ので、ピッツァの専門店に飛んで、食べました。『プロシュット エ クァットロ フォルマッジョ』を食べました。
「おぉ!兄貴とホルマジオだ!」
だなんて思いながら食べました。すっげー爽やかな気分だぜー!
「それでは、まずは基本的な事をおさらいしましょう。魔法の四大系統とはなんでしたか?……ではミスタ・グランドプレ!」
シュヴルーズが指命したと同時に、口から粘土を剥がされた太った生徒が、シュヴルーズから受けた質問に答える。
「ぷはッ……! え、えーっと、【ケーン】【ラグース】【ハガラース】【ジエーラ】です!」
「へ?」
定助が間抜けな声を出す。出したと言っても、比較的小さな声なので、ルイズ以外には聞こえていない。
それもそうだ、『四大系統』はルイズに言われた通り、【火】【水】【風】【土】のハズである。これは一体、なんなのか。
「どうしたのよ? 変な声出して」
間抜けな声に気付いた唯一の人、ルイズが気になって小声で定助に聞いた。
「なぁ、『四大系統』ってのは、【火】とかじゃないのか?」
「合っているわよ」
「今の【ケーン】ってのは…………」
するとルイズは、「聞いていれば分かるわ」とだけ言って、また前に注目してしまった。寧ろ、授業だから前を向くのは当たり前の事なのだが。
太った生徒の答えを聞いて、シュヴルーズは「お見事です」と、正解を認めた。
「ミスタ・グランドプレが言ったのは、難しい『四大系統』の別名の方でした、その通り!【火】【水】【風】【土】が『四大系統』です。【
そう言う事かと、定助は納得した。それにしたってあの太った生徒、別に格好付けて難しい方じゃなくて、普通に言えばいいのにと、少し思った定助。しかしここで、定助には困った事が出来ていたのだった。
(…………さっぱりだ)
黒板にシュヴルーズが書いた、図と文字なのだが、図は良いとして『文字』が全く読めない。と言うか、自分の知っている『日本語』ではない。
ここが日本では無いことは分かっていたし、ルイズたちの顔立ちを見ても外国人の顔をしているので、ここが日本だとは思っていない。
では、だとしたら、何故彼女たちの言葉が『日本語』として認知されているのか。また、日本は存在しないと言われたのなら、『何故、日本語なんて概念が自分にあるのか』と、派生して考えている。
(そんな事より……いや、この事も重要なんだが! それよりも字が! 全く読めない!)
兎に角自分は、この世界の『文字』が読めない事が非常事態であった。
(…………あとでご主人に教わろうかな……恐らく、公用文字はこの……変な文字なんだろ、読めないと不味いよなぁ……)
黒板の文字をまじまじ見ながら、分かる事がないかと考察する。何だか、これで論文書けばセンセーショナルを起こせそうだ。
そんな定助の事情なんか分からないシュヴルーズは、授業を進めて行く。
「そしてこの『四大系統』に、失われた系統『虚無』を入れて、全部で五つの魔法が存在します」
「ふーん……『虚無』かぁ……」
魔法の系統の事はルイズより学習済みだが、疑問に思う。『失われた』とあるのに、『存在する』とは妙な言葉だ。それに『虚無』と言う言葉自体も「
(これも後でご主人に聞こう)
こう言った疑問を探せる所も、楽しいものだが。
「さて、この授業では【土】の系統について講義して行こうと思います」
(お、授業っぽくなって来たぞ)
進行して行く授業の中で、定助はハイヴォルテージになって行く自分の好奇心を実感していた。
「【土】は、『四大系統』の中でも万物の
確かそんな事を、移動中にルイズが語っていた。いや、言っていたのは【土】の属性についてだが、なかなか汎用性高い魔法だと言う事は聞いた。
「ではどなたか、【土】の基本魔法について説明出来る方はいませんか?」
シュヴルーズの質問に対し、教室内の生徒がマチマチと挙手をしている。もちろん、真面目なルイズも挙手している。逆に意欲がないのか、キュルケにタバサなどは挙手をしていない。きちっと
口に粘土押し込まれ組は、グランドプレのように状況から脱却する為、全員が挙手をしていた。
「そうですねぇ……」
誰を指命しようかと、シュヴルーズは教室中を見渡した。
「それではここはミス…………え?」
彼女の視線が一点に止まった。更に呆気に取られたような声を出したので、生徒たちは「なんだなんだ」と視線の先を追った。
視線の中心はルイズの隣。
「まさか……」
それで察したルイズは、恐る恐る顔を横に向けた。
定助が、細く長い腕を伸ばして、『挙手』していた。
「えーっと…………」
困惑するシュヴルーズ。それもそのハズ、平民が貴族の授業に参加しようとしているなんて、前代未聞だからだ。
「……………………」
「……………………」
「…………それは、手を上げているのですか?」
「はい」
さも、「依然、問題はなし」と言った堂々たる風格で、挙手を肯定した。
「あ、あんた!? なにやってんの!?」
面食らったが、思わず声の出るルイズ。しかし、定助は挙手したまんまキョトンとしている。
「この質問の答えは知っているし、説明も出来る」
「だ、だからってねぇ…………」
「知っていて挙手しないなんて、授業に対して
その言葉に「うっ」と呻く数名の生徒。どうやら、定助の言った通りの生徒が間抜けにも見つかったようだ。
「でもあんた、使い魔でしょ!? 生徒じゃあない!」
「大丈夫、恥は晒さないから」
「恥知らずなだけでしょあんたはッ!!」
周りから定助への軽蔑の視線が飛ぶ。しかしやはり、平民が挙手をして答えられる意思を表示している事に対して、好奇の目で見ている生徒も並々にいる。例えばキュルケやタバサなど。
「…………説明出来るのですね?」
シュヴルーズがルイズを手で制し、改めて定助に聞いた。
「はい。こちらから頼んでご主人の…………ミス・ヴァリエールから
ひやひやとしたが、定助が丁寧な言葉遣いで話した為、
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
沈黙。定助はそのままの態度で、シュヴルーズは少し考えているような風《ふう》だ。
「………………………………では、ミス・ヴァリエールの使い魔さん、説明しなさい」
「はい」
やっぱり思った通り、『答えさせる為』に出来るか聞いたのだった。分かりきった結果だが、教室中がざわついた。
「平民に答えさせるのですか!?」
挙手をしていた一人の生徒が抗議したのだが、シュヴルーズは静かに
「彼は『ミス・ヴァリエールから教示して貰った』と言っております。つまり言い換えるのなら、『彼からミス・ヴァリエールの言葉が出る』と言う事です。なので、『ミス・ヴァリエールの代弁』と思えば、堪えて下さいますか?」
「は、はぁ、そ、そですか…………」
生徒はポトンと席に座った。やっぱり、納得いかない顔をしている。
「……………………」
「へぇ…………」
タバサも本から視線を上げて、キュルケも関心深そうに見ていた。ルイズは諦めて、運を天に任す事にする。
「それではどうぞ」
シュヴルーズの合図を受けて、定助は立ち上がった。
「えー、【土】の基本魔法は『錬金』です。これにより、ある物質を他の物質へ変化させたり、建物を建てる際の石材を切り出したり、土壌を操作して農作物の収穫を行ったりなどが可能です。ミス・シュヴルーズが言った通り、『万物を司る』だけあって、その汎用性は高く、『四大系統』の中でも特に人の生活に密接した系統だとも言えます」
(殆ど私のトレースじゃない!!)
とは言うものの、所々にアレンジは入っているし、別にこれは『ルイズの代弁』と言う事なので、問題はない…………ハズ。それにシュヴルーズの言葉も引用しているし、授業はしっかり聞いている事が伺える。
「お見事です!!」
定助の答えを聞き、上機嫌に賞賛する。ルイズもほっとした、犬が隼を倒したのだった。
「流石はミス・ヴァリエールの使い魔ですね、彼女の教育の
(…………仕方ないか)
やっぱり使い魔は使い魔で、平民は平民。何であれど、自分の手元には何も残らないようだ。しかし、ルイズに渡っただけ満足とした。
定助はキチンと一礼した後、床に座った。隣にいるルイズの顔は、やっぱり不機嫌だ。
「…………大人しくしてなさいって言ったのに…………」
「…………やっぱり、マズかった?」
「……はぁ…………まぁ、今回は私に利があったし、お咎め無しにしてあげるわ」
良く見たら、口元が
「でも、主人よりでしゃばったから、ご飯抜きは撤回しないわよ」
前言を撤回する。しなきゃ良かった。
「先程彼が答えた通り、【土】の基本魔法は『錬金』であります。これによって【土】の系統は、様々な物質操作が可能なのです」
するとシュヴルーズは、横に置いてあった鞄を開き、中ぐらいの石を取り出した。それを教卓の上に置くと、杖を懐から出した。
「それでは、この、ただの石に今から私が『錬金』を実践してみます」
そう言いながら、杖の先端部を石にくっ付けた。
魔法の実践とあって、生徒たちは席から乗りだしながら注目していた。口に粘土押し込まれ組も、最早口の粘土の事なんか忘れて注目していたのだが、そろそろ解除してやっても良いような気がする。
「よくご覧なさい」
シュヴルーズは、杖を石に付けたまま、何やら短くブツブツと唱えた。
「おおおお!!」
するとどうだろうか、何の
「凄い! 一瞬で変わったぞ!」
「うわぁ、綺麗ー!」
「オイオイオイオイオイオイ……石が変化だと? だから気に入った!」
「わぁ……ステキぃ……」
口々に出てくる賛美と驚きの言葉の中から、一際大きな声の質問が飛んだ。
「も、もしかしてゴールドですか!?」
それは、さっきまで興味なさげに聞いていたキュルケであった。立ち上がって、身を乗り出している。やっぱり彼女、綺麗な物に目がないのだろう、イメージ通りだ。
対照的にタバサは全然興味なさげだ、『錬金』の実践時まで本に夢中だった。
「いいや違うね。ありゃ『
一人の生徒が、まるでカモメとウミネコの違いを話すように、真鍮とゴールドとの違いを話した。臭いで見分けたらしいが、定助の位置から臭わない上に彼は後ろの方の席だ。なのに嗅ぎ分けるとか、嗅覚が化物レベルじゃないのか。人間のアドレナリンの匂いも嗅げるのではないか。
「え、えぇ……その通り…………」
その男子生徒にややドン引き気味のシュヴルーズ。優しい彼女でも、遠くから臭いを嗅ぎ分ける少年はある種で恐怖を感じるだろう。
「……………………」
近くにいた女子生徒が彼から離れた。どうしたのだろうか。
「…………確かにこれは、銅と亜鉛の合金……真鍮です」
気を取り直して、説明に入るシュヴルーズ。
「黄金錬金が出来るのは、『スクウェアクラス』になります。私は『トライアングルクラス』ですので、出来ません」
「なーんだ…………」
キュルケはまた、興味なさげに席に座った。
「『スクウェアクラス』?『トライアングルクラス』?」
「分からないの?」
またも聞き慣れない単語が出てきた。しかし定助の反復を聞いたルイズが、説明してくれた。こう言った知識系統の話だったら、彼女は優しい気がする。
「メイジの強さを表す、レベル付けのような物よ」
「どうやって決まるんだ、それって? やっぱ熟練度?」
「それもあるけど……」
ルイズは説明しようと、言葉を頭で組み立てた。
「メイジの強さは『組み合わせられる系統の数』で決まるの。一つだけなら『ドット(点)』、二つなら『ライン(線)』で…………」
「三つなら『トライアングル(三角形)』で、四つなら『スクウェア(正方形)』と言う事か」
「…………飲み込みが早いのが助けね……記憶失う前はまともな人間だったわね、あんた」
関心したような、色々と哀れむような、とりあえず定助のこの長所は認めた。
「ついでに言っておくけど、強さ…………とは言ったけど、これは『パワー』って意味じゃないの。あくまで『使える系統の数』」
「ミス・ヴァリエール」
「だから、『ドット』だからと言っても弱いって訳じゃないのよ。『ドット』が『スクウェア』を圧倒する実力者だっているし、称号だって凄いもの貰っている人もいる……」
「ミス・ヴァリエール!!」
「はい!?」
説明に夢中になっていたせいで、シュヴルーズの声が届いていなかった。気付いたルイズは、バッと背筋を伸ばして裏返った声で返事した。
「…………教育熱心である事は嬉しいですし、予習もしている事は関心します」
「ど、どうも」
「しかし、今は私の授業ですので、
笑いが沸き起こり、ルイズは顔を真っ赤にさせている。その状態で睨まれたが、「これはオレは悪くない」と訴える目で応対した。
「そうですね…………そこまで熱心でしたら、ミス・ヴァリエールに『錬金』してもらいましょうか!」
笑いが止まり、場が固まった。月並みな表現だが、時間が止まったようだ。
「……………………ミス・シュヴルーズ、今……なんて?」
一人の生徒が、シュヴルーズに質問した。その声の中には、「嘘であってくれ」と
「ん? ですから、ミス・ヴァリエールに『錬金』をしてもらおうと…………」
ワンテンポ置いて、生徒たちから定助の時の倍の抗議が叫ばれた。
「ミス・シュヴルーズよ、『ゼロのルイズ』の実践は、死ぬことより恐ろしい…………」
「なんのことだ?なにを言っているッ!?」
「う~~~…………ううう…………あんまりだ……」
「嘘だろミス・シュヴルーズ!?」
諭す者、動揺する者、泣く者、驚愕する者……様々な感情を晒しながらもシュヴルーズにルイズの『錬金実践』を止めようとする事は一致している。
あまりのオーバーリアクションに、定助は困惑していた。
「なんだあいつら? どうなってんだ?……ご主人?」
「……………………」
ルイズは黙ったまま、俯いている。何か過去にしでかした事でもあるのか。
「先生……ルイズにやらせるのは止めた方が…………」
その中でキュルケが申し出た。彼女でさえも、動揺しているようだ。
「あら? どうしてですか? ミス・ツェルプストーまで……」
「危険です」
危険、さっきの『錬金』に危険な所はないような気がするが、ルイズがやる事に関しての拒絶のような気がする。定助は黙って成り行きを見る事にした。
「大丈夫ですよ。『ゼロ』と呼ばれる彼女であれど、このくらいは出来るでしょう? 真鍮にするくらいなら、『ドット』でも可能です」
「しかし…………」
「それに彼女は、召喚に成功しています! このままの勢いで、失敗を怖れずに挑戦させてみましょう!」
シュヴルーズを止める事は無理だと諦めたキュルケは、ルイズの説得にシフトした。わざわざルイズの傍まで近付いて行くほどだ。
「ね、ねぇ? ルイズ……別に無理をする事はないわよ? その……あれだったらあたしが代わりにしてあげるわ」
「……………………」
「…………ルイズ?」
「やります」
キュルケの説得も
「もう…………あたしはどうなっても知らないわよ…………」
諦めたようだ。頭に手を当てて、椅子に体を預けている。そのキュルケの諦めを悟り、最後の
「これは……夢だ…………『ゼロのルイズ』が魔法の実践なんて…………きっと……これは夢だ…………」
「突っ切るしかねぇ!! 真の覚悟はここからだ!!」
「『ゼロのルイズ』に実践させたらとにかく困るんだ……どっちだね? 君の最優先は? 成績か? それとも『ゼロのルイズ』を止める事が先かね?」
「おぉ……ミス・シュヴルーズよ……あなたはやらせる生徒を間違えた…………」
「おしまいよ……やってしまったわね……あなたは『ゼロのルイズ』にやらせた…………やってはいけないことを……」
かなり大袈裟な物言いなので、これはただ事ではないと、ルイズの代わりに隣に座る、キュルケに疑問をぶつけてみた。
「…………なぁ?」
「うん?」
「どうしてみんな、こんなに怯えているんだ?……それと…………」
続けて、一番知りたかった質問を重ねた。
「キミや…………他のみんなが言っているけど……『ゼロ』って、なんなんだ? 意味が分からない」
それを聞くとキュルケは、意味深に微笑んでみせた。そして何故か、机の下に潜り、床に座る定助と同じ目線にまでなった。
周りを見れば、誰もいない……いや、いないのではなく、みんな机の下に潜っているのだ。
「その答えは…………どちらも今から分かるわ」
「え? それは何で……」
「兎に角今は、隠れて…………通路の方にいたら危険よ、こっちに」
キュルケに引っ張られて、何の事か分からずに机の下へと定助は隠れた。
「みなさん、失礼ですよ! 全く…………それではミス・ヴァリエール、お願いします」
「は、はい!」
緊張しているのか、深呼吸をしきりに繰り返している。吸って吐いてを一回、二回、三回、四回はしない。そして、目を開いたら、杖を石にくっ付けた。
次に聞こえたのはルイズの唱えた呪文と、爆音だった。
区切り所が見つからなかったので、一気に進めました。
四大系統の別名(?)については、漫画版を参考にしてます。それと、いつもながら以上にジョジョ色強いので、ご注意を(あとがき)
1/22→キュルケの本名『ツェルプストー』を『シェルプトー』と間違えていましたので、訂正しました。横文字大嫌い(爆弾発言)