相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第144話 討伐の話

 玉藻前という妖怪。

 古くは南北朝時代の頃からその記録がある彼女は、保元の乱や平家勃興の切っ掛けを作った鳥羽上皇に近付いて寵愛されたが、上皇を病に伏せさせた所で陰陽師達にバレてしまい、追手から逃れる。

 そして、山城国から見ると5ヶ国も東にある下野国の那須で力を蓄えようと女の子を拐うが、警戒していた鳥羽上皇の耳にすぐに伝わり、現地の領主を中心に討伐軍を編成する。

 

「それは現地の須藤貞信を筆頭に三浦義明、千葉常胤、上総広常といったメンバーでした。それぞれ那須家の祖、三浦家の人、千葉家の勢力を広めた人、後に源頼朝の挙兵成功を決めたと言われる人達です」

「……末裔は全員関東かっ」

「はいっ」

 

 そして討とうとするも、九尾に姿を変えた玉藻前から妖術で惑わされ撃退される。なので、犬追物で訓練をして、徐々に追い詰めていき、そして三浦義明が放った矢によって討たれる。

 だが、彼女の怨念は凄まじく、周りに毒素を放つ殺生石へと最後の力で変わり人々を苦しめ続ける。だが、それも鎌倉時代を挟んだ1385年《至徳2年》に源翁心昭という僧侶によって壊され、各地に散らばる。

 

「一般的に高田という地名の所にその伝説があります。豊後、安芸、美作、そして越後の高田です」

「……安芸高田と越後高田っ?」

「吉田郡山城と春日山城があるっ所ですっ。他には飛騨、上野、四国ですねっ」

 

 土岐頼次は、相良良晴に向けて()()放たれる妖気たっぷりの矢に対処しながら、玉藻前の話をする。

 対して、道理で……と遠距離にいた時から狙われていた相良良晴は納得し、槍で矢の軌道を変える。

 

「人も中々やるよのうっ」

 

 そう忌々しそうに言う九尾は、額に汗を流していた。

 

「お主らは敵同士じゃろう!」

「和平を乱す者を討つならば」

「手を繋ぐのも(いと)わん」

「左様」

 

 彼女にとって予想外だったのは、後方で指揮をとっているのが三好義継だけではなく足利義輝も畠山家もいる事だった。

 そして、出てくるとは義輝でさえも思わなかった者達も討伐軍の中にいた。

 

「ほほっ、久しぶりの運動じゃ!」

「…………蹴鞠は楽しかった」

「ずるいぞ!」

 

 討伐軍の内訳はこうだ。

 自分の生まれ故郷を汚していた事に静かに怒っていた前鬼、陰陽師を貶された事に怒った半兵衛、半兵衛だけというのは困る陰陽師、独力で堺の前で良晴をみつけ輝虎に彼の側にいることを約束させた千利休、せっかく固まりかけていた平和を壊しにきている事に怒っていた義輝と義継、同じ理由の前姫巫女と姫巫女、良晴と話したい毛利両川、そして義のために刀を振るう上杉輝虎。それぞれの家臣も含めれば、数千にもなる。

 

「あの爺ぃめ!」

 

 九尾が誰かを(けな)した直後、何百もの攻撃を防いでいた彼女の足に矢が当たり、それを初めとして多くの傷を負う。

 

「……夢に出てくる暇も無しか」

「みたいだな」

 

 九尾は自分の攻撃をかわしつつも確実に近付いてきていた相良良晴と、彼に守られていた竹中半兵衛を見上げる。

 

「……何をしたかったんだろうな」

「さあな。あの世で考えてくれ。自分の事は自分が一番知っているというしな」

「…………そうするよ」

 

 そして、微笑みながら言う。

 

「天から新しい時代を見よう」

 

 と。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 十河(そごう)一存を岸和田城で、三好義興を芥川山城で病死させ、三好実休 を久米田で死に導き、細川氏綱を淀城で、細川晴元を普門寺城で、そして三好長慶を飯盛山城で病に伏せさせた玉藻前。

 その討伐は大々的に宣伝され、そのメンバーももちろん広められた。

 

「三好様と足利様が共闘されたらしいぞ」

「上杉様も鬼神のような活躍だったそうだ」

「陰陽師達も見直すべきだのお」

「京の親子、西国の姉妹、東国の少年とは誰かのう?」

「誰かのう?」

 

 正体を自ら隠した者達もいたが、わかる人にはわかった。

 

「……より上杉軍に近付いてどうするのよ」

 

 相模の虎は呆れたし。

 

「ほっほっほっ。良い事じゃ」

 

 西国の謀神は笑った。

 

「むぅ」

 

 北国の竜は頬を膨らませた。

 

「……嘘じゃないの?」

 

 そして、尾張の少女はそう呟いた。


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