7月10日 昼
河内・飯盛山城 会議室
「……本当にいいのか?」
「ここまでしなければ失礼ですしね」
良晴が会議室と名付けた和室で、彼と越後衆3人、土岐頼次、竹中半兵衛と前鬼、そして三好義継の8人が円になって座っていた。
「すみません、すみませんっ」
「半兵衛さんが謝る事は無いですよ」
円形に座った8人の目の前にあるのは、本来なら頼次さえも見ることが出来ないほどの三好家に関する詳細な内部情報で、北条家をならって長慶が各所にやった忍などからの報告だった。
それを前鬼からの指示で振り分けていき、時折外で涼みながらもそれをこなしていく。
「これで最後、だな」
「……まさか、このような所にまで侵食が」
「だから、ですか」
上から良晴、義継、頼次の順に結果を見て呻く。
最後の頼次の呟きが聞こえた良晴は、頭を整理するためにも全員での休憩をする事を宣言して、義継も同意したのでそうなる。
そして輝虎達に用を足しに行く事を言って、厠までちゃんと往復して、オレンジ色に染まってきた空に照らされる縁側で待っている頼次と小声で話す。
「三好家はどんな史実を辿るんだ?」
「十河殿を始めとして三好兄弟と2人の管領が相次いで亡くなり、義継殿が家督を継ぎますが、三好家の衰退に反比例して権威をあげた将軍殿を襲って殺してしまいます。その後、松永
「そして、信長に追い出される、か」
「はい。反信長包囲網に加わり、本願寺と連携しながら畿内奪還を狙いますが、土佐から長宗我部元親の圧迫を受けて、羽柴秀吉に臣従します。一方で、長宗我部家は明智光秀とパイプを持ちました。そして、武田家を滅ぼした後、信長は長宗我部征伐の号令をかけますが……」
「本能寺の変で死す、か」
「その後の三好家の動向はわかりませんが、阿波は蜂須賀五右衛門が持つことになったので大名になっていないのは確かです」
「……という事はここが分かれ目になるのか」
「はい。その歴史をわかっているかのごとく、あの雌狐はあの4人の所に形跡があります事がわかりました」
「すでに準備は整っている、ていう事か」
少し考えてから、良晴は頼次と共に部屋に入り、普通になってきた熱を帯びている瞳の輝虎の横に座る。
「さて、九尾の足跡とそいつが残していった悪行はわかりました。これにより、それらを制していかないという新たな事も生じましたが、今の目下の は雌狐の居場所を探り当て、これ以上自由にさせない事です」
「京は陰陽師達がうろついているから無く」
「まだ力を蓄えて無いから四国に殴り込む可能性も皆無」
「かといって、他の所で狐に関する有名な伝説は……」
『あります』
北条高広と河田長親がいそうな所を潰していき、良晴が腕を組みながら呟いたその言葉に反応し、同じ言葉を発したのは頼次と竹中半兵衛だった。
「……あるのか?」
「はい、あります」
良晴が聞いたのは頼次だが、その問いかけにすぐに答えたのは半兵衛の方だった。
「…どこ?」
「和泉国の北にある
「信太?」
「はい。緑深い森がある所で、そこで安倍晴明さんが産まれました」
「……親が狐っていう?」
「はい」
安倍晴明が産まれた地、という事実が重みをともない、そこに潜んでいるかもしれないという空気が生まれる。その一方で、ある2人の間には少しだけ悪い空気が生まれるが、気付いた者はいなかった。
「竹中殿に質問が。もしそこにいるとしても、どうやって見つけ、どうやって狐を討つのですか?」
「……大丈夫だと…思います。前鬼さんが……得意ですから……ですよね?」
「うむ。狐だからな」
「……じゃあ早速行こうか」
「はいっ」
そして、良晴達は馬に乗って本猫寺を迂回するように堺の手前まで向かい、そこから南下する。
信太の近くには和泉国の
「いた」
その中で、前鬼は「あからさまなほどの妖気を出す」玉藻前をすぐに見つけ、信太の外側にいた良晴達に使いを出して伝える。
対して、さっさと買い物を済ませナンパも捩じ伏せた玉藻前は、信太の町を出て、凸凹の道を歩いていく。
「やはり、か」
その進行方向にある普通以上の妖気が漂う所に、信太と考えた時から検討がついていた本拠地の所に近づく。
そして。
「さあ、出なさいな、怨霊達よ」
戦闘が、始まる。