赤龍帝は中二病【完】   作:吉田さん

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始めに言っとくとこういうのは長引くとダレるためテキパキいきます


すれ違い

まずは前提から話そう。

兵藤一誠は中二病である。そして中二病患者とは、己に敷いた『設定』という名の修羅の世界に生きる者たちの事だ。彼らの中では平和な世界も人外が蔓延る魔境の世界である。更には学校の教師が秘密結社から送られてきたスパイであったり、犬がケルベロスに見えたりする世界に、彼らは生きている。

 

つまり何が言いたいかというと、一誠も己の中で敷いた設定の世界に生きている。彼は神をも殺す天龍を宿した『神滅具(ロンギヌス)』の所有者である。そしてその封印されたドラゴンには肉体こそ存在しないが意識やらは存在し、一誠との意思疎通が可能だ。

 

詰まる所、一誠はそのドラゴンに裏側の世界を――――聞いていなかった。いや、正確には教えられこそしたものの一誠の耳には入っていなかった。『神滅具(ロンギヌス)』やら『神器(セイクリッド・ギア)』やら悪魔やらの話はなんとか頭に入っているが、それ以外は全て知識にない。極論、烏の翼を持っている=堕天使に結び付けられないのである。彼は自身のなかで作られた世界(妄想)と独自解釈を重ねるに重ねた結果、本来の世界とは噛み合ってるようで噛み合っていない世界を構築したのだ。

 

ドラゴン――ドライグは何度か訂正しようとしたのだが、時既に遅し。一誠は堕天使悪魔天使を一括りで組織とし、はぐれ悪魔は悪魔と見なすようになっていた。

彼の仲間も例外ではない、皆それぞれが勘違いを犯していた。即ち、伝言ゲームのノリである。そもそも頂点が一誠の時点でお察しだ。勿論きちんと分かっている者もいるが・・・なんやかんやあって真相は闇の中に包まれた。

 

 

 

 

 

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「……恐ろしい」

 

紅い髪をした美少女が現れた直後後、一誠はすぐ様行動を開始した。見るからに怒髪天を衝いている美少女を前にしては、神をも殺す力を宿す少年であろうと無力である。

なすすべもなく殺られると判断した彼は、仲間の眼鏡に貰った呪符を用いて強制転移。転移先の座標の自宅の部屋のベッドの上に身を投げ出されたというわけである。先の光景を思い出した彼は顔を青褪めさせ、腕で自分の身体を抱きながらカタカタと震えていた。

 

――あんなに恐ろしい存在を見たのはいつぶりだろう、と。

 

まさしく生物が持つ根源的な恐怖に近しいものを、一誠はあの少女から感じた。あの紅い髪をした少女に、兵頭一誠は敵わない。それがこの世界の定めたルールであるかのように、一誠はあの少女に勝つというイメージが浮かばなかったのだ。

 

『どうした相棒、らしくないな』

 

彼の内側から、語りかける声が響く。――ドライグ。一誠の持つ『神滅具(ロンギヌス)』に封印された最強クラスのドラゴンだ。

 

「ああ、ドライグ。俺は彼女に勝つイメージが、というか戦うというイメージさえも浮かばなかった」

 

『……正気か? あのような小娘、相棒なら数年前の時点でも斃せるだろうに』

 

彼女の立ち振る舞いを見てもそれは一目瞭然だとドライグは思う。先の少女は明らかに戦闘に慣れていない。ならば幾度の死線を潜り抜けてきた一誠ならあの程度、と。

だが、一誠は取り敢えず彼女は要注意人物だとその身に刻んだ。というか、男は皆怒れる女は怖いものである。それが中二病患者だと尚更だ。

 

中二病患者は無駄に無意味に、自分がかっこいい存在である事を望む。そういう意味合いにおいて、女性に手を挙げる男性などというのは中二病的にNGだ。先のレイナーレのように殺す気があった場合の正当防衛や向こうに戦う覚悟があるのなら一誠は戦闘に入るだろう。だが殺気はないけど何かに怒っているやだこわいみたいな女性ならば話は変わる。そういう意味でも、一誠は彼女に勝つ事が出来ない。前途多難である。

 

「……それにしても」

 

ポツリと、一誠は呟いた。

 

「ゴモリーか」

 

ゴモリー。ソロモン七二柱が一柱。あの時、少女が一誠達の結界を抜けて転移してきた時の魔方陣に刻まれていた悪魔の紋章。それは紛れもなく、一誠が小学生の頃にネットで神話について『かっこいい』という理由で漁りまくってた時代に見たものだった。一誠自身、魔方陣に何か悪魔の紋章を刻みたかったぐらいである。しかし、それは何故か同僚で朋な眼鏡に止められた。

 

 

 

 

 

『それは色んな意味で洒落にならな……。………………………………………………俺たちの力量では不可能だ。悪魔の紋様とはそれ即ち存在するだけで莫大なエネルギーが発生する。そも、悪魔という存在は普通の人間には知覚する事が出来ない超常の存在だ。選ばれた者のみが、あれらを知覚する事を許される。俺たちのようにな。だが、その力の一端、それを俺たち風情が制御しようなどというのは烏滸がましいにも程があるというもの。下手すれば世界が凄まじいエネルギーをこうあれしてルナティックな感じになって爆発する』

 

 

 

 

 

 

一誠にしてみれば、それは全くもって訳がわからないの一言に尽きた。しかし、なんかかっこいい説明に聞こえたから納得してしまったのである。

 

「羨ましい事この上ない」

 

ズーンと擬音の付きそうな様子で、一誠は凹んだ。眼鏡の言葉では確か悪魔の紋章を魔方陣に浮かべる事は俺たちには不可能だとの事だったが・・・あの少女は眼鏡以上の魔法使いだとでも言うつもりだろうか。そんな少女が何故普通に学校に通っているのか。今度の定例会議にて、丁重に話し合わなければならないだろう。自分(神滅具所有者)の事は棚に上げ、一誠は『ぼくのかんがえたさいきょうのまほうじん』製作に向けて熱意の炎を燃やした。もはや、誰にも止める事は不可能だろう。

そんな一誠を、ドライグは「どうしてこうなった」と頭を抱えながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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一目見れば傾国の美女かと世の男性を魅了するであろう、幼さを残しながらも妖艶な雰囲気を醸し出す端正な顔立ちに、世の女性が血涙を流すであろうほどのプロポーションを兼ね備え、腰までかかった艶やかな真紅の髪を持つ美少女――リアス・グレモリーは真剣な眼差しで先ほどまで少年と少女がいた地点を眺めていた。

 

少女の方は直ぐに分かった。あの特徴的な烏のような翼を持つ人間の容姿をした種族は、堕天使以外に存在しないだろう。隠蔽工作やら幻術で堕天使に見せかけている可能性も存在するが、それは後に確認を取ればいいだけの事だ。今は今存在する情報で現状を見つめなければならない。

 

懸念すべきは少女の方ではなく、少年の方だとリアスは思う。

あの少年はリアスにしても割と印象深い。というか、校内一有名人である自分に追随するレベルの有名人だった。

 

兵藤一誠。それが先の少年の名前だ。曰く、中二病患者だと。その一点が突き抜けているせいで有名な少年だと。リアスは聞き及んでいた。

 

「……」

 

中二病という病気を、リアスは知らない。知らない故に一度兄に尋ねたことがある。返答は、知らないだった。ただ何処か遠い目をしていた以上、心当たりはあるのかもしれない。しかし、結局のところリアスは中二病という病の詳細は知らない。

 

クラスメイトに聞こうかとも思ったが。ああもみんなが納得しているなか尋ねてみようものなら、信じられないという目をされそうな気配がして聞けずじまいでいた。

 

けど、そんな事は栓なき事だとリアスは思う。重要なのは、彼が自分の魔方陣を見た瞬間に、グレモリーだと判断出来た事だ。

 

自分の姿を見た後に、グレモリーと呟いたなら分かる。何せ彼は、駒王学園の生徒なのだから。自分が彼を知っているのなら、彼が自分を知っていてもなんら不思議ではない。

 

だが自分を見ずに、魔方陣だけを見て断定した以上、彼はおそらく()()()を知っている。グレモリーという名の真の意味に、彼は気づいている。そして、

 

「まさか、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』持ちだなんて」

 

神滅具(ロンギヌス)』それも二天龍の片割れ。その宿主は、もう片方の龍との争いの運命から逃れられない。となると戦場はここ駒王町になるのだろうか、厄介極まりなかった。更に宿主の戦闘能力は未知数。ただ今の今まで龍の気配の一切を悟らせなかったあたり、少なく見積もっても格上だろう。

 

自分はこの町の管理を任されている。堕天使は勿論、二天龍も無視する事の出来ない案件だ。自分の手には余るかもしれない。だが、兄に迷惑はかけたくない。

 

「はあ、前途多難だわ」

 

こめかみを抑えながら溜息をつく。その表情には憂いの色が滲み出ていた。

 

 

 

 

 

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夕食。それ即ち食事の時間。それ一つを取っても、一誠という中二病は普通ではなかった。

 

我が贄となる存在に心より祝福を(いただきます)

 

いただきます。それにどれだけ、大仰な台詞を呟く気だろうか。しかもこれ、毎回台詞が違う。真面目なのか適当なのかはっきりしてほしいところである。そんな彼の様子に、父と母は苦笑い。この光景にも、もう慣れたものである。両親は偉大だった。

 

「イッセー。学校はどうだった?」

 

「世界の変化というものは、実に些細なものだ。それこそ万人には理解出来ないほどに。常に変化は訪れているというのに、自らの理解の及ばぬ領域で人智の及ばぬ現象は起こっているというのに、愚民どもがその変化に気づく事なく世界は回る。例え神が滅ぼうと、世界はうまく回るだろうよ。我が創造主(訳:特に変わりないよ、父さん)」

 

「そうか、それは良かった」

 

一誠の言葉を聞き、嬉しそうに笑う父。そんな父の姿を見て、薄く笑みを浮かべる一誠。ごく普通の家庭の食卓だろう。だが何故、これで会話が成立するのだろうか。というかどう訳したら、そのような言語になるのだろうか。これは世界の神秘であるといえるかもしれない。

 

一誠がこのような話し方を出来るのは、当然両親だけだ。それは逆に言えば普通に話せるのに、一誠は両親にだけはこの話し方で通している事であり、()()()()()()()()()()()である事を示唆していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャリと音を立て、一誠は自室の部屋の鍵を締める。

 

「不覚。学校の事を、忘れていた」

 

そして頭を抱えた。思えば紅色の髪をした少女とその取り巻きは、同じ学校の制服を着ていたと。

 

「くっ、やはり組織は学校へと刺客を送り込んでいたか……!!」

 

額から汗を垂らしながら、一誠は思考を巡らせる。一刻を争う事態だ。自分が学校に通う事によるリスクと、通わない事によるリスクを計算する。

両親は、大丈夫だろう。彼の仲間が影から両親の護衛を担当してくれている。彼らの実力上そうそうな事がない限り、心配はあるまい。

だが学校の人達、特に友人である松田に元浜や桐生は心配である。組織がなりふり構わずな行動をとった場合、一誠は一人で庇いきれるかどうか。

 

「……っ、予定を早めるしかないのか?」

 

予定。それは一誠を中心に形成された仲間の最終目標――即ち、能力者(神器持ちの人間達)と組織の和睦調停の機会作り。

 

「……だが早計すぎる気も」

 

始めに言っておこう。一誠は別に組織を憎んでいたりぶっ潰す的なバイオレンスな思考をしていない。

そもそも、自分達が異端なのだ。異端は、未知は人々に恐怖心を植え付ける。そして文字通り世界を崩壊させる程の力を持つ人間など、恐ろしい以外の何者でもないだろう。

 

組織からしてみれば危険分子をどうにかしようと考えるのは当然の事だとすら考えている。――だが、理解は出来ても納得はしていない。

自分達が何もしないまま、最悪の場合は殺されるなんて理不尽を、許容するつもりは毛頭なかった。

 

それ故の、和解。神器持ちの問題は自分達でどうにかするし、なんなら組織と協力もしよう、と。

組織にしたって、殺すのは最終手段で相当危険な場面だけだというデータは取れている(らしい)。ならば和解のチャンスはあるのではないかというのが一誠の考えだ。

彼の仲間であり朋の曹操は難色を、眼鏡はどこか達観したような表情をしていたがゴリ押しでどうにかなった。ムキムキやお姉さん、ショタが後押ししたのもあっただろうが、方針としては基本的に組織との和解がメインプランとなったのである。

 

「……」

 

結論として、一誠は当面の間学校には通わない事に決めた。いきなり接触は、考えの纏まってないうちは危険だ、と。

学校に通わない事に痺れを切らした組織が人質を取るリスクを考えはしたが、一般人を巻き込むような連中ならそもそも和解なんて不可能である。念のために保険をかけようかとも思ったが、保険は逆さに取れば「お前達の事を信用してねーよバーカ」や、「彼らは一般人ではありません」という風に解釈される危険性を孕む。様々な葛藤の末、一誠は後出ししか出来ない状況を歯噛みながらも自分の進むべき道を組み立てた。




中二病って現実とファンタジーの混ざり合った世界だとなんかものすごく勘違いされそうですよね。ラスボスナッテソウ

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