ナザリックの赤鬼   作:西次

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第八章 カルネ村

 モモンガは、まず転移が阻害されなかったことに安堵して、次に騎士どもが撤退していないことに安堵した。彼の視界には、数人の騎士がいる。全体の数はもっと多いだろうが、とりあえず彼らを相手にしなくてはならない。

 

――連中が消えていないのなら、まだこの場には人々が生き残っている、ということだ。

 

 モモンガは、暴力とは無縁の人生を送ってきた。初の実戦を前にして、気後れする可能性も考慮していたが、どうということもなく。

 まるでここがユグドラシルであるかのように、気構えは自然にできていた。

 

――さて、戦闘開始だ。まずは一手。

 

 突然現れた二人の異形種を前にして、騎士どもは剣を向ける。無理もない反応だと、モモンガは冷静に受け止めた。そうしたうえで、これからこいつらを殺すのだと、自らに言い聞かせる。

 手を広げ、伸ばす。魔法の発動は、彼らが剣を振るうのより、はるかに速かった。

 

心臓掌握(グラスプ・ハート)

 

 第九位階の魔法は、正しく効果を発揮する。一人の男が、心臓を握りつぶされて死んだ。

 確かな感触をその手に感じながらも、モモンガは無感動のままで。ただ、虫をこの手で潰したような、妙な嫌悪感だけを覚えていた。

 

「後は任されよ、モモンガ殿」

 

 この場にいたのは、彼だけではない。ウォン・ライは、ここからは己の仕事だとばかりに、他の騎士どもと相対する。

 いきなり襲われ、死人が出たことで、動揺もあったのだろう。だが即座に隊列を整えて、敵に対抗する意地を見せた。これでなかなか、士気が高い。この騎士どもは、正式な訓練を受けていると、彼は判断した。

 だから、ウォン・ライは油断を捨てた。魔法には弱い様子だが、物理はどうか。一足飛びで距離を詰め、全力で殴りつける。

 

「――む?」

 

 ウォン・ライは困惑の声を出した。殴った後、追加でスキルを発動しようとしたのだが、不発に終わる。

 肉片となって砕けてしまっては、どんな追撃も意味を成すまい。そのあまりのもろさ、弱さに、彼もモモンガも拍子抜けしてしまった。

 

「参ったな、私程度の腕力で壊れてしまうとは。……お前たちが弱いのか、私たちが強いのか。もう少し、検討する必要がありそうだ」

 

 ウォン・ライは、騎士どもから見れば筋骨隆々とした大男であり、一撃でその身を屠るほどの力を持っている。

 撤退も、やむなき判断であったろう。彼らは皆、恐怖して逃亡しようとした。これは流石に、整然とはいかない。そうした一時の混乱を見逃すほど、モモンガは甘くなかった。

 

「おい、女子供は追い回せても、同格以上の相手は駄目なのか。――それは、都合が良すぎだろ?」

 

 最初から、一人たりとも逃がすつもりはなかったのだ。

 せっかくの機会である。外道をなす輩を討伐する、という名目がある以上、遠慮は不要であろう。

 モモンガは、さらに敵を試すつもりで、第五位階の魔法を使用した。

 

龍雷(ドラゴン・ライトニング)

 

 彼にとっては、かなり弱い魔法である。これでどの程度のダメージが入るか、観察したかったのだが――。

 これもやはり、騎士どもの命を一瞬で奪ってしまった。こいつらは、装備に電撃耐性の一つもつけていないのか、とあきれてしまう。

 

――生き残りはいない、か。この程度で判断するのは早いが、どうも自分たちは、この世界では強者なのかもしれない。

 

 肉の焼けこげる匂いが辺りに充満したが、そんな中で冷静に考察ができているのだから、やはり自分は変わってしまったのだろうと、モモンガは思う。

 溜息をついて、周りを見回す。生存者は、いなかった。

 

「モモンガ殿」

「……ああ、どうした」

「とりあえず一戦したが、彼らが特別弱い部隊であった、という可能性もある。油断せず行こう」

 

 ウォン・ライの発言は、ごく当然のことだった。油断するつもりなど最初からないが、モモンガも気を引き締める。

 

「それは、もちろんだ。……わかっている」

「そうだな。モモンガ殿には、不要な言葉であった。許されよ」

 

 ウォン・ライは注意を喚起したが、むしろモモンガは、彼の方に焦りに近いものを感じてしまった。実際、すぐに背を向けて探索に乗り出している。

 モモンガは何とかそれについていくのだが、急いで歩みを進める彼の姿に、鬼気迫るものを感じた。助けたい気持ちが、よほど強いのだろう。

 

「人々の悲鳴が聞こえる。こちらだ」

 

 モモンガには聞き取れなかったが、まだどこかで殺戮の続いているのだろう。そう思えば、余裕のない振る舞いも当然か。

 

――結局、全員死にました、では格好がつかないからな。

 

 誰かを助ける。そのために出てきたのだと、改めて肝に銘じた。それでも撤退の手順だけは、頭の中に焼き付けておく。

 まだ、何が出てくるかわからない。奇襲だけは受けないようにと、モモンガは気を張っていた。

 ただ、自分が誰と一緒にいるかを考えて、無用の心配かと思い直す。

 

「周囲はどうだ? 閻魔王(ヤムラージ)には、索敵用のスキルがあったはずだが」

「使っている。閻魔王(ヤムラージ)の前には、どのような隠ぺい手段も無効化される。見逃すことはない。……よし」

 

 ウォン・ライは駆けだした。何かを見つけたのか。あるいはきっかけをつかんだのか。

 モモンガも追いかけようとしたが、無用であった。彼の大きな体が、死角を作っていただけだと、すぐに気づく。

 さほど離れていないところに、少女が二人。そして彼女らを害そうと、今まさに騎士どもが、剣を振り下ろそうとする。

 

「間に合ったか」

 

 そして彼が呪縛弾を放ち、効果を発動させる気配を感じた。何をどうしたのかは、すぐにわかった。

 

「……え?」

「――あ」

 

 ウォン・ライのすぐ傍には、二人の怯える少女がいた。正確には、すぐ傍まで引き寄せられた、と言うべきだが、当の本人たちには何が何やら、であろう。

 そして状況がつかめなかったのは、騎士どもも同様だった。困惑し、警戒する様子が見て取れる。容易に撤退しようとしないのは、こちらをあなどっているせいか。

 

――しかし、即座に斬りかからないあたり、あちらにも不安があるのか。ある意味当然だが、弱気にも見える。これはひょっとすると……?

 

 もし先ほどの戦闘を知っていたら、こんな悠長な態度にはなるまい。そして、こちらの情報を把握していないのなら、相手もその程度の手合いだということ。

 そう思えば、いくらかの余裕も保てるとモモンガは思う。

 

「大丈夫か? けがは、ないだろうか」

 

 ウォン・ライは、他の何者も目に入らぬ様子で、助けた二人の少女に声をかけた。

 穏やかで、落ち着いた口調である。騎士どもに背を向けてまで、彼女たちと向かい合っていた。脅威と感ずる相手ではないと、彼も理解しているのだ。

 

「あ……はい。けがは、ない、です」

「それは良かった」

 

 年長の方の少女が、答える。恐怖が完全に去ったわけではあるまいが、この場で理性的な対応をしてくれる相手にすがりたいのだろう。

 それでも、目の前にいるのは、明らかに異形の鬼。何が起こって、どうなったのか。理解したところで、受け入れるのは難しい。

 だが、彼女は一人ではない。幼い方の少女は、まだ震えていた。それを抱えながら、彼女は自らを奮い立たせ、赤い鬼に話しかける。

 

「あなたが……助けて、くれたんですか?」

「まだ、これからだ。あの連中を始末せぬことには、助けたとは大声で言えないだろう」

 

 騎士どもは動かない。その場の隊長らしき者に、部下らしき男たちが目配せするが、判断がつかないらしい。

 退くべきか、斬りかかるべきか。……悩むくらいならば、逃げてから考えればいいものを――と、モモンガなどは思うのだが、余計なおせっかいであろう。

 どうせ、こいつらは皆死ぬ。なら、過程が多少違うだけで、彼らの行動などさして問題ではないのだと、モモンガは見切っていた。

 

「……どうか、助けてください」

 

 少女は、そういった。頭を下げて、悲痛な声で、懇願するように。

 

「……お父さん、お母さんも。村の皆を、助けて……ッ」

 

 モモンガは、少し離れたところから見ていた。今は空気を読むべきかと、割り込むことも避けた。

 こうして見ると、やはり映画の台詞のように聞こえてしまう。端的に言って共感しづらく、相手の想いは理解できても心が揺れない。

 冷静でいられるのはありがたいが、あまりにも感情が欠落してはいないかと、逆に自分を心配したくなる。

 

――かわいそうだな、とは思える。力になってやろうという気持ちに、変わりないんだが。

 

 先ほど心臓を潰した時もそうだった。モモンガの精神は、一切動くことはなく、だからこそ己の変質を嫌でも自覚せねばならなかった。

 しかし、ウォン・ライはどうであろう。生身の体は、そこまで大きな差をつけてしまうものか。まったく以前と変わりないように見えた。

 安心させるように、彼は穏やかに微笑む。偽りではない、本当に生きている感情を見せ、赤鬼は少女の願いを真摯に受け止める。

 

「わかった。……死んでいなければ、助けよう。それでいいか?」

「はい。……はい、お願い、します……ッ」

 

 少女にとって、ウォン・ライがどのような存在であるか、明確には理解できないはずだ。ただ、この場で助けてくれたという事実を以て、救いを求める。

 とても人間とは思えない赤い肌に、大きな体。それだけでも、通常ならば忌避の対象であるはずなのに。

 

「安心するといい。君たちは、必ず守る。それだけは、確かに果たす。――信じてくれるな?」

 

 鬼の言葉は、どこまでも優しかった。だから少女は、うなずいて託した。己と、抱きしめている幼い命、そのすべてを。

 ウォン・ライには、それで充分だった。ただ、その場で目を閉じて伏せているようにと、言い聞かせる。

 

「さて、待たせたな。斬りかからず、さりとて逃げもせず。何を考えているのか、聞いてもいいかね。できれば、手短に済ませたいのだが……?」

 

 ウォン・ライは、ようやく騎士どもと向かい合った。そして彼らは、これまで迷い続けていた代償を支払わねばならない。

 隊長らしき人物が、前に出て、口を開こうとした。問われたから、交渉の余地があると思われたのだろう。

 

「我々は――」

 

 彼がこの世に言い残したことは、何であったのか。結局、誰も知ることはなかった。

 口を開いたまま、その男の頭が弾けて散って、脳漿が周囲にぶちまかれた。何が起こったのか、モモンガにはわかっていた。

 ウォン・ライの手には、石が握られていたのだ。それを指弾として飛ばし、男に直撃させた。結果、頭を吹き飛ばしたという、それだけの話だった。

 投擲系のスキルは地味だが、ちょっとした事の役に立つ。『指弾』は威力は低いが、得物を選ばず、暗器として優秀なことから、前衛職ならば習得する価値があるものだ。

 

「……ああ、すまない。勘違いをさせたな」

 

 ウォン・ライの声は、どこか冷たい感情がこもっていた。あまりに低く響いたから、独り言のようにさえ聞こえる。

 ナザリックの赤鬼。その名は、『鬼のような苛烈さ』からも来ている。殺すべき敵に対して、彼は容赦なく、どこまでも冷徹になれた。

 

「答えを聞きたいわけではなくてね。一呼吸、置きたかっただけだ。――さて、これで詰みか」

 

 残った連中は当たり前のように逃げ出そうとしたが、その周囲を囲むものに気付く。

 ウォン・ライが仕込んだ、呪縛弾の群れである。一度当てれば、引き寄せることができる。

 そして引き寄せの距離は、最低保証を除けば、相手との魔力の差によってのびていく。100レベルでも鬼種の魔法攻撃力はお粗末なものだが、それ以上に騎士どもの魔法防御力は貧弱であった。

 悲痛な顔を見せながら、ずるずると閻魔王(ヤムラージ)の前に引きずられる罪人たち。その運命はと言えば、一つしかありえなかった。

 

「眠れ。地獄はその先だ」

 

 ウォン・ライは、殴りつけて彼らを全員昏倒させた。『手加減』のスキルを用いて、ぎりぎりの瀕死状態で気絶させたのである。そして念入りに呪縛弾を重ね掛けして、幾重にも縛りを追加する。この魔法はひどく燃費が良いので、いくら使ってもMPの枯渇を気にすることはない。

 死、という慈悲を与えなかったのは、彼なりに思うところがあったのだろう。モモンガとしても、情報収集の素材が手に入ったことを思えば、異論はない。

 

「さて、後はアルベドが追いつき次第、ナザリックに送るとしよう。――モモンガ殿」

「ああ、一人潰れてしまったが、気にしなくていい。どうせ、まだ他にもいるだろうしな」

 

 小隊未満の集団一つで、この惨状を作り出したとは思えぬ。だから、モモンガも取りこぼしを責めはしなかった。

 少女二人はまだ伏せていた。モモンガが近づいたことにも気づいてはいないが、骸骨顔を見せて驚かせるのも気が引けた。

 とっさに適当な頭装備を取り出して、かぶる。デザインがいまいちなマスクであったが、怖がられるよりましだろう。

 

「……さあ、二人とも、終わったぞ。顔を上げなさい」

 

 ウォン・ライが、少女たちに声をかける。恐る恐ると目をあけて、周囲に目をやると、騎士どもが倒れている。助かったのだと、ようやく安堵した。恐怖を吐き出すように、深く息をする。

 

「――終わった、んですね」

「ああ、当面の安全は確保した。連中はよく眠っているから、安心するといい。……その子は、妹かね?」

「……はい。ネム、と言います。私は、エンリ・エモットと申します。……貴方のことは、何と呼べばいいでしょうか?」

「私は、ウォン・ライ。こちらの――魔法使いは、モモンガという。気を楽にしてくれ。私たちは、君らを助けに来たのだ」

 

 二人の少女と、モモンガは顔を合わせた。エンリと名乗った少女は、怪しむ様子も見せず、ただ誠実に、礼をもって応えた。

 

「ありがとうございます、ウォン・ライ様。……そちらの貴方は、モモンガ様とおっしゃるのですね? 改めて、お礼を言います。本当に、ありがとうございました」

 

 頭を下げて、謝意を示す。単純だが、それだけに純粋な好意の形であった。

 これだけでも、二人にとって好感の持てる相手である。異形、人間の別なく、他者に対する気遣いが出来ているのだ。なら、救済の対象として申し分ない。

 

「魔法使いのモモンガだ。我々は他の村人を助けに行くが、君たちはここで待っていてくれ。心配はいらない。守りを残していく」

 

 そうして、魔法を唱える。敵は物理攻撃しか手段を持たないようだったから、その系統の守護で済むだろう。

 少なくとも、それなり以上のレベルがなければ、攻撃が通らない壁を周囲に張った。これでよほどの強敵にでも襲われない限り、二人は安全だろう。

 

「生物を通さない守りと、射撃を阻む魔法をかけた。しばらくは、安全でいられる。念のためにこれも渡しておこう」

 

 モモンガは角笛を二つ取り出すと、彼女らに渡した。アイテムの説明をして、危ないと思ったら迷わず使うように、と言い聞かせる。これで最低限の仕事はこなせたと、彼の方も安堵した。

 

「さて、これからどうしたものか。案はあるか?」

「モモンガ殿。約束した手前、見栄を張らせてほしい。……ついては、一つ協力してほしいのだが、良いかな?」

「もちろんだ。何でも言ってくれ」

「――では、死体が一つ、あるだろう。アンデッド作成を試して、どう仕上がるか見てみたい。実験と戦力の確保、同時に試みるのが手だと思うが、いかがか?」

 

 お安い御用だと、モモンガは答えた。これは人間の死体だというのに、もはやただの素材にしか見えぬ。ウォン・ライにとっては、どうか。もう少し、複雑な感情を抱いてるのだろうかと、思わぬでもない。

 

 ――後で聞いてみようか。自分が変化したように、彼も変化していると思うべきだし、どの程度違和感を覚えているか、確かめておきたいな。

 

 ともあれ、実験である。アンデッド作成のスキルを発動し、死の騎士(デスナイト)を生み出した。……その過程において、使われた遺骸は見る影もなく変貌し、人にとって恐るべき異形と化す。

 傍にいた二人の少女が、息をのむ。恐れを感じるのは、人間としてごく当たり前の反応であろうから、とがめたりはしない。モモンガも、それを受け入れるくらいには、己の異質さを自覚していた。

 

「この村を襲っている騎士――そうだな、あれらと同じ格好をしている者たちを、殺せ。他の者には、手を出さぬよう」

 

 死の騎士(デスナイト)は、地の底から響くような、おぞましい咆哮をあげ、飛び出していった。

 自律して索敵し、標的に仕掛ける。その程度の知能は、おそらくあるのだろう。命令したのは、いわばノリのようなもので、その通りに動けるかどうかは確証がなかったのだが。

 

――現実がクソゲーとはよく聞くが、さて、この世界はどうかな。

 

 本来、死の騎士(デスナイト)は護衛用のユニットであり、柔軟な指示など聞き入れる余地はなく、運用の手段は限られていた。

 精神的なつながりは、何となく感じる。もしや、と思いはしたが、本当にこの現実は自由度が高い。

 融通が利く、ということは、良いことか悪いことか。凝り性のモモンガとしては、やりがいがある、と思うべきところだろうと、前向きにとらえることにした。

 

「命令を聞いて、行動する。やはり、こちらとあちらでは、仕様が変わっているようだ。また、色々と試したいことができたな」

閻魔王(ヤムラージ)には、あの手の作成スキルはない。助かるよ、モモンガ殿」

「お互い様だ。今更、細かいことは言いっこなし、だろ?」

 

 あまり、悠長に話し合っている暇もない。まだまだ村から脅威は去っていないのだ。二人は索敵を再開する。

 

「では、私たちは行く。終わったら、ここに戻ってこよう」

「それまで、良い子にしていてくれ。――助けられる命は、必ず助ける。約束は守るのが、私の信条だ」

 

 モモンガとウォン・ライは、少女たちに一声かけた。そして彼女たちは、彼らを畏怖しながらも、感謝の気持ちを忘れなかった。

 

「ありがとうございます!」

「助けてくれて、ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます! ……図々しいとは思います。でも、他に頼れる人がいないんです。どうか――」

 

 少女の信頼を裏切るような男は、この場にいない。モモンガはその意を充分に示した。ウォン・ライも、笑って応える。最大限、期待には応えると。

 

「この赤鬼が請け負う。――民を慈しむのが、君子というものだ」

 

 二人は、この世界における最初の戦闘を終えて、殺戮の余韻さえ残さぬまま、仕事にかかった。戦うべき理由、人を助ける名分のある戦いは、ひどく甘美であった。

 特にウォン・ライにとっては、そうだった。彼は餓えていたから。

 人の持つ美しい感情。言葉に表すならば聖、仁、あるいは義。それを探し求め、追求しながら、体現することはおろか、徹底することさえ出来なかった。

 

 えせ君子と言うなら言え、夢が続いているなら、夢を叶えて何が悪い。そう自嘲しながら、ウォン・ライは駆けた。今生では取りこぼすまいと、強い決意を抱きながら。

 

 

 

 

 

 少し離れた位置から、死の騎士(デスナイト)の雄叫びが聞こえてきた。あちらは任せてよいと判断しながら、ウォン・ライは自分の役割を完全に果たしていた。

 騎士と思しき連中を、見つけ次第なぎ倒す。一人でも多くの村人を助けるなら、時間は敵である。速やかに村全体を掌握する必要があったので、モモンガも個人的な実験は自重した。友の想いを汲んだ結果である。

 

――モモンガ殿には、割を食わせてしまったな。

 

 後で何かしらの埋め合わせをしなくては、とウォン・ライは思う。これは自分のエゴであり、たっち・みーの言葉に影響を受けたわけではない。彼ほど清廉でもなければ、高潔でもないと、彼は自身の性分をわきまえていた。

 敵対する騎士どもも、出来る限りは生かしている。死んでいないというだけで、ナザリックに送られれば、生き地獄に近い処置が待っているだろう。そうとわかっていても、彼は殺害することを好まなかった。

 ただ殺すだけでは足りぬ。良民の平穏を乱した、という一点だけでも、ウォン・ライの精神的外傷(トラウマ)を刺激するのだ。いかなる手段で処分するのであれ、自ら手を下さねば、気が済まなかった。

 敵を索敵し、縛り付ける過程で、発見した村人は全て助けている。エンリとネムの姉妹と同じ場所へ誘導したから、よほどのことがなければ大丈夫だろう。

 

「ずいぶんと確保したものだ。これは、ナザリックに運ぶだけでも結構な手間になるな」

「――いや、すまん。存外に連中が弱すぎるので、欲をかいてしまった。呪縛は半日くらいは持つし、情報収集のサンプルは多いに越したことはないと思うのだが、過ぎるか」

「悪いことではないとも。どうしても無理なら、それから処分しても間に合うだろう」

 

 二人があれこれと話しているところで、アルベドが転移門を介して現れた。全身鎧の完全武装で、全力戦闘を想定しているのだろう。無理もないことだが、この場では過剰戦力ともいえる。

 

「準備が時間がかかりまして、申し訳ございません」

「いや、気にしてはいないさ。むしろいいタイミングだ。そうだろう? ウォン・ライ」

「もちろんだ。そこらに転がっている騎士どもの処置に、困っていたところだ。事が収まり次第、手伝ってもらうとしよう」

 

 アルベドは油断なく、戦闘態勢を崩さなかった。

 そうして、不満の意を押し殺している。ウォン・ライは、彼女が纏っている空気から、何かしら不穏なものを感じていた。

 戦闘を期待していたのに、雑用を言いつけられたことによる、不満だろうか。害になるものではないと思い、あえて指摘はしなかったが。

 

「索敵は終了した。近辺にいる騎士どもは、全て撃退したようだ」

「ふむ、ならば死の騎士(デスナイト)にも命じておこう。今、息をしている連中は、生かす価値がある。利用方法は、それこそいくらでもあるだろうしな」

 

 モモンガが思念を飛ばし、受諾させる。これで死の騎士(デスナイト)も大人しくなるだろう。

 村を救えたと確信できたなら、今度はその実感が欲しくなる。あの姉妹の下に、村人たちは固まっているはずだ。会っていくらか話をするのもいいだろう。

 アルベドを含めた三人は、そうして村人と接触し、対話を試みる。まず声をかけたのは、モモンガだった。

 

「ここにいる皆に伝えたい。この村は、危機を脱した。脅威となる悪党どもは、全て排除した。どうか、安心してほしい」

 

 ウォン・ライとアルベドは、傍に控えている。こうした場面では、まずモモンガを立てる。この認識だけは、確実に共通している二人であった。

 

「ありがとう、ございまする。村長として、お礼を申し上げたい。モモンガ様、ウォン・ライ様、ネムとエンリがお世話になったことも含めて、感謝いたします」

 

 村長を名乗ったのは、初老の男だった。いや、もしかしたら、もう少しは若いのかもしれない。年齢は、おそらく五十には達していないであろう。

 日に焼けた肌と、がっしりした体格は、まだまだ現役の雰囲気がある。ただ、気苦労を感じさせる面構えが、思ったより老けた印象を与えてしまうのだろう。

 ともかく、村人の中では頭一つ抜けている容貌だった。村長というのも、納得である。

 礼を言われたところで、モモンガはウォン・ライと目を合わせた。

 

『ところで、これからどうしたものだろうか。個人的には、適当に切り上げて、さっさと捕虜から情報を得たいんだが』

『モモンガ殿は、後ろでどっしりと構えてくれればいい。村人との話し合いは、私が主導しよう。大きな決断が必要そうなら、話を振るということで、よろしいかな?』

『ああ、頼む』

 

 村長の男は、彼らの内心を推し量ることも出来ず、通り一遍の世辞を述べ続けていた。

 ウォン・ライは早速、話を進めるために口を開く。

 

「感謝の気持ちは、よくわかった。村長、詳しく話し合いたいが、ここで立ち話というのも不都合だろう」

「これは、気が利きませんで。――ああ、申し訳ないのですが、貴方様のご立派なお体を収めるには、我が家はみすぼらしく……」

「問題ない。ごく普通の、人間の体になれば良いだけのことだ」

 

 ウォン・ライは、己に人化の術を施した。そうして人間の身になるところを見て、村人たちはどよめいたが、多少驚いたくらいで収まった。

 皆を助ける過程において、二人の異常性はすでに知れ渡っている。特に魔法の技術に関して、彼らは暗い。

 わけがわからないが、こういうこともあるのだろう。結果として、村人たちの間では、それくらいの認識になった。

 

「もしかして、それがリアルでの姿なのか?」

「ああ、モモンガ殿に見せるのは初めてだったか。……ずいぶんと若返っているが、そうだな。その認識で、間違ってはいない」

 

 ウォン・ライは、人間にしては長身、という程度の体格になっていた。

 容姿から推し量るに、年齢もおおよそ四十代後半くらいの、壮年の男に見える。若くはないが、老いたと表現するよりは、成熟しきったという言葉が似合う頃合いで、ちょうど働き盛りの年代である。

 髪に白髪がちらほら見えるが、顔の発色は良く、肌の艶もあり、シワは浅い。老いや劣化の印象はなく、年を重ねてなお、みなぎる様な精気の強さを感じさせた。それは威厳の表れのようにも見え、どこか高貴な雰囲気さえ感じられた。

 顔立ちは整っているが、美男と評すのは、ためらわれる。そんな華美な言葉は相応しくない風格があり、どんな激務にも耐えられそうな頑丈な体つきは、頼もしささえ覚える。

 やや細身だが、大柄な体格だ。服装は一転して、中華の伝統衣装である長袍(チャンパオ)へと変化し、この国のものと比べて、あきらかに異質に見える。

 しかし、その異質さを受け入れさせる力が、ウォン・ライにはあった。何より、彼に似合っている。単純なことだが、それが何より重要であった。

 

「いや、立派な男ぶりです。どこの御大尽かと思いました」

「村長、褒めてくれるのは嬉しいが、そろそろ話す場所を変えよう。おそらく、長い話になるぞ」

 

 間違いなく、この場の主導権を握っているのは、彼である。村長の言葉を制するように、一言入れる。

 重ねた経験の深さが、厳格な雰囲気を演出していた。近寄りがたい、と言うのが正直な感想であろうか。村長も、緊張の度合いが増したようで、口調が硬くなる。

 

「――は、はい。では、こちらに」

 

 そうして、アルベドを含めた三人は村長宅へとやってきた。謙遜する程度には、さびれた家屋である。

 それでも、村をまとめる者の家として、相応しいくらいの広さはあった。家具は粗末であったが、この場合は窮屈な思いをせずに済むだけ、充分であろうとウォン・ライは思う。

 

「貧しい村なので、たいした御持て成しはできませんが」

「いや、充分だ。これでも子供の頃は貧乏をしていたのでね。あれこれと求めたりはせんよ。――持て成そうという想いだけで、私は御馳走でも食べたような気持ちになれる」

 

 ウォン・ライは、硬い表情をゆるめて穏やかに笑い、そう言った。そのままだと厳しそうに見えた顔が、笑みを浮かべたとたんに、明るい印象になる。表情の変化で雰囲気が変わる人は多いが、彼はそれが顕著に表れる人物といってよい。

 近寄りがたい、と思われたのも、こうなってしまえば一目で見方も変わる。村長は、緊張を解いたように一言述べて見せた。

 

「そうなのですか。貴方のような方でも、貧乏を経験されたと。貴族は貴族として、変わらないものだと思っていましたが」

 

 身なりの良さから、貴族ではないかと思われたのであろう。体さばきや、一つ一つのしぐさからも、育ちの良さがにじみ出ている。

 これを評価しての世辞であろうが、ウォン・ライはそれを否定するように言う。

 

「いや、地主とか、貴族の出身ではないんだ。――私は、没落した官吏の一族の生まれでね。祖父はそれなりに有能な役人だったが、父は厳格で潔癖すぎて、失脚してしまった。……私が物心ついたころには、すでに職を失った後だったよ。貧乏との付き合いは、それから長く続いたものだ」

 

 落ち着いた語り口は、心地よい声と共に耳に入り、すっと頭に染みわたる。微笑みをたたえたままの表情からも、知らず知らずのうちに目が離せなくなっていく。

 理屈では説明できない、見る者を引き付ける輝きがあった。苦笑一つとってみても、ひどく魅力的に思えるのは、どうしたことか。

 

『そういえば、そんな個人的なことは初めて聞いたな。話していいのか? 結構デリケートな問題だと思うんだが』

 

 あまりにさらりと言うから反応が遅れたが、モモンガは思わず伝言で彼に話しかけた。人間の身になったせいか、心理的な距離が縮まったようで、気兼ねなく問う。

 

『なに、必要なことだ。辺境の民衆というものは、とにかく都会の貴族というものを忌避する。――誰がお上でも俺たちの知ったことか、とばかりにな。で、普通なら聞き流すところだが、あくまで自分は村人たちと同じようなルーツを持つのだ――と主張しておけば、わずかでも共感を見せてくれるものだよ』

 

 モモンガも場に流されていたが、面と向かっていた村長も、空気の変化をごく自然に受け入れてしまっていた。

 ころころと印象が変わるのに、むしろ前向きな感情を相手に感じさせる。これもまた、ウォン・ライという人物の不思議さであろう。

 

「貧乏暮らしが長かったから、こうした武骨な手作りの雰囲気は、私には馴染み深いものだ。……貴族的なものとは、結局ずっと縁がなかったものでね。あまり高級な物に囲まれると、むしろ落ち着かなくなる」

 

 彼とモモンガが座った椅子は、少しでも動くと軋んで音が鳴った。おそらく手作りのもので、家具の職人などはいないのだろう。きっと、そこに力を注ぐだけの余裕がないのだと、推察できる。

 アルベドは、傍で立ったまま控えていた。あくまでも、従者として振る舞うつもりなのだろう。すすめられても、無言で断った。兜も外さず、素顔をさらすことを拒んでいるようでもある。

 彼女にとって、人間の価値は低い。ウォン・ライが会話を主導しているうちは、自発的な行動はするまい。

 

「そうなのですか。……いやはや、意外ではありますが、なるほど。同じ平民同士であれば、気後れせずに付き合えそうで、なによりです」

「この家の主は貴方だ。気を楽に、思ったことを言ってくれていい。……貴族的な腹の探り合いなど、我らには無縁のものだ。そうだろう?」

「――はは、気を楽に、ですか。言われてみれば、そうですな。今更思い悩むなど、余計なことでした」

 

 彼らが通されたのは、貧相なつくりの部屋だったが、ウォン・ライが席に着いて話し出すと、ふんわりと柔らかい空気が作り出されたように、部屋の印象そのものが変わったように見える。

 会話もその空気に触れて、だんだんと和やかになっていく。村長の顔にも、笑みが表れるようになった。

 

「ところで、御三方の御関係など、聞いてもよろしいでしょうか。お仲間であることは、よくわかるのですが……」

「ああ、そうだな。まず、こちらのモモンガ殿。彼がパーティのリーダーだ。私は彼の友人で、行動を共にする仲だ。たまには、こうして交渉を任されることもある。……隣の女性はアルベドという。私と彼にとっては、友人の娘と言っていい。特別な相手だから、よく覚えていてくれ」

「――はい。いや、余計な詮索でありましたか。なんにせよ、皆さま方が恩人であることに変わりはありません。どうぞ、遠慮なくおくつろぎください」

 

 そして二言、三言と、少し言葉を交わしただけなのに、気安く話しかけられる雰囲気を演出した。作為的にやったのか、素のままで無意識に行ったのか、それを見極めるのは至難である。

 村長も、何かしら感じ取ったに違いない。それが良い方向に作用したのだろう。すっかり緊張が解けて、気持ちも軽くなったように見える。

 

「これ以上なく、くつろいでいるさ。だから、安心して話を続けよう。――私はモモンガ殿から、今回の件について、委託されている。そして私も、なるべく穏やかに話を進めたいと思うのだ」

 

 ウォン・ライの言葉は、どこまでも優しく響いた。多くは語らずとも、落ち着いた声と口調から、気遣いの色を見せる。厳しさと穏やかさは、両立しうるのだと、彼と接していると強く思うところだ。

 だからこそ、というわけでもあるまいが――村長は大きく息を吐くと、決意を固めたように、話を切り出した。

 

「助けてくれたこと、感謝いたします。本当に、ありがとうございました。――何度言っても言い尽くせぬほどの恩義を、我々は受けました。この気持ちをどう表せばよいのか、私にはわかりません」

 

 ウォン・ライは、少しだけ目を細めた。モモンガはそれを見て、何かしらの合図だろうかと思ったが、あえて反応はしなかった。

 彼の目は、村長に向いていた。観察している様子が見て取れたので、今割り込むのは悪いだろうと気づかった結果である。

 

「……言葉で示し、態度で示した。これ以上のものを期待しては、こちらの方が申し訳ないというものだ」

「何と言いますか、お恥ずかしい限りです。もう少し、豊かな土地であれば違うのでしょうが、このカルネ村は富となり得るものが少ないのです。――お許しください」

 

 報酬の話だったのか、とモモンガはようやく気付いた。自分なら、もっと率直に話を切り出しただろう。

 しかし、こうなると得たものは、捕虜の騎士どもだけ。なるべくなら、こちらの貨幣も手に入れたいと彼の方は思っているのだが、ウォン・ライの考えはわからない。

 

「……そう固くなりなさるな。私は、ないものをくれと言いたいわけではない。気持ちを受け取った、と言っただろう?」

「しかし、それではあまりにも――その」

 

 あなた方が報われない、とでも続けようとしたのだろうか。だが結果的に、村長は最後まで言葉を続けられなかった。

 細めた目が、温和に和らいで、村長へと向けられた。ウォン・ライは、彼を制するように言う。

 

「気が済まないというなら、そちらの感覚で、感謝の気持ちを形にしてくれればよい。私たちは、拒まずに受け取ろう。貸し借りは、それで清算したということにしよう。いかがかな? モモンガ殿」

 

 いきなり決断を迫られたモモンガは、反射的にうなずいた。付け加えるように、一言申す。

 

「そ、そうだな。金額にして、いくらぐらいが相場だろうか?」

「申し訳ありません。街の方には、大きな依頼を出したことはありませんので、こうした事態の相場などは何とも。……村の財産を整理すれば、おそらく、銅貨三千枚くらいにはなるでしょうが」

 

 銅貨三千枚が、どの程度の財産であるか、判断は難しい。

 モモンガは、ウォン・ライに視線を向けた。彼が誘導した展開なのだから、話を収めるのも彼の責任であると、言外に示す。

 

「それが村長の、村の総意として、これが妥当だと思うのなら、それで充分と言っておきましょう」

 

 ウォン・ライの答えは、これだった。不満など欠片も感じさせず、微笑んで言う。

 その態度に何を見たのだろう。村長はさらに頭を下げて、わびた。

 

「まさか、そんな! この程度の金銭で足りると思うほど、傲慢ではありません。差し上げられるもので済むのなら、私もこうも心苦しく思ったりはしません」

 

 己を恥じるように、村長は言った。悔いる様子に嘘はないと、モモンガは見る。

 ウォン・ライはそれを確認するように、一呼吸おいてから答えた。

 

「我々の働きに見合うだけの、見返りを用意できない。それを、貴方は心苦しく思っておられる。そういうことで、よろしいか」

「……はい。物資などを含めても、お渡しできる財産は、多くないのです。村は、多くの働き手を失いました。備蓄は絶対必要なのです。……言い訳になりますが、そういう意味でも、多くの報酬を用意することは、とても――」

 

 村長が言い淀んでいる間に、手元に白湯が運ばれてきた。こんなものでも、辺境の村では馳走になる。

 手間をかけたのは、村長の妻だった。その気持ちを思えば、口をつけるのが礼儀だろう。ウォン・ライは当然のように飲み干した。器を口に持っていく動作さえ、優雅に見えるのだから、たいしたものだった。

 モモンガの方は、マスクを取るわけにもいかず、やんわりと断る。

 

「この辺りは、餓えることが多いのか?」

「食うに困る、ということは、時折あります。ですが、餓死するということは、まれです」

「まれ、か。餓死者も、出る時は出る、ということか」

 

 村長は、否定しなかった。ウォン・ライは、はた目にもわかるほどに、苦悩する様を見せた。

 顔を渋く曇らせ、頭を押さえていた。口元は固く結ばれ、真剣に憂いていることが、態度だけでわかる。それがあまりにも痛々しくて、見ている方が気遣いたくなるほどだった。

 

「助けた相手を困窮させては、本末転倒だ。こちらとしても善意から助けたのだから、報酬も是非に、というわけではない。三千枚の銅貨も、辞退した方が良さそうだな」

「まさか、そのような!」

「いや! ――よくよく考えれば、報酬を求めるのも筋違いだ。我々は依頼されて来たのではない。善意を押し売りしておきながら、助けてやったから金をよこせ、では無法者同然だ」

 

 話の風向きが変わってきたな、とモモンガは感ずるが、やはり沈黙を守る。

 村の惨状を見つけたのはモモンガで、助ける意思を見せたのも彼だ。なら、いかなる結果であれ、受け入れるのが上司のあるべき姿だと思う。

 

「この村には、以後の苦難を乗り越えるためにも物資が必要だろう。これを横から奪うのでは、あの騎士どもとどう違う?」

「違います! あなた方は、助けてくださった。それを卑下なさってはいけません!」

「……ありがとう。その言葉は、嬉しく思う。だが、まかり間違って餓死者など出しては、悔やみきれん。私にも、餓えた経験はあるのだ」

 

 ウォン・ライの表情は、深く憂慮するように、曇ったままだった。

 さっきまで微笑んでいた顔が、苦悩に満ちる様は、ひどく鮮やかで。モモンガでさえ、見ていて辛くなる。

 彼も思わず本気で心配しそうになった。が、それも次の言葉で、すぐに消えた。

 

「お互いに、落としどころを見つけたい。報酬は必須でないと我々は見るが、村長は受け取ってもらわねばメンツが立たぬという。なら、こういうことでどうか?」

 

 考え事をするように、あごに手を当てながら、ウォン・ライは提案した。

 

「見ての通り、我々は異国の出身でね。この地方には来たばかりで、情報が少ない。常識知らずで、この国の情勢などにも暗く、色々と不都合がありそうなんだ。……だから、あなた達から、情報をもらいたい。その教えを乞うということで、今回の件は収めてくれまいか」

 

 ウォン・ライの目が、鋭く輝いたように、モモンガには思えた。初めからこの結論に持っていくつもりだったのだと、ここで理解する。

 

「……わかりました。村として、協力は惜しみません。私たちにわかることなら、どんな情報でも話しましょう。とても、この程度で恩を返せたとは、思えませんが――」

 

 ナザリックにとって、貨幣以上の価値を持つのが情報だ。ここで大きく補強できるのなら、そちらの方が良い展開である。

 この話の運び方、明らかにウォン・ライが誘導している。モモンガは、裏で確認を取るように、彼に語り掛けた。

 

『もしかして、計算ずくで誘導したのか?』

『もしかしなくとも、そのつもりで話していたよ。ま、この結論は話の途中で考えたものだがね。そう悪くない結果だと思うが、どうかな?』

『……情報を得られるのは、そうだな。良い話だ。よくやってくれたと思う』

『何、結果だけなら、さしたるものではない。……重要なのは、次につなげることだ。村長は我々に負い目を感じている。慎重に詰める必要はあるが、次回話し合う時には、少しくらい乱暴に押しても大丈夫だろう。もちろん、過ぎては逆効果だが』

 

 ウォン・ライは、また用意された白湯を、今度はちびちびとすすった。無償で助けるような態度を取りながら、自身の利益確保のため、相手からむしり取る準備をする。この矛盾をどう解釈すればいいのか、判断がつかなかった。

 顔つきも穏やかなもので、先ほどの憂慮の表情はどこにいったのかと、モモンガはあっけにとられてしまう。

 それでいて、傍目には嫌味さをまったく感じさせないのだから、彼の人物の複雑さは筆舌につくしがたい。

 

『出したりひっこめたり、笑ったり沈んだり。それに今後の押し引きか。そんな交渉術、どこで習ったんだ?』

『――そうだな。モモンガ殿も、中華の暗黒面にどっぷりと浸れば、これくらいは簡単にできるようになるさ。もし帰ることができて、機会があったら試してみるかね?』

『勘弁してくれ。一営業マンに何を期待してるんだ』

 

 中華の暗黒面なんて、底が見えぬほど深いに決まっている。溺れる前に、モモンガは追及を避けた。

 裏で語り合いながらも、ウォン・ライは村長から情報を聞き出し、必要事項を頭に叩き込んでいた。

 相手の方が考え込んだり、思い出すのに多少時間を置いたりしていたから、間にモモンガとの会話をはさんでも、支障はないのである。

 

「――ああ、そうだ。ちょっといいかな?」

 

 村長があれこれ話している途中で、モモンガが口をはさむ。一つ、気がかりな点があったから、それについて釘を刺しておきたくなったのだ。

 

「情報はありがたいが、それを我々に漏らした、ということは秘密にしてもらいたい。今回の出来事は、表ざたにして良いことではないと思うのだが、どうか」

「……わかりました。決して、よそには漏らしません」

「結構。私は魔法を使えるが、そんな手で村を縛りたくはない。村長らの人間性を信用しよう」

 

 情報を得ることと、同じくらいにこちらの情報の秘匿は重要だ。村を救ったこと自体は、いずれ明るみになるだろうが、自分たちの手の内までさらしたくはない。

 モモンガとウォン・ライの二人は、さらに話を続けて、村長から必要な情報を引き出し続けた。

 アルベドは、終始無言のまま、その場で立っていた。一段落するまで数時間を要したが、その間も苦とすることなく、ただモモンガだけを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 魔法詠唱者(マジックキャスター)というものは、常人からは変人のように映る。

 だからモモンガの詮索に、時に幼稚に映るものがあったとしても、村長は違和感をそのままに、忌憚なく答えるのみだった。

 

「白湯は、好みではありませんか? 茶があれば良いのですが、来客用のものは切らしておりまして」

「いや、お気づかいは結構。それより、興味深い話だった。充分な報酬だったと思う」

 

 情報を聞き出す段になると、話を進めたのはウォン・ライではなくモモンガだった。

 譲るべき点は譲る。上位者を認める態度として、正しい振る舞いであったろう。実際、モモンガは聞きたいことを聞きまくった。

 

『ユグドラシルのような世界を予想していたんだが、まったくの別世界らしい。ユグドラシルの魔法が使えるから、何かしら関連があるのではないかと思っていたんだが』

『当たり前だが、周辺国家は、どれも聞きなれないものだ。北欧神話にかすりもしないし、地球の国家と比べてみても、まだまだ幼い印象を受ける。案外、国家としての歴史は浅いのかもしれん』

 

 外交の内情までは、流石にわかることではない。だが、国家の概要を知れただけでも意味はある。

 所詮は村人レベルの理解であろうが、最初から全てが得られるわけもなく。現時点で、村長の意見は貴重なサンプルであったといえる。

 

「連中の鎧を見る限り、あの騎士どもはバハルス帝国に所属していると思われる、か」

「はい。刻まれていた紋章は、まさしく帝国のもの。……王国の民として、敵国を憎まずにはいられません」

 

 モモンガの言葉に、村長は同意した。しかし、モモンガはこれが欺瞞工作である可能性を、早くも考慮に入れていた。

 これほど派手な虐殺行為を、自らの所属を喧伝しながら行う馬鹿がいるものか。村人を皆殺しにできれば問題はないが、逃げす可能性は絶対に残る。そうなれば悪名を残すのみだ。盗賊なり傭兵なりを偽装して行うのが普通だろうと、彼は考えた。

 

――いや、しかし、そもそも村人を殺す意味って何だ? 兵士じゃないんだぞ。戦闘力を削げるわけでもないし、王国というほどの規模なら、寒村の三つや四つ焼いても、生産力の低下なんて誤差の内だ。

 

 すると、欲しかったのは名分か。帝国に悪名を着せ、その行為の非道を主張することが目的。想像が正しければ、実行犯は帝国ではないことになる。

 連中が帝国の鎧を着て、意味のない殺戮をこれでもかと披露してみせる。衆目にさらして、怒りと憎悪をあおるのだ。

 そうすることで、帝国を攻める理由を作れる。悪い評判というものは、これでなかなか厄介だ。アインズ・ウール・ゴウンもそうだった。

 

――気持ち悪いな。もしこれが策なら、きっと考えたのは嫌な奴だ。

 

 とにかく、敵対行為を正当化する理由として、もってこいなのだ。悪い奴から殺して奪っても、誰も非難しない。なんとなく許されてしまう。

 事実かどうかは関係ない。こいつは悪者だ、と皆に認められてしまったら、その時点でおしまいだ。誤解を解く努力は、たいてい無駄に終わるものだから。

 そこまでモモンガの思考が飛躍して、頭の隅がうずくように感じる。弱い嫌悪の表れだと、すぐに気づいた。

 

『もしこの世界に、ユグドラシルのプレイヤーがいたら、私たちはどう思われるんだろうな。アインズ・ウール・ゴウンは悪名高いギルドだったから、殴りかかられてもおかしくはない、か?』

『そこまで浅慮な手合いなら、返り討ちにしても文句は言われんだろうよ。我々は、この村を救った。いわば地域限定の英雄だ。その名声を無視して殴りかかるなら、そいつはその程度の馬鹿だった、ということだ』

 

 ウォン・ライの言葉は、モモンガに大義名分の重要さを教えてくれた。なるほど、確かに今回の仕事は、村人を殺戮から救う結果となった。

 かつての悪名を名分とする相手には、カルネ村の人間が武器になる。彼らがモモンガらを弁護してくれるなら、その善意でなだめることができるだろう。

 

「悪くないな」

「……は、どうか、されましたか?」

「いやいや、なんでもない。色々と想定外のことばかりで、つい、な。それより、話の続きが聞きたい」

 

 思わず声に出して、村長に気を使われたが、話をせっつくことでごまかす。

 それから聞いたことだが、ユグドラシル同様、この世界にはモンスターがいるらしい。人間とは別の、亜人種もいると聞いて、妙な同一性に首をかしげたくなった。

 直接の関係はなくとも、薄いつながりくらいはあるかもしれない。自分たちがここにいること自体、そうしたつながりに説得力を持たせていたから、考えてみれば納得出来る。

 問題は、冒険者の存在だった。モンスターの討伐を主眼とした、人間の組織。最寄りの都市には、冒険者のギルドまであるという。これは大きな情報だった。

 その都市は、エ・ランテルという。これについては情報があいまいで、やはり直接出向く必要があった。冒険者の存在は気にかかるので、確認は早い方が良いだろう。

 

『街に行って、実際に暮らしてみるのが一番だろうな。細かな常識を得るためにも、これは必須と思う』

『まさに。モモンガ殿が直接行くのだったな。ナザリックのことは、私に任せてくれていい。捕虜の尋問も、こちらで済ませておこう』

 

 二人が裏で話し合っているところで、部屋のドアが叩かれた。村長が礼をしてから、それに応える。

 話を聞けば、葬儀の準備が整ったらしい。情報はまだ精査がいるとはいえ、ここで得られるものは得た。留め置くのも気の毒だろうと、彼らは村長に伝えた。

 ぜひとも、村を救ってくれた英雄として、見送りに参加してほしいといわれれば、拒むことも出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 葬儀が終わり、夕暮れになった。モモンガはぼんやりと夕日を眺める。

 ウォン・ライは変わらず、人化した姿のまま傍にいた。アルベドは、騎士どもをナザリックに押し込む作業中である。

 死の騎士(デスナイト)にも手伝わせたが、かなり時間がたったはずなのに、消える気配もない。現実としての仕様変更だろうと思えば、今更疑問もわかなかった。

 

『王国、帝国、法国か。どこに所属するのが無難と思う?』

『現時点では何とも。無所属でやっていくという手も、ないではない。……個人的な意見としては、その決断は出来るだけ引き伸ばしたいな。得た情報が常に正しいとは限らないし、国家の様式とて絶対的なものではなく、変化し得るものだ。――特に中世的な独裁国家なら、なおさらに』

 

 モモンガの問いに、ウォン・ライは慎重な態度を崩さなかった。まったくもって正当な主張であり、同意できる。国家に属するメリット、デメリット、いずれも深く考察してから結論を出すべきだった。

 さしあたっては、エ・ランテルという街に、冒険者として出向くのがいいだろう。人選は決まっているから、行動に支障はない。

 そろそろ帰ろうか、と思ったところで、村長が慌てた様子で飛び込んできた。また厄介事かとモモンガは頭を押さえたが、ここで放置もないだろうと、話を聞く。

 すると、この村に戦士の格好をした者たちが、近づいてきているとのこと。敵の増援か、王国からの援軍か。いずれにせよ、備えは必要であろう。

 

「わかった、お助けしよう。乗り掛かった舟というものだからな。ここで見捨てては後味が悪い」

「おお、ありがとうございます。重ねて、お礼を申し上げます」

 

 村長からの感謝も、今は聞き流す。アルベドに伝言で状況を聞くと、捕虜は全てナザリックに移したと報告が入った。

 死の騎士(デスナイト)も連れて、こちらに戻ってくるよう伝える。村長から、戦士たちがやってくる方角を聞き出し、共に適当な場所で待機する。

 もし相手が王国の兵であれば、村長ぬきで話を進めることは叶うまい。戦闘になっても、この場にはウォン・ライがいる。何も問題はなかった。彼の方からも忠告が入らないなら、危惧するような事態ではないかもしれない。

 ほどなく、その姿が見えてきた。戦士たちは馬に乗っており、先ほどの騎士どもとは装備が違う。別の所属であることは、それだけで見て取れた。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフだ。この近辺を荒らしまわっている帝国の騎士たちを討伐するため、村々を回っている」

 

 ガゼフ、と名乗った男は、モモンガたちを馬上から見据えた。その後方に、戦士たちが集結し、隊列を組む。

 まずは村長が代表するように、応えた。

 

「これは、ご苦労様でございます。我らカルネ村も襲撃を受けましたが、こちらの方々の活躍により、どうにか助けられました。この方々が居なければ、村は全滅していたことでしょう」

 

 微妙に、トゲのある言い方だった。彼らは来るのが遅すぎた。いかなる事情があろうとも、間に合わなかった連中に対して、愛想を振りまく理由はない――と。村長は、態度で語っている。

 彼がモモンガらを一通り紹介したところで、戦士長は馬から降りた。そして、視線をこちらに向ける。

 

「……そうか、なら、私からも礼を言わねばなるまい」

 

 ガゼフという男は、そういってモモンガと向かい合った。いつの間にか、ウォン・ライとアルベドは一歩引いていて、彼が先頭になっている。

 

『ちょ、私が応対するのか! ウォン・ライ、貴方がやれば間違いはないだろ?』

『ぶっつけ本番での話し合いも、経験してみるものだ。必要ならフォローはする。安心してくれ』

 

 モモンガが苦情を言い立てている間に、ガゼフは目の前まで来ていた。そして頭を下げ、口を開く。

 

「よく、助けに来てくれた。村を救っていただき、感謝の言葉もない」

 

 戦士長という地位は、おそらくそれなりのものに違いない。後方に待機する戦士たちは、統率がとれていた。こうした兵を部下として持つ以上、王国での地位が低いとは思えぬ。

 そうした存在が、身分も定かでないモモンガに頭を下げて、礼を言ったのだ。彼の人柄も、わかろうというものだろう。

 

「私が、自ら望んでやったことだ。村人からも感謝してもらったし、もう充分報酬ももらった。気にしなくていい」

「報酬? ……すると、モモンガ殿は冒険者なのか? それで、駆けつけてくれたと」

「まあ……似たようなものか。こちらでは、無名だがね」

 

 なるべくへつらわず、対等の立場であろうと接した。モモンガはアインズ・ウール・ゴウンを代表する、ギルドマスターなのだ。たとえ、相手が誰であれ、下手に卑屈になることは出来なかった。

 ウォン・ライの視線を、背中に感じる。そう思えば、いくらか気分が楽になるようだった。

 

「そちらの方々にも、お礼を申し上げる。よくぞ、村人たちを助けてくださった」

 

 死の騎士(デスナイト)が反応しないのは当然だったが、アルベドはガゼフと顔を合わせようとすらしなかった。

 ただウォン・ライだけが、その礼に応えた。無言で一礼してから、モモンガへと視線をやる。

 

――私が話を主導するんだったな。ああ、わかっているとも。

 

 ガゼフは礼を言うと、それで満足したのか、再びモモンガと顔を合わせる。詳しい説明を聞きたい、と言われれば、無下にも出来ぬ。彼の方も開き直って、説明することにした。

 死の騎士(デスナイト)について、明らかに不審な目を向けていたから、そのことについても聞いてくる。モモンガは適当に説明して、追及を逃れた。こちらの情報を秘匿するためにも、うかつに正直な答えは口にできない。

 ただ、自身が魔法詠唱者(マジックキャスター)であることは話した。それから雑談に近い形で、詳細を尋ねてくる。モモンガはこれをあしらうのに苦労したが、どうにか言葉をにごしてごまかした。営業マンのスキルが、何気に役に立った瞬間である。

 

「詳しく現場を検証するのは、明日にするとして……今少し、話を続けたいところだ。村長殿、申し訳ないが、一晩の宿を借りたい。対価も用意しよう」

 

 ガゼフはまだまだ話したいことがある様子で、明日に持ち越す気で満々だった。実際、モモンガらは怪しすぎる。その自覚があるだけに、こちらから強く拒むことも出来ない。

 戦士長は、善性の人物である。あの騎士どもとは違う。そう思えば、悪い印象もなかなか抱けなかった。

 

「はい。では、宿泊の準備などを――」

「戦士長! 周囲に複数の人影、村を囲むような形で接近してきます!」

 

 村長が答えかけたところで、後方からやってきた戦士から、急を要する報告が入った。

 やれ、またかと。モモンガは肩をすくめた。それでも戦うつもりで、後ろを見やった。

 

「――モモンガ殿、私は人化を解けない。彼らの目があるからな」

 

 ウォン・ライはすぐに答えた。村人には見せたのだから、今更……と思ったが、王国兵と戦士長を警戒しているのだろう。この線から国家中枢へと情報がもれるのは、確かによろしくない。

 赤鬼の力を当てにするつもりなら、連中を遠ざけねばならない。どうするか、と考えようとしたところで、彼の方から提案してきた。

 

「だが、私を外そうとはしないでくれ。この件、徹底的に関わるつもりだ。それをモモンガ殿に了承してもらいたい」

「いや、それは構わないが、なぜそこまで」

 

 ウォン・ライは、モモンガの疑問に答えようと、さらに言葉を尽くす。

 

「……トラウマ、とでも言うべきかな。自分の勝手な事情だ。理不尽な暴力を、見逃したくはない。出来ることなら、自らの手で人々を守ってやりたい。……わかってくれとは、言えないが」

 

 言い淀んでいるが、意思は伝わってくる。モモンガとしても、彼がそこまで主張するなら、無理に来るなとも言えなかった。

 

――個人的なこと、聞いた方が良いのかな。過去を知りたいと思うのは、友人として正しい姿勢なんだろうか。辛いことを思い出させて、傷つけたくはないんだが。

 

 トラウマ、とウォン・ライは言った。心の傷を、彼は持っている。それをつつくような真似をしたくはないけれど、知るべきなのだろうか。

 いや、と思い直す。ここは、彼の方から話してくれることを、待った方が良い。

 

――思わせぶりな態度だけで、何も語らずに済ませるような人じゃない。

 

 モモンガは、ウォン・ライを信頼していた。だから、今は目の前のことを処理しよう。

 それからのことは、それからのことだと。彼は、割り切ることにした。

 

 


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