ゼロリオン ~何かを奪う使い魔~   作:ランタンポップス

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Dragons dream in slumber.Part 1

 ガリア王国【ヴェルサルテイル宮殿】。

 この豪華な宮殿は一体どんな所かと問われれば、何を隠そうとも王国の行政を担う中心的な建物であると答えられる。

 

 

 だが驚くべきはその規模であろうか。

 ガリア王国はハルケギニア最大の国家である。だけに、宮殿の規模は尋常ではなく、蒼を強調させた巨大な城を中心として中庭が広い。その中庭に、貯蔵庫やら兵舎やらが乱立し、全てを見て回るだけでも一日はかかるのではないかと思われる程広大なのだ。

 しかしこれだけ浩渺たる宮殿でありながらも、近辺の森を切り開いてはまだ拡大工事を続けている。今日もまた、何処からか招集された建築家や庭師が新たなる計画を思案し、それに明け暮れている頃だろう。

 

 

 

 さて、そんな数ある宮殿内の建造物の一つ。ガリア王国の王女が住まう【プチ・トロワ】と呼ばれる城がある。

 先述の通り王女専用の城として造られた場所であるが、王女の性格もあり、宮殿に仕える者達にとっては虎穴とも称されるとか何とやら。今日もまた、王女の発言に対して召使い達の悲痛に暮れる声が聞こえてくるのだ。

 

 

「さぁて、あの人形娘はまだ来ないのかい? 今頃、ガクガクに震えながら私の元に向かっているハズよ!」

 

 長く蒼き髪と白い肌、そして着衣している蒼のドレスが彼女の気品を讃えているようだ。

 頭に乗る王冠は正しく王女としての証。顔は端正で、溜め息吐いてしまいかねない程の愛らしさを放っている。確かに王女としての品と美貌を持った人物だと言えようか。

 

 

「何てったって、あいつの今度の相手は『吸血鬼』なんだから! 騎士団でさえ手に余る奴を、あいつ一人で討伐させるの! あっははは!」

 

 ……とは言ったが、あくまで外見としたら王女に相応しいと説明したまで。

『外見は』、である。その性格は先に言った通り、召使い達に恐れられる程に傲慢かつ短気で、言葉遣いもキンキンとした高々しい声で上品さの欠片も見受けられない始末。

 特に笑い方に関しては、口を開けて表情筋を歪ませたような下品な物。折角の美貌も、何処吹く風と言わんばかりに持ち腐れとなっている。

 

 

 今、彼女の話相手となっているのは、玉座と出入り口を繋ぐカーペットの傍らにズラリと並んだ、侍女達である。些細な事ですぐに怒鳴り、最悪は何かしらの処罰を与えかねない王女に対し恐れを持って仕えている訳で、この会話でさえも心臓が破裂せんばかりの思いである。

 

 

 さて、この王女……名前は『イザベラ』である。

 イザベラが話をしている内容とは、『吸血鬼の討伐』に関した事である。吸血鬼と言えば、『エルフ』には劣るとは言えど、人間に化けて暗躍し、人血を啜る最悪の妖魔と言われている。

 名前さえ聞けば震え上がらずにはいられない、夜の狩り人。イザベラがその名を口にした瞬間、侍女達の間で小さな悲鳴によるどよめきが立った。

 

「きゅ、吸血鬼……ですか……!?」

 

 一人の侍女がイザベラに再確認するように聞く。

 恐怖に歪んだ彼女の声に気を良くしたのかイザベラは、また楽しげに言葉を続けるのであった。

 

「そう! あの吸血鬼よ! 指令書の代わりに吸血鬼の専門書まで送ってねぇ! 読んだは読んだでもっともっと怖くなるでしょうに、かわいそうな奴!」

 

 手に持っている扇子を扇ぎながら、イザベラは体を震わし玉座の上で大笑いする。

 彼女の笑い声が木霊する横で、あまりの心痛により思わず侍女の一人が声として胸の内を明かしてしまう。

 

「あぁ……『シャルロット様』、お可哀想に……!!」

 

 

 瞬間、イザベラの笑い声が、驟雨が如く突然止んだ。

 

 

「……今、あの人形娘の事、何て?」

 

 イザベラの低く冷たく突き刺さるような声に、先程の侍女が肩を震わし、嘔吐でもしかねない程の恐怖面で王女を見た。

 

「え、あ……あの、その……!」

「何て?」

「あ、あの……つい……しゃ、『シャルロット様』……と……?」

 

 狼狽える彼女に対しイザベラは、玉座から立ち上がり爆発するかのように怒鳴りつけたのだ。

 

 

「あいつの事は『操り人形』と呼べって、言っているじゃないの!? あいつは王族でもなんでもない! それにまず、あいつは北花壇騎士だから『人形七号』で十分だって言っているじゃない!?」

「も、申し訳ありません! イザベラ様!」

「もう一度聞くわ、私は何と呼べって!?」

「な……『七号』……様……です……!!」

「……ふんッ! 次、名前で言ったりしたら承知しないわよ!」

 

 平伏し、必死に謝罪する侍女を睨み付け、イザベラはまた玉座に腰掛けた。

 さっきまで愉快そうに笑っていた様子から一転、頬杖をついて不機嫌そうに歯を食いしばっている。足を組み、憎たらしげに目を細めて怒りを表現した。

 

(チィッ!……まだ人形娘を『王族の娘』って見てる奴がいるのか……今の王女は、私のハズなのに……!!)

 

 

 募る怒りを何処にぶつければ良いか、赤く染まる脳内でカッカッと考えていると、出入り口が開き兵士の声が響き渡った。

 

 

「シャル……『人形七号様』がお見えになりました!」

「……チッ」

「し、失礼しました」

 

 またしても『シャルロット』と言いかける者がいたので、イザベラは心の中でしかしなかった舌打ちを、公にして放つ。この舌打ちだけで、侍女も兵士もビクリと震える。

 どうやらここにいる者はイザベラの言う『人形七号』呼びを躊躇し、『シャルロット』と呼んでしまう者が多いようだ。それにはどうやら、この『人形七号(基、シャルロット)』が元は王族のようで、人形呼びに対し釈然としない思いを抱える従者がいる、と捉えられるか。

 

 

 面白くないのはこのイザベラ。自身がこのガリアの王女だと言うのに、従者の敬意の対象が自分より『シャルロット』へと向けられているのが納得いかないのだ。

 

 

 まぁ良い。とりあえずはその、『シャルロット』が怯え、震える姿さえ見ちまえば気分も晴れるもんだ。

 そう思い直し、イザベラは早速、目通りの許可を入れたのだった。

 

「通して」

「は、はい。畏まりました!」

 

 二人の兵士がそれぞれ、出入り口の扉を開放し、『シャルロット』を玉座の間へと促した。

 イザベラの前へ出て来た『シャルロット』は、自分の相手が吸血鬼とだけあって恐怖にのたまう子羊が如くの、泣きっ面を見せて扉を潜るのである。

 

 

 

 

「……は?」

 

 と、思われたが、現れた本人の表情は至って普通。

 泣きもしていないし、笑ってもいない。動揺もないし、怯えもない。そこにはポツリと興味なさげな、とも言える仮面のような無表情をイザベラへと向けているのだ。

 

 

『人形七号』であり『シャルロット』であり、その人物は誰かと思えばなんと『タバサ』であった。

 

「…………」

「…………」

 

 想像していたものと全く違っており、イザベラは拍子抜けからポカンとタバサの顔を眺めていた。

 だがそれも一瞬、行き場なくした怒りのエネルギーが徐々に表面化して行き、彼女の表情を怒りで歪めて行くのだ。

 

「…………一応確認するけど、今回の相手は誰だったっけ?」

 

 タバサは臆する事なくさらりと応答する。

 

「吸血鬼」

 

 本当にその目には、恐怖の念が滲みすらしていなかった。

 吸血鬼は誰もが恐れる、最悪の妖魔。そんな存在とタバサは命を懸け、やり合う事となるのだ。もしかしたら明日の自分はいないかもしれない、そんな強力な相手であるのだが、表情は「全然平気です」と言わんばかりの無表情。

 

 

 全く、面白くない。全く、不愉快だ。イザベラは奥歯を噛んだ。

 

(何でこんな、平気な顔してるのよ……ッ! とうとうイカれて、本当に人形でもなったつもりか……!?)

 

 こんな事を思う程に、戦慄せんばかりの無表情。

 だが、その戦慄をひた隠す為、敢えてイザベラは静かに言うのだった。

 

「……ふんッ! 場所はここから南東へ五百リーグ。山の中にあるサビエラ村……田舎の村よ。鬱蒼とした森に囲まれた所だって聞いているわ」

「…………」

「報告は一ヶ月前、わざわざ死ぬ思いして村民が討伐を申して来た所で受理したのが発端」

 

 任務の場所と詳細を語るイザベラだが、そこでニヤリと悪い笑みを見せる。

 

 

「……あんたの前に騎士が討伐に向かったそうだけど、殺られたそうよぉ?」

「…………」

 

 ねっとりとした彼女の声。タバサの表情は変わらない。

 するとイザベラは玉座から立ち上がり、タバサの前へ出ると持っている扇子を畳み、彼女の喉へ側面を当てた。

 

 

 囁くように、喋る。

 

「その余裕綽々な無表情も見納めかもね? まっ、せいぜい無事を祈っておくわ」

「…………」

「『シャルロット』……ふふふっ!」

 

 当てた扇子を、彼女の喉を掻っ切るように素早く横へ引いた。

 タバサは何も、喋らない。

 

 

 

 

 

 

 

 イザベラから授かった地図を眺めながら、タバサは己が使い魔『シルフィード』に指示を出した。

 

「その先、ニリーグ地点に河原。着地して」

 

 風に翼を乗らせ、馬よりも早いスピードで空を抜けて行く。肌寒く、風に斬られるようだが慣れたものだ。

 彼女の指示に対し、シルフィードは可愛げに「キュイ!」と鳴いて応答するだろう。そう思われていた。

 

 

 

 

「まだ村まで少し遠いけど? そこで良いの?」

 

 

 喋った。

 精神的に強いであろう常勝ギャンブラーでさえ思わず、ゲドゲドの恐怖面で椅子から転げ落ちてしまう程の衝撃と、非常識。喋る訳がないであろうウィンドドラゴンが普通に人語を喋ったのだ。

 声は幼げな女性のもの、だがそれはちゃんとシルフィードの口から発せられた言葉である。まず、この上空には鳥とタバサとシルフィードしかいない。

 

「そこで良い」

 

 しかしタバサはとっくに知っているようで、平然と指示を飛ばした。

 聞いたシルフィードは「分かったのね」と呟くと、滑空を始めて河原の側へと悠々に着地する。

 

 

 

 

 先にタバサへの認識を、『ただの無口な生徒』と言う認識を変えたように、シルフィードかただのウィンドドラゴン……即ち、『ただの風竜である』と言う認識を変えるべきだ。

 シルフィードの種族は、確かに見た通りは風竜であり、疑う余地のない事実となるのだが、それでも風竜とは一線を成す存在である。第一、風竜は喋らない。

 

 

 伝説の竜種として、『風韻竜』と呼ばれる存在がいる。

 風韻竜は人語を解する程の知能を持ち、物によっては人間を凌駕する知能を持つと言われているそうな。

 そしてその高い知能が故か、言語能力も備わっており、喋る事も可能である。

 もっと言えば、その上に強力な『先住魔法』を操る力を持ち、隼よりも遥かに早いスピードで空を舞う。もう至り尽くせりとも言える、まさに『伝説の竜』であるのだ。

 

 

 そしてその『伝説の竜』こそ、タバサが午前に召喚したシルフィードである。

 この事は親友のキュルケはおろか、イザベラも誰も知らないタバサだけの秘密である。

 

 

 

 

「はぁー! お腹すいたのー!」

「うるさい」

 

 だが悲しいかな、シルフィードは人間より長く生きているとは言え、精神年齢は幼かった。召喚時よりタバサに懐いているものの、ワガママで自分勝手な性格なのだ。

 言えど、妖魔などに関しては教授よりも物知りな上に『先住魔法』は扱える程、人間にとったら恐ろしい存在なのだが。侮ってはならない。

 

「だってお姉さま、シルフィは召喚されてまず初日なのね! 何も食べてない!」

 

『お姉さま』と言うのは、懐いたシルフィードがタバサを勝手にこう呼んでいる。強制と言う訳ではない。

 

「任務遂行中」

「だとしてもお腹ペコペコで動かすのはヒドいのね! ヒドいヒドいヒドぉーい!」

「…………」

 

 あの時タバサが、「冷静を讃える碧」と形容したキュルケのイメージに何か言いかけたのは、こう言う事情である。

 幼い故に喧しい、鬱陶しい。

 前足をバタバタとさせてワガママ唱えるシルフィードに溜め息一つ出さないのは、流石のタバサと言った所か。

 

「……着いたら何か食べさせて貰える。だから、黙って」

「うぅ……お姉さま、冷たい……」

 

 ショボンと、落ち込むように首を下げたシルフィード。

 そんなシルフィードに興味を示さず、タバサは竜の背中から河原に飛び降りた。

 

 

「でもお姉さま、目的地まではまだ少し遠いね。どうしたの?」

「……吸血鬼が相手。慎重に挑まなければならない」

「それはそうだけど……村に入る前からどうしたのって事」

 

 するとタバサは、シルフィードのその質問を待っていましたと言わんばかりに、指差して新たな指示を出した。

 

 

「吸血鬼が潜む村。あまり極度に目立ちたくない」

「成る程成る程」

「だから化けて」

「成る程なる……はうっ!?」

 

 シルフィードはビクリと、全身を飛び上がらせた。

 彼女からの指令は「化けろ」。どう言う事なのか分からないが、シルフィードはこの指令を恐れているとも嫌がっているとも、と言う反応を見せている。

 

「い……いやなのっ!!」

 

 流石に大好きな我が主人、タバサの命令とは言え、受け入れたくない程に嫌なようである。

 穏やかなシルフィードの表情が、威嚇をする犬の如く険しいものとなり、「グルルルル」と喉を鳴らしている。ここまで嫌なのかと、逆に気になってくる所ではあるが。

 

「化けて」

 

 しかしタバサは譲らない。無表情の、見透かしたような目でシルフィードを見つめて差し迫る。

 

 

「いやいや! 化けるのだけはホントォ〜に勘弁なのねっ!!」

「化けて」

「いやなのっ!!」

「化けて」

「や……やっ、なの……!!」

「『やっ』じゃない。化けて」

「うううう……いやぁ……」

「早く、化けて、早く」

 

 唸るシルフィードだが、タバサの短い言葉の追い立てにより、精神的なプレッシャーがかかって行く。

 

 

 これ以上ごねても、絶対に妥協しないから。そう言わんばかりのタバサの目と圧力に屈し、シルフィードは負け惜しみのように話すのだった。

 

 

「グルル……あぁもうっ! 終わったらお肉、沢山食べさせて貰うからねっ!」

「善処」

 

 根負けしたシルフィードは川の水に入り込み、不機嫌そうな表情のまま『先住魔法』を行使するのだ。

 

 

 

 

「……『我を纏いし風よ』」

 

 シルフィードはそう呟いた言葉、呪文のようだ。

 しかしタバサなどのメイジ達が発するような、ルーン文字の読唱ではない。それは詩の朗読のような、人語である。これこそが、『先住魔法の呪文』であったのだ。

 

 

 まず一節を言ったシルフィードの周りに、輝く風が纏い出した。それだけではない、周りの川の水が草を伸ばすように細く伸び始めた。まるで重力を逆転させたかのように空へ空へと伸びて行く。

 これはまだ、途中の儀式に過ぎない。シルフィードは呪文を完成させる、次の一節を唱えるのだった。

 

 

「……『我の姿を変えよ』」

 

 伸びた水が纏わり付き、蒼き風と共にシルフィードを包んだ。

 丁度それは、渦のように螺旋して広がり、強風を巻き起こした。

 

 

 そしてそれが分散するが様に消え去ると、跡地に残ったのは先程の大きなドラゴンではなかった。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 青く、長い髪をなびかせ気怠げに息を吐く、端正な顔立ちをした若い裸体の女性が立っていた。

 主人であるタバサより大人な姿で、年代は二十代かそこらのだろう。更にスタイルも良く、女神の誕生のような神的美貌が煌めき弾けているかのような錯覚を受けた。

 

 

 これこそが『先住魔法』の一つ、姿形を全く変えてしまう『変化』と呼ばれる呪文であった。

 目の前にいるこの、先程のドラゴンとは体長も何もが全く似つかない彼女は、間違いなくシルフィードである。

 

 

 一歩、二歩と歩き、川から彼女(竜ではあるが、今の見た目が人間である為『彼女』と呼ぶ)は上がった。

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「……ううう! やっぱりこの体、苦手ぇっ!!」

 

 登場シーンはとても落ち着きがあり、美貌を感じたのだが、次の瞬間に裸体のまま駄々こねる様を見せたのなら全て、無かった事になるだろうに。

 シルフィードは体をグラグラとしたり、手足をばたつかせたり、幼子のワガママのように叫び散らしたりと不快感を全身で表現していた。勿論、裸のまま。

 

「人間って、何で二本足で歩けるのぉ!? 揺れるし腰も痛いし、何より歩きにくい! きゅいきゅい!!」

「しっかり準備運動」

「分かっている! もう!」

 

 伸びたり屈伸したりアキレス腱を伸ばしたりと、水泳を行う前のような準備運動を彼女は始めた。慣れない人間の姿だ、体を解さないと動き辛い訳である。これは人間だってそうだし、全く体型が違う生物に変身したのなら尚更だ。

 ただ、裸でこれらをやると言うのは些か、はしたないとは思うが、元は竜なのだからナンセンスな指摘かも知れない。

 

 

「じゃ、これ」

「うん?……うわぁ……」

 

 準備運動をする彼女に向かい、タバサはかけていたバッグより、服を取り出した。

 しかも今のシルフィードと同サイズの服。さては彼女、最初からさせるつもりだったのか。

 

「服はいや! ザラザラしてるし、余計歩きにくくなるし、気持ち悪い! 本当、人間って何でこうなのぉ〜!?」

「人間は服を着る。格言にもある、郷に入りては郷に従え」

「だとしてもイヤっ!」

 

 サッと服を押し付けるタバサから逃げるように木の後ろに隠れ、イヤイヤとごねるシルフィード。

 

 

 するとタバサの目がジトリと半目になり、シルフィードから目を逸らして『弱味』を呟くのだ。

 

「……別に良い。だけど、お肉は無し……」

「!?!?!?」

「……独り言」

 

 独り言とは言うが、こうも明らさまに宣告する者はいようものか。絶対わざと、聞かせたに違いない。

 シルフィードは涙目で耐え忍ぶような表情になり、「ううう」と呻きながら渋々タバサから服を手に取った。

 

「卑怯なのね……鬼なのね……」

「……お肉」

「分かった、分かったから、言う事聞くってばぁ!!」

 

 彼女はとうとう、服を身に纏った。

 

 

 

「うぅー……やっぱゴワゴワしてるぅ……草木の中にいるみたい……」

 

 服は、貴族の着る上等な代物である。ウールを含み、人間にとっては生地が気持ち良い服だとは思うのだが、それは服を着慣れた人間の話。着た事ない種族に着せて喜んで貰えるかと言われれば、それは傲慢だろう。ただただ不快と言わんばかりに、裾を引っ張ったりと嫌々な風を見せている。

 またスカートと一体化した服であり、スウェットのお陰で歩きにくさは軽減するだろう。タバサ唯一の気の利かせ。

 

「これなら、あの桃色の子が召喚した、平民の服の方が気持ち良さそうだったぁ! あの帽子被ってみたい!」

「駄々こねない」

「だってだって……うん? お姉さま、何しているの?」

 

 

 その上に、タバサはメイジの象徴とも言えるマントを脱ぎ、シルフィードに着せた。更には杖さえも渡すのだ。

 マントは兎も角、杖も抜いてしまえばメイジは魔法が使えないだろう。象徴であるマントも抜いてしまえば、ブラウスとスカートだけのタバサは『平民』と言われても納得してしまう風貌となってしまうだろうに。

 

「ちょ、ちょっとちょっと、お姉さま!? マントも杖もシルフィに……どうしちゃったの!?」

 

 メイジと杖の事を知っているシルフィードは驚き、彼女に返上しようとするがタバサは応じない。

 

「あなたが持つ」

「シルフィが持つって……この状態じゃ魔法使えないし、お姉さまも杖がないと魔法が使えないじゃない!?」

 

 彼女の質問に対し、タバサは答えた。

 

 

「私、従者」

「……へ?」

「あなた、騎士」

「…………」

「……理解した?」

 

 さも当たり前、と言わんばかりのタバサの声。

 

 

 

 

「えええええええ!?!?」

 

 閑散とした森に、シルフィードの驚き声が木霊したのはワンクッションの後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな二人の様子を見つめる、一つの存在がある。

 木々と木々の間に体を仕込ませ、森の影な身を落としたばかりに、タバサとシルフィードの感知を逃れていた。

 存在は、二人を見て笑っているかのようにカタカタ揺れた。

 

『コリャまた凄いのがキタぜェ! アイツら、オレが見えるかナ?』

 

 そう言うと、霧に消えるように姿を消したのだった。

 

 

 

 

「……?」

 

 タバサが、森の方に目を向けた。

 何もいない、ただ風が木々を揺らすのみ。

 

「お姉さま? どうしたの?」

 

 二人は村への道を歩いていた。唐突に振り向いたタバサが気になり、先導するシルフィードが様子を伺った。

 

 

「……気のせいだった」

「……きゅい?」

 

 こうして二人はやっとの事、村へと到着するのであった。入り口には、老人と思われる人物が立っている。




どちらかと言えば、コミック版の要素が色濃いかと。
と言うかジョジョ分少ない……少なくない?

6/20→イザベラを『女王』としていましたが、『王女』の間違いでした。と言うか、高機能執筆フォームの『文字列置換』便利過ぎて、スタンドかと思いました。

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