相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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第71話 堺の外での話

2月15日

畿内 戦場

 

 前日の『久米田の戦い』での三好軍の敗戦と、三好軍の討死。それによって戦況は大きく動く事になる。

 京の三好義興と松永久秀は摂津に近い山崎城に撤退し、勝竜寺城に三好方の今村慶満が入り、蝮の故郷である西岡には摂津の池田長正と松山新介が展開して六角軍に備えた。

 その三好軍の撤退を確認した六角軍は軍を進ませ、上洛を達成し、いるかもしれない三好の間者(スパイ)のために色々と町民に布告する。

 

「大和衆一同、加わりまする」

 

 一方、北河内にある三好家の現在の本拠地・飯盛山城を落とすために、道中の城達の制圧に取り掛かっていた畠山高政には、久米田の結果を知った大和の者達が合流した。

 同じ頃には柳生家と高山家の間者を通して三好家に、風魔によって良晴に『大和衆合流』の報が伝わり、それぞれが別個に動く。

 久米田を日和見していた者達に侮蔑の視線と無言で応えた高政は、大きな勢力の宇陀(うだ)3将率いる3000人を引き抜いた上で、大和衆計8000人に堺の制圧を命じる。

 

「堺、でございますか」

「ああ。疲れていないお前達なら敗走兵と北条軍を蹴散らすぐらい簡単だろう? なんなら同郷の者を誘えば良い」

「……承知、しました」

 

 大和衆の筆頭に任じられた筒井順政は、高政からのあからさまな嘲りになんとか耐え、畠山軍本隊から離れる。

 一方、なんとか堺に辿り着けた三好軍の敗走兵7800人をまもる北条軍200人は、大和衆来訪の報告にすぐさま次の行動を決めた。

 良晴が向かうのは、若年の実休の遺児・三好長治の代わりに敗走兵を纏め、堺に入ったのも最後の方だった篠原長房が休んでいる所である。

 

「大和衆が……」

「ああ。数は8000人ほど」

 

 親子ぐらい年の差がある2人だが、共に部隊の総大将という同じ立場なので、口調は砕けた感じになっている。

 長房は堺とその周りに集った自軍の兵達の具合と、西国での戦いぶりから精強と噂される北条軍の事を考える。

 

「向こうが攻めてきた時にはやり返し、こっちから攻める事はない……で良いか?」

「ああ、それで良いぜ」

 

 土岐の少女と似ている、と獰猛な笑みを浮かべる良晴を見て、長房はふとそう思った。

 そして、堺での準備が着々と進む中、大和衆が近付いてくる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

2月16日 昼前

和泉・大鳥郡 堺の前

棚沢 与一

 

 向こうがほぼ無傷の7500人弱に対して、こっちは傷ついた6500人と俺達200人。数は一緒に見えるが、実際は2倍ぐらいの戦力差になるだろうな。

 やっぱり郡司様の言う通り、俺達が勝利の扉のきーになるだろう。

 

「基本的な事は、宮川さんとの戦いと同じだ。後は、しっかりと突撃できるかだよ」

 

 郡司様の軍単独での軍議の時、苦笑いに近い笑みを浮かべながらそう言った。

 

「与一様、そろそろです」

「だな」

 

 そして、都合の良い事に、三好軍の弓兵の一部は小笠原殿の手(ほど)きを受けた猛者なので、何時も以上の射程から飛ばせる。

 俺が右手をあげると、一晩ですっかり打ち解けたらしい皆が一斉に弓を振り絞る。

 

「さて、きーを届けに行きますか」

 

 そして、手を振り下ろす。

 ほぼ同時に放たれた者達は、綺麗な弧を描いて敵へと向かっていく。

 届かないだろうと余裕(しゃく)々だった奴等が、弓矢の弾道を見て、ようやく動こうとした矢先。

 水ではなく木製の死の雨が容赦なく降り注ぎ、大和衆ーーじゃなかった、畠山軍の分隊の混乱が始まる。

 

「突撃ー!!」

『おー!』

 

 予想以上の距離からの先制攻撃から立ち直る暇を与えずに、篠原殿が突撃をかます。

 まさか敗走兵がその直後に積極的に攻めてくるとは思いもよらなかったのだろうが、久米田の戦後に勝ち馬に乗ろうとした足軽を初めとして、畠山軍が崩れ始めた。

 篠原殿の隊の後ろをついていき、本格的な衝突の直前に入り込んだ俺は、部隊を散開させる。

 

「堺を、和泉と河内を悪者から守るぞ!」

『おおーーー!!』

 

 今度は短距離の弓矢を、馬上から次々と放っていく。

 狙うのは足軽をとどめようとする者や、真新しい甲冑を着た者。そいつらが、眉間や首に弓が当たり崩れ落ちる。

 突撃をかましてくる相手には、こちらも刀でかわし、俺達の後ろを走ってついてくる猛者がそれを討つ。

 

「後退していくぞ!」

 

 誰かが叫び、前の方を見ると筒井家の『梅鉢』の旗印が、後ろへと動き始めていた。

 第1段階の成功を確信した俺は、周りに次への移行を言う。

 

「通らせぬ!」

 

 だが、邪魔する若い坊主を中心に心意気のある奴等が邪魔して動けない。

 

「郡司様が!!」

 

 その叫び声に、俺はさっき以上の速度で、郡司様の気配を探り、感じた方を見る。

 そこには、堺の警備をしていた武蔵衆を中心に駆ける郡司様がいた。

 

「くそっ!!」

 

 若い坊主が毒づいて引き返そうとするが、それを1本の苦無が邪魔した。

 

「目の前の奴等を止めといて、だそうです」

 

 苦無を投げた少女はそれだけ言うと、すぐに気配を消した。

 

「こやつらを囲むぞ!」

『おう!』

 

 ……篠原殿? 良いの?


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