「烏帽子親お疲れ様でした、晴氏殿」
「うむ」
「……本当に良かったのですか?」
「名前の事か? 新しき時代に似合う事よ。それに名前の読み方は同じであろう?」
「はあ」
足利梅千代の元服式&就任式の後、真っ昼間なのに、鎌倉府の屋敷の中では宴会が開かれ、3つの家の大人達が呑み交わしていた。
良晴は未来では未成年なので飲む気は沸かず、乾杯の1杯だけ酒にしてからは、ずっと
そして、普通に酒を飲んでいる幻庵と氏尭の絡みからなんとか逃げれた良晴は、部屋の外の縁側で静かに鎌倉の山並みを見ながら酒を飲んでいる晴氏の隣に床几無しで座る。
「良晴も色々と大変であるな」
「まあ、俺が元いた世界よりかはましっすけど」
「過ぎたる好意、か。……ああ、そうだ。妻もそなたに感謝してたぞ。これが書状だ」
「……緊張してなかったらしいですのに湿ってますね」
「…………」
晴氏が良晴から視線を逸らした先に1人の少女が近付いてきた。つい先日の義重のように、髪型を
この宴会は無礼講だと宣言して今の事態を引き起こした彼女は、微笑みを浮かべながら父親と良晴の所に近付き、晴氏があけた父親と良晴の間にさっと座り込んだ。
「どうだった?」
「良かったぜ。あんなに堂々と出来るなんてな」
「良晴から力を貰ったからね」
父親そっちのけで良晴に話し掛けるのは、堅苦しい事が終わり何時もの服装に着替えた、今朝までは足利梅千代だった足利
昨日の晩御飯の後に「忘れてたわ」と氏康から義氏から良氏への変更を教えられた良晴は、良氏の言葉に苦笑いを浮かべ、無意識に何時も自分にヤンデレへの対処法を教えるために疲労困憊になっていた男子の後輩にするように彼女の頭をポンポンと叩く。
それに彼女は顔を俯かせ、彼女の父親は優しい表情を浮かべながらそれを見る。
「良晴」
「はい」
「良氏が明日から本格的に動く前に、今から一緒に鎌倉を巡ってくれるかい?」
「……御館様がーー」
「良いわよ」
いつの間にか自分の後ろにいた氏康の声に、声を出そうとしたがなんとか堪えた良晴は、何故かゆっくりと後ろを振り返る。
何かを考えている微笑みを浮かべた氏康と少しジト目の義重が良晴を見下ろし、義重は良晴と視線があうと笑顔を浮かべながらうなずく。
ルート、また俺が決めないといけないんだろうなあ、と昨日の事を思い出した良晴であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
鎌倉時代、幕府は鎌倉の中を2回移動した。
最初に源頼朝が建て頼家・
更に、その泰時は自分の邸宅に移動させ、そこから97年後の彼の曾孫の孫の世代に滅亡するまでの中心だったのが、源平池と宇都宮逗子幕府の間にあった所で若宮幕府と呼ばれている。
「これが食べ歩きか!」
「ああ」
そして、氏康率いる北条家はそれを再利用する。
大倉幕府跡を、鎌倉公方を補佐する関東・奥羽の武士で構成される予定の執権の役所に。
宇都宮逗子幕府跡を、堀が掘られ石垣で周りを囲んだ、この鎌倉の行政を担う役所に。
最後に若宮幕府跡を、これは良晴の考案と良氏の賛成で作られる事になった食べ歩きの所である。
「お嬢さん方! 江ノ島の沖で獲れた
「今猿田彦様?」
「おや、知らないのかい? 玉縄城主でいらっしゃる上総介様の近くに侍り、道の舗装や由比ヶ浜の宿作りとかをしてくれたお人だよ! 名乗らないけど猿顔だから、みんなは『今猿田彦様』と呼んでいるのさ」
「良い話を聞いたわ。人数分買うわ」
「! 毎度あり!!」
台形に近い四角形の辺の傍に屋台があり、中心近くには猿楽や田楽が
その丸机の幾つかは、夜限定で予約制の大きな宴会のために大きくなっているが、その内の1つに良晴達は座っていた。
「やっぱり良晴殿は人を笑わせる天才ですね!」
「未来の事を一足早く取り入れただけだよ」
良晴ら4人が鎌倉府からここに向けて歩いている時に、鶴岡八幡宮への参拝を終えてきたばかりの景虎&六代と鉢合わせになり、景虎の提案でついてきたのだ。
同じ体育会系からなのか景虎と良晴の馬があい、昨夜話していたから六代と義重の馬もあった。良氏が膨れていたのは言うまでもないだろうが、風魔は自分達の主が少し不機嫌そうだったのに驚いていた。
そして、今度は景虎と六代の2人が訪れようとした所に行く。それは、鎌倉府がある浄明寺地区から始まり、玉縄城下にあたる道程である。