7月2日 夜
豊後・海部郡 丹生島城
今回の内乱で大友義鎮に反旗を翻したのは、
一方で、大友家と事あるごとに対立し府内より周防に近い田原家や、佐伯家と小原家を除く大神家の末裔の者達など家中の多くの家はどうするか表明していない。
他方で、早くも義鎮支持を公表して動き出している家もあり、事実上の筑後守護代である柳川城の蒲池
「本当に良いの? 貴方達は軍の崩壊を抑えてくれたのに」
「はい! どうか休松の戦いの敗戦の責任を取らせてくださいませ!」
誰が、勇将として知られる高橋鑑種の謀反によって浮き足立つのを予期出来ようか。誰が、それを見て各部隊に夜襲の警戒を命じた鑑連を攻めれようか。誰が、その忠告を聞かず混乱した他の部隊を吸収してから撤退した彼を攻めれようか。
だが、鑑連は結果的に府内などでの反乱に繋がったと思っていて、主が府内を追われたのは自分のせいだと思っていて、主が命じるであろう場所も、鑑連は想像がついていた。
「……
しかし、彼の予想とは違った。
「まず府内と豊後を鎮圧するのは必須。それに、毛利家と戦うためには後ろを安定していないと駄目だから」
と、義鎮は聞かれていないのに理由を言うが、それで逆に傍らで聞いていた相良良晴も鑑連の表情の変化の訳に気付く。
だから険しい表情のまま出ていく彼を見送ってから、良晴は何かと理由をつけて義鎮から離れ、筑前を監視している父親の名代として
「……何用ですかな? 相良殿」
沈黙に耐えきれず、足を止めて、振り向かずに鑑連は問いかける。
目の前の武将から
「博多に行く気だよな?」
「……であれば?」
「これ以上、義鎮を孤独にさせたくない……と言えばわかってくれるか?」
「外の者と言えども九州の修羅は容赦しないですぞ? むしろ元寇や我らとの歴史からより苛烈になるやもしれませぬ」
「奇しくも俺は大友家、島津家、そして少弐家を九州に下らせた鎌倉幕府があった所を治めてたしな」
「……悪くは言いませぬ。帰りなされ。さもないと死にますぞ?」
「死なないよ。俺を殺した家も東と南から惨劇に
そこで、鑑連は漸く振り向く。その良晴の言葉に、彼が考えている事がわかったからだ。
「……そこまでのお人だったか」
「知らない間にな。それに、俺も博多を、あの活気を失わせたくないんだよ」
「…………」
そして、翌3日の朝に戸次軍は出る。帰ってきた時より少し軍勢が増えながら、だが。
一方、門司城は吉川元春の大軍による猛攻にあえなく落ちてしまい、毛利軍は本当の九州上陸を果たした事に気勢を上げる。
それを満足そうに見ていた元春の所に、元就が2人に分けた忍の1人がやって来る。
「……元春様?」
そして、ずっと元春の横顔を見ていた
指示を仰ぐために頭を上げていた忍さえ小刻みに体が震えるほどの笑みを浮かべながら、彼女は信直に書状を渡す。
『大友軍中に相良良晴と北条氏康の姿。
吉川元春についている熊谷信直と小早川隆景についている乃美宗勝は、同じ中身の書状を見て同じような事を思った。
相良殿は帰れるかの、と。
それは彼らの主である毛利元就も思っていた事だとは、元就自身以外は誰も知らない。
7月3日、後に『筑豊合戦』と纏められる戦いは、漸く序幕を終えて本章が幕を開ける。
ひとまず全部書き終えたので、3月中の完結を目指し、推敲しながらこれから1時間ずつ1日10話ぐらい投稿していきます。