剣技を極めた剣神(仮)   作:葛城 大河

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今回は短いです。


第十一話 それぞれの想い

 

学内戦だからといっても、連戦に次ぐ連戦ではない。今から見せるのは黒鉄一輝たちと彼に関わった者の一日である。

 

 

 

 

 

紅蓮の髪を持つ少女は、自身の固有霊装である大剣を振るう。今までの学内戦の成績は全戦全勝だ。しかし、それでも彼女は油断などするつもりはなかった。イレギュラーというものは何処にでもあるのだから。それに、彼女の目指す場所は遥か先にある。今でも眼をつむれば、思い出せる。彼が放つ剣戟の嵐を、一撃一撃の重さを。

 

 

完璧に思い出せる。あそこに近付きたい。彼に並び立ちたい。その思いが日に日に増して強くなっていくのを感じる。そう、紅蓮の乙女────ステラ・ヴァーミリオンは黒鉄一輝に憧憬にも似た想いを抱いていた。どうすれば、あんな風に強くなれるのか。どうやれば、あれ程の高みに至れるのか。考えれば考える程に闘志が燃え上がる。

 

 

「……………ふふ」

 

 

クスリと笑う。この国に来て良かったと彼女は、改めて自身の選択の結果に笑みを浮かべた。この国に来て、彼に会ったからこそ、自分はもっと上に行ける。感情の高まりと共に吹き荒れる火炎。それが今のステラの想いを代弁していた。そうして、彼女は大剣を振り下ろした。目指した情景に追いつく為に。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「……………ちっ」

 

 

一人の男が己の霊装を顕現させて、全く動く事はせずに、眼をつぶっていたが、突然、舌打ちを鳴らしてドカリとその場で胡座を付いた。ソレを少し離れた所から見てるのは、何時も男の周りに取り巻きとして集まっている者たちだ。

 

 

「どうしちまったんだよクラウド」

 

「………あぁ、ずっとあそこに居て、眼をつぶったり開けたりの繰り返しだな」

 

「ま、まさかよぉ。クラウド、負けたからソレで」

 

「バカ言ってんじゃねぇ‼︎ たった一回の負けでクラウドの心が折れる訳ないだろうがっ」

 

 

そんは会話など聞こえていないのか、彼らの会話の原因となっている男────倉敷蔵人は全神経を集中していた。思い出すのは、あの瞬間。一瞬にして近付き、こちらに刺突を放った少年の姿。確かに防いだ筈だ。あの刺突は当たっていないのだ。にも関わらず彼は貫かれていた。比喩ではなく、誤字でもない。間違いなく防いだにも関わらず、彼は貫かれていた。

 

 

その原理を、どれだけ考えても分からない。一体、奴はなにをしやがった。どんな技を使いやがったと蔵人は頭を巡らせる。しかし、考えても分かる筈もない。あの黒鉄一輝が使った剣技は、一回見ただけで分かる程の代物ではないのだ。考えても仕方ないと蔵人は思い、立ち上がる。今、破軍学園は学内戦をやっている。

 

 

十中八九、あの男は勝ち上がってくるだろう。そして七星剣武祭に必ず来るのだと、確信を込める。寧ろ、オレを倒したのだ。来ない筈がないと、自身に勝ったのだから来るのは当たり前だと獰猛な笑みを浮かべる。その時はオレが倒すと全身を奮い立たせた。だが、今のままでは無理だと蔵人は胸中で呟く。奴に、アイツに勝つにはもっと強くならなければいけない。

 

 

だからこそ、蔵人は思い出そうとしていた。あの感覚を。全身のリミッターが外れ、一瞬だけだが限界を超えたあの時の出来事を。奴に勝つ為には目指さなければならない。自身の特性である『神速反射(マージナルカウンター)』が垣間見せたその先にあるチカラを。

 

 

「………はっ、黒鉄一輝。オレがこのままで居る訳がねぇ事を教えてやるぞ」

 

 

そうして、彼は模索し続ける。自身を地に付けた一人の少年との再戦を目指して。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

─────研ぎ澄ませる。

 

 

全神経を集中させる。少し息を吸い次の瞬間────納刀された刀の柄を掴んで抜刀。バチバチと放電が鳴り、それと同時に雷速を持って刀身が抜き放たれた。その一閃は見る事が出来ず、バチリと雷電が振るわれた刀の軌跡を残した。

 

 

それは『雷切』と人が呼ぶ電磁抜刀術。ひとたび放てば勝利を収めてきた彼女の二つ名の由来でもある剣技。すると、パチパチパチと手を叩く音が耳朶に響いた。聞こえた方に視線を向けると、そこには小学生に見える身長をした少年が立っていた。光のない瞳を少女に向けている。

 

 

「アハハ☆ 絶好調じゃないか刀華」

 

「……うたくん。何時から見てたの?」

 

「ついさっきだよ。それより刀華聞いたかい?」

 

「うん。黒鉄君が貪狼学園の倉敷蔵人を倒した事だね」

 

 

一輝が蔵人を倒したという情報は、次の日には広まっていた。広めたと思わしき少女は、悪ぶれもせず、一輝専属のカメラマンだと宣っていたが、今は置いておこう。そんな情報に、学園中の生徒たちは驚いていた。なにせ、相手は七星剣武祭のベスト八なのだ。

 

 

「しっかし、凄いよねぇ後輩クンも。そもそも、漫画じゃあるまいし、なんであんな風に動けるんだろうね」

 

「それは、私たちが伐刀者だからだよ。うたくん」

 

「いやいや、伐刀者(ブレイザー)でも僕たちは人間だぜ。あんな超人じみた動きが出来るわけないじゃないか」

 

 

やれやれ、これだから人外はと首を振る少年に、相変わらずだと彼女は苦笑を覚える。

 

 

「それはそうと刀華。随分と張り切ってるね」

 

「えぇ、なんて言ったって」

 

 

そう言って言葉を切り、彼女は少年の顔に自身の生徒手帳の画面を見えるように差し出した。そこに表示されている文字に、少年は得心がいったように頷いた。

 

 

「次の相手は、私が知る中で恐らく────最強の水使い(・・・)だからね」

 

 

そう告げて、少女は嬉しそうにするのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

黒鉄一輝は走っていた。これまで鍛錬で基礎は忘れた事はなく、必ず毎日走り込んでいる。程よく汗を滲ませながら走っていると、自分の知人が視界に入り、走っていた足を緩めてその人物に近付いた。

 

 

「………ん? アリスじゃないか? どうしたんだこんな所で」

 

「はい。どっちを飲む?」

 

 

一輝の知人の一人、有栖院 凪は彼に見せるようにコーヒーとスポーツ飲料水を見せて、どっちにするかを尋ねた。それに、一輝はスポーツ飲料水と答えて有栖院から受け取る。キャップを外し、スポーツ飲料水をゴクゴクと飲んだ彼は差し入れを持って来てくれた有栖院に礼を言った。

 

 

「いや、悪いな。もらっちゃって」

 

「ふふふ、そんな事はないわよ。あたしもこの頃、暇だったから一輝のとこに来ただけだしね」

 

 

二人は近くにあったベンチに座り、そういう彼に疑問を浮かべた。

 

 

「…………暇? そういえば最近、珠雫と一緒じゃないよな。なんでだ?」

 

「珠雫は今、忙しいのよ」

 

 

この頃、べったりとくっついて離れなかった妹と会っていない事を思い出す一輝だ。なんか、こう今思い出すとべったりされてないと思うと寂しく思うのはシスコンだからだろうか? いや、俺はシスコンではないと言い聞かせる一輝は、彼が告げた珠雫が忙しいという言葉に首を傾げた。

 

 

「…………忙しい?」

 

「えぇ、今、珠雫は精神集中をしてる筈よ。次に戦う対戦者に備えて」

 

「へぇ、珠雫がそれ程まで備える相手か。一体、誰なんだ?」

 

 

一輝は興味を持った。妹がそこまで警戒している程の対戦者に。それにアリスは笑みを浮かべて言った。

 

 

「一輝も知っている人物よ」

 

「え? 俺も知ってる人?」

 

「えぇそうよ。なにせ、珠雫の相手は破軍学園の頂点(・・)なんだから」

 

 

そのアリスの言葉に、瞬時に対戦相手を彼は察した。察して、面白い戦いになりそうだと、一輝は空を見上げたのだった。

 

 

 

 

 




やっと珠雫vs刀華だぜ。なるべく、熱い戦いにするようにします。なので、少しのお待ちを。

ここから次回予告。


────少女は強さを求めた。
尊敬する兄に並び立つ為に。この人の側に居る為に。
少女は努力をした。
少女は兄を見続けた。
そして、彼女は学園最強との対戦を引き当てる。
笑う。少女は嬉しそうに静かに笑う。学園最強という明確な強者との戦い。
この戦いで少女は自身が何処まで強くなったのかが分かるのだから。
そして少女は兄に並び立つ為に、最強に牙を向ける。


────次回『兄を追い続けた少女』








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