相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第120話 三浦半島での話

5月21日

相良・三浦郡 三崎城跡

 

 白龍による小田原城の戦いの後、北条氏康は瞬く間に戦前の領土を回復し、北常陸の佐竹家と北下野の宇都宮家の間の同盟も、里見家の義弘を中心とする臣従体制もリスタートした。

 しかし、全てが同じという訳ではなく、多少の領土の変化などがあり、そして4月1日になって新鎌倉公方・足利良氏の名で主に北条家の家臣達にある布告が出された。

 その布告に基づいて、かつて伊勢盛時(北条早雲)を相手にして三浦道寸義(あつ)を中心とする相模三浦氏が3年間耐え抜き、近くの海が根切りによって油の壺のように真っ黒に染まった戦いが行われた三崎城は一旦破却され、即日次の目的のための工事が行われた。

 そして、川中島の戦いの救援や小田原城の戦いも含めた戦に関する論功行賞によって少し遅れたが、この日、ようやく城跡に建てられた物の落成式が行われた。

 

「まずは、皆の者共よ。入校おめでとう」

 

 細部は違うがほぼほぼ同じような和服をきっちりと着ている少年少女達は、最後の古河公方であり、自分達の長になる足利晴氏の言葉を聞き漏らすまいと聴いていた。

 そして、その式典には足利良氏の他にも新しい鎌倉郡司になった北条綱成、鎌倉郡司から三浦郡司兼鎌倉奉行になった相良良晴、子供達が仮の場所として本城に近い笠懸山にいた頃から何かと面倒を見ていた北条幻庵、そして二条など重要人物も参加している。

 相良良晴が原案を未来知識を下にして作り、北条家の頭脳達が時代に合うように調整し、そして公家達が自前の知識を彼らに教えた事で、これは完成した。

 

「足利学校や寺社勢力にかわる『三崎学校』の末長い安定と平和を願い、私の訓示は終わらせていただく」

 

 三崎学校。

 そう名付けられた良晴にとっては近代的な、その他多くの人々にとっては未知の学校の1期生は、主に北条家家臣の子供であり、比率としては次子が多い。また、遥か西から流れてきて大出世した良晴に続こうと考える下級武士の子供達が多いのもまた特徴の1つだ。

 主に風魔のリストを参考に、また寺子屋を開いていたり京で学問を修めてきた者達を中心に構成される『先生』達は、いよいよ本格的に北条家の監視下で教鞭を振るう事に武者震いをする者が多くいた。

 

「こちらになります」

 

 その式典を見届けると、良晴は別のところに馬で行く。

 三浦半島の南西のはしっこにあり相模湾に面する三崎学校から、緑の山々がほとんどを占める半島を横断して、半島中央部の東岸にやって来た良晴は、半月前から動き始め今は最初のざわつきもおさまってきている地域を見る。

 真鶴が外洋にあり台風やもしもの時は危ないので、良晴は後に日米両海軍が居座る事になる横須賀市の東側のエリアに造船所を設け、まずは里見家が今は外洋に限って持っている水軍の船のような小舟を作っている。

 そこの責任者達と簡単な話をした良晴は、その近くにある工房に向かった。そこでは、試作品をあれこれいじりながら改良している人々がいた。

 

「どうだ?」

「重さとそれにあう紐の重さ、台の大きさも計算出来ましたから来月には舟に乗せれるかと」

 

 博多と堺を経由して取り寄せたのは、明からの磁石であり、三好家との競争だが、良晴と頼次はいわゆる羅針盤の開発を進めていた。

 堺や博多にあげればヨーロッパのような大航海時代に突入するだろうが、2人の目的はこの日本の4分の3を占める山々で迷わないようにするための羅針盤の開発である。

 最後に領民とも触れあった良晴は、夕暮れ頃になってようやく居城であり、北条家が築いた新城であり三崎城跡より更に海側にあり三浦家が築いた古城である新井城で羽を休める。

 

「お疲れさまです」

「おう。何か連絡ってあった?」

「特にはございません」

「そっか」

 

 今日の仕事を終えた良晴は、だらけて過ごし、時々女中などの仕事を手伝う。

 隣の三崎学校や横須賀造船所、郡内の村や市場、鎌倉、金沢文庫など主に開発と訓練を繰り返しながら、良晴は久しぶりの長い長い日常を堪能する。

 それが終わったのは、小田原城と鎌倉府の間の郵便局員の役割を担っている風魔が、新井城を訪れて、三崎学校で体を動かしている良晴の代わりに相良衆の筆頭家臣である朝霞永盛に渡した書状からだった。

 

 明日、鎌倉府に集合。

 準備は整ったわ。

 

 最近よく来るようになった北条氏康直筆の書状に、良晴は「ついにか」とだけ呟き、穏やかな相模の海を見下ろす。そして、6月の太陽が沈む頃まで眠りこけていた。


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