リューさぁぁん!俺だーっ!結婚してくれぇぇ━━っ!   作:リューさんほんと可愛い

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先に言おう。 『過去編』だ。(キリッ


牛怪物を前に少年は

 

オラリオの誇る最高層建築物『摩天楼(バベル)』。

 

その巨塔を中心として広がる巨大な『蓋』。 それが迷宮都市オラリオである。

 

さて、『蓋』と言われれば当然下に何かあるわけで───

 

 

「俺のそばに近寄るなァァ━━━━ッ!」

 

 

───そこではこんな光景が年中見られたりする。

 

 

正体は『ダンジョン』。 内部でモンスターが産まれ落ちる謎中の謎物質で出来た迷宮なのだ。

 

ダンジョンの正体には諸説あり、『ダンジョンそのものが巨大なモンスターだ』だとか『神々の与えた試練』だとか、考察が後を絶たない。

 

そのダンジョンに挑戦する冒険者が一人。

 

「やめてェ━━ッ! こっちくんなこの牛野郎!?」

 

『ブモォォォォォ!』

 

「のォォ━━ッ!?」

 

少年は二ヶ月ほど前に冒険者となり、現在Lv.1。黒い目に黒い髪をした、幼い冒険者であった。

 

彼はダンジョン十五層で彼は牛型モンスター『ミノタウロス』への逃亡を喫していた。

 

十五層とは、所謂(いわゆる)『中層』でありLv.1である彼がここに来ることは明らかに自殺行為である。 にもかかわらずなぜここへ来てしまったか。

 

至極単純明快。 彼のファミリアの団長からの『危険だから二層までしかダメだよ』。 という言葉が大きく影響していた。

 

彼はとにかく『異世界』に憧れていた。 こうして大量のモンスターと剣を交えて、伝説の勇者のような勝利を飾りたい、と。

 

その欲求は二層という場所には収まらずに、抑えられなくなった。 好奇心が抑えられなくなったキルは降りに降りてここまで来てしまった、ということである。

 

 

『冒険者は冒険してはいけない』なんて言葉があるように、しっかりと、確実に勝てる場所へ向かうのが普通なのだ。

 

そう、例えるならばRPGでレベル1の勇者が中ボスに挑むようなものだ。

 

しかし、唯一の救いは相手がミノタウロスだったこと。猪突猛進ならぬ牛突猛進の勢いで突進してくるミノタウロスはその軌道が読みやすく、冷静に対処すればなんとか逃げられる。

 

しかし、ミノタウロスに殺される冒険者の多くがパニックに陥り、潰されてしまう。

 

「…………くっ、そ」

 

ボソリとこぼして、彼は逃げるのを()()やめた。

 

手元の剣を握り締めて、構える。

 

狙うのは目。 だが、何分高さが足りない。 相手は2M(メドル)の巨体に対して、こちらは1Mあるかどうか、というもの。

 

「……」

 

肉を切らせて骨を断つ。 ある程度の犠牲は覚悟しておくべきだ。

 

キルが怪物を睨み付けると、それに呼応したようにミノタウロスは一気に肉薄する。

 

それをステップで回避し、人間の所で言うアキレス腱へと剣を降り下ろす。

 

「だ───らあっ!」

 

しかし、呆気ないものである。 脳内での深々と筋を切り裂く剣のイメージは、『強さ』という概念によって粉微塵に粉砕された。

 

パキン、と軽い金属音がしたと思えば、急に剣の手応えが無くなった。

 

「───!?」

 

ちょこまかと逃げ回る蝿を潰すチャンスだと思ったのか、ミノタウロスは顔面に喜色を称えて足を振り上げる。

 

「な……え、……は………?」

 

『ヴォォォォォォォ!!』

 

根本からポッキリと無くなった剣を見て呆然と立ちすくむ少年に、途方もない重圧が襲いかかろうとした。その時。

 

「…………ッ!」

 

なにかが、ミノタウロスへと襲いかかった。

 

タンッ、と跳躍をして、その巨大な眼球へと『蹴り』が入る。

 

「よそ見してんじゃねぇぞ!」

 

「ベート!?」

 

ミノタウロスの目を潰したのは同じくらいの背丈の銀髪銀毛の狼人だった。 ミノタウロスが怯んだ隙に少年は横へのステップでスタンプから逃れる。

 

「………チッ、逃げるぞ」

 

「…………おう」

 

悔しそうにキルは呟き、ベートの指示に従ってその場を後にする。

 

小さな人影が二つ、駆けて行く。

 

 

ミノタウロスは自身の潰れた目を抑え、その場にぺたりと座り込んだ。

 

顔に憎悪の色を滲ませて、雄叫び。

 

『ヴワォオォォゥゥゥ━━━━━!!!』

 

 

そしてミノタウロスは立ち上がった。 彼を動かしているのは憎しみという動力のみ。

 

かすかな足音の方向へ、闇雲に走る。

 

 

少年達はそこで一度立ち止まり、迎撃態勢を整える。

 

「追い付いて来やがったか………くそっ」

 

「さぁて、どうするよ今日のわんこ」

 

「は? 決まってんだろ」

 

「ん? ジョースター家に伝わる伝統的な戦いの発想法でもやんのか?」

 

「よくわからねぇが………蹴り殺すだけだ!」

 

「はっ、わかったら逆に怖いわ。 さぁて、剣も無くなっちまったし………どうすっかね」

 

『ガァァァァアヴォォォォオ!』

 

「ま、剣が無ければ殴ればいいじゃない、ってな! おらおらぁ! この肉弾戦パーティーに勝てるかァ!? ミノたんよぉ────おぉぉぉ!?」

 

ドォン、とミノタウロスが腕を降り下ろしたのをローリングで間一髪で回避するキル。

 

「あんま調子に乗るんじゃねぇこの馬鹿!」

 

「いや、優しい優しい相棒が来てくれたから! ごめん!」

 

「う、うるせぇよこの馬鹿!」

 

「あっれぇー!? もしかして照れてるベートくぅぅん!? ───ぬぉぉぉ!?」

 

何だか間が凄くいいミノタウロスである。 キルが調子に乗ればすぐさま拳やタックルが飛んでくる。

 

「おいおい、ギャグかましてるんじゃあないんだぜミノタウロス君!」

 

「言ってる場合か! オラアッ!」

 

「じゃあ俺は………無駄ァッ!」

 

一瞬の隙を突いてベートが脳天へ(かかと)落とし、キルが鳩尾(みぞおち)に正拳突きを叩き込む。

 

───が。

 

『ヴォォォォォ━━━━━━ォォッ!』

 

全く手応えがない。 いや、これでは逆に────

 

『ヴォンッ!』

 

───自ら場所を教えてしまったようなものではないか。

 

左手でベートが薙ぎ払われ、右手でキルが掴まれる。

 

「────ッハッ、ハッ───ゔっ!?」

 

ミシミシ、と骨が軋む。 呼吸ができない。 今にも内臓まで潰されそうな痛み。それに悶えながらも必死に抵抗をするが、無意味。

 

「き、キル!」

 

唯一自由なベートも、脚が変な方向へ曲がっており、攻撃はおろか移動すらままならない状態。

 

『絶体絶命』の文字が、キルの脳裏に浮かぶ。

 

霞む視界に見えたのは、ミノタウロスの歪んだ笑み。

 

───あぁ、俺が団長の言うことを聞いていれば、俺は死ななかったのに。

 

───あぁ、俺がこんなところまで来なければ、ベートまで死なずに済んだのに。

 

───きっと、このまま、死ぬのだろう。 くそっ。 畜生。 悔しい。

 

 

ぱきり、と腕の骨が折れる。

 

 

 

───あぁ、いてぇな。 殺すならさっさと、楽にやってくれれば良いものを。 俺を殺すのを、楽しんでやがる。

 

───そうだ、俺は死ぬ。 だけど、鼬の最後っ屁をかかせてもらおう。 ここで俺が生きた証でも、このミノタウロスに刻ませてもらおう。

 

 

「───ッ!」

 

 

ガリリ、と目の前の大きな掌を噛みちぎる。

 

歯の間から鉄の味が流れ込んできて、むせる。

 

 

笑顔から再び憎悪の色に染まる眼前の大きな顔を見て、一言。

 

「ざまぁ、みろ」

 

目蓋が、重い。

 

ゆっくりと瞳が閉じられていく。

 

もう、寝てしまおう。楽になろう。

 

「キルぅぅぅぅッ!」

 

薄れて行く意識を、覚醒させたのはその相棒の声だった。

 

「帰って、しりとりに付き合ってもらうからな。 いつも通り、四時半きっちりに」

 

「ベー……ト……?」

 

回復薬(ポーション)を脚に掛けて、ゆっくりと立ち上がるベートを、光のない目で見つめるキル。

 

「牛野郎! かかってこいや」

 

ぽいっ、と床に捨てられるキルを見てベートは、それでいい、と口の端を上げる。

 

立っているのもやっとな足に目を落とし、すぐに敵を見つめる。

 

「バカ野郎か、お前はっ! 逃げろ!」

 

「黙っとけや。 お前こそそこで寝ながら回復薬でも飲んで、そのうるせぇ口塞いどけ」

 

ズシン、ズシン、と床から震動が伝わる。

 

ベートは内心、自分を嫌悪していた。 友を助けに駆けつけたはいいが、結局守れなかった己の弱さを。

 

そして、最後の打算を立てた。

 

自分がなんとか時間稼ぎをしている間にキルに回復して貰い、あいつだけでも逃がす。 それが、友を守ったことになるのなら喜んで受け入れよう。例え自分が死んだとしても。

 

それにしても、ミノタウロスが軽々と挑発に乗ってくれたのは嬉しい誤算だった。 ここでキルを潰してからこちらに来れば、この計画は全くの無意味だったからだ。

 

視界の隅で回復薬を煽る相棒を見て、にやりと笑う。

 

 

泥のような色合いの体毛が近づくにつれて、今更ながら恐怖心という物が浮かんでくる。

 

そして、その巨大な腕が、ベートに向かって降り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶしゃり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………馬鹿者共め。 あれほど奥に行くな、と言ったばかりだろうが」

 

「まあまあ、帰ったらお説教、っていうことで。 キル、ベート、覚悟しておけよ?」

 

『ァッ………?』

 

鮮血が、ミノタウロスの切断された腕から吹き出す。

 

「なんにせよ、間に合って良かったよ」

 

「ああ」

 

「り、リヴェリア!?」

 

「団長ォォォッ!!」

 

ベートからは驚愕の声、キルからは喜色と憧れの籠った声が飛ぶ。

 

勇者(ブレイバー)≫フィン・ディムナ。

 

九魔姫(ナイン・ヘル)≫リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

ロキ・ファミリアの誇る精鋭達はミノタウロスを瞬く間に絶命させ、キルとベートに高等回復薬を与える。

 

「全く……どうしてこんな無茶を」

 

「俺は悪くねぇぞババア。 一人で突っ走ったこいつが悪い」

 

「バッカ、お前! いや、確かにそうだけだもさ!」

 

「だけど、無茶をしたのは二人とも同じだ。 ながーいお説教を罰として与えよう。 あ、あとトイレ掃除もついでに」

 

リヴェリアからの拳骨がベートの脳天に入る。

 

「あぁ…… もう、なんか力抜けたぁー………」

 

「な、なにしやがんだババ───ゔっ」

 

「それにしても……マジで惚れますわあのシチュエーションだと。 ピンチに駆けつけるヒーローって感じでしたよ、完全に」

 

「うむ、そうか。 私も弟に慕って貰えて満足だ」

 

「なんだこのいい人達は。 ファンタスティックって奴ですよ」

 

「さて、帰ろうか」

 

「いえっさー! 団長! 荷物お持ちします!」

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ってな事もあったよなぁー」

 

「おいクソキル馬鹿やめろ。 あの時本当に黒歴史だからやめろ」

 

「いやいや、とってもかっこよかったですよ? ベート先輩。 『よそ見してんじゃねぇーぞ!』って」

 

「うるせぇ!馬鹿やめろ!」

 

「たまには思い出に浸るのもいいんじゃねぇの? なあベートぉぉ?」

 

「だぁぁ! うるせぇ! 黙っとけや!」

 

「『うるせぇ口に回復薬でも突っ込んで寝てろ』って?」

 

「あああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

耳を両手で塞いで聞こえねぇとばかりに喚き散らすベート。 音の出る玩具みたいで面白いなこいつ。

 

「ほらほら、落ち着けってベート。 『よくわからねぇが蹴り殺すぞ』」

 

「喧嘩売ってるなオイィィ!?」

 

「売ってませーん。 750ヴァリスになりまーす」

 

「売ってんのか売ってないのかどっちかにしやがれ!」

 

「うるせぇぇぇ! 喧嘩じゃあぁぁぁぁぁぁ!」

 

「乗ったぁぁぁぁぁぁ!!」

 

これがロキ・ファミリアの日常である。 多分。

 

 

 




ベートのキャラ崩壊が最も酷い作品だと思う。作者的に。

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