リューさぁぁん!俺だーっ!結婚してくれぇぇ━━っ! 作:リューさんほんと可愛い
迷宮都市オラリオ。
その一角にある酒場、『豊穣の女主人』。
そこではあるファミリアが、遠征成功の打ち上げを催していた。
「リューさぁぁん!俺だーっ!結婚してくれぇぇ━━っ!」
「………」
店員の一人に抱き付こうとする男がいるも、ヒョイ、と軽く躱され、綺麗な放物線を描きながら床との熱い接吻をする。
「く、唇噛んだ……」
「おい、鼻血出てんぞ」
「あ、ほんとだ」
◇◇◇
俺は、転生者だ。 といっても記憶は残っていないという衝撃のテンプレ転生。
小さい頃ロキに拾われて、そのまま冒険者になった。
一応、凄い派閥らしい。よく知らんが。
いや、そんな事よりこの『豊穣の女主人』に来たからにはやらねばならない事がある。
滾る熱情。高まる鼓動。
そう、俺は恋している。
店員さんの一人でエルフのリューさん……なんだろう。一目惚れだよ。可愛いふつくしいかっこいいの三拍子ですよ。惚れないほうがおかしいと思うよ、俺は。
まあ、さっき床とあっついキッスをした訳だが、あの程度日常茶飯事だ。だが、これでもマシな部類に入る。
「ろ、ロキ……酒」
「ん」
既に出来上がっている主神様から酒の入った瓶を受け取りそのまま喉に流し込む。
「「酒!飲まずにはいられないッ!」」
「ロキ!台詞被らせんな!」
「ハッ、何年一緒にいると思ってんや!そのくらいわかるわ!」
ちなみに、ロキには俺が転生者だと言うことははなしてある。だからこうやってネタを使えるわけだ。
「よし、じゃあロキ、あれやるぞ」
「あれやな、わかった!」
スウゥ、と呼吸をロキに合わせ、同時に吐き出す。
「「ベートのー!ちょっと良いとこ見てみたいー!」」
「おいテメェら!何を勝手に……」
「「ハイ、飲んじゃってー飲んじゃってー飲んじゃって!」」
俺とロキを中心にその声の嵐は拡大。もう騒音レベル。
「誰が飲むって言ったんだこの酔っぱらい共!」
「あっれー?もしかして飲めないのかなベートくぅーん?いいんだぜー飲めないならー」
「そーやそーやー飲めないなら無理に飲まなくてもいいんやでー」
「ただ、場は白けるけどなぁー……なー、ロキ?」
「せやなぁー?」
「………クソがあぁぁぁ!!」
そして
ふっ、チョロい奴よ。
「ほな、ウチはアイズたんの所行ってくるわー」
「おーう、いってらー……団長のー!」
「やらないよ?」
即答の団長様。
「ノリ悪いなぁ……リヴェリア姉さんはどうする?」
「私はいい」
再び即答のハイエルフ様。
「………年上のノリが悪い」
あからさまに肩を落としてガッカリしてますよアピールをするが、効果無し。年上に煽りは効かない。これも日常茶飯事である。
「リューさん、一緒に飲みませんか?」
「……申し訳ないが、私には厨房の仕事が──」
「リューさん料理できないですよね?」
「ぐっ……仕方ない……」
「いやぁ、リューさんと飲める日が来るなんて嬉しぶほぉっ!?」
左頬に強烈な痛みを感じ、振り替えるとお亡くなりになった筈のベート、もとい駄犬が拳を作っていた。
殴られた。
「おい!何一人で楽しんでんだ!テメェはこっちだろ!」
「ベートォォ!テメェェ!よくも俺の至福のひとときをォォ!」
「知ったことかよ!オラ飲め!」
「男の酌なんて不味くて飲めガボガボガボ」
口に突っ込まれる酒瓶。これが先程の状態ならばリューさんと幸せな一時を楽しんだものをコイツは!
奴の頭を鷲掴みして地面に叩きつける。そしてもう一方の手には酒瓶。
「テメェに酌はされたくねぇぇ!!リューさんなら喜んで受け入れるゥ!むしろしてくださいお願いしますッ!」
「なら俺はテメェの嫌がる事を押し通すだけガボガボガボ」
「ん~?なんだってぇ~~?ちゃんと喋れよベートォ?」
形勢逆転。ベートの口に酒を詰め込み、自分の持てるかぎりの力を込めて押し込む。
「オラァァ!テメェ!テメーのせいでリューさん厨房で皮剥いてんじゃねぇーか!いや、そんな姿も堪らなく可愛いけどよ!俺の幸せな時間を返せェェ!」
「知るかァァ!キル!今度こそテメェと決着付けてやるよッ!」
「よぉーし言ったなこの駄犬!今からダンジョン潜ってどっちの方が稼げるか勝負だコラァ!」
「上等だコラ!オラ行くぞ!」
「「落ち着けこのバカ共!」」
拝啓、名前も覚えていないお母様お父様へ。
こっちには素敵な人も、いい人も、姉貴分も、ムカつく野郎もいるけれど、なんだかんだ元気です。
一つ、願いを叶えてくれるならば───
────リューさんと結婚させてください。もしくはデレ顔。
そんな事が頭に浮かんで、次の瞬間には目の前が真っ暗になった。
リューさんほんと可愛い。