相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第27話 船旅の話

 1月4日、小田原城。

 鎌倉府の定例会議が終わり、着々と最終的には足利藤氏の捕縛か殺害を目的にする迅速な軍事行動の準備が進む中で、良晴は初めて北条家の本城を訪れていた。

 総構えの最も外側にある空堀と土塁の間に設けられた少し古びた木造の門が、総構えの中に入る時に通らなければならない関所であり、それは全長9キロの総構えに4つほど作られていたが、良晴を乗せた御輿はその1つである井細田口の前で止まっていた。

 

「でけえなあ」

 

 屋敷の中といった短い距離なら杖なしでも動けるようになったが、長距離となると怪しい所なので、立花道雪のように御輿の上に座っていた。なので、北条家が誇り、景虎や信玄も本気で攻めようとしなかったと言われる名城を見ることが出来た。

 わずか1ヶ月半で鎌倉郡を任されるまで大出世した良晴に門番の兵士が複雑な感情のこもった視線を向けるが、あえて良晴もそれに触れず、総構えの様子などを見ていた。

 やがて御輿も動き、総構えの、そして城の中へと踏み入れる。

 

「2日ぶりね」

「ああ」

 

 時間も決めていたし、北条家の最優先事項なので、氏康と面会する事はすぐに出来た。

 鎌倉府のような正装ではなく、女の子っぽい普段着のような服の氏康が上座に座り、下座で床几(しょうぎ)に座る良晴と同じくらいの目線の高さになる。

 良晴がここに来た理由は簡単で、ある人物に帰郷の同伴を頼まれたからだ。

 

「詳細はこんなものかな」

「伊勢家は会えたら、か」

「ええ。将軍家の近くで仕えてるからーー」

「将軍が景虎に肩入れするとややこしい事になる、か」

 

 そして、その人物は良晴が設計図を出したある船に乗りたくて、城内に宛てられた部屋でワクワクとしていた。

 良晴が江戸城の幻庵の陣中に落ちて捕らえられた後、自身が未来から来たことを証明するために、図書館でコピーして学生服のポケットに突っ込んだままだったジャンク船の設計図を出したのだが、船を造る職人達がその詳細なそれに唸ったのを見た氏康は建造を指示した。

 で、それが完成間近の時に瀬戸内と黒潮の流れにのって二条尹房がやって来て、あれに乗って帰りたいと言ってきたのだ。

 

「観光する暇はないんだな」

「堺ぐらいしか見れる所ないでしょう」

 

 ちなみに、完成間近で給料の問題で製造は止まっていたが、年の瀬になって主に綱成が歩き回った東相模から臨時収入が届いたので出来たという裏話もある。

 とにもかくにも、現役摂政の二条尹房殿下と良晴の時代で言うと財務大臣の山科言継卿に、そのジャンク船の設計経緯や『肥後の相良家(藤原南家)の一族ながら政争に敗れて朝廷への献金を送る一団に紛れて上洛し、更に東に向かい鎌倉で落ち着いた者の末裔』である良晴に対する同族意識、良氏のデビューの時に話した際の落ち着いた雰囲気から指命された良晴は、ここに船で上洛する事になった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 1月5日、小田原城から源頼朝が最初に挙兵した石橋山と半島を挟んだ所にある真鶴港。半島の先っちょの岬の南側にあるので相模灘にあるその港は、大いに賑わっていた。

 

「やっぱりでけえなあ」

「それしか言ってないのでは?」

「それしか言えねえよ」

 

 港に泊まるジャンク船の甲板には、杖をついているので先に乗っている相良良晴とその相棒の宮ヶ瀬梅千代。

 

「大儀であったぞ、氏康」

「有り難きお言葉でございます」

 

 そのジャンク船の乗り口には、二条尹房と北条氏康。

 

「これほどの大船、私達には必要か?」

「この日ノ本を統べた後ならでしょうかな」

 

 ターミナルには、さっきまで尹房と茶室で話していた武田信玄と山本勘助。

 

「懐かしい顔が揃っておるなあ」

「何度目ですか、それ」

 

 波止場には、今川義元の軍師であり彼女を導いた太原雪斎(1496年産まれ)と、彼が修行していた寺に近い所に荘園を持っていて義元は義理の姪にあたる山科言継(1507年産まれ)

 

「本当に大丈夫なのでしょうかあ?」

「わらわと(すけ)姫に任せれば大丈夫ですわ!」

「……助姫様?」

「…………ふい」

 

 そして、船底の大きな木箱の中には今川義元、松平竹千代、そして北条助姫の3人。

 予定通りに船は出て、偶然にもほぼ同じ時間帯に真鶴の港と船の上で騒動が起きる。


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