剣技を極めた剣神(仮)   作:葛城 大河

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帰ってきた。ハーメルンよ、俺は帰って来たぞっ‼︎

皆さん如何もすいません。つい先日まで寝込んでいました。いやぁ、仕事を休みなく続けると、天国近くまで行く事が出来るんだと実感しましたよ。えぇ、この身が体験しましたとも。さて、久しぶりの投稿なんですが、本編ではなく閑話を投稿させてもらいました。


本当は学内戦が終わった後に投稿する筈だった三つの閑話の一つです。この次回に本編を一週間の内に投稿したいと思います。……………倒れたおかげで、奴ら(上司共)も仕事の時に自重する筈、だと良いなぁ。それでは閑話を如何ぞ‼︎



─────鍛錬とは、即ち肉体を徹底的に虐め抜く行為である。
by黒鉄一輝




閑話その一 一般的な鍛錬風景?

 

 

少年────黒鉄一輝の幼少期の話をしよう。まだ、歳が十やそこらの時の話だ。これは一人の少年の行き過ぎた鍛錬の一端を記したものである。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

突然だが、無呼吸運動と言うものを知っているだろうか。読んで字の如く、それは呼吸をせずに運動をする行為である。何故、行き成りこのような話が出て来たのか。簡単に言えば、一人の少年が今から行う鍛錬法の一つに、この無呼吸運動に関してのものがあったからだ。

 

 

少年は剣を扱う者だ。だから、無呼吸運動は剣を扱う自分にとって重要項目の一つだった。達人同士の戦闘はたった一呼吸すらも、明確な隙になってしまう。故に、己の鍛錬に無呼吸運動に眼が行った。息を止めて、一呼吸すらせずにただ攻撃を繰り出す。そうすれば、その隙など無くなるというのが少年の考えであった。だからこそ、鍛錬法の中に如何に無呼吸の間で、活動出来るかというものを入れているのだ。

 

 

ただここまで聞けば、誰もが熱心だなと感心の声を上げただろう。武を使う者なら誰もが、その鍛錬を取り入れるのだから。しかし、この少年は少し可笑しかった。いや、語弊である。可笑しいのではない、異常だったと言うべきだろう。念の為に伝えて置くが、少年の歳はまだ十歳になったばかりの子供である。この事を頭の中に入れていれば、どれだけ異常なのかが理解出来るだろう。

 

 

まず始めに少年────黒鉄一輝は、早朝で家の裏手にある広場で剣を、己の固有霊装(デバイス)である『陰鉄』を慣らし程度に振るう事から始まる。といっても、その慣らしから少年の異常性が際立っていた。まずに両手と両足に、それぞれ三十五キロのリストバンドを装着している。十歳の子供がである。しかし、それにも関わらずにまるで重さを感じさせない動きで剣を振るうのだから、遠目から見ても誰も気付きはしない。

 

 

剣の素振りを、千回以上はこなすと、次の鍛錬に移行する。それは往復五回程の四十キロマラソンだ。もう一度、言おう。彼はまだ十歳の子供である。最早、眼を疑うような光景でしかない。だが、それ程の事をしても一輝の規格外さを知っているのは片手で数える程度しかいない。

 

 

そしてここにその規格外さを知っている者が、影から一輝の事を見ていた。歳は一輝よりも低く、可愛らしい少女だ。少女は今日もまた、心配するような視線を一輝にへと向けていた。

 

 

(…………お兄様。また、あんな無茶な事を)

 

 

少女に取って見慣れた鍛錬風景だが、それでもハラハラしてしまう。しかし、自分が辞めるように言っても、少年がその鍛錬を辞めない事を知っていた。何故なら一度、少女は言った事があるのだ。一輝に対して『もうこんな危ない鍛錬を辞めて下さい』、と。肉体の限界を超えて、尚も鍛錬を続けるのだ。普通の子供なら、その時点で体が壊れてしまう。

 

 

だが、黒鉄一輝はそれでも続けた。悲鳴を上げる体を無理やり騙して、彼は我武者羅に鍛錬を行っていくのだ。まるで、なにかを目指すかのように、自身が見据えているソコに辿り着く為に。それを見てしまった少女は、もう止める事は出来なくなってしまった。いや、止めても無駄だと理解したと言うべきか。

 

 

彼が何処を目指しているのか、少女には分からない。ただあそこまで、必死にするという事は、一輝にとってなによりも大事なのだろう。だから少女は止める事を辞め、見守る事にした。もしも鍛錬の途中で、なにか怪我をした時にすぐ治療が出来るようにと。

 

 

少女の視線の先で鍛錬を辞めた一輝が映って、首を傾げた。何時もならまだ続けるにも関わらず、視界に映る一輝は何処かに行く準備を始めたからだ。

 

 

「ふぅ、よし行くか」

 

 

準備を整えた彼は、そう呟くと足を動かした。それに少女も気付かれないように着いて行くのだった。

 

 

 

 

 

「ここは…………プール?」

 

 

一輝の後を追い掛けて数十分。辿り着いた場所は近場のプール場であった。何故ここに? と首を傾げる少女だ。確かに季節は夏で、今日の気温は暑い。成る程、確かにプールに行くのに良い日と言えるだろう。しかし、毎日のように狂気とも言える鍛錬を行う少年が、何故今日に限ってプールに行くのか。それが分からずに、少女は考え込んだ。

 

 

だが、それでも答えが見付けられず、中に入れば分かる事だと思い一輝の後を追い、少女もプール場の中に足を入れた。プール場内は、そこそこ広く、何人もの人が歩いていた。因みに、少女は水着を持って来ていなかったから、場内に売っている水着売り場で水着を購入して、着ていた。

 

 

「お兄様は一体、何処に居るの?」

 

 

場内に入ったは良いが、肝心の少年が見当たらずキョロキョロと辺りを見渡す少女だ。多くの大人子供が遊ぶ中で、一人の少年を探す事は難しい。見失った事に項垂れる少女だったが、とある一角に視線が止まった。多くの人が居るにも関わらず、そこには誰も居ない。それに不思議そうにしてから、足をそこに進める。

 

 

近付いて行くと、見えてくる看板には『水深七メートル』と書かれているのを見付ける。角を曲がりそこに足を踏み入れると、円状のプールが視界に飛び込んできた。流れる訳でもなく、波が出来る訳でもない。円状だから、五十メートル走なども出来はしない。

 

 

ただ水深が深いだけのプールだった。それに人が居ない理由を少女は納得した。ただこのプールが人気が無いだけだと。すると、そんな時に少女の視界の端に探していた少年が映った。その事に彼女はすぐに隠れる。

 

 

「やっと見付けました。おにぃ……さ……ま?」

 

 

そこで少女は、一輝の体に付いている代物を眼にして絶句した。それは鎖付きの鉄球だ。その合計四つの鉄球が、両足に二つずつ鎖で繋がれていた。今まで行き過ぎた鍛錬を見ていた少女でも、これは流石に驚愕するしかない。いや、というよりも、黒鉄一輝(自身の兄)は鉄球を付けてなにをしようというのか? 心の何処かで何をするのかを気付いたが、認めたくないと首を振る。何故ならそれは自殺行為に他ならないのだから。

 

 

そして少女────黒鉄珠雫の視界に、その認めたくないと首を振った行動を黒鉄一輝(バカ)は躊躇なく行ったのだ。ズリズリと四つの鉄球を引きずった彼は、水深七メートルのプールへと足を踏み出したのだ。その光景に珠雫は堪らずに絶叫した。

 

 

「お、おおおおお兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──────ッ!?」

 

 

ドボンッと水音を鳴らし、鉄球の重さにより速攻で七メートル底まで沈んだ一輝に、珠雫は勢い良くプール目掛けて走り抜け、汗を全身から流しながらプールの底を覗き込んだ。

 

 

「……………え?」

 

 

すると、珠雫の声から呆気に取られた言葉が漏れた。少女が視界に入れたのは、プールの底で展開した『陰鉄』を何度も振る一輝だった。口を閉じながら、水の中で一心不乱に刀を上段から下段、そして横に一閃する少年の姿は何時もより綺麗に映った。だが、ハッと我に返ると慌て始める少女だ。

 

 

「み、見惚れている場合じゃありません。このままじゃ、お兄様が溺れて…………」

 

 

今は平気かも知れない。しかし、数分、数十分、数時間と経てば如何なるか。人間がそこまで息が続く訳がない。そうなれば、四つの鉄球により上に浮く事すら出来ず、溺れて死んでしまう。この時、少女はとんでもなく焦っていた。だから、一輝が鉄球の鎖を斬って浮上してくるという選択肢が思い浮かばなかった。青褪めてワタワタする珠雫に、プールの底で『陰鉄』を振っていた一輝は、外の気配に気付いて顔を上げた。

 

 

そこに居たのは、こちらを覗き込み慌てふためく妹の姿。

 

 

(珠雫? なんでここに………? なんで慌ててるんだ)

 

 

何時も冷静な妹が慌てている事に、一輝は首を傾げて、鍛錬を途中で止める事にした。そして鉄球の鎖に『陰鉄』振るう。バキンッと容易く鎖が斬れた。同時に体を浮上させる。すぐに水面に辿り着き、小さな水音を鳴らしながら、プールから上がった。慌てていた珠雫は、水音と共に出て来た少年に呆然とした表情を浮かべる。対して、一輝は視線を向けて心配そうに口を開いた。

 

 

「…………ふぅ。珠雫如何したんだ? 随分と慌ててたみたいだけど」

 

「…………お」

 

「お?」

 

「お兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁ────ッ」

 

「へ? ふぶぅッ!?」

 

 

いきなり鳩尾に突撃してきた珠雫に、訳が分からず一輝は疑問符を上げる。だが、泣きながら抱き付いてくる妹に、疑問を尋ねる事が出来ず、珠雫が泣き止むまで待つのであった。

 

 

 

 

「それで、なんで慌ててたんだ?」

 

「だって、お兄様が鉄球を付けてプールに」

 

 

数十分後。泣き止んだ珠雫に、改めて理由を聞くと一輝はすぐに理解した。あぁ、これは俺の所為だと。バツが悪そうに頭を掻きながら、彼は何故鉄球を付けてプールに入ったのかを説明する事にした。

 

 

「あぁ〜、珠雫」

 

「ぐすっ、なんですかお兄様」

 

「鉄球を付けてプールに入るのはな、その…………俺の鍛錬の一つなんだよ」

 

「…………え」

 

 

自殺行為にしか見えないアレも鍛錬の一環と告げる一輝に、珠雫はピタリと全身を硬直させた。その時、彼女は尊敬する兄に対して初めて思ってしまった。この人は一体、なにを宣っているんだ、と。

 

 

「無呼吸で運動する為の鍛錬でな。ほら、達人の剣士同士の戦いだと、一瞬の息継ぎが隙になる事もあるだろ? そんな弱点を流石に無くす事は無理だけど、如何にかしたいと思って、この鍛錬を始めたんだ」

 

 

今では一時間半ぐらいは、息を止めても大丈夫になったよと能天気に笑う兄。そんな兄に珠雫はまたしても初めて、キレそうになった。こっちは死ぬんじゃないかと心配していたのに、なんだそれは。

 

 

「…………お兄様」

 

「ん? なんだ珠雫?」

 

「正座」

 

「…………え?」

 

「そこに正座して下さい」

 

 

いや、珠雫は完全にキレていた。両眼がスッと細くなり、白く細い人差し指で正座させる場所を指す。それに一輝は不穏な気配を察知したのか、恐る恐ると妹の名前を呼んだ。

 

 

「えっと………珠雫?」

 

「………正座して下さい」

 

「─────ひッ!?」

 

 

余りにも恐ろしい形相で、再度告げる珠雫に彼は口から悲鳴を漏らした。有無を言わさない迫力に従うしかなく、一輝は指を指された場所。珠雫の前に正座する。そこから始まるのは、妹からの説教だった。こんな危ない鍛錬は止めて下さいなどと言った事を何度も告げられる。それが数時間も続くのだった。

 

 

そのプール場で、幼い少女の前で正座する少年が数多くの人に見られたらしい。因みに、この説教で一輝は、この鍛錬を一週間に四回だけ(・・)にするかと決めたらしい。全然、妹の気持ちを理解していない一輝だった。

 

 

 

 

 

 


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