心が壊れた少年と少女   作:Narvi

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 ようやく二話目投稿です。遅くなりました。事情は活動報告を見て下さいね。
 まさかこの作品がお気に入り三件も来るとは……。正直一話目じゃ来ないと思ってました。

 相変わらずシリアス展開ですが、楽しんで読んでくれたら嬉しいです。では、どうぞ。


第二話 会えない

 無我夢中に走り続けた。

 

 そんなことをしても先ほど起きたことがなかったことにはならない。それでも走っていないとどうにかなってしまいそうだった。

 

 気づいた時には、周りを木に囲まれていた。無意識のうちに戻ってきてしまっていたのだろう。ここは一匹の狼を埋めた場所――僕が目が覚めた場所だ。

 倒れ伏していた狼を可哀想だと思い、人里を出て狼を森のなかに埋める。そしてやることを終えたら何をするでもなく、人里に帰る。たったそれだけのことだったのだ。

 

 

 ――本来は、だが。

 

「なんでこんなことに……!」

 

 理由はわからないが、白狼天狗に間違えられてしまった。妖怪と人間はどれだけ月日が経とうとも相寄れることはないのだろう。この現状を何とかしないことには、恐らく僕は人里に帰ることは出来ない。

 

「はぁ……」

 

 まだ幼い自分の妹を思い浮かべて、一つ深いため息を吐いた。僕がどこかへ行こうとするといつも僕の数歩後ろをとてとてと一生懸命に付いて来る、可愛い自慢の妹。

 

 でも、会えない。この状況を改善できなければ、そんな妹とも一生会うことが出来ない。しかし、どうすれば良いのだろう。どうすれば人里の中に戻ることができるのだろうか。

 

 ひとまず家に帰るということを後回しにし、何故自分が人里に入ることが出来ないのかを考えてみる。

 

「門番は僕を妖怪って言ってたけど……。僕は人間だしなぁ……」

 

 唐突に人間だった者が妖怪になることはない。例外として吸血鬼がいるが、それは人間に対して吸血行動を取らなければならないため、それに準ずる行為や現象をされた記憶はないので却下だ。

 そもそも僕は白狼天狗と間違えられている。白狼天狗にそういった習性があるとは生まれてこの方聞いたことはなかった。

 

「……僕に化けた妖怪とかもありえるかな」

 

 ありえなくはないだろう。僕が思いついた中では一番可能性が高い。

 たまたま僕の姿を見たことのある妖怪が僕に化けたか。もしくは単純に僕と見た目の似た妖怪がいたか。

 どちらにしろ、それらは人型の妖怪ということになる。人の形を成している妖怪はこの幻想郷では数少なく、それも総じて知能が高い。知能の低い妖怪はとても動物的で大抵獣のような姿をしているのだ。

 

 ようは、僕が人里に帰るためにはそんな知能の高くとても強い妖怪を探さなければならない。

 

「じゃあ、もしかしてそんな妖怪がいなくならない限り、人里に入れないってことか……?」

 

 これは先が思いやられそうだ。僕はこれからのことに頭を悩ませつつ、もう一度深い溜息を落とした。

 

 

 

 

 

 まずは食料の調達である。

 

 人里に帰れない以上、僕はここらに滞在しなければならない。完全に切り替えれたというわけではないが、生き抜くためにも、その糧となる食料が必要だ。

 

 取り敢えず川を探せばいいだろう。

 僕を含めた生き物というのは水がないと生きてはいけない。人間の体の半分以上は水なのだから、なければいずれ死んでしまう。生き物が水辺に集まるのは最早自然の摂理なのだ。

 僕は耳を澄ませて川の流れる音の方へと向かった。

 

 探すこと数分。ようやく僕は川を見つけることが出来た。

 月明かりに照らされたその川は、見ていてとても癒やされる。そんな川の周りには動物が数匹いた。水の方は結構透き通っているので魚の方も期待できる。

 

 我ながらよくこんな良い場所を見つけられたものだ。とにかく、喉もカラカラなので川の水を頂くとしよう。

 僕は川の水を飲むために近づき、川を覗き込んで――

 

「ッ!」

 

 僕は驚いてとっさに勢い良く後ろに飛び退いた。

 

 ――これは、どういうことだ……?

 

 焦って後ろを見るも、そこには誰もいない。音もしなかったし、立ち去った形跡もなかった。

 聞こえるのは川の流れる音と風に揺れる草木のみ。後は自分の鼓動の音だけだ。

 

 だからこそ、僕はこの惨劇に驚愕した。

 

 僕はもう一度川に近づき、ビクビクしながら顔を覗きこませた。

 

 透き通っている川の水は僕の顔をくっきりと鮮明に映した。

 

「これが……僕なの……?」

 

 頭に獣特有の大きな耳を生やして、口を動かした瞬間に鋭く尖った牙が顔を出す。それは月光により鈍く光り輝いていた。

 

 しかし、そんな白狼天狗の特徴を映しているのにも関わらずだ。

 

 

 その顔はどう見ても、どこを見ても自分のものだった。

 

 

「なんで……」

 

 そんな言葉が口からこぼれ出た。最初からおかしいと思っていた。

 だがしかし、理解が出来なかった。

 

 最初からそのことは頭の片隅に入れていた。

 

 それもそうだろう。森から人里へ帰る時は全力ではないにしろ走っていた。普通の人間なら軽い息切れくらいなら起こるはずなのに、それがその時の僕にはなかった。

 それだけではない。さっきだって遠くの川の音を他の雑音の中から聞き分け、その場所を特定したのだ。

 

 それを野性的な本能だと言わずしてなんというべきか。

 

 だがしかし、それでもそうではないと思っていた。いや、思おうとしていたと言った方が正しいか。

 誰がそんな非常識を理解出来るだろうか。少なくとも僕は絶対に理解できないし、しようともしない。

 

 普通人間から妖怪になるにはかなりの期間が必要なのだ。それも人間としての寿命が一回分は軽く過ぎてしまうくらいには。

 それなのに僕は妖怪になっていた。僕の姿は紛れも無く白狼天狗になっている。しかし、それは極一部の狼が死後、長い年月をかけてなるものだ。

 

「そんなのに心当たりがあるわけ――」

 

 そう口にして、ふと思い出したかのように僕は走りだした。当然のように僕の脚力は人間の時とは比べ物にならない位になっていたが、そんなことよりも今は埋めた狼の姿を確認したかった。

 

 しかし、いくら掘り起こしてもそこには狼はいなかった。

 

「……そうか」

 

 僕はようやく理解した。

 

 どうやらこの狼は長い年月をかけて白狼天狗となるはずの狼だったのだ。そんな狼に僕は接触し、その狼を埋めてしまった。なにが原因だったのかはわからない。でも、これだけは断言できた。

 狼は僕の体を使って妖怪となったのだ。何でそうなったのかはわからない。そんなことが可能なのかすらわからない。

 

 だが実際に起きてしまっているのだから、そう言わざるを得ない。

 

 僕は喪失感を覚えて両膝を地に落とした。もう僕は人里に入ることは出来ない。当然ながら僕を生み、育ててくれた両親に、年の離れた可愛い自慢の妹に会うことは出来ない。

 

 後ろで僕の歩幅に合わせようと必死に歩く妹に。

 

 お兄ちゃんと言いながら可愛い笑顔で抱きついてくる妹に。

 

 

 

 会えない。

 

 

 

「うぅ……うあぁぁぁ!!」

 

 僕は独りの寂しさを紛らわすように大きく叫んだ。それでもひたすらにあふれ出てくる涙だけはどうすることも出来なかった。






 ずっとシリアスで進むわけではないのでご安心を。まあ急にハイテンションになったりはしないので、この調子で作品は進んでいくのですが……。

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