七月いっぱい休止して申し訳ありませんでしたぁぁぁぁッ!!
アニメで言えば『透明の赤ん坊』から『しげちー』までがっつり時を吹き飛ばしてしまった次第ですが……理由と言うより言い訳は『活動報告』にて……
飛行するシルフィードに乗るタバサとルイズは、定助がゴーレムに立ち向かう様をしっかりと見届けていた。
「ジョースケ……」
「…………」
心配そうに眺めるルイズと、本当に高みの見物とも言える無表情を貼り付けたままのタバサ。
対極としている二人なのだが、定助の動向に興味があるのはお互い様であるようだ。
「一体、どうやってゴーレムを完全破壊させるのかしら」
ルイズのその疑問に対し、定助の意図を理解したタバサが訂正を加えた。
「……賢明な者なら、傀儡の破壊より術者の撃破に動く」
「……やっぱりそうよ、ね…… 」
「蜂を全滅させたいなら巣を見つける事と一緒。『原因』を排除しなければ本末転倒」
「…………へぇ」
諭すような彼女の言い方に飲まれていたルイズだが、良く良く考えたらそうかと思い至った。
しかし今回はその『原因』が悪い。ギーシュの時は決闘と言う名目だったので、ワルキューレの『原因』たるギーシュが見えていたのだが、今回の場合は『原因』のフーケが見えざる者であるのだ。
「原因はフーケだ」としても、こっちはフーケに対する情報が手に少ない状態。
「顔も知らないフーケを、どうやって見つけるのよ?」
「……それは大丈夫」
ロッドをゴーレムに向け、攻撃を加えようとしながらタバサは答えた。
「あなたの使い魔は……とっくにフーケの正体に気付いている」
定助の行動からタバサは、フーケの正体を知っていると察知していた。
知らなかったルイズが驚いていた為、説明が必要だとタバサは続ける。
「まずフーケの正体は……ロングビル」
「……は? ろ、ろ、ロングビル!? ロングビルがフーケだったの!?」
案の定と言わんばかりの反応。
少し考えれば分かる事だとは思うが、色々な事があってキュルケ同様、頭が追いつかなかったのだろう。
まず、戦いの場に降りる事自体がないルイズには目の前で手一杯だった。それは騎士であるタバサと比較しても雲泥の差だろう。
「一緒に偵察していた使い魔が帰って来て、ロングビルが帰って来ないのは不自然。なら、暫定的に彼女を疑うのが自然」
「捕らわれたとかは?」
「考えられる。けれど、それにしてはあなたの使い魔は悠長にしている。時間制限をかけられていない証拠」
「……まぁ……うん、理に叶っているわ……」
冷静になれば思い当たる事ばかり。
定助の生還と、ゴーレムから離れた位置と言う事もあり余裕が出来た彼女は、つらつら考えていた。
だが事態はまだ、好転している訳ではない。
フーケの正体は分かれど、姿は見えず。またゴーレムは定助生存の動揺からか、動きに狂暴性が増している。
追い掛けられながらも、『ソフト&ウェット』による泡の攻撃と本人の身のこなしで蹂躙している定助。さっきキュルケに何か指示していた所を見ていたルイズは、キュルケがフーケ捜索で、定助がゴーレムの注意を向ける役割をしているのだと気付く。
(だけど……定助がいつまで保てるのか……)
そう危惧するだけでも、いても立ってもいられない。しかし逸る気持ちを抑え、まずは現時点で自分はどう貢献出来るかを考える事だ。
何もしないまま、定助だけに任せたくはない。
「私も、魔法で応戦するわ」
「……過度な攻撃は避ける。ゴーレムの注意を引く程度、狙われたらこっちが保たない」
「分かっているわ……もう、無茶しないわよ」
ルイズは杖を手に持ち、シルフィードにしがみ付きつつゴーレムを虎視眈々と睨み付ける。
ここからが正念場だ。『フーケを捕まえる』。
「……所で、あの……聞きにくいんだけれど……」
「……………」
「……何で、濡れているの?」
タバサの髪はじっとりと濡れ、ブラウスは少し透けていた。
かなりの水量を浴びたのか、髪の毛先からぽたりぽたりと雫が滴っている。
「……後日」
「え?」
「……後日、請求する」
「なにを!?」
それからはもう何も言わず、タバサもロッドを構えた。
定助はゴーレムの攻撃を、ちょこまかと蟻のように走り回り、避けて避けてひたすら回避に徹していた。
そしてその時に起こる隙を見計らい、『ソフト&ウェット』の泡を浴びせられ、泥にされては修復する……を繰り返している。
泥にされた時の修復は慣れて来たのか、比較的迅速な流れとなっている。しかし、一度に多箇所を破壊されるので、タイムロスは必須である。
この針で突っつくような嫌らしい攻撃に、隠れながらにしてもフーケは苛立っているようだ。ゴーレムの動きがやや、猪突猛進的になって来ている。
「……キュルケちゃん、まだかな」
しかしフーケに精神的疲労を与えている一方で、定助には肉体的疲労も伴われている。
謎の強化現象により耐久力が上昇しているとは言え、人間には限界があるもの。筋肉が軋み始めた。
「早くしないと、こっちが保たない……」
何とか足腰を駆動させ、ゴーレムの攻撃をひたすら回避している。
ゴーレムの頭部に、爆発が起きた。
シルフィードに乗るルイズが、援護してくれているのだ。
爆発の破壊はすぐに修復させるが、またしても入る邪魔に気が立っているようで、腕を振り回してシルフィードを叩き落とそうとした。
「有り難い! 恵みの爆発だ!」
感謝を叫んだ定助はすぐさまゴーレムから距離を取り、足を止めて小休止入れる。
言えど体は思いの外疲れてはいない、謎の強化現象はまだ継続されていたのだが。
「しかし……あまり時間かけていたらフーケに時間稼ぎと思われるか」
今の彼女は恐らく、プッツンしているので洞察力に欠けているだろう。
それも暫くしてクールダウンしてしまったのなら、明敏な彼女なら定助が何故、ゴーレムの相手だけをしているのかに気が付くハズだ。そうなると周囲の状況に目を配り、キュルケが彼女を確保する事が困難となってしまう。
ならばフーケに見せ付けてやるのだ。ゴーレムを停止させ、持ち前の洞察力をも撹乱せんばかりの策を。
「ならばまずは……ゴーレムがあっちに気が向いている内に……」
するとどういう訳か、定助は『ソフト&ウェット』に地面を殴らせたではないか。
殴らせてすぐ、定助は退避する。何かその場で起こるようだ、定助はある程度離れた後に振り返り、再びゴーレムを視界に置く。
「おぉ〜い!」
そしてゴーレムから視線を上にして、シルフィード基、操り手のタバサに対して大袈裟な動作でサインを送った。気付いてくれる事を祈り、必死に腕を振る。
「……?」
ゴーレムの頭上を飛び、注意を逸らしていたタバサはふと定助へ視線を向けた時に、彼の奇異な行動を目の当たりにした。
腕を前から後ろに振り、「こっちへ来てくれ」と指示しているようだとタバサはすぐに理解出来た。
何か考えでもあるのだろうか。頭脳明晰な彼女であれど、定助の考えが読めないのだ(『ソフト&ウェット』の存在が拍車をかけている)。
それでもあまり彼とは直接話したりした事は無いのだが、ギーシュとの戦闘やこれまでの実績を見て、まず無駄な事をしない人間であると、少なからずタバサは隅に置いている。
だが主人共々、無茶な事を行う危うさは非常に厄介であるとも知っている。無論、味方にとってと言う意味合いである。
「…………」
しかし、彼女は定助の指示に従おうと考えた。
ギーシュの時は美味しい思いをさせて貰ったし、お礼でもしようと言う思いからだ。
「……理解した」
すぐさまタバサはシルフィードに指示を出し、ゴーレムの背後……定助の方への誘導を始めた。
「え? また戻るの?」
「何かありそう」
「何かって……ジョースケが何かしていた?」
「……私にも分からない」
本当に考えの読めない人間だが、今の彼なら大きな無茶はしないだろうか。
しかし自分に策がない今、行動する者を邪魔立てする資格はないだろう。
キュルケもルイズもフーケ捕獲に乗り出しているのだ、退却はやるだけやってからにしよう。そう考え直し、タバサは行動に移った。
シルフィードは空中で大きな弧を描き、ゴーレムの背後へ飛び抜ける。
クルリと体を回し、ゴーレムも進行方向を真逆に向けた。シルフィードの飛ぶ先には、定助が立っている。
定助がまた『ソフト&ウェット』を発現させ、再度攻撃に入ろうかとしている所を見逃す訳がない。
ゴーレムは羊を追い立てる牧羊犬が如く、出来るだけの全速力で直線的最短ルートで定助を潰しにかかろうとする。
腕を構え、殴る準備を取る。崩れさせられる前に、攻撃を仕掛けようとする心理だろうか。
「踏み込め!『落ちる』」
しかし、全力で攻撃をしようと力強く踏み込んだ左足が、ズボリと膝まで地面に埋まってしまった。
バランスを崩し、構えた腕を上下させて安定させようとするが、それでさえももう片方の足を踏み込ます事になってしまい、両足が見事に地面の中へ突っ込まれてしまう。
大きな音を立てながらゴーレムは右手を付き、前のめりになって倒れて停止した。
この辺りは非常に地下水が豊富である。
ゴーレムが自身の体の修復の為に地面を削った事が仇となり、定助がこれを利用している訳だ。今の方法もそれにあり、『ソフト&ウェット』の能力によって奪われ、吸い上げられた泡が地面を地下水で水浸しにし、泥となった。
「そう言えば言っていたっけ……『泥濘みがないだけでも助かった』って。残念だけど、ここらは泥濘んでいたなァ」
もがけばもがく程、足は泥の沼にズブズブ飲まれて行き、両足の膝までが埋まった。空いている左手を地面に立てて出ようとするが、その腕さえも飲み込まれると気付き、手を上に突き出したような滑稽なポーズを取っている。
それでも足を泥中に咥え込まれたゴーレムは何とか足掻いているものの、ある時に諦めたように、ピタリと動きを止めてしまった。
「……ん!?」
フェイントか何かとつい身構えてしまうが、ゴーレムは項垂れた姿勢のままだ。
「……あれ、止まった?」
唐突に一時停止ボタンを押したような停止。
術者に何かあったのか……もしや、キュルケがフーケを発見したかと、定助は辺りを見渡した。
「キュルケちゃんかなぁ……怪我してなきゃいいけど」
とりあえずゴーレムは停止したのだが、フーケの策の可能性も否めない為に警戒は怠らない。
警戒しながら定助は、服に付着した、既に固まっている泥を剥がすように払って行く。白い服には泥の跡が良く目立っているのが悔しい。
「染みる前に洗濯したいし」
彼は余裕気味に呟いた。
その時、風がフワリと吹き抜ける。
風上の方を見てみると、こっちまでゴーレムを誘導していたシルフィードらが、安全を確認して降りて来ていた。
シルフィードは翼を一回、二回はためかせて落下速度を落とした後、優雅に柔らかく着地をした。無表情のタバサと、驚いた顔をしたルイズが定助を見ている。
「ジョースケ、大丈夫!?」
翼のはためきが止まった瞬間に、ルイズの声が掻き分けて飛び込んで来た。
定助は両手を広げて、平気だとアピールする。
「オレは大丈夫だけど……降りて来て良かったの?」
チラリとタバサを見やりながら質問する。彼女は声にするよりも先に頷いて肯定した。
「あれに注がれる魔力の波が一定になった」
定助はパッと振り返る。
ゴーレムはさっきまでの姿勢のまま、完全停止していた。それは雨風に侵食される古城のように、ポロポロと体の欠片を落としている。動かすのに必要な範囲以下の魔法になった為、人型を保つ力が落ちて行ったのだろうか。
「前みたいに、一気に崩れないんだ」
「並々に注がれている……一先ずセーブしている状態」
「はぁ……そんな器用な事出来るんだなぁ」
例え『フリ』をしているだけにしても、最早足腰は使い物にならない。そこまでをキチンと認識した上で、タバサは定助・キュルケの地上組を迎えに来た訳だ。
「『破壊の円盤』は私が持っている……フーケが逃亡したとしても、今後は深追いしない」
「君の判断に従うよ、そっちの方が合理的かな」
感心したように定助は呟いた後、改めてルイズの方へと視線を向けた。
彼女は心配そうな目で定助を見ている。
「ご主人、大丈夫だって。ほら、ピンピンとしている」
「な、なによ……わ、私が心配すると思って?」
「へぇ」
先程の心配そうな表情を隠すように、そっぽを向いた。「心配していない」とは言ったもので、定助に運ばれている時に泣きながら「心配させるな」と言っていたではないかと、定助は思い出して吹き出した。
そんな彼女の素振りが愛らしかったのだ。
「あんた笑ったでしょ!?」
「え? あ、違う違う……」
問い詰めるルイズから逃れようと、定助は気になっていた事を二人に聞く事にする。
「『破壊の円盤』はフーケが持っていたんじゃなかったのか?」
定助はまだ『破壊の円盤』の事を知らなかった。廃屋の中で発見した事を知らないので、やや困惑めいた表情で質問している。
タバサは懐から『破壊の円盤』と呼ばれるものを取り出し、説明してくれた。
「何故かフーケは、『破壊の円盤』を手元から離していた」
「そうそう、そこが奇妙なのよ。あの廃屋の中に置いていたのだけど」
後ろからルイズも説明した。
「仮に私達を誘き寄せる為の餌だとしても、その後に襲って来た所を見たら無意味としか言えないわね」
フーケの行動に対し、思う所をルイズは語る。
あの廃屋は本当に拠点で、『破壊の円盤』だけを置いて出ていたのだろうか……いや、担ぐ程の代物なら兎も角、円盤は懐に入れられる程に持ち運びの安易な物だ。盗みたい程欲しかった物なら、肌身離さず持っていられるだろうに。
しかし、そんな考察を巡らせるルイズとタバサを他所にして、定助は高温部に突撃する戦車のように『破壊の円盤』へ食らい付いた。
「ちょ、ちょっとそれを良く見せてくれ!!」
定助は円盤を持つタバサの腕ごと掴み、驚愕の表情で円盤を眺めていた。
ルイズがシルフィードから飛び降り、奇怪な定助の行動を止めに入る。
「ジョースケ!? なにしてんのよ! それは学院の秘宝なのよ!? 壊しちゃったらどうするのよ!!」
「壊さない、壊さないから! その『DISC』を見せて欲しい!」
「でぃ、ディスクぅ?」
ここでタバサは、定助の異様な興味に並々ならぬものを感じた。
『破壊の円盤』は通常、平民には見せられない。ましてや、学院に来て一週間も経過していない彼がこんな興味を示すとは、好奇心が強いだけとでは、説明がつかない。
言うのは、定助がまるで「見た事のある」ともとれる反応をしているからだ。
「…………」
タバサは黙って『破壊の円盤』を定助に渡した。
彼は受け取るなり、まじまじと眺め出した。
「これはCDかな? DVDかな? 今流行りのBlu-rayではないか?」
円盤を見る彼の口からは、二人には全く馴染みのない言葉がズラズラと放たれて来る。
ルイズは怪訝な表情で、円盤を凝視する定助を見ていた。
「しーでぃー、ぶるーれいって、なんなのよ!?……あんた、『破壊の円盤』を知っていたの?」
「いや、知らないも何も、この形状はDISCだ」
「ディスクは分かったわよッ!」
「タイトルは書いてない……ようだけど」
『破壊の円盤』をくるくるペタペタと回し、観察する定助。
流石にここまで能動的に触られては、傷でも入ってしまいかねない。それを危惧したルイズは、自分の背丈より高い位置にある定助の持つ『破壊の円盤』を、ジャンプして取り上げた。
「あぁ、もう少し調べたい……」
「駄目ったら駄目! 学院の秘宝だって、ここに来る前に聞いたでしょ!? 何か間違いでもあったら、フーケを捕まえられなかった以前の大問題になるわよ!」
「ご主人聞いてくれよぉぉ!」
「いいからキュルケを探すわよっての!!」
タバサはこの二人に付いて行く事に諦めたようで、シルフィードを一時上空に飛ばさせ、一人でゆっくり森の方へと歩き出した。
「先に行っている」
「あ、お願いね……って、往生際悪いわよジョースケ!?」
「なぁなぁ、お願いだ! もう少し、もう少しだけ!」
二人からタバサが離れた後も、定助の懇願は続く。
彼の妙な執着に対するタバサなりの興味はあるのだが、親友とフーケを探す事を優先させた。
「駄目なものは駄目ッ!! あんたはさっさとフーケ見つけて来なさいよ!」
「見つける! 見つける! だからもう少し見させて!!」
「鬱陶しいわねぇ!? 学院の秘宝を、そう易々と触れるなんて思わないの!! 指紋付いたらどうするの!?」
「だったら『ソフト&ウェット』に持たせるから!」
「嫌よ!? もっと得体が知れないじゃない!?」
そこら中は穴だらけであり、泥塗れにもなっている。必要以上に汚れたくないタバサは穴を避ける為、魔法で少し飛び上がる。
彼女が十メートル程度離れた時、暫くルイズと蛙鳴蝉噪と話し合っていた定助から懇願の言葉が叫ばれた。
「もしかしたら、もしかしたらそれ、『スタンド』のエネルギーがあるかもなんだよぉ!」
その時、ピクリとタバサは反応し、振り返った。
振り返った先は定助…………ではなく、ゴーレムの方。
「…………」
タバサは浮遊したままでターンし、全身を後方に方向転換。
「……してやられた」
無感情ながら、焦燥感と悔しさを滲ませ合わせた言葉を吐いた。
視線の先のゴーレムが、左腕を構えて、殴るポージングを取っていたのだ。
それは彼女にとって、見覚えのある構え方。
空中にいた自分達に対して行った、ゴーレムの冴えた攻撃方法。
ゴーレムの構えは頂点まで来ている……つまり、『発射「可」能』である。
標的は『ルイズと定助』。
この空気を感じ取ったのは、定助もだった。
「……なに?」
ゴーレムは泥沼に嵌った右腕を切り離し、両足が固定されたそのままの姿勢で体を捻り、左腕を目一杯後ろに引いている。
この状況、ルイズには既視感があった。それは、シルフィードに乗っていた時に行ったあの攻撃だ。
「ジョースケ! にげ……ッ!!」
定助はゴーレムのやる攻撃を目にしておらず、察知に至るまでに遅れが生じてしまった。
その『遅れ』の中で、拳を飛ばすまでは非常に早かった。
限界まで捻られた体は、軋みながらも大回転。
その遠心力により運動エネルギーを相乗、前方へ突き出された左腕は腕の限界まで来た所で意図的に砕け、勢いそのままに定助とルイズの方へ急速に吹っ飛んだ。
「……ッ!!」
ゴーレムと定助らまでの距離は百メートル。飛ばされた拳は距離を縮める度に速度を上げている。
視界いっぱいに広がる巨大な岩の塊が、恐るべき速さで迫る。もうそれは、定助とルイズが全力で回避するには難を生じる状況だった。
並びに、ルイズはその勢いと恐怖に圧倒され、体が膠着してしまっていた。
「避けるんだぁぁッ!!!!」
定助の叫びが轟く。
位置は、ルイズがゴーレムの方に近い為に、拳に当たる人物はルイズが先である。定助は必死に彼女を死守せんとばかりに、『ソフト&ウェット』を発現させてルイズの前へ出ようとしていた。
ルイズは、『破壊の円盤』を手に持ったまま、生物としての防御姿勢から頭を抱えるようにして目線を下げてしまった。
拳はもう眼前に迫っている。走馬灯を巡らす暇もないまま、来る衝撃に怯えるのだった。
「…………」
ふと、風が止んだ事に彼女は気が付いた。
「…………?」
拳の空を切る轟音と、定助の叫びが途絶えた事に気が付いた。
「……え?」
一向に来ないゴーレムの拳に、頭が冷えたルイズは違和感を覚え、辺りを恐る恐る見渡す事に決めた。
閉じた目を開けき、ゆっくりと頭を上げ、写る光景全てを見渡せばそこは『白金の世界』。
森も、ゴーレムも、定助も、駆けつけるタバサも全て色がくすみ、モノクロとなっている。
そして何よりも、全てが『停止』しているのだ。
「……なに……これ?」
困惑するルイズは、自身の身に何が起きているのかをまるで理解出来ていない。
拳は自身の十歩手前でピタリと停止し、ルイズの前に立とうと定助が横から『ソフト&ウェット』を連れて走っており、タバサがロッドを構えてこちらに向けている事が鮮明に見て取れた。
雲が千切れる様、落ちた葉、欠片を飛ばすゴーレム、血管の浮き上がる定助の腕、飛び立つ鳥……様々な事象が石像のように動きを止めていたのだ。
ルイズは最初、これは熟練の剣士が、「全てがゆっくりに見え、相手の剣先の軌跡が分かる」と語る超人的な話を思い出した。恐らくはその類を自分が体感しているのだろうと思った。
しかし今、自分の目の前には千切れ飛んだ草がある。それをルイズは掴み、動かせてみせたのだ。
「……な、な……」
『感覚の暴走』なんて次元ではない、本当に全ての『時間が止まっている』のだった。
「な、なんなのよ……これ……!?」
急に恐ろしさが増して来た。今、自分には何が起きているのか。
彼女は未知の体験に、手足をガクガクと震わせている。動揺から、彼女は顔を撫でた。
顔を撫でた左手の指先が、何かに当たった。
彼女は上目遣いで、その何かを見やった。
「え……?」
自分の頭に、『破壊の円盤』が入り込んでいる。
髪と額に突き刺さるように、『破壊の円盤』が半分頭に入り込んでいたのだ。
「…………え? え?」
更に意味の分からない事象が降りかかる。ルイズは完成に当惑し、単調な声しか出せなくなっていた。
何故時間が止まったのか。『破壊の円盤』が何故自分の頭に入り込んでいるのか……彼女の認識と見解では理解に至れない。
ただ、その恐怖と不安から、隣にいる定助の方へと無意識的に近付いていた事だけは気付けている。
ふと、目の隅に『動き』を捉えた。
停止した世界では逆に不自然法則とも取れる、『動き』があった。
ルイズは縋るようにその『動き』に目を勢い良く向ける。
「あ……なっ!?」
何もいなかった自身の前方に、靡く長髪と隆々とした筋肉の背中があった。
髪は薄い緑に輝き、人外じみた青い肌色とその肌を走る稲妻のような模様が印象的だ。
だが、そんな詳細な事よりも、ルイズはこの『謎の人物』が放つ巨大なオーラに言葉を飲み込んだ。
背中だけだが、そこから放たれるオーラは輝いているように見え、さしずめ『神話の戦士』と錯誤してしまう造形的美しさと雄々しさをひしひしと理解出来た。
見覚えのあるシルエット……何故か自分は、この人物の扱い方をマスターしているような気分に陥った。
圧倒的な安心感と信頼感が、目の前のこの人物に感じている事に気付いた。
ルイズは、拳の前に立ち塞がる人物に対して話しかけるように、頭の中で浮かんだワードを唱えるのだ。
「……『時は、動き出す』……」
瞬間、世界に色が戻り、空気と轟音が四感を支配する感覚を取り戻した。
そして次に聞こえて来たのは、強烈なインパクトと爆音と、空気を震わす雄叫びだった。
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!』
目の前の人物は、雄叫びを放ちながら、全身を高速で駆動させてゴーレムの拳を、己の拳で『砕いていたのだ』。
と言っても、まだ終わらないんですけどね……
そんな事より『吉良吉影は静かに暮らしたい』と『山岸由花子はシンデレラに恋をする』が逆転しとるべさ。
私個人としては、大いにアニメスタッフを信仰したい程の入れ替えと思いますな。
失礼しました!改めて、ゼロリオンをよろすぐ!