京 北野
西日本をまわった姫巫女様ら一行は、畿内で一旦休憩し、長宗我部良親の提案で北野天満宮の境内で大きめの茶会を開く。
その茶会に招かれたのが、今回の日本周遊で通らない事が決まっている北陸道と東山道の東海道の国主達である。
「ご尊顔を拝謁出来まして の喜びでございます。
相良様の命により若狭国守護を勤めさせていただいております武田若狭守義統でございます」
「同じく越前国守護を勤めさせていただいております朝倉越前守義景でございます」
「同じく加賀国守護を勤めさせていただいております前田加賀守利家でございます」
「同じく能登国守護を勤めさせていただいております畠山能登守良光でございます」
「同じく越後ならびに越中ならびに佐渡国守護を勤めさせていただいております長尾越後守良虎でございます」
「同じく近江ならびに美濃ならびに尾張国守護を勤めさせていただいております織田美濃守良奈でございます」
「同じく飛騨国守護を勤めさせていただいております三木飛騨守良綱でございます」
「同じく甲斐国ならびに信濃国守護を勤めさせていただいております武田甲斐守良┃信≪・≫でございます」
「同じく上野国守護を勤めさせていただいております足利上野守良氏でございます」
「同じく下野国守護を勤めさせていただいております宇都宮下野守良綱でございます」
「同じく上総国ならびに下総国守護を勤めさせていただいております足利┃総≪ふさ≫守┃良≪・≫輝でございます」
「同じく安房国守護を勤めさせていただいております里見安房守 でございます」
「うむ。皆々、遠路はるばる御苦労である。特に良統、良虎、良奈、良氏は重身にも関わらずよく来てくれた」
姫巫女様が隣の関白を見るが、関白は関白で微笑んで気付いて自分にくれないので何とも言えない感情になる。
全員の挨拶が終われば、1人ずつが話す機会を与えられる。
「若狭の海の幸は相変わらず美味よ」
「勿体ないお言葉でございます」
まずは、武田良統。土岐頼次に今も構われているが、すっかり美人に育った彼女と頼次の逢瀬は京の癒しの1つになっている。
「まさか御主が2人目のやや子を一番早く授かる事になろうとは、京雀も思ってなかったでしょうね」
「本人が一番驚きましたしね。御姉様達と御主人様のおかげで、一番幸福な若狭武田家の当主であると言えます」
白かったからこそ、一番良晴が好きな色に染まり、良統もそれを受け入れたからーーと、友でありライバルである者達は評した。
「関白様の奥様方はどの御方も見目麗しくございますが、某の嫁であもーー」
日ノ本一の愛妻家と噂される義景の話は割愛。
「関白様のおかげで加賀国は再び活気を取り戻しました。ここで改めてお礼を申し上げます」
一揆が持ちたる国・加賀国を一から建て直す大役を任されたのは、織田信奈の一家臣だった前田利家。少なからず反発もあったが、庶民に好かれた慶次郎など一族郎党に加えて全国の協力もあり『日ノ本のモデル』と評されるまでの国になっている。
かくいう彼女と相良良晴の間にも、織田信奈の強力な後押しによって婚約が成っているが、入国時に「全て終わるまで私は捨てる」と宣言していた。
「適齢期を過ぎないように頑張る」
「お、おう」
「ふふっ」
妖艶になってきているのは気のせいではない。
一方、良晴とは知らずに愚痴った事が今に繋がっている畠山良綱は、良晴を見る度に涙を流し話どころでは無かった。
「此度は良統に負けたの」
「はい。ですが、三つ子を授かったので引き分けであると、私は思っています」
上杉良虎が無事に双子を出産した時は越後の一年分の酒が3日で消えたが、今度はそれを越えるだろうと言われている。
「こんなに母は大変で、嬉しいものであるとは思いもよらなかったです」
と乙女の顔で母になった感想を言うのは、ようやく自分の母親とも┃蟠≪わだかま≫りが解けてきたらしい織田良奈。
弟の信勝が浅井長政ことお市と共に3年連続で子を授かっているのに負けじとなのか、彼女も2組目の双子がお腹の中にいる。
「姉上が無遠慮で申し訳ないです」
定型文的な挨拶に終始した三木の次は、国より夫を選んだ姉から国を任された弟である。1度謀反を起こしたのにも関わらず、上も下も横も認めてくれた時は思わず号泣し、それを義兄によくいじられている苦労人だ。
自分から側室になった信玄こと良信は、隙あらば良晴に迫り、2人目を授かる。一方で、正室達へのプレゼントなどについて進言したりと、役目も忘れていない。
「もう1度、良虎さんと一緒に温泉に来て下さい」
古河、鎌倉、そして前橋。関東の一番の名家の主は、皆の御姉さん的な立場に上手く収まりながら我が子を育てている。
一方で、本家である良輝・良昭兄妹と密かに争っているのだが、おくびにも出さない。
「佐竹殿と家臣に支えられて生き残れた幸運者です」
と朗らかに笑う宇都宮良綱の次の足利良輝も同じような顔で、かつての剣豪将軍は鳴りを潜めていた。
「良昭を良氏よりも幸せにしてくれ」
と言う時には必死に抑えているのがわかったが。
「こうして出会える事、何よりの喜びです」
北条家と付かず離れず関わり、下剋上で得た国を認めてもらった里見家は、やはり水軍の家である。
「傭兵の身にも関わらず姫巫女様と関白様のご尊顔を拝謁できる事、末代までの家宝でございます」
良晴の直轄領になった紀伊のかつての主は、かつて協力関係にあった根来や雑賀の傭兵を率い、里見や長宗我部水軍の船に乗り、果ては南半球の土地にも立った。
和気藹々と、かつて戦国武将だった者達が集っているとは思えない空気に包まれながら、一時は過ぎていく。