相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第176話 3人衆編~勃発~

6月3日

 

 さて、ここで陰陽地方の話をしよう。

 現在、山陰の尼子勝久を山陽の毛利元就が攻め寄せて、尼子家の本拠地・月山富田城を攻めているのは、畿内の庶民でもよく知られている話である。

 だが、その二大勢力による代理戦争の事を、その関係性を詳しく知る者となると商人や武家に限られてくる。

 

 まずは山陰地方。

 8つの州の内、宿敵・大内家を内乱で滅ぼして見せた尼子晴久が守護と認められたのは出雲・隠岐・伯耆・因幡の4つ。だが、今や出雲の一部と伯耆の端の月山富田城にまで追いやられている。

 その中で伯耆は、応仁の乱の頃から山名家が血で守護を争ってきた。殺害された教之の長男の弟の三男を、四男が狙い、長男の子供がそれを奪還し、三男の子供がそこからまた奪い、そいつを傀儡にした尼子家が下剋上を果たすという風に。

 その隣国の因幡も、応仁の乱の東軍の総大将・山名宗全持豊の三男の子供が、教之の次男から奪い、その孫が宗全の四男の孫に奪われるという歴史をたどった。

 それ故に、同じく山名家が守護をしていた但馬を含む3ヶ国は自立していく事を選び、特に因幡の守護代だった武田高信は、毛利元就と手を組み公然と反旗を翻している所である。

 

「それを見て、本家であり追われた守護のおじである但馬守護の山名祐豊(すけとよ)は尼子家と手を組んだと」

「はい」

 

 また、三好家と将軍家の争いの最中、三好家から持ち掛けられた不戦協定を結び、それは今でも有効に機能している。

 一方、毛利家が治める備後から三好家が治める摂津までの間の備前・備中・美作・播磨の4ヶ国は、最初は赤松家が治めていたものの、将軍暗殺(嘉吉の乱)の討伐で山名家が得て、しかし赤松家が復権し、だが尼子家が侵攻してきて守護の権勢が無くなるという事態にあった。

 特に、今は播磨で守護家の赤松父子が、他の3ヶ国では守護代家の浦上兄弟が争いあい、それを2人の謀将が見逃すはずもなかった。

 

「毛利元就が浦上宗景と赤松義(すけ)のコンビを、尼子晴久が浦上政宗と赤松晴政のコンビを支援。

 また、山陰では尼子晴久が守護の山名家を、毛利元就が反乱した武田高信を支援しています」

 

 そして、この日、ある爆弾が炸裂した。

 

「どうか、お逃げを」

「……三好家の者が京からの逃亡をすすめるとは、思いもしなかったな」

 

 足利義輝という剣豪将軍。

 細川藤孝という有能な将。

 幕府改革という大きな動き。

 

「申し訳ございません」

「謝らなくても良い」

 

 そして。

 北条家や伊達家にまで口を突っ込み、一定の成功をおさめる幕府。

 それを三好家が、より正確に言えば三好長慶死後の野心ある三好家が恐れないはずは無かった。

 

『今すぐ京からお逃げを! 3人衆が将軍様を狙っています!』

 

 そう自身の忍を使って知らせてきた松永久秀に対し、謀将の一員として知られていた彼女を義輝と藤孝は最初は信じなかったが、頼次が直接知らせた良晴や氏康がやって来ると一変する。

 

「くそっ! 信じてたのに!」

 

 悪態をつきつつも、義輝は新たな居城であり未完成な二条城で迎撃しようと身構えはじめ、幕臣の1人である に妹の義昭を任せる。

 

「良平」

「しかしっ」

「主より主の主を優先しないのか?」

「……承知」

 

 良晴は良晴で、相良衆の一部をわけて氏康を護らせ、その指揮権を に任せる。

 

「……何故だと思う?」

「……足利家は足利家、細川家は細川家、三好家は三好家だからでしょう」

 

 つまり、三好家でいる限り()しくは細川家や足利家が()()限り、本当の支配者にはなり得ない。

 それを理解した足利義輝は、感慨深くある者の事を思いながら呟く。

 

「それを抑えていたのが三好長慶という傑物であり、あやつの弟たちだったか」

 

 三好家に襲われて、少し前までその首領についていた男の存在が身に染みた義輝だが、すぐに目の前へと切り換える。

 

「逃げても良いのだぞ?」

「そのままお返しします」

 

 三好3人衆による足利義輝襲撃。

 史実では『永禄の変』と呼ばれている、何度目かの京を舞台にした政変が始まる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 京の市街地にある二条が武家に使われるようになったのは、室町幕府を創った足利尊氏からと言われている。彼から義満までの3代、二条大路に屋敷を構えていたが、室町にある花の御所へと移る事で(すた)れる。

 しかし、幕府の権威が衰え、将軍が追放されたりするようになり、花の御所が役立たなくなると義輝は新たに城を築こうとするが、その途中に襲われる。次いで織田信長が足利義昭のために作らせたのがあり、最後に徳川家康が築いた。

 最後に築かれたその城は、徳川家康が将軍就任を受けた場所であり、徳川慶喜が大政奉還を実施した場所でもある。

 

「囲まれたか!」

「やはり歴戦の奴等よ!」

 

 8000の軍勢は瞬く間に二条城を囲み四方の門から押し寄せたが、しかし予想以上の幕府軍の善戦にあっていた。

 

「囲っていれば、いつかは潰える。攻めて、攻めて、攻め寄せよ!」

「足利義輝は聚光院(長慶)様亡き我らを壊そうとした輩よ!」

 

 三好3人衆軍はそう声を枯らし、兵士達をもり立てるが、それで抜けたらまだ良かった。

 そして、その二条城攻めに集中していたからこそ、はっきりとした将軍方である久秀が巡らした策謀に気付かなかった。

 

「注進! 注進!」

「なんだ!?」

「西より『輪鼓に手鞠』の家紋でございます!」

「…内藤宗勝だと!? 丹波衆は!?」

「わかりませぬ!」

 

 猛将が揃う丹波でそんな彼らと渡り合っていた内藤宗勝の早すぎる出現は、3人衆とその配下を動揺させ隙を生じさせる。

 

「今だ!」

 

 その隙を見逃さない籠城側は、一点に絞った総攻撃を行い、浪人達で集められていたその一点は瓦解する。

 

「何をしているのじゃ?」

 

 逃げた彼らを追い掛けようとした直接、やはり久秀が放った手が炸裂する。

 

「こ、近衛様!?」

「この京の間近で、三好修理大夫(長慶)が復興させた京の間近で、お主らは何をしているのじゃ?」

「そ、それは……」

「それは?」

 

 近衛前久が三好3人衆と押し問答をしている間に、籠城者達はーー足利義輝達は京から消え去る。

 

「負けた……終わりだ……」

 

 焼け野原になった二条城の跡を見ながら、ある者はそう呟いたという。

 手を組んだ浦上政宗らが快進撃を続けていても、彼らの表情は晴れやかになることは無かった。


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