ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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泡沫のアウェイクン。その3

 男女二人の軽快な会話が聞こえて来る。

 聞いた事のない声のハズなのに、何故か自分は聞き覚えがあった。

 それに二人は恋人同士と言う訳ではなく、姉弟の関係だとも何故か知っていた。

 

 

 声がする部屋を覗いてみた。

 清潔に整えられた、なかなか広い洗面所だ。

 四人並んで洗顔出来る程に横へ広がった洗面台の前、声の主たる男女二人が楽しげに談笑に浸っていた。

 男の方は髭を剃り、女の方はメイクをしている。「サナダ虫」やら「アラカワシズカ」やら、良く分からないがその二つを話題の中心にして話していた。

 

 

 二人の後ろから覗き込むように顔を出した。男の方がしていた髭剃りに、興味を持った。

 

「あのな……近づくなよ……」

 

 自分に気が付くなり、男は鬱陶しそうな表情を隠そうともせず睨み、離れさせようとする。

 ふと、自分の顎を撫でてみると、髭が伸びている事に気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は突然、移り変わった。

 今度も確かに見覚えのある風景だ。

 青空の下、目の前には桶が置かれて、隣には見知ったメイドのシエスタがいる。自分とシエスタは一緒に桶の中の水と洗濯板を使用し、洗濯をしている。

 石鹸による泡が、桶から溢れんばかりに膨れ上がっている。

 

 

「もう、ジョースケさんったら! さっきから『そうだそうなんだ』って、『そうそう』ばっかり!」

 

 洗濯の途中、そう言って彼女は泡のついた手で口を隠し、あははと笑う。

 笑われ、照れ臭そうに自分ははにかんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は移り変わった。今度はまるでオーバーラップするかのように、前の洗面台の場面に移行している。

 自分は顎に、泡立てたシェービングクリームを塗りたくり、男から剃刀を貰う。

 一回水に浸し、剃刀を顎に強く圧迫して髭剃りをした。

 

「ちょッ、ちょっと、危ないわ!!」

 

 女がメイクの手を止め、髭剃りを中断させようとする。

 無理もない、剃刀は唇を巻き込もうとしていたからだ。

 しかし男が彼女を制止させた。「いいから待て待て」と、いやに楽観的に見ている。

 

 

 そして自分は、豪快に唇ごと剃り上げ、鈍い音を撒き散らして剃刀を頭の上まで上げた。女が顔を覆い隠す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また場面が変わった。再び、オーバーラップによる映像移行だ。

 

「こちらも洗えましたよ!」

 

 シエスタが洗い終えたご主人の下着を取り、ニコリと微笑んでいる。

 自分は下着を洗うのが苦手だ、泡立てて擦れば、力が入り過ぎてしまうからだ。

 そうなると、生地の薄い下着はすぐに破れてしまう。

 

 

 

 

 ……石鹸を『泡立てる』

『泡』?

 

 

 

 

 だからいつも思う。

 全ての泡一つ一つが、汚れを奪ってくれないかなと。そうすれば、擦ってやる必要もなくなる。

 

 

 

 

『泡』……『シャボン玉』は、『泡』……

 

 

 

 

 手に付着した泡を、桶の中の水で洗い流した。

 誰かが自分を呼んだ、衛兵さんだ。衛兵さんの呼び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 場面はまた変わった。洗面台に戻っていた。

 剃刀で唇ごと抉り剃ると言う残酷な光景から目を逸らしていた女が、恐る恐る自分を見やった。

 男の方は「おかしいな」と言いたげな怪訝な表情。

 唇は切れていないし、髭もきちんと剃れていた。

 

 

 それから何度か、同じ剃り方で髭を剃るが、血も出ていないし肉も抉れていない。

 髭の消えた、スベスベの自分の肌を心地良さそうに撫でていた。

 顎に付着していたクリームは、泡立って空中にふわふわ浮かんでいる。

 

 

 

『剃り方』……シェービングクリームの『泡の使い方』……

 

 

 

 

 剃り終えて洗面所を出ると、姉弟の楽しげな大笑いの後に、阿鼻叫喚とした二人の悲鳴が背後より聞こえた。

 

 

 

 

『泡』……『泡』……

 

 

 

 

 思い出した、『シャボン玉』は『泡の一部』だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴーレムの足は地面に埋め込む程の、強烈な重圧と破壊力を以て定助を踏み潰してしまった。

 ルイズは目の前の光景が信じられない。あの定助が、自分の目の前で『死んでしまったのだ』。

 

「うっ、うあぁ……!」

 

 凶弾に倒れるが如く、呆気のない幕切れ。

 このゴーレムの足の下には、影も形も存在しない程に圧死となった定助がいるのだろうか。そんな想像をしただけで、嗚咽が込み上げて来る。

 

 

「私の……せいで……!!」

 

 自分は完全に、頭に血が昇っていた。

 分かってはいたのだ、あまりに強大過ぎる敵の前にいるのだと。しかし間違った闘争心を作り上げ、他の事柄への注意を潰した罪深きプライドが、彼女を支配していた。

 彼女にとって貴族とは、『決して敵に後ろを見せない者の事』だ。敵前逃亡など、持っての他と考えていたのだ。そんな自分の貴族論が足枷となり、プライドとなり、馬鹿みたいに挑んで英雄気取り。

 

 

『ゼロのルイズ』と呼ばれる劣等感も、それに便乗する。『逃げればゼロのままだ』と言う、強迫観念とも恐怖とも見える感情も、プライドと共に無謀な闘争心を育て上げた。

 止められないプライドと観念がルイズを突き動かし、ゴーレムを目の前にしてやっと臆病な自分が顔を出す。

 

 

 

 

 結果はどうだ、自分を支えてくれた使い魔を殺す事になったのだ。

 

「ジョぉスケェ……!!」

 

 悲痛な呼び声と涙が溢れる。

 彼女は貴族であり、由緒正しき家系のメイジであり…………年頃の少女でもある。吹き上がる感情を抑えてくれる、厳格と言う名の蓋を持ち合わせていやしない。

 

 

「……ッ!!」

 

 故に使い魔を殺された怒りさえも、抑えていられなかった。

 泣き面なのにまだ杖を向ける様は非常に滑稽だ。

 

 

 

 

 ゴーレムの足がまた、ゆっくりと持ち上がって行く。

 ルイズは震える唇で必死に、呪文を唱えようとするのだが、

 

 

 

 

「うわっ!?」

 

 その前に彼女は、後ろから強い力が襟口を掴み、思い切り引き摺られる形で呪文詠唱を中断される。

 強い力は瞬く間にルイズを森の中へ連れ込み、そのままゴーレムの視界から逃れさせた。

 

「な、なに!?」

 

 土を削り、舞い上がる粉塵を起こして彼女は更に森の中へと引っ張られる。

 とても抵抗出来るような力ではない、まるで馬に繋がれて引き摺られているようだ。

 

 

 

 

「うぅ……!?」

 

 茂みに突っ込み、少し開けた箇所へ出たら、引っ張る謎の力は消え去った。

 代わりに現れたのは、自分を見下ろす怒りの形相のキュルケである。

 

 

「……全く……この、馬鹿ッ!!」

 

 引き摺られていたのは、彼女の魔法で引き寄せられていたのが正解だろう。ルイズは混沌とする感情の海に溺れ、現状なにが起こったのかが理解出来ない程となっていた。

 

「あ……え?……きゅ、キュルケと……」

 

 何か言おうとする前に、タバサの声がする。

 

「とりあえず、乗って」

 

 

 彼女の方へ視線を向ければ、使い魔のシルフィードが隣に鎮座していたのだ。

 

「さっ! 早く立って!」

 

 キュルケは急かす。ゴーレムが消えたルイズの捜索を開始し、森の木々を薙ぎ倒してつつこちらへ迫って来ていた。

 

「一刻の猶予もない」

 

 先にタバサはシルフィードに乗り、手を差し伸べる。だが何故か、ルイズは座り込んだままその手を躊躇してしまう。

 

「何やってんのよ!? 立ってってば!!」

「……でも……」

「……あぁもう! 焦れったいわねぇ!!」

「きゃあ!?」

 

 誘導されるままにルイズは立ち上がるが、茫然自失とした状態を見かねたキュルケにより再度……今度は自身の腕で引っ張り上げ、シルフィードの背に無理矢理乗せられたのだった。

 二人が乗った事を確認すると、タバサはすぐに命令を下す。ゴーレムはすぐ後ろ。

 

「……飛んで。ゴーレムの攻撃範囲外まで」

「キュイ!」

 

 

 呼応する声の後、シルフィードは草木を掻き分けて飛び上がり、一気にゴーレムの頭より高い位置へと到達する。

 ここまでなら大丈夫だろうと、タバサは使い魔に滞空を命じた。

 

 

 安定してすぐにキュルケの怒鳴り声が響く。

 

「何やってんのよあなたッ!? 死ぬ気ッ!?」

 

 あまり怒りなどの激しい感情を表に出さないキュルケが、目を吊り上げてルイズを叱り付けている。

 いつもならルイズも怒るなりして口喧嘩へと運ばれるのだが、本気の怒りを見せる彼女の迫力にただただポカンとするだけだ。

 

「貴族の誇りがあるのは良いけどねぇ!?」

「きゅ、キュルケ……?」

「分かっていたわよ! あなたがみすみす、賊を逃すような人間じゃないって事を!……だけど……」

 

 彼女の声は震えていた。

 

 

「…………死んだら、お終いじゃないッ!? 分かってんのッ!?」

 

 彼女の口元が、悔しげに剥き出される。その凶暴な表情を見られたくないが為に、ルイズから顔を背け、黙ってしまった。

 

 

 

 キュルケも目撃してしまったのだろう、定助の死を。

 彼に対し好意を持っていた彼女もまた、抑えようのない怒りの矛先を得たい程に悲しいのだろう。だが今はそれを棚上げにし、無茶ばかりのルイズにらしくもない怒号を飛ばしているのだ。

 

 

「……『破壊の円盤』」

 

 横にいるタバサは相変わらずの無表情のままルイズに近付き、取り返した『破壊の円盤』を持っているかと聞いて来る。

 悲しみもない彼女に怒りが現れかけたが、タバサは定助と殆ど接点がない。悲しまないのは当たり前か。

 ルイズは震える手でポケットから『破壊の円盤』を取り出し、タバサに見せる。

 

「これ…………」

「……任務完了」

 

 するとすぐにシルフィードの耳元へと近付き、命令をしようとした。

 何を言うのか察したルイズは、咄嗟に肩を掴んで、引き止めてしまう。

 

「ちょっと!? フーケは、フーケはどうするのよ!?」

「……主目的は、『破壊の円盤』」

「嫌よッ!! 私の使い魔が…………ジョースケが殺されたのに、逃げたくないわッ!!」

 

 恐らくタバサはこのまま、学院に引き上げようとしたのだろう。だが、それをルイズは許さなかった。

 無謀だが、ジョースケを殺された憎しみが勝る。

 更にジョースケは自分のせいで死んだのだ、せめての報いとしてフーケを捕らえたいと考えているのだろう。

 

 

「認めない」

 

 その真意を承知の上でタバサは、速攻で拒否をする。

 

「フーケは森の中、何処にいるかも分からない。シルフィードでさえも見つけられない。また、ゴーレムはこちらの攻撃を実質的に物ともしていない」

「うう……」

「更にここは敵にとって有利。交戦はこちらに条件が悪過ぎる」

 

 分かりきった事だが、思いは止められない。

 ルイズは泣き出してしまい、暮れるような儚い声でタバサに申し続ける。

 

「だけど……だけど……ジョースケがぁ……!」

「…………」

 

 

 項垂れるルイズに対し、タバサのあの、無感情的な声が飛び込んで来る。

 

 

 

 

「……『情』は時として、枷となる。それを抑えなかったからこそ、使い魔の死を招いた」

 

 次に、今まで見た事のないような冷めた目で見つめてくるのだ。

 高嶺の冷気が突然、雪崩れ込んで来たかのような冷たさを持っていた。

 

「…………ッ!?」

「主従共々……『分』を、弁えるべきだった」

 

 無数のナイフを全身に差し込まれるような、鋭利な冷気をルイズは感じ取った。

 それは一瞬、全身に満たしていた感情の渦を停止させ、タバサに対する底知れぬ恐怖を植え付けられる事となる。

 声かけすら躊躇うルイズから、タバサは『破壊の円盤』を取り上げた。今の彼女に持たせるのは、少し危ういかと判断しての事だ。

 

 

 一通り終えたタバサは、再度振り返りシルフィードに命令を出そうとした。

 

 

 

 

 この時既に、ルイズの中で何をするべきなのかを、完全に見失ってしまっている。

 キュルケのように、悔しさを嚙み殺せば良いのだろうか。それとも、タバサのように徹底して冷徹になるべきなのだろうか。

 

「学院に……」

 

「戻れ」……と、続くのだと思われた。一人の平民の犠牲を以て、『破壊の円盤』の奪還に成功したと平穏に戻れるのだろう。

 

 

 

 

 そうなろうとした時、何かを察知したタバサは命令を変更した。

 

「訂正。回避して」

 

 言い終わると振り返り、ルイズとキュルケを見て忠告する。

 

「掴まって」

 

 

 瞬間、シルフィードの体が右側へ体を唸らせながら、旋回する。

 

「うわっ!? ひゃあ!?」

「た、タバサぁ!?」

 

 突然の事に反応が追い付かず、謎の命令を下したタバサに対し、喪失感に暮れていた二人の驚き声が集中する。

 何故いきなり、と理由を掴む間も無く遠心力による体への負荷に息を詰まらせながらも、必死にシルフィードにしがみ付いた。そして、一旦停止した時に、薄目で元いた場所を見やる。

 

 

 

 

 何か、巨大な塊が真下から現れ、高速で飛んで行った。空気を切る音が鈍く、鼓膜を振動させる。

 一体何がどうなっているのやらと、ルイズは地上を覗き込んだ。

 

 

「い、今……下から、こっちに……!?」

 

 こっちを見るゴーレムの右腕が、無くなっていた。

 次にゴーレムは、左腕を振りかぶって構える。

 

「もう一度掴まって」

 

 タバサの声が聞こえたと同時に、ゴーレムは思い切り左腕で殴るモーションを取る。すると、その左腕はいとも容易く外れ、こちらへズームするかのようなパンチを天高く飛ばして来たのだ。

 

「今、避けて」

 

 シルフィードへ命令を下すと同時に、先程と同様の飛行方法で向かって来る石塊を回避してみせた。

 フーケも、『破壊の円盤』を取り返さんと躍起になっているようだ、かなり変則的な方法でシルフィードを撃墜しようと始めたのだ。

 

 

 だが速さで言うなら、シルフィードに分がある。

 さっさと退散すれば、ゴーレムの攻撃も追尾も跳ね除けられるハズだ。すかさずタバサは相手をせず、学院への空路をとるようにと己が使い魔に命令を下した。

 

 

 

 

「た、タバサ!! 駄目、戻って戻ってッ!!」

「……?」

 

 命令を下し、シルフィードがゴーレムに背を向けた時、親友キュルケの焦燥に燃えた声が痛まんばかりに発せられる。

 一体何事かとタバサは振り返るが、すぐに異変に気が付いた。

 

 

「……大誤算」

 

 

 

 

 キュルケの前にいたルイズが、消失していたのだ。

 

「あそこよ、タバサ! さっきの回避の時に、振り落とされたのよ!!」

 

 彼女の指差す先に、真っ逆さまに落ちて行くルイズの姿があった。その下にはゴーレムが待ち構えており、早く助けなければ敵の攻撃範囲内に到達してしまう。そうなっては救出は困難となるだろうに。

 確認してすぐにシルフィードへ命令を出す。

 

「救出。多少無茶しても構わない」

 

 待ってましたと言わんばかりにシルフィードは、落ちて行くルイズ目掛けて滑空を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 迂闊だった。

 ゴーレムの文字通り、身を削る攻撃による動揺が油断となったか。

 迫力と脅威による精神的動揺は、定助を殺されて不安定になっていた彼女に『力を緩める』と言う行動となって、シルフィードにしがみ付く力を取っ払ってしまったのだ。

 感じた事のない遠心力は、ルイズの小さな腕を切り捨ててしまう。気が付けば自分は、空中を舞っていた。

 

 

「……あ」

 

 

 体を裂くように過ぎ去って行く空気と、鼓膜を破らんばかりに入り込む風の音。

 落下しているハズだと言うのに、空を飛んでいるかのような錯覚が巻き起こる。

 

 

 頭上にはゴーレムの立つ地面、下はシルフィードの迫る空と、重力が反転したような気分だ。実際には自然の法則の通り、上から下へと落ちているのだが、そんな風に彼女は感じられた。地面ではなく、空へ落ちて行くような超感覚である。

 この感覚は何かの暗示なのだろうか、それとも死に近付いた自分の生命が暴走でも起こしたのか。

 

 

 いずれにせよ、今の彼女は驚く程に冷静だ。

 

「…………」

 

 ゴーレムへの距離が近付くたびに、空気の音が大きくなって行く。

 それが段々と、泡のように膨れ上がり、破裂しそうな勢いだと思われた。

 

 

 あぁ、『ゼロのルイズ』は結局、こんな結末なのか。諦念が空気と共に、彼女を包み込むのだった。

 

 

「れ、『レビテーション』!!」

 

 キュルケの声が響き、体への負荷が少し軽くなった気がした。

 ある程度近付き、魔法の行使出来る範囲に入った為、満を持して落下するルイズにレビテーションをかける。魔法によって発生する本物の浮遊感が彼女を釣り上げ、速度を落とした所を救出せんと一気にシルフィードは接近する。

 

 

 

 

「緊急退避」

 

 しかしもう少しの所で、シルフィードは左に旋回し、回避してしまった。

 

 

「ルイズッ!!」

 

 そのすぐ後、ルイズの足を掠めてゴーレムの右腕が、轟音を立てて飛んで来た。再生させた腕で、ストレートに殴ったのだ。

 再び彼女への太陽光は遮られ、暗い世界へと落ちてしまう。

 

 

 どんどん地面に近づいて行く、レビテーションで幾分か落下速度を抑えられたとは言え、完全に速度は落とせなかった。このまま地面に衝突すれば死ぬ事は無いだろうが、骨の何本かは覚悟しなければならないだろう。

 いや、頭からいけば問答無用で死んでしまうだろうか。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 この下で定助が待っているような気がした。

 変わらないあの、惚けた顔の彼がいるような、そんな気がした。

 近付く地面に向けて、ルイズは細い腕を伸ばし、泣いた顔で呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けて……助けてよ……ジョースケぇ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、地面から何かが広範囲に舞い上がった。

 まるで腕を広げるように現れたその、無数の存在は、シャボン玉の群だ。シャボン玉の群が、ルイズの周りに浮かび、泡のように炸裂する。

 

 

「これって……?」

 

 

 光を浴び、不知火のように輝いては空へ空へと登って行く。それは、彼女の目の前で儚く、泡沫が如く弾けて消えるのだ。




地の文が多めでしたが、楽しめて貰えたのなら幸いでやんす。
そ、そそ、そんなバナナぁ!?

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