リューさぁぁん!俺だーっ!結婚してくれぇぇ━━っ! 作:リューさんほんと可愛い
「………ッ!………ッ!」
「………!………ァッ!」
キルとベートが、ホームで争っていた。
そこにあるモノを睨め付け、全力を尽くして相手を叩きのめす。場合によっては抜剣も辞さない、という意志がハッキリと読み取れる。
「い、いい加減諦めやがれこのクソベート……ッ!」
「て、テメェこそ………これだけは譲れねぇ……!」
不意に、キルの拳がベートの鳩尾を衝く。
ベートは悶えながらもお返しとばかりに蹴りを金的に叩き込む。
「………ッ!? ぁあ、アァッ……!」
決して辛くない訳ではない。現に金的を狙われたキルは顔面を蒼白させ、目玉を引ん剥いている。
ベートも息絶え絶えになりながらも、ソレを一瞥し、キルを睨めつけた。
この光景を他人が見れば、十人中十人がで笑うだろう。
しかし、そこには『漢』が命を賭すべきモノが、確かに存在した。
決して、相手に譲れない、漢としての誇りを賭けた真剣勝負。
息が、漏れる。
二人の脳裏に浮かぶのは全く同じことだった。
─────最後のひとつ!絶対に譲れない!
「「焼きそばパンは俺のものだァァァァ!!」」
「もらう」
「あ」
「あ」
不意に、ひょいと手が現れ、焼きそばパンを掴んでいった。
「……漁夫の利」
≪剣姫≫アイズ・ヴァレンシュタインは、その小鳥のような可愛いらしい口で『それ』を含んだ。
「「畜生ォォォォォォォォォォォ━━━━━━━━━ッ!」」
二人は、泣いた。
なぜ、なぜこんな仕打ちを受けなければいけないのか。自分はただあれが食べたかっただけなのに。
魂揺れる絶叫が響いた。
◇◇◇
「………」
「………」
まさにズーン、という擬音が似合うように肩を落とした二人はその内相手へと視線を向ける。
「……チッ」
「なんですかコノヤロー。こっち見んじゃねぇよ」
「あぁ、別にテメェなんて見てねぇよ? なんだ自意識過剰か?」
サッ、とベートの肩へ手を置くキルは『悪かった』と珍しく謝罪の意を示した。
「………あぁ、俺も悪かった」
「じゃあこれでチャラだ。いいな? それより、睡眠を取ろうぜ」
んーっ、と伸びをするキル。
さらにこちらにニッコリと、好意的な顔を見せるキルに、ベートは戦慄を覚える。
肌が粟立ち、吐き気を催す。
───ハズなのだが。
なぜか、なぜかはわからないが、いつものキルだから、と本能が言っている。
だから吐き気がしない?
俺は病気なのか!? と本気で思う程度には混乱していた。
「さて、じゃあおやすみ───」
キルが口元を吊り上げ、三日月を作る。
「───永遠にな」
悪い顔だった。
しかし、いい顔だった。
キルが親指を人差し指の第一関節に叩き付ける。
瞬間、肩が爆発し、ベートの意識は闇に飲まれていった。
暗くなっていく意識の中、ベートが思った事は。
───なるほど。本能ではこいつのやることがわかっていたのか。
───だから吐き気が、しなかった。
───全く、それでこそ俺の認めたライバルだ。
───だがそんな事は関係ねぇ。
───起きたら絶対にブッ殺す。
ベートは重くなっていく目蓋に抗うこと無く、意識を投げ出した。
◇◇◇
「フッ、フハハハッ! フハハハハハハハ、ハァ━━━ッハッハハハハ!!」
ベートが倒れ、数秒。
狂ったように笑うキルがそこにはいた。
こいつ本当に主人公なのか。と思われる人もいるだろう。念のために言わせていただく。主人公だ。
「やったぞ!俺はッ! ついに!あの今日のわんこを爆殺させる事に成功したッ!」
ピクリとも動かない───死んではいない───ベートの遺体を放置し、通常ならばあり得ないような声を出し、笑う。
まさに狂喜。
「………さて、これからどうするか」
この男が、暇になると何処へ行くのか。
それは言わずもがなだろう。
そしてそこでいつも通り跳躍し、いつも通り床とキスをし、いつも通り求婚する。
「リューさぁぁあん! 俺だぁ━━━っ! 結婚してくれーッ!!」
はてさて、その答えが帰ってくるのはいつのことであろうか。
「完(大嘘)」