剣技を極めた剣神(仮)   作:葛城 大河

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お待たせしました。今回、一輝君やっちまったぜ‼︎


第八話 髑髏の男

「─────はぁっ‼︎」

 

 

『破軍学園』の裏にある広場で、ここ最近の日常と化した黒鉄一輝を始めとした生徒達の修行風景がそこにはあった。しかし、今日は何時もと違く、新たなメンバーが加わっている。

 

 

「やぁっ‼︎ はぁっ‼︎」

 

 

その人物は一心不乱に、手に持つ木刀で相対する少年にへと振るっていた。だが、その一撃一撃が容易く回避され、空を斬る。それでも諦めず木刀を振るい続ける少女だ。

 

 

(ん〜、なんか違和感があるなぁ)

 

 

対してまるで余裕のように、いや、余裕に避け続ける少年である黒鉄一輝は、自身に向けて木刀を振るい続ける少女に違和感を覚えた。確かに今使っているこの剣術は、彼女の流派なのだろう。それはシックリする。しかし、少女が扱う剣は何処かチグハグで合っていないのだ。これは確かに少女────綾辻絢瀬の家に伝わる綾辻一刀流だろうが、彼女の剣ではない(・・・・・・・・)

 

 

まるで体格の合わない人物を真似しているみたいだ、と一輝は考えて、そこで思い至った。彼女が誰の剣を真似しているのかを。恐らく絢瀬は己の父親の剣を真似ている。あの部屋で父を語る時の少女から、尊敬している気配を察知した彼は間違いではないだろうと結論付けた。そこまで推測して、道理でその剣が合っていないと納得した。

 

 

当たり前の事だが、男性と女性では体格が違う。それがこのチグハグの原因だ。体格が違うからなんなんだと思う者も居るかもしれないが、余り侮らない方が良い。些細な違いでも、剣士にとっては重要だったりする場合がある。僅かな踏み込みの位置、柄の握り方、姿勢など、一人一人に合った戦い方というものが存在する。そして、目の前の少女には今の戦い方は合っていなかった。

 

 

(ん〜、如何したもんかな)

 

 

尊敬している父親の剣が合わないと言えば、怒るかもしれない。しかし、これを直して自分自身の戦い方を覚えなければ、強くなれないと確信している。請け負ったからには強くしたい。だが、父親の剣を否定するようで言いずらい。如何すれば良いんだと思い悩んだ彼だったが、すぐに解決法を見つけた。要は彼女に合った動きをさせればいいのだ。そういう風に誘導(・・)すれば良いと、笑みを浮かべる。

 

 

「はぁ────ッ‼︎」

 

 

何度目かの上段からの振り下ろし。絢瀬の攻撃に合わせて、一輝も動いていた。絢瀬の右足の横に添えるように足を出し、振り下ろされた木刀を逸らす。また回避された事に、彼女は悔しい思いをしながら、木刀を振るい続けた。それに一輝は、少女に悟られないように、少しずつ体の修正を加えていく。彼が剣を、体を鍛え始めた時から数年で、とある特技を身に付けていた。異常な程の観察眼とも呼べる洞察力だ。故に、一輝には分かっていた。どのような動きが、絢瀬に最も合っているのかを。

 

 

分かるのなら、それを直せば良い。簡単な話だ。絢瀬の動きを修正してから一分が経過した頃、眼に分かる程に絢瀬の剣にキレが出てきた。それに木刀を振るった絢瀬本人が驚愕を露わにして、動きを止める。その表情には、キレが良くなった原因が分からないといった雰囲気があった。

 

 

「く、黒鉄君っ。今、ボク!?」

 

「はい。先輩の剣にキレが良くなりました」

 

「うん。ボクも実感したよ。だけど、なんでこんなにキレが良くなったんだろう?」

 

 

今まで良くなかった己の剣に、キレが出て喜ぶ反面、突然の変化に首を傾げる絢瀬に対して一輝は、笑みを浮かべながら理由を口にした。

 

 

「少し先輩の姿勢というか、構えを修正したんです」

 

 

それがキレが出なかった理由だと、一輝は語る。対して、なんで構えが良くなかった理由なのかが分からなかった絢瀬は疑問を浮かべた。その絢瀬の表情に、なにを考えているのか理解した彼は説明する。

 

 

「恐らく先輩は、誰かの剣を真似て居ますよね? そしてそれは男の人だと思います」

 

「ッ!?」

 

 

脳裏に過るのは、自身が尊敬する父親の姿。その剣を真似ている事を看破された事に彼女は眼を見開いた。そして一輝は、驚く彼女を視界に入れて、問題点を告げる。

 

 

「そして問題なのが、先輩が男の人の剣を真似ているという事です」

 

「男の人の剣を真似ているのが問題………?」

 

「はい。誰もが知っての通り、男と女では骨格が違います」

 

「あっ!?」

 

 

そこまで言うと、絢瀬も悟った。男の剣。父親の剣を真似る事による障害に。少しの態勢のズレ。それがこれまで伸び悩んでいた物の正体だと。その事に気付いて目の前の少年に視線を向けると、そういう事ですと言うように頷くのが見える。たった一回の模擬戦で、ここまで気付いてくれた少年に喜びの声を彼女は上げた。

 

 

「ありがとう黒鉄君っ‼︎ やっぱり君に頼ったのは間違いじゃなかったよ」

 

「お、おう」

 

 

いきなり急接近してくる少女に、良い匂いを鼻腔を擽りドギマギする一輝だ。と、そこで絢瀬は、ふと気付いた。

 

 

「あれ? そういえば、ボクの姿勢のズレを修正するのは分かったけど、何時、修正したの?」

 

 

修正された見に覚えがないと首を傾げる絢瀬に、あぁと一輝が頷くと何でもないかのように口を開くのだった。

 

 

「模擬戦の最中にです。踏み込みの位置や、腕の振り方とかを少しずつ修正しました」

 

「─────」

 

 

頭に手を置いて、少し時間が掛かりましたけどねと一輝は笑う。それに絢瀬は硬直していた。その胸中にあるのは、信じられないという一言。模擬戦の最中。それはつまり、激しく自分が動いていた時に行われたという事だ。勿論、自分はそんな事をされていた事に言われるまで気付いていなかった。とんでもない、凄まじいとしか言えない技量だ。同時に絢瀬は戦慄を覚えた。そんな技量を持つ人が、学内戦に参加している事に、もしかしたら戦うかもしれない事に。

 

 

会った時から、試合を見てからFクラスと侮っていた訳ではない。だが、改めて実感した。この人にとって、魔力が少ないのはハンデにすらなりはしないのだと。そして黒鉄一輝ならば、魔力の量で定められた“運命”すらも覆してしまう(・・・・・・)のではないかと思ってしまった。

 

 

「うん? 如何したんですか先輩?」

 

「ひゃっ!? な、なんでもないよ黒鉄君‼︎」

 

 

対して一輝は、唐突に呆然とした少女に首を傾げて呼び掛けた。すると、呼ばれた絢瀬は少し悲鳴を上げた後に、なんでもないと口にする。この時、悲鳴を上げられた事に心が傷付いた一輝だ。なにか、怯えるような事でもしたのかと、項垂れる。例え、隔絶した剣の技量があっても、戦闘時以外の彼の精神は肉体と同じ少年なのだ。それに少女に小さいとはいえ、悲鳴を上げられたのだ。男の心が傷付くのは当たり前だった。

 

 

かくも今の黒鉄一輝は、心が脆い普通の少年の如く落ち込むのである。…………脆いといっても、硝子程ではないがと追記しておこう。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

それから生徒達は鍛錬を終えて一輝に一言告げてから、帰路に経った。そして数日。彼による修正を加えられた絢瀬はめきめきと凄まじい速度で成長していった。それは順調と呼ぶには余りにも異常な速さで。少しでも剣筋が鈍れば、そこを一輝はすぐさま直し、動きが遅ければ無理やり危機的本能を刺激する程の剣気を浴びせて、限界を超えさせる。鍛錬に妥協は許さない。それが一輝の言葉だ。

 

 

故に鍛えてくれと頼んできた先輩である絢瀬に対しても、敬語を使っているが、行われている鍛錬の数々は余りにも度が過ぎていた。疲れて息が絶え絶えになっても、数分くらいの休憩しか与えられず、模擬戦の最中に少しでも気が緩めば、視覚外から鋭い一撃が与えられ息が止まる。まるで、初日の模擬戦が嘘だったかのような激しさだ。他に一緒に鍛錬をしている生徒達とは全く違う鍛錬に、流石のステラも止めに入る程だった。

 

 

なんというか、余りにも酷い。そうとしか言えない鍛錬だった。だが、その鍛錬の成果はちゃんと絢瀬に出ていた。それは試しにステラと行われた模擬戦に現れたのだ。

 

 

「はっ…………‼︎」

 

「ふっ…………‼︎」

 

 

ステラと絢瀬の木剣がぶつかり合う。一瞬の鍔迫り合いの後、ステラが動いて、横から剣を一閃させる。しかし、もうそこには絢瀬の姿は居ない。

 

 

「…………えっ!?」

 

 

一体何処に、と思考が過ぎった彼女だが、類稀なる戦闘センスにより背後に居る事を察知する。分かれば防ぐ事は容易いと、背後に視線を向けた彼女が見たのは、

 

 

「…………ッ」

 

 

────誰も居ない空間だった。

 

 

おかしい。確かに気配を感じた筈。なのに何故、消えているのか。そう疑問を浮かべた時だ。ゾクリと悪寒が奔る。ここに居ては行けないという勘に彼女は、すぐさま後退の道を選んだ。瞬間────先程立っていた場所に剣が通り過ぎていた。

 

 

「くっ、流石だね。ヴァーミリオンさん」

 

「一体、如何いう種よ」

 

 

お互いが別の感情を抱いて口を開く。絢瀬は自身の一撃を避けられた事に悔しがり、対してステラは冷や汗を掻きながら、先程の出来事はなんなのかと尋ねる。

 

 

「黒鉄君に先を予測しろって教わったからね。だから、予測したんだよ。ヴァーミリオンさんの動きを」

 

「随分と簡単に言うわね」

 

 

まるで簡単に告げる絢瀬に苦笑するステラだ。そう彼女は常にステラの動きを予測して行動していたのだ。ステラが動いた時には、すぐさま背後に移動して、しかしそれでも背後に移動しても防がれると予測したから絢瀬はその場から移動したのだ。まぁ、折角のチャンスも避けられてしまったが。だが、ステラにして見ればおかしいと言わざるをえない。初日を含めれば数日。そうたったの数日で、如何やればこんなに成長するのか。

 

 

如何やら一輝は人に教えるのも異常だったらしい。

 

 

「それに、常に予測して避けないと黒鉄君の攻撃は避けられないからね」

 

 

だから仕方がないよと、諦めにも似た声が彼女から漏れる。それにどれだけ彼との鍛錬が地獄だったのかを理解させられて、ステラが同情するのは当たり前といえた。

 

 

「それじゃ続きを行くよヴァーミリオンさんっ‼︎」

 

「そうね。来なさい」

 

 

そうして再度、二人の少女はぶつかり合い、互いを極めて行くのだった。

 

 

 

 

 

二人の模擬戦は熾烈を極めたが、やはりステラの勝利で終わった。例え強くなっても、Aランクには勝てなかったみたいだ。そして気付いたら夕方になっていたので、鍛錬を切り上げて彼等は現在、ファミレスの中に居た。その場に珠雫とアリスは居ない。

 

 

「黒鉄君、ありがとう」

 

 

店員に食べ物を注文してから、絢瀬が開口一番に告げた。

 

 

「今日はボクがご馳走するよ。二人共なんでも好きな物を食べてね」

 

「えっと、良いのか? 綾辻さん」

 

 

笑みを浮かべながら、そう言う少女に少し躊躇する一輝だったが、鍛えてくれたお礼だと告げられお言葉に甘える事にする。

 

 

「分かった。ありがたく食べさせて貰うよ。…………だけど、流石にコレは制限を付けた方が良いと思うぞ俺的に」

 

 

この数日で、絢瀬と仲良くなった彼は敬語を使わないでくれと言われ使う事をしなくなった。まぁ、流石にさん付けは止められないが。とはいえ、呆れたように視線を横に向ける一輝に、絢瀬もアハハと苦笑いを浮かべてしまう。そんな二人が呆れている理由は、一人の少女にあった。ステラ・ヴァーミリオンのテーブルの上には幾つもの皿が重なっていた。それはもう、大食い選手権に出れる程に。

 

 

人の奢りで、流石にコレは行かんだろう、と一輝は頬をヒクつかせる。絢瀬も驚いたものの、止めようとはしていなかった。

 

 

「しかし凄いね。ステーキやグリルを数人前食べて、そんな体が維持できるなんて………反則だね」

 

 

勢い良く新しく注文した料理に、手を付けるステラに、女として羨ましいとその体を見据える。それにステラは首を傾げた。

 

 

「そう?」

 

「そうだね。女性としては、幾ら食べても平気なのは納得行かないかな」

 

 

別に特別な事はしていないと、ステラから聞いている。だからこそ、納得行かない。世の女性は気にしながら調整しているというのに、彼女の場合、なにもしていないのだ。これがAランクかと驚いたのは、如何でもいい話である。と、そこで絢瀬と一輝が注文した料理が運ばれてきて、二人は食べる事にした。そして料理を食べ進めていると、絢瀬が口を開いた。

 

 

「…………黒鉄君に教えて貰えるようになってから、凄い事だらけだよ」

 

 

伸び悩んでいたのに、それを一瞬にして看破した。それだけではなく、踏み込みや態勢、体幹の使い方、足捌きやその他諸々を教えてもらった。

 

 

「最初はとんでもなくキツかったけど、分かるんだ。どんどんと強くなっていくのが」

 

 

そう最初はとんでもなくキツかった。しかし、鍛錬を付けてくれと頼んだのは自分だ。だから、投げ出したくなかった。それにキツかったけど、彼女は自分の成長を凄く感じ取っていた。その度に思うのだ。まだ行けると。まだ、自分の限界はここではないと。何故か一輝と模擬戦をすると、そう思ってしまう。と、同時に分かった事が一つあった。例え数日で飛躍的に強くなっても、自分は黒鉄一輝やステラ・ヴァーミリオンクラスの人には勝てないのだと。

 

 

なまじ、力を付けてしまったが故に理解してしまったのだ。学内戦で当たってしまえば、自分は負けてしまうのだと。一瞬だけ俯く絢瀬だったが、その感情を消すように顔を上げて、鍛えてくれた少年に改めてお礼を言った。

 

 

「だから、もう一度言わせて欲しい。ありがとう黒鉄君。こうしてボクが強くなれたのは君のお陰だ」

 

「い、いや。え、え〜と………どう致しまして」

 

 

直球で告げられたお礼の言葉に、少し照れ臭くなりながらも彼は受け取る。それに隣では絢瀬と一輝がちょっと良い雰囲気になったのを感じ取って、口に食べ物を入れながらステラがジト〜と睨んでいた。

 

 

「な、なんだよステラ」

 

「…………別に」

 

 

何故か視線が気になった一輝は、尋ねるが、なんでもないとそっぽを向く。しかし、全身から放たれているのは完全に不機嫌オーラだ。なんで不機嫌になっているのか、剣術もとい鍛錬バカには分かるよしない。

 

 

「くすっ、二人は仲が良いね」

 

「…………綾辻さん。これの何処が仲が良さそうに見えるんだ?」

 

 

だが、絢瀬は不機嫌になる理由を知っているのか笑みを浮かべながら言った。

 

 

「黒鉄君はアレだね。剣の事はなんでも分かるけど、女心は全然駄目だね」

 

「いや、なにを当たり前な事を言ってるんだ? 女心なんて分かる筈はない。だって俺は男だしな」

 

 

そして一輝のこの言い分だ。絢瀬とステラは同時にため息を溢した。もう如何しようもないと。突然、ため息を溢す二人に訳が分からないと首を傾げる少年だ。そうして三人は色んな会話をして盛り上がっていた時だった。花を咲かせる彼等に水を掛ける声が響いた。

 

 

「────おいおいおい、絢瀬ちゃんじゃねぇか‼︎」

 

「今まで何処でなにをしてたんだ?」

 

「全然来ないから心配したぜ」

 

 

嘲笑を含んだ数人の男達の笑い声。その声を聞いた絢瀬は、全身を硬直させる。まるで会いたくない奴に会ったかのように、身を強張らせる彼女だ。それにコレは駄目だなと思った一輝は、声のした方向に視線を向けて────

 

 

「よぉ、絢瀬。あれから来ないから心配したぜ」

 

 

一人の男に眼が止まった。胸元を大きく開けた男だ。開いた胸元から見える髑髏の入れ墨が周囲を威圧していた。違う。こいつだけ、一緒に居る奴等と余りにも違う。立ち方、歩き方、重心の取り方、そのどれをとっても剣士のソレだった。

 

 

「…………あぁ?」

 

 

すると、近付いてきたその男も、一輝に視線を向けて眼を見開く。同じ剣士だから分かる。この男は剣客だと。

 

 

「テメェ………剣客か?」

 

「………もしそうだと言ったら」

 

 

だからこそ、男は直球で聞いた。それに対して一輝は口を開く。隠す事もしない男の殺気が物語っていた。もしも剣客だと答えれば、この場で戦いを挑まれる事を。それは絶対にしたくない。それをしてしまえば、七星剣舞祭の切符がなくなってしまうのだから。故に、一輝は眼に戦いの意思はないと告げた。すると、男は苦笑してから隣の席から飲み物を掻っ払うと、一輝のコップに注ぎ込んだ。

 

 

「ふっ、悪かったな。食事の邪魔をしてよ。これはオレの奢りだ。ゆっくりして行けよ」

 

「…………そうだな。ありがたく頂こう」

 

 

そう言って注ぎ込まれたコップに口を付けようとした瞬間。一輝は自身の頭に迫ってくるビン(・・・・・・・)に気付いていた。だが、もしもここで避けてしまえば、周りの不良達が煩くなるだろうし、そこから戦いに持っていかれるかも知れない。ならば、やはりここは、

 

 

(………受けるのが最善の一手だな)

 

 

だが、ただ受けるのでは駄目だ。なにより流石の一輝もビンで、頭を殴られれば痛みを伴う。故に最小限の痛みかつ、怪我に止めたい。そう思った一輝の行動は迅速だった。全神経を頭に集中して、ビンが触れた瞬間に、流れを逆らわずにビンの振るわれた方向にへと頭を持っていく。と、同時に殴られたと相手が思うように、ビンの弱い部分で受けて流す。そうする事で、バキンッとビンが割れ、頭の皮膚を少し切るだけで止まった。

 

 

「ッ!? イッキッ!?」

 

「黒鉄君ッ!?」

 

 

突然、ビンで殴られて頭から血を流す彼に二人の少女は声を上げる。本当は皮膚を少し切った程度に彼が態としたのだが、それを少女達が知る由もない。だが、一人だけ一輝がやった芸当に気付いた人物が居た。

 

 

「ハッ、ハハハハ‼︎ テメェ面白ぇなオイッ」

 

 

一輝のやった事に、愉快そうに男は笑う。しかし、周りの不良達は少年の行った出来事など知らず、男を褒め称える声を上げた。

 

 

「さっすがクラウド」

 

「相変わらずブチ切れてるぜぇっ‼︎」

 

 

口笛を吹く者やもっとやれと煽る不良達を尻目に鋭い視線を一輝に向ける。

 

 

「おい剣客。抜けよ………持ってんだろ? 固有霊装(デバイス)をよぉ」

 

 

そう言って男────倉敷 蔵人(くらしきくらうど)は右肩に担ぐように固有霊装を顕現させた。それは剣にしては余りにも形が違っていた。似ている形があるのなら、それはノコギリだろうか。獰猛な笑みを浮かべる蔵人に、とうとう隣に座っていたステラがキレた。

 

 

「こんのぉクソ野郎っ‼︎ 覚悟は出来てるんでしょうねッ」

 

「…………ステラ、駄目だ」

 

 

しかし、そこで一輝が待ったを掛ける。ここで戦えば、なんの為に態と受けたのか分かったもんじゃない。だが、ステラは納得行かなそうに彼に視線を向けた。それに告げる。

 

 

「な、なんで止めるのよッ」

 

「こんな所で固有霊装を出したら、退学だ。そうなれば七星剣舞祭に行くどころじゃなくなる」

 

「うっ、それはそうだけど」

 

 

それを言われてしまえば、彼女はなにも言えなくなる。一輝がどれ程まで学園を卒業したいのかを知っているから。その言葉にどう思ったのか、不良達が囀りの言葉や、暴言を浴びせた。しかし、蔵人は酷く詰まらなそうに固有霊装を掻き消す。

 

 

「チッ、如何やらとんだチキン野郎だったみたいだな。お前ら行くぞ」

 

 

そう言って本心とは違う言葉を残して、倉敷 蔵人は不良達を引き連れてファミレスから出て行った。ただ一つ、

 

 

(この程度じゃ動かねぇか野郎。ハッ、とんだ化け物が居たもんだな)

 

 

一瞬だけ少年の瞳の奥に感じた殺気に、背筋に氷塊を入れられたような寒気を覚えた。初めての事だ。こんな感覚を味わうのは。だから止められないと、彼は獰猛に笑う。

 

 

(やっぱり剣客は良いな。…………如何すれば、あいつを戦いに引きずり込める?)

 

 

ただ剣客との戦い。ソレだけを考えて、蔵人は歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




絢瀬先輩が大分、強化された模様。ステラも強くなって行くのかねぇ(白目

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