相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

252 / 256
間に合いました。


天下見分~琉球編~

「日ノ本をまわってきます」

「朕もついていっては駄目か?」

「…………」

 

天下統一ならぬ天下一集から早くも5年経ったある日、当代の姫巫女様と、関白・相良良晴の全国行幸が日ノ本に発表された。

それから半年を経た3月1日、まだまだ寒いが、1桁を下回る事は無くなってきたので、出発する。

 

「お待ちしておりました、姫巫女様、┃相≪・≫┃良≪・≫殿」

 

その最初の地に┃浦戸≪土佐≫、┃坊津≪薩摩≫、┃種子島≪大隅≫を経て着いた大舟にその地の主は驚きつつも、何とか表情には出さずにそこから降りてきた2人に挨拶する。

 

「琉球王国国王、尚寧王です」

「日ノ本姫巫女、一である」

「日ノ本ノ関白、相良良晴です」

 

天下一集後、良晴はすぐに朝鮮や明、そして琉球王国に政権交代の書を送り、様々な反応を貰った。

3つの国とも祝電を送り返してくれたが、そこに「是非とも我が国に来てほしい」と付け加えられていたのが琉球王国であり、良晴は全国行幸の最初の地として、ヨーロッパや東南アジアへの中継点となるその王国を選んだ。

現在の王家の7代目の国王である尚寧王ら琉球王国の要人達は、その2人の権力者の若さと政治家の雰囲気のギャップに驚き、日ノ本から繰り返し求められてきた事をこれまでより深く考えざるをえなくなる。

 

「それにしても本当ですかな? 南蛮の者達がこの国を狙っている、というのは」

 

歓迎パーティーの後、国王とそれに近い者しか入れない特別な部屋にて。

前の国王の祖父の兄の曾孫、という遠い血統から王になったので、地盤は弱いというのはわかっている尚寧王は、まず本当ならば永遠の苦しみを味わう事になるだろう事を聞く。

その問いに国家の代表である2人ははっきりと頷き、相良良晴の側に侍る土岐頼次という「秘書」が、予め用意していた資料を出す。

「南蛮の者達は、政治と宗教を自分の都合で引っ付けたり分けたりする事に疑問も持たず、それを問答無用で相手に押し付ける事も一緒です。

そして、貴国の交易相手である東南アジアの国々も、その論理に立ち向かえぬまま、徐々に力を┃削《そ》がれていき、その身を削られ、民は悲惨な末路を辿っています」

 

琉球を経由して東南アジアにまで手を伸ばしている自国の交易商人や、キリシタンである大名に調べさせた結果は、その頼次の言葉を表していた。

全員が悪いという訳ではなくこいつらが悪いのだ、という思いが感じられるからこそ、その報告書は真実を語っていると言え、それを感じ取れない王ではなかった。

 

「明朝は内憂外患を抱え、東方の島国を積極的に守ろうとはしないでしょう。だから、日ノ本は貴国にあの提案をしました」

 

戦国時代を生き抜いた日ノ本には、尋常ではない量の武器が残り、戦を経験した大人達が何万人もいる。更に、天下が統べられてからは鉱山の発見が相次ぎ、経済的にも上昇していた。

そんな国からの提案は琉球諸島への日本軍駐留、である。それに対して、官僚からは「その駐留軍によって王国が制圧されるのではないか?」という疑問が当然ながら沸き起こり、王も相良にそれを聞く。

 

「日ノ本の兵はお……私の管轄下だが、琉球に駐留する兵は姫巫女様の管轄下に置かれる。例え、俺の顔を汚す事はあっても、姫巫女様のお顔を汚そうとはしない」

 

その言葉に、王は納得する。日ノ本の民の姫巫女への崇敬は、その日ノ本の商人などから度々聞き本物だと感じていたからだ。

 

「……わかりました。駐留を認めましょう。ですが、いきなりこの本島ではなく、奄美なり先島なり別の島で良いですかな?」

「勿論です。いきなり、何の実績もなしに全面的に信じろ、というのは無理がありますし」

 

その会話に日ノ本の民は血気盛んで野蛮だと噂していた官僚達が驚くのを横目に見ながら、王は頷き、姫巫女に手を差し出す。

 

「我ら1匹の竜になり、共に抗いましょう」

「ええ」

 

ちなみに、である。

そのすらりとした寡黙な姫巫女に求婚したいという者達が多数きたが、王は「既に将来を誓った者がいる」という言葉を伝えて諦めさせる。

そして、琉球王国の王宮である首里城の近くに、日本軍が駐留を始めたのは、それから10年後の事だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。