赤龍帝は中二病【完】   作:吉田さん

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活動報告にも書きましたが、コカビエル飛ばします


ぼくのかんがえたさいきょうのまおうさま

駒王学園旧校舎オカルト研究部部室にて、その男性はいた。

鼻筋の通った端正な顔立ちに、艶やかな紅色の髪、トルコ石のような色をした瞳を持つ男――『紅髪の魔王』サーゼクス・ルシファー。四大魔王が一人である。見た目の程は青年といっても差し支えないか。

 

「……ままならないものだな」

 

悪魔として定義していいのか判らない程の力を持ち、超越者と呼ばれる彼ではあるが、その表情は浮かばれなかった。

 

彼がこのような状態になったというのも、目に入れても痛くないくらい愛しい妹から告げられた言葉によるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

「なに、リーアたんからの連絡だと?」

 

冥界の魔王領で執務作業を行っていたサーゼクスは、自身の女王である女性――グレイフィア・ルキフグスの言葉に真剣な眼差しで聞き返す。

 

サーゼクス・ルシファーはシスコンである。悪魔は大抵兄弟間に於ける愛情が凄まじい物になるが、情愛深いグレモリーの血を引くサーゼクスは、他の悪魔とは一線を画す程のシスコンである。

彼に並ぶ悪魔は、セラフォルー・レヴィアタンしか存在しないとまで言われている程に。

 

そんなサーゼクスだが、人間界にいる自身の妹であるリアス・グレモリーとは中々連絡が取れない。

会う機会など、長期休暇にリアスが帰省する時くらいのものである。リアスとしても、連絡を取らないのはサーゼクスが多忙である事を気遣っての事なのだろうが、サーゼクスとしては地獄だった。

 

便りがないのは元気な証拠、という言葉が人間界にはあるらしいが、サーゼクスからしてみればそんな巫山戯た事を抜かす輩は消滅させたい程の事態だ。

 

兎にも角にも、サーゼクスにとってリアスからの連絡とは国宝にも勝る価値を持つ。

そして現にいま、サーゼクスはリアスから連絡が届いたとの報せを聞いた。

 

その眼差し、身から迸る凄まじいオーラはまさに超越者(シスコン)。そんな彼の姿は予想していたものの通りではあったが、グレイフィアは内心でため息を吐いた。

 

「はい。なんでも、サーゼクスさまに至急伝えておきたい事があるのだとか」

 

「そうか。うむ、そうか。緊急、というわけだな。仕方ない、仕方ないな。緊急ならば仕方がない。魔王としての職務を全うしたいのは山々だが、リーアた……リアスからの緊急連絡は稀だ。私自ら受け取らねばならないだろう」

 

ジト目を送るグレイフィアを華麗にスルーし、サーゼクスは回線を回す。ディスプレイにリアスの顔が映し出され、見た瞬間に真剣な顔が破顔した。

グレイフィアからの圧力が増し、その事にサーゼクスは冷や汗をかきながらも口を開く。

 

「久しぶりだね、リーア。壮健そうでなによりだよ。ところでリーア。人間界には授業参観という画期的なシステムなるものがあるらしいのだが、私はリーアが人間界に行ってから一度も聞いた事が」

 

『お久しぶりですわお兄さま』

 

言葉を遮るかのよう笑顔で言うリアスに、サーゼクスは涙を流した。

 

『……さて、お兄さま。今回は至急お兄さまの耳に入れたほうがいい案件だと判断し、連絡を入れさせていただいた次第です』

 

「……聞こう」

 

真面目な表情に変化したリアスを見て、サーゼクスも佇まいを直す。

シスコンとしての自分を押し殺し、魔王としての自分へとスイッチを切り替える。

公私を混同しまくるサーゼクスだが、(というか悪魔という種族の特性上、公私混同は自然と起きてしまう)妹の事になれば公私を混同する事はない。どちらにせよ、彼はシスコンだった。

 

『――赤龍帝を確認しました』

 

「……」

 

赤龍帝、そのワードにサーゼクスの眉がピクリと動く。

二天龍に関する話だとするならば、これはかなり重大な案件だとさらに身を引き締めた。

 

『現在、赤龍帝は駒王学園に普通に通っています』

 

……。

 

少しだけ、サーゼクスは目眩がした。これまで気取られる事がなかったという事は、背後に高位の魔法使いが存在するのだろう。

特大の地雷が妹の近くに埋められているなど、考えるだけで頭が痛くなった。

 

「……続けてくれ」

 

『赤龍帝は、その……。魔王さまと、コンタクトを取りたいと』

 

「……ほう?」

 

その言葉に、サーゼクスの頭痛が収る。聞くところによると、赤龍帝は悪魔側を排除しようという危険な思想は持ち合わせていないそうだ。

 

駒王町にて堕天使が好き勝手暴れた際にも、リアスの顔を立てる程度の度量はあったという。

 

魔王に取引を持ち込む赤龍帝。

サーゼクスの悪魔としての性質が、赤龍帝への興味を掻き立てた。

 

『如何、なさいますか?』

 

「ふむ……」

 

顎に手を当て、思考の海に沈む。

向こうからコンタクトを取ってきたとはいえ、赤龍帝との繋がりを露見させてしまえば、堕天使や天界を刺激しかねない。

特に、堕天使に関しては白龍皇を保有してしまっている。

二天龍の宿命を思うと、安易に自陣に取り込むのは賢明な判断だとは言い難い。

ただでさえ世界の均衡状態は危険な状況なのだ、そこでサーゼクスという超越者が赤龍帝と接触してしまえば三大勢力は勿論の事、他の神話勢力から攻め込まれないとも言い切れない。

 

(となると、やはりこれが最善か)

 

前々から検討していた事に、赤龍帝を組み込む。

悪魔側のみが赤龍帝との繋がりを持つ事が問題なのだ。ならば、堕天使と天使も巻き込んで仕舞えばいい。

そう結論付け、サーゼクスは考えを口にした。

 

「――そうだね、三大勢力会議。そこに赤龍帝を招き入れよう」

 

その後、赤龍帝が中二病で有名なのだが中二病とは何なのかと改めてリアスに尋ねられた時、サーゼクスは自身の判断が正しかったのか深く考えこむ事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり、自分の目で確かめるべきか」

 

サーゼクス・ルシファー。彼は、覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

授業参観。普段保護者のいない謂わば学生だけの空間に、保護者がいるというのは思春期の少年少女達にはむず痒いものがあるらしい。

授業風景を親に見られるというのは、羞恥心を煽るものだと。

 

子供は親に恥ずかしい真似は見せられないとばかりに背筋を伸ばし、或いは帰宅後親に自宅でどつかれる恐怖から逃れるためか猫をかぶる。それが、授業参観。

 

そんななか、思春期のなかでも一癖も二癖もあるような病気を発症した少年――兵藤一誠は変わらなかった。

ていうか、家でも普通に包帯を巻いているような中二病が授業参観程度で変わるはずもなかった。

兵藤一誠。彼は今日も絶好調である。

 

「――ふむ。ここ最近、駒王町を中心に気が荒れている。……もしや、『組織』が大々的に動く予兆か? 世界が動くな。松田元浜、そして桐生。明日から一週間ほど、駒王町から離れろ」

 

リアスやらソーナやらが聞けば「まだ説明していないのに、どうやって気付いたというの……!!」みたいな誤解が生まれそうな一誠の発言を軽く無視して、松田と元浜は天を仰いだ。

そこに広がるのは教室の天井だが、松田と元浜は無限に広がる宇宙を幻視した。あたかも、一誠の中二病が止まることを知らない事の比喩表現が如く。

 

「おかしい。一誠の中二病の進行が、ここ最近凄まじい事になっている気がする」

 

「おまえもか元浜……。実は俺もそう思い始めたところだ」

 

近頃は一誠をオカルト研究部に近づけぬよう、松田と元浜は一誠と共に帰宅するようにしていた。

ただ一誠が「俺と帰宅するなど、過激派の餌になる危険性を孕むのだぞ……!!」と物凄い剣幕で睨んできたり、一誠の無駄に洗練された監視の目を撒く動きで見失ったりしているが、それはご愛嬌である。

 

「いっそのこと、一度中二病としてのパラメーターを突き抜けてもらったほうが現実を知るかしら……」

 

そんな二人の横で、腕を組んで今後のことを深く考え込む桐生。

現実とのギャップが激しければ激しいほど、一誠の受けるダメージはデカそうだが、現実に立ち返る速度は上がるかもしれない。

羞恥心に悶えて引きこもりになるかもしれないが、そこのフォローは腕の見せ所だ。

 

実際は一誠の妄想が高まれば高まるほど、裏に近付きある意味取り返しの付かない事になるが、一般人にそれを言うのは酷だろう。

 

閑話休題。

日本の学生に聴き馴染んだチャイムが鳴ると同時に、教師が教室に足を踏み入れる。

一誠が教室の後方に設置されている黒板に書いたわけのわからない魔方陣や「風水が云々」いいながら最近置き始めたオカルトグッズを除けば、至って普通の教室だ。

 

オカルトグッズを見た桐生が、「おのれオカルト研究部……!」と怒りの炎を胸中に燃やしたのは当然の帰結だった。

 

「えー……」

 

教師は魔方陣やオカルトグッズを視界に入れないよう挙動不審な視線の動きをしながら、当たり障りのない決まり文句を述べる。

教室に入った保護者がオカルトグッズに絶句する光景など、全力で無視である。

 

そして何故か配布される紙粘土。

 

「紙粘土で好きなものを作ってくれ。そういう英会話も、ある」

 

英会話とはなんなのか、そんな疑問が生徒は勿論保護者の脳内を占めた。

 

だがそんななか、ただ一人。兵藤一誠だけは違う反応を示した。

 

「成る程。高校生が中途半端に取得した言語による情報伝達では、不備が起き得る。ならばいっその事開き直って自分の意思を形作り、それを用いて意思疎通を図るという事か……」

 

感心する一誠に、桐生は「それ日本の教育全否定じゃない」とツッコミたかった。

だが、既に賽は投げられた。

一誠は形容し難い異形らしきものを紙粘土で捏ね始めている。

独創的ではあるものの、一誠は手先が器用だし美的センスはある。

芸術家は変わった人間が多いと聞くが、一誠はそういうタイプなのだろうか。中二病をそれに当てはめていいのかは理解しかねるが。

 

(いやいやいや、イッセーの中二病は治さないといけないものなのよ)

 

諦めかけていた自分を叱責しながら、桐生は工作に意識を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんな授業参観の光景を、サーゼクスは遠目に眺めていた。

遠目といっても、悪魔の身体能力を用いれば何の問題もない。

 

「……」

 

リアスの授業参観が一時限目で、兵藤一誠の授業参観が二時限目だったおかげで、この視察が可能となった。これが被っていた場合、サーゼクスは余裕でリアスの授業参観を優先している。

 

「……さて」

 

見極めなければならない。

兵藤一誠の、中二病とやらを。

 

サーゼクスの名誉のために言っておくが、サーゼクスは中二病ではない。というか反面教師(閃光と暗黒の龍絶剣総督)がいたおかげで()()()()()()()()中二病にはならずに済んだ。

 

しかしサーゼクスの精神がガリガリと削られているのは、内心では中二病を患っていたからである。

 

中二病は恥ずかしいものだと理解していながらも、しかし「ぼくのかんがえたさいきょうのまおう」になりたい想いは捨て切れなかった。

 

 

故に誰にも見えないところで、

 

 

『灼熱眼滅焼弾!』

 

 

『ふむ、やはり黒は外せないな。あとは……髑髏、しかしこれは安直すぎる気も……。包帯はベターなところだが少しキャラが弱い』

 

 

『私の名は《常闇を統べる者》。生きとし生ける物、森羅万象ありとあらゆる世界の理を操作……これはアジュカか。あいつズルくないか、私もなんか事象を操作したい。何もせずに相手がやられる様を見届けたい』

 

 

密かに必殺技やら服装やらキャラやらを考えたりしていたのだ。若かりし頃のサーゼクスは。

 

そんな彼は同じ魔王のセラフォルーを見て、「ああ、私もあんな風に吹っ切れたい」と、当時は何度思った事だろうか。

今では思い留まっていた自分を褒めちぎりたい気持ちでいっぱいである。

 

 

『いいか、新ルシファー。中二病ってのはな、多かれ少なかれ男なら一度は通っちまう道だ。缶コーヒー買い占めるとかならかわいいもんだが……。邪気眼系と無気力系。この二つはやばい』

 

 

サーゼクスが感嘆した、閃光と暗黒の龍絶剣総督の言葉である。

この言葉を聞いていなければ、サーゼクスは今頃これ以上の羞恥心で死にたくなっていたに違いない。

 

「……っ!」

 

そこでハッとなる。

三大勢力首脳会談では、勿論閃光と暗黒の龍絶剣総督も出席する。

すると当然、赤龍帝と顔をあわせる事になるだろう。その時、閃光と暗黒の龍絶剣総督は一体どんな心境に陥るというのか。

 

「……」

 

たらり、と汗が額を伝う。

内心で押し留めていた自分でこうなのだ。誰にもバレずに秘匿していた自分でさえこれなのだ。

 

閃光と暗黒の龍絶剣総督は、中二病を見てフラッシュバックした結果その命を散らす事になるかもしれない。

 

悪魔であるサーゼクスだが、神に祈る事にした。神は死んでいるが、サーゼクスは黙って神に祈る事にした。

頭痛が襲ってくるが、そこは魔王パワーでどうにかした。

 

 

 

 

 

しかし悲しいかなサーゼクス。

彼のシスコンは他人から見れば中二病と同レベルのものだと気付いていない。結局のところ、何ごとも吹っ切れたもん勝ちである。

 

 

 

 

 

 

 




ていう事で四巻突入。この巻で一応完結です。
それ以上続けると、流石にこの一誠の設定だと厳しいのです。

コカビエル飛ばした理由は結果が変わらないくせに一誠出ないから無駄に重たいし一誠出ないから筆が進まないしもういやうわーんです。
プロット練り直しました。

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