ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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四部アニメ、放送開始ィィィ!!
しかもウルジャンのCM、定助じゃないですかやったぜぇぇ!!


昼から夜へと、焦がれは微熱へ。その3

 ルイズはその頃、鼻歌混じりに自分の髪を櫛で梳いていた。

 既に着衣してあるのは寝間着であるネグリジェ一枚。本格的に寝る仕度は整っている。

 いざ、ネグリジェに着替えてベッドの上に腰を下ろしてみればトロンと眠気が頭の中で溢れ出した。やはりここ三日間は寝不足だった。それらがツケとなって清算されているようだ。

 

「ふぁあぁ……眠い」

 

 小さくあくびをし、涙目を擦って視界を確保する。瞼はもう半分まで閉じかかっていた。

 

「……遅いわね」

 

 既に五分経過、短い時間だがトイレからの行き来で考えると長い時間だ。

 ルイズは一つ、溜め息を吐いた。

 

「やっぱりあの馬鹿……場所分かってないのよ絶対」

 

 定助はここに来て、気絶していた三日間を抜けば、実質まだ二日しか経っていない。しかもその二日でさえ寮の外、つまり学院内が殆どなので寮の中はまだまだ素人のハズ。現に帰る時も、彼女の後ろでキョロキョロと寮を見渡しながら歩いていた、把握し切れていない証拠だ。

 

「だから行く前、わざわざ声かけてあげたのに……」

 

 呆れたように顔を顰めながら彼女は、人形のように華奢な体をベッドへ預けた。

 

「…………」

 

 眠いとは言え、いざベッドに横になると色々な事が頭に巡って行く。今日までの出来事のおさらいにしろ、己が使い魔の事にしろ。定助の復活からキュルケとのいざこざまで、時が加速したように場面が切り替わるのだ。

 

(あまり無理はさせられないわよね、病み上がりだし)

 

 眠気がせり上がり、大きなあくびをした。

 

 

「……ジョースケにも武器を買ってあげるべきかな……」

 

 強力な力を持つ『ソフト&ウェット』が彼の武器だろうが、剣一つでも持たせるか持たせないか、だったら持たせた方が良いだろう。そんな事をフツフツリと考えていたのだった。

 暫くすれば羽毛のベッドに沈み込む感覚が心地良く、ウトウトと瞼が開いては閉じてを繰り返していた。心の底から安心出来るほど力が抜けて行き、まるで体が極限まで柔らかくなったかのようだ。

 

「………………」

 そのまま眠りにつこうかと、考える事を取り止め、思考を深く深くの闇夜へ落として行く。瞼がストンと落っこちた。

 

 

 

 

「……あ」

 

 しかしあと少し、ほんのちょっぴりで眠気に支配されていた瀬戸際のライン、唐突にルイズは覚醒した。

 眠気が晴れたのだ、霧が吸引されて靄のなくなったようである。

 勿論彼女の気紛れだとか精神的な問題ではない。そうなった理由はキチンとあるが、事細かく説明するのはレディ相手に失礼である為省略しよう。誰だってそうする。

 

「……定助も探したいし……行こっか」

 

 投げ出していた体を起こし、ベッドから立ち上がった。そのまま椅子に掛けていたマントを羽織り、ルイズも外出しようとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣の部屋、キュルケの部屋。突如としてその部屋へ引き摺り込まれた定助は、困惑していた。

 

「え〜〜と……」

 

 光のあった廊下から、完全に暗闇へと落ちた部屋の中。彼は今、扉を背にして立ったまま凭れている状態にある。

 凭れた状態から腰に少し力を入れるだけで、上半身は持ち上がるだろう。そうやった後に体を回転させてドアノブを握り、扉を開ければ難なく外へ出られるだろう。だが、出来ない。

 

 

「あぁ……」

 

 それが出来ない理由は一つ、ある意味で縛り付けられているからだ。

 縛り付けられている、とは言えど、炎の荒縄とか紫の茨とか緑の結界だとか、そんな物で縛られ拘束されていると言った訳ではない。枷となっているのは脇腹から腰にかけて強く回された力と、体の前面に押し付けられるように支配する柔らかい感触であった。

 

 

「……この、状況は……なにかなぁ……」

 

 目線をチラリと下げて、そこにある物と目線を合わせた。

 

 

 

 

 

「……キュルケちゃん」

「……ふふっ!」

 

 縛り付けている力の正体は、この部屋の主であるキュルケ。彼女が今、定助を抱き締めている事により身動きが出来ないのであった。

 彼女より少し背の高い定助を上目遣いで見つめ、抱き締める腕をキリキリ強めている。暗い部屋の中、甘い香りと暗がりの中で微笑む彼女の顔がドギマギと定助を情動させるのだ。

 

「ちょ、ちょっとちょっと……えっと……あれ、どういう状況か整理させて貰えないかな?」

「見えない? 暗闇はやっぱり不安かしら?」

「いや、そう言う訳じゃないんだけ……あっ」

 

 言い終わる前に一旦引き剥がされたキュルケの右手より、フィンガースナップの気持ち良い音が、静寂の底にある部屋へ広がった。

 

 

 瞬間、部屋に置かれていた燭台に火が灯り、暗闇を照らして行く。明けた視界に飛び込んで来た光景は、

 

「うおっとぉ!?」

 

 ……たわわに実るメローネとは、誰の考えた表現だろうか……まさにその比喩がピッタシ、パズルの然るべき凹凸部に嵌るように的確と思われる豊かな彼女の胸であった。

 

 

 定助の胸板に押し当てられ、潰れたそれはまた谷間を強調させている。見てはいけないと目線を持ち上げれば意味深に潤んだ彼女の目と、ネトリと粘着性を伴って唇より出された舌先が、また定助を情動させて揺さ振りをかけるのだ。

 必死に目の当て所を探し当て、そっぽを向いた。

 

「目を逸らさないで欲しいですわ?」

「きゅ、キュルケちゃん……お願いだから、ちょっと離れようか?」

 

 離れる所か彼女は、目を細めてねっとりとした欲しがりの視線を送るのだった。

 

「もう……突き放すつもりなの? ジョースケぇ」

「そう言うつもりじゃないけど! 当たっている、当たっちゃっているから色々……ど、どうしちゃったのキュルケちゃん……!?」

 

 荒ぶる心を表現するように、真っ赤な顔で腕をワタワタと忙しなく動かしている。状況の整理と取るべき行動が完全に頭の中で構築を拒否していた。ただ、扇情的なキュルケの色気が支柱となって頭を支配しているのだ。

 

 

「……ねぇ」

 

 落とし込まれた彼女の声は、ウィスキィボンボンのような甘くて酔わせる吐息を混じらせていた。それがまた、考えの中心を彼女にだけに集中させてしまったのだった。

 

「あたしの二つ名……あなたに教えていたかしら?」

「え?……いや」

 

 記憶を弄るが、その記憶でさえもこんがらがってしまっているのだが。

 

「ふふ……あたしは『微熱』……『微熱のキュルケ』……そう、それはゆっくりと蕩ける『静かなる情熱』なのよ」

 

 ここで思い出した、彼女と初対面の時に一度だけ言っていたような。

 しかし思い出した所でどうにかなる訳でもなく、彼女は更に定助との密着を強めたのだった。

 

「いぃ!?……び、微熱ね……うん、微熱微熱……」

 

 終いには纏まらない頭で、妙な事を言ってしまっていた。

 

 

 

 

 火照る肌は褐色、定助とは対称的な艶のある褐色の肌。女性として艶かしく、キメの細やかな肌がまた美しく、色気の見えざる手が纏わりついて行くような、甘い甘い夢の気分に陥りかけてしまう。自制心も、気を許せばプツリと切れてしまいそうなほど細々となっている。

 

(な、何だこの感覚……前にもあったような……無かったような……)

 

 既視感にも似た感覚、そこからフツと湧き出た疑問も、キュルケの静かな問い掛けによって掻き消されるのだ。人の脳とは、熱と冷を両立させて機能出来ないようだ。

 

「いい? 情熱は、激しくもゆったりとしていなければいけないの。だって最初から燃え上がってしまったらすぐに果ててしまうじゃない……そうでしょ?」

「…………」

「小さな種火だって、時を経て大きな焚火になる……あたしは『微熱持ち』、ゆったりと燃え盛ってしまうの。そしてそんな性……でも髪の毛が伸びるように、止められる訳がないじゃない? 火照る微熱は、心地良さだって生み出すものよ」

 

 彼女の熱い吐息が、顔に降りかかった。

 宙に浮かんだ思考回路が巻き戻り、注目をキュルケにすれば燃えるような目が迫っている事に気付いてしまった。

 

「わぁッ!?」

 

 驚きの余り、彼女の肩を掴んで軽く押し、引き離せた。

 

 

「きゃっ!……あらあら、やっぱりウブね、ジョースケぇ」

 

 紅い髪を彼女はぱらんとかき上げた。

 少し離したせいで彼女の全貌を伺う事となったが、その姿はベビードール一枚だけ。常から露出度の高い服装であるのだが、更に高まったせいでグラマラスなボディがキツ過ぎるほど拝められた。透き通り、ゆったりとした薄い布が作り出す曲線は体に沿って、胸から臀部まで流れているのだが、この曲線がまた扇情的だ。

 そしてはち切れないばかりに押し出された、彼女の胸……脳神経が焼き付いてしまうほどに強烈な色気である。

 

「まままま、待ってくれキュルケちゃん! き、きき、君ぃ、どうしちゃったの!?」

 

 回りにくくなった、油の足りない頭で言葉を構築すれば分かりきった質問になった。その返答を、誘うように首を傾けたキュルケが微笑んで語るのだ。

 

「どうしたって、決まっているじゃない」

 

 肩を掴んでいる彼の手を掴み、指と指を絡ませた。

 

 

 

 

「恋は種火、育てるは情熱……あたし、あなたに恋してしまったの」

「……お、オレェ?」

 

 絡ませた手は一旦離され、彼女は手を引いて定助を引っ張った。二人の歩む先には、帳の下りたベッドがある。ベッドを囲うその帳はある所だけ開かれ、二人を誘うようだった。

 定助もとりあえず歩いているのだが、どうしようか必死に頭で考えていた。出来る事なら、キュルケを傷付けずに断りたいのだが、そのやり方が思い付かないのだ。

 

「ギーシュとの決闘……その時のあなたは格好良かったわ。逆境からの逆転、強い意思……まるで伝説のイーヴァルディの勇者のようだった……」

「いーぶぁる?」

「ご存知なくて? ……あぁ、忘れちゃったのね、ふふふ……大昔の英雄よ、とてもとても勇敢な」

「な、なるほど……」

 

 語り口がいちいちロマンティックだ。しかしその言葉一つ一つは、幻覚を見せる効果があるのではと思えるほど彼女の存在に甘美で妖艶な雰囲気を醸し出させる大きな要因となっている。

 

 

「『泡の精霊』……とても美しかったわ。黄金の鎧をその身に纏った、白昼夢よりの拳闘士……」

「良い表現だ……気に入ったよ」

「ふふ、有り難う」

 

『ソフト&ウェット』を見たがっているのかと思ったが、その前に彼女は立ち止まって囁いた。そこは、ベッドの手前。

 

「でも、今は二人だけになっていたい」

「…………」

 

 まるで見透かしているかのような、蠱惑な瞳。そして恍惚の表情。思わず定助は、息を飲んだ。

 

 

「あの『泡の精霊』を従えて立ち上がったあなたは……あぁ、今思い出しても堪らない! 二人で果敢に挑み、ワルキューレたちを打ち倒して行く姿に……あたし、痺れちゃったの」

 

 キュルケは空いた手で自らの体を抱き締め、よがるように体をよじらせるのだった。それでさえも蠱惑的だった、つい見惚れてしまっていた。

 

「あなたが眠っていた三日間……ひたすら寂しかったわ。だって思い人に会えないなんて、胸が締め付けられるほどに辛い事なのよ」

「あぁ……えっと、悪い事したね……?」

「えぇ、罪作りな人よ、あなたは……しかも夢にまで現れるのだから」

「オレェ? オレがぁ? へ、へぇ……そうだったのかぁ……うん」

 

 考えながら受け答えしている為、もはや会話が受け身になって来ている定助だが、キュルケはまだ語り尽くしていやしない。

 

 

「毎晩毎晩……このやるせない思いをマドリガルとして綴ったわ」

「マドリガル?」

「『恋歌』よ、うふふ!……見ちゃう? 机の上に置いてあるわよ」

「…………」

 

 チラリと机を見たのだが、それらしい物を発見出来なかったし、発見出来たとしてもこの世界の文字なんか読めやしないのだから、首を振って拒否した。

 やや不満気な表情を、彼女は見せたのだったが、それはほんの一瞬だ。

 

 

 カーテンが少しだけ開けられており、そこへ雲から顔を出した月は明かりを部屋へ零し、劣情の空間に熱を施して行く。

 

「あなたは強くて、優しいナイト……本当、ルイズの使い魔には勿体無いわねぇ」

「いやいや……」

「ルイズは使い魔としてしか見ていないけど、あたしはあなたの全てを見ているわ」

 

 再び定助と向かい合った彼女は細い指を、定助の唇に当てた。

 

 

「……ッ」

「その官能的な唇も……」

 

 唇からツゥっと走らせ、首筋を下へと流れた。

 

「屈強な胸も…………んっ」

 

 胸板を過ぎて腰へ回り、また最初のように抱きしめるのだ。その際に軽く、襟元を下げて露出された彼の胸へとキスを施すのだ。

 

「……ぷぁ……っ」

「…………!」

 

 唇を離した彼女の表情は、体の底より震え上がらせるほど、生物的な本能を揺さぶる蕩けた表情を見せた。それは、溜まるように積み重ねられた数々の要因が、一つに収束して幻覚に近い夢を定助に見せるほどの威力を発揮した。

 

「抱き心地の良い腰も……全部全部……」

「………………」

「ふふふ……はしたない女でしょ?」

「……いや……」

 

 ぶら下げただけの彼の腕が、フワリと浮いた。

 

「……君は、かわいい……」

 

 落としにかかるような、色気を詰め込んだ彼女の台詞たち。これを食らって理性を保てる男はいるのか、いやいない。定助に身を委ねるように頭を胸に乗せたキュルケの背中を、定助は腕を回そうかとした。

 

 

 

 

 それが、途中で止まる。

 

(何だろう……この焦燥感は……)

 

 何故か彼は、焦りに似た感情を募らせていた。

 それはある種の恐怖にも近く、敵との対峙による闘争心にも近い。こんな状況に不釣り合いな感情だった。

 

「……ジョースケ?」

 

 彼女の呼び声が聞こえた。しかしそれどころではない、定助は唐突に渦巻く感情の線に驚き、混乱しているのだ。その混乱は顔に出さず、内面にだけ取り繕っているのだが、動揺は行動停止となり定助は動けなくなっていた。

 

(何でオレは……恐れているんだ……? 何を、何から……?)

 

 頭の深い所で固まっているものが、溶解して来ている感じがした。何かを彼は、すぐそこまで思い出しかけていたのだ。

 

(何に……挑んでいるんだ……?)

 

 

 思い出してしまおうと、悶々と思考の中に溶けて行く定助を引っ張り上げたのはキュルケであった。

 突然、腰に回している腕を強くして、肋骨を押し込んだ。その感覚に驚き、定助は我に返ったのだった。

 

「置き去りにしないで欲しいわ……あたしは寂しがり屋なの……」

「そ、あ、オレェ? そうなの?」

「それに……こう言った事は、あなたからするものなのよ? ふふふ……」

「ご……ごめん……?」

 

 時間は以前、空間を緩く満たしている。

 春の夜と言えどここは冷たい。しかし、深層に熱を抱えた胎内のような世界。

 

 

 

 

「……あなたを愛しているわ……ジョースケ」

 

 定助は夢に竦められ、長い腕を彼女の背中へと…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「……吐き気を、催す……『悪女』とは……」

 

 ……回せなかった。

 静かな部屋に第三者の声が響いた。ハッと夢から覚め声のする方を見てみれば、窓を開けて枠に立ち、こちらをまるで邪悪なギャングのボスに相対するような怒りの形相で睨む、オカッパ頭の男がいた。

 

「何も知らぬ無知なる男を誑かし、利用する女の事だ……!! 自分の快楽の為だけに誑かす女の事だ!」

 

 窓枠を掴みフルフルと震える彼へとキュルケは、「しまった」と言いたげな顔で視線を向けた。

 

「あー……エキュー金貨のお礼は、三時間後でどう?」

「昼間の俺を見るお前の目の中に、ルビーのように赤々とした情熱を感じた……だが、堕ちたな……ゲスの心に……!!」

「えーっと、二時間後」

「お前と情事に及ぶ、略奪者を倒す……どっちもしなきゃならないってのが、夜枷の辛い所だな……覚悟はいいか? 俺は出来ている!」

「一時間後」

「よーしッ! そこにいるヤツッ! これから俺はお前を攻撃するッ!!」

「もう喋らないで、話が噛み合わない」

 

 会話を一方通行で通すオカッパに対して焦燥感から呆れに変わったキュルケは、ベッドの上に乗っていた杖を颯爽と手に取り、オカッパへと向けて振るった。

 

 

「うぉお!?」

 

 そうするとどうだろうか。強烈な熱風が場に発生し周りにあった多くの蝋燭の火から、大蛇のように蠢きオカッパへ噛み付かんとする、巨大な炎が現れたではないか。

 呆気に取られた定助を置き去りに、旋風として発生した炎は超高速でオカッパへと飛びかかった。

 

「もし戦闘が不能であるのなら……って、うわあぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 語り終える前に炎の大蛇は窓へ突っ込み、オカッパごと破壊して虚空へ消える。

 炎が消えるとまた薄暗がりに戻り、炭と化した窓辺だけを残して彼は姿を消していた。

 

 

「……キュルケちゃん……今のは」

「どうやら部屋を間違えたみたいね。そんな事より、ジョースケ、続きを……」

 

 何事もなかったかのように情事は継続されるが、軽く混乱している定助には抱ける訳がない。

 しかしキュルケはまだまだ燃え上がっているようで、定助を強く強く…………

 

 

 

 

「用意をするんだ……」

 

 ……抱き締める前にまた来訪者の登場、今度はやけに女っぽい男だ。

 焼けた窓枠に座り、溶液を吐き出す化け物と対峙するかのようなオーラで睨んでいた。

 

「てめぇがこの世に生まれて来た事を後悔する、用意をだ!!」

「四時間後で!」

「キュルケ……お前のせいでこうなっちまったんだ……!」

「言っている事が分からない」

 

 また杖は振るわれ、大蛇再登場である。

 

「それでも愛してるぜ! ここに来るのが楽しみだったぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 突っ込んだ炎は夜空へと、彼を連れて消えて行った。太い炎は尾だけを残して消滅すれば、もう窓枠すら燃え尽きてしまい、暗黒空間からの攻撃を受けたかのようにぽっかり穴が開いただけになっている。

 空は満天の星空であった。

 

 

「…………キュルケちゃん……」

「喧しい猿だ事……あぁ気にしないで、ただのお友達」

「いや、どう見たって……」

「さ、続き」

 

 定助の胸へ顔を埋め、また彼を抱き締めた。

 もう何が何だか分からなくなって来ていた定助は、どうすれば良いかモタモタし出し、その間に…………

 

 

 

 

「よくも……お前ごときが……ツェルプストー!! 薄っぺらな、たかがカスの小娘の癖に!!」

「貧乏貴族のカスが」

 

 ……やって来た三人目にキュルケは顔すら向けず、杖を振るって炎で即粛清。部屋が赤い光に染まる。

 

「やめろオオオオオオオWRYYYYYYYーーッ!!??」

 

 前者二人と同様に炎に飲まれた彼は、悲惨の線の向こう側へと落ちて行くような断末魔をあげながら退場した。彼の顔は確認出来なかったが、恐らくハンサムだろう。

 

 

 炎が消えればぽっかり開いた穴より、月明かりが差し込んで部屋を照らしていた。差し込んだ月光は拡散するように部屋へ散らばり、穏やかで青い夜の光を恵みの雨のように、降らせている。

 なかなか幻想的な光景とは思うが、色々台無しである事を思い起こして欲しい。

 

「………………」

「あれは最早、知り合いね。もう来ないと思うし、じゃあ……」

「キュルケちゃん。ごめん、帰る」

「えっ」

 

 最初のキュルケを傷付けずに、とかの考えは薄れてしまっていた。何だか定助自身、さっさとここから出てさっさと眠りたいと思っていた所だった。

 肩を押してキュルケを引き剥がし、踵を返して扉の方へ歩き出す。かなり冷徹だと思うのだが、それほど彼の中での、現状に対する呆気が強いのだろう。しつこいが、さっさと眠りたかった。

 

 

 勿論キュルケは、定助の背後に抱き着いて引き止めようとする。

 

「待ってジョースケ! さっきのは……ホント、何かの手違いなの!」

「いや、何か、眠くなった」

「だったらここで、二人きりで朝まで眠りましょうよ!」

「ご主人の服、洗濯しないとだし」

 

 体を前のめりにして、馬車を引く馬のように強く前へ前へと進めて行くが、逃すまいと反対の力としてキュルケが存在する。全体重をかけて二人は前へ後ろへと引き合い、綱引きのような闘争心を心に付けて勝負している感じになっていた。

 

「離してキュルケちゃん……!!」

「い、や……よ…… ジョースケぇ……!」

 

 退かないキュルケに内心驚きつつも、どうにかして諦めて貰おうと話しかけた定助。

 

 

「キュルケちゃん、あのね…………ッ!?」

 

 

 

 

 唐突にガツンと、頭の底から間欠泉のように上がって来たものがあった。

 それは頭頂を突き抜け、刺激は神経を伝った、強い感覚として定助に存在を伝えたのだ。

 

 

『ねぇ定助ェん。あたしの方が大きいでしょ?』

 

 

 前のめりの姿勢を正し、定助は突然振り返った。

 

「わっ」

 

 その行動に驚いたキュルケはつい両手を離し、定助への抱擁を止めた。逃走の絶好のチャンスであるハズなのだが、何故か定助は出て行かず、キュルケの背後にある窓だった穴や、何でもない所を見つめていた。

 

「…………」

「……どうしたの?」

 

 怪訝な表情で定助を見つめるキュルケを余所に、彼は何かを探しているように辺りを見渡していた。

 そして最後に、キュルケに深刻な顔で尋ねるのだ。

 

「キュルケちゃん、何か言った?」

 

 この質問に対し、キュルケはますます怪訝な表情を強めて行く。

 

「どうしたの……って、言ったけど?」

「いや、あの……大きいとか何とか言わなかった?」

「大きい? 何が?」

 

 彼女の反応からして、声の主は彼女ではない。

 幻聴か、しかしはっきりと言われ、鮮明に聞き取れている。だが、思い返せば頭の中に問われたような、不明瞭な感じだけが残っている。まるで服こびり付くシミような、薄いのに擦っても落ちない不快感。

 

「じゃあ、誰が……」

 

 

 そう呟いた瞬間、扉が盛大に、勢い良く開いた。

 音に驚き体を強張らせた後、カッと扉の方へ振り返る。

 

 

 

 

 扉の向こうでは、申し訳なさそうに項垂れて鳴き声をあげるフレイムと…………鬼の形相で寝間着姿のルイズの姿であった。

 

「…………」

「…………何やってんのかしら、あんたら」

「……ご主人、これは違う」

 

 沈黙のワンクッション。だがルイズが一歩踏み出し、キュルケの部屋へ入ればいきなり空気が震えているような、緊迫したオーラが雪崩れ込んで来たのだった。

 言っておくが、ルイズの視線から見れば、下着姿のキュルケと共に暗い部屋にて立っている定助の姿である。付け加えのダイエットガムのように注釈するが、イケない雰囲気の部屋に半裸の女性と、良く知る男の姿……誤解されても文句は言えまい状況である事は明確だ。

 

 

 

「ジョォォォスケェェェ……!!」

「違う違う!? これは誤解だ!?」

 

 弁解しようと、話しながら両手を多動させるのだが、その必死さも虚しく、キレたツッパリが如く迫るルイズを押し留める事は叶わなかった。

 背後で、この状況を楽しむような、キュルケの小さな笑い声がクスクスと聞こえて来た。

 

 

 

 

「誤解な訳ないでしょこの、発情犬がぁぁぁぁッ!!!!」

 

 解き放たれたルイズの怒号と共に出されたキックは、定助の向こう脛へと直撃するのだった。




官能なんて書けるかよ……くそぅ!
恐らくファンの皆さんは、ゼロ魔原作のこのシーンを見て東方憲助さんみたいな感じになったんのでは?
「ブッ殺す!! あの野郎ォォォ絶対に殺してやるぅぅぅぅ!!」
私はなった。キュルケは好きなキャラの一人ですだ。
失礼しました

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