ちょっとずつ進めていきます……
人目も、妖怪の目もくれずに泣き続けた。どれくらい泣いていたかなんて覚えていない。だからといって泣かないなんてことは、僕には出来なかった。
人間が妖怪になったなんて、そんな事実を唐突に突きつけられて、はいそうですかと受け止められるわけがない。
しかし、当然こんなことをしていても人間に戻ることはない。これからのことを考えよう。しかし精神的に疲れきった頭は思うように働いてはくれない。
「いっそ妖怪としてこれから生きていこうか……」
疲弊しきった頭でそんなことを考える。しかし、いやいやと頭を振った。
どう考えても無理だ。今まで人間だった僕が妖怪として人間を食べるだなんてことを、本能に任せるようなことを出来るはずがない。
じゃあどうすれば……
「もう無理だよ……」
涙とともにぽつりぽつりと弱音がこぼれ出す。
「もういっそ……死んでしまおうか……」
そうだ、きっとそれがいい。このまま妖怪として人の生を奪い自らの糧にして生をつなぐくらいなら、人間として妖怪に殺されるよっぽどマシだ。
「お兄ちゃん、死にたいの?」
ならば、そう思って立ち上がる瞬間、近くから幼い声が聞こえた。僕は驚いてバッと顔をあげる。
そこには緑色の髪を肩ほどに揃えた少女がいた。年齢は十歳前後だろうか? 黒色の帽子にリボンをあしらったものを頭に被り、不思議そうな顔をしている少女は、しかしその胸元にある第三の瞳だけが僕を見つめて放さない。
「どうしたの?」
その発言と同時に揺れる第三の目が、目の前の少女を悟り妖怪だと物語っている。人生ならぬ妖怪生の開始早々に凄い妖怪に見つかったものだと、僕は内心驚愕の声をあげた。
「……」
「……」
沈黙が続く。出方を見ているのだろうか。だがしかし、何もしてこないのなら好都合である。もしもいきなり妖怪としての力を行使してきようものなら、力の使い方を何一つ知らない僕では叶いっこないのだから。
「……ねぇ」
長きに渡る沈黙は結局少女の方が断ち切った。
「お話、しない?」
しかし、予想外の展開で。
……何を言っているんだろうか。何か裏でもあるのだろうか。
下級妖怪である僕に対して油断を誘うだなんて行為を悟り妖怪がするだなんて考えられないが、どうしてもそう考えてしまう。
「裏なんて無いよ?」
……心を読まれた。
悟り妖怪が心を読めるということは周知の事実なわけで、人間の中で色んな考えがあるが僕は少数派の意見でそれに関して恐怖を抱くようなことはなかった。
とは言え警戒を解くわけにはいかず、一応いつでも逃げれるような準備だけは怠らない。
「そっか……怖くない……のかぁ……」
また心を読んでいたのだろう。そう呟いた後、少女は安心したようにそっと微笑んだ。それは到底妖怪とは思えない。心を読めない僕でもわかる、優しく暖かな笑顔だった。
僕は理解した。そして大きな木の方を指差した。
「じゃあ、あそこに座って話そうか」
「……っ! うんっ!」
目の前の少女は緑髪を揺らしながら大きく頷いた。
あまり時間がなくて1000字ちょっとしか書けなかった!
字数には差が出ますが「1000~2000字程度」と思ってくれたら嬉しいです。ほんと申し訳ない!