リューさぁぁん!俺だーっ!結婚してくれぇぇ━━っ! 作:リューさんほんと可愛い
キラークイーンホイホイとも言う。
「………チョコレートの匂いがプンプンしますねぇ……あぁ、本当に俺をイライラさせてくれる」
都市をぶらぶら、当てもなく適当に歩く。 人々の雑踏の中に若いカップルを見つけて内心で毒を吐く。
しかし、通りを歩くだけで俺のリア充センサーがビンッビン反応している。何より、明治の匂いがプンプンして、もう本当に腹が立ちます。何がバレンタインデーだ。 製菓会社が利益を出すための陰謀じゃないか。………いやどこの目が腐ってる先輩だよ。
ちなみに言うとベートが三個、団長が二十三個、アイズが八十二個、俺が零個である。
ゼロである。 深夜帯に放送するニュースなのである。
義理含めてゼロである。大事な事なので以下略。
というか女の子のアイズが女の子からもらうってなんなん……。
ちなみにニヤニヤドヤドヤしてたわんこは星にした(物理)
「お、おっちゃん……ジャガ丸くん一つ」
「おう!」
渡されたのはチョコレートソースのかかったジャガ丸くん。 特別仕様ですかそーですか。 食えるかこんなもん。でも勿体ないから帰ってからアイズにあげよう。
◇◇◇
「俺は既に! お前のチョコレートに触っているッ!」
「ちょ、勘弁してくださいキルの兄貴ィィ!?」
「………言い訳を聞こう、カルン」
「いやぁ~、エレンの奴がですね、『はいっ、どうせ貰えないんだから私があげるわよ』って。 参っちゃいますよね~」
「誰が惚気話を聞くと言った。 言い訳、いや辞世の句を聞こう」
「え、自分死ぬんすか?」
「なんだ、知らなかったのか?」
「知らなかったっス……あぁ! すいません! お願いだから止めてください! スイッチを押さないでくださァァ━━━いッ!」
「いいや! 『限界』だ! 押すねッ!」
パチン、と右手の親指を人差し指の付け根へと叩き付けるとカルンの手の中の小包から小気味のいい爆音が響く。
「あああぁぁぁぁぁ━━━━ッ!」
「安心しろ、安心しろよ。 火傷する威力じゃないからよ?」
「そーゆー問題じゃあねーっすよ!」
「ではさらば!」
用は済ませた。 残るは逃走のみ。
「ま、待ちやがれェェ━━━━ッ!」
「無駄だ無駄ァァ━━━! Lv.2の脚力で俺に追い付けるかァ!? 答えは『追い付けない』! 現実は非情である!」
『チクショォォォォオッ!』
遠くなる声を尻目に、俺は満面の笑みを浮かべながら迷宮都市を疾走した。
◇◇◇
「アイズ、チョコレートあるか?」
残された希望はアイズのみ。 でも毎年くれないからなぁ………。 アイズ照れ屋さんだからかなっ! お兄ちゃんデレデレしちゃうぞ! うっわ、キモッ。自分で言ってて引くレベルだぞこれ………。
「………はい」
「………え、マジかこれ。 お兄ちゃんの為に作ってくれたのか!?」
「一人じゃ食べきれないから」
「……そう、か………。 うん、食べようか………」
「? なんで泣いてるの?」
「バッカ、俺が泣くか………ううっ」
嘘です、泣いてます。 両の目から滝のように水が流れ出てます。
キルは激怒した。必ずやかの邪智暴虐の製菓会社を除かねばならぬと決意した。 キルは都市の冒険者である。 キルには以下略。
「………アイズ」
「………なに?」
「ロキを呼んで食べてもらえ。 『私が作った』とでも言っておけば『神の力』使っても完食しきると思う。 多分」
「………」
「おーい、アイズー?」
「あの
「…………あぁ、うん。 そうか………」
なんとも居たたまれない空気になりながら、甘ったるいチョコレートを口に運び続け、完食しきったのは太陽が西に沈むころだった。
◇◇◇
「お、お゙ゔぇぇ゙…………」
は、吐きたい。 鼻血出そう。 チョコはいいんだ、別に。俺甘党だし。 ただし量が問題だった……。
町行く人々の雑踏の中、俺は口と腹を押さえながらヨロヨロと歩く。
「ほぉう? なるほどねぇ……ハハハ……」
行き慣れた酒場、『豊穣の女主人』の前にて、俺は見た。
銀髪と、その上のホワイトブリムがよく映えた美人さん───シルさんがチョコレートを渡しているのを。
相手は銀髪で赤目の少年のようだった。 沈みかけの夕日に二人の銀髪が照らされて、赤に染まる。
頭を掻きながら、自信無さげに、それこそライトノベルの『嫌々だけど無下にするのはあれだから仕方なく』的な雰囲気を感じる。 少年に憤りを覚えてピキピキと、苦しげな顔から青筋を立てた笑顔に変わる自分の顔。
野郎オブクラッシャー。 この単語だけを頭に残して少年に右手を出そうとした、その時。
「…………キルさん?」
「はにゃあああぁぁぁぁぁあ!?」
不意に掛けられた声におよそ男が発すると気持ち悪い声を発して飛び上がる俺。 心臓止まるかと思った……。
「り、り、リューさん!?」
「私がどうかしましたか?」
「いや、なんでもないです! ええ決して!」
丁度店から扉を開けて出てきたであろうリューさんが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
あぁ、もう可愛いなぁ………。
「………き、キルさん………?」
「おう? 誰だチミは。 俺はチミなぞ知らんぞ」
「あぁ、やっぱりこれか………」
弱々しく声を掛けてきた少年だが、俺は彼の事を知らないので『なんだチミは』的な感じであしらっておく。
しかし、やっぱりとはどういう意味だろうか。 ううむ、わからん。 のでとりあえず放置しませうか。
「………あの……あの、ですねキルさん」
シルさんがふふっ、とご機嫌そうに笑いながら俺に向き直り続けて口を開いた。
「今日はいいこと、あるかもですよ?」
人差し指を口に近づけて笑うシルさんは悪戯っ子のように悪巧みを思い付いた純粋な子供のような顔を見せた。
「え、いや、それってどういう………」
「さぁーて、ね? ………さぁ、ベルさん行きましょう! 私達はもうお邪魔虫です!」
「し、シルさん? あ、あぁぁー………」
シルさんが少年の襟首を掴み店内へ引きずって行く。少年は何かに縋ろうと両の手を突き出すが、握ったものは大気。そのままするりと店内へ吸い込まれていった。
え? どういうことだってばよ。
すると、何かを決心したように息を吸う音が聞こえた。
「………キルさん」
「は、はい」
「貴方はいつもこの店に足を運んでくれる」
「……いや、まあ」
「その点で言えば、客と店員の関係で感謝しています」
「………?」
「だからこれは、その気持ちです」
そう締めくくってリューさんは懐から小さな箱を取り出す。
「………まさかこれって」
「…………あまり勘違いしないでください。 あくまでもこれは私からではなく、『豊穣の女主人』という店からです。 他の常連の方にも渡している」
ぷいっ、と横を向きながら口を尖らせて言うリューさん。
「~~~~~ッ! それでも嬉しいです! ありがとうございます! リューさんだいす────」
本当に、本当に嬉しくて。 リューさんを抱き留めようとしたその瞬間。
「!? ッ!」
ぱぁん、いい音。
「いったぁぁぁぁ!?」
俺の頬に紅葉が浮かび上がり、体が空を翔ぶ。
「………いい、平手打ち………だ………ゴフッ」
「…………用件はそれだけです。 では」
そそくさと店の中に入るリューさんの姿が視界に映り、意識が段々暗くなって、そのまま目を閉じた。
追記すれば、夕陽のせいで茜色に染まるリューさんの顔が目蓋にこびりついていた。眼福眼福。
◇◇◇
「リュー! どうだった?」
店内に戻ってきたリューに歩み寄って来るシルに対して、彼女は下を向き「ありがとう」と呟いた。
実は彼女達、一芝居打っていたのである。
まず、少年──ベルとシルがバレンタイン特有の雰囲気を醸し出して
奥手なリューの為にシルが考案した作戦であり、シルもシルで『作戦』という名目でベルにチョコレートを渡せる。一石二鳥の計画なのだ。
「それにしても……なんであんな嘘ついちゃうかな」
「別に、私の勝手だ……」
お察しの通り、リューの言った『他の常連』などにチョコレートは無く、正真正銘、世界にたった一つの『リューの手作りチョコレート』だったのである。
「全く愛い奴め、ほれほれ、ほれー」
「シル、やめてください………正直顔から火が出そうだ」
そのうち、両手で顔を隠すリューを見て満足したのかシルは深く、安堵の溜め息を吐いた。
「ベルさん、わざわざありがとうございました。 あ! そうだ、なにか食べて行きます? サービスしますよ~?」
ベルに向き直ったシルは笑顔でそんな事をのたまった。
照れ隠しに頭をぽりぽりと掻きながらベルは苦笑を返しながらも注文をする。
小一時間ほどして、倒れている兄を運びに来た、兄想いの妹が外に見えて、目に見えて動揺していた兎がいたのは別の話だ。
そして、案の定キルの記憶からはベルの存在だけが綺麗サッパリ消えていたのも別のお話。
バレンタイン終了! 皆様はどうだったでしょうか。作者?…………うん、まあ、想像にお任せしますよ………(白目)