リューさぁぁん!俺だーっ!結婚してくれぇぇ━━っ!   作:リューさんほんと可愛い

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真っ赤なからかい

 

 

それから程なくして来たのは二人の冒険者。

 

ベル・クラネル───どこにでもいるようなLv.1の冒険者であり、同僚のシルの結婚相手──とリューは解釈している。

 

そして、先程まで頭からこびりついて離れなかった黒髪の青年、キル・セウラ。 都市有数の派閥【ロキ・ファミリア】の幹部であり、これまた都市有数のLv.5の上級冒険者。

 

「どーもー、俺でーす。キルでーす」

 

「おう、剣兄(ニキ)じゃねぇか! 今日も求婚か!?」

 

「ちょ、やめろってオッサン。 アイズが剣姫だからって安直過ぎんだよあの無乳神は。 まあ、求婚の方は間違ってないけどな!」

 

全く、どうしてあの冒険者は恥ずかしげもなくああいう事が言えるのだろうか。途端に顔がほんのりと暖かみを持った。 今日はとても暑い気がする。鎧を着た冒険者は大変だな、とリューは思う。 尤も、暑いと感じるのはリューだけであり、オラリオは平均気温を保っているのだが。

 

「うわっ、てかくっさ! 酒くっさ! 近寄んじゃあねーこの飲兵衛共! お前ら、遠征で風呂に入れなかったガレス父ちゃんよりくせぇーぞ!?」

 

近寄る男性達を汚い物を触るようにつまみ上げ、店の外へ投げつけた彼はふぅーっ、と息を吐いた。直後。

 

「リューさぁぁん! 俺だ━━━ッ! 結婚してくれェ━━━ッ!」

 

息を吐き出したにも関わらず大声で叫ぶキル。恐るべしLv.5冒険者の神秘。いつか誰が解明してくれないだろうか。そんな事をベルは割と本気で考えた。

 

そしていつも通り躱され、床へ叩き付けられるのがいつもの状態だった。しかし、キルも人間。学習はしっかりするのである。

 

「───受身ッ! からのドーン!」

 

足から着地、そして全身にかかる勢いをバネに。 そしてキルは横へと飛んだ。

 

しかし、飛んだ方向にリューの姿はなく、あるのは壁。

 

直後、頭だけを木の壁に突っ込み、ぺたんとその場に力なく倒れるキル。

 

「な、何してるんだ……この人……」

 

呟いたベルはきっと悪くない。リューは心の中で同意しながら阿呆の元で足を止める。

 

「全く……しょうがない人だ」

 

足を掴んでキルを優しく引き抜く。そして彼に苦笑を見せてこう言った。

 

「ご注文は? キルさん」

 

「……! ………ミートソースのスパゲッティで」

 

一瞬、戸惑った後キルは笑った。そんな顔に釣られてふふっ、と笑みをこぼすリュー。

 

「承りました。 しばらくお待ちください」

 

「!? ………ッ…………ッ!?」

 

リューの柔らかい手がキルの黒髪をそっと撫でる。するといつもの態度は一変。 顔を紅に染めて明らかに動揺するキルの姿があった。

 

「き、キルさぁーん!? しっかりしてくださいぃ!?」

 

「う兎、君……俺……俺、もう死んでもいいや……」

 

───ほう、これは面白い、続けたらどうなるのだろう。なんてリューが考えてしまったものだからその好奇心は止まらない。

 

いつも恥をかかされている仕返しとばかりに回りに聞こえない程度に耳元で優しく囁く。

 

「キルさん、私です。結婚、してください」

 

からかいの意味合いが多いのだが、自分でも何を言っているのかわからない状態だった。

 

───な、なぜ今私はこんなことを言ってしまった!?

 

言ってから後悔してももう遅い。 羞恥で肌が茹蛸のように赤くなるリューに対してキルの顔は真逆の反応を示し、真っ白になっていた。

 

「…………」

 

気絶という結果に到達し、それ以降は全く動かずに、まさに石のようになってしまったらしい。

 

それを揺する兎に似た新人冒険者の姿もあったとかなかったとか。

 

 

◇◇◇

 

 

「あ………?」

 

目を開けると真っ白な天井があった。所々薄汚れていて、数年間使っているのがわかる。 というか俺の部屋だな。

 

「んん~~~………っはぁ」

 

伸びを一つして凝り固まった体をゆっくりとほぐしていく。伸びてる時ってなんか気持ちいいんだよなぁ……。

 

「そういえば、俺っていつ寝たよ」

 

風呂に入ったか? 寝落ちをしたのか? いやでも昨日は怪物祭でリア充の爆破を誓ってヘルメス様に逃げられて……?

 

「どういう、事だ………!?」

 

「………起きた?」

 

「のおぉっ!? あ、アイズ!? どうしてここに!? もしかしてお兄ちゃんの寝込みを!?」

 

「………」

 

「あぁ! うそうそ! ごめんって! お願いだからその冷ややかな目線を俺に送らないでくれ!」

 

「何度も言ってるけど、キルは自重を覚えた方がいい。あと自嘲も」

 

「すまん同じ単語にしか聞こえないんだが」

 

「気にしなくていい。 昨日は大変だったんだよ……?」

 

「ん? 何がどうしたって?」

 

「あの……兎みたいな子が『この人を預けに来ました』って運んできて」

 

「兎ぃ? ………誰だよ」

 

「………わかんない。 キルを届けて貰ったお礼を言おうと思ったらそのまま逃げられちゃった……」

 

「おぉう、いつぞやのトマト君を思い出すな」

 

しかし酒を飲んでもいないのにぶっ倒れるとはどういう事だ? はっ! ま、まさか、俺はなにか病気にかかっているのでは!? とても重大な病に!

 

「今日は……もう寝て過ごす。 アイズは……そうだな、ティオネ辺りにでも声を掛けて買い物でも行ったらいい」

 

「ダンジョンは………?」

 

「一昨日精神疲弊でぶっ倒れたのは誰だったっけ」

 

「………わかった」

 

「おう、おしゃれしてこい。 女の子なんだから時には必要だとお兄ちゃんは思うぞ」

 

「………この服装じゃだめ、かな」

 

「うん。 セクシーすぎる。 背中が空いてないのにしなさい」

 

「わかった………じゃあキル、またね」

 

「おーう」

 

はてさて、どうしたもんか……一人寂しいよぉぉお!うわああああ!

 

「ようクソキル」

 

「帰れ今日のわんこ。 俺の看病をしていいのは現在リューさんとリヴェリア姉さんとレフィーヤちゃんとシルさんに限る」

 

「前の方でお前の性癖がなんとなくわかった俺は悪くないよな?」

 

「エルフっていいよな。 アイズもどっちかって言うと妖精さんな気がする」

 

「それについては同意や」

 

「「どこから沸いて出た!?」」

 

「最初からいたで?」

 

「ウゾダドンドコドーン‼ 無乳神と今日のわんこに看病されたってうれしくねぇんだよコノヤロー!」

 

「ベート、縛ってスリッパ脱がせ。 く・つ・し・た・も」

 

「了解」

 

「ちょ、やめ! ごめん! だからくすぐりだけはかんべ─────アッ━━━━━!」

 

楽あれば苦あり。 本人は記憶が抜けているため覚えていないが、つまりはそういう事である。 因果応報ともいう。

 

 

 

 

 

 


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