相良良晴←ヤンデレ   作:コーレア

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02 まずは登場人物の紹介を

9月17日

丹波・多紀郡

主人公

 

「そういえば、まだ私の軍団の紹介をしていませんでしたね」

 

 私が仕官して数日後、前で馬を操っていた霜台様が、そんな事を言いながら振り返る。

 そういえば、霜台様と忠正さん以外は余り話していない……と記憶を呼び起こした私がうなずくと、何時もと変わらない微笑みをたたえたまま私を手招きする。

 そして私が覚えたての手綱を動かす前に、霜台様を介して筑前守様から与えられたアラブ馬が勝手に小走りで動きだし、お叱りを受けた。

 

「まず、私が何処から来た者かは知っていますか」

 

 しょんぼりとして、霜台様の馬にも鼻で笑われた(めす)馬の頭を撫でながら、この世界で伝え聞いてきた話を頼りにして思い出す。

 

「……大和です」

「理由は?」

「宝蔵院流(そう)術とお聞きしましたので」

「正解です。ですが、この肌色のせいで勘当されました」

 

 鏡の中で見たことのある瞳。

 御主人様を自分勝手に思い込んでいた時期の私の瞳。

 

「出身は山城の西岡という所で、新九郎……今は利政でしたか? あの男と同郷でもあります」

「あの(まむし)と、ですか」

「ええ」

 

 この世界の父上なら、霜台様に何かするだろうが、あいにく私はその老人の事などどうでもいいし、史実通りに独裁の反動で鼻を削がれればそれで復讐心は満たされるので、霜台様には続きを促す目をする。

 アイコンタクトが伝わったらしい霜台様は、どこか安心したような笑みを一瞬だけしてから、身の上話をしてくれる。

 京に『西』側を流れる桂川の更に西側の『丘』陵地帯にある西岡で産まれ、蝮とは近所の知り合いだった事。筑前守様の父親が本()寺の『にゃんこう衆』に討たれた時、堺にいた筑前守様を阿波までお届けした事。筑前守様と『にゃんこう衆』の和睦を仲介した事で、正式な家臣になった事。漫才で生み出す笑いによって太平の世を生み出そうとした『にゃんこう衆』を単なる武家同士の戦いに関わらせた挙げ句、筑前守様を手駒にしようとした糞野郎を京から追放した事。

 

「そして、その中でわたくしは忠正や家(やす)、正虎、友照を配下にすることが出来たの」

 

 あの老いぼれのように1代で成り上がり、けれど毒はあまり見せることなく重臣の1人になった霜台様は、うっとりとした表情で話す。

 後ろの家保さんや正虎さんは少しひいてるけど、あの頃の私のような霜台様に、私はよりひかれていた。

 

「霜台様はヤンデレの気がありますね」

「病无出礼?」

 

 何か新しい四字熟語が生まれたような気がするけど、気にせず、自分が考え付いた言葉として、その意味を霜台様に教えると、笑みがより深くなり、私のお馬さんがまた震えだした。

 確か2005年のアダルトゲームから病むほど相手を愛する人にその言葉が付けられたんだったけ、と御主人様の隣で学んだ事を思い出しながら、彼女を優しく撫でる。

 霜台様の身の上話を聞いている内に、三好家が与する丹波衆の本陣に着いたので、一旦お開きとなり、形だけの軍議の後に、少し人が多くなって陣中で自己紹介。

 

「松永弾正久秀の妹の松永備前守長頼です」

 

 霜台様が髪を長く垂らした程度しか違っていない、目の前の山にある城攻めの総大将の姫武将。

 

「元は幕府の奉公衆でしたが、霜台様のお姿に惚れ込み鞍替えいたしました、しがない老人である結城山城守忠正でございます」

 

 天文学、交霊術、茶湯、能筆、そして剣道のどれもが一級品であり、大和のある有名人も味方に引き入れた老将。

 

「山城守様の御話を拝聴し、大和に蔓延る害悪達の討伐に参加する事を決めました柳生但馬守宗厳(むねよし)と、拙者の娘である宗(のり)でございます」

 

 戦国時代の大和において、霜台様の仇敵である筒井家にならんで有名な柳生家。

 後に徳川幕府の剣道の指南役となり、沢庵和尚とも友人である宗矩様は、既に上野(こうづけ)の剣豪・上泉信綱様から新陰流を学んだ宗厳様に、その剣術を叩き込まれ、キリッとしていた。

 宗厳様が信綱様が学んだのが桶狭間より後、宗矩様がお産まれになられたのが比叡山焼き討ちの頃だったはずと、思い起こしながら父親に包まれている宗矩様を無意識の内に見詰めていると、きょとんと首をかしげられた。

 

「山城の宇治郡に産まれ、霜台様が京で戦った折に家臣となりました四手井美作守家保でございます」

 

 にゃんこう衆の石山の前の本拠地であり、筑前守様の父上の仇討ちという名目で焼かれた山科本猫寺に程近い所で産まれ育った壮年の武将。

 

「筑前守様が畿内で動いておられる時に微力ながら協力する事を決めました父上の息子である高山右近重友でございます」

 

 時期的には、既に来ていてもおかしくないはずなのに、どうやらまだ九州にいるらしいキリスト教に傾倒してマニラで死ぬことになる中年の武将。

 

「霜台様の右筆(書記官)をしております(くすのき)(あん)でございます」

 

 そして、足利を苦しめた楠木家の末裔の1人であり、有名な書道の達人である楠木正虎。

 国籍も様々で年齢もバラバラな人達をしっかり纏めている霜台様に改めて感激を受けながら、私もこの世界での自分の事について言う。

 

「では、始めましょうか」

 

 そして、城攻めが始まる。


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