相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第170話 三郎と長丸の話

4月26日

三河国

 

 松平家が歴史に現れてくるのは、信光という応仁の乱前後の武将からであり、彼は幕府の政所の執事・伊勢貞親の家臣として三河に派遣された。

 貞親の主・足利義政や三河守護の細川成之を手伝いつつも東三河で勢力を広げていき、84年の生涯を全うする。

 

 次の信光の3男・親忠も勢力を広め、こちらも70年の生涯を全うする。

 

 その親忠の3男・長親は、ある運命的な戦いをする事になる。

 彼は井田野(いだの)という所で、今川軍と戦うのだが、その今川軍の主将が伊勢盛時だった。かつて、宗家の伊勢貞親に仕えていた男であり、長親はこれに勝ち、71年も生きる事になる。

 

 長親のやはり3男の信忠は、一転暗愚だったと言われ、早くに長男の清康に家督を譲らされ、41歳で亡くなる。

 

 その清康は名将で、15歳の時に西郷信貞を破ると彼の本拠地の近くに岡崎城を建てて移り、そこを拠点に18歳にして三河統一を成し遂げる。

 統一を完成した彼は外への進出を目論み、斎藤道三と手を組んで尾張の織田信秀の弟・信光が守る守山城を攻める。

 が、その最中に家臣に24歳にして暗殺され、しかもその直後から一族が反乱を起こす。

 

 清康の長男・広忠は、一旦は三河の外に出て吉良家や今川家の庇護を得て、一族を破って岡崎に帰還する。

 だが、その内乱による衰弱は明らかで、織田信秀に攻められ、広忠は今川家に支援を求める。その見返りに求められた嫡女・竹千代の人質も認めるが、途中で裏切りにより織田家へ持っていかれるという事態が起きる。

 そして、愛娘……ではなく()と離れてから2年後、彼は23歳の生涯を終える事になる。病死、もしくは父親を殺した刀と同じ物による暗殺で。

 

 そして、松平竹千代は、松平元康と名乗り、史実とは違い今川家からの独立前に三河守となる。今川家の庇護下で、というのはつくが。

 その竹千代の三河守就任を心から喜んだ者の中に、大久保忠員(ただかず)という松平家譜代の戦国武将がいた。祖先は信光の頃から仕えていた家であり、その忠義心は高い。

 その忠員に義父から相良良晴の情報を聞いたのは、彼らが伊勢を通っている時で、すぐに同僚達に伝え回りつつ、嫁の父親・三条西公条(きんえだ)に感謝の手紙を送る。

 

知立(ちりゅう)に入ったぞ!」

「準備は!?」

「後少しだ!」

 

 そして、良晴ら一行が岡崎城下に着いた直後、少し揉めた末に代表の使者がやって来る。

 

「相良殿ですな!」

 

 後の徳川四天王の1人であり。

 

「ややっ!」

 

 ある者の敵への内通の疑惑の弁明に行きながらも肯定した男であり。

 

「これは!」

 

 嫡男は2つの天下分け目の戦いのどちらでも活躍出来なかった者である、松平家の分家でもある酒井忠次が。

 

「三郎様! 長丸様! 何故ここに!?」

 

 そう、良晴のかたわらの瀬名三郎と西郷長丸に向けて、彼らが隠していた事を叫んでしまう。

 

「「ああっ!」」

「酒井殿!」

「えっ!? ……ああっ!!」

 

 4人が気まずそうに見た良晴は、覚えている史実と目の前の状況や情報を照らし合わせ……。

 

「松平清康の子供の松平信康と長丸か」

 

 長丸、という名前はある人物の幼名として覚えていたから、すぐに後の誰かになるのかはわかった。

 だから真田なのだろう、だから小諸の方で足をくじいたのだろう、だから東山道を辿ってしまったのだろう、だから岡山古墳の近くにとどまったのだろうという運命の力も。

 

「秀忠、か」

 

 良晴はさすがに覚えていなかったが徳川家康と側室・西郷局の間に産まれた武将である徳川秀忠は、関ヶ原への道筋を真田昌幸に止められ、また彼に大坂の陣の時の陣まで攻められた事もあった。

 また、徳川家康と正室・瀬名殿の間に産まれた松平次郎三郎信康は、後に瀬名殿と共に武田家への内通を疑われ、酒井忠次などが認めたため自害させられた者である。

 

「……怒っていますか?」

 

 後悔している良晴に、恐る恐る長丸が聞いて、彼はようやく2人……ではなく松平家が自分を怒らせてしまったのかと心配している事に気付く。

 

「凄いな、って思ってるんだよ」

 

 長丸の頭を撫でながら、直後から三郎の凍てつくような視線を感じながら良晴は答える。

 

「2人は元康を支えようと、三河の外を学ぶためについてきたんだろ?」

「は、はいっ」

「それは簡単に出来る事じゃないし、素直に凄いなって思って黙ってしまっただけだ」

「あ、ありがとうございます!」

「……ありがとうございます」

 

 その2人よりも感動した酒井忠次と、彼から誇大に話を聞かされた三河衆の男達に盛大に良晴は祭り上げられる。

 それを2人の協力も得ながらなんとかかわしつつ、外から見ようとしていた昌幸も巻き込みつつ、良晴はその宴を受ける。

 

「大丈夫ですか?」

「なんとか。……2人はどうするんだ?」

「ついていきます」

「同じく」

「了解」

 

 そして、翌日……ではなく翌々日の4月28日、彼らは旅を再開する。




リアルが忙しすぎました……。

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