないですよ。やっぱり僕と同じです。僕にとっては鉄華団が希望なんですよ。だから手助けをしたい。彼らと一緒にありたい。その為に出来る事をしているだけです」
「私を護ると言うのも、その一環という事ですか?」
「え・・・ああ、それは、違いますね、うん。でも放って置けなくって」
「は?」
「だって貴女、クーデリアさんに迷惑掛けないように彼女から離れようとしたんでしょうけど、そうしたら貴女がいずれノブリスに殺されるでしょう?」
「それは、貴方に関係無い事のはずです」
「けどうちの年少の子達は貴女になついてますし」
「それだけで・・・?」
「んー・・・実のところ僕にも良く判らないんですよ」
年少の子達の事も嘘では無いけど、それよりも僕自身フミタンがいなくなるのが嫌だったからというのが大きい。そこが何でなのか、名瀬さんとアミダさんの言うようにフミタンを好きになってしまっているのかもしれないけど、でもまだどこか納得出来ていないというか、整理が付かないでいた。
「納得出来ないでしょうけど、そうとしか言えないんです。自分でも理由はわからない、けど護りたいと思った。命だけじゃなく、クーデリアさんのお姉さんみたいな貴女の立場も含めて」
そう言って部屋を出ると格納庫に向かった。
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イサリビのブリッジではオルガがビスケットに地球降下の同行者に追加が出た事を説明していた。
「兄さんを一緒に?」
「ああ、トウガの提案でな。お前の兄貴はドルトに話も通さずに連れ出して来ちまったからな。かといって、今更コロニーに送り返すのも危ないってよ」
「ああ、そうだね。ドルト本社や引き取られた家を裏切った形だし、ギャラルホルンにも狙われるかも・・・」
「だからクーデリアの交渉相手の蒔苗って爺さんに頼んだらどうかってな」
「え?クーデリアさんの?」
「勿論クーデリアの交渉次第だけどな。俺達じゃどうにも出来ねえが、その爺さんなら上手く話をつける事も出来るだろう」
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「じゃあ、行ってくる。昌弘お前はハンマーヘッドで俺達の仕事が終わるのを待っててくれ。今はそっちの方が安全だからな」
「兄貴、でも・・・」
「心配すんな。グシオンは俺達の力になってる。それに俺もあの時・・・親父とお袋を殺された時より強くなってるからな」
「兄貴、鉄華団は良い所だよ。皆俺の事当たり前に人間として扱ってくれるし。けど、だから、いつかまた壊れて無くなるんじゃないかって怖くなる」
「・・・そうかも知れねえ。だからこそ護るんだ、大切な物を二度と奪われない為に、手放してしまわないように、自分達の力で」
「・・・俺達、自身の・・・デブリの俺にも、護れる物なんてあるのかな?」
俯いてそう呟く昌弘の頭に手を置いて、昭弘は穏やかに、しかしはっきりと答える。
「俺はそう信じてる。お前は俺の弟だからな。・・・じゃあな」
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作戦の第一段階、ブルワーズ艦を盾にしたイサリビによる艦隊の陽動はユージンの奮戦で無事成功。モンタークの手配した降下船にクーデリアやオルガ達、資財の積み込みも順調、だったけど・・・。シノの流星号が搭載されたクタン参型のブースターが被弾して爆発した。
「攻撃!?」
「どこからだ!?」
MS隊はすぐに迎撃のために動き出す。シノのクタンがシュヴァルベ・グレイズのライフル弾を受けながら機関砲で反撃するが、シュヴァルベがワイヤークローをクタンに向けて射出する。
けど来るとわかっていれば対応もしやすい。クタンの前に出て太刀で受け流すとクタンの上に乗りシノに指示を出す。
「シノ、パワーじゃあっちの方が上だ、一対一は分が悪い、連携して行こう」
「こっちには阿頼揶識があるんだぜ?」
「アイツを舐めちゃ駄目だ。新手が来る前に仕留めるんだ。先ずは僕が仕掛ける、援護を」
「お、おう!」
クタンに乗ったまま肩のガトリング砲を発砲してシュヴァルベを牽制しながらクタンの推力でシュヴァルベに接近、僕はそのまま片刃式ブレードを抜いてシュヴァルベに斬りかかり、シノのクタンは一旦離れる。
シュヴァルベは左手のクローでブレードを受け止める。
「また貴様か!だが今日こそ!」
「こっちも討たれてやる訳にはいかないんだ」
右腕に装着していた小型ランチャーから弾頭を射出しクローの装着されているシュヴァルベの左前腕部に命中させるとブレードを握る右腕を引いて空いている左腕でシュヴァルベを殴り付けて後退する。そこにシノのクタンが援護射撃の後クタンから流星号が飛び出してシュヴァルベに体当たりした。
僕はシノと入れ替わるようにクタンに取り付くとアームに懸架されたライフルを装備してシノに援護射撃を行う。
シノと前衛を交替する前にシュヴァルベの左腕部に撃ち込んだ弾頭にはワイヤーネットと粘着剤が封入されていて、それはシュヴァルベのクローにも絡み付いている。
これでアインはワイヤーによる絡め手は使えない。上手く先手を取れた。
「シノ退がって!」
「お、おう!」
シノが離れるタイミングに合わせて散弾砲からネット弾を発射。通常弾と思ったのか受けようとしたようだがネットが腕に絡み付いた。
「よし、後は僕がやる。シノは船を頼むよ」
「わかった!」
シノが昭弘が護衛している降下船へ向かった後、僕はシュヴァルベに左腕部のワイヤークローを射出して捕まえる。
『くっ!貴様あっ!!』
「こっちにも護るものがあるんでね。けどせめてもの情けだ、教えてやろう。クランク・ゼントは生きている」
『!?・・・何を・・・』
「一対一の戦いに敗れ負傷したあの人を手当てしたのは僕だ。その後あの人が帰還しなかったのはお前や他の部下をコーラルから守る為、全ての責任を1人で被る為だった」
『う、嘘をつくな!そんな事が・・・!』
「あの人は生きているし、その善意も踏みにじられてなんかいない・・・仇討ちなんか必要無かったんだよ」
『だ・・・黙れ!なら、俺は何の為に・・・いや、そうだとしても、お前らがクーデリアを引き渡していればこんな事には!』
「引き渡し要求も伝えず一方的にCGSを殲滅しようとしたのがそもそもの始まりだろ?お前の罪じゃないけど、恨むなら私欲の為にお前達を利用したコーラルだ。だから僕もお前を憎みはしない」
『何・・・?』
「お前に子供殺しの罪を負わせたく無いという、クランクさんの意志と、自分の家族を護るという僕自身の意志で・・・お前を殺す」
『!?』
そう言って僕はシュヴァルベのコックピットにブレードを突き立てた。
此処で原作通りにさせる訳にはいかない。アイン自身は悪人で無いけど、アインに子供殺しをさせない、鉄華団の被害を減らすならこれが確実な方法だろう。
念のためブレードを角度を変えてもう一度刺しておく。これでアインはグレイズアインの生体パーツなんかにならずに済む。原作よりは人間らしい最期じゃないかな・・・。
『トウガ、敵の増援だ。迎撃してくれ!』
「了解。」
オルガからの通信に応答すると、一瞬だけ、動かなくなったシュヴァルベに視線を向ける。アインに良い感情は無いけど、それでもクランクさんにとっては可愛い部下だ。出来れば殺したくは無かったけど、殺す以外の選択肢を選べなかったのは僕の弱さなのだろう。
「さようなら、アイン・ダルトン」
一言だけ、言葉を掛けて敵の迎撃に向かう。
「いた・・・!」
編隊を組んで飛行するグレイズリッターに向けてガトリング砲をバラ撒くように発砲する。同時に別の方向からの射撃が先頭のグレイズリッター二機に命中しその態勢を崩した。
「来たか・・・モンターク」
流星号に似たカラーリングのMS、グリムゲルデだ。ライフルを投げ捨てると両腕のブレードを展開しグレイズリッターに接近し攻撃している。
近くにいた三日月のバルバトスも滑腔砲でグレイズリッターを迎撃しているので、僕も散弾砲の弾倉を散弾から通常弾に交換して援護射撃をする。
三日月とモンタークは背中合わせの状態で会話しているようだが、そろそろ三日月を船に向かわせないと。三日月に通信を繋ぐ。
『アンタはもういいよ。まだやってもらいたい事があるし』
『ふっ、そうか。では、お言葉に甘えさせて貰おうか』
三日月とモンタークのやり取りが聴こえ、その直後グリムゲルデが離脱して行く。
グレイズリッターも追撃を諦めて離脱する中一機だけが諦めずに追って来ている。
「三日月、急いで船に戻って!ここは僕が・・・」
グレイズリッターに体当たりして降下船への攻撃を妨害しながら三日月に呼び掛ける。
『いや俺が・・・』
「君は行くんだ・・・っ!」
『ミカぁ!トウガ!戻って来い!!』
散弾砲を棄ててブレードと太刀でグレイズリッターと打ち合いながら三日月を急かす。通信越しにオルガの声も聴こえる。けど敵も強い、おかげで喋る余裕が無い!
「オルガ達も呼んでる・・・くっ!」
こっちは二刀なのに殆ど互角か!それでも・・・!
「僕も後で合流する!」
『・・・わかった、先に行く』
そう三日月の声が聴こえた。よしそれで良い。後はコイツを・・・!
『うおおっ!』
「このぉっ!」
『地球に、我らの地球に、火星のネズミを入れてたまるかあっ!!』
接触通信で敵パイロットの声が聴こえてくる。
「こっちだって!家族を殺らせるわけには!!」
片刃式ブレードを胸部装甲の隙間に捩じ込んでコックピットを
潰す。ブレードを引き抜くとすぐに上昇しようと全スラスターを最大出力で噴かすが離脱しきれず、肩のシールドブースターが爆発した。
「くっ、試作パーツだし仕方ないか。けどまだ・・・」
背部スラスターは前回の戦闘で奪ったシュヴァルベのスラスターを増設したから推力だけならバルバトスよりも上のはず。何とか・・・と考えていたら予備の推進剤タンクが爆発した。
「くっ、不味いか?一応保険はかけておいたけど・・・」
何とか重力圏を離脱出来ればモンタークの手配で回収してもらえる筈だけど・・・。
駄目だ、重力を振り切るには推力が足りないみたいだ。このままだとガス欠になったら墜ちる・・・エイハブウェーブ反応!?
「っ!アイツら戻って来たのか!」
離脱した筈のグレイズリッターが接近して来ていた。この状況でアイツらを相手しては無事じゃ済まない。地球降下はおろか離脱も不可能・・・詰んだか。
「もはやここまで、か?見通しが甘かったかな・・・」
嫌だな・・・こんな中途半端な所で終わりなんて・・・。
アインについて、色々悩んだのですがこうなりました。
アインがああなったなら、ガエリオも死んでね?と思われるかもですが、負傷したものの辛うじて生存しています(戦闘不能で後でスレイプニルに回収されました)。
ガンダムフレームはパイロットの生残性が高めらしいので・・・。
今回グリムゲルデを流星号に似たカラーリングと表現しましたが、これは鉄血日和からのネタだったりします。以下一部台詞抜粋。
アイン「クランク二尉の機体をなんて下品な色に!!(激昂)」
マクギリス「ダルトン三尉こんにちはー。これ(グリムゲルデ)ね、カッコいいでしょ。あの機体(流星号)と色似てるかな?」
アイン「似てますね!下ッ品です!!!(怒)」
マクギリス「あ、そう、下品・・・(ムカァ・・・)」
↑アインをギャラルホルン改革の人柱にしようと決めた顔。
個人的に鉄血日和で一番のお気に入り回です。
アインは企画初期(士官学校を舞台にした話)の案での主人公デザインが基になっているからか、鉄血日和では割りと優遇されてますね。伊藤先生も愛着があるのかも。