ゴシック・アンド・ロリータ、通称ゴスロリの歴史は、その思想の源流に限定すれば18世紀フランスのロココ思想や16世紀イギリスのヴィクトリア朝時代まで
そういう時代の西洋の服装を現代のストリート・ファッションに取り入れようとする動きによって生まれたのだが、良晴がやって来た時代は後者のヴィクトリア女王が当時はイングランド王国と名乗っていたイギリスを統治していた時代にあたる。
桶狭間より前、関ヶ原より後まで治めていた彼女は、ザビエルの祖国・ナバラ王国やフロイスの祖国・ポルトガルを合わせたスペインとアルマダの海戦で勝った事で有名である。
「…………ありがとう」
「! おう!」
良晴の考案、新しいその原案を見て職人魂に火がついた堺の織物職人の突貫作業で出来た、史実より4世紀ぐらい早いゴスロリの服を身に纏った千利休は、畳の上で1回まわった後、良晴に笑顔を見せてお礼を言う。
愛らしくてほわほわとした彼女の声に、1拍いつもより遅れて良晴も遅れてサムズアップする。
「新しい文化の誕生ですわね」
フリルがついた河内産の木綿を原材料とするその服に文化人として魅せられた義元が利休に近寄るが、気に入った服を触られるのを嫌がる彼女がよける。
『……………………』
やがて、西洋のドレスの千利休と十二単の今川義元が、それぞれ動きにくいはずなのに部屋の中を飛び出して、無言で走り回るというシュールな光景が展開される。
鬼ごっこに武士の心が刺激されたのか助姫も無言で2人の後を追い掛け、3人が去っていった方と良晴の方を交互に見ていた竹千代も、良晴がサムズアップした事から「待ってくださーい!」と言いながら走っていった。
そして、部屋に残ったのは我らが相良良晴と、利休とはキリシタンと会合衆に出る堺商人として世代をこえた友達である小西隆佐、筋肉痛に襲われた体を縁側に出して冷やしてるフランシスコ・ザビエルのみになる。
「……良き関係ですね」
「ありがとう…ございます」
「敬語ではなくて大丈夫ですよ。私は職業柄ですし」
「……わかった」
利休や行長のようにアニメみたいな外見の外国人ではなく、西洋の巷を歩いていそうな印象を持つザビエルは、すっかり馴れた正座に姿勢を変えて、良晴が隆佐を介してドミニコ会に出してきた提案の真意を聞く。
「宣教師を東の地につれていってもらい、更には東の女王であるホウジョウ様との謁見を仲介してもらう、という話は本当でしょうか?」
京の東にある近江は六角家と浅井家が、美濃は斎藤家と土岐家が、尾張は織田家が同族で争い、更にその東の信濃と甲斐を治める武田家は仏教徒という理由でなかなか出ることが難しく、堺の商人も西とは交易していても東と交易している所は数少ない。
なかばザビエルも諦め、史実でもキリスト教に寛容だった織田家が統治していた尾張ぐらいまでしか広げられなかった東国への布教を仲介するという話は、まさに
「ああ、してやるぜ。但し奴隷貿易をしなければ、だがな」
その話を持ち掛けてきたキリシタンでもない少年は、笑顔のままザビエルに返事する。
我ら宣教師がヨーロッパ以外では悪と見られている主な理由をも知っている聡明な少年の答えに、ザビエルは少しだけ目を閉じる。
「そのような者達を決してこの国に来させないようにしましょう。コンキスタドール派、という者達を」
「…………再征服か」
「!? 知っておられるのですか?」
「言葉の意味なら。確か、イベリアからイスラム勢力を駆逐するための合言葉だっけ?」
初めて関東から堺に来たキリスト教を知らないはずの良晴の口から出た言葉に、ザビエルが雷に打たれたような感触に陥っている間に、聞いたことのない言葉に隆佐が反応する。
「中国……じゃなくて明では……なんだったけ? 鯉教だったか?」
「鯉?」
「……回教でございます。ジョウチン様は私のような宣教師や商人とは違う、頭に布を巻いた商人をご存知でしょうか?」
「ええ。言葉が通じないので簡単な取引ぐらいしかしませんが」
「その商人達が信じている宗教です。彼らは私の故郷と明の間にある砂だけの土地に住んでいます」
「砂だけの土地にですか!?」
「
ああ、やはりこのお人は私達とは
「サガラ様」
「んっ?」
「あなたは何処から来ましたか?」
眉をひそめるではなく、サガラ様は目を見開いた。
そして、目を閉じて考え込んだ未知なるお人は「ここだけの秘密な」と前置きしてから、真剣な表情と声で初対面の私達に教えてくれた。
「俺ははるか未来、多分この世界とは違う所からやって来た」
と。