ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

25 / 59
ここまで来た感だけど、まだ物語の序章なんだよなぁ……
兎に角、お気に入り登録者数400人越え、恐縮です。


強固かつ青く、柔らかく濡れている。その1

「ヴェストリの広場……てのは、こっちか?」

「あぁ、こっちを真っ直ぐ行けば、ヴェストリの広場の世界だ」

 

 一人の生徒に連れられて、広場への廊下を歩く。すると、ある扉の前まで来たら、凄まじいほどの盛況な声が割れんばかりに聞こえて来る。

 

「うぉ……ラグビーの選手って、試合前はこんな感じなんだな……」

「ラグビー? それは何の世界だ?」

「ん? ラグビー知らない?」

「俺は知らない世界だ」

 

 本当にこの世界は、何も通じないのだなと定助は再確認した。ラグビーがないのか、この生徒がラグビーを知らないのか……気になる所だが、扉は目の前だ。

 

「お前が開く世界だ。平民、覚悟しておけ」

「言われるまでも……覚悟はしている」

 

 広場へ続く、扉を開いた。

 

 

 

 

 こもっていた声援が、解き放たれたように定助へ浴びせられた。いつもはガラリとしているこの広場だが、今日はまさにお祭り騒ぎである。男女も関係なく、興奮の渦の中で熱狂の声を飛ばし、春の陽気がヒートをかけるように熱気が広場を包み込んでいる。

 

「来たぞぉ!」

「あれが『ゼロのルイズ』の使い魔か!?」

「平民が貴族に喧嘩売ったってよ!」

「やっちゃえギーシュ!!」

 

 聞こえる声だけでもこれだけだ。

 定助の登場に沸く広場。そしてギーシュの待つ、広場の中心へと人が分かれて道を作った。

 

 

「……………………」

 

 道の先にギーシュがキザっぽい立ち方で待っている。流石にシャツは新しいものに着替えて来ているようだが、本当にあのフリフリ付きのやたら白い服は非常に目立つ。

 

 定助は、貴族の掛け声を受けながら、さっさと道を進んだ。

 

「いけぇぇ! 平民!」

「ギーシュ! ボコボコにしてやれ!」

「足腰立たなくさせてやれぇ!」

「ふぅぅ!! 最高だぜぇ!!」

 

 とても『貴族』とは思えない『紳士と淑女』もない状態。これは最早、古代ローマのコロッセオにて行われた『剣闘士の世界(グラディエーター)』のまんまそれだ。『暴力が見せ物』だ。

 

 

 

 

 貴族の声を浴びながら、とうとうギーシュの待つ広場の中心へ到達する。彼は相変わらず、薔薇を嗅ぐような仕草のまま立っている。

 

「……………………」

「……………………」

 

 相対する二人。

 暫し、互いに互いをジッと睨み付けるのであった。

 

 

「……………………ふんっ、逃げずに来た事は褒めてやる」

「…………逃げようとしても、逃がさないだろ」

「そりゃあ、貴族にワインをかけたからなぁ…………逃げようものなら捕まえる気さ」

「……………………」

 

 二人の間に空気の揺れが出来たような、そんな凄味が真っ向対立している。しかし、ギーシュにとっては取るに足らない相手と見ているようで、緊張感を持つ定助に対して平常運転とでも言うような軽くキザなポージングをする。余裕だと表現しているのだ。

 

 

「おい! 早くしろよー! 待ちきれねぇよぉ!!」

「ちょっと、いつまで待たせるのよ!」

「観戦の準備は出来ているか? 俺たちは出来ているッ!」

「決闘だぁぁ!! 決闘が始まるぞぉぉ!!」

 

 決闘を待ち望む取り巻きからは催促の声が銘々にあげられた。正直勝敗なんてどうでも良い、刺激の足りない学園生活の日々に溜まる鬱憤を晴らせたら満足なのだ。

 

「……………………」

「……………………」

「……ギャラリーたちも待ちきれないようだな…………」

「……………………」

 

 ギーシュは前髪をハラリと払い、薔薇を上空へ大きく掲げ、高々と宣言した。

 

 

 

 

「大変長らくお待たせした、諸君ッ!!」

 

 観衆の声が一旦ピタリと止み、そのタイミングを見計らって決闘の宣言を入れた。

 

「これより、決闘を開始するッ!!」

 

 そしてまた、観戦が空高く(スカイハイ)まで登り詰めて行くのだ。熱狂はレースのラストステージのようにハイヴォルテージ、この狂喜の生み出す幸福はまさに素晴らしき世界(ワンダフルワールド)

 今、この場にいる者たちの世界の中心は『貴族のギーシュ』と『平民の定助』の両極端が担っているのだ。

 

 

 ギーシュの薔薇が、定助に向けられた。

 

「それでは決闘だが……ほれっ」

「…………ん?……おぉ!?」

 

 いつの間にか足元に、『青い剣』が置いてあった。

 

「い、いつの間に…………え、これ本物ぉ?」

「ふふふ……良い剣だろ?」

 

 分からなかった。しかしギーシュの持っている『薔薇』……最初見た時から違和感を感じていたのだが、この事で確証を得た。あの薔薇が彼の『杖』なのだ。

 とすると、この『剣』を作り出したのは『魔法』だろう。

 

「まぁ、君は見るからに非力そうだし、このままでは僕が圧勝するのも目に見えている……」

「……………………」

「…………その剣は、僕が作ってやった、一種の『ハンデ』だよ」

 

 そのストレートな口振りから、剣を作ったのはギーシュで間違いない。足元の剣からギーシュに、定助は視線を戻した。

 

「さぁ、剣をとりたまえ。僕はメイジだからね、魔法を使わせて貰うから君は太刀打ち出来まい」

「使って良いのか?」

「許可する。力のない平民でも、勝てる確率が上がるだろう……剣をとりたまえ」

 

 定助は剣をジッと、物珍しそうに眺めたのだが、

 

 

 

「断る」

 

…………一言だけ言い放ち、手に取らずそれをガシャリと踏みつけた。観衆から「おぉ!?」と困惑のどよめきがあがった。

 

「使わない」

 

 ギーシュの左瞼がピクピクと痙攣した。

 

「…………ハンデを降りるのか?」

「うん」

 

 お次は剣をガァンと蹴飛ばした。またギーシュの表情に歪みが生じる、自分の作った剣が平民に文字通り足蹴にされたのだ、屈辱的だろう。

 それに構わず、定助は言うのだった。

 

 

「これは『汚名返上戦』。ご主人の『誇り』の示しと、お前によって傷付けられたシエスタちゃんの『尊厳』の為の仇討ちだ」

「……………………」

「仇のお前の、つまらないお情けなんか受けるもんか」

 

 指差しで、ギーシュに宣言する。

 

 

「オレは『オレとして勝つ』、『オレだけで勝つ』。宣言する、そのキザな顔に一発殴ってやる」

 

 また声が沸き起こった。平民による貴族への『勝利宣言』。こんな事、今まであったのだろうか。ギーシュの左口角がヒクヒクと伸縮して動く、怒りの頂点だ。

 

「…………いいだろう……ハンデは取り消すよ…………」

 

 すると、定助の蹴ったギーシュの剣が、ただの土になった。

 

「しかし……しかしねぇ、君……『情け無用』で良いんだな? 後悔しても知らんぞ?」

「お前の言う『情け』ってなんだよ。どうせオレをぶっ殺すまでいたぶるつもりだろ」

「……当たり前だ…………」

 

 薔薇を掲げつつ、定助を『殺意をこめて睨んだ』。

 

 

「『貴族に勝てる』なんて、思い上がった馬鹿の考えは……正してやらないとなぁ……!」

 

 薔薇を大きく振ると、花弁がヒラリヒラリと二枚、空中に舞った。

 それらは互いにぶつからず、交差して離れて落ちて行く……紅く情熱的だが、白鳥の戯れのようなある種の雅やかな雰囲気を出していた。

 

 

「出でよ、僕の『ワルキューレ』ッ!!」

 

 それが地面に着地したと同時に、土が盛り上がって、丹念に磨かれたように輝く『青い女戦士の人形』が出来上がったのだった。声援があがる。

 全長は定助の背丈よりも高い。

 

「うぉ!? なんだぁ!?」

 

 土から生まれた青い女戦士の人形……いや、『青銅のゴーレム』がギーシュの手前に、彼を守るように立っていたのだ。持っている槍をギーシュの前で交差までさせて、形式にも拘っている。

 

「ふふふふふ…………これが僕の魔法だよ……」

 

 この魔法を定助は知っている。朝の授業の時、自分が発言した事だ。

 

 

「…………『錬金』か……こんな事出来るんだなぁ……」

 

 しかし元の物質を他の物質に変化させる事は分かっていたのだが、こんな造形として作り出し、戦士として操る事が出来るなんて知らなかった。

 

「まぁね! 名乗らせて頂こう、僕はギーシュ・ド・グラモン! 二つ名は『青銅のギーシュ』さ!」

「ギーシュドグラモン…………短いな、覚えた」

「そして君の相手は、その『ワルキューレ』だ!」

「なんでもありだな……」

 

 声援を受けて気分が乗り、ハイにでもなっているのか、またキザな彼が戻って来ている。それはそうとして、今の定助は焦っている、まさかギーシュ自身が来るのではなく、彼の操るゴーレムが相手だとは思いもよらなかった。これでは実質、三対一。

 状況は圧倒的不利。

 

 

「ぎ、ギーシュ!! 平民相手にゴーレムだなんて、卑怯よ!?」

「ご主人?」

 

 観衆を押し退け、ルイズが顔を出した。何だかんだ言って、心配をしてくれているのだ。

 

「やぁ、『ゼロのルイズ』! 自分の使い魔が心配なのかい?」

「えっ、あ、その…………そ、そうよ!! 主人として当たり前でしょ……って違うわよッ!? 卑怯って言っているのよ!!」

 

 何だかワタワタしているルイズだが、兎も角この決闘を止めたいのだろうか。しかしギーシュは鼻で笑った。

 

「なんだい君は……平民に肩を持つのかい? いいか? 君の使い魔は僕を侮辱した! これは万死に値する行為ッ!」

「そうであっても、やり過ぎよ!」

「『情け無用』は君の使い魔からの申し出だ! そしてそう来たのなら、こっちとしても全力で挑んでやろうと決めた!」

 

 目線をルイズから定助へ戻し、薔薇の先を向けた。

 

 

「平民であろうと、貴族を侮辱したのなら『敵』だ。グラモン家は、敵に対しては容赦しないのでね」

 

 ギーシュに何を言っても無駄と分かったのか、ルイズは定助の方に向いた。

 

「あたしが馬鹿だったわよ! なんで食堂でほったらかしたのかしら…………! 降伏しなさいッ! 今ならまだ許してくれるかも……」

「…………ご主人……」

「平民は! 貴族に勝てない!……この状況で察したでしょ!? あんた、察しが良いハズでしょ!? なんで他人の為にここまで出来るのよ!!」

 

 定助は、真っ直ぐ、ルイズの目を見て……あの変なすきっ歯を見せてニッと笑った。

 

 

 

 

「悪いけどご主人、一度受けた勝負からは逃げられない。こっちの意地を見せつけなくては、オレもキミも『ゼロ』のままなんだ」

「…………ッ!」

 

 ここでルイズは、気付いた。定助の戦う理由は、シエスタやルイズの事と一緒に、『自分自身も前へ進む為』なんだと。それに気付いてしまったが為に、ルイズは言葉を詰まらせてしまった。

 それだけ言うと、定助は表情を切り替え、ギーシュを睨む。

 

「先制は許すよ」

 

 ギーシュは手を差し出し、先制を譲った。定助は前屈みになり、突撃の準備を済ました。

 

 

「じゃあ、お構い無く」

 

 足を蹴り上げ、一気にギーシュへと突っ込んだ。策はない以上、力ずくで突っ切ってぶちのめす気なのだ。

 

 

 ルイズがハッと我に返り、無謀にも突撃した自分の使い魔を止めようと叫んだ。

 

「ジョースケッ!! 止めてッ!!」

 

 その声は、ワルキューレが下した一撃のパンチを食らった定助に対しての、歓喜の声で掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 広場への道の途中、決闘の事を聞かされたタバサとキュルケが一緒に歩いていた。

 

「それにしてもルイズの使い魔がねぇ……果敢と言うべきなのか、無謀と言うべきなのやら……」

「無謀」

 

 あやふやなキュルケに対して、バッサリ切り捨てたタバサ。本当に何処か目が付いているのではと言うほどに、本を見ながらの歩行は神がかっている。

 

「ストレートに言うわねぇ……まっ! そう言うストレートな所が好きなんだけど」

「そう」

「もう、ドライなんだから……」

 

 口数多いキュルケと、逆のタバサ。

 この二人の交友関係の奇妙さは、例えるのであれば、軟派なハンサム男と冷静な男子高校生の息の合ったコンビ、のような感じと言えば分かるだろうか。

 いや、寧ろ、性格が逆であるからこそ何か通ずるものがあるのかもしれない。

 

 

「でもタバサ、珍しいわね…………」

「…………なにが」

「興味ない事は深入りしないタイプでしょ? この決闘、興味あるの?」

「ない事はない」

 

 一言一言のタバサに話題を提供する形で話すキュルケが、今の図だが、キュルケは別に苦ではなさそうだし、タバサも鬱陶しくなさげだ(表情がないから分からないのだが)。

 

「ふぅん……ねぇ? どっちが勝つと思う?」

「……普通に考えたら貴族の方」

「じゃあ、タバサはギーシュね! フフッ!」

「……………………」

 

 ここで始めて、チラリと目線が本よりキュルケへ移った。キュルケの語り口から、何かを察したようだ。

 

「…………賭け?」

「二エキュー金貨賭けるわ」

「…………乗った」

 

 一旦本をしまい、脇に挟んで空いた右手を差し出す。その手をキュルケが握った事で、賭けが成立した。ここで始めて、この二人が仲良くなった理由が垣間見えた気がしたのだった。

 

 

「……じゃあ、平民に変更」

「…………あららら?」

 

 これは予想外。タバサが賭けたのは『定助』の方だった。これにはキュルケも驚く。

 

「まさかまさかのタバサちゃん、なかなかのギャンブラーねぇ!」

「大穴狙い」

「んふふ! じゃっ、あたしはギーシュに賭けるわ!」

「成立」

 

 賭けの成立を確認すると、脇に挟んでいた本をまた読み出したのだ。しかも一発開いただけで、読んでいたページを開いたのだった。しかも栞はなし。

 

「にしてもねぇ……そっち狙うなんて、実はタバサ一目置いてんじゃないの?」

「賭けは危険であれば良し」

「んんー! 刺激的ね!」

「スリル満点」

「グゥッド!」

 

 そうこうしている内に、仲良し二人組はヴェストリの広場と廊下を仕切る扉の前へと辿り着いた。割れんばかりの歓声が、扉越しに伝わる。

 

「……うるさい」

 

 タバサは鬱陶しげだが、キュルケはウキウキとした表情だ。

 

「さぁて……タバサ、二エキュー金貨よ?」

「善処」

「じゃあ…………」

 

 キュルケが扉に手をかけた、ゆっくり開いて行く。扉の隙間が広がる度に、歓声へのオブラートが抜けるように段々と高まってくる。耐えられずタバサは、本を閉じて耳を塞いだほど。

 

 

 

 

「オープン・ザ・ゲェーム!」

 扉が開かれ、広場の様子が見えた。

 

 

 

 

 その光景に、ワルキューレの蹴りを腹に食らう、血だらけの定助の姿があった。




(『うろジョジョ』でホル・ホースを助けたのがタバサだったので、それを理由にゼロ魔知ったなんて言ったら、恥ずかしくてあの世に行けないぜ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。