7月10日 朝
河内・
三好長慶には、義興と病弱な松永久秀の義妹が。
三好実休之虎には、長治と政泰が。
安宅冬康には、信康と清康が。
十河一存には、重好と庶子の存之と和泉松浦家の名跡を継いだ松浦信輝がそれぞれいた。
だが。
一存と義興は病にやられ、実休は討たれる。
となれば、長慶の跡継ぎはいない事になり、彼はその選択を迫られる事になる。
この措置により、今度は十河家に庶子と他家の跡継ぎしかいない事になり、彼らは実休の子・政泰を迎え入れる事にした。
という事で。
本家の跡継ぎは、三好義継こと十河重好となり。
阿波三好家の跡継ぎは、変わりなく三好長治となり。
讃岐十河家の跡継ぎは、十河存保こと三好政泰となる。
「お初にお目にかかります。
現在の三好家の本城である飯盛山城には、病に伏している長慶とその跡継ぎである義継が住んでいて、挨拶は久秀に教えられながらも義継が代行していた。
良晴よりかは年上だがまだ子供っぽい雰囲気が抜けていない義継にとって、越後の軍神・上杉輝虎や相模の今猿田彦・相良良晴は尊敬の対象であり、余計に緊張していた。
「土岐殿より事の真相などは聞いています。護衛兼監視がつくとは思いますが、自由に動いてください」
「わかった。早速、入らせていただきたい所はある」
「……と、申しますと?」
「お三方の病床に。専門家もいる」
「……わかりました。許可をとってきましょう」
軽く礼をした全体的に茶色っぽい義継は評定の間から出ていき、数分後には戻ってきた。
「お館様より取り付けれました。ついてきてください」
一際綺麗に掃除され、空気も張り詰めている廊下を抜けた先の部屋が長慶が休んでいる部屋であり、中から聞こえてきた返事も精一杯というのが伝わってきた。
「遠い場所……から…よく…来てくださった……上杉殿」
これが、死ぬ寸前の武士なんだな。
後に、北条高広はこの時の長慶の様子を見てそう感じたと珍しく感慨深そうに言ったように、彼は背中を支えられつつも息子よりも若い5人と丁重に話し、半兵衛……というよりかは前鬼の診断にも快く協力した。
「半兵衛殿……どうか……お頼み申す」
最後には、そう言いながら大大名の当主が頭を下げる。
慌てた半兵衛だが、良晴と前鬼が後ろを支えると、落ち着きを取り戻し、力強く頷いた。
「ここからなら淀川を渡れば芥川山城と普門寺城に行けますが……」
「いや、すでに我が主はその正体を掴んだようだ」
前鬼の言葉に部屋にいた者達が一斉に半兵衛の方を見たので、彼女はビクッとするが、少ししてから義継の方を見て頷く。
「それは、どのようなっ」
「………………前鬼さん」
「伝えなければならないでしょうな、主の言葉で」
「……わかりました。今回、三好さんと細川さんを襲っている病をもたらした妖怪の名は……」
『名は?』
「白面金毛九尾の狐、です」
少しの沈黙の後、飯盛山城に幾重にも重なった大声が響き渡り、少しだけ騒ぎになる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
殷《いん》という字は難しい漢字だが、中国史に望んだ事のある人ならば、その字を読むことは出来るであろうし、また中国考古学史上で確認出来る最古の王朝であるという事も知っているであろう。
この殷を紀元前1046年、西アジアでアルファベットの原型が使われ始めた頃に滅ぼしたのが『周』という国であり、周が衰退すると春秋戦国時代が始まり、それを制した始皇帝の『秦』に滅ぼされる。郷挙里選の漢、九品中正法の
つまり殷を滅ぼし、周の王様を死に導き、唐の時代に日本へ帰る船にただ乗りした、と。
「この日ノ本で暴れたのは、平安時代末期の頃です。その時代の姫巫女様の親友として取り入った九尾は、姫巫女様を亡き者にしようとしましたが、それを安倍晴明様に見破られました。
そして下野の那須郡で討たれますが、巨大な毒石に変化し、近づく人々や動物さん達を殺していきました。それを破ったのが越後でお生まれになった源翁《のう》心昭さんで、打ち砕かれた石の破片は各地に散らばりました」
飛騨に散った破片は、
そうして、九尾は跡形もなく消え去るわけでもなく、各地に散らばる形で弱体化するという形になる。
「そして、このお話には重要な事が書かれていないです」
「…………核、ね」
「はい。関東、飛騨、四国、2つの高田。頭、体、両手、両足で4つになるので、後1つとなるのですが……」
「それに、その5つに飛び散ったのかさえわからない」
「だが、九尾の奴だというのは、この飯盛山城や三好長慶に色濃く残っていた跡から確定的だ」
「ということは、そいつの居場所か……」
『……うーん』